魔王と救世主 - 7-3
魔王は、一人ふらりと森を歩いていた。
元気のないセナに食べさせようと、粋の良い動物を狩るのが目的だったが、今日はどういうわけか良い獲物に出会わない。
まだ日は高い。焦ることはない。が、城に置いてきた彼が心配だった。
明らかに、あの勇者が城に来てから様子がおかしい。奪い取った救世主の剣が原因かも知れない。
彼は腰に下げた魔剣に触れる。
今はなりを潜めているが、新月の夜は容赦がない。昔は、満月の夜しか自分の……セナドールの意識が保てなかったほど、剣の精神に対する侵食が激しかった。
もしかしたら、彼にも同じことが起こっているのかもしれない。
魔王に近づいた救世主の剣が、使命を果たそうとセナを突き動かしているのだとしたら。それに対して、彼が必死に抵抗しているのだとしたら。
夜、泣きながら飛び起きるのも、剣の影響に違いない。
魔王は、まだ高い場所にある太陽を見上げる。
森の木々の隙間から覗くそれは眩しく、目を焼く。
「…………世界、か」
魔物が増えすぎたこの世界に、既に魔王は必要ないのだろう。
食物連鎖という自然の法則は、人間を増やす方向に動き始めているらしい。
それならば、自分は、もう、この世界から消える時が来たのだと、覚悟を決めなければならない。
「…………」
そう、自分は、この役目から解放されるのだ。新月の夜に、人間を屠る必要はなくなる。
まさにそれは、救い。いつからか望みだして、諦めてしまった自分にとっての。
自分はそうして救われる。
だが、救世主は?
セナは、自分を倒した後、どうするのだろう。
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