魔王と救世主 - 6-3

 遅い朝食を終えてすぐ、魔王は側近のレヴァに呼ばれて部屋を後にした。

 残されたセナは、今日は部屋から一切出ようとせず、窓の外を眺めていた。

「……剣、近くに来てるんでしょ?」

 太陽が頂点を過ぎた頃、珍しくキーズが傍に寄ってきた。

 てっきり、部屋から出ないことについて聞かれると思ったセナは、意外な言葉に振り返る。

「それが、どうした?」

「お前の剣、お前の連れが持ってたよ」

 更に驚く言葉に、セナはじっと魔物の顔を見つめる。

「…………何故?」

 何故、この魔物がそれを知っているのか。

 何故、この魔物が勇者を知っているのか。

 何故、自分にそれを告げたのか。

 尤もな救世主の疑問に、しかしキーズは答えず、肩をすくめた。

「いつ、入ってくるつもりなんだろうね、アイツ」

 呟くように落とした言葉を口にしたその表情は、笑んでいるような、心配しているような、諦めているような、何とも複雑な色で彩られていた。

 アイツ。その親しげな物言いは、顔見知りであることを伺わせる。一体、いつの間に?

 少なくとも、自分が旅をしていた時は、勇者にそんな素振りは見受けられなかった。

「…………」

 何を言えばいいのか。言葉に窮する救世主の思考を遮るように、突然剣が攻撃的な気配を飛ばしてきた。

 まるで、戦いに加勢しろ。そう言わんかのように、一気に城へと近づいてくる。

「……正面突破かよ。らしいっちゃらしいけど」

 セナの言葉を代弁したかのように、窓の外を見るキーズが溜息混じりに言う。

 その視線の先は、門を抜けて城へと突入する、大柄な人影に向けられていた。

 騒ぎながら集まる魔物を蹴散らし、あっという間に城へと入ってくる男を確認すると、セナは部屋の扉へと向かった。

「何処に行くのさ」

「…………お前に言う義理はない」

「…………確かに」

 冷たい救世主の返答に、キーズは頷いて近づいてくる。

「僕も行くよ。一応、アンタのお目付け役だしね」

「好きにしろ」

 捕らわれの身だ。当然といえば当然の事である。

 魔王に危険が迫っているこの時に、宿敵である彼を野放しにするのは部下として得策ではない。

 魔物を引き連れた救世主は、薄いバスローブ一枚の姿でロビーへと足を向けた。


  
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