混浴娘1−1


 階段を上ったとたん、あたりに湯気が立ち込めた。「な、なんだ…!?」今までにない雰囲気に僕はたじろいだ。暑苦しい熱気があるわけではなかったが、かなり湿度が高く、自分の声が響く。この雰囲気は…。

 僕は新しいステージに警戒しながらあたりを見回してみた。天井は高い。これが反響効果を呼んでいるんだろう。道幅は広くなっている。倍以上はあるな。奥行きがあるから、迷路のようになっていそうだ。ただし向こうのほうは湯気でさえぎられていてよくは見えない。ただ雰囲気的に、細長い通路のようになっているみたいだった。両側の壁は岩場になっている。

 そして…。通路の右半分が通れるようになっていて、所々にタオルや石鹸、イス、桶などが置いてあり、左半分は岩を並べて作った露天風呂があった。人工的な造りだし厳密には外ではないから露天風呂といっていいかどうかは分からないが。床は平らな石造りで、少しざらざらしていた。

 要するにここは風呂のステージなのだ。歩いて行ける右半分は体を洗ったりする場所。その1.5倍くらいありそうな左側は細長い温泉になっている。立ち込める湯気はこの浴槽によるものだった。床の石がざらついているおかげで、水浸しであっても滑らないようになっていた。

 この塔にははまれに簡易シャワー室がある。時々僕はここでリフレッシュする。体を洗って、場合によっては一発抜いておく。このシャワー室はニセモノでない限り安全だ。敵が襲ってくることもないから、ゆっくり体を清め、精力を回復させておく。

 ただシャワー室は数が少なく、大体1〜2階に一箇所程度だ。迷宮のため見つけられないことも多く、戦闘で汚れたらそのままのことも多かった。もっとも、臭いが出るようになれば自動的に、バスタオルサイズのアルコールタオルが降ってきて、一時しのぎに体を拭くことができたが。自分の体が連戦に次ぐ連戦で臭うようになってしまってはゲームを楽しめない、というわけで、適度に思念すれば体を拭く道具は出て来るんだ。

 ともかく、僕はこの迷宮でしばらく戦ってきて風呂には一度も入っていない。丁度、風呂に入りたいと思っていたところだ。体を温めてリフレッシュしたい。ただ体を洗うのとは違う、独特の回復効果が風呂にはある。精神的な充実感、一日をがんばったねぎらい、そういった癒しの効果がある。

 目の前には広い浴槽。心地よさそうな湯気の誘惑には勝てなかった。僕は迷わず湯船に浸かった。元々裸だったし何も気にすることはなかった。湯はどこからか滾々と湧き出ていて淀んではいなかった。

 「あ゛ー…」丁度良いぬるさ、長く入っていられる、眠ってしまいそうな心地よさが全身を包んだ。性感とは違う多幸感に脱力し、けだるさに全身を預けていた。このまましばらく入っていたい。たまにはこんな休息もあっていいかな。あまりの心地よさに戦闘の疲れも吹き飛び、ややもすると義務まで忘れてしまいそうだった。

 と、そこへ水がこちらへ流れてきた。機械的な、あるいは自然に流れるような、大きな水流ではない。湯船の中で何かが動いた時に起こる、小さな波紋だった。人工的な揺らぎがこちらに水流の振動として伝わってきたのだ。先を見ると、湯気の中に人影がある。僕が座っている反対側少しずれたところに誰かが入っていた。先客がいたのか。

 僕はリラックスしたまま人影の方を見ていた。風流だな。露天風呂ならではのハダカのつきあい…って、ここは「ないと・めあ」の居城、僕以外は全員敵の女の子だったんだ。ってことは、この先客は…。

 僕はつまらない勘違いをしていた。普通だったらこういうところで一緒になるのは男同士なんだ。でもここは特殊な精神世界。リラックスしすぎてぼけっとしていたみたいだ。

 「こんにちは。」若い娘の声が湯気の影から聞こえてくる。やっぱり先に待っていたのは女だった。風が吹くと周囲が晴れ、不明だった人影がはっきりする。そこには全裸の女の子が正座して入っていた。

 僕は声も出ずにいた。だんだん心の危険シグナルが強くなり、心臓が高鳴る。

 目の前の混浴娘は、胸は控えめだが若々しい肢体が男好きする。頭にタオルが巻かれていて洗いたての髪がかきあげられていた。清楚で小柄な感じがかわいらしい、ピンク色がかった綺麗な肌だった。

 10代後半くらいだろうか。玉のような肌を持つ娘はまだ顔立ちに幼さを残している。洗いたてのスベスベしたきめの細かいほっぺ、うつむき加減で清純そうな視線が僕に向けられている。そのわりにはタオルや水着などで体を隠すわけでもなく、頭のタオル以外は何も身につけていなかった。陰毛が湯の中で揺らめいているのがはっきり見える。

 「あの…お、お待ちしてましたですー。」透明感のある声でおずおずと混浴娘が口を開く。そしてはにかむ笑顔を見せた。警戒感と期待感の両方の意味で胸が高まる。「見てのとおりここは混浴ステージですー。この先は迷路なんですけど、混浴だから左側は浴槽になってます。あ、でも時々湯船だけの時もあるですー。それで…その…私くらいの女の子から、私より10以上年上の方まで、いろいろな人が入っていて、あなたをお待ちしているんです。」

 この世界で露天風呂ステージということは、彼女が言うとおり当然混浴だ。そしてそこには年頃の娘たちがたくさん入っている…混浴というより、もはや女湯だな。男は僕一人しかいないんだから。風呂場が戦闘場。これはかなり不利な予感がする。てか混浴娘は一種類じゃなくて、いろいろなタイプがいるというのも斬新だな。同じ顔の敵ではなく、いろいろな年頃の敵になっているとは。まぁ実力の上では同じくらいと見たほうがよさそうだが、それにしても妹タイプ好きもお姉さんタイプ好きも悦ばせられるステージなのは間違いない。警戒感が高まる。

 とにかく目の前のかわいい子が今回の敵なのは間違いない。混浴のシチュに萌えることなく、気を引き締めて戦わなければ。

 「じゃあ…よろしくお願いしますー。」混浴娘が頬を赤らめながらつつつっと寄ってきた。このおしとやかで恥ずかしがっている感じも男心をくすぐる。かわいらしい笑顔が愛らしい。新しい敵だが先手を取った方がよさそうだ。とにかくもうリラックスモードではないんだ。どんな攻撃を繰り出すか分からないから注意しないとな。

 このまま心地よい温泉で戦うか、それとも外に出て仕切りなおすか。…どうする?

−選択肢−
混浴娘1−2 湯から出て戦う
混浴娘1−3 湯の中で戦う 


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