バンパイア1−1


 階段を登る。「むっ!?」いつもの迷路じゃないぞ。通路がなく、だだっ広く空間が広がっている。天井もかなり高い。遠くに壁が見えるがその間に仕切りとなるカベがまったくない状態だ。蝋燭の火が届きにくくなっており、それだけ一層暗い雰囲気が醸し出されていた。

 たしかにいつもの迷宮とは一味違う。仕切りのない空間の真ん中に…巨大な石造りの居城がどでーんと誇らしげに建っている。そのたたずまいは中世ヨーロッパのお城って感じだ。塔の中に別個に西洋風の城があるのだ。そしてその城の周りには何もなく、暗いドームの真ん中に城がある状態だった。上り階段も見えない。やはりステージクリアの階段は城の中にあると考えるのが自然だろう。

 バサバサバサ…「うわ!」黒い影が突然、僕の目の前を横切って行った。天上を見やると黒い塊があちこちに飛んでいる。「な、なんだ…コウモリか。」どこか古風で怪しい雰囲気が漂っている。城の周りと遠くのカベの小さな明かりでやっと、城の外観が見える状態だ。

 …やはりこの城に敵達が潜んでいるのだろうし城を攻略しないと先には進めないのだろう。僕は恐怖心を押さえて異国の居城に足を踏み入れる覚悟を決めた。

 ぎいい…巨大な扉はあっさりと開かれた。中に入ると所々に蝋燭が灯った通路になっていた。迷路のような状態ではなくちゃんと通路と部屋が整然と並んでいる。これなら迷わずに済みそうだな。僕は恐る恐る歩き始めた。

 「!」遠くから、何者かが歩いて来る…、いや、歩いているのではない、遠くから高速で飛んで来ている!あっという間に「それ」は、直立のまま床上を滑って、僕の目の前に飛んで来た。

 「…ようこそ、我が居城へ。」「君は…」

 真っ赤なマントに身を包んだ女性だった。空中を浮遊できるのだから、モンスターなのには変わりない。

 「我はいにしえの時を過ごし者。人は我をヴァンパイアと呼ぶ。」「!!」「はるかかなたに永遠の命を得、性を糧に生きながらえし者…」「吸血鬼!」

 モンスターの中でもかなり強力と聞く。クソ、十字架もニンニクも持っていないぞ。確か銀の矢も必要な筈!そうか、この古城は吸血鬼の住処だったんだ。彼女程のモンスターなら特別に巨大な屋敷を与えられていても不思議ではない。

 「…正確には”吸精鬼”ヴァンパイア。吸うは男の精である。」そういう事か…。やっぱり「ないと・めあ」の手下だけはある。

 このヴァンパイアは、血ではなく男の精液を吸い取り、生き長らえている。多分精液と一緒にその生体エネルギーも吸い取っているのだろう。

 「…我は長い間、ヴァンパイアとして孤独な時間を過ごして来た…気が遠くなる程の長い時間…。そこを、『ないと・めあ』様に召喚された。おまえの精を絞りつくす為に。…この居城は、空腹のヴァンパイアで満ち溢れている。ここなら仲間がいる。アンデッドの弱点である太陽の光も届かぬ。『ないと・めあ』様のお取り計らいでそれ以外のすべての弱点も克服できている。ここにいれば銀も十字架も通用しない状態でいられる。不死の宿命を背負う者の最後の行き場には丁度よい。」

 「くっ…」

 「…一つ聞こう。おまえは、永遠の命が欲しいか。」「永遠の命…。…。いや。僕は、永遠の命には魅力を感じない。与えられた短い時間の中で自分なりに生き抜く。…それで十分だと思う。」

 「そうか…。望まずして死の安楽から復活させられた者はすべて、復活を呪い自らの運命を呪う。そして自ら望んで不死を手にした者は…永久に後悔する事になる。よいか若者よ。人は死を恐れる。だが、死を禁じられた者は死を恋焦がれる。不老不死が快楽なのは精々百年位だ。それ以上になれば…何もかもをやり尽くしてしまってこの世界への興味も失う。」「…。」

 「人間が新しいものを喜ぶのは生が限られているからだ。不死の者は何を見せられても同じ事の繰り返しだと感じるものだ。」「そうかなあ…二百年前にはなかった映画とか、新型モバイルとか…そういうのを享受し続けられるのも退屈なの?」「人間の技術など『既にあるもの』の焼き直しでしかない。既に似たようなものがこの世にある。それを知り尽くしているから退屈になるのだよ。」「そうか…案外壮絶なんだな。」

 「ヴァンパイアは多くを望んで死を拒絶した。だが、究極の欲望こそが”死”である事を知らぬ愚か者が不死を望むのだ。不死になってからそれに気付いても遅い。後は人知れずひっそりと永久の時を後悔の中で刻むのだ。…これが多くのヴァンパイアの運命なのだ。」「そうだったのか。」

 「『ないと・めあ』様は、おまえの精を吸えば、安らぎの中の死を約束して下さった。だから我は、全力でこの腹を満たそうぞ!」「!?」「この”最後の居城”にてお前を悦ばせられれば、悲しき運命を背負ったアンデッド達が死の解放を享受できるのだ。この館は最後の望みを掛けて精を求め徘徊するヴァンパイア、東洋の不死のモンスター、そして比較的上位の花嫁アンデッドが大勢ひしめいている。誰か一人でもお前を射精させる事ができれば全員が解放される。」

 「…。」「若者よ。お前は永遠の命を望まないと言ったな。」「あぁ。」「それなら…見事我らの居城を克服して貰おうではないか。お前が勝てば不死を逃れられるだろう。だが…我等が勝てば…お前は我らの死と引き換えに永遠にこの世界に取り残される。だが…お前の不死は幸福なのかも知れぬぞ。この世界に留まる限り快楽漬けになり、飽きが来ないように誂えてあるからな。永遠が退屈になる前にお前の思考は鈍り、永遠の快楽に埋没しても苦にならないだろう。」
 
 なるほど、それで僕と引き換えに不死を入れ替えようという訳か。こっちが不死になってもヴァンパイアのような苦しみを感じる事もなければ運命を呪うようにもならないから、安心して襲う事ができるという訳だな。
 
 「お前に襲い掛かる理由がもう一つある。お前が果てれば全員が解放されるが、ここのアンデッドが逆に果てれば消滅する。」「…!そ、そうか…!」「我らにとっては勝っても負けても死の解放が恩恵として与えられる。勝てば全員が、負けても戦闘に加わって絶頂した者が、永遠の苦しみから解放される。だから我らは『ないと・めあ』様に忠誠を誓い、居心地のよいこの居城から離れないのだ。積極的にお前に迫るのだ。」「…。」「残るはお前自身の問題だ。不死を選んで精を放つか、それとも…」

 「…答えは決まっている。ここで負ける訳には行かないんだ。」「…気に入った。我らは全員あえて空腹を保っている。吸精体勢を整える為にな。それだけ吸引力も相当なものになっているぞ。さあ…来るがよい。」

 ヴァンパイアは真っ赤なマントを両腕で広げた。マントの下は全裸だった。

 敵はセックスにかけては相当の実力がある。何しろ相手にとってセックスは食事と同じなんだから。それに今の話の通りこの居城の住人には特別な事情もある。目の前のヴァンパイアは最初の敵、多分この城の中では弱い方の存在の筈だ。この吸精鬼にも勝てないようじゃあ、先はもっと強力なアンデッドが待ち構えてるんだし、進む事はできないぞ。

 それでも相手の実力はまだ未知数だ。特殊技能も分からない。慎重に戦わないとな。さて、どうやって戦おうか…

−選択肢−
バンパイア1−2 正面から抱き合って正常位
バンパイア1−3 バックで激しく動く


メニューに戻る(ノーフレーム用)