魔王と救世主 - 7-4
救世主の剣は、魔王の剣とは違う。
魔物が増えるために、魔王を守り続けるのが魔王の剣の役目だ。救世主を倒す役目はなく、救世主に持ち主が倒されれば役目を終え、再び必要とされる時まで長い眠りに付く。
逆に、救世主の剣は魔王を倒すのが役目。ならば、魔王を倒してしまえば役目を終え、長い眠りに付くのではないだろうか。
とすれば、残るのは、セナというただの人間。
使命を果たし、使命から解放された一人の人間。
「…………」
魔王は、脳裏を掠めた考えに眉を寄せる。
そう。セナは、魔王を倒すためだけに生きていると言っていた。
それはいっそ盲目的で、まるで使命が無ければ生きていなかっただろうと言わんばかりの執着に感じる。
であれば、その役目を終えたとき、彼はどうなるのだろう。
今まで、生きる支えのように縋っていた使命を全うし、そんなに直に生きがいが見つかるとは思えない。
それでも、勇者辺りに支えられ、前を向いて生きていけるのならば、それで良い。
この広く美しい世界をその足で歩いていけるのなら……それを、歓迎してやらなければならない。
「…………」
世界に否定された自分が、それに嫉妬するのは余りに業が深い。
自分が彼の手を掴んだところで、定められた自然の法則が変えられるわけが無いのだ。
魔王は滅び、魔物は少しずつ姿を消し、人間が世界を支配する。そして、いつか人間が増えすぎた時、再び魔王が現れ、魔物の世界が作られる。
その繰り返しなのだ、世界は。それが、この世界の、自然の法則。それを変えてしまえば、世界は終焉を迎えてしまう。
それでも、もし。
もし、セナが自分を望んでくれるのであれば。
「……俺は……」
連れて行きたい。
この世界の、どこかへ。
魔王と救世主ではなく、セナドールとセナとして、笑い合って暮らしたい。
彼が、泣かなくてもすむように、ずっと、守っていきたい。
この世界でなくてもいい。二人で、手を取り合えるのなら。
魔王は、運命の時を前に初めて、今ある世界に未練を感じ始めていた。
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