魔王と救世主 - 9-7

「……ぁ、ん……ッ、ふ……」

 首筋を辿る舌に背筋が震え、胸元を弄る指に、腰が揺れる。

 抓って、揉まれて、舐められて、吸われて、齧られて。

 捕らわれている間に仕込まれた敏感な皮膚は、弄られるだけで中心が頭を擡げ、はしたなく先端から蜜を零す。

「……いや、だ……魔王……やめ……」

 魔王の胸を押し返す救世主の腕は、断続的に背筋を走る快感に痺れて、殆ど力が入っていない。それどころか、時折縋るように服を掴んでしまう。

 それでも、彼は素直に溺れることができず、口や視線で無駄な抵抗をし続ける。

 流されそうになる己を戒めるように、快楽を棘に変えて深く心に突き刺し、痛めつけるのだ。


 そうしないと、何もかも、壊れてしまいそうで。

 全てを、失ってしまいそうで。


「嫌、じゃないだろう? 体は正直だぞ?」

 魔王は優しく艶やかに笑いながら、組み敷いた細い体のズボンの中、熱く膨らんだ部分を膝で押し上げる。

 抵抗を続けるセナの心を労わる様に、優しく、だが、焦らさず。

 我慢などしなくて良いと、ゴリゴリと容赦なく刺激を与えた。

「や、……ぁ、……ひ、アぁぁ……ッ!!」

 当然、堪えることに慣れていない上に、数日間放って置かれた体は大きく震え、あっさりと絶頂へと導かれる。

 そして、窮屈だったズボンの中は、粘着質な液でべったりと汚れてしまった。

「早いな。俺が居ない間、自分で弄らなかったのか?」

 意地悪な笑みで揶揄する魔王を、セナは荒い呼吸の中、涙の滲んだ瞳で睨み上げる。

 セナも男だ。殆ど経験は無いが、湧き上がる劣情と自慰を知らないわけじゃない。だが、大切な人を心配する彼が、そんな気分になるはずも無い。

 それどころか、そんな行為自体、頭に浮かばないほど、心配し、焦がれていた、のに。

 それを揶揄して笑う男が、酷く腹立たしく、憎らしく思える。

「……お前には、関係、な……、っ」

「関係ない、か。そうでもないぞ」

 言いながら、魔王は救世主から残った衣服を全て剥ぎ取り、露になった濡れる起立を舐め上げる。

 一度達して力を失いかけているものの、未だ敏感なままのソコは、熱く濡れた感触に震え、悦んだ。

「お前が、何度イけるか、楽しみだな」

「……やめッ……さわ、るな……ッ」

 呼吸も整わないうちに、咥内へ先端を導かれ、長い間触れることの無かった性欲が止め処なく湧き上がり、救世主の体を熱くさせる。

 抵抗するために頭に添えたはずの手は、しかし金糸に指を絡めただけで、全く力が入っていなかった。

 下半身から響く濡れた卑猥な音が、耳をも犯す。

 感じる部分を知り尽くした口は、震える体に容赦なく激しい快楽を与え続ける。

「……ッ、駄目、だ……ぁ、……」

 甘い声。耳を塞ぎたくなるようなそれに、救世主は喘ぎ、悶え、美しい顔を妖艶に歪める。

 堪えたい。だが、与えられる快楽に、どう対処すれば良いのか判らない。

 熱くて、熱くて、脳が焼ききれそうで。

「……も、イく……ぅ……」

「イク時はどうするか、教えただろう?」

 口に含んだまま言われ、熱い呼気に背筋が震える。

 救世主は銀糸を振り乱し、己を弄ぶ男の名を嬌声に乗せた。


  
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