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15.ヴァンパイア

 


 ずいぶん長いこと、研究所をさまよい歩いた。

 精力を高める作戦で、かなり下の方までたどり着くことができている。

 ついに、僕は1階まで来たのだ。

 これで、正門の扉のキーナンバーさえ分かれば、すぐにでも脱出できるのだが。

 僕は、正門の閉ざされた扉を見ながら、外の様子を眺めようとした。

 窓もない研究所。

 何が行われているのか、外からはまったく分からない。もちろん、中からも、外の様子はまったく分からない。

 きっと、大勢の研究者たちが、正門の開かない扉を前に古今奮闘し、何とかこじ開けようと必死に叩いたり、ひねったりしたのだろう。

 扉の一部が、金属の棒か何かでこじ開けようとしたのか、小さく歪んでいるのが分かった。彼らは、ここから出ようと必死に扉を叩き、硬いものをぶつけ、こじ開けようとしたに違いない。

 だが……そんなことで開くほど、ヤワな扉ではなかった。

 ほんの小さな穴が空いた程度だ。

 僕はその穴から、外を見た。

 研究員たちは、この変哲もない土を、どれほど恋しがっただろう。雑草の生える、痩せた土。その奥に海らしきものも見える。かなり低いところに海がある、ということは、この研究所は崖の上に立てられたのだろうか。

 彼らは、外に出ようと集団で押し寄せ、何とか脱出を試みて半狂乱になったに違いない。そして……「番号変えちゃったもん」というメインコンピュータのあざ笑う声とともに、この扉の前で、強豪女たちの群に襲われ、精液を搾り取られて快楽の藻屑と消えていったのだろう。

 番号さえ分かれば……

 番号は、地下一階のメインコンピュータに尋ねるしかない。

 聞いたって答えるわけはないが、鼠径部の結合により、直接的に意思伝達が可能なコンピューターだ。

 ということは、メインコンピュータとセックスしさえすれば……もっと言えば、彼女のもとにたどり着けさえすれば、暗証番号を盗み出すことができるんじゃないか。

 暗証番号を情報として記憶してしまえば、たとえメインコンピュータの前に射精し果てても、その情報を持っている次のクローンが、必ずこの場所にたどり着き、脱出に成功するのではないか。

 問題は、メインコンピュータ側が、クローンである僕たちの情報が引き継がれていることに気づいているかどうかだ。気づいていたとすれば、さらに番号は変えられてしまう可能性がある。

 気づかれていなければ、この作戦も成功する。

 どっちであるのかは、やってみなければ分からない。誰か一人でも、外に出ることができさえすれば、研究所は破壊されるのに。

 この研究所の、メインコンピュータがおよぶ範囲は、建物の内部だけだ。洗脳電波が館内に充満できるのも、特殊な壁が張り巡らされているからだ。それがなければ、たとえ館の外にモンスターが逃げても、そのセックスで射精しても死にはしないし、そもそも、モンスターもセックスの虜の洗脳状態から解放されるわけで、さっさと元の世界に帰ろうとするだけであろう。

 この研究は、はじめから無理があった。狭い範囲や場所でしか洗脳が完成しないというなら、世界の支配には使えないことになる。

 快感の虜にさせ続けるための快感電波は、遠く離れてしまえば効力を失う。虜となった人々は遅かれ早かれ「正気に返る」。つまり、地球全体を覆うような装置でなければ、洗脳電波による快感の鎖は働かないのだ。研究所内という特殊な空間でなければ、人間はすぐに快楽に飽きてしまう。外にいるかぎり、確実に逃れられるというわけだ。

 まさか、それを封じるために、地球全体を鉄板で覆うわけにはいかないだろうしな。

 それに、メインコンピュータの暴走によって、館の内部はセックスの園と化し、小さな範囲での帝国となっているものの、本当にそれだけなのである。それ以上の拡張もない。その狭い範囲で暴走して、結局、支配者側のもくろみどおりにはなっていないんだ。

 だったら……この悪魔の施設を破壊してしまえば、それで終わるんだ。内部で何が起っているかを告発するだけで、一発のミサイルがすべてを片付けてくれるだろう。館全体を破壊する必要はない。ごく一部、メインコンピュータの場所を軽く破壊するだけでいい。

 それだけで、召喚された魔族や神族、宇宙人たちは元の世界に帰っていくし、ゾンビはただの死体となり、人間の娘たちは正気に返って保護されるだろう。

 それですべてが解決だ。


ヴァンパイア1


「……何見てるの、坊や。」
「!!」

 振り返ると、青い髪のスレンダーな美女が僕の前に立ち裸っていた。

 赤い目の妖しい魔物……コイツは男の精を食い物にするヴァンパイアだ。

 セックス=食事という怪物は、狙った男の精を根こそぎ吸い取り、その生命エネルギーを糧にして夜の世界を生きている。

 一度ハメ込むと、その魔性の力で快楽が衰えず、いくら出してもすぐにパンパンに溜め込まれて射精させられ、生命力の最後の一滴まで搾り取られて廃人になってしまうという。

 それだけに、男性にとっては、ただのセックスで終わることはなく、強烈すぎる快楽と引き替えに文字どおり絶命することに直結してしまう、危険な相手だ。

 魅了の力も兼ね備えているため、多くの男性はついフラフラと引き寄せられてしまうのだという。

 僕の場合は、大丈夫だ。

 魅了よけのアイテムを持っている。彼女の赤い目を見ても、狂うことはない。

「外を……見ているの?」
静かな口調で、ヴァンパイアが優しい声色を出す。僕の心を奪おうとしているんだ。

「あぁ……ここの暗証番号が分かりさえすれば、って思っていたところだよ。」
「ふうん……私、暗証番号知ってるんだけど。」
「!!」

 僕は身構えた。挑発か? はったりか?

「セックスして、私をイかせたら、教えてあげる。」
そうきたか……戦うしかない中で、その台詞……挑発と考えて良さそうだ。

 いいだろう。僕はヴァンパイアに向き合った。


ヴァンパイア2


 次の瞬間、ヴァンパイアはふわりと浮き上がり、僕を倒れさせると、女性逆上位で結合、激しく腰を振り始めた!

「うあああ!」
僕は全身を震わせた!

 彼女のオンナは、アンデッドであるにもかかわらず熱を持っており、さらに魔性の膣が一斉にペニスめがけて強く収縮!

 悪魔のヒダがペニスの敏感なところに食い込み、奥の奥まで電気を流すように心地よく刺激してくる。

 その快感の波は、体内を駆け巡り、前立腺にまで達している!

 射精直前の多幸感を、前立腺が司っている。そこが執拗に攻撃あされるほどのオンナの魔力が、一気にペニスから体内に流れ込んでいるんだ。

 そして、むさぼるような激しい腰の動き。僕くらいの包茎ペニスの悦ばせ方を、彼女はよく知っているようで、全身が激しく波打つように躍動しているにもかかわらず、決してペニスがぽろりとオンナからこぼれてしまうことがないよう、見事に調節されている。

 激しく大きくスピーディな腰振りに、上体を大きく上下させてのロデオスキップだ。

 その滑らかな生足が僕の足を大きくこすれていく。

 一気に精液を搾り取る動きは、食事を一気にかき込む貪欲な動きそのものだった。研究所内には空腹に耐えかねているヴァンパイアたちが大勢うろついている。その中の一人が僕を見つければ、”エサ”めがけて一気に精液を奪いに掛かるのは当然と言える。


ヴァンパイア3


 彼女は大きくあえぎながら、執拗に腰を振り続けた。大きくものすごいスピードで上下しながら、右に左に腰をひねり、激しく前後に揺すって、魔性の膣にさらなる快楽を加えてペニスを襲い続けた。

 あまりに激しい動きに、ペニスが根元からもぎ取られてしまうのではないかと思えるほどの戦慄を覚えた。だが、そのすべて破壊間となって股間に襲いかかるばかりで、精力が激減する。

 スレンダー体型ながら、お尻のやわらかさは天下一品、パンパンと僕のお腹まで叩く弾力が何とも気持ちいい。

 何より、体の奥まで魔力によって犯され、いつ射精してしまってもおかしくない状況に持ち込まれてしまっていた。

 前立腺がじわじわと高められ、きゅんきゅんとくすぐったく疼いて、気を抜いたらすぐにでも脈打ってしまいそうだった。

 さらに魔力は全身に回っていく。体中が脱力しそうな心地よさに包まれ、乳首も首筋もジンジンとしびれるような快楽に襲われてしまっていた。

 誰にも触れられていない乳首がくすぐったい。脇の下がくすぐったい。足の裏を誰かにくすぐられているみたいだ。

 玉袋も会陰も、心地よい感覚にあふれている。

 ヴァンパイアとのセックスは、全身の生命エネルギーを快感に変えて、精液として放出し、彼女に糧を与えるという方式で行われる。だから、いくらでも射精することができ、最後の一滴まで絞られたあとは、ミイラに近くなった体で身も心もぼろぼろになってしまうのだ。

 僕は必死で射精を堪え、反撃の隙をうかがっていた。

 彼女も快楽にもだえながら、さらに腰をひねってペニスをこれでもかとしごき立て続けた。


ヴァンパイア4


「ほらっ! 少年! 出して! 早く! 精をちょうだいっ!」

 バンパイアは自分のお尻をパンパン叩きながら、もっちもちのお尻をしきりに押しつけぶつけ、こすりつけてくる。性的な興奮は最高潮に高まり、僕も彼女も果てそうになっている。

 僕の精力が相当高いので助かっているが、それでも射精は時間の問題だ。何か突破口を見つけないと、本当にピンチだ。

 ヴァンパイアは、大人の男性を食い物にしていきながら得るだけではない。

 僕のような年端のゆかぬ男子の精もたっぷり吸い取ってきた怪物だ。

 精液だけではなく、まれに血を吸うこともある吸精鬼は、それによって男の経験値を吸い取ることができてしまう。

 レベルドレインってヤツだ。

 これを喰らうと、冒険が相当に不利になってしまう。

 彼女に勝ったとしても、その先は低レベルで強い敵と戦わなければならなくなるからだ。

 さらにたっぷり経験を吸い取られると、大変なことが起こる。レベルをこれ以上吸い取れない状態になったら、年齢が吸い取られてしまうのだ。

 すると相手の男性は、18歳未満の子供になってしまう。

 年端も行かぬ、セックスを知らぬ年齢に若返った少年を待っているのは、魔性のオンナと激しいセックスの宴である。一瞬にして高められ、若い精を死ぬまで散らしてしまうことだろう。

 つまり、彼女たちは僕くらいの中学生たちを大勢、精液祭りに上げてきた悪い魔族なのだ。

 このまま負けるわけにはいかない。僕はかろうじて射精を堪えた。ヴァンパイアも絶頂を迎えそうになり、苦しんでいる。

「な、なあ……扉の暗証番号、教えてよ……」
「だ……だめだ……私がイかなければ……教えてあげないっ……」
「そんなこと言ったって……うぐっ……おねえさん、イッちゃったら気を失っちゃうじゃない。」
「はぅん! ……そうね……じゃあ、ヒントだけでも教えてあげる……ご苦労さん……さあ、射精してっ!」

 ぎゅんぎゅんと膣が蠢きながら締まる! 包茎ペニスに耐えきれる快楽ではなかった。

 出ちゃいそう……ううぅ~~~ッ!!!

 射精直前の多幸感が全身を駆け巡りながら、律動しちゃダメだと、出しちゃダメだと、必死で我慢し、かろうじて堪えきった。

「5963っ!!!!!」
「なっ……!?」

ぎぎい……

 光が差し込む。

「うわあっ!!」

 思わずヴァンパイアは飛び上がり、物陰に隠れる。太陽の光には弱いのだ。研究所内には紫外線は届かないので、彼女たちも安心して徘徊できたわけだが……

 ああ……きもちいい……イク……ッ

 僕は思わず転がり、研究所の入り口から1メートル先に出た。

びゅく! びゅくっ! びゅるるるるっ!

 誰にも触れられていないペニスから、勝手に精液が飛び出していく。白濁液は、入り口の扉にすこし掛かるくらいに勢いよく吹き飛んでいった。

 射精は数秒で収まる。ヴァンパイアによってさんざん追い詰められ高められていたため、彼女が飛び退いてペニスが解放されたあとでも、射精にいたるプロセスは止まらず、僕が研究所から転げ出てから絶頂が始まったのだった。

「なっ……!?」
物陰からヴァンパイアが、信じられないという表情で僕を見る。

「いまどきの厨房は語呂合わせのトンチが得意でね。ごくろうさん、とヒントを出されたら、すぐに番号が分かるのさ。……何百年も生きている古い頭の持ち主には、“きっと分かるまい”と思えるヒントだったんだけど、おあいにく様、現代人には簡単に解ける謎なのさ。」

 そう言いながら、僕は自分の体を見回した。ペニスは……無事だ。会陰が割れることもなければそこから女性器が出現することもなかった。洗脳電波も、自分を犯してはいない。

 扉の外側1メートルの距離であっても、もはや洗脳電波は届かないんだ。

「あとね。古いメカしか知らない昔の人間にとっては信じられないことだろうけど、いまどきのコンピュータは音声だけでコマンドが呼び出せるんだ。番号が分かれば、その番号を叫ぶだけで、扉が開くんだよ。……80年代では信じられない技術だろうけど、ね……」
「そんな……」

 ヴァンパイアは悔しがった。

「悔しいなら、ここまで来てもう一度僕を射精させてみろよ。僕を食事代わりに吸い尽くすんだろ? ほれどうした?」
「うぐぐ……」

 もう遅い。

 さんさんと輝く太陽の下に出ている僕に、彼女が飛びついてくることはない。そもそも、飛びついてきて精を奪ったところで、これ以上洗脳はされない。ただ、吸い尽くされたら腎虚になるので、それはイヤだなあ。

 ヴァンパイアは後ずさる。日の光が強すぎるのだ。

 僕はバタンと入り口の扉を閉めた。オートロックで、再び鍵が閉まる。

 扉が一度開かれてしまった以上は、メインコンピュータも暗証番号を変えるかも知れない。だが、いくら変えたところで、お前たちのもくろみは、もう終わるんだ。

 人気のない崖の上に、その研究所はあった。

 周囲に村落はなさそうだが、山を下りれば人に会えるだろう。裸の中学生がうろついていれば必ず騒ぎになる。「あの研究所から来た」と言えば、さらに騒ぎは大きくなる。

 そして、洗いざらいをぶちまけてやるんだ。

 それで、本当にすべてが、終わる。

 快感で人を洗脳する……やみつきにさせることができれば、人はそのために動くのは間違いない。上手に用いれば、軍事利用も、世界支配もできるのかも知れない。

 だが……その危険すぎる方法には、また制約も大きい。

 そんなことにならないように、人間には飽きるという性質が備わっているのだ。ローマ帝国が滅びたのも、市民が飽きたからと言っても過言ではない。

 セックスもまた然り。

 確かに、飽きる性質を悪魔は奪う。そうすればいつまでも快感の虜だ。だが、それを人間の科学技術で再現させようというのは、そもそも間違っていたんだ。

 いずれにせよ、これで悪魔の計画は滅びることになる。これ以上クローンが作られることもないだろう。オリジナルの念願が、ついに叶ったんだ。

 さあ、最後の仕上げだ。

 僕は山を下りるべく、裸のままで歩き出した。



###Re:とらわれペンギン 完###


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