魔王と救世主 - 9-3
セナが泣いているような声がして、目が覚めた。
だが、傍らを見ても望んだ温もりは無く、それどころか、暫く入ることの無かった自分の寝室にいることに気づいて、魔王は急いで身を起こした。
直後襲う眩暈と体の違和感に、自分が森で攻撃を受けたことを思い出す。
セナは、心配しただろうか。
どれだけ眠っていたのかは判らない。
だが、自分がここにいる間、悪夢に魘され磨り減った神経で、しかしいつもの無表情のまま、一人孤独に耐えているに違いない。
その想像に行き着いた途端、体の違和感などに手間を取られているわけにはいかないと、魔王は休息を欲する体を無理やり動かしだす。
傷は跡形もなく塞がっている。恐らく、レヴァあたりが治療したのだろう。
毒に犯され、昏睡状態だった体は、突然神経を走った命令に混乱しているようだが、落ち着いてゆっくり動かせば、問題はなさそうだ。
魔王は、ベッドの傍らに置いてあった己の剣を杖替わりにし、ゆっくりとベッドから降りる。
手足をリハビリするようにゆっくり、繰り返し動かせば、思ったよりもあっさりと体は動くようになった。
侭ならない速さでなんとか着替えを済ますと、魔王は自分の部屋を出、通い慣れた部屋に向かう。
途中、キーズとすれ違い、いつもと違う憂い顔に嫌な不安を覚えて問いかけた。
「どうした? 何かあったのか?」
「……魔王様……ご無事で……!」
動く魔王に、愛らしい顔を感激の色に染める魔物。だが、それに笑いかける余裕も無く、魔王は救世主の様子を問う。
「セナは……救世主は、どうしている?」
「…………救世主、は……」
その途端、顔色を変えたキーズは、歯切れの悪い口調で言葉を選ぶようにポツリポツリと言葉を返してきた。
自分が6日程眠っていたこと。そして、救世主が眠っている魔王に剣を向けたこと。その後、自ら牢に入ったこと。
その全てが魔王は信じられず、彼はセナが待つはずの部屋へ飛び込んだ。
だが、どれ程見回しても誰もいない。気配すらない。彼は呆然とそれを見ているうちに、怒りが湧き上がった。
裏切られた、という思い。
勿論、自分から牢に入ると言い出した理由は、キーズから聞いている。
だが、魔王に刃を向けたからといって、それは剣の罪であって、セナの罪ではない。
救世主と魔王と言う違いはあれど、意思を持つ剣と共生する彼は、その苦悩を身をもって知っている。
彼が牢に入る理由など、何処にもないのだ。少なくとも、魔王の中には、見当たらない。
セナが罪の意識に苛まれる理由など、一つも。
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