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ナメてる戦隊フザケンジャー!


第3話 神谷の受難ふたたび!
 


 あれから数日が経過した。

 とくに身の周りで何か変なことが起こるわけでもなく、僕は平穏無事に(?)日常生活に戻ることができるようになっていた。ヘンな連中に出会うこともなかった。もちろん、天国軍団とかいう頭のおかしい女の集団にも出くわしていない。

 その頃から、町の中で変な噂が流れるようになっている。痴漢ならず痴女があちこちに出没しているらしいとのこと。それはインターネット上でも話題になっていて、イイ思いをしたとかいう掲示板への書き込みが、徐々に目立ち始めている。

 そういう話をスケベな男たちがしているのを小耳に挟むにつけ、ネット上でそうした書き込みを目にするにつけ、僕はポッティやら天国軍団やらのことを思い出していた。

 噂だし、かなり尾ひれがついているはずだ。それに、おそらくはその情報のほとんどが嘘であることも何となく分かった。

 僕はあのとき、たしかに本物の痴女軍団を見ていた。一度は基地のモニターで。もう一度は公園で実際にこの目で。

 集団で男を誘い、精を奪っていく女はたしかにいる。だが、そのあとは悲惨だった。男が天国軍団に快楽を与えられて体を許すと、青い体をした美女があらわれ、どこまでも精を搾り取ってしまい、気絶させられてしまうのだ。

 どうやらその後は、怪人に絞られた記憶は消えてしまうらしく、断片的な記憶だけが残ってしまうのか、あるいはポッティたちが動いて記憶を消すのかは分からないが、そうしたあやふやな記憶や情報に尾ひれがついて、痴女出没の噂となっているのだろう。

 中には、明らかにうらやましがっている男たちの妄想がぶちまけられているだけじゃんっていう書き込みもある。相手にしないのがいいだろう。

 どうでもいいことだ。僕はもうポッティたちとは関わりがないんだし、“被害”が何かあるわけでもない。関係ないんだ。もう考えるのはよそう。

 誰もいない家の中。両親は出張。来年までは戻ってこないと、今朝電話があったばかり。やることもないし、今日は寝るとするか。

 ………。

 ……。

 …。



######



 一方、その頃。

フローリア将軍:「…あの男の素性が分かったとの報告が入りました。」

カリギューラ女王:「おおっ! たった数日で調べ上げるとは! さすがはヘルサたん総統一番の側近、ボウイ将軍じゃ。実力はピカイチじゃのう。」

ヘルサたん総統:「ボウイ将軍は何もしてないわよ? 人間界の探偵を大勢雇って、一斉に調べさせた。」

カリギューラ女王:「なっ、なんと! 探偵だと!?」

ヘルサたん総統:「ポッティに見つかりやすくなるような魔力をヘタに浪費するより、ずっと簡単で手っ取り早くできるのよ。敵は存外、あの公園の近所に住んでいたし、見つけるのは簡単だったみたい。もちろん、住所や電話番号だけじゃあない。家族構成とその状況、通っている学校と素行、交友関係、成績、一日の行動パターン、趣味や特技、好きな食べ物嫌いな食べ物、スリーサイズ、女の好みのタイプ、一日のオナニー回数や借りたエロビデオの数と種類およびアマゾンとかでの購入記録、外食の頻度や種類、インターネットアクセスの全記録およびダウンロードした画像やコンテンツのすべてのデータ、スーパーなどでの購入の全記録、外泊経験、旅行等何歳の時に何をしたかの全記録から、本日のパンツの色まで、あの男のことはすべて丸わかり!」

 ヘルサたん総統は、人間界から転送されてきた報告書に目を通しながら、フウムフムと言いつつ内容を確かめた。時折、ぐふふとイヤな笑いも漏れる。

ヘルサたん総統:「…ぐふふっ。…こいつはまさに“逆エロゲー”野郎だな。」

カリギューラ女王:「逆エロゲー?」

ヘルサたん総統:「その昔、有名巫女のかがみんが申しておったが、エロゲーやアニメの世界は、トビキリかわいい娘が、都合良く主人公を好きになり、しかもそんなヒロインがどのゲームも複数おるではないか。『なんでそのテのゲームのヒロインたちってそんなにかわいくて性格いいのにカレシいないの? よりどりじゃないの』ってな。」

カリギューラ女王:「あーあったなー…」

ヘルサたん総統:「なんも考えてないボケなすは『ゲームにならないから』程度にしか答えていなかったが、実際はそうではない。深遠な理由があるのだ。レーベンスヴェルトの範囲限定の問題である。」

カリギューラ女王:「んー?」

ヘルサたん総統:「たとえば。もともと男子校だった学校があって。共学化したばかりだとしよう。そこに通う男女比はおよそ10対1。工学系の学校もまぁ似たようなものだな。で。そんな学校に通う男子が、恋人に出会う可能性はどのくらい?」

カリギューラ女王:「ほとんどないな。学校内の女子は倍率が高すぎてまず手が出ないし、かといって外に出会いがあるわけでもない。バイトしててもそうそう簡単ではなかろう。」

ヘルサたん総統:「では。男女の状況が逆だったら。その学校では女子が男子の10倍いる。そうしたら、男たちは簡単に彼女を作れるかしら? たとえば裁縫の学校や、女子の多い短期大学あたりに入学すれば、その男はモテモテのウハウハかしら?」

カリギューラ女王:「…ふっ。残念ながらそう簡単ではないのだな。女たちは、学校内の男に縛られなくても、外に出ればいくらでも出会いがある。バイトしていればそこにゴマンと男がおり、そうでなくても町を歩けば狼な男たちがどんどん声をかけてくるだろう。そんなにもてない女性でも、そこそこに出会いはある。」

ヘルサたん総統:「そう。同じ男女比率であったとしても、男性と女性とでは、出会う確率が格段に違ってくる。男性は、外に出ても学校の中にいても、女性と出会う確率はぐんと下がっている。女性は、仮に身の周りに男が少なかったとしても、外に出ればいくらでも出会いのチャンスがある。男はどんなに遠くに行こうが、出会いのチャンスはほとんど広げられないが、女性は遠くに行けば行くほどより多くの出会いのチャンスに恵まれる。それが、距離とは比例しない“生活世界”の広がりの問題なのだ。」

カリギューラ女王:「男は生活世界において、異性との出会いのチャンスは狭い。つまり出会いという側面でのレーベンスヴェルトはきわめて狭いといえる。そういうことじゃな?」

ヘルサたん総統:「ええ。男女の出会いという側面に絞って生活世界を見れば、女性と男性とではその世界の広さが格段に違うの。女性はより広大な世界の中で数多くの出会いを経験でき、その中から相手を選ぶことができる。男性は狭い世界の中でかろうじて出会う相手の中からきわめて限定された形、たいていは一人ね、その相手を選ばなければならない。世界の狭さはそのまま有利さ不利さに直結するわ。」

カリギューラ女王:「…。」

ヘルサたん総統:「もちろん、話はそうそう単純ではない。美男美女、つまりその時代の社会における思考習慣のもとでモテると判断された外見の持ち主と、そうでない外見の者との間で、差が生じる。つまり、かっこいい男子なら、たとえ女子が少ない環境の中でも恋人をゲットできるし、外に出れば出会いもある。ブ男はどんなにかけずり回っても出会いはゼロに近い。これはある程度女性についても同じことがいえるだろう。」

カリギューラ女王:「そうだな。個人によって生活世界の広さは千差万別となる。男女の間での格差は一般論であって、真に問題となるのは、各個人の生活世界の広さになってくる。外見や経済力などの社会的なステータスによって、生活世界は広がるのであって、男女の格差はその広がり方に有利不利が生じるに過ぎない。努力次第ということだな。」

ヘルサたん総統:「いいえ。生活世界の広さは、努力の届かないところを大半が占めているのよ。努力で何とかなるレベルもあるけれども、それではどうにもならない要因によって、ほとんどが決まってしまうもの。たとえばどうして背の高い男がかっこいいとされるの? どうして痩せていて胸の大きい女性だけがイイの?」

カリギューラ女王:「う…」

ヘルサたん総統:「それは社会が勝手に決めるの。個人はそれを生まれた時から所与として与えられる。それは運命であって、個人ではどうにもならない。努力して社会の常識を変えることもできない。日本では1000年前にはぶくぶくに太った女性が美しいとされた。現在でも南国ではそういう女性がモテる国があるのよ。もし突然、常識が変化していって、背の低い、腹の出た、脂ぎった、頭のはげた、老けた中年男性がモテるようになったら、個人間の生活世界の広がりは一気に逆転する。…それだけのことよ。それは個人の努力の範疇ではないし、結局社会通念に服従すればセックスができるというだけ、結婚ができるというだけ。人間の世界…いや、いかにポッティの定めた秩序がくだらないかということね。」

カリギューラ女王:「その通りだ!」

ヘルサたん総統:「とにかく、出会いの生活世界の広さというものは、男女の格差はあるけれども、その上で結局は個人差に還元される。そして、その個人に与えられる生活世界の範囲は、もっぱら偶然性のみによって外から与えられるだけのものとなる。そこにレーベンスヴェルトの範囲限定の問題があるというわけ。」

カリギューラ女王:「うむむ・・・」

ヘルサたん総統:「エロゲーやアニメの世界では、ヒロインたちの生活世界はきわめて狭い。周囲の男子どもは『風景』扱いであるため、結局彼女たちは、『主人公以外に出会いがない』というきわめて特殊な環境に置かれているの。だから主人公は無条件にモテるのだし、ヒロインたちにカレシがいない。それは偶然性に支配されているのだから、絶対にあり得ないことでもない。それはヒロインたちの外見等にはあまり関係がない。あくまで偶然そうなった、そういう世界での出来事が描かれているというわけ。ゲームにならないなんて単純な話ではないの。」

カリギューラ女王:「物語である以上、登場人物の生活世界の範囲は限定されざるを得ない。読者の知らないところで生活世界の広がりがあってはならないのか。」

ヘルサたん総統:「そういうこと。もしエロゲーとかで攻略しているヒロインが、最後の最後になって『実はカレシがいたの。ごめんねバイバイ』なんてことになったら、プレイヤーは唖然とするでしょうね。主人公以外に出会いがあり得ないという狭い生活世界になければいけない。どんな物語であっても、こうしたレーベンスヴェルトの範囲限定という制約を逃れることはできない。少なくとも描かれている範囲を超えて登場人物たちは存在することができない。」

カリギューラ女王:「リクツは分かった。で? その神谷達郎が逆エロゲーというのはどういうわけだ?」

ヘルサたん総統:「ヒロインが主人公以外と出会うことができないという制約を受けるというのと同じように、この男はいっさいの出会いを禁じられるという制約を受けているわ。主人公の方がそのような制約を受けるのも珍しい。女の方ではなくて、男の方にそんな制約があるから、ウハウハエンドとなるエロゲーとはまったく逆の世界というわけね。」

カリギューラ女王:「そうなのか?」

ヘルサたん総統:「経歴を見てごらん。ここまで女性に縁がない男も珍しいわ。行動パターンからしても、まず間違いなくこの男は誰とも出会えない運命ね。」

カリギューラ女王:「ふうむ。身長もそこそこにあり、外見で何か問題があるわけでもないな。性格も、少し前までならまるで問題ない。むしろ親切な方だな。だが。数ヶ月前の失恋を機に、学校を休みがちとある。どうやらこれをきっかけに性格がゆがみ始めておるようじゃ。」

ヘルサたん総統:「ええ。おもしろいわ。周囲の女性もみんな恋人があり、親戚の年上の女性もすべて既婚となっている。哀れな運命に翻弄されているわ。くすくす・・・」

カリギューラ女王:「まさか! も、もしかして…!」

ヘルサたん総統:「可能性はあるわね。あの男の精が、私たちにとってきわめて濃い可能性がある。数千人分の精を持つ、『デーモンの息子』。」

カリギューラ女王:「おおお! デーモンの息子となれば、一人飼うことができただけで、その淫魔はゆくゆく魔王クラスの力を得ることもできるではないか!」

ヘルサたん総統:「まだ決まったわけではない。けれども、もしポッティが、デーモンの息子の精を誰かの子宮内に着床させるのを防ぐべく、いっさいの出会いを禁じる運命を押しつけているのだとすれば、ヤツがフザケンジャーレッドに抜擢されたのも納得がいく。そもそもポッティに目をつけられていたのだからな。我々に対抗する力を与えることで、魔族に狙われることをも防いでいる。」

カリギューラ女王:「ヘタに動けば、すぐさまポッティの反撃に遭うわけか。これでは誰かを操って妊娠させ、デーモンの息子であるかどうかを確かめることも難しいな。」

ヘルサたん総統:「…今は、むしろそんなことはどうでもいいわ。我々にはもっと崇高な目的がある。我々の目的が果たされ、人間界を桃色天国に作り替えることができれば、デーモンの息子の存在など無意味になる。我々の魔力は無限に供給されるからな。」

カリギューラ女王:「それもそうじゃな。」

ヘルサたん総統:「むしろ、ヤツがデーモンの息子であったとすれば、それを利用してやるのが一番ね。ヤツの精になら、より多くの種を混ぜることもできるはず。デーモンの息子の精の力は数千人分。つまりそこに種をのせることは、数千人の男を天国軍団やメカニック怪人で射精させたのと同じ効果となる。世界をよりいっそう我々に近づけることができる。」

カリギューラ女王:「そう言えば、一回天国軍団で射精しておったな。その時の種の量は測れるのか?」

ヘルサたん総統:「残念ながら、その瞬間に乗せられた種の量は測れない。あくまで、大気に占める淫気の割合を見ることしかできない。我々の計画が始まったばかりである以上、その変化はあまりに微量で、検出は不可能。『相手をデーモンの息子とみなして射精させる』皮算用くらいしかできないわね。」

カリギューラ女王:「ふうむ。何とかして確かめる方法はないものか。……うーむ、どう考えても、どんな方法でやっても、ポッティが邪魔をするな。奴を出し抜くのは難しいか。」

ヘルサたん総統:「どっちでもいいじゃない。ヤツに淫夢を見せて徐々に骨抜きにしていき、現実世界で天国軍団や怪人に射精させ、フザケンジャーレッドを根こそぎ絞り尽くせばいい。その頃になれば、普通の男かデーモンの息子なのかも自ずからはっきりするし。何しろ一回の射精が数千人分。大気の染まり方がみるみる変わっていくわ。」

カリギューラ女王:「くっくくく…そうだな。良かろう、早速あの男の夢に呪いをかけるぞ。」

ヘルサたん総統:「くれぐれも注意してね。絶対ポッティが阻止してくるから。」

カリギューラ女王:「分かっておる。だが、どんなにポッティが手を貸そうと、夢の中での主人公はあくまで神谷達郎! ヤツ自身が女の色香に負け、みずから快楽の虜となれば、どんなにポッティの奴が神谷の精神に作用を及ぼして快感を感じないようにしてみても、神谷は易々それを突破し、毎日夢精するようになる。そうなれば淫夢はどんどん深くなり、もはや本人がいくら気を張ってもあらがえなくなる。その頃には夢精にも種を乗せ、昼夜問わず怪人と天国軍団が取り囲んで律動しない瞬間がないようにしてやることもできよう!」

ヘルサたん総統:「たのもしいわ。天下のカリギューラ女王の淫夢攻撃をはねのけられる男はまずいない。人間の男で抗えたのは佐伯くらいかしら。魔力をただぶつけるのではなく、その男の好みに合わせ、記憶や経験や出会いなどを計算して最高の夢を演出する。その男が堕落していくさまを見る度にため息が出るくらい、ほれぼれするわ。それを目のあたりにできるんだから、これが楽しみでなくてなんでしょう!」

カリギューラ女王:「ぐふふふ…! そう褒めても何も出ぬぞ!」

 カリギューラは巨大な水晶の前に手をかざした。神谷の位置情報はすでに割れている。あとはそこに魔女王の魔力を転送すれば良かった。ダイレクトに送り込めばポッティにはじき返されるため、淫呪の形で間接的に作用させる。敵の精神構造に影響を与え、心が緩むほどに深い淫夢を見せることができる。そうするごとにより多くの魔力を送り込むこともでき、雪だるま式に淫夢は深くなってしまう。

カリギューラ女王:「…うーむふんだらやーあああ…」女王は水晶玉の前で呪文を唱え始めた。「くくく…女との出会いを禁じられ、女体に全く耐性のない童貞変態野郎を籠絡するなど造作もないわ! …さあ、今宵より、快楽に満ちた心地よい夢に身震いするがいい! むああああ!」

 一層の念を送り、カリギューラは淫呪を神谷に送り込んだ。

ヘルサたん総統:「これで今夜から、あの男はエッチな夢に悩まされることになるわね。どんなふうに堕ちていくのかしら。楽しみだわ。…もっとも、普通とは違うことも警戒しないとね。淫呪が神谷にかかったことはポッティも察知しているだろうし、そもそもそのくらいは予想していたはず。夢の中で神谷を強化するなどの対策を講じてくるはず。今の時点であたしも手を出して二重の淫夢を演出しても、ポッティの援護で神谷が誘惑をはねのけてしまえば何ともならないし。…やっぱり、あの男自身の心を折れさせられるかどうかにかかっているということか。ま、今は見物といきましょう。」



######



 外は明るい。僕はどこかのホテルの一室にいて、広々としたベッドに腰掛けている。

 ホテルの部屋は相当高いところにあるらしく、窓の外は青い空ばかりが広がっていた。

 僕の隣には、ぴっちりしたスーツにミニスカートの女性が腰掛けている。灰色でストライプの入った大人っぽい女性、いつも厳しいけれども生徒のことをよく考えてくれた先生だった。

 つい少し前まで、僕は心臓が止まりそうな思いをしていたのを思い出し、今の状況が信じられなかった。

 僕は先生に告白をし、先生は笑顔で首を縦に振ったのだった。そのまま車に乗せられ、このホテルまで連れてこられたというわけである。

 緊張しすぎていたのか、記憶がどうも断片的だ。ドキドキしながら先生に告白して、生徒と女教師という禁断の関係も分かっていたけど、それでも自分の気持ちは抑えられなくて、つきあってくださいって言ったんだっけ。そうしたら先生は優しい笑顔でにっこりして、あれよあれよという間に受け入れられて、ここにいるというわけだ。

 穗積みずほ先生。26歳。僕が入学して少しの間生活指導を担当していた美人先生だったが、とても厳しくて、きちっとしている人だった。それでいてやっぱり生徒の人気が高く、普段はとても優しい人だったのを覚えている。

 僕が学校生活に慣れる頃に、結婚して退職なさったんだっけ。

 …あれ?

 なんでそんな先生に学校で告白したんだ?

 「神谷君?」

 隣から優しい声がぬくもりと一緒に伝わってきた。一気に心臓が高鳴る。何もかもが頭から抜け落ち、何も考えられなくなる。

 すぐ隣に、細い生足をミニスカートから伸ばした先生が腰掛けている。肩胛骨周辺まで伸ばしたサラサラの黒髪が大人っぽさを醸し出している。ふくらんだお尻部分が僕の真横にきていて軽く触れている。そのやわらかさとぬくもりが心地よく、ついつい、触れ合っているところに神経をとがらせてしまうのだった。

 僕はドキドキしすぎていて、先生の顔をまともに見ることができない。わずかに顔を先生の方に向けても、恥ずかしいやら緊張するやらで顔を上げることができず、先生のすらりと細い生足を見るしかできなかった。

 その足の肌はきめ細かくきゅっと引き締まっていて、内股のみならず膝もふくらはぎも脛も滑らかだった。そんな足を間近で見るといっそう心臓が高鳴り、ふたたび僕は顔を戻してうつむいてしまった。

 「神谷君。どうしたの?」

 「えっ…いや…その……。な、なんか…信じられなくて。」

 「何が?」

 「だ、だって、先生と本当に恋人になれるなんて。先生みたいな素敵な人が僕とつきあってくれるなんて思うと…その…」

 「先生、はダメよ。ここでは…みずほと呼んで?」

 「えええ!?」

 「そうでしょう? 私たち、もう深い仲になったんだから。それに、ここは学校じゃないから、先生と生徒という上下関係もないのよ?」

 「ええ!?」

 「くすくす。神谷君って、かわいいね。私、そういう子好きよ?」

 僕は初めて、先生の顔をじっと見つめた。彼女の整った顔立ちが優しく微笑みながら見上げている。その視線をじっと見つめたとたん、ぼっと顔が赤くなり、文字どおり火が出そうになった。

 「みっ、…みずほさん…」

 「んふふ。よく言えました。」

 みずほ先生はすうっと僕にしなだれかかってきた。スベスベの頬が僕の胸板にこすれて心地いい。

 「ね。大人の女とつきあうからには、大人の行為にもつきあってもらうわよ? 高校生同士のウブな関係みたいなのじゃダメよ。」

 「えっ…」

 「こういうことを、するのよ?」

 「ちょっ、みずほ先生、何を……うっ!」

 先生は僕の股間に顔を埋めた。シャワーを浴びたのか、いつのまにか僕は裸で、股間に白いタオルをかぶせているだけの格好だった。先生はそのタオルを手でどけると、興奮したペニスに顔を近づけた。

 くちゅる!

 「んあ!」突然の出来事だった。先生はペニスを口に含むと、急激に吸い上げて口腔内をすぼめながら、根本まで飲み込んでしまったのである!

 強烈なくすぐったさが全身を駆けめぐる。

 「ああっ! いきなりそんな!」

 「どうして? 恋人同士なんだから、こういうことも当たり前にするでしょ? …いいのよ。体の力を抜いて。先生に全部任せて…ね?」

 亀頭や裏スジをやわらかい舌でねぶりながら、ゆっくりと滑らかに唇で棒をしごいてくれている。サラサラの髪が緩やかに上下運動を始めた。

 「ほら・・・気持ちいいでしょう? 大人の女の口、フェラチオはたまらないでしょう? こうやって尿道口とか…カリのヒダとか…ぬるぬるチロチロされたら、もしかしてイッちゃうのかしら?」

 ペニスを咥えて口腔内部をフル稼働させてペニスを舐め上げしごきたてかわいがっているのに、ぐちゅぐちゅ音を立てながら頭を動かしているのに、なぜか先生は滑舌良く、むしろ僕の脳天に響いてしびれさせるように、甘い声でささやきかけてくれている。

 股間から全身へと、心地よさが急激に広がっていく。このままだと…うう!

 「だっ、ダメだよ、せんせ・・・え・・・口の中に…出しちゃうよっ!」僕は先生の頭を抑えて動きを止めようとしたが、滑らかな先生の動きは止まるどころか、いっそう心地よさを増していってしまう。

 「うふ。いいのよ。私の口の中に精液をいっぱい出してごらん? 全部飲んであげる。ほらほら!」あいかわらずペニスを口に含んだまま話し続けるみずほ先生。

 彼女はいきなり頭部を上下させる動きを早めてきた! ときおりヒネリを加え、吸引も強まっていく。ゾクゾクした快感が強烈に駆けめぐっている!

 ああっ、だめ…このまま本当に先生の口の中に出してしまうっ! ああっ、それでもいい! このまま彼女の口でも何でも射精してしまおう。僕は高まっていく股間の感覚に打ち震えながら、何もかもを大人の女の頭部にゆだねるのだった。激しく乱れる美しい黒髪に見とれる。

 ごちーん!

 「ぴぎゃああ!」

 突然脳天に激痛が走った。重くて丸い石のようなものが真上から僕の脳天に直撃したのだ! 一瞬気を失いそうになってしまう。

 体が急激に冷却されていく。あまりの痛みによって、しびれのようないやな鈍痛が全身に広がっていく。

 頭の痛みに耐えきれず、ペニスは急激に萎えてしまった。

 「神谷君。射精してはいけない!」

 突然僕の前に、まるい石…じゃなかった。白いてるてる坊主があらわれたのだった。

 「ポッティ!」まぎれもなくその浮かんでいる物体は、先日さんざん僕を苦しめた“唯一神”のポッティだった。

 頭上から降ってきて、強烈な石か水晶のカタマリのような硬さで脳天に直撃したのは、まぎれもなくコイツだった!

 「何するんだ! 痛いじゃないか!」

 「良く聞け。ここは君の夢の中。君は女魔王カリギューラによって、淫夢を見せられている。これは魔族の罠なのだ。」

 「えっ…」

 「詳しく説明している暇はないが、それは明日君がフザケンジャーの基地にきた時に説明しよう。とにかく、君はこの夢で魔物の誘惑にさらされているんだ。誘惑と快感に負け、射精すれば、君にかけられた魔族の呪いは威力を徐々に増していく。夢精を日々積み重ねていくうちに、君は廃人になってしまうのだ。」

 「そ、そういえば…おかしなところはいっぱいある。」

 なんで相当前に結婚退職した先生にフェラチオされているのかも分からないし、そもそも僕はそんなにみずほ先生が好きだったわけでもない。それがこっちから告白しているというのも納得いかない。ましてや、既婚者の彼女が僕の告白を受け入れるなんて考えられない。何もかもが奇妙だった。フェラチオしながら普通にしゃべってるし。

 これが夢なんだ。あまりにリアルだったから分からなかった。まぁ普通は自分がいま夢を見ているなんで気づけないけどね。

 その夢も自分の脳が見ているというよりは、カリギューラという魔王が呪いをかけて、僕にムリヤリ見せている夢だとのこと。

 良くは分からないけれども、ここで射精するとまずいことになるらしい。

 だからって。何も石頭で脳天に直撃することはないじゃあないか!

 「いいかね。私はカリギューラの淫呪を無効にすることはできない。君をここから脱出させ目覚めさせることもできない。そこまで君の精神に干渉すると、脳に異常をきたしてしまうからね。それほどカリギューラの精神は強く深く君に突き刺さってしまっているのだ。私にできることは、君の精神内部に神通力でコーティングを施し、魔性の快感に対して耐性をつけてやることだけじゃ。」

 耐性って、バリアみたいなものか? さっきの『ごちーん』がそのバリアだというのか?

 「さっきに比べれば快感はそれほどでもないはずだ。後は、君の精神力如何にかかっている。誘惑に負け、快感に浸っていたいと思えば、そのままこの夢の中で射精してしまうだろう。目覚めた時には夢精しただけで終わるが、それが毎晩続けば、君は衰弱し、精神も崩壊していって、ついには魔族の性奴隷にまで堕落してしまうのだ。」

 「僕はどうすれば…?」

 「快感への拒否を心からはっきり示すのだ。毅然とセックスを拒否したまえ。その心が堅く、強い意思を持つことができれば、自動的に夢から抜け出せるであろう。淫夢のたびに拒否を続ければ、カリギューラの呪いの力も弱まっていく。だが、射精し続ければ、カリギューラの呪いの力が強まってしまうぞ。」

 そ、そんな…

 「私もいつまでも君の精神の中に入り込むわけにはいかない。こうしている間も、君の精神は密かにダメージが進んでいる。カリギューラの呪いをかき分けてこうして私が夢の中に入り込んでいるのだ。長時間私が入り込めば、ますます君の精神的な疲労と苦痛がじわじわ広がってしまう。…というわけで、そろそろ私は君の夢から抜けるが。くれぐれも快感に負けるんじゃないぞ。」

 てるてる坊主はふっと消えてしまった。

 「どうしたの? 先生の口で出してもいいんだよ?」

 みずほ先生は一度萎えたペニスをしつこく唇でしごき、亀頭をかき分けては敏感なところを強くねぶって、ふたたびペニスを勃起させるのだった。

 たしかに、さっきいきなり咥えられた時のような奇妙な高揚感もなく、快感も半減している。だが、快楽がゼロになったわけではなく、女の人の口の滑らかな感触はたしかにペニスを直撃し続けていた。

 気を抜いたら射精させられてしまう。

 毅然と拒否をしなければ、いつまでもここで先生にフェラチオをされ続け、やがて精力が尽きて体液を爆発させてしまうことになるだろう。

 「先生、やめて!」僕はぐっと先生の頭を抱え、ペニスから口を引き剥がそうと力を込めて頭部を持ち上げた。

 だが、先生の口はぴったりペニスに吸いついて離れてくれない。

 「ダメよ。このまま先生の口で出しなさい。早く…」

 この戦いはかなり厳しい。よくは分からないが、僕は淫夢、エロい夢を見せられて、夢精させられそうになっているんだ。その誘惑をはねのけ、毅然と拒否の態度を示さなければならない。押し寄せる快感にあらがって、あるいは女の色香に直面して、それでも誘惑をはねのけることで、夢精せずに目覚めるのでなければならないんだ。

 それも、生半可な拒否では通用しない。快感にうめいている間は、つまり心のどこかでこのまま気持ちよくなっていたいという思いがある限りは、夢から無事に脱出することができない。もたもたしていると高められてしまい、夢の中で射精してしまう。

 そして夢精をして目覚めれば僕の負けとなる。次の夜は、もっと射精しやすくなってしまい、じわじわと追いつめられて抜け出せなくなるんだ。

 ポッティの頭突きで、僕の精神は強化された。その結果、誘惑に強くなり、快感も半減して、その気になればたしかにいつでも抜け出せそうな気がしている。

 それでも、先生のフェラチオから抜け出せないでいるのは、僕の心の弱さによるものなのだろう。

 女性にまったくと言っていいほど慣れていない僕に、いきなり大人の、しかも美人の先生が舐めてくれているのだ。そうそう簡単には抜け出せない気がした。

 だけど、ポッティの言うとおり、ここで射精するのはあまりにも危険な予感がする。ガマンしなくちゃ。快感を毅然とはねのけなくちゃ!

 「先生! だめ! 僕はあなたとはできないッ!」

 かなり強い口調で彼女の頭上からたしなめた。そして渾身の力で、先生の頭をペニスから引き剥がした。

 先生はじとっとした目で僕を見上げている。唾液とカウパーをゴクリと飲み込むと、舌なめずりをした。その狡猾な妖艶さは、魔性の魅力をたたえている。

 「ちっ。やはりポッティの奴が妨害しおったか。」先生は苦々しそうに立ち上がった。

 「淫夢初日ならこんな程度か。だが、日が経つごとに誘惑は強まっていくぞ。」

 「なっ…せんせ・・・」い、いや! もはやその声は先生のものではなく、もっと恐ろしい、地獄の声のようにも思えた。若々しくうるわしい声色ではあったが、恐ろしいモノから発せられているような迫力がある。

 「いいことを教えておいてやろう。わが呪いの力は絶大。日を追うごとに誘惑は強まる。ゆくゆくはお前も魔性のシチュエーションにほだされ、精を放ってゆくだろう。逃れられると思うな。」

 「そ、それはおかしい! 誘惑をはねのけたら淫呪は徐々に弱まっていくはず!」

 「ぐふふふ…たしかに。弱まっていくよ。”時間”がな。仮にお前が誘惑をはねのけ続けることができるのなら、徐々に淫夢を見る時間は減少し、ついにはゼロとなって呪縛から解放される。だが、そんなことはありえないのだ。淫呪が完全に抜けきるまでまだ日にちがあるから、その間にお前の精神にさらに深く食い込み、誘惑を強めていけばいい。そして、もしお前が射精すれば、時間が延び、さらに長時間お前を誘惑と快楽にさらすことができるようになる。いずれにしても、この淫夢から逃れた者はほとんどない。いくらポッティのバリアがあっても、お前が快楽に負ければそれまでのこと。」

 「くっ!」

 「カリギューラの呪い、魔王クラスの淫夢だ。易々とは抜け出せないのだよ。また明日、もっと甘い夢を見させてあげる。楽しみにしていなさい。」

 先生も、周囲の状況も、白い光りに包まれ、やがて僕はまどろみの中に深く落ちていくのだった。

 ………。

 ……。

 …。

 はっ!

 気がつくと僕は、自分の部屋のベッドの上に寝ている。

 念のため自分の股間を確認。朝立ちをしているものの、精液臭や濡れた感触はない。夢精はしていないみたいだ。

 「…。」

 淫夢のことはよく覚えている。

 カリギューラの呪い。夢に出てきたポッティの姿。あの頭の痛みは本物のようだった。…あれは、本当に魔王の呪いがこの身に降りかかったということだろうか。それとも、僕が勝手に夢を見ただけなのだろうか。

 確かめる方法は、ひとつしかない。

 僕はいそいそと着替えて、クラムボム公園に向けて歩き出した。

 公園の裏に到着した。一時期消えていたはずの、地下に降りるハッチがあらわれている。「二度とやるもんか」と言っていた矢先、ちょっと入りにくかったが、僕は意を決して中に入っていった。

 そこには、ポッティ、佐伯さん、並木さんが並んで待っていてくれていた。

佐伯:「よぉ。朝イチで来るとは。ポッティの言ったとおりだな。」

ポッティ:「夕べはどうも。」

僕:「!!」

 何も言っていないのに、ポッティは昨日のことを知っている!?

僕:「やっぱり呪いって…本当だったのか。」

ポッティ:「うむ。そのことを詳しく聞きたいと思ってここに来たのだろう? ま、座りなさい。」

 僕たちはテーブルについた。

佐伯:「先日言ったはずだ。君はまた戻ってくるって。一度関わって戦っちまった以上、もう抜け出せないんだよ。」

僕:「…。」

ポッティ:「順を追って説明しよう。君は先日の天国軍団との戦いによって一度射精し、その時、元の神谷達郎に戻ってしまい、その一瞬、素顔を敵にさらしてしまった。それは敵の知るところとなり、君の素性を調べる機会を与えてしまった。」

僕:「…。」

ポッティ:「おおかた、人間界の探偵でも大勢雇って、君のことを徹底的に調べ上げたのだろう。その痕跡は随所に認められたよ。結果、もう君は、住んでいるところなどだけでなく、あらゆる個人情報を魔族に吸い上げられてしまっている。もうどこに逃げても魔族は君に迫ってくることになる。」

佐伯:「探偵ったって、安くはない。奴ら卑怯にも、天国軍団のメンバーの私財をなげうたせたんだ。…君も知っての通り、一時的に普通の女性が精神を乗っ取られ、洗脳を受けながら操られてしまう。そうなれば、もとの意識は保持しながら体も言葉もすべて敵が操作し、『イヤなのに勝手に動いてしまう』状況に陥ることになる。それを利用すれば、貯蓄も家財道具も不動産も、その若い女性の全財産を勝手に『自分から』売り払い、組織に提供することもできる。もちろん借金だって借りられるところから徹底的に借りるわけだ。」

僕:「…。」

佐伯:「大人でもない君には想像もつかないだろうけど、コイツはかなりおぞましいことだ。口や体が勝手に動いて、全財産を売り払って無一文になったあげく、サラ金だろうが闇金だろうが借りられるだけ借りちまう。その金で探偵に莫大な料金を支払い、徹底的に調べさせる。大勢でそれをやれば、近所に住む君のことなど何でも魔族に筒抜けになっちまう。好きな車も売り払い、PCが生き甲斐だった者、腐ったレアもの同人誌が自慢だった女子、すべて現金に換えられる。止めようとしても止まらず、涙を流すことも狂うこともできず、ひたすら魔族のために身も心もお金も”自分から”捧げさせられるというわけだ。」

僕:「…。」

 実感としてはわかないが、それがおぞましいことであることは十分理解できた。悪魔は手段を選ばないのか。ひどいことをする。

ポッティ:「君の正体と居場所がつかめれば、カリギューラが呪いをかけるのはたやすい。魔力を特殊な形で使用するため、止めることができない。そして、その呪いを受けた男は夜な夜な淫夢に悩まされ、毎日夢精して衰弱していくことになるのだ。」

佐伯:「俺もガキの頃、カリギューラの奴にはずいぶんひどい目に遭わされたんだ。」

僕:「えっ! 佐伯さんも…カリギューラに?」

佐伯:「あぁ。18年前、カリギューラは世界を乗っ取ろうとして、俺の体を使って細工をしてきた。ポッティのおかげで、何とか世界をもとの秩序ある状態にし、俺はカリギューラの呪縛から身を清めることができた。そりゃあ、抜け出すまでには禁断症状に近い狂わんばかりの苦しい戦いを強いられたさ。だけど、何とか俺は打ち勝った。…もっとも、そのおかげですっかり女が嫌いになっちまったけどな。」

僕:「…。」

佐伯:「おっと、誤解すんなよ。ホモになったわけじゃあないからな。性的な行為とかそういうのがいっさいイヤになっているんだ。もちろん異性にときめくこともなく、気がついたら28歳、一度も誰かとつきあうことはなかった。といっても別にそれでいいと思ってるがね。そんな時に、カリギューラのみならず、ヘルサたん総統という新手が登場し、ふたたび世界を狙ってきたんだ。」

ポッティ:「私はヘルサたん総統らの不穏な動きを察知し、ふたたび佐伯君のところに出向いた。そして、敵のもくろみや動きを調べ、相手が何をしようとしているのかを理解した。敵は、18年前のように直接人間界に干渉しようとせず、狡猾に組織力を駆使して人間界を乗っ取ろうと画策しておった。」

佐伯:「組織の戦闘員は現地で調達。これが天国軍団だ。そして、君も以前モニターで見ただろう、青い体をした美しい怪物。あれが“メカニック怪人”だ。搾精能力は天国軍団の比ではない。ああいう連中を徐々に増やしていって、世界中のあちこちで男に襲いかかっては精を抜き取り、世界を乗っ取ろうとしているのだ。そうなるともう、ポッティの神通力では対処しきれない。力ずくで対処しようとすればエネルギーの暴発が起こり、人間界が火の海となってしまう。敵はみずから乗り込まずに、魔界で人間界の組織を操作する作戦に出ているため、迂闊に手を出すこともできない。ちっ、考えたもんだぜ。」

ポッティ:「カリギューラとヘルサたんの二人が手を組み、そのような侵略方法を編み出したのだろう。我々としても、佐伯長官の時のように彼を強化して対処することが難しく、やはり組織力には組織力で対抗するしかないということになった。そこで組織されたのが“ナメてる戦隊フザケンジャー”なのだよ。」

佐伯:「俺が長官。並木が通信士。ポッティと俺たちの3人で組織はスタートした。人間を単純に強化するだけでは対抗できないため、別の方法を考える必要があった。そこで、フザケンジャースーツを開発した。快感攻撃力を備え、敵からのダメージを軽減する特殊な装置だ。そこにポッティの神通力を通して強化し、フザケンジャースーツができ上がった。これを、ポッティの選定した男たちに蒸着させ、組織力で対抗しようとしたのだ。」

ポッティ:「だが、大きな問題に直面した。フザケンジャースーツは神通力を基調とした強化スーツ。着る者を選ぶのだ。佐伯長官がレッドスーツを着ようとしても、適合しなかった。何種類かのスーツは作ったが、適合者を見つけるのはきわめて難しく、かろうじてブラックスーツを佐伯君に合わせることはできたものの…」

佐伯:「当然俺は拒否。強化スーツどころか、体が重くなって攻撃力も半減。こんなの足かせでしかないし。そもそも俺、女キライだし。」

ポッティ:「もう一つ問題がある。この世界の秩序を決めている唯一神のことを、あまりおおっぴろげに人間に伝えるわけにも行かないのが実情なのだよ。秘密裏にフザケンジャーの組織を運営しなければならない。だが、秘密組織にする以上は、組織の規模をあまり拡大することができない。小さな組織で、なおかつフザケンジャーは強力でなければならない。そうこうしている間も敵は組織の拡充を図っている。」

佐伯:「…そんな時に、レッドスーツの適合者が出てきたってわけだ。」

僕:「それが…僕…」

佐伯:「そゆこと。俺たちのそんな内実をきっと察知している魔族連中が、素性のばれた君をほっておくわけないだろ。さっそく調べ上げられ、カリギューラの淫呪を受けることになったというわけだよ。」

ポッティ:「神谷君。君は昼間はヘルサたん総統の手の者と、夜はカリギューラの淫夢と、それぞれ戦わなければならないのだ。君の体質のこともある。数千人分の精と同じ滋養を敵に与える体であることもまた、レッドスーツ適合の条件でもあったようだ。」

僕:「そんな・・・昼も夜も女と戦うということ?」

ポッティ:「その通り。もちろん、昼はフザケンジャーレッドのパワースーツが君を助けるし、夜は私のバリアが君を助ける。後は戦い方次第、意志の強さで、女の誘惑に打ち勝つことができる。」

佐伯:「いきなり魔王クラスの淫魔二人を相手にするんだ。過酷な戦いは覚悟してもらわないとな。…といっても、俺たちに有利な面もあるんだよ。」

僕:「…。」

佐伯:「カリギューラもヘルサたん総統も魔界にいる。動いているのはあくまで末端の組織だ。その規模もまだそんなに大きくはない。そんな今の内に敵の組織や怪人をたたきつぶし続けていれば、敵もあまり怪人を量産できないし、作戦自体が立ちゆかなくなるだろう。そこにチャンスが生まれる。一度組織が完全に途切れれば、反撃の準備もできる。」

ポッティ:「それまでの間は、天国軍団や怪人を地道に撃退し続けるしかない。並木君にレーダーの監視をしてもらい、敵の動きを察知したら、すぐに君に知らせる。そしたらフザケンジャーレッドとして出動し、全員をイかせて倒すのだ。」

僕:「僕は…」

佐伯:「逃げたところで、カリギューラが夜な夜な淫夢を送り込んでくる。家にいようと遠くで寝ようと同じこと、逃げられはしない。こうなった以上、もうやるしかないんだよ。」

僕:「・・・わかった・・・やるよ。」

 こうなった以上、やるしかないと思った。普通に生きていたら一生女性に縁がないんだもんね。射精してはいけないということだが、少しは肌を楽しむこともできるんだし。って、そんなふうに考えているようでは勝てないんだな。厳しい。

佐伯:「よし! それなら今後、俺のことは佐伯長官と呼ぶように。人類の命運がかかった真剣な戦いだ。くれぐれも気がゆるんで射精するなどということがないように。」

僕:「・・・。」

佐伯:「それにしても、挿入してすぐイッてしまう現状は何とかしなければな。刺激に弱く、早漏というのでは話にならん。強化訓練を行うぞ。」

僕:「え〜…」

佐伯:「今のままでは強化スーツがあっても数を増やした天国軍団にも勝てないだろう。怪人になんてまず勝ち目はない。刺激に強くなる体と心を作るんだ。」

僕:「どうやって!?」

佐伯:「こっちだ。」

 僕は佐伯さんに連れられて、別室に入った。そこには大きめのスクリーンと、その前にゆったりした椅子が置かれているだけだった。

佐伯:「まずはそこに座ってくれ。」

 僕は言われたとおりに椅子に座った。すると佐伯長官は、手足を強化ベルトで固定し、僕が逃げられないようにしてくれた。その上で、体のあちこちに電極のようなものを取り付けていく。

佐伯:「まずは女体に慣れないといかん。勃起および性的興奮を克服する装置だ。…並木君。」

並木:「スタンバイOKです!」

佐伯:「始めてくれ。」

 突然スクリーンに動画が映し出された。それは、複数の屈強な男にねじ伏せられた女が裸にひんむかれ、いやがっているのに全身をまさぐって、ついにはムリヤリ挿入して精液を吐き出すという、ちまたによくあるエロビデオだった。

僕:「…。」

佐伯:「ほお。『陵辱忍者はったりくん』シリーズでは反応なしか。けっこうスゴイな。じゃあ、次はどうかな。並木君。」

並木:「はい。ッと、長官、『長身女性のタイキック』と『柱男のいけにえ』どっちでしたっけ?」

佐伯:「なんだよタイキックって。…あー、おまけで借りてきた奴だ。それはどうでもいい。柱男にしてくれ。」

並木:「了解。」

 ビデオが始まる。太い柱に全裸の男が縛られていた。

 そこへ一人ずつ交代で美女がはりつき、立位やバックでどんどん結合していく。時には複数で男の全身をまさぐったり愛撫したり口で咥えたりしていた。その間、男は後ろ手に柱にくくりつけられたまま何もできず、ただひたすら受け身になっているのだった。

僕:「…。」あ。。。

 びりり!

僕:「ぴぎゃあ!」

 全身に瞬間的に激痛が走る。スタンガンを体のあちこちに押しつけられたような、耐え難い苦痛であった。

 エロビデオを見せられ、いいところでちんちんが大きくなってきたところに、この電撃である。一瞬でペニスは縮こまり、きゅっと引き締まってしまった。

佐伯:「あー、その装置は勃起すると電撃が流れるようになってるから。海綿体への一定以上の血液集中を感知すると自動的に流れる。」

僕:「ひい! そんな!」

佐伯:「バカモノ! 女の裸や色香を目の当たりにしても簡単には興奮しない訓練なのだぞ! 気を引き締めんか! こんなビデオごときで反応していては、怪人はおろか、天国軍団にも大興奮、あっという間に快楽の虜となって、死ぬまで抜かれてしまうぞ! エロビデオを見ながら勃起しないくらいには精神を鍛えるのだ。耐えろ!」

僕:「むっ、ムリムリムリムリ!」

佐伯:「バカモノ! 目を閉じるな!」

僕:「そんなあ!」

 柱の男は美しいAV女優にバックで挿入させられる。悩ましくお尻がくねり、すべすべと男の腰にこすりつけつつ、膣内でペニスをこねくり回し、さらには前後に激しくしごきたてている。

 ビリビリビリ!

僕:「ぎゃああ!」

 次の娘もバックで挿入。女性一人一人、肌の色も微妙に違うし、おっぱいの大きさも違うし、背の高さも違うし、でも同じように男に挿入して腰を振っている。

 ビリビリビリ!

僕:「どぎゃああ!」

 ビリビリビリ!

僕:「ぎひいいいい!」

 こっ、このままでは身が持たん!

 電撃にさらされないようにするには、本当に女の裸や破廉恥な行為を間近で見ても勃起しないくらいの強い精神力が必要なんだ。がんばるしかない。

 柱の男は巨乳の女に抱きつかれ、その胸の谷間にペニスを挟み込まれた。「おらおら。 私の胸で射精してみなよ!」ローションでぐぽぐぽ音をたてながら自慢の乳房で男を責め、強制的に高めていく。

 う〜…ガマンだ。立っちゃだめっ…

 他のことを考えよう。難しいこと、難しいこと、ごっ、五段活用、パイずらない、パイズリます、パイずる、パイずる時、パイずれば、パイずっちゃいや〜ん!

 計算計算! 円周率は3.14でπぱいぱい…

 あうー!

 ドバババババ!

僕:「ぎゃああああ!」

佐伯:「愚か者め。全然修行が足らんな。…やれやれ。ここまで性癖がはっきりしている男も珍しい。第一弾のレイプものには微塵も反応しなかったから、ちょっとは期待できると思って第二弾に行ったが、男性受けに変えたとたんに、このていたらくだ。まったく情けない。並木君、ついでにタイキックを見せつけてやれ。」

並木:「…。」

 並木さんは次のビデオをセットした。

 180センチ以上の長身女性が、生足を露出したスポーツウェアに身を包み、腹の出た150センチ台のチビ男の尻めがけてひたすらタイキックをお見舞いするというものであった。これまた数回ずつ交代で、本気のローキックを男の尻に打ち込んでいく。女性の方は半裸だったりぴっちりスーツ上半身だったりするが生足露出は共通。小男は全裸でちんちんがぶるぶる震えている。

 …さすがにものすごく痛そうだ。こういうのが好きな人なら興奮するだろうけど、さすがに想像するとお尻がむずむずしてくるのであって、僕のペニスはまったく反応しなくなった。

 最後の方で、尻を真っ赤に腫らした男が長身女性数名に組み伏せられた。「けっ、あれだけ蹴られてイキそうになってんのか! 二度とそんな気が起きないように懲らしめてやる!」複数でペニスに手コキ。小男は情けない声を出しながら女手でしごかれ、玉袋を揉まれくすぐられ、乳首をつねられながら射精した。

 バリバリバリバリ!

僕:「ぐわあああ!」

 電気椅子から解放される頃には僕の方も相当にぐったりしてしまっていた。

 ふらふらと中央司令室に戻ると、並木さんがジト目で僕を見ている。

僕:「あう〜…並木さん…」

並木:「近寄るなタイキック野郎。」

僕:「たっ、タイキック野郎!? ちょっ、誤解ですよ! 僕はタイキックシーンではいっさい…」

 どきゃ!

僕:「ぎゃっ!!」

 一部始終を見ていた並木さんは僕のケツに容赦なくタイキックを本気でお見舞いしてきた。

並木:「最っ低!」

 ふん! と、並木さんは出て行ってしまった。

 並木姉さんのツルツルの脛でお尻にタイキック。…ちょっとクセになるかも

 ッと、いかんいかん、何考えてんだ僕は!

 でも、もしかしたらこの修行はかなり重要で役に立つかも知れないと思い始めていた。たしかにエロビデオは同じシーンがずっと続くから、言ってしまえば飽きが来るのだ。あとは裸体やシチュエーションに興奮しなければ、簡単には勃起しないだろう。

 …そうは言っても、その境地に達するまでには今しばらく、電撃でへろへろになりながら並木さんにタイキックされる日々を送らなければならなそうだけど。

 午後になると、僕はさらに別室に連れてこられた。

佐伯:「セックスバトルは頭脳戦、心理戦の要素が強いが、やはり体力も重要だ。いくらスーツが君の動きを助けてくれると言っても、元の体力が弱小では、倍増されたパワーもたかが知れている。筋力、瞬発力、そして持久力も大切だ。ここでトレーニングしてもらう。」

 その部屋にはランニングマシンやら筋トレマシンやら腹筋台、バタフライマシンなどが所狭しと置かれていた。

僕:「え〜…運動するんですかぁ〜!?」

佐伯:「並木君のタイキックでケツがなくなる前に走った方がいいと思うが?」

僕:「うっ…」

佐伯:「彼女はもともと水泳の選手で、格闘技や護身術も師範級の腕前の持ち主。怒らせない方がいいぞ?」

僕:「分かりましたよ。やればいいんでしょ!」

佐伯:「そうカリカリしなさんな。早朝から走って牛乳配達をさせられたり手で畑を耕させられたりするよりはマシだろう。」

僕:「それはイヤだ。」

 仕方ない。佐伯長官の言うことももっともだし、僕は体力作りのためにトレーニングをすることになった。

 さっそくランニングマシンから始めよう。ベルトの上に乗ると、自動的に稼働し始めた。僕はその動きに合わせて走り始める。徐々にだがベルトは早くなっていった。

佐伯:「あー、言い忘れたが、そのマシンは25分間、時速30キロで高速稼働するから、全力疾走してくれたまえよ。」

僕:「なっ、なんだってえ!」

佐伯:「ちなみについて来れなくなって転んだりベルトから落ちたりした時には…」

 マシン後方に並木さんが何かを敷き詰めている。僕が走っている横や後ろなのでよくは見えないが、何かのマットのようだった。

佐伯:「粘着テープに画鋲がびっしり。」

僕:「いやあああ!」広範囲に粘着マットが敷かれていて、丁寧に画鋲が上向きに敷き詰められている。まかり間違って転んだり落ちたりした時には画鋲の針が全身に刺さる仕組みだ。

僕:「こっ、殺す気かー!! 痛いだろうがー!!」

佐伯:「うまく体を翻して画鋲に刺さらないように着地し逃げた場合は並木のタイキックな。」

僕:「そんなあ!」ベルトは相当に早くなり、僕は全速力で走らされていた。

 いや、こんな走らされるくらいなら一発のタイキックの方がマシな気がする。もしかするとクセに…

佐伯:「もちろん、ケツじゃなくて前にタイキックな。」

僕:「ひいいいい!」僕はもう走るしかなかった。

 肺が破裂しそうだ。筋肉もほとんど使っていなかったのにいきなり30分近くも全力で走れるはずがない。てかそもそも人間はそんなに速く長時間走れない!

僕:「ぐああああ!」自分の意志に反して、足が動かなくなり、僕は容赦なくもんどりうってベルトから投げ出された。

 ぐさ!

僕:「おろろ…いれええ…ほんろにいれえ…」 背中じゅうが血だらけになる。なんでこんな目に…。

佐伯:「しょうがねえなあ。今度はこのバタフライな。」

 僕は背中に画鋲シートを貼り付けたままマシンに座らされる。両手で四角い板を顔の前に閉じていく器具で、ボディビルとかスポーツジムにありがちな器具だ。

佐伯:「じゃあ始めるぞ。」

 びりり!

僕:「ぴぎゃあ!」

佐伯:「一定のリズムで閉じて開いてってやらないとケツに電流が流れ続けるぞ。休むな。」

僕:「ひいい!」

 かなりハードで重い器具を相当早いリズムで動かさないと、電流が止まってくれない。逃げようにも腰をベルトで固定されてしまっている。

 当然、筋肉が疲れて思うように器具が動かなくなってくる。でも速度をゆるめても止めても電流が僕を責めさいなむのだ。

 そのうち渾身の力をふりしぼっても器具は動かなくなり、ひっきりなしに電流が流れてお尻が焼けただれそうになった。

佐伯:「まったく情けないなあ。次はこの強制腹筋マシンね。」

僕:「もういやだあ!」

 こうして僕は、施設内のトレーニング器具を次々試された。どれもこれも強制で、休もうとすると罰が下る仕掛けだった。

 夕方遅くなると、僕はテーブルに突っ伏して倒れ込んだ。もう体中が動かない。完全に人権蹂躙なスパルタトレーニングであった。

ポッティ:「ふむ。だいぶへたばっておるようじゃのう。佐伯長官は容赦ないからな。…ほれ。」

 ポッティからオレンジ色の光が照射される。すると、疲労感も筋肉の痛みも、体のこわばりも、どんどん抜けていって、体が楽になっていくのが分かる。

 ほんの数秒で、僕の体は全回復した。

僕:「あう・・・ポッティの回復術があるからって、こんなの毎日やるの?」

ポッティ:「そのうち慣れるさ。君があんまりに運動不足だっただけで、別に筋肉ムキムキにするつもりもないし。少し人よりも優れた体力と筋力を身につければそれでいい。慣れてしまえば、このスポーツがストレス解消にもなるぞい。」

佐伯:「さあ。次のトレーニングだ。」

僕:「え゛〜〜! まだあるの!?」

佐伯:「当たり前だ。あとは動きのトレーニングと勉強だ。」

僕:「ぎょえええええええええええええええーー!!!!!」

佐伯:「ちょ、どうした!? 大丈夫か!?」

僕:「べべベッ、べえべえべえ〜〜!!」

佐伯:「べえべえ!? なに男性恐怖症のサキュバス@西洋からの留学生(一応そういう設定らしい)みたいなことを言ってるんだ。」
(参考 ttp://www.powerfulsoft.jp/you_gaku/top.html)体験版あり

僕:「そのネタ一体何人くらいに通用するんだ。それにそもそもサキュバスは妖怪なのか? …って、べえべえじゃなくて、勉強だってえ!」

佐伯:「ったりめえだろ! 一体何日学校サボってるんだ。ちゃんと微積分から三角関数から古典文法から世界史から、経済学やギリシャ語まで、みっちり勉強してもらう。その上で人体とセックスの理論を学んでもらうぞ。」

僕:「うぐぐ…」

佐伯:「セックスバトルはあくまで、快感を楽しむものではなく、頭脳戦ととっさの機転で勝利を掴むものだ。頭が悪くては逆に敵の機転や作戦にやられてしまう。いかにこっちの体を鍛えても射精させられちまうんだ。オツムがかわいそうなままではダメだ。」

僕:「かわいそうって言うな!」

佐伯:「じゃあ、円の面積が半径×半径×円周率であることを証明してみろ。」

僕:「え・・・」

佐伯:「・・・。」

僕:「えっと、公式とかじゃないの?」

佐伯:「かわいそうに。」

僕:「かわいそうっていうなあ!!」

佐伯:「ま、その前に並木にみっちり鍛えてもらえ。こっちだ。」

 僕はまた別室に案内された。柔道場のような格闘技ルームだった。そこに道着姿の並木さんが腕組みして仁王立ちしていた。

並木:「ここでは、機敏な動き、アクション、格闘技全般を訓練するわ。戦隊モノならバク転や前転後転、高いところから飛び降りたり、爆発を背後にして高く跳躍するなどの動作をマスターし、機敏でしなやかな動きを体得していなければならない。他にも、組み伏せられた時の動き、囲まれた時の脱出方法、護身術全般と格闘技の基本、水泳まで、一通りこなせないとね。」

僕:「はあ。」

並木:「私も容赦しないわよ? あと、訓練中、私に変な考えを起こしたらキンタマが内蔵にくい込むことになるわ。」

僕:「ひい…」

並木:「まずはラジオ体操から!」

僕:「ええー。ラジオ体操。またちゃちな…」

並木:「ゴタクはやってから言いなさい。」

 僕は並木さんにラジオ体操を教わりながら音楽に合わせて動いた。思っていたものと全然違い、動作がきびきびしていて全身のあらゆるところを酷使するモノだった。

並木:「ほら! もっと背中を反らす! 声も出せ!」

僕:「うぐぐ〜…」

 たかがラジオ体操がこんなにきついだなんて!

並木:「どお? きちっとやると結構たいへんでしょう?」

僕:「あう〜…」

並木:「ほら! 休んでいる暇はない! 次はボックスの足の動き!」

僕:「え…それが一体何の役に立…」

並木:「あ゛あ゛?」

僕:「わあ、僕、ボックス大好き♪」

 なんだか自分がかわいそうになってきた。

 なんだかんだ、夜になってしまう。へとへとの僕にポッティが回復術をかけてくれた。

ポッティ:「さて。最後は私じゃな。」

僕:「べえべえ?」

ポッティ:「何でもよいが、ノートを開きなさい。いいかね? 1分以内に解くように。ゆいちゃんが10時に家を出発、まっすぐあずにゃんの家に時速15キロで向かいました。一方あずにゃんは9時50分に家を出てとぼとぼと時速7キロでゆいちゃんの家に向かいました。二人の家はまっすぐの同じ道沿いにあり、距離は5350メートルあります。さて、ゆいちゃんとあずにゃんが出会うのは何時何分ですか。また、二人が出会った地点とあずにゃんの家との間の距離は何メートルでしょう?」

僕:「えっと・・・」

ポッティ:「はやく筆算せい。」

僕:「あうう・・・」

ポッティ:「その昔ジャ●アンという少年がポカポカクイズというのを発明しおってな。」

 いつのまにか僕の頭上に金属バットが浮かんでいる。ポッティのサイコキネシスだ。

ポッティ:「あと7秒。…。ほい、時間切れじゃ。」

 どきゃ!

僕:「ぎゃああ!」

 これじゃあ勉強できる前に脳内出血でパーになるぞ。

 そう思ったが、すぐさまポッティが回復術をかけるので心配なかった(?)。

ポッティ:「まったく。小学校の算数も満足にできんのか。」

僕:「そんなこといったって・・・タッ●くんでもおればいいのに…」

ポッティ:「第二問じゃ。徳川幕府第10代将軍のフルネームを答えよ。また、その人物の主な幕政上の業績を3つ挙げなさい。」

僕:「知らねーよ!」

 金属バットが猛威をふるう。

僕:「もうやだ…」

 夜も更けた。

佐伯:「む。本日はこれまでとする。」

僕:「ま、まさか・・・これを毎日?」

佐伯:「いや。たまにでいいだろ。君も学校とかが忙しい身だからな。学校から帰ったら喫茶店で真面目にアルバイト。精の出る苦学生だねえ。」

僕:「別に…学校なんて。それにキノコぐんぐん伝説じゃあほとんどまともに働いてないし。」

佐伯:「ふうん。じゃあ、ここでの修行を毎日できる時間があるわけか。」

僕:「いえ! ものっそい忙しいです。早朝から学校に欠かさず通い、勉学に努め、勤労に励み、帰るのは暗くなってからであります長官!」

佐伯:「そうだろうそうだろう。修行はたまに気が向いたらでいいからな。明日からもしっかり学校に行くように。」

僕:「うぐ・・・」

 なんだか激しくハメられた気がするが。。。こうなってはもう、明日から学校に行くしかないだろう。ここからは逃れられないし、来れば来たで、厳しい修行をさせられる。

並木:「くれぐれも、そのリストバンドは外さないようにね。緊急時や出動要請時に必要よ。簡易の通信機能が備わってるわ。」

僕:「はい。」

 帰り道、とぼとぼと家路につきながら、僕はこれからのことを考えていた。

 「なんだかヘンなことに巻き込まれたなあ。」

 空を見上げる。月が黄色く輝いている。そういえば、月をこうやってまじまじと見つめることって、ほとんどなかったなあ。地球の衛星であり、今となっては悲壮と希望との象徴と化している美しい天体だ。ぽっかり浮かんでいるだけの月はあまりにも静かだ。それでいて激しい鼓動さえ感じる不思議な衛星。

 僕は足を止め、覚悟を決めた。

 カリギューラの呪いを受けてしまっている以上、僕はフザケンジャーレッドとして戦う運命からは逃れられない。それなら、真剣に、果敢に立ち向かって、打ち勝つ他はないんだ。自分のためでもあるし、人類のためでもある。僕なんかには荷が重すぎるのは、今日一日の修行で、いやというほど思い知らされたが、それでも日々これにチャレンジし、強くならなくちゃ。

 まずはしっかり、明日から学校に行こう。

 バイトもちゃんとやろう。今まで経費だけかけてろくにマスターに恩返しできていないからね。申し訳ない。

 そして、厳しく苦しいけれども、あの修行を、時間の合間を縫って、しっかりやっていこう。強くならなければ、まともには戦えないし、淫夢にも勝てない。しっかり身も心も頭も鍛えなければ。

 「やるぞ!」月に向かってつぶやいた。

 ちょっと前まではめんどくさいって気持ちばっかりだったし、修行中もいやな思いしかしなかったけど、現時点では、なんだか奇妙にすがすがしかった。

 家に帰ると、すぐに眠気が襲ってくる。僕はそのままベッドに入り、深い眠りに落ちていった。

 ………。

 ……。

 …。

 気がつくと、僕は1メートル四方の狭い部屋に立たされていた。裸だ。目の前に鉄の扉がある。それ以外に何もない、窓もない、息苦しい壁に囲まれた部屋だった。

 「これは一体…」

 僕は扉に手をかける。鍵はかかっていないみたいだった。だけど、易々とこの扉を開けるのはためらわれた。こっちが全裸では、ヘタをすると猥褻物チン列罪だ。外に誰かがいたらおしまいだ。

 わずかに扉を開けて外の様子をうかがってみた。

 「あ!」

 次の瞬間、僕は外に出ていた。慌てて後ろを振り返ると、もう扉は消えてなくなっている。

 そこは更衣室だった。それも、細長い通路状の造りをした、女性用の更衣室であった。

 年上のレディたちが着替えている。どうやら私服から制服に着替えているみたいで、ファミレスふうの同じ服装にみんな着替えている。

 更衣室というより、廊下に脱衣所が備え付けてあるような感じだった。片側にロッカーがあり、そこに十数名のお姉さんが立っていて、それぞれ私服を脱いではロッカーに入れ、ゆっくり着替えを楽しんでいる。

 「あう…」僕は思わず股間を隠して縮こまった。きっと次の瞬間には方々から悲鳴が上がり、タコ殴りにされるに違いない。羞恥心もピークに達している。女子更衣室でお姉さんたちが着替えている中に、裸の男が一匹入り込んできたのだ。無事で済むはずがない。

 だが、不思議と何事も起こらなかった。彼女たちは僕の姿を認めると、にっこり微笑んで、それ以上は何もしてこず、ふたたび着替えを始めるのだった。何も気にしてはいないふうだった。

 かなり奇妙な状況である。

 「もしやこれは…」僕は前を隠すのをやめてみた。彼女たちの前にペニスをさらけ出す。

 ファミレスの店員さんたち、若いおねいさんたちは、僕の股間をチラチラ見ながら、それでも嫌悪や悲鳴を浴びせかけるふうでもなく、かといって一斉に襲いかかるというわけでもなく、黙々と着替えを続けている。

 100メートルくらい先に鉄の扉が見えた。ロッカーはずらりと並んでいるが、着替えているお姉さんたちは思ったよりもまばらで、さらによくよく見ていると、一度ファミレスの制服に着替えた女性は、ふたたびこれを脱いで下着姿になり、私服に着替え直している。そうして、また私服を脱いでファミレスの制服を着込むのだ。これを繰り返していた。

 間違いない、これはカリギューラが見せる奇妙な淫夢だ。

 おそらく、彼女たちに欲情せず、射精せず、毅然と奥の扉を抜け出せば、夢精することなく脱出できるはずだ。

 僕はじっと女たちを見据えた。チラチラと僕の目やペニスを見ては目をそらすお姉さんたち。そして着替えを続けている。

 さっそく訓練の成果があったのか。僕はブラジャーやパンティのお姉さんやミニスカートの生足を見ても、気をしっかり持って勃起を抑えることができた。ポッティのバリアも功を奏しているのだろう。

 先にどんな罠が待っているか分からないし、一気に駆け抜けるのはかえって危険だろう。警戒しながら、僕は奥の扉に向けて歩みを進めた。

 少し歩くと、一番近くで着替えをしていたお姉さんが優しく微笑みながら近づいてきた。一定の距離、こちらから近づくと、相手は行動を開始するらしい。何をしてくるのか、警戒心たっぷりに身構えた。

 するとお姉さんは、私服のまま、片手を僕の股間に伸ばし、きゅっとペニスを軽く握ってきた。そしてじっと僕を見上げ、萎えたペニスをくすぐったく揉み始める。

 「あふ。」僕は思わず腰を引いた。

 それでも彼女は奥まで手を伸ばし、ペニスをやわやわと揉み続ける。大人の女のしなやかでやわらかい手が、じかにペニスに触れただけでなく、萎えたペニスを包み込むように優しく握りしめると、心地よい圧迫で握ったりゆるめたりして、ペニスをもにゅもにゅしてくれるのだ。

 さすがにその心地よさには勝てない。ペニスはむくむくと大きく膨張していった。

 お姉さんの手では収まりきらないくらいに膨張したのを確認すると、彼女はペニスを優しくさするように、ゆっくりしごき始めた。

 「う…くっそ…」

 ここで快感に負けてしまえば、身動きが取れなくなって射精してしまう。事実、気持ちいい思いをしたいという欲望が頭をもたげ、心にわずかでも巣くっているかぎり、僕は彼女の前で立ち尽くしたまま、その先に足を進めることができなくなっている。

 お姉さんは僕を上目遣いで見つめながら、しきりに右手を動かしている。ムニムニとした女手がしなやかにペニスを包み込み、根本から先端まで優しくさするようにしごき続けているのだ。

 「やめろ悪魔め!」僕はお姉さんの手を振り払った。その瞬間は、淫欲に負けまいとする自分がいた。

 すると足の自由が利くようになり、僕はふたたび前に向かって歩くことができるようになった。

 だいたいのカラクリは分かった気がする。この細長い更衣室で、着替えているお姉さんのそばを通り抜けようとすると彼女は一人ずつ僕に手を伸ばしてくる。そしてペニスを優しいスベスベの手でしごき始めるんだ。

 触られている間、僕は足がすくんだようになってしまい、その場を動くことができない。手は動かせるが、腰を引いてもたかが知れていて、逃げ出すことはできない。

 脱出方法はただ一つ。誘惑をはねのけ、快感に負けずに、やわらかいお姉さんの手を毅然と振り払うことである。

 奥を見ると、あと12人の女性が着替えを繰り返している。彼女たちの手コキに耐え、射精せずに、また女手の魅力に負けることなく、しっかりと奥の扉までたどり着く必要がある。精力が尽きて射精してしまっては負けだし、彼女たちのしなやかな手に惚れてしまって心が迷っている間はずっとしごかれ続け、やがては爆発してしまう。12人分の手に打ち勝つのが、今回の任務というわけだな。

 さらに先に進むと、別の背の低い女性が、上半身ブラジャーで下がタイトスカートといういでたちで、子供っぽいショートカットながら大人びた口紅で背伸びしつつ、僕のペニスをしごき始めた。

 刺激はさっきの女性と違う。やわやわとした女手であることは変わらないが、この女性には彼女なりの個性というか、魅力がある。しごき方も違う。それは僕の心をかき乱し、股間のくすぐったさを微増させる効果があった。

 女の人の手に耐えるだけでなく、12人12様の手の感触にも打ち勝たなければならない。一人あたりで消費できるのも、全精力の12分の1までだ。それ以上に浪費し続ければ、最後までたどり着けずに何人目かで射精してしまうことになるからね。

 ペニスを片手でしごき上げながら、あどけない表情で僕を見上げている。そのままロリ路線で男を誘うこともできるが、彼女自身のコンプレックスなのか、何とか背伸びして大人の女性を演出しようともがいているふうだった。それがかえってベビーフェイスと子供っぽさを強調し、ギャップが魅力的だった。それでいてペニスを握る小さな手は柔らかで心地よい。

 「や、やめろ。」僕は彼女の手をふりほどいた。

 だが、まだ心に迷いがあったみたいだ。足は前に進まない。お姉ちゃんはふたたびペニスに手を伸ばすと、さらにシュッシュッとペニスをしごき始めた。今度は大人っぽい化粧をしながらロリロリな笑顔であどけない笑顔で見上げてくる。逆のギャップがたまらない。

 思っている以上に女手の感触が心地よすぎて、僕はかなり精力を消費してしまっている。一人一人はたいしたことがなくても、集団戦となれば、ペース配分がなかなかつかめない。本当に途中で精力が尽き、手コキ攻撃で精を放出してしまいかねなかった。

 「うぬうう! はなせ!」

 今度はうまくいった。心を鬼にして、自分の義務を思い起こし、かわいらしいお姉ちゃんの誘惑を振り払うことに成功したのだ。

 さらに歩くと、3人目が僕の前に立ちはだかった。フリフリのドレス上半身姿にパンティだけという何ともきわどい格好で、お姉さんはペニスに手を伸ばした。

 またもやペニスは女の人の白魚のような指先やスベスベの手の甲、むにっとした手のひらに翻弄されることになった。毅然と振り払うまで、女の手コキは続けられる。それが残り10人いるのだ。かなり心配になってきた。

 女性に不慣れな僕は、女の人のやわらかい両手でぎゅっと手を握りしめられただけで、ドキリとさせられてしまう。いや、それどころか、軽く手のひらや甲が自分の手に一瞬触れただけで、そのスベスベした感触に心臓が高鳴ってしまうだろう。

 きっと自分の夢の中で「着替え中のウェイトレスさん」が登場している理由もそこにある。

 たぶん自分の記憶の中に、たとえばおつりを手渡す時に手が触れ合ったり、サービスとして僕の手をしっかり握りながらお金を返したりといった経験が、奥底あたりにしまい込まれているのだろう。いちいち覚えているわけではないけれども、その都度どきっとした自分がいたのも確かだ。

 カリギューラの奴はその記憶を引き出し、極端に強調して、ウェイトレスさんたちを手コキ娘に仕立て上げたのだ。しかも着替え中というシチュで肌の露出を高めてやがる。魔王だけあって、巧妙に僕の記憶から好みの女性や色欲を高めるシチュを抽出して、淫夢化しているのだ。

 とにかく、3人目のやわらかい手はペニスをしっかり握りしめ、優しく微笑みながらしっかりしごきたてている。カウパーが滲んでいるためか、お姉さんの手にもぬるぬるがわずかに染みこんで、快感攻撃力を高めていた。

 股間のくすぐったさに、ついついこのまましごかれ続けて、射精するまで手でしてもらいたいという思いが頭をもたげる。

 だが、僕はさらに踏ん張り、心の中に巣くう快楽への欲動を押さえ込んでから、お姉さんの手を静かにペニスから引き剥がした。

 足がまた動くようになる。十数メートル先には別の女性が着替えている。そこへ行けばまた、優しい女手がペニスに触れてくることがわかりきっていながら、それでも僕は先に進まなければならない。

 一気に駆け抜けるのは無意味だ。走ったところで、女のそばに来れば自動的に足が止まり、手コキ攻撃にさらされることになる。誘惑を振り払うまで抜けられないのだ。

 4人目。彼女は指先だけを駆使して、亀頭を軽くつまむと、コショコショと先っぽだけをすばやくしごき始める。

 「んああ!」僕はピンポイントで襲いかかってくる強烈な快楽に、思わず腰を引いた。だが、お姉ちゃんはずいっと僕のそばに寄ると、しつこく先端だけをコチョコチョ刺激してくる。

 いたずらっぽい顔で見上げる大人の女。このまま射精させる気だ。

 僕は彼女の右手をかろうじて引き剥がした。ジンジンと体の奥が性欲に疼く。

 まだ煩悩が残っていたようで、お姉ちゃんはすかさず左手指先で亀頭をいじくり倒し始めた。

 「あああっ! いいかげんにしてくれえ!」

 僕は彼女の左手をももぎ取ると、自分の心から悪を完全に追い払った。

 5人目は普通に手コキ。6人目もただ右手でしごいてくるだけ。7人目も同じようにした。8人目でさえただの手コキだ。

 だが、確実に、僕の精力は削り取られていった。4人連続でしごかれ、確実に高められてしまっている。単調な手コキだからこそ、玉袋に溜め込まれた精子はどんどん水かさを増し、徐々に押し出されるよう促されている。

 それに比例して、僕は次の娘のところに行くまでに、相当の時間がかかってしまっている。これが奴らの連続手コキの狙いだった。

 だんだん射精が近づいてくるにしたがって、やわらかい女手の攻撃を振り払うのが困難になっていく。前の女性と次の女性ではほとんど快感攻撃力は変わらないのに、こちらの方が感極まってしまって、次の女性の手の呪縛から逃れるのに、相当の精神力が必要となってしまっているのだ。

 次のお姉さんから逃れるのに時間がかかるため、その間じゅうペニスはひっきりなしにムニムニした手で執拗にしごきたてられ、スベスベした感触が根本から先端までを刺激し続けている。こうして、ますますイキそうになり、ますます次の女性から逃れるのに時間がかかってしまうというわけだ。

 連続して4人の手コキを乗り越えた頃には、すでに股間はくすぐったい疼きに完全に支配されていた。内股になり、カウパーが先端から大量に滴っている。

 次の女性のところに行くのがためらわれる。あと3人の手コキに耐えれば脱出できるが、耐えきれる自信がないのだ。

 ジンジンするペニス。また女の人の手に包まれてしまったら、その白くきめの細かい刺激にさらされ、脱出がきわめて困難になる。煩悩を振り払うべく自分自身と格闘している間にも、女手は容赦なくペニスをしごき続けるだろう。彼女を乗り越えることはできるかも知れないが、11人目は確実にアウトな気がする。

 それでも、休んでいれば回復するというわけでもなさそうだ。これは淫夢、そうそう都合のよいことにはならない。

 しかも、敵はこうしたことも想定して、しっかり対策を打っている。足を止めている僕の視界に飛び込んでくるのは、着替えをしてしなやかな体をさらす大人の裸体なのだ。こんなのを目の当たりにし続け例れば、回復どころか、どんどん欲情をかき立てられてしまうばかりだ。

 進むしかない。

 10人目のお姉さんは僕の後ろから抱きついてきた。そして右手でペニスをしごき、左手を僕の股に突っ込んできて、後ろから玉袋をわきわきとくすぐったく揉みしだいてきた。

 「うああ…」僕は腰を回転させくねらせ、後ろからはりつく半裸のおっぱいを味わいながら女の両手の刺激に悶絶していた。

 「だっ、だめえ…」何とか逃れようとしても足は開かれたまま固定され、歩くことができない。そうしている間にもお姉さんの手は若い僕のペニスをこれでもかと力強くしごいている。それでいてスピードもあり、しかもやわらかで心地よい。

 「くっそお!」僕は力づくでウェイトレスさんの手を引き剥がそうとしたが、こちらに迷いが残っている以上、どうあってもお姉さんの手をふりほどくことができない。

 僕は腰をグラインドさせながら、悩ましい攻撃に身もだえし、背中に押しつけられるおっぱいと、いたずらな左手の玉袋攻撃と、内股をこする女の腕の感触に酔いしれながら、彼女の右手で今にも体液を吐き出しそうになっていた。

 歯を食いしばり、僕は何とかして快楽にあらがおうとしていた。イキそうに律動し初めては、渾身の力でぐっとこらえて、射精を寸前で食い止めるのだ。だが、食い止めても刺激は続き、ふたたび射精感が押し寄せてくる。

 押さえつけた次の射精感は、さっきよりも格段に心地よさを増して、ふたたび僕に襲いかかってくる。一度強烈に気持ちよくなって射精しそうになったのを、力の限り食い止めたら、今度はもっともっと気持ちいい感覚が体の奥から突き上げてきて、これでも射精しないのかといわんばかりに僕を悩ましく追いつめてくるのだ。

 ポッティの強化バリアがなければとっくに射精していた。だが、そのバリアがあっても、女の手にまったく慣れていないペニスが10人のレディにしごかれては、ガマンも限界に達してしまうというものだ。

 ここで出してしまえば、カリギューラの呪いが強まる。夢精を重ねれば重ねるほど、甘い夢から抜け出すのはさらに困難になる。完全に抜けられなくなれば、フザケンジャーレッドはおしまいだ。スーツの適合者がほとんどいない以上、僕が倒れれば、もはや魔族の侵略を食い止める方法がなくなってしまう。

 それだけは絶対にあってはならない!

 僕はやっとの思いで、10人目を乗り越えることができた。

 だが、歩くだけで射精の脈打ちが始まってしまいそうなくらい、いつ出してしまってもおかしくない状態に陥ってしまっている。残るは二人…

 11人目はロッカーから何かを取り出し、手のひらに押し出した。市販のローションだった。透明の液体がちゅううっと大量に手のひらにスライム状に盛り上がっている。それをしなやかな両手の平でこねくり回し薄く伸ばしている。

 ローションまみれの両手が一気にペニスに襲いかかった。棒といわず玉といわずにゅるにゅるにしてから、両手でぐちょぐちょと激しくしごいてくる!

 やわらかさに加えて愛液状のぬるぬる粘液がペニスの滑りをよくして、一度に襲いかかってきた。手のひらのやわらかさや指の節が女性器のヒダを連想させる。

 「あっ!」

 もはや耐えきれるレベルではなかった。僕はお姉さんの手の中で律動を始める。びゅくびゅくと泡立ちながら白濁液が女手の中で爆ぜ、白魚のような指の間からぬとっとしたたり落ちる。

 女は動きを徐々に減速させ、最後にぎゅううっと絞り出すように根本から先端まで両手に力を入れて、男性器にわずかでも残っている精液を全部外に追い出すと、やっと脈打ちも終わって、絶頂の天国が収束していった。

 12人目が上半身をはだけ、手だけでなく胸もお腹も背中もローションまみれにして待ってくれていたが、そこまでたどり着くこともできず、僕は夢の中でカリギューラの誘惑に負け、女手に射精してしまったのだ。

 「ふふふ…今回は私の勝ちだな。」どこからともなく若い女性の声が聞こえる。「さあ、明日も甘い夢を見せてあげる。明日もしっかり射精するのじゃ。快楽にまみれさせ、天国の夜を毎晩過ごさせてやろうぞ。ふははははー!」

 あああ…強い敗北感に襲われる。淫夢の誘惑に負け、夢の中でイッてしまったということは…

 「!!」

 僕はがばっと布団から上半身を起こした。息が荒い。すでに外は明るく、目覚ましの鳴る15分前くらいだった。

 股間が冷たい。パンツがぐっしょり濡れてしまっていて、陰毛も自分の体細胞でびしょびしょになっている。

 「…本当に夢精してしまった。」

 いそいそとベッドから降りる。やっぱり匂いが気になるな。シャワーを浴びて体を清め、着替えを済ませる。

 一度でも敗北すれば深みにはまるわけではないものの、夢精を繰り返していけば徐々に淫夢も深くなり、やがて抜けられなくなる。カリギューラの淫呪二日目にして、僕は大敗を喫してしまったのだった。

 深い嫌悪に包まれる。たしかに夢精は気持ちよかったが、ポッティに言われていたんだ。射精は敗北。フザケンジャーレッドとして、淫夢の誘惑に負けてイッてしまうなんて、この上ない屈辱だった。

 「くっそ、明日は絶対負けないぞ。」僕は朝日に誓って、気を引き締め直した。

 ッと、今日から学校に行くんだっけ。サボるとフザケンジャー基地で特訓させられるしな。行くしかないか。

 僕は制服に着替え、少し早めに家を出た。

 行ってみると、クラスの連中も教師も知らん顔であった。それもそのはず、こっちからツンツンとしていて、相手がかまってくるのも願い下げという態度を取っていたのだ。それが今日になって、いまさら学校に顔を出したところで、周囲の反応は冷たいに決まっている。

 ホームルームのあと、担任に呼びだされた。かったるい説教が始まる前に、今まで済みませんでした、これからは心を入れ替えて学校に行きますと誓って見せた。もちろん本心なんかじゃあない。そうやれば簡単にだませるんだ。ねちねち何か言われる前に反省の態度を見せればよい。

 早々に解放され、僕は教室に戻った。

 ぴりりりりり。ぴりりりりり。

 リストバンドが赤く光り、そこから電子音が流れている。これは・・・呼び出し音!?

 と、とにかく、教室で通信というわけにはいかない。僕は授業開始のチャイムが鳴っていることなどお構いなしに、男子トイレ目指して全力ダッシュした。

 「はやくでろーはやくでろーぴりりりいうとるやんけー」

 呼び出し音が変わっている。音が大きくなり、電子音から機械的な女性の音声に変わっていた。

 「あはーん! そこいいっ! もっとおまんこぐちゅぐちゅさわってえ! おくまでグッとグッとゆびツッコンでええ!」廊下中に響き渡るくらいの大音量で呼び出し音声ががなり立てる。目覚ましと同じように、早く出れば電子音で済むが、出ないでいると電子音が機械音声に変わり、徐々に声高になって、しかも内容がえげつなくなっていく。当然周囲の人が僕に注目する。

 「うわーん!」

 佐伯長官の作るメカはあまりに悪趣味だ。

 やっとトイレにたどり着き、個室に入った僕は、リストバンドのスイッチを押して通信を開始した。

佐伯:「やっと出おったか。」

僕:「いい加減にしてくださいよ。なんなんですかこの呼び出し音声は!」

佐伯:「気にいらんか?」

僕:「死ね!」

佐伯:「アハーン音声の次は君自身の声で“僕はロリコンです小学四年生の縦スジにしか興味ないdeath ”とか叫ぶ機能満載なのだが。」

僕:「殺す!」

佐伯:「あー、あとその次は、君のオナニー記録とオカズについて初めての瞬間から昨日までを赤裸々に告白するというすばらしい機能なのだが?」

僕:「死んでやるー!」

佐伯:「イヤならさっさと応答しろ。」

僕:「…。で? なんなんですか? 僕はこれから一時間目の授業なんですけど?」

佐伯:「悪いが出動だ。奴らが動き出した。」

僕:「!?」

佐伯:「場所は”ほんにぁら産業”地区。人気のない路地裏で朝帰りのチンピラ一人が天国軍団4人の襲撃を受けている。急いで現地に向かい、奴らを撃退するのだ。直ちにフザケンジャーレッドに変身し、現場へ急行せよ。」

僕:「らっ、ラジャー!」

 にわかに緊張感が高まってきた。

僕:「ナメてる戦隊!」びしっとポーズを取る。「…フザケンジャー!」ポーズを変える。「…レッド!」

 バリバリバリ! 僕の周囲を赤い光りが包む。次の瞬間、僕は全裸となり、周囲をレッドスーツが包み込んだ。

 「…よし!」フザケンジャーレッドとなった僕は個室を飛び出し、窓から脱出、校庭をひた走る。全校の生徒がわいわい言いながら、赤い全身タイツの走りゆく様を窓から大勢で一斉に見つめている。笑い声しか聞こえない。

 「フザケンジャーズック!」フザケンジャースーツの加速装置がフル稼働する。時速35キロのスピードで走り続けることができ、それでいて筋肉への負担や肺への苦痛は半分以下に軽減される優れた機能である。自転車でハイスピードを出すのと同じ速度だ。

 ここから駅まではおよそ6キロメートル。数分で着くだろう。

 町ゆく人々が、超スピードで走り抜けていく全身赤タイツの変態仮面を見つめている。振り返ったり、幼子が指さしては母親に咎められたり。そんな中を僕は全力疾走し続けた。

 「ぜえ! ぜえ! ぜはあ、ぜはあ、ぜはあ…やっと…ぜえぜえ…ついた…はあっはあっ…」

 負担は軽減されるとはいっても、ゼロにはならない。肺が破裂しそうなくらい走った。足の筋肉もガクガクいっている。

 が、おかげで僕は駅に着くことができた。

 ベルトの一部が財布になっている。小銭を取り出し、切符を買った。

 「えっと、ほんにぁら産業前まで490円、か。結構距離があるな。」

 電車が来るまでおよそ10分ある。人もまばらな中、呆然とホームにたたずむ全身赤タイツ。

 ほんにぁら産業、か。初めの内はごく小規模の製造・卸売商社だったが、からあげだかなんだか、変わった苗字の男が社長に就任して以降、あれよあれよのうちに会社は急成長、全国でも指折りの総合商社となり、世界を股にかける大企業となった。政界にも強い影響力があるらしい。もちろん、町全体がこの会社の支配下に入り、本社周辺は完全に牛耳られている。地区名もほんにぁら産業だし、駅名もほんにぁら産業前となっている。

 人間、どこで芽を出すか分からないし、思わぬ才能を秘めているものだ。

 そうこうしているうちに、のろのろと電車が到着する。

 座席は塞がっている。他にも何人か立っているな。僕は彼ら彼女らの間に入り、吊革につかまって電車にゆられた。

 ほんにぁら産業前まではこのまま40分くらい行けばいい。乗り換えがないから便利だな。

 吊革につかまり、窓に薄く映る自分自身を見つめる。顔を隠し、全身真っ赤なタイツで、チンチン部分が股間でデロンと垂れ下がっている。勃起した時にここがフィットし、十分戦えるようになっているわけだな。今は萎えているからテロテロになって垂れ下がっているわけだが。

 座席に座っている人、遠くで立っている人、隣の車両にいる人、いろんな人が電車に乗っている。ほとんど全員が、僕の方をチラチラと見ている。なかにはガン見してくるサラリーマンもいる。露骨に指さして笑い合う女の子集団もいる。次の駅に着くと僕の方を見ながら降りていく乗客たち。新たに乗ってきた乗客たちは目を丸くして全身赤タイツの変態仮面を凝視している。

 …。

 …えっと……

 …なぜワタクシは、かような辱めを受けなければならないのでしょうか。

 「えー、まもなくーほんにぁら産業前〜ほんにぁら産業前〜。」

 いつのまにか目的の駅に着くらしい。

 電車はのろのろとホームに滑り込んでいる。はやく到着してドアが開いてくれないかな。そんなことばかり考えていた。

 やっと電車が到着。僕は一目散に、フザケンジャーズックで改札口めがけて走り出した。

 だが、さまざまな電車のターミナル駅へと急成長したほんにぁら産業前の改札は、人、人、そして人。ごった返していて、なかなか外へ出られない。仕方なく僕は、周囲の人にジロジロ白い目で見られながら、改札の前の長い行列に並ぶのだった。

 前方でピンポーンと音がする。これだけの人がいれば、改札のタッチに失敗して足止めされる人も多くいる。そのたびに僕が改札から出るまでの時間が延びていくのだ。

 やっと僕の順番が近づいてきた。

 …えっと。

 走り込んできて僕の前に割り込んできたクソ女が先に改札にタッチしてピンポーンとやらかしやがりました。改札の小さな扉が閉まりました。クソ女はいらいらした顔で駅員のところにツカツカと早歩きしていきます。僕の目の前で扉が閉まり、数秒以上の足止めを喰らいました。こうした場合、クソ女を捕まえて顔の形が変わるまで殴り倒してもかまいませんか?

 とにかく、やっとの思いで改札を出た僕は、フザケンジャーズックで大急ぎで現地に急行した。

 現地の路地裏まで3分ほどかかったが、何とか到着したのだった。

 「ぜえ! ぜえ! ふ、ふざけん…げふっげふっ…はあ、はあ…フザケンジャーレッド、ただいま見参! …。…。…あれ?」

 めったに人のこない路地裏には、人っ子一人いなかった。

 天国軍団の姿もなければ、被害を被ったはずの青年もいない。通りかかる人もいないし、昼間なのに薄暗い路地裏は、ビルの影に隠れていて、誰も見向きもしない静かな路地裏のままであった。

 「…僕が初めてオナニーに目覚めたのは小学校一年生の時の登り棒…」

 「わあああ!」突然呼び出し音声が鳴り響いた。コンピューター合成で僕の声になっているリストバンドは、得意げに僕の恥ずかしい過去を大声で暴き始めたのだ。

 急がなければと走るのに夢中になっていて、呼び出し音に気づかなかったのか。いや、きっと何かの作為だろう。

 慌てて通信機能をセットする。

佐伯:「遅かったわ。」

僕:「誰もいないんですけど。」

佐伯:「とっくに天国軍団はチンピラ青年を吸いつくし終わっておるわ! お前が遅すぎるんじゃボケ!」

僕:「そっ、そんなこと言ったって!」

佐伯:「被害者はたしかに前科3犯で暴力の限りを尽くしたチンピラ野郎だったから、セイセイする側面もあるが、それでもやはり魔族を強化させ、世界を淫乱の方向に向けさせたことに変わりはないし、やはりここは食い止めるべきであった。」

僕:「そりゃあそうですけど、間に合わなかったのはもっと根本的な問題であってですね…」

佐伯:「いいから戻ってこい。」

僕:「え〜…」

 そこで通信は途切れた。仕方ない、また電車で帰るか。

 帰りの電車はもっと混んでいる。にもかかわらず、僕の周囲だけ、半径一メートルの空白ができていた。

 えっと…

 前略、天国のおかあさん(まだ生きてるけど)。

 なぜにワタクシは、行きも帰りもこのような辱めを受け続けなければならないのでございましょうか。

 「小学校六年生の時、クラスメイトの鈴原玲奈ちゃんが半ズボンで生足を露出していたことを日中チラ見し続け、さっそくその夜これを詳細に思い出してはチンチンをいじくっていたものであります!」

 「ぎゃああああ!」

 僕は慌てて通信機能をセットした。

佐伯:「今どこにいる!? 早く戻ってこい!」

僕:「その前に呼び出し音を何とかしろー!」

佐伯:「はっはっは。仕様じゃ。で、どこをほっつき歩いているのだ!」

僕:「電車ですよ! あと30分くらいかかります!」

佐伯:「うん。知っておる。早く戻ってくるように。」

 そういえば僕が見ているゴーグルの映像は基地司令塔のモニターに詳細に映し出されるんだっけ。

僕:「あっ! てめえ! 混雑した電車の中でわざと僕の恥ずかしい過去を暴露するために呼び出したな!?」

 ぷつっ。通信が途切れた。くっそ…覚えてろよ!

 その後、目的の駅に着くまでは、まさに針の筵にいるような気分であった。

 泣いてもいいですか?
 

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