魔王と救世主 - 9-1

 時間を教えるように差し入れられた朝食で、彼らは目を覚ました。

 愛想の無い魔物から簡素な食事を受け取り、彼らは躊躇うことなくそれを口にする。

 最初のうちは、勇者も毒を警戒していたが、日数も経って警戒心が薄れてきている。
 救世主の方は、相変わらず自分の勘を信じた結果だ。

 無表情な救世主が食事を取る様子を、寝不足でボンヤリした頭の中で、勇者は眺める。

 そうこうする間に食事も終わり、皿が下げられ、することも会話も無く淡々と時は流れ……やがて勇者は、堪えられなくなったように意を決して口を開いた。

「これから、どうするおつもりですか?」

 剣を奪われ、装備も奪われ、二人とも丸腰で頑丈な牢に捕らわれている。

 確かに救世主は魔法を使えるが、それだけでこの城を攻撃するのはあまりに心もとない。

 じっと瞼を閉じて椅子に腰掛けていた救世主は、勇者の焦れたような言葉に瞼を……そして、口を開いた。

「待つ」

 端的に、凛とした響きを持って。

 何を待つのか。
 『誰を待つのか』。

 続かない言葉に、しかし勇者はそれ以上問いかけることは無く、勝手に『動くべき時』を待つのだろうと自分を納得させた。

 答えを聞いてしまったら、自分の、救世主に対する感情が変わってしまう気がして。

 何より、凛としたその声が、深入りを拒絶していて、踏み込む勇気が無かった。

 そうして、再び沈黙の時間が訪れる。

 勇者はすることも無く、牢の中で腕立てや腹筋など、基礎的なトレーニングを行うことで暇を潰す。
 救世主は、瞑想するかのように椅子に腰掛け瞼を閉じ続ける。

 永遠にも続くかと思われたその時間は、唐突な破裂音によって終わりを告げた。


  
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