魔王と救世主 - 9-5

 こんなこと、望んでいない。

 望んではいなかった。


「……いや、だ……離せ……ッ」

 押し倒され、服の隙間から手を差し入れられ、強引に暴かれて、救世主は必死に抵抗する。

 だが、元々細身で格闘向きではない体だ。それほど筋肉質ではないが、腕力も、体重も勝っているであろう相手に全力で圧し掛かられて、敵うわけが無い。


 流されてはいけない。

 望んではいけない。

 でなければ……。


「止めろ、魔王! 救世主様に何をする……!」

 格子を鳴らして喚く勇者の言葉を完全に無視し、魔王は強引な愛撫を続ける。

 冷たい牢獄の空気に冷やされ震える細い体を、熱く大きな手が温める。

 押さえつける力とは裏腹に、泣きたくなるほど優しい手付きで、知りつくした体を蹂躙する。

「……嫌だ……魔王!」

 セナは、悲鳴のような声を上げて、制止を求める。

 渾身の力で暴れて、圧し掛かる男を退けようと必死になって。

 だが、覆いかぶさった魔王の歪んだ笑みを見た瞬間、セナは酷い罪悪感に苛まれて泣きたくなった。

「初めて、抵抗したな」

「……ッ、ぁ……」

 つん、と尖る胸元の飾りを指で潰され、摘まれ、こね回されて、快楽を知る体が歓喜し、内から燃え上がるような熱が生まれる。

 思わず漏れた声にそれを知ったのだろう。魔王は焦らすことなく、容赦なく組み敷いた体を攻め立て、震え上がらせた。

「や、ぁ……ッ」

 抑えきれない甘い声が、セナの喉から迸る。

 6日ぶりだ。

 6日ぶりに感じる、愛しい人の体温。

 失うかもしれないと、恐れて、不安になって、胸を痛めて。それでも希望に縋りつかずにはいられなくて。

 会いたくて、会いたくて、心が壊れそうなほど欲して。

「……セナ……」

 互いの体を隔てる邪魔な衣服を脱がしながら、魔王が耳元で名を囁く。

 枯れた土に命の水を吹き込むような優しい声に、涙が溢れてくる。

 嬉しい。このまま目の前の男にすがり付いて、いつものように愛されたい。

 他でもない、彼に教えてもらった、息苦しいほどの『幸せ』に溺れたい。

 魔王を押し返す為に胸に添えた手が、緩やかにその肩へと位置を変える。

 だが、引き寄せることは出来なかった。


  
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