魔王と救世主 - 7-6

 なかなか帰らない城の主を心配して、心配性の側近がキーズを呼び出したのは、すっかり日が沈んだ後だった。

「何か、魔王様から聞いていないか?」

 この300年程の間、主が連絡も無しに帰らないことなど、さして珍しいことでもなかった。だが、城に救世主が来てからは彼に何も言わずに城を空けることなど、まずないと言っていい。
 レヴァにとって皮肉ではあるが、そのお陰で心配事が一つ減っていたことには違いない。

 しかし、キーズから返った言葉は、予想したものとは違っていた。しかも、悪い意味で。

「何も聞いていません。救世主にも、直に戻るとしか仰っていませんでした」

 朝食の席で、いつものようにイチャつきながらそう言っていたのを、給仕しながら聞いていた。土産を楽しみにしていろ、とも。
 その様子は、元気のない救世主を気遣いつつもいつも通りの様子で、特に心配しなければならない様子は微塵も感じられなかったのだが。

 危機感の薄いその返事に反して、不安を大きくしたレヴァは、急いで遠見の準備をする。

「……何も無ければよいのだが」

 呟きながら、水鏡で魔王の気配を辿り、探索する。

 反応があったのは、城を囲む森。比較的街に近いそこは、魔王が好んで使う狩り場だ。

 しかし、水鏡が映したのは、狩りをする姿ではなく、木の根元に倒れこんだ魔王の力ない姿。その下には、黒い池溜りがあり、負傷しているのは一目瞭然だった。

「なんということだ!」

 叫んだレヴァは、驚いて呆然とするキーズを残し、部屋を走り出る。急に魔力を失った水鏡は、乱暴な水音を立てて、はじけるように映像を消した。


 レヴァに命じられて、飛行タイプの魔物が魔王を城に連れ帰ったのは、それから直のことだった。


  
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