魔王と救世主 - 6-6

「アレは、誰にも渡さん」

「……どういう意味だ」

 魔王の言葉に、勇者の目が据わる。

 それを堂々と受け止め、金髪の青年は口端を上げた。

「言葉通りの、意味だ。アレは既に、俺のものだ」

 言いながら、魔王は内心笑みを浮かべる。
 今もし、この言葉を『彼』が聞いたら、無表情か、微妙に嫌そうな顔で、『俺は物じゃない』等と反論するだろう、と想像しながら。

「…………」

 そんな楽しげな魔王とは裏腹に、勇者は剣を構えなおす。威嚇ではない、殺気を込めて。

「素直に解放してもらえないのであれば、力ずくで返してもらうだけだ」

「……ほう」

 多分に私情が混じる勇者の殺気を受けて、魔王も腰の剣に手を掛ける。

 ゆっくりと引き抜くその間、律儀に条件が整うのを待っていた勇者は、魔王の後ろに白い人影を見た。

 魔王が降りてきた階段の上、手すりに手を掛け立っている銀髪の美しい青年は。

「救世主様……!」

 久方ぶりに見た、守るべき人。

 神聖な穢れ無き、世界の救世主。

 だが、その姿に勇者は目を疑った。

 白い服だと思っていたのは、真っ白なバスローブ。その隙間から見え隠れする肌には、ローブ以外に何も身につけている様子は無い。

 そして、ローブから覗く手足首には、捕虜らしく、銀の枷がしっかりと嵌められている。鎖は見えないが、何らかの魔法の効果があるだろうことは容易に想像ができた。

 嘗て旅をしていた時よりも色気を増したような雰囲気に、勇者は一瞬、卑猥な想像が脳裏を掠める。その罪悪感と恐らく間違いではないであろう想像に憤慨し、魔王を再び睨みつけた。

 その魔王は、勇者の声に驚き、階段の上に立ったままの突然の乱入者の方を向いている。

「何故、此処に……」

「魔王……!!」

 激情のままに攻撃を仕掛けた勇者に、魔王は反応が遅れる。

「やめろ……ッ!」

 大剣が金髪の青年を捉える瞬間、悲痛な声がロビーに響き渡った。


  
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