魔王と救世主 - 5-4

「あー!セナだー!!」

「セナ!セナが来たよー!」

 村への入り口を通れば直に、気づいた子供達が口々に叫び、駆け寄ってくる。

 一瞬自分が呼ばれたと思った救世主は、しかし彼らが魔王の元に駆け寄るのを見て考えを改める。同時に、かつて自分の名を明かした際、彼が『セナ』と名乗っていたのを思い出した。

「おー、元気にしてたかー?」

 笑顔で出迎えられた金髪の青年は、子供達の頭を次々と手荒に撫でていく。

 子供達の大騒ぎに気づいた大人達も、何人か此方に向かってきた。

「久しぶりだな、セナ」

 近づいてきた村人の一人が、親しげに青年に話しかける。茶色の髪に、尖った耳。笑うと人間とは明らかに違う大きな犬歯が覗き、太陽に反射した瞳は人間とは違う獣寄りの縦長い瞳孔をしていた。

 明らかに、魔物だ。

 魔王の一歩後ろに立つ銀髪の神父は、無表情のまま、内心気を引き締める。

 魔王は、彼自身を『普通の魔物』で通していると言っていた。ここは、魔物の村だろうか。

 基本的に単独行動を好む魔物に、そんな村があるなんて聞いたことがないが。

 しかし、子供達や寄ってきた村人達を見ると、明らかに魔物だとわかる容姿のものも居れば、どう見ても普通の人間のような容姿をした者もいる。

 状況に付いていけず、ただ無言で立ちつくす救世主のローブの裾を、誰かが掴んで気を引かせた。

「おねえちゃん、人間?」

 見れば、そこには小さな子供。見た目だけで判断するならば人間だが、実際はどうなのだろうか。

「…………」

 答えに窮していると、隣でもう少し年齢の高い魔物の子が、子供をからかった。

「バカだなぁ、神父様はみんな男なんだぞ。お姉ちゃんじゃないって」

 性別を間違えられたことを訂正する気も無かったが、子供達の間で間違いが修正されたのならばそれで問題はない。

 救世主は特に口を挟むこともなく、とりあえず彼らのやり取りを傍観する。

 しかし、間違いを正して改めて問いかけてくる子供に、無言で通すことは出来ないらしい。

「……おにいちゃん、人間?」

 神父は答えに窮して、此処に自分を連れてきた元凶を見る。

 その元凶はといえば、村人達に持ってきた皮袋の中身を晒し、手土産を披露しているところだった。

「いい肉だな」

「だろ?俺が狩ったんだ」

 そう、自慢する彼らの前には、鳥や獣の捌いた肉が広げられている。

 自分を放って置いて楽しげに会話している彼に、若干の殺意を抱きつつ、銀髪の神父は子供達の輝かしい瞳に負けて、頷いた。

 途端、小さな子供は破願する。

「あたしもね、人間なんだよ!」

 同士を見つけた喜びに溢れる報告に、救世主は驚く。

 そして改めて村人達を見まわした。この子供の言葉が本当ならば、この村には人間と魔物が共存していることになる。

 もしかしたら、子供達の中には魔物と人間の血を引く者がいるかもしれない。一見しただけでは、判断がつかない者も多いが。


  
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