えろいぞん 2


 僕と井笠博士の二人が、沈黙したまま残る。

 井笠:「別に告発する気はないから安心してくれ。ここにはブラックボックスもない。チェックもされないだろう。」

 綾瀬:「…。」

 重い空気。

 時間だけが過ぎていく。

 井笠:「さて。私はブラックホールに行く。」

 綾瀬:「ダメだ。あそこには行かないと決めたはずだ。」

 井笠:「設計者・制作者は私だよ。絶対安全と分かりきってる。」

 綾瀬:「ここでは僕が艦長なんだ。ゲストといっても、ここでは僕の指示に従ってもらう。さもなくば、もう君の身の安全は保証できない。」

 井笠:「保証なんて要らないよ。」

 井笠はすたすたと歩いていった。

 綾瀬:「待て! 気絶した牧野から何も学ばないのか!」

 井笠:「最初だけだよ。二度目以降は、気絶もしない。それに、私はブラックホールに飛び込む気もない。」

 綾瀬:「現に牧野は意志に反して吸い込まれているじゃないか!」

 井笠:「くすくす…」

 僕が引き留めたにもかかわらず、井笠は出て行ってしまった。

 綾瀬:「…勝手にしろ。」

 僕は吐き捨てるようにつぶやき、メインルームの片隅のソファに腰を下ろした。ここで佐藤を待つとしよう。…なんだか色々と疲れたな。宇宙船の調査にではない。人間関係に疲れた。ふうと強くため息を吐く。

 体がじわりとくすぐったくなっている。

 今までに味わったことのないくすぐったい感覚。股間の奥の方がきゅんと甘く疼く。何かにせき立てられているような、優しくも悩ましい感覚だ。脳の奥がじわりと痺れる。僕はだんだん意識がもうろうとしてきて、体が重くなっていくのを感じた。

 「くすくす…」

 だれだ…

 混濁する意識の中で、僕は甲高いクスクス笑いを聞いた。次いで、何を行っているかは分からないが、甘いささやき声も聞こえる。

 「クスクス…いっさいの物理攻撃が通用しない…あるのは…クスクス…」その声と甘いクスクス笑いは、脳天をくすぐる心地の良いものだった。井笠の声のようでもあり、女の子の声のようでもあった。

 「はっ!」僕ははっとして顔を上げた。

 誰かがいる!

 人影だ。

 物陰をゆっくり音もなく人影が歩いている。背後から当てられた光が、その人物の影を映し出していた。その肢体のラインから、メンバーや井笠でないことが一目で分かった。

 「…誰だ。」「くすくす…」

 物陰からその人物が姿を現した。知らない娘だ。

 「!!」その女は、スーツも何も身につけていない、まさに全裸だった。

 「誰だ。」僕はもう一度たずねる。「いくら設備が整っているといっても、ちゃんとスーツは着用してくれ。」

 寝起きのためか、うまく体が動かない。話すのもゆっくりだし、何より、知らない人物が全裸でいきなり宇宙船に現れるという不可思議な光景をまったく疑うこともできなかった。

 「うっく…」股間のくすぐったさが急に強くなった。いったい…何が起こっているのだ。

 僕はやっとの思いで立ち上がる。体がよろめく。とにかく彼女の近くに寄って、事情を聞かないと。そうだ…女性用のスーツを着用させないと。ふとした事故があった時に…スーツがないと…この女性の身の安全は保証できない…

 裸の女性を見たことがないわけではない。知識もある。男性と女性では、性器の形状が違うこと。女性の方は胸がふくらみ、体に丸みを帯びて成長していくことも知っている。結婚した相手と“交尾”を行えば子供ができることも知っている。

 だが、それを見たところで、知ったところで、自分には関係ないと思っていた。金子さんにあこがれはあったし、一緒にいたいとも思ったが、交尾をしたいとは思わない。そういうことにまったく興味がないのだ。

 しかし、目の前の女性の裸体を見た時は違った。

 股間が激しく疼く。これは…昔の人類が普通に持っていた感覚、“性欲”というものなのか?

 それを裏付けるように、ブリーフを押し上げて、ペニスが激しく隆起する。

 「これは…!」初めてだった。知識だけはある。これは、男性において、一生のうちにごくまれに起こる現象、ペニスの“勃起”というものではないのか。かなりマイナーな知識のため、知っている人間はそう多くはないが、きっとそういう反応なのだろう。

 僕の身に一体、何が起こっているというのか。

 女性が近づいてくる。そして、しっかりと僕を抱き締め、生足を僕の両足の間に滑り込ませてきた!

 「うああ!」

 全身を覆うなめらかな感触。みずみずしい肌ざわりが、吸いつくように覆い被さって密着してくる。

 ブリーフ部分以外は、肌と肌が直接密着し、触れ合い、こすれ合っている。その女体のやわらかい感触を身に受けたとたん、僕は何もかもを忘れてしまったようにに思えた。

 18~20くらいだろうか。僕よりは年上の女性に見える。その若い肉体が、僕の全身を優しく滑り、柔らかい肌の感触をじかに刻みつけてくる。

 「あふ…」僕はとろけそうになり、その場に崩れ落ちそうになるくらいに脱力した。

 彼女のふとももが僕の内股をゆっくり優しく滑る度に、股間のくすぐったさがさらに強くなる。上半身を滑る乳房の感覚が、僕の性欲を極限にまで高めた。

 彼女は突然、ブリーフを解除した。スーツはあっさりと外れ、床に落ちてしまう。

 勃起した包茎ペニスが彼女の前にあらわになった。

 「くすくす…」

 女性はいきなりペニスを掴むと、やさしく滑らせ始める!

 「あああ!」

 女の人の手…なんてやわらかい…スベスベで、吸いつくようで、しなやかむっちりで、そんな手の筒がゆっくりと、ペニスを根本から先端まで優しくしごき上げている。

 握りしめられただけで何かがこみ上げ爆発してしまいそうなくらい気持ちいいのに、その手が前後にゆっくりしごいてくれるのだ。ひとたまりもなかった。

 強烈な快感が火のように股間を襲う。くすぐったさが急に膨れ上がる。もう何も考えられなかった。

 びゅる!

 ペニスの先端から、小水とは明らかに違う液体が噴き出した! ドクドクと脈打ちながら、次から次へと白い液体が飛び散っていく。「あうううっふ!」僕はガクガクと腰を震わせ、初めての感覚に酔いしれた。

 嘘だろう?

 射精するという知識はあったが、それも一生に何回か、人によっては一生来ないこともあるという。その射精が、こんなに気持ちよかっただなんて。

 あまりの快感に、僕は脱力し、その場にぺたんと尻餅をついていた。目の前には、男性の物とは明らかに形状の違う、ワレメのはっきりした無毛の女性器があらわになっている。たしか交尾は…

 「ピピピ。 ボウゴフク ニ オセン ヲ ケンチ シマシタ。 コレヨリ センジョウ もーど ニ ハイリマス。」

 綾瀬:「!!」

 ブリーフが洗浄を始める。

 僕はソファーに座ったまま、どうやら眠ってしまったようだ。

 いまのは…夢…だったのか?

 周囲に人の気配はない。もちろん、あの悩ましい全裸の女性も。

 僕はブリーフを脱がされたはず。が、気がついてみると、しっかり腰を覆っている。全部夢だったのか。

 しかし、夢で見た快楽の状況に感極まり、僕は夢の中で射精してしまったみたいだ。

 洗浄が終わると、またあのくすぐったい感覚が体の奥からじわりとこみ上げていく。もう一度寝てしまったら、すぐ射精しそうな勢いだ。

 一生に一度、数回という射精が、立て続けに起こるなんてことがあるだろうか。一体、僕の体はどうなってしまったんだ。

 …それにしても、佐藤は遅いな。通信してみよう。

 佐藤:「艦長! 応答願います艦長!」

 綾瀬:「佐藤君か。どうした。まだ準備できないのか。」

 佐藤:「それが…DVDの話を聞いて、道具を準備するのに手間取りました。しかし…その後が…」 

 綾瀬:「何かあったのか?」

 佐藤:「牧野が意識を取り戻しました。現在、適切な処置を施しています。」

 綾瀬:「気がついたか! よかった!」

 佐藤:「それが…」

 綾瀬:「?」

 佐藤:「信じられない…こんなことって…」

 綾瀬:「どうしたんだ! 隠さずはっきり言ってみろ!」

 佐藤:「み、見たままを…言います…信じてはもらえないでしょうけど…ありのまま…今起こっていることを話します…『牧野が七転八倒してブリーフ洗浄し続けてます』! な…何を言っているのか分からないと思いますが、お、俺もどうなっているのか分かりません!」

 綾瀬:「落ち着くんだ。もっと正確に、詳細をしっかり話せ。」

 佐藤:「牧野は今緊急拘束状態で…あお向けでベッドに寝かせています。股間が大きくふくらみ、数分間、ブリーフ洗浄が連続して起こっています。現在、洗浄は止まりましたが、牧野が呻きながら…身体を震わせて苦しんでいる状態は変わりません。何か病気で失禁し続けているとも考えられますが、それにしては回数が多すぎますし、センサーにも病気やケガの反応はないんです。健康体そのものなのに、なぜか洗浄モードを連発して苦しんでいます!」

 洗浄…僕がさっき味わったのと同じ感覚ではないだろうか。

 そう言えばその少し前、田中が同じように呻いて洗浄モードに入ったと記録が残っている。まさか…

 綾瀬:「田中、包み隠さず言え。君が洗浄モードに入った時に何があった!? 牧野を救うためだ、隠さずに言うんだ。」

 田中:「…じぶんで…うう…自分で自分のペニスを撫でた。そしたらすごく気持ちよくなって止められなくなった。そのあとおかしな液体がペニスから出て、洗浄モードになった。俺が体験したのはそれだけだ。」

 綾瀬:「本当か? それだけなのか? 自分で撫でた動機は!」

 田中:「…。」

 綾瀬:「僕も、実はついさっき同じ状態になったんだ。洗浄モードに入った。僕もちゃんと言う。夢を見たんだ。女の裸を見て勃起し、抱き合って、その女にペニスをしごかれて、あっという間に射精した。夢の中でな。田中君、女性は無関係か?」

 田中:「すまない…篠沢隊員の水着の写真を見つけて、それを見たとたん目が離せなくなって…それで…」

 綾瀬:「やはり…そうか…よく言ってくれた。佐藤君、大急ぎでボディースキャナーを用意しろ。それで牧野の股間をモニタリングするんだ。僕もすぐにそっちに向かう!」

 佐藤:「わ、わかりました!」

 僕は走って七星号に向かった。DVDは、この異変を収束させてからだ。

 5分ほどで、僕は七星号のメインルームに到着した。

 佐藤:「艦長! これを見てください!」

 綾瀬:「!」

 思った通りだった。

 牧野がベッドに縛りつけられている。全身に何重にもベルトが巻かれ、暴れられないよう完全拘束されている。牧野はカッと目を見開き、顔を上気させたまま、絵にならない声で喘ぎ、悶絶し続けている。

 佐藤:「見てくださいこの苦しみよう。正常反応なのに…」

 綾瀬:「これは…苦しんでいるのではない。快感に身もだえしているんだ。」

 田中:「なんだって!?」

 綾瀬:「おそらく、牧野は気がついてから、幻覚を見ているのだろう。女性の幻覚をな。それが毎秒、ひっきりなしに、ずっと続いているんだ。そのつど…股間がくすぐったく気持ちよくなって、全身に広がって、“射精”するんだ。」

 佐藤:「射精って…あの一生に一度だけの現象?」

 田中:「俺も味わった。だが…あんなに気持ちいいとは思ってもいなかった。」

 佐藤:「父さんが言っていた。俺を生むためにいやなものを仕方なく交尾して、母さんをやっと孕ませ、子供を作ったんだって。産む時は手術で簡単だが、交尾している時の男性側の精神的肉体的苦痛は相当なものだって。」

 綾瀬:「多分、地球の男性のほとんど全員は、交尾時も、射精時も、たいへんな苦痛を伴う。それを何度も何度もくり返しては失敗し、やっと、母を妊娠させることに繋がるんだ。そこまでしなければ子供は作れない。だが…」

 田中:「ここで味わった射精は、そういうところはまったくなかった。ただ心地よくて、くすぐったくていい気持ちで…まるで天国だった。」

 綾瀬:「僕もそうだ。ここに来てから…いや…マツモ・トリセ号に入ってから、明らかに身体に変化が訪れた。」

 田中:「あのブラックホールが…」

 綾瀬:「もしそうなら、「ブラックホールを用いて転送したことのある船の中」にいただけで、「女に興奮するようになり、気持ちいい射精をするようになった僕たち」より、直接ブラックホールに飛び込んだ牧野の方が、症状はもっと深刻だろう。」

 佐藤:「あのブラックホールは、男性の射精を快感に変える機能を持っているっていうんですか!」

 綾瀬:「仮説だがな。モニターを見て見ろ。牧野のペニスが…」

 ひっきりなしに律動しているのが、スキャン画像で分かった。僕と田中は一回で済んだ射精だが、牧野のペニスは萎えることなく、大きくふくらんだままだ。そして、ビクビクとひっきりなしに震わせながら、ブリーフに包まれて苦しそうに悶えている。

 おそらく、体内に残っていたすべての精液を吐き出し終わっても、あの気持ちいい最高の瞬間が続いているのだろう。精液は出ず、ペニスの律動と快感だけが続いている。数分で精液は体内で無理にでも生成され、その次の瞬間には吐き出して、また枯渇する。ブリーフが連続して洗浄モードに入るのもうなずける。

 綾瀬:「牧野の体内の水分は大丈夫か。脱水症状は起こしていないか。」

 佐藤:「そこは大丈夫なようです。水分量に変化はありません。」

 綾瀬:「このままでは体は疲弊しきってしまう可能性がある。自動栄養注射装置をセットしろ。念のため水分も注入しておけ。疲労回復の投与も忘れるな。その上で、目覚めたとたんに幻覚に悩まされているなら、もう一度気を失えば静かになるだろう。この異常現象の謎を解明し、元に戻す方法が分かるまで、眠らせて…いや、夢を見られない状態にしておくんだ。」

 佐藤:「はい…」

 綾瀬:「今のところ、マツモ・トリセ号に行っていないのは佐藤君だけだ。なるべく君まで巻き込みたくはないが…」

 佐藤:「俺が行かなくちゃ、DVDは見られない。大丈夫、たとえ肉体が改造されるようなことがあっても、牧野のようにはなりません!」

 このままここで待機していても、何も変わらないのは明らかだった。佐藤を危険に巻き込むことになるが、致し方ない。なるべく短時間でDVDを修復させ、女の写真や幻覚を見ない、マツモ・トリセ号で眠らないなど、気をつけて進むしかないだろう。

 田中:「井笠は絶対にこの事を知っているはずです。とッ捕まえて吐かせましょう。」

 綾瀬:「…やむを得ない。我々への秘密が多すぎる。井笠のもくろみも掴み切れない。ちゃんと説明させよう。」

 田中:「相手は強大なモンスターというわけではない。ひとりひとりの精神の中に入り込んでくる悪魔だ。自分がしっかりしていれば、恐ろしい射精の憂き目を見ずに済むだろう。」

 綾瀬:「原因は分からないが、苦痛であるはずの射精が快感に変わっている。気持ちいいからといってそれを求めてはダメだ。快感に負けてはいけない。」

 佐藤:「昨日までナイフでお腹をぐりぐり刺すのが死ぬほど苦痛だったのに、今日になって気持ちよくなったら、自分で腹を刺し続ける…よくは分からないが、そうやって危険な目に遭い続けるのを避けるのか。」

 綾瀬:「そういうことだ。」

 佐藤が牧野に必要な処置を施す。すると、数分して、牧野は落ち着き初め、寝息を立て始めた。夢を見られないほど深い眠りに、薬剤で追い込んでいるのだ。それでも、薬剤で続けられる昏倒状態は、せいぜい20時間が限度だろう。それ以上続ければ脳に深刻なダメージを与えてしまうはずだ。そうなったら、コールドスリープしかない。解決の糸口ができるまで、無制限に。

 綾瀬:「まず、田中君と佐藤君が一緒にメインルームに行くんだ。田中君は道案内役。メインルームDVDまで佐藤を連れてきたら、急いで離脱しろ。七星号に戻るんだ。佐藤君は大急ぎで、一秒を争ってDVDのノイズを修復。終わり次第すぐに離脱。それが終わったら僕がメインルームに行って、まずDVDを見る。その後、佐藤、田中の順で一人ずつDVDを見る。七星号に戻ったら、見たことの感想と分析をミーティングルームで行う。」

 田中:「井笠の野郎はどうします?」

 綾瀬:「放っておく。任務の途中で戻ってくるようなら、その段階で捕獲しろ。七星号に連れ帰り、拘束しておく。そして任務を続行する。ヤツから情報を聞き出すのは、DVDを見終わった後だ。どんな嘘もつかれないよう、証拠を持っておきたい。」

 佐藤:「準備できました。」

 綾瀬:「よし。さっそく出発してくれ。」

 作業は驚くほどスムーズに進んだ。田中と佐藤が猛スピードでメインルームに行き、田中が戻ってくる。佐藤が修復するのにどれだけ時間のロスが生じるかだけが気がかりだったが、これもあっさり終わった。振動によって破壊されていたデータのパターンが、死体の腐敗した脳の記憶を吸い出す作業に酷似していて、ランダム暗号解読の手法を適用することで、思いのほか正確に、ひずみやデータの穴を埋められたらしい。

 いよいよ、僕がDVDを見に行く番だ。

 僕はマツモ・トリセ号に潜入した。そしてDVDを再生させる。

 金子:「それでは! 私がこれからこのスイッチを押すと、いよいよワープが始まります。宇宙の外に出る時間は36プランク秒。あらかじめ決められた座標軸に次の瞬間は移動しているはず。…人類の新たなフロンティアの始まりです。…ちなみに私はラテン語はしゃべれません!」

 いよいよここからだ…

 「あああ!」「あっふう!」「ああん! いいよイクイク!」「あ! あ! あ! あ! あ! あ! 」「気持ちいい! きもちいいよっ!」「きてええ!」「んあっ!」「はあっ、はあっ…」

 そこでくり広げられていたのは、まさに地獄絵図そのものだった。

 ノイズが除去された鮮明なDVDは、チーム・かねこの全乗組員の、あられもない痴態を映し出していた。

 裸の男女が、船の中で交わっている。

 篠沢さんは、佐竹君と性器を結合させ、佐竹君の腰の動きに白目を剥いて悦んでいる。彼氏のはずの米田君は、新田さんと新井さんに二人がかりでペニスを舐められていた。

 「おおうぐっ!」声にならない声を佐竹君が吐き出すと、篠沢さんの膣内に白濁液がぶちまけられた。

 「んんっ! うっく!」くぐもった声を出したメス二人のWフェラの赤い舌先が、体液によって白く濁った。

 「あああああ!」自分でペニスをしごいて絶頂しようとする箕輪君を捕まえた鈴原さんが、若く華奢な肉体で後ろからペニスをしごき、射精を助けると、すぐにペニスを咥え込んで喉奥深くで亀頭を刺激、萎えさせる暇もなく連続射精に追いやる。

 解放された米田君を待ちかまえていた金子さんが、騎乗位で結合すると射精するまで容赦なく腰を振り続け、悪魔的に悩ましい腰使いでペニスを追いつめていく。

 佐竹君に飛びかかった新田さんが駅弁スタイルで自分から腰を振ってペニスを悦ばせ、射精にまで追いつめていた。

 金子さんに襲いかかる箕輪君と米田君が、彼女の口と性器を同時に責め、女体を絶頂させながら白濁液を吐き出し続ける。

 佐竹君を鈴原さんが小さい胸でパイズリしてイかせると、新田さんの大きな胸が連続してパイズリ、あっさりと子種を奪っていく。

 箕輪君のペニスを奪い合うように篠沢、金子、鈴原の順で性器におさめ、代わる代わる犯し続けている。ひとこすりごとに矢継ぎ早に交代し続け、箕輪君が何度射精してもやめようとしない。

 米田君のペニスは新井さんと新田さんの両手が覆い尽くし、亀頭も根本も玉袋もアナルも徹底的にかわいがられ、手が精液でびしょびしょになり続けても決してやめようとはしない。

 篠沢さんと金子さんが抱き合ってお互いの乳房をクニュクニュとこすり合わせているところに、箕輪君のペニスが突っ込まれ、おっぱいの刺激であっさり射精してしまう。

 鈴原さんの幼い膣が3人の男根で犯され続け、混じり合った精液は誰のものともなく子宮に注がれていく。

 時間が経てば、3人の男の子は、すでにひっきりなしに律動を続け、射精が止まらなくなっている。疲労するでもなく、痛みを感じるでもなく、ただ肉欲のままに、快楽を欲するままに、お互いの体を求め続け、ペニスを律動させ続ける。男も女もイキ続け、それでも貪欲に、誰彼かまわずにむさぼり合う。

 もはや、理性を持った人間の姿ではなかった。

 言語も忘れ、任務も忘れ、交際関係も忘れ、自分の記憶さえ持っていないみたいに見える。

 ただ目先のセックスだけを楽しまされている。狂ったように、むりやりに…

 性欲の強さは、こうしてみると、女性側に顕著になっていった。

 もともと苦痛であるはずだった射精を、これほどまでに数えきれずに続け、さすがに枯渇も始まっていくが、それでも女たちは3人の男子を次々と犯し、手、口、ほっぺ、脇の下、胸、背中、お腹、お尻、性器、生足…全身ありとあらゆるところでこすり立て、しごき上げ、揉みたて、締め上げこすりまくることで射精させ続ける。男子たちも歯止めがきかず、彼女たちの刺激のままに身をまかせ、一秒も休むことなく絶頂の律動を続け、十数回の脈打ちのうち一回は、無理に生成された精液を吐き出すありさまとなっていた。

 「うっくう!」無意識のうちに僕も、自分のペニスを撫でさすっていた。どうしてもガマンできなくなり、金子さんの裸体を目で追い、動物どもの痴態を全体で把握しながら、あふれ出る性欲をどうすることもできず、誰かが機器にぶつかってDVD録画を止める瞬間までに、4回も射精してしまった。そのつど、洗浄モードが働いてしまう。

 「おわった…」

 やっと再生が終わる。僕は問題のシーンまで巻き戻すと、大急ぎで七星号に帰っていった。

 DVDがあそこで終わっている以上、その後どうなったのか、チーム・かねこのメンバーが最終的にどうなって、どこに行ったのか、その足取りは掴めなかった。

 マツモ・トリセ号での待機時間を最小に抑えるために、DVDは交代で見ることにしておいた。次が佐藤の番だ。彼はあまり長くマツモ・トリセ号にいなかったためか、1回の射精で済んだようだ。しかし、その快楽を覚えてしまった以上、彼にも治療が必要だろう。

 残念ながら、マツモ・トリセ号に一番長くいたのが田中だ。彼は何と12回も射精してしまっていた。出なくなっても、必死でペニスをしごき、律動させ続けてしまう。

 田中:「すまない…」

 綾瀬:「いいんだ。無事で何よりだ。ミーティングを始めよう。」

 井笠:「3人とも…DVDは見たんだね。」

 井笠が不敵な笑みを浮かべて入ってきた。

 田中:「てめえ!」

 田中が井笠に襲いかかる。殴りつけて倒れたところを縛ろうとした。だが、またもや風船のようにふわりと当たるだけで、攻撃が効かなかった。

 井笠:「クスクス…この七星がマツモ・トリセに繋がってかなりの時間が経った。”侵食”はすでに終わっているんだよ。こっちの船でも、物理攻撃は通用しない。」

 綾瀬:「もう一度試してみようか。」僕はビームガンを構えた。

 井笠:「無駄だよ。当たらない。」

 綾瀬:「…当たらないと思うか?」

 びっ!

 僕のビームガンの腕は軍でもトップレベルだ。当たらないはずはない。

 だが、確かにビームガンは井笠の脳天を貫いたが、血も吹き出さず、まったくダメージになっていない。

 井笠:「分かってないなあ。この船はもう、物理的ダメージは無効なんだ。あるのはただ…快楽のみさ。」

 佐藤:「貴様の本当の狙いは何だ。」

 田中:「何としても吐かせてやる。」

 井笠:「どうするんだい? 私を捕まえる? どうやって?」

 田中:「こうするのさ!」田中が井笠にずかずかと駆け寄る。

 井笠:「おっと。私に抱きつくのはやめておいた方がいい。私はブラックホールの設計者。その性質も操作方法も熟知している博士にして技術者。…牧野と同じになるぞ?」

 田中:「う…」

 井笠:「羽交い締めにして拘束しようなんて、考えが浅いね。」少年はクスクスと笑ってみせる。「私がブラックホールのところで、何をしていたか…知りたい?」

 綾瀬:「井笠…君だけは絶対に許さない。」

 井笠:「DVDを見たのなら…話は早い。私の本当の目的を…話す時が来たようだ。」

 綾瀬:「!」

 井笠:「拘束して吐かせようとしなくても、私は時が来れば話すつもりでいたんだよ。ミーティングルームの必要もないだろう。ここで話してあげよう。」

 綾瀬:「…。」僕たちは怒りで煮えたぎっていた。とてもミーティングルームに座って穏やかに話ができる状態ではない。

 井笠:「DVDの記録の後半は、乗組員たちのあられもない姿だったはずだ。」

 綾瀬:「乗組員たちはどこへ行った?」

 井笠:「くすくす…順を追って話すよ。あそこで交わっていた乗組員たち、気持ちよさそうだったよね。そして、それを見た君たちも気持ちよくなって、自分で射精していたよね。…それが目的だよ。」

 田中:「苦痛を快感に変えるのか? それによって死を早めるとでも言うのか。」

 井笠:「前半だけは合っている。でも後半は間違いだ。…艦長、現在の地球の人口はどのくらい?」

 綾瀬:「…約5800人だ。」怒鳴りつけても殴りかかっても無駄だろう。井笠のペースに合わせるしかなかった。

 井笠:「そう…”たったの”5800人だ。」

 佐藤:「それがどうしたんだ。」

 井笠:「かつて地球では、数百年前までは、人類は100億人ほどいた。知ってるよね?」

 佐藤:「ああ。」

 井笠:「それが今では、たった6000人弱にまで減ってしまっている。…人類は、今や絶滅の危機にあるんだ。」

 田中:「そんなことはないだろう。6000人でもちゃんと都市でみんな幸せに暮らしている。むしろ100億人という人口が異常だったんだ。食糧不足で、資源を巡って戦争し合っていたというじゃあないか。」

 綾瀬:「その後、人口は適正値まで減少し続け、争いの種も徐々になくなっていった。資源は十分というところにまで減少し、同時に科学技術はどんどん発達して、人類はすべての知の蓄積を幼少のころにインプットすることで、さらに飛躍的な発展と繁栄を遂げた。人口は数千人くらいになったが、その数は近年変化していない。これ以上は減らないだろう。」

 井笠:「生きている人たちの今は、ね。でも、どうしてそんなに人口が減ったか、その原因は知っているか?」

 佐藤:「…自然の調節が働いたんだろう。多すぎれば減る。それだけだ。」

 井笠:「半分は合っている。でも…自然の調節は、人口を適正値に持ってくることではない。」

 田中:「何だと?」

 井笠:「自然の調節…神は…人類を滅ぼすつもりなのだ。」

 綾瀬:「…。」

 井笠:「上層部では、人口の激減に何百年も危機感を抱いていた。これほど科学技術が発達していながら、いや…発達したせいで、かも知れぬ。人口の激減に歯止めがかからなかった。」

 佐藤:「…。」

 井笠:「その原因はただ一つ。男性の生理的機能に劇的な変化が起こったのだよ。」

 綾瀬:「どんな変化だ?」

 井笠:「それについては上層部が徹底的に情報封鎖をしていたからね。君たちが知らないのも無理はない。それはね…射精の質が変わったのさ。」

 田中:「射精…本来一生に数回、苦痛を伴って訪れる現象…」

 井笠:「違う! ほんとうは…数百年前までは、射精は快感だったんだ!」

 綾瀬:「なんだと!?」ばかな…しんじられない…

 井笠:「射精もセックスも快楽だった。だから、21世紀までは、男も女も、一定の社会的制約はあったものの、お互いにその肉体を求め合い、愛し合って、子孫を作り続けていたのだ。それが人口爆発に繋がった。しかし、その先は…人口は急激に減少し始める。戦争などで死んでいった者も少なからずいるが、寿命を全うした者が大半だった。にもかかわらず、人口は極端に激減した。なぜだと思う?」

 綾瀬:「…。」

 井笠:「極端な少子化だよ。誰も子供を作らなくなってしまったんだ。」

 佐藤:「その頃から、射精が苦痛に変わり始めたというのかい?」

 井笠:「そうだ。そして、その原因はすでに20世紀に作られていたらしい。」

 田中:「どういうことだ?」

 井笠:「これは歴史のトップシークレットだ。ごく一部の上層部しか知らない。あの時代、男性は射精を快感として楽しみ、異性を求めたが、20世紀に急激に女性の方がセックスを嫌がるようになり始めたんだ。21世紀になると結婚を拒否する女性が急増。その数がどんどん増えていく。結果、ごく一部の、社会的地位が高い、外見が美しい、経済的に豊かで、若い、そういう好条件の男性だけがセックスに与ることができ、それ以外の男は、願望が果たせずに一人孤独死していった。結婚しない女性たちは孤独でも強かに生きられるから、なんの不満もない。そうやって、一方では人口爆発を迎えながら、もう一方では、一生独身を余儀なくされたまま年老いて死んでいった男が増え続けたのだよ。」

 綾瀬:「それはトップシークレットじゃあないだろう。先進国における少子化と途上国における人口爆発。誰でも知っていることだ。」

 井笠:「違う。うち捨てられた者の怨念が積み重なったんだ。」

 田中:「怨念だって! ばかか!」

 井笠:「そう思わされているだけさ。怨念が現実に影響を与えるというのは、1500年以上前の人類なら誰でもが知っていたことさ。19世紀頃を境に、上層部の操作と科学者たちとの結託によって、怨念などの、人間の「心」が現実に作用を及ぼすという真実が隠されてしまったんだよ。この数百年までもずっとね。」

 綾瀬:「じゃあ、人間の心、とくに怨念が、少子化に拍車をかけたというのか?」

 井笠:「その通りだ。だが、そのことは上層部によってひた隠しにされた。その一方で、トップシークレットの研究として、人の心が現実に及ぼす影響の研究も続けられてきた。それを操作して権力を恣にするためにね。」

 佐藤:「待ってくれ。どうも繋がらないよ。それと少子化がどう関係しているんだ。」

 井笠:「うち捨てられた男たちの怨念が、幸せな者たちを蝕んでいったんだ。21世紀くらいまでは、幸福な者は徹底的に幸福になり、不幸な者はどこまでも不幸になり続けた。明暗が分かれるような社会構造だったからね。その“明”の側になった男たちは、どうあっても浮かばれない大勢の人間たちの羨望と、呪いを買っていたんだ。」

 田中:「逆恨みもいいところだぜ。」

 井笠:「逆恨みだと思わせるのも上層部の情報操作さ。自分の努力で誰でも明の側に立てる、自助努力がすべてだと思い込まされてきたからね。でも本当は違う。心が現実に及ぼす作用をみんなが知っていれば、そんなことにはならなかった。明の側に立てる人間と、暗の側に追いやられる人間は、初めから決まっていたようなものだ。だめなヤツはどうがんばっても、不運が重なってどうにもならないところまで追いつめられていく。残るのは怨みだけさ。上層部がそれをうまく吸い上げて、権力の地盤にしようとするためにね。すでに運不運を上手に操作する技術が、上層部の間ではおぼろげにでも分かり始めていたからね。」

 佐藤:「…。」

 井笠:「だが、一つだけ誤算があった。怨みのエネルギーを権力の基盤に変換することはできたが、呪いの力は思わぬ方向にも影響を及ぼした。少しずつではあるが、男性の射精に苦痛が伴うようになっていったのさ。」

 綾瀬:「…。」

 井笠:「23世紀終盤頃から、人口が急激に減り始めた。うち捨てられた男たちの呪いがピークに達し、射精に強烈な痛みと苦痛を伴うようになった。結果、誰も子供を作らなくなり、100億いた人口が、次の世代には半減。その次の世代には激減。ついに男性は、一生のうちで一度から数回射精できる体になり、しかもその射精には苦しみしか残らなくなった。」

 田中:「…。」

 井笠:「上層部はあわてた。激減する人口をなんとかしようと、遺伝子工学、クローン、鎮痛剤、電気ショックを初め、ありとあらゆる手を尽くした。だが、受精率そのものも激減してしまっていて、急激に科学知識が発達していくのとは裏腹に、人口問題だけはどうすることもできなかったんだ。そのうち、人々は人口激減を受け入れ、とくに問題を感じないようになった。世界は一つになり、地球の中でも温厚な気候である島の、もともとニポンと言われていた場所のちいさな都市に、全人類が住むようになった。」

 綾瀬:「そこで暮らしている数千人が全人類だ。すでに他の地域はうち捨てられ、自然のはびこるままに荒れているんだな。」

 田中:「射精が苦痛であることが“普通”と考える人間ばかりになった。」

 佐藤:「どんな科学技術を持ってしても、これだけは変えられなかった…」

 井笠:「そうだ。我々は、合理的社会構造をとことんまで突き進む方向へと歴史を歩んだ結果、神の怒りに触れたのだ。われわれのどんな願いも、どんな工夫も、どんな技術も、すべてはねのけ、ありとあらゆる可能性の芽は、ことごとく注意深く摘み取られてしまった。どうにか、6000人程度の人口を次の世代に保つように努めているが、それとて、法律で無理に結婚と子作りをさせている結果だ。求婚を拒否した女性は収容所送り。重婚は可能。ただし、結婚後のセックスは男性側の絶対義務とする。苦痛のゆえに拒否した場合には、収容所以上の厳罰が待っている。」

 田中:「それ知ってる。」

 綾瀬:「僕を初め、みんなセックスはしたくないと思っている。好きな人はいたけど…その人とセックスしたいとは思わない。でも…もっと先になったら、どうしてもしなければならない義務なんだなあという覚悟は持っている。」

 井笠:「そんなことをしてもいずれは限界が来る。簡単なきっかけで、次の世代が指で数えるほどになれば、それこそ一巻の終わりなんだ。」

 綾瀬:「このブラックホールは…呪いを解除する装置なのか。」

 井笠:「そうとも言える。だが、正確ではない。」

 佐藤:「待ってくれよ。あんた、宇宙科学者だろ? 宇宙の果てまでも行くことができる研究をしていたんだろ?」

 井笠:「ああ…私は…宇宙科学者さ。知識データを2歳の時に注入されてから、さまざまな物を結びつけて考えることのできる天才だった。そこで人知れず様々な発見や発明をなし、上層部に取り入れられたんだ。宇宙科学・特別航行研究博士。そして…もう一つの顔が、人口問題研究博士。それがこの私…井笠・クリスなのだよ。」

 田中:「博士というのは、二つの領域の博士だったんだな。」

 井笠:「そう。そして私は、不可能と言われていたワープ航法に目を付け、この方法ならあるいは、画期的な宇宙航行と、射精の質を改善することによる人口問題解決の両方を、一気に解決できるかも知れないと考えたのさ。あとは君たちの知っている通り。この不活性反物質の力を借りて、”宇宙の外”に出るマツモ・トリセ号を開発することに成功したのさ。…行方不明になった時は、それこそ人類も潮時だと思ったものだが。」

 佐藤:「偶然発見され、ほっと一安心という訳か。」

 井笠:「いや…私がこの目でブラックホールを確かめるまで、安心はできなかったよ。でもちゃんと調べ、実験は成功していたことも確認できた。その記録は、DVDにおさめられている。」

 綾瀬:「秘密が多かったのも、互換性のないDVDをわざと使ったのも、上層部のトップシークレットだったからなんだな。」

 井笠:「そう。宇宙の外、宇宙全体を膜として認識できる外側の世界。それは…これまでの人類の知識ではとうてい追いつかない世界。」

 綾瀬:「そうだ。宇宙の外に出るということと、セックスが快楽になることと、どう結びつくというのだ。」

 井笠:「宇宙の外側は空虚な世界ではない。じつに様々な性質を持った異世界なんだ。神も…そこにいる!」

 佐藤:「…。」

 井笠:「そして、人間が苦しめ合う地獄も、そこにある。天国も然り。その中でも私が目を付けたのは、セックスを中心に世界が動く世界、女の怪物ばかりで構成され、たえず精液を吸い取っては糧にしている魔性の世界…”淫魔界”だ!」

 綾瀬:「なんだって!?」

 井笠:「宇宙船を淫魔界に転送させる装置…それこそ、不活性反物質ブラックホールによる真のワープ航法の目的だったのさ! そこに行けば、乗組員は性欲に狂う。本来あるべき姿、射精が強烈な快感を伴うという姿に、一気に戻すことができる。私の本当の目的は、宇宙船をワープさせるだけでなく、男性の快楽を取り戻し、再び人口を30億人以上に増やすこと、その両方だったんだ。」

 牧野:「あ…あが…あっは…」

 綾瀬:「!!」

 牧野が目を覚ました。昏倒する薬を注入していたというのに。

 井笠:「無駄だよ。一瞬でも生身で淫魔界に飛ばされたんだ。強烈な幻覚に襲われ、薬なんか効かず、ずっとああやってイキ続け、永遠の快楽を味わうことになるのさ。」

 田中:「てめえ!」

 井笠:「…この船をブラックホールごと地球に戻す。数年もあれば、地球全体に、今の君たちと同じ状態が蔓延するだろう。そうすれば、男女ともに求め合い、本来あるべき愛情も復活し、人口も増える。…国王陛下が望んでいることだ。」

 綾瀬:「井笠…お前は国王陛下の…」

 井笠:「直属の博士だ。今回の計画のことも陛下はご存知だ。何としても、人類に快楽を戻せとの厳命だ。それによって増えた人類の王として、少しの間でも君臨していたいのだろうし、人口爆発を作ってくれた名君として歴史に名を残したいのだろう。そのためにも、今回の任務、絶対に失敗はできない。」

 綾瀬:「チーム・かねこのメンバーはどうなったのだ。それこそお前の失敗そのものじゃないか!」

 井笠:「違うね。あれも成功だったんだ。彼ら彼女らは全員、淫魔界に送られたよ。女たちは淫魔に変えられ、男たちは永遠の射精装置、つまりエサとして淫魔たちに提供される。だけどね、たった3人の“家畜”の提供では、淫魔はパワーを提供してくれないんだ。いいかい? これは契約なんだよ。若い男子7名を淫魔界に提供する代わりに、ブラックホールをとおしてわずかな淫気を地球に提供していただく。それによって、君たちが変貌したように、人類は性欲旺盛になる。」

 佐藤:「すると、僕たちが性欲を持つようになったのは、ブラックホールから放出される淫気の影響だというのか? …空気の成分にはそんな異常はなかったが。」

 井笠:「検知なんかされないさ。その契約が本当であることを示すため、まずは牧野の体を淫魔界に送り込んだ。これによって、こちらの意志が本物であることを淫魔に示し、しかもブラックホールが淫魔界に繋がっていることを確かめるために必要な実験だったのさ。その上で、淫気が少しずつブラックホールから放出され、君たちとこの七星号を淫気に毒していったということ。」

 綾瀬:「…。」

 井笠:「淫気に毒された男子4人を提供すれば、私は晴れて契約者として、船を地球に送ることができるというわけ。くすくす…」

 綾瀬:「物理攻撃が効かない理由も分かった。それと、井笠、お前が最低のクソ野郎だということもな。」

 田中:「ふっ。それは初めから分かっていたかな。」

 井笠:「なんとでも言うがいい。君たちにはこれからブラックホールに入ってもらう。無理に、というより、いずれこの淫気を吸い続ければ、自分から入りたくなる。」

 綾瀬:「ここまで本当のことを話してくれたんだ。この先の質問にも正直に答えろ。」

 井笠:「ああ、いいとも。何を知ったところで、君たちは淫魔の家畜になるんだ。」

 綾瀬:「いいだろう。質問は…なぜ淫気は、君を毒さないんだい? いがさはかせ?」

 井笠:「!」

 田中:「そういえば…」

 井笠:「…。」

 綾瀬:「答えられないなら、僕が答える。君が契約者だからさ。契約者が狂ってしまえば、淫魔も困るだろう。」

 井笠:「そう…」

 綾瀬:「ただし! ただ宇宙船を地球に運ぶだけなら、淫魔とのつながりがはっきりした時点で、地球に送ればいい。僕たちを生贄にしなくても、君を淫気に毒したって、淫魔たちは困らないだろう?」

 井笠:「う…」

 綾瀬:「今、宇宙船を地球に送ってはマズイことがある。同時に、君を毒しても困ることがある。だから、淫気は僕たちに影響しても、君には影響せず、性欲は持ち上がらない。…違うか?」

 井笠:「ふ…ふふ…鋭いな。」

 綾瀬:「君が淫魔どもと結んだ契約は、人類の回春のためにわずかな淫気を提供することではない。そして、契約をするための生贄が7人というのも少なすぎる。おそらく君は…全人類を生贄に捧げるつもりなんだ!」

 田中:「な、なんだってー!」

 綾瀬:「国王陛下のために動くと見せかけて、君は実は自分のためだけに動いていたんだ。自分の願望を満たすために、淫魔に全人類を売り込む算段だったのだろう。」

 井笠:「…そこまで推理できるとはね。…いいさ。どうせ君たちはここで終わるんだ。教えるよ。そう、私の本当の目的は、人口爆発したこの世界の王になることさ。淫気で毒された人類がセックスに溺れるようになる。その精を糧として淫魔どもに提供する。その代償として…私は…くくく…地球の王になる!」

 佐藤:「国王陛下を裏切るのか!」

 井笠:「ふははは! 国王などただのジジイだ。淫気が蔓延すれば、権力も立場も忘れて女たちと交わり続け、ほどなく衰弱死するだろう。その後は、淫気に毒されない私が、快感をもってすべての人類を屈服させる。永遠の若さと命で、永遠に全人類を従える。それも、数千人などというチャチな規模ではなく、何十億人もの人間の上に君臨するのだ。増えすぎれば淫魔界に送り込めばいい。快楽の天国の王となるのだ。そのために必要なこと…さっきまで私がブラックホールの前でしていたこと…」

 綾瀬:「まさか…」

 井笠:「くすくす…これを見てごらん。」

 井笠はするりとブリーフを脱ぎ捨てた。ちいさな皮かむりのペニスが露出される。華奢な体が、僕たちの前にさらされた。

 田中:「うっく…なんだこいつ…」

 井笠:「あれあれ? 男の子の体を見て興奮しちゃうの?」

 僕も田中も佐藤も、井笠の裸体を見ただけで興奮し、ペニスを勃起させてしまった。強烈な淫気が彼から放出されているんだ。

 井笠:「クスクス…嘘だよ。見て…」

 井笠が脚を大きく拡げる。そして股間の奥を僕たちに見せてくれた。

 井笠:「私は地球の王となる。そのために、全人類を捧げる代償として私が得たもの、永遠の若さと命を手に入れるために…」

 綾瀬:「こいつ…自分自身を淫魔に…」

 井笠:「そう。自分を淫魔化し、永遠の命と美貌と若さを手に入れ、地球を統括する代表者にしていただけることになっている。その証として授かったのが…コレだよ。」

 小さく垂れ下がる包茎ペニス。しかし、その奥には、毛の生えていない、あどけなさの残る、しかしはっきりと色気を噴出し続ける、女性器がついていた。

 佐藤:「りょ、両性具有!」

 井笠:「はっははは! その通り! 私の上半身は男性でもあり、女性でもある。胸の大きさもある程度変えられる。この肌触りは若娘のもの。そして、男相手でも、女相手でも、極上の快楽を与えられる名器! その両方を得て、私は永遠に地上の王となるのだ!」

 井笠は、ブラックホールの前で、あるいは中で、自分自身を淫魔化していたのだ。

 井笠:「さあ…もっとよく見てごらん。この私…何ならこの体を見て自分でヌイてもいいよ? 名誉に思うんだね。世界の王の裸体でオナニーできるんだから。淫魔界に飛ぶ前に記憶に刻み込んであげる。この私、井笠クリス…いや…このボク…井笠クリスティーナの極上の快楽をね!」クリスティーナの背後に半透明の黒い羽根がバサッと拡がる。強烈な淫気が周囲にまき散らされる。

 「やめ…ろ…うぐぐっ」

 くぐもった声が聞こえた。牧野だ!

 綾瀬:「牧野! 理性が…戻った!?」

 井笠:「ばかな…淫魔界に行って…理性を保てるはずがない!」

 牧野:「いがさ…ばかなことは…やめろ…お前は王にはなれない…淫魔界に行った自分だから分かる。淫魔どもは、お前を利用としているだけだ…地上の王とおだてても傀儡だ。人間を手中に収めれば、お前は淫魔どもの餌食となってズリ降ろされるだろう。ブラックホールから大量の淫魔があふれ出し、地球は完全に奴らのものになってしまう。…考え直せ。今なら、ブラックホールを地球に届けていない今なら、まだ間に合う!」

 井笠:「だまれ! ボクは世界の王になるんだ!」

 牧野:「むだだ…井笠…分かっているはずだ。淫魔化したといっても、その姿はただのインプではないか。淫魔界では最下等の存在だ。そんな改造程度で、どうして地上の王にしてもらえるんだ。やめろ…うぐあああ!!!!!」

 牧野が激しく痙攣する! 生身の少年には強烈すぎる快楽を押し切って、全人類のために、最後の力をふりしぼって、言葉を発したのだ。その代償は大きかった。

 井笠:「死に損ないめ! とっとと淫魔界に消えろ!」

 井笠が黒い球を放出した。ブラックホールと同じ物質だ。

 牧野:「ぎゃあ!」断末魔の叫びの途中で、牧野が忽然と姿を消した。

 綾瀬:「牧野ーーー!!!」

 井笠:「はあっ、はあっ…くっそ…エネルギーが…」

 井笠はきびすを返すと、マツモ・トリセ号めがけて走っていった。再びブラックホールの所に行って自分の魔力を補充する気だ。あの球は一度発射してしまえば補充しなければならないほど疲弊してしまうものなんだな。

 綾瀬:「…まだ、チャンスはある。」

 田中:「どうするんだ?」

 綾瀬:「牧野が最後に大ヒントをくれた。ブラックホールを地上に送り届けなければ、契約は成立しないことになるんだ。人類は淫魔の手に堕ちずに済む。覚えているか? 自爆装置のことを。」

 佐藤:「ああ、覚えているよ。あれは…トップシークレットの研究が外部に漏れそうになった時の証拠隠滅のためだったんだな。」

 綾瀬:「いいか、一度しか言わない。この任務で最後だ。…佐藤、このメインルームで七星号の発進準備を整えろ。きっかり30分後に地球に向けて推進を開始する!」

 佐藤:「えっ! このまま地球に帰るんですか?」

 綾瀬:「このままではない。ブラックホールを切り離す。自爆装置を使ってな。」

 田中:「しかし…自爆装置のスイッチはブラックホール側にあるはず。」

 綾瀬:「そうだ。しかもそこには井笠もいる。ヤツは簡単には自爆させてはくれないだろう。」

 田中:「どうするんだ!」

 綾瀬:「田中、…なぜ、マツモ・トリセ号は無重力真空絶対零度の状態になったと思う?」

 田中:「…。」

 綾瀬:「僕の想像だけど、金子先輩がやったんだと思うんだ。快楽に溺れる中、牧野と同じように、最後の理性をふり絞って、船の機能を停止させようとしたんだ。ブラックホールを停止させようとしたんだ。だが…それが成功する前に、彼女は再び神経を冒され、そのままブラックホールに飲み込まれてしまった。彼女の意思を、君が継ぐんだ。」

 田中:「…無重力に戻すのか?」

 綾瀬:「違う。金子先輩は、ブラックホールを停止させる方法を知らなかったんじゃないかな。船の機能を停止させる方法くらいしか知らなかった。だが、それではうまく行かなかったんだ。実はドッキングする前にスキャンしたマツモ・トリセ号全貌画像に奇妙なところがあってね。機械室の床下に奇妙な空間があるんだ。田中君はそこを調べて欲しい。不活性反物質をまとめておくための装置が隠されているかも知れない。」

 田中:「なるほど、怪しい場所ってわけか。そこを調べ、装置が見つかったら、ぶっ壊せばいいんだな?」

 綾瀬:「ブラックホールが吸引力を失えば、あとは自爆装置を起動させるだけだ。淫魔に気づかれないように忍び込む。それは僕の仕事だ。」

 佐藤:「えっでも…そうしたら艦長は…ブラックホール側に取り残されてしまうんじゃ…。」

 綾瀬:「…。そんなヘマは…しないさ。田中は破壊が済んだら速やかに七星号に戻れ。僕も自爆装置のスイッチを入れたらすぐにここに戻る。そのすべての任務を同時に終わらせ、30分経った瞬間には3人が揃っているようにする。難しい作業だが、そうするしか人類を救う方法はない。佐藤、急いで七星号のエネルギーチャージを始めてくれ。30分経ったら、どのような事情があれ、自動的に切り離しと推進ができるようにセットしろ。…みんな、幸運を祈る!」

 佐藤:「ラジャー!」

 田中:「よっしゃあ!」

 二人が反対方向に走っていく。もし、心が現実に影響するというのが本当なら…きっと成功する。

 田中も佐藤も、地球のみんなも、きっと成功する。

 射精が苦痛になっている状況も、淫魔なんかに頼らずともきっと、改善される。田中、佐藤、君たち二人が、真実をみんなに伝えてくれ。そして、心どおりに、世界を変えられる、現実を変えられるということを広めて欲しい。

 僕は…おそらく生きて帰ることはできないだろう。井笠の目を盗んで起爆させることは不可能だ。どうしても彼…いや…彼女と対決しなければならないはずだ。その前にブラックホールルームに忍び込んで起爆装置を発動させる。発動されれば必ず淫魔に見つかる。井笠に見つかれば、僕はきっと吸いつくされてしまうだろう。僕の本当の任務は、井笠を…

 それがうまく行くためには、何とか、ブラックホールの吸引機能を停止させなければならない。それは田中にかかっている。そして、何としても、地球に生還する人間がいなければならない。佐藤、君こそがそのメッセンジャーの第一人者となるのだ。

 あと数分したら、僕もマツモ・トリセ号に乗り込むことにしよう。


 ###佐藤目線###

 けっこう重大な任務だ、と思う。

 チーム・あやせの中では最年少ながら、自分の力で勝ち取った地位と役割だ。綾瀬艦長の補佐を中心に、通信や操縦系統を一任されている立場であり、医療もこなす。ただの雑用にも見えるが、綾瀬艦長はいつも側にいてくれて、あれこれ指示を出しつつ、一番の信頼を置いてくれている。その自信があった。

 今回の任務も、危機的な状況の中で、一番の大役だ。七星号の準備を整えつつ、艦長と田中君の到着を待つ。到着する時刻になったら、自動的にマツモ・トリセ号から切り離すようにセットし、その後全力推進で海王星から離れ、地球に向かう。地球に着いたら、井笠のもくろみを公にし、国王の計画を世に問うんだ。

 その賛否は国民が決めていくだろう。

 艦内の破損のチェック。エネルギーの充填。操縦装置のセット。切り離しと推進装置の稼働。コールドスリープ装置の準備。地球のみんなに送信する“レポート”の準備。やることは山積みだ。

 30分経ったら、どんな事情があるにしろ自動的に切り離しを、地球へ向けての出発をせよとの指示。

 このことの意味くらいは分かる。

 万一、30分経って、戻ってこないメンバーがいたとしても、七星号を発進させろということだ。乗り遅れたり事故に巻き込まれたりしたメンバーの救済はするなということだ。たとえそれが艦長だったとしても…見捨てろということだ。

 それは艦長の至上命令でもある。全滅してしまっては、国王が健在で、秘密の計画が生きている限り、同じように探査機が送り込まれることになる。遅かれ早かれブラックホールが地球に運ばれてしまう。どんなことがあってもそれを阻止しなければいけない。七星号に一人でもいいから生還して地球に戻り、ことの詳細を公にしなければならないのだ。

 幸い、井笠が淫魔化したことは、七星号のブラックボックス記録にちゃあんと残されている。井笠はメンバー全員をブラックホールに送り込める自信があるようだが、こっちはそれを何としても阻止するんだ。井笠の計画についての発言記録もすべて、地球に着いたとたんにすべてのメディアに送信してやる。

 もう一つ、至上命令がある。

 「艦内の破損はありません…うふふっ…」

 そう…

 ブラックホールのあるマツモ・トリセ号と連結してしまったがために、この七星号も、一時的にではあるが淫魔界の影響を受けている。

 この宇宙とは別の次元、別の世界で、宇宙の外に行ったマツモ・トリセ号がたどり着いた恐るべき世界。

 本来苦痛にのたうち回るはずの性行為と射精を快感に変え、危険な行為をとことんまでやらせようとして、精気を奪い取る恐るべき悪魔どもの棲む場所。

 目玉をくりぬき、自分のはらわたをえぐり取る行為がこの上ない快楽となれば、誰もがそのようにして絶命するだろう。それを生殖に置き換えただけなのだ。奴らの罠にかかったら、どんなことになってしまうのか、あまりにも恐ろしい。

 「エネルギー充填、完了しました…あはっ…」

 あのブラックホールは、淫魔界に直結している。ブラックホールに吸い込まれたが最後、その向こう側の淫魔界に送り込まれ、そこで…牧野君のように…再起不能なまでに射精させられ、快楽のまま…壊れてしまうことになるのかも知れない。

 そして、ブラックホールと結びついている二つの宇宙船も、淫魔の誘惑に満ちあふれている。幻覚なのか、本物なのか、裸の女性たちが出てきて、メンバーに襲いかかってくるのだ。

 これまでにはなかった感覚を味わう。女たちの姿を見ると激しい欲望に駆られ、快楽を得ようと吸い寄せられてしまう。その快感に負けて射精し続ければ、精神に異常をきたし、どんなに危険な行為であっても、もっと永遠の強い快楽を求めて、自らブラックホールに飛び込んでしまうのだという。それだけは…ぜったいにだめだ…

 「操縦装置、セット…到達座標は、地球…ただいまより24分後にプログラムを起動するよ? はあっ…はあっ…」

 機械そのものが狂っているのではない。淫魔の影響で、そういう風に聞こえるだけだ。ただの無機質な機械音声が、なまめかしい女の囁くような甘い声に変わっている。それが男の欲動を誘い、ゾワゾワした快楽への誘惑となっているのだ。

 切り離してしまいさえすれば、この幻覚も影響も消えるはずだ。それまでの30分弱、快感に負けてはいけない。それが、艦長の第二の至上命令なんだ。

 立ち上がって身構えた。3人の美女が別方向から歩いてくるからだ。

 右のドアから入ってきた女性は、「艦内の破損はありません」と言いながら妖しく微笑み、全裸でモデル歩きをしながらゆったり歩いてくる。すらりとしていながら乳房が大きい、長身の美女だった。

 左のドアからは、「エネルギー充填完了」と言いながら、髪を束ねた女性が顔を上気させて近づいてきた。背は低いが、それでも年上のお姉さん、年少の自分よりも上をいっている。

 そして、正面のドアからは、操縦装置がセットされたと報告しながら、自分の性器を両手でいじる女が現れた。

 本当は、ただの艦内放送だろう。それが幻覚化され、脳内で美女に変換されて現れているんだ。

 幻覚だ。気にしなければ…いや、そんな簡単なものではないだろう。悪魔の影響を受けているんだ。幻覚であると同時に本物でもあるはず。

 だから、それぞれの艦内の準備は着々と進行中ということになる。25分くらいで、出発することさえできれば、女たちは瞬時に消えてしまうだろう。それまでは、快感に負けず、精神崩壊を防ぎ、身と心を守り続けるしかない。

 そのためには…たぶん「幻覚だ」と言下に否定してぎゅっと目を閉じても無駄だろう。徹底的な快楽にさらされて射精させられてしまう。

 できるだけ快感をこらえ、射精回数を減らし、淫魔どもに洗脳されないようにするしかない。洗脳されてしまえば、すべての職務を放棄して、自分からブラックホールに飛び込んでしまう。そうなれば一巻の終わり。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 3人が近づいてくる。本来なら見ても何とも思わない女性の裸。しかし、彼女たちの姿を見ただけで、強烈な淫気に毒されているためか、ペニスは激しく隆起し、性的な反応を示してしまう。

 本当なら、これだけでもペニスにはひきつるような痛みが走るはずなのだ。これを我慢して勃起を続け、行為に及び、射精時の刺すような痛みの中で律動に耐え、はらわた全体に拡がるじわりとした強い不快感に苦しみ悶えながら、射精が終わるのを待つしかない宿命だ。

 だが、心地よい興奮と、股間の奥のくすぐったさに全身が支配されている。痛みなど微塵も感じることなく、性行為をして快楽を得たいという本能めいたものが頭をもたげ、気を抜くとこっちから彼女たちのもとに吸い寄せられてしまいそうになる。

 みんな20代半ばくらいの、おとなの女性たちだ。ハリのある若い肉体が惜しげもなくさらけ出され、男の性欲をくすぐり続ける。

 「私たちを…地球に連れて行って?」「ふざけんな。だれが…」「みんなで気持ちよくなろうよ…」「くっ…」こっちは11歳。年上の女たちの色気と迫力に気圧されそうになるところを、必死でこらえながら欲望を抑え続ける。

 「うふっ…ココは私たちを欲しがってるよ?」お姉さんが股間に手を伸ばしてくる。「さ、触るなっ!」とっさにその手をふりほどく。彼女の腕のやわらかく吸いつく感触が、一瞬だけでも刻み込まれた。

 「ほらほら。あばれないの。」その手を右側の女性ががっしりと掴んでしまう。

 「あうう…」大人の女性のふんわりした手が右手首を掴むだけで、そのやわらかい感触に身震いしてしまう。ふりほどこうとしても、相手は大人のレディ、がっしり掴まれたまま、離してくれなかった。

 「つかまえた~☆」左手も全裸の女性に抱きかかえられ、おっぱいに引き寄せられてしまった。両側から掴まれ、固定されてしまい、身動きが取れなくなる。

 何とか逃げなくては。足を持ち上げてその場から離れようとしたとたん、がしっと何かが両足首を掴んだ。

 「なっ!!?」ゾッとした。

 女の手が、数本、床から飛び出している! 手だけが床から浮かび上がり、数本がかりで、少年の華奢な足首をがっしり掴んで離さないのだ。そのスベスベした手のひらの感触も、ゾワゾワした興奮をかき立ててくれる。

 「ほら…見てごらん? この七星号はもう、私たちのものなんだよ?」

 「う、うわあああああ!」背筋が凍る思いだった。

 椅子から、机から、機器から、床から、天井から、壁から、至るところに、女性の体の一部が飛び出し始めた。浮き上がり、盛り上がって、裸の若い女性たちの体のパーツが張り出して、生きているように蠢いている。

 あちこちからおっぱいだけが現れ、手が飛び出し、生足が生え、お尻が浮き上がり、お腹が出てきて、生首がクスクスといやらしく笑い、性器だけが浮き上がる。すでにパーツを寄せ集めると、数十体分にはなるだろうほどの、多くの女体の一部が、メインルームを埋め尽くしている。全体が出てこないだけにおぞましい反面、その張りのあるなまめかしいパーツの数々には、目移りするほど妖艶ないやらしさに満ちあふれていた。


次へ   前へ


メニューに戻る(ノーフレーム用)