色情霊1−1


 階段を上る。

 「うわ!」その階はろうそくがなかった。つまり真っ暗だった。元々薄暗い壁も見えないし、先も何も分からない。

 困ったな。これじゃあ、先には進めない。下手に闇雲に進んで、おかしなトラップに引っかかるのはイヤだし、壁にぶつかって蠢かれたら余計な精力を消費するだけだ。ここの壁は意志があるかのように”生きて”やがるからな。

 何か明かりになるようなものを探さないと。辺りを見回してみる。真っ暗で何も分からない。手探りで近辺を探索してみるが、明かりになりそうな物は見当たらない。

 「?」何かに触れた。硬い物体だ。第二部の迷宮はとかく柔らかい素材が多かったから、硬いものは珍しい。

 表面はざらざらとして、大きさは…一メートルもない。これは…石かな?

 「お?」石と思われる物体の裏に、ろうそくが落ちていた。これで何とか明かりは確保できそうだが…でも火が点いていない。

 いや、待てよ。「…ファイアー!」僕はオーニタの呪文を唱えた(爆)

 ぽっ。ろうそくに灯が点った。ここは異世界。精神力が強ければ、何でも想像したものを実体化できるんだった。それじゃあ、ろうそくじゃなくて強力な懐中電灯を…「えいっ!」…。出て来ない。ろうそくの小さな明かりしかこの階には許されていないみたいだ。しょうがない、ゆっくりこのろうそくの灯を頼りに進んでいくしかなさそうだ。

 とにかく周りを調べてみよう。なぜこの階には明かりがないのか。敵はどんな奴かを知る手がかりでもあれば…

 「!」

 さっき触っていた硬い物体、それは墓石だった!

 「うわ!」僕はびっくりしてその場にへたりこんだ。ろうそくの明かりが墓石を照らす。「色情無縁仏鎮魂 にょしょう」と古びた字で刻まれている。

 色情…だと?無縁仏と鎮魂は分かるが。後ひらがなでニョショウと読めるけど、なんだろう?

 とにかく、尋常じゃない雰囲気だ。僕は周りに気をつけながら、静かに立ち上がった。背筋がゾクゾクとして来る。

 立ち上がると、ろうそくの光が看板を照らした。ろうそくを近づけ、墨で書かれていると思われる古文書のような文字を丁寧に読んで行った。

 「危険 この先男子禁制なり。こは女の(途中読めない)を鎮める墓地にて 命惜しくば男子はここから立ち去られよ 男(途中読めない)鎮魂はこの所にあらず」

 …どうやら、この階は墓地みたいだ。昔の墨の字はあまり読めなかったが、男子禁制で女性しか入ってはいけないらしい。ってかどうするんだよ。先に進めないじゃん。

 ろうそくを高く掲げてみる。ボンヤリとだが、壁際にずらりと墓石が並んでいるみたいだ。随分不気味な造りに仕上がってるな。柵があって、多分その先が男子禁制なのだろう。

 何だか肌寒いな。いやな感じだ。墓地だから幽霊でも出るのか。何でもありの異世界だからそういうのもあるかも知れないな。そして忘れちゃいけない、ここは「ないと・めあ」の誘惑世界だ。何が起こるか分からんぞ。

 とにかくここにいても始まらない。ここを通らなければ先には進めないんだ。僕は意を決して柵を乗り越えた。

 進むと、ますます寒気が強くなる。ろうそくのかすかな灯火だけが頼りだ。不安が強くなる。

 パン!頭上でラップ音が聞こえた。驚いて上を見上げるが、何もない。

 ろうそく以外は暗闇。ろうそくを掲げて上を見るも、やっぱり何もない。「…気のせいか。」視線を正面に戻すと、突然白い死に装束を着た女性があらわれた!

 「うわあああ!」僕はびっくり仰天してまたその場にへたり込んだ!「でっ出た出た!」ガクガクと震えが止まらない。僕の目の前にいる生気のない顔の女性。周りにあるは墓石ばかり。そして何の前触れもなく突然あらわれた、ボンヤリと光る青白い透き通った姿。間違いない、幽霊だああ!

 幽霊が怖いのは、それが幽霊だからじゃない。突然出て来るから怖いんだ。誰だって道端でも誰かが突然ワッと出て来れば驚く。暗闇から突然出て来ればやっぱり驚く。怖いのはそういうびっくり箱状態だからなんだ。

 腰を抜かしてしまったのだろうか、僕はその場に座り込んだまま、身動きが取れなくなってしまった。この状態は…金縛りだ!

 幽霊は無言のまま、装束の帯を解き、するりと上半身を曝け出した。控えめのおっぱいが青白く光っている。発光する霊体は…例えて言えば蛍光塗料を塗ったキンケシみたいな感じで、青白く淡い光を放っている。だがそれはろうそくよりも明るく、両端の墓石をよく照らしていた。

 彼女が肌を晒せば晒す程、光は強くなって行く。

 なるほど、この階に明かりがないのは、幽霊が出やすいように配慮しての事だし、幽霊が出ればそれなりに光るのか。

 僕はさっきの立て札を思い出していた。段々状況が飲み込めて来た。

 このシチュエーションは、色情霊が出る墓地って所だろう。それも、男性の色情霊と女性の色情霊を分けて鎮魂していて、ここは女性の色情霊を無縁仏として鎮魂した墓地って感じかな。

 だから男子禁制。男が足を踏み入れれば、たちまち女の色情霊の餌食にされてしまう。とり憑かれて精をどんどん絞られてしまうんだ。

 女の色情霊ってのは恐らく、幽霊になってもセックスを求めてこの世にとどまっている者を言うのだな。現実世界なら、そんな彼女達の想いは強欲な男達で溢れる社会なんだし、たちまち満足して成仏するんだろうけど。

 それでも満たされない女達が色情霊として彷徨っているのを「ないと・めあ」が連れて来たんだろう。という事はかなりの執念な筈。ここは心して戦わないと、あっという間に餌食にされてしまいそうだ。

 僕は段々落ち着いて来た。そして目の前の色情霊のなまめかしい白い肌に見とれていた。それにしても美しい。若い女の幽霊の、生気はないけれども張りのある肌、つんと上を向いた胸、しなやかな指先や物腰。もちろん足がある。足の指先までくっきりと光っていて、そのスベスベした感じがエロチックだ。

 幽霊は段々近づいて来た。そのゆっくり歩く姿がしっとりとした色っぽさに包まれていて、ますます魅了されてしまう。

 色情霊は、金縛りの力と異性を魅了する力を持っている。見ているだけでペニスが立ってしまう。男の情欲を誘うのが彼女達の得意技だ。

 僕は…依然として動けないままでいる。気持ちは大分落ち着いて来たが、色情霊の魔力で金縛りにされたままだ。まずはこれを切り抜けないと、反撃できずにあっという間にイかされちゃう。

 さて、どうやって金縛りを脱出すればいいんだろう?
 

−選択肢−
色情霊1−2 気合を入れてみる
色情霊1−3 小指の先だけを動かしてみる


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