キョンシー1−1
薄暗い、古びた石の城を歩き回る。裸・裸足で硬い石の上を歩くのは正直しんどい。温度は整っているが、精神的に寒気と恐怖感を拭い去ることができないし、冷たい石畳というのがなんとも歩きにくいのだ。
もちろん走り回ることは難しい。この城は奥へ進むほどに複雑に入り組むようになっており、上へ行ったり下へ行ったり地下に降りてみたり、慎重に進まなければならないし、硬い廊下では足への負担も大きい。もっとも、ここで走る必要はまったくない。ゆっくり歩いて探索しなければならず、また、敵から逃げることはほぼ不可能だからだ。
この城にいるのは、死して永遠の命を手に入れたアンデッドどもだ。ゾンビとは違ってその若々しい肉体は決して朽ちはしない。その力はすさまじく、スピードもある。魔力もあり、自在に空を飛ぶことができたりする。逃げようとしても一秒後に追いつかれてしまうのだ。
さしあたってこれまで戦ってきたのは、レディバンパイアたちだ。彼女たちは男の精を吸って血の代わりとなし、永遠に生きながらえているのだ。男の快楽から精神エネルギーを吸い取り、美貌と若さを維持する化け物。血を吸い尽くされるのと同様、ねらわれた”食料”は干からびてしまうか、よくて廃人である。
彼女たちの”渇き”はすさまじく、人間が飢える以上の、まるで麻薬のような渇望がある。彼女たちは精をどうしても吸わずにはいられない。そして永遠に生きるという”罰”を受け続けることになるのだ。バンパイアたちは生を望まない。無の漆黒でさえ、彼女たちの安堵となる。
だが、その吸精力もすさまじく、並の戦士ではあっという間に吸い尽くされてしまう。とりわけこの世界では、絶頂さえできれば死の消滅、永遠の安らぎを彼女たちは得ることができる。彼女たちは…ほんとうはそれを望んでやまないのだ。
そこへ僕が放り込まれた。苦戦しながらも、もう何度もバンパイアたちに打ち勝ち、因果なモンスターたちを闇の安らぎにいざなってきている。僕が永遠の快楽の闇に閉ざされるか、彼女たちが闇の安らぎを手に入れるか…瀬戸際の戦いを続けてきた。
とにかく、吸精鬼の魔性のオンナに多少の耐性ができた。内部で触手とともに激しく蠕動し高速でしごくので、長時間入れっぱなしは危険だが、何とかこちらが果てる前に相手を倒すことができている感じだ。僕ももっとレベルを上げて、この古城を攻略しなければ。
トス。トス。トス。
…。何か聞こえるぞ。足音…というより、一定のリズムで床を叩くような音だ。僕は足を止めて息を潜め、辺りを警戒した。バンパイアなら直立のまま空中を浮遊し、音もなく高速で背後に迫ってくるので、こんな音は出さない。ここにきて初めて聞く音だ。新手の敵かもしれない。
トス。トス。…トス。「…ぁ…っ!」僕は思わず小さく声を漏らしてしまった。通路の曲がり角から出てきた、音の主が姿をあらわした。女だ。バンパイア…ではなさそうだ。風貌がまるで違っている。
吸精鬼は真っ白い体で赤い髪の化け物。しかし、目の前で直立不動の青い体は、バンパイアとはまるで違っていた。黒髪に丸い帽子、東洋風の模様が入った黒い中華装束。小さな靴も履いていて、顔立ちは完全に東洋人だ。もっとも、吸血鬼に国籍も人種も関係ないが…。彼女は背筋をピンと伸ばし、僕のほうを見ず、両手をまっすぐ前に突き出している。生気のない顔は血が通っていないからしょうがないが、西洋風とはまるで違うまったくの無表情だった。そいつはこちらを向くでもなく、手を前に出したまま無表情で突然姿をあらわした。
これは…テレビや映画なんかで見たことがあるぞ。衣装も手の位置も顔立ちも、普通に歩くのではなくピョンピョン飛び跳ねて移動するのも、見覚えがある。こいつは紛れもなく「キョンシー」というアンデッドモンスターだ! …実物を見るのは初めてだな。
キョンシーはゆっくりとこちらを向いた。顔は無表情のまま、鼻を小さくひくつかせている。そして小刻みにトストスと跳ねながら、こちらに近づいてきた。目が合っていない。ただ、僕めがけて不気味に跳ねてくるのみである。
そうだ、思い出したぞ。キョンシーは目が見えないんだった。だから人間の息を、二酸化炭素を頼りに存在を察知するんだった。映画とかでやってたな。見つからないようにするには息を止めればいいと。
女キョンシーである以上、絶対敵だよな。初めての相手とはいえ、やはり無用の戦いは避けたい。ここは相手に見つからないようにして、やり過ごしておいたほうがよさそうだ。十分にレベルが上がってから仕切り直ししたほうが有利だし。
僕はその場にゆっくりしゃがみこむと、鼻をつまんで息を止めた。そのとたん、キョンシーはきょろきょろと上半身を振って不思議そうに跳ねる。いきなり僕の呼吸が消え、気配が読めなくなって戸惑っているんだろう。彼女はそのままトス、トスとこちらに跳ねてくる。
キョンシーが僕の目の前まで来た。まさに横切ろうとしている。彼女はすぐそばの僕に気づいていない。よし、このまま通り過ぎるのを待って、やり過ごしてしまおう。
それにしてもずいぶん長く息を止めてるぞ。そろそろ苦しくなって…こないな。そうだ、ここは異世界だから、窒息という概念がないんだった。だから何時間でも息を止めていられるし水の中も平気だ。なぁんだ、案外簡単にこの新手のアンデッドをあしらうことができそうだぞ。
「…なぁ〜〜〜んちって!」ぶわっ! 「はうあっ!!」キョンシーはいきなり体をこちらに向け、自分の頬をつまんで思いっきりべろべろば〜をしている。一瞬何が起こったのかわからなかった。
「ぶゎ〜かめ! 本当に分からないと思ったアルか!?」「なっ…」「今までのは全部演技アルよん♪ だいだいね、息を止めて二酸化炭素が出ないからキョンシーに見つからないとか本気で思ってたか! 息をしなくても人間の体からは二酸化炭素が出るアルよ!」「あ…そういえば皮膚呼吸してるんだった。」「たしかに皮膚から出る分は微量だから、初期のキョンシーには見つけづらいかもしれないけど、私はたっぷり精を吸って強化してるから微量の二酸化炭素でもかぎ分けられるよ! そもそもそれ以前に眼も見えるアル!」
「…どーでもいいけど、『アル』は古いと思うアルよ。神●かよ!」ツッコンでみたが、帽子を取ったキョンシーのお団子頭は、ちょうど巨乳になったあの大食いキャラに似てなくもなかった。顔色は悪いが。
目の前にいるキョンシーは、チャイナな雰囲気満点で目がパッチリしており、それでいて全体的にスレンダーな感じだ。生きていたころはさぞかし美しかったであろう透き通るような肌は、血がかよっていないために青みがかってしまっている。モンスタータイプに慣れていなければ、その肢体に欲情することさえできないであろう。…もっとも、味わってみればその妖しさと魔性の快楽は絶大で、一発で病み付きになってしまうのだが。
すっきりした体でありながら、出るところはちゃんと出ており、不釣合いなくらいに巨乳である。「むっ!」キョンシーはイタズラっぽく腰に手を当ててあかんベーをしている。つまり両手は別のところを触っているのだ。それにもかかわらず、大きく張り出した胸元がうにうにと動いている。「気づいたアルか。キョンシーは強化されると自分の意思で柔らかおっぱいを自在に動かせるようになるね。もっと驚け。」「む…」
…”強化”だと!? そういえば、妖気というか魔性の雰囲気を強く感じるな。体は細く、胸は大きく、それでいて表情としぐさは幼さを残す化け物は、西洋のバンパイアに決して引けをとらない妖しさをそなえていた。
「…イメージと多少違うな。キョンシーといえばもっとこう、カクカクしててさ。でもアンタ、フツーに動いてるもんな。」「それが強化の証アルね。キョンシーなりたてのころは、体が思うように動かず歩くこともできず。跳ねて移動するだけね。でも強化されて魔力がたまると、普通に動けるアルよ。また初期のころは太陽に弱いけど、強くなれば昼間でも活動OKね。」「ってことは、アンタは相当強化されたキョンシーということか。」「尊敬するアル。」「…。」
キョンシーはお決まりの装束を脱ぎ捨てた。「これはイメージどおりのキョンシー服で、演技用アル。本当の私の衣装はコレね!」装束の下は、ノースリーブでスリット深いチャイナドレスだった。細いナマ足がすらりと伸びている。横尻からわき腹まで見えているから、彼女がノーパンなのが分かった。あどけない表情とは裏腹に、首から下は女の色気に満ち溢れている。
やはり一筋縄ではこの先を通してはくれないらしい。一番弱いタイプのキョンシーではなくて、ある程度強化されたキョンシーから戦わなければいけないとはな。話から想像するに、さっきまで相手だったノーマルバンパイアよりもずっと強いはずだ。「驚くのはまだ早い。もっと強化されると空だって飛べるようになるね。オマエほどの男の精を吸えば私も一気にレベルアップして、空も海も宇宙空間も自由自在に飛びまわれるようになるはずよ。」
キョンシーは男の精を吸って強化される。ある程度(といっても数百人単位だろうけど)の人数分の精を吸えば、活動範囲が夜だけでなく昼にも広がるし、体の動きも生前以上にしなやかになる。肉体を自由に動かすことができ、乳房も意志によって動かせれば、おそらく膣もバイブを始め蠕動など変幻自在なのだろう。その実力でもってさらに多くの男を枯渇させれば、魔力が充実して空まで飛べる強力モンスターに変身できるというわけか。バンパイアはデフォルトで空を飛べたが魔力は小さい。キョンシーが舞空術を身につける段階というのは相当すさまじいのだろう。
「ついでにイイこと教えてやるね。吸精型キョンシーは、強化されればその証として、乳房が大きくなるアル。私は生前ひどく華奢で、貧乳がコンプレックスだたが、いまではこのとおり! 手を使わず高速パイズリもできる自慢の武器アルよ。ハハハー!」
なるほど、キョンシーは成長すると、吸精の遍歴として胸が大きくなるんだな。それで実力や序列が判断できる。爆乳キョンシーは相当の精を吸ってきたということだから、超強力といえる。そしてその豊かな乳房を駆使してさらに大量の精を吸い取るんだ。もちろんパイズリの技術も向上する。目の前の敵も軽くEはありそうだから、自在な動きが可能だったというわけだ。
この世界に登場するアンデッドモンスターは、ほぼ例外なく男の精液を吸い取ることで強化し、またそれをエネルギー源にする。つまり彼女たちが生きていくためまた強化するためにセックスが欠かせないというわけで、バンパイアにとってと同様、キョンシーにとってもセックス=食事ということになる。
ただ、吸精鬼とひとつ違う点がある。ヴァンパイアのほうは、長年生き続け、その生に絶望している。彼女たちはみな、安らかな死を望む。しかし生きれば生きるほど強力になり、ますます死から遠ざかってしまうのだ。だから彼女たちは、僕に敗北して闇に消えることを望んで戦いを挑んでくる。彼女たちとの戦いには一種のせつなさが残り続けた。
しかしキョンシーは違う。成長する自分自身を楽しみ、精を吸うことを楽しんでいる。強くなればなるほどさらなる高みを目指し、全世界、全宇宙の男すべてを吸い尽くす勢いで生を謳歌してやがる。それが魅惑的な肉体と天真爛漫な行動とのギャップになってあらわれているのだ。
どっちにしても、キョンシーのエッチの能力はずば抜けているはずだ。アンデッドにある程度耐性ができたとはいえ、相手の実力も計り知れず、通常バンパイアと同じに扱ったらあっさり返り討ちに遭うだろう。心してかからねば。
僕は立ち上がり、キョンシーと戦うべく距離をとって身構えた。今までの経験上、未知の強敵相手に消耗の激しい大技は避けたほうがいい。PVとかは思わぬしっぺ返しの元になるからな。ここは基本技でいこう。愛撫技を駆使して様子を見、相手の出方をうかがうか、正攻法の正常位でバランスよく戦うか、ヴァンパイア相手に培ってきたバック攻撃で短期決戦をねらうか。いずれも有効そうでリスクもある。
−選択肢−
キョンシー1−2 百烈愛撫ハイパーで責める
キョンシー1−3 正常位でじっくり戦う
キョンシー1−4 バックで短期決戦