ナメてる戦隊フザケンジャー!
第10話 淫夢はさらに深く、そして甘く!
………。
……。
…。
はっ!
僕は目を覚ました。
長い長い夢であった。
その時の出来事はよく覚えている。どんな夢を見て、そして…どのくらい射精したのか。内容もしっかり頭に焼きついている。
…杉戸村伝説、か。
自分には関係がないと思っていた。できることなら、余計なものに関わりたくもなかった。フザケンジャーのことで手いっぱいで、それ以上のことに首を突っ込まない方がよいと思っていた。
だが、あの伝説に淫魔、それも魔王か、これに匹敵する異形の者が絡んでいるとなると、話は別である。しかも、杉戸村は、あのボウイ将軍が目をつけた場所。何かといわくつきの土地なのだ。
とにかく、夢精してしまっているので、早々にシャワーを浴び、フザケンジャー指令本部に向かうことにしよう。ポッティなら何か知っているかも知れないからね。
着替えてクラムボム公園に向かう。
ポッティ:「…杉戸村、か。」
僕:「何か知りませんか?」
ポッティ:「うむ。実はな…」
僕:「…。」
佐伯:「…。」
並木:「…。」
ポッティ:「…知らん。」
僕:「なんじゃそりゃー!」
ポッティ:「今から280年ほど昔にそのような事件があったのは確かじゃ。だが、その当時私は別の事件につきっきりになってしまい、人間界のことにあまりタッチできなかったのだよ。」
僕:「別の事件?」
ポッティ:「うむ。地獄での反乱を鎮めておった。」
唯一神は忙しいのだな。
ポッティ:「だから私は直接あの事件に関わったわけではない。状況は報告を受けて知っただけのこと。その内容は、さっき君が説明した通りじゃ。」
僕:「間違いないのですね。女たちが暴走し、村が壊滅・衰退していくきっかけとなったのは。じゃあ、その原因は何なのですか? やはり淫魔が絡んでいると見ていいですよね。」
ポッティ:「うむ。」
僕:「カリギューラは”種”のことで手いっぱいだったはずだから、別の魔王が杉戸村に干渉したと見るべきでしょう。」
ポッティ:「その通り。私も直接は知らないが、あの事件には、『夜菟呼比売』という魔物が関わっているらしい。もともとは1700年以上昔に狐が化けた異形の者であったが、男の精を吸い続けて魔力を蓄え、人間どもを屈服せしめ、のちに神としてあがめられた。事件の起こった当時、300年ほど前の段階では、すでに信仰は薄れていて、土着信仰そのものが希薄になってはいたが、ヨウコヒメの土地神としての機能だけは残り、実質、杉戸村を神通力で支配していたようじゃ。」
僕:「…。」
ポッティ:「ヨウコヒメは古い土地神で、当時の村人でその存在を知るものはなかったが、その魔力は徐々に復活、ついには村を暴走させるに至ったのだよ。」
僕:「原因はやはり…」
ポッティ:「怨みのパワーじゃな。あの村は、形の上だけ一夫一婦制をしいていたが、実質は乱交状態だった。そしてそこから外れた者が、非業の死を遂げてきた。その「あぶれた男」の怨念と、その男が一人で慰めて吐き出し土に染みこんだ精が、ヨウコヒメを復活させてしまったのだろう。」
佐伯:「おそらくはその村の淫らな慣習も、一役買っていただろうな。」
ポッティ:「うむ。夫婦は二人でひとつ。一夫一婦がもっとも自然であるが、村全体が夫であり妻であるような状態では、魂はどんどん汚れていってしまうであろう。さらにそこからつまはじきにされた男たちの怨念、一生独身というのみならず、難癖をつけられてリンチされたあげくに自殺または他殺で死んでいった者の怨みが、ヨウコヒメをつき動かしたのじゃ。」
僕:「じゃあ、あの手記にあった“狂った女”とは…ヨウコヒメの化身!?」
ポッティ:「おそらく。そして…陰でヨウコヒメに手を貸し、騒ぎを決定的に大きくした魔界の魔王がいるのだ。…それこそが、いま我々の対峙している、ヘルサたん総統その人なのだよ。」
僕:「な、なんだってー!!?」
ポッティ:「あのヘルサという魔物はとかく日本が大好きでな。ちょくちょくこの国この土地にちょっかいを出しておる。今回こうしてヘルサたん総統がターゲットにしたのも、ここ日本だし。」
佐伯:「俺が”種”として生まれたのは? カリギューラも日本や日本人を選んだのか?」
ポッティ:「それはあくまで偶然だ。だが、ヘルサたん総統がカリギューラに目をつけた理由のひとつでもあるだろう。たまたまカリギューラが日本の佐伯翔を種に選んだことによって、ヘルサたん総統にとってカリギューラとの“パイプ”ができたのだ。とっかかりやすい地域を選んだということでな。」
僕:「…。」
ポッティ:「ヘルサは狡猾な魔物。組織を拡大し充実させながら、自分の手を直接下すことは極力避けようとする。あの当時も、総統になる前のヘルサは、現地の中級淫魔たちと手を組み、自身のパワーや部下、作戦などを中級淫魔たちに提供する代わりに、人間の精を一部提供してもらうという方法をとった。…実質的には、提供した以上の利得をヘルサたん総統はかっさらっていったようじゃ。そうやって力を蓄え魔王となり、今や総統と名乗るようになったというわけなのだよ。」
並木:「それなら、奴がカリギューラと手を組んだ理由も納得できるわね。天国軍団や怪人などの組織力や作戦をカリギューラに提供し、その代わりにカリギューラからとてつもない対価をせしめる算段。徹底的にカリギューラを利用しようという腹ということね。」
ポッティ:「まずまちがいあるまい。杉戸村で提携したヨウコヒメの時も、ヘルサは直接手を下さず、ヨウコヒメに戦術と部下を提供し、ヨウコヒメ自身に実行させて、そこで吸い上げた精の一部をヘルサたんがもらい受けたのじゃ。」
佐伯:「その後ヨウコヒメの名前は完全に歴史から姿を消すことになる。おそらくヘルサたん総統の奸智によって、ヨウコヒメは完膚無きまでに魔力を絞られてしまったのだろう。利用するだけ利用し、精を吸収したら用無しとなる。憶測だが、杉戸村の事件の後、ヘルサはヨウコヒメを葬っているのではないか。」
夜這いによる乱交、誰の子か分からないままの出産と成人。その歪んだ慣習が、その土地に魔力を蓄積させた。さらに、一部のあぶれた男たちが理不尽な殺され方をされ続け、その怨みと情念と精液が、太古の淫魔、夜菟呼比売(ヨウコヒメ)を復活させた。
ヨウコヒメは男たちの怨念と精を原動力にして、歪んだ慣習に満ちた空気から魔力をじわじわと蓄積していった。そして、人間どもを打尽する機会を虎視眈々とうかがっていた。
そこへ、ヘルサたん総統が近づいた。当時は総統を名乗っていなかったが、彼女は村娘たちの暴走をいかに引き起こすかの手段を提供し、また、暴走の決行時には部下を提供して、騒ぎを決定的なものに仕立て上げた。
そのさい、ヨウコヒメはヘルサたんの配下になるという方式をとらず、提携協力という形にされた。すでにヘルサたんの力は強大であり、対して当時のヨウコヒメはまだ中級淫魔。力の差が歴然としているが、それでもヘルサたんの配下にしなかったのは、縁を切りやすくし組織を守るためだったという。
一般に、男女の出生率は105対100である。男性が5%ほど余るようになっている。昔なら夭折という形で男女比のバランスが取れていた(現在は医療の発達によって幼い男の子の死亡率が激減、男女のバランスが崩れて大量の男が余計に余っている)が、それでも村ではわずかに男性が余った。このことは、ヨウコヒメの怨みパワーを増幅させる“エサ”には何百年も事欠かなかったことを意味する。犠牲になる男は、各世代に一人でもいれば十分だった。
力と怨念をたっぷり蓄えたヨウコヒメは、その頃にはすでに、ヘルサたんとの接触があったらしい。彼女はヘルサの入れ知恵によって“狂った女”として転生し、キチガイと言われながら美しさと色気で男たちを虜にし、乱交に加わりながら、着々と準備を進めていた。
そしてついにヨウコヒメは、280年前、用意周到に練られた作戦を、決行に踏み切った。逆夜這いを断れないよう男たちの精神を弱体化させておき、同時に村のすべての土から強烈な淫気を発散させて男女を狂わせた。
逆夜這いをかけた家の中は強力な淫気であふれ、そこに一緒に住んでいる女が暴走する。そしてその女が隣の家の男に逆夜這いをかけ、家の中を発情させては別の娘を狂わせた。暴走した女が増えるごとに淫気は強力さを増し、ついには村中の娘が暴走して男を襲い始めたというわけだ。
そのさいヘルサたんは、魔界を通り抜けられる程度の低級淫魔たちを数多く、異界から送り込んだ。上級神族やポッティが別の星・世界で事件解決に奔走している隙を狙って作戦を決行していたため、邪魔が入る心配はなく、送り込むのは人間の女性とほとんど同じパワーしか持たない娘たちで十分だった。これが、村娘たちの暴走とともに「女の数が急にどこからともなく増えた」からくりである。
事件は10日ほどで急激に収束する。それ以降、ヨウコヒメはなりを潜め、村に平穏が戻った。女性の発言権が強くなり、女性主導で村の運営がなされるようになったものの、夜這いの慣習は明治維新とともに急激に廃れ、ほどなくして村は滅んでしまった。土に染みこんだ怨念ばかりが残ったのである。
以上が、ポッティの知っている杉戸村事件である。
ポッティ:「まだ、実は謎が残っておる。未解決のまま迷宮入りした部分が多いのだ。」
佐伯:「ああ。いろいろ分からないことだらけだぜ。」
僕:「…。」
佐伯:「まず、なぜたった10日で大乱交は急に収束してしまったのか。ヘルサが絡んでいる上、ヨウコヒメに蓄えられた怨念は相当に蓄積していた。村人一人残らず絶えるまで続けられていてもおかしくはないはず。」
ポッティ:「佐伯長官の推測どおり、ヨウコヒメはその後行方不明となっておる。実際にヘルサがこの一件にどれだけ絡んでいたのかもはっきりしたことは分からぬ。魔王が絡んでいる以上、私が飛んでその場所に来なければならないほど、大乱交は国中に広がっていても不思議ではなかったのだ。だが、杉戸村内部だけで事件はあっさり終わってしまった。それも謎なのだ。」
佐伯:「10日目に何かがあった、と見るべきだな。」
ポッティ:「うむ。何かがあったのだ。それがなければ、村が壊滅するまで宴は続けられ、さらに近隣の村、地域、国へと“被害”は広がっていったはずなのじゃからな。人間界そのものを手中に収めようとしているヘルサにしては、私の不在中に攻められる千載一遇のチャンスだったのを、みすみす逃していることになり、不自然だ。」
僕:「そ、そういえば、その事件と現在の杉戸村との関連もよく分からないぞ。ボウイ将軍が杉戸村を狙っているんだ。」
佐伯:「ああ。あの場所に原油が出たのも不自然だ。あの村にはまだ魔力が土に染みこんでいるのかも知れない。我々としてもあの場所は調べなければならないだろう。いずれ余裕が出たら、君に現地に向かってもらう。」
僕:「すぐというわけにはいかないのですか?」
佐伯:「ダメだ。今行ったところで、何も見つけられずに帰ってくることになるだけだ。何か手がかりというか、証拠のようなものが必要だ。」
僕:「証拠…つまり、僕が淫夢内で杉戸村伝説の謎を解いてからでなければだめだということですか。」
佐伯:「そういうことだ。おそらく土地の怨念がカリギューラの夢に上乗せされて、あのような夢を見させているのだろう。」
ポッティ:「つまり君は、カリギューラの淫夢と、新世界の淫夢と、それに加えて杉戸村の淫夢に悩まされているということになるな。」
僕:「うへえ…」なんかげんなりだ。
ポッティ:「例の装置で君の弱体化は避けられるが、淫夢で精神が傾きやすくなっている点は危険だな。今のところ一晩に1種類の夢を見て朝になっているようじゃが、君が淫魔の誘惑に心を犯され、欲情に傾けば、一晩で数種類の夢を見るようになる。そうなればどんどん心は折れていき、そのうち淫夢から抜け出せなくなる。起きていても淫夢と混ざってしまうのだ。」
僕:「分かってます。そうなったらもう終わりですよ。どんなに体を回復させても僕たちの負けです。絶対そうならないようしっかり戦います。」
佐伯:「頼んだぞ。じゃあ、さっそく装置に。」
僕:「うっ…痛いハリですかそうですか。」
ポッティ:「毒素を抜いて弱体化を防ぐにはある程度痛いのは覚悟してもらわんとな。夢の中での射精回数が多ければ、快楽が深ければ、それだけ痛みも強いが、ワシがついているかぎり死ぬことはない。安心して刺されてくるのじゃ。」
僕:「それって…死ぬほどの痛みでも死ねない、という風に解釈できますが?」
佐伯:「天帝はお怒りだ。」
僕:「いやああああ!!」
いやがる僕を並木さんが手際よく拘束し、装置に放り込む。あとは全自動で革ベルトが全身を固定する(余計なところ改善しやがって!)。あとは…ご想像の通り。
僕:「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
だが、痛いのが終わると、不思議に体力が充実し、精力にみなぎって元気になるのである。これも鍼の効果か神通力か。
淫夢に毒された元気さとは何かが違う。夢で何度イキ果ててもすぐに元気に復活してしまうが、どこかせかされているような、駆り立てられているような不安定さがあった。だが、ポッティの鍼は気分爽快なのである。
鍼が終わると、その日は学校に行くことになった。いったん家に帰り、制服に着替えて、学校に行く。
ほどなく学校に着く。あいかわらず暗い雰囲気の教室だ。いや、クラス自体はわいわいと楽しそうなのだが、その一方で絶えず突き刺さるような攻撃的な雰囲気があった。明らかに、学校全体が僕をじわりと敵視しているのが分かった。異質なものが排除される集団の特性が徐々に牙を剥いているのが分かる。
あー、こういうのがそのうち影に隠れてのいじめに発展していくのだな。
もっともそれは、ずっと不登校だった僕自身に原因があるのだが。たまに学校に来れば、異質な人間が混ざることになるので、周囲も警戒と敵意の混ざった感情を滲ませるほかはないのだろう。
・・・どうでもいいや。僕にはもっと大事なことがあるんだし。
授業もそこそこに適当に時間を過ごし、誰とも口を利かずに学校も終わる。放課後はすることもないので、まっすぐ帰ることにしよう。
「神谷!」
担任の先生が昇降口で追いかけてきた。これから帰ろうというのに、邪魔なやつだ。
「…ちょっとこい。」「…なんですか。」
僕は職員室まで連れてこられた。
「なあ、まだ学校をサボり続けるつもりか?」…またその話か。
別にここ数日は、サボりたくてサボっているわけじゃあない。そりゃあ、以前は無気力で、何とはなしに喫茶店にいてぼーっと過ごしていたが、今はフザケンジャーの任務があるからね。
もっとも、フザケンジャーのことは口が裂けても言えない。敵側に正体が分かっているとしても、教師にセックスで戦ってますとか言ったらいっぺんで精神病院に強制送還である。
「…目的があればいいってことだよな。」「えっ?」「人生はいやなこともあるし理不尽だってある。でもな、何か目標とか目的があって、それを達成しようとするから、毎日がおもしろくなるんだ。」「はあ…」
目標ねえ。たしかに、ヘルサたん総統から世界を守るって目標があるからがんばれるってのはあるな。
でも、人間界の目標は結局お前らが勝手に設定して勝手に押しつけてくるんだろう。くだらねえ。
「小さなことでいい。自分の目標を作ってみろ。その日その日の目標や計画を立て、ゲームのようにそれを達成するよう努力するんだ。時には気も抜いていいだろうし、のんびり何にも考えないで好きなようにするのもいいだろう。だが、毎日がそうでは良くない。小さな目標を達成すれば、あとはのんびり気楽に生きればいい。あとは明日やればいい。」
「…。」
「外から目的を与えられてそれに従わされることもすっごく多いけどさ、それはそれでソツなくこなしておいて、その一方で、自分の中だけで目標を作れば、今のお前みたいに生き生きした目をするもんだ。あるいは、組織が与える目標と自分の目標が一致した時もそういう目つきになる。お前のまなざしは、登校拒否中の死んだ目ではない。以前とは別人みたいだぞ。」
先生は僕の顔をまっすぐに見据えた。
「…お前には何か目標があるんだろう? おっと、自分の目標なんてえものは、人に話さなければならないものでもない、自分の中にしまっておればいい。」
「先生…」
「何があったかは分からないが、お前には何か目標ができた。そうだろう?」
「ええ…まあ…。」
「生き生きしているもんな。…だからこそ、このまま学校をサボり続けるのはもったいないと思うんだ。」
「…。」
「目標は小さくていい。いろいろな場所場面で、いくつも持っていれば、その分たくさん楽しめる。違うか?」
「あ…」
「内容は分からないし、別に話す必要もないが、今お前は学校の外で何か目標ができた。そうだろう?」
「…はい。」
「それはそれで大事にして欲しい。しかしその一方で、学校に来る。学校でも目標を見つける。授業中はまだ死んだ目で、帰る時に目の色が変わる、そういうエネルギーがあるんなら、授業中でも放課後でも、いつでもお前はもっと、イロイロなことについて興味を持って、いろいろなことに目標を持って、どんな場所や時間でも生きたまなざしを持った方がいい。その方が毎日は楽しい。違うか?」
「そう…ですね…」
「なあに。教師の俺が言うのも何だけどさ、四六時中がんばれなんて言うわけじゃあないんだ。無理にがんばろうとしなくても自然と努力できるのが最高の瞬間じゃん? 自然と没頭できれば楽しいよな。そういう心の余裕があれば、ちゃんと生き生きしながら、その一方であくせくしないでゆったりのんびり生きることも同時にできるんだ。そういう毎日をおすすめするよ。」
「…。」
「とりあえず、学校に来てくれ。無理にではなく、何かの目標のために来るようにするんだ。新しいグループに入ってもいいだろうし、部活やら図書委員やらいろんな活動もある。もちろん、授業だって。他にも、生徒会の雑用とか図書委員とか。」
「はあ…」
「とくに図書委員なんておすすめだぞ。がちがち体育会系のきつい運動部なんてお前の趣味じゃなさそうだしな。文化部もあるけどさ。茶道部とか図書委員とか。天文部とか図書委員とか。あ、もちろん体を動かしたいなら別に運動部を勧めないわけじゃあないぞ。卓球部とか図書委員とか。陸上部とか図書委員とか。」
「…。」
なぜに図書委員? 目標なんて作れんのかよ。てか人員が足りないだけなんじゃないの?
「・・・せんせえ。委員会は他にないのですか? 放送委員とか。」
「あ…ああ。あるよ。いくつもあるよ。図書委員とか図書委員とか図書委員とか。」
「全部図書委員じゃないかあ!」
「…清純ストレートヘアのめがね娘がわんさか。」
「ちょっと覗いてみようかな。」
「分かればいいんだ。さ、それじゃあさっそく図書室に行こう。」
僕は先生に図書室に連れて行かれた。どう考えても図書委員のなり手がいなくて困っていたようだ。ジミだし人気がないのは仕方ないけどさ。
図書室に来ると、中はがらんとしていた。制服の女子高生たちが数人、座ってぼーっとしているだけである。
「何を隠そう俺はこの図書室の管理をしているんだ。」先生が得意げに言う。やっぱり引き込みたかっただけか。がっかりだ。
「あ、先生。」一人の美少女が僕たちの姿を認め、駆け寄ってくる。背の低い、清純ストレートヘアの、眼鏡をかけて女子高生。名札からして、高校3年生の先輩だ。
「こいつが神谷。こないだ話したろ?」
「あーー! 来てくれたんですね! わあ、男の子が来てくれたらって思ってたんですよ。」女の子は嬉しそうに僕の前に来てにっこり微笑んできた。なかなかチャーミングな人だ。
「…神谷達郎です。」
「神谷君ね。おーいみんなー!」
先輩は周囲にいた女の子を呼びつけた。図書室で大声出して、と思ったが、どうやら利用者は誰もいなくて、中にいたのは全員やることのない図書委員の人だったらしい。
「この人が二年生の神谷君。図書委員になってくれるんだって!」
「わあ!」「やったー!」「男の子キター(゚∀゚)」
女の子たちが一斉に僕のところに駆け寄ってくる。
…って。僕は覗いてみるだけって言ったのに、なぜが図書委員のメンバーとして迎えられている気がするんですけど?
「本当にありがとう。神谷君が来てくれたら百人力だよ! あ、私は委員長の横溝ありさ。で、こっちの人が副委員長の小林乙女。」
「よろしくー☆」
「はあ・・・よろしくおねがいします。。。」
「桐谷雪です。」「守屋みほです。」「磯野波子です。」「加賀屋瞳です。」「杉レナです。」「佐藤塩美です。」「福井純です。」「知真理です。」「山形亜由子です。」「成霧礼子です。」「住田
川瑞乃です。」「風浦可符香です。」「神谷綾梨です。同じ苗字だね☆」
制服の女の子たちが次々と自己紹介してくる。
てか、図書委員って女の子しかいないのか!? 全部で15人の、1年生から3年生までの女子高生がこぞって僕を歓迎してくれる。
なんだか成り行きで図書委員にされてしまった。
「と、いうわけで、さっそく活動お願いね。」
委員長から依頼された最初の仕事は、当然のことながら荷物運びであった。本は重い。これを先生がやっていたのが、先生はお疲れだということで、これから先は僕がやることになったのである。
…。
ていのよい力仕事要員ではないか。
ポッティの厳格な掟によって、想い人のいない女性との出会いは絶対にないんだっけ。つまり、この女の子たちにも、必ずつきあっている相手がいるということ。
そりゃあ、これだけかわいらしくて、すれたところもなくて、純粋そうで、髪の毛サラサラで、めがね率80%で、肌のキレイな娘たちだ。彼氏がいない方がおかしい。これが現実だ。あっはっは〜
夕方になるまで、僕はひたすら本を運ばされ続けた。
やっと終わって、僕は女の子たちに感謝された。が、終わると思い思いに帰っていく。ものっそいリップサービス臭がするんですけど。
二度と行くもんか。
一瞬でもモテるという錯覚をしてしまった自分への戒めとして、この中の誰かとチャンスがあるという期待を密かに抱いた自分自身への制裁として、この荷物運びはいい天罰だったかも知れない。
帰る頃にはすっかり暗くなっていた。
力仕事をした疲れで、僕は食事も適当に、ベッドにごろんと横になった。
目標、か。先生の言っていたことはあながち間違いではないよなあ。ただそれをダシに図書委員に入れるのが姑息だけど。そういうのが大人のいやらしさなんだよなあ。
でも、目標を持つのは悪くないかもな。学校でも、キノコぐんぐん伝説でも、もちろんフザケンジャーとしても、それぞれに小さな目標を持ってみようかな。すぐに達成できそうなものを積み重ねていくんだ。
大きな目標、ヘルサたん総統の撃破とかは、そうした積み重ねの結果として届いてくるもんなのかも知れない。
それなら、たしかにやる気もわいてくるというものだ。
これから寝れば、必ず淫夢の世界に突入するだろう。図書委員の美少女たちに出会ったからには、彼女たちが襲ってくることも覚悟しなければならない。…初日なのであんまり顔も覚えていないし名前も実は覚えきれていない。まあうろ覚えであれば夢には出にくいかな。そうあって欲しいものだが。
そんなことを考えているうちに、だんだん眠くなってきた。
######
深夜の居酒屋。
客はほとんどなく、小じゃれたバーの片隅で、男と女が、互いに背を向けて座っていた。
静かな音楽が流れ、ゆったりとしたアダルトな雰囲気が、チェーン店の居酒屋の喧噪とは違う静けさと色気を醸し出していた。
「…君、一人かい?」男が女に話しかける。
一瞬、未成年者ではないかと思わせるほど清楚可憐な風貌をした女性は、それでも人を惹きつける大人の魔力を振りまきながら、男の方をゆっくり振り向いた。
「…ええ。」
「おとなのバーにふさわしくない少女が来たと思った私を許してくれ。あなたはとても素敵なレディのようだ。」高級なスーツに身を包んだ男性は40代半ばのようで、オールバックの渋い風格を備えている。
「…ありがとう。あなたのように素直な人、そんな人に声をかけられるのを、ずっと待っていたの。…誰もなかなか声をかけてくれないから、私もずいぶん酔ってしまった。」
「おっと、それなら君は素直ではない人だね。私よりも後に入ってきて、ほとんど飲んでいないじゃあないか。」
「…ふふっ、弱いのよ、私…」
男と女は、無言で出て行った。彼らは知り合いではない。ついいましがた初めて出会った、見ず知らずの大人の男女であった。
少し歩くと、女がふらふらし始める。「…本当に酔いすぎてしまったみたい。」「…大丈夫かい?」男はそっと、女の肩を抱いて、ふらつく足をサポートする。その瞬間、電撃が走ったように、女は体をびくっとさせ、次いで男の幅広い胸板に身をすり寄せた。「…どこかで、休みたい。」
男は女を近くのホテルに連れて行った。
経験豊かな男は、心の片隅で、こんなにうまく事が運びすぎていることに違和感と警戒感を強めてはいた。話がうますぎる。行きずりの少女風の女がふっと入ってきて、ものの数分もしないうちに彼女に話しかけたくてたまらなくなり、そうして話しかけてからは、あまりにもとんとん拍子で、ラブホテルまでその女を連れ込めたのである。
だが、彼女に対する劣情を抑えることができず、彼女の雰囲気から醸し出される魔性の甘い魅力に抗うこともできなかった。
シャワーから出てきた小柄な女。バスタブで小さな体を包み、水色のフチの四角いめがねが可憐さを際だたせた。
男はシャワーを浴びることさえ忘れて、呆然と彼女を見つめていた。何も考えられなくなり、彼女を抱きたいという一点に心を奪われてしまっている。
女は、シャワーを浴びない男を意に介することなく、ベッドに座っている彼の隣にちょこんと腰掛けた。
「…。やさしく、して。」かすれるような声で男にささやくと、男は熟練のテクニックで女の全身をまさぐった。
みるみるうちに彼女の体はピンク色に染まり、顔を上気させる。
バスタブを取って裸になり、小さな胸とスレンダーな体の美しさを目の当たりにすると、男は待ちきれない風に服を脱いで、全裸で彼女に飛びつくように抱き締めた。
さすがに経験を経ている男性は、テクニックも執拗で高度である。じらすことで性感を高めていった。女はそれに体で応えていく。
感じやすい女はあっという間に脱力し、男を受け入れる準備をすぐに整えるのだった。
男はペニスを彼女にねじ込んでいく。コンドームさえ用意しない女の挙動に、心の奥底で警鐘が鳴るも、もはや男は自分で自分を止められないでいた。
正常位で結合すると、これまでに味わったことのない強烈な快楽が男の全身を支配し、一瞬にして射精させられてしまう。
しまった、と、男は思った。ここまで来ておいて、不覚にも一瞬にしてイッてしまう自分が情けないし、もちろんそんな早漏オヤジでは彼女に嫌われるのは火を見るよりも明らかであった。
「…。」
だが、女はそんなことを意に介さず、すぐに男にしがみついて、例の甘い声でささやくのだった。「…まだ、できるでしょう?」
その言葉に火がついた男は、挿入したままピストン運動を始める。だが、どういうわけか、男の培った技術や我慢強さなどいっさい通用せず、ものの数秒でふたたび爆発してしまうのであった。
これまでこれほどの名器に出会ったことはない。人間でさえないみたいだ。
「…。」
女はあお向けになったまま男のなすがままになり、しかし時折男の上半身をまさぐったりぎゅっと下から抱きついたりして、何度も射精し続ける男の情欲をかき立て、ふたたび勃起させては下半身で包み込んで、すぐさま子種を奪っていくのであった。
だんだん男の方に恐怖感がわいてくる。おかしい。何度も何度も、数え切れないくらいに、連続して、短時間で、この女の膣に搾り取られている。
それなのに、少しも疲れることなく、枯渇することもなく、痛みもなく、まだまだ衰えないのだ。
それどころか、熱病に浮かされたように、ますます元気に、絶倫になっていく。性欲もどんどん高められ、連続射精しても次の絶頂まで時間がかかるのではなく、かえって次の射精までどんどん時間が短くなってさえいるのである。
男は戦慄した。この女は異様だ。このままだと体がどうなってしまうか分からない。そう思って離れなければと警戒を強めるも、女の目を見たりその肌に触れたりしているだけで我を忘れ、ふたたび欲情に身を任せて腰を振ってはどんどん律動し続けるのであった。
女の名はボウイ。魔界の将軍である。
彼女は淫魔として上位に位置する身であったが、上司である魔王ヘルサの命により、人間界にやってきた悪魔である。そのさい、大部分の魔力は魔界に置いてこざるをえず、おまけに、特有の弱体化を身に受けなければならなかった。
その弱体化は恋着。一瞬でも触れた男性に対し、心の底から惚れ込んでしまい、心を奪われてしまうのだ。
だからこそ、人間の男性のテクニックに身もだえし、顔を上気させるに至ったのである。事実彼女は、この金持ちそうな男を好きになり、心から愛し、そのペニスから子宮に精が注がれるのを女の至高の悦びとして受け入れていたのである。
(ああっ、この人を助けたい!)
ボウイはそう願った。だが、その心とは裏腹に、警戒して腰を止めた男性にしがみつき、体は男の上に馬乗りになっている。その先は騎乗位で、最後の一滴まで絞り尽くし、その男性を射精死に追いやらなければならなかった。
魔力が完全回復すれば、恋着の弱体化もなくなる。彼女は一刻も早く、多くの男から精を吸い取り、魔力に変換して、自分の力を回復させなければならなかった。
それがヘルサの至上命令でもあり、自分自身にとっても最大級の任務でもあった。
この男への恋心が偽りのものであり、ポッティによる弱体化攻撃の結果であることを、頭ではわかりきっていた。だから、脳はしっかりと指令を出し、女体を駆使して男から生体エネルギーをどんどん奪い取っていくのだ。
だがやはり、ボウイの顔は苦痛と悲しみに歪んでいた。
世界で一番大切な愛する人を、この手で殺さなければならない。
何度繰り返しても、その切なさと苦しみは耐え難く、一向に慣れる気配はない。
「ああっ、ごめんなさいぃ!!」ボウイは涙をはらはらと流しながら、オンナをぎゅううっと締め上げた。
「あががあ!」男は断末魔の叫びに顔を歪ませた。もはや骨格から歪んでしまっているような絶望的に醜いひしゃげ方であった。だがその脳は快楽にすべてを忘れてしまっており、死の恐怖に歪みきった表情はまた、全身の性感神経がすり切れて狂い切ってしまった、天国の男の顔でもあった。
ぐぼぼ…
男はみるみる小さくなっていき、肉がそげ落ち、骨と皮ばかりの黒い固まりとなった。さらにその固まりも縮み、股間に集まると、ボウイの膣内に吸い込まれていった。こうして、男の肉体は髪の毛一本残さず、将軍の魔力として吸収され尽くしてしまったのである。
「…。」
ボウイは立ち上がった。近くにたたんでおいた白いワンピースを身につけると、ふっとため息をつき、男と交わっていたベッドを冷たく一瞥すると、黙ってホテルを出て行った。
恋着の呪縛は、その男性が死ぬと解除される。もはやボウイは魔界の将軍の顔となっており、冷徹な判断で寡黙な妖女に戻っている。
「…いまいましい呪縛だ。」街の中でつぶやいた声は、喧噪の中、誰にも聞き取られることなくかき消されていった。そうして、次の、生体エネルギーにあふれた男を求めて、そうやって一晩中歩き回るのである。
実際、ナンパには困らなかった。夜の繁華街で、清純な美少女が、場違いなフリフリドレスをなびかせながら歩いている。目が合いさえすればその男性を虜にできるだけでなく、彼女の香りを嗅いだだけで声をかけずにはいられなくなる魔力があった。
次から次へと男に誘われては、根こそぎ吸いつくしていく。家出少女ではと職務質問をしてきた警察官チームでさえ、彼女の毒牙にかかって職務を忘れて全身を捧げるのだ。
そのつど彼女は心をかき乱され、涙を流して詫びながら愛する人をその手にかけ続け、魔力を回復させていった。将軍に戻った時も、自分の心が苦しめられるストレスにいまいましさを感じながらも、この苦行に引き続き身を投じ続けるのであった。
ボウイの行動はフザケンジャーたちにキャッチされない。レーダーに反応しないようバリアをはりながら行動するのである。その上、ボウイは狡猾に、吸い取る場所を毎晩変えており、法則性も持たせない。事件発生場所を地図上でチェックしても何も出てこないように調節されている。
街中に、ケバケバした女と暴力的な男どもが蠢く魔の繁華街に、一人の可憐なユリの白花が舞い降りたら要注意。そいつはきっと、泣きながら魂まで根こそぎ吸いつくす、悪魔の将軍なのかも知れない。
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………。
……。
…。
僕は自分のベッドに寝ていた。
部屋中に甘い香りが充満している。この香りには覚えがある。そう、女たちの性欲を刺激し、狂わせていく魔性の淫気だ。
男性に対してはほとんど影響はないものの、やはり多少は性欲を刺激され、女性の体のあちこちやその形状に対して通常以上に魅力を感じやすくなる。
しかも、この淫気を吸って発情した女性の体臭や息は、男性の性欲を刺激する芳香となるのである。これにより、淫気そのものの影響が男性になくても、女性の吐く息やアソコの香りによって、淫気と同じ効果が男性にもあるという構造である。
その淫気が部屋に充満しているということは、これは夢の世界、しかも新世界の紹介バージョンである。
…ってことは、ヤツがあらわれるということなのである。
「たつろー!」
部屋に入ってきた白装束の美少女は、まぎれもなく僕のご先祖サマで脳天気なドジ娘、みさその人であった。
みさは小さなマスクをして口鼻を隠している。この淫気に毒されて案内もできないようではいけないと、マスクをしているのだろう。
「そんなマスクがあるのなら、新世界になりかけてもそれを量産して配れば問題なさそうだな。」
「だめだよ。コレはヘルサたん総統じきじきにお貸しくださったもので、今はこのひとつしかないんだから。」
「構造を調べればすぐコピー品が作れそうだが。」「絶対貸さないよーだ☆」「…。」
奪ってもいいが、今それをやってもあまり意味がなさそうだ。僕一人ではこの魔法道具の構造は調べられないし、そもそも夢なのだし、なにより、このマスクを奪うということは、みさが淫気に暴走することを意味する。
とりあえず適当にあしらっておいて、隙を見て奪っておくか。現実世界に持ち込むことはできないだろうけれども、大まかな構造を含め、マスクの存在を、目が覚めてからポッティに報告すれば、何か手が打てるかも知れないしね。
「さ。今日も張り切って新世界を案内しちゃうぞ。」「帰れ。」「まぁまぁ。こないだよりもっとおもしろいことになってるよ?」
「みーさー…」僕は力一杯ガシガシとみさの頭を撫でてやった。もちろん愛撫ではない。
「ちょっ、いたいいたい!」
「みーさみさみさみさみさみさみさみさみさッ! みっさああああッッ!!!」
「ぎゃああああ!」もはや頭を撫でるというよりもばしばし叩いていた。名付けてみさみさラッシュである。もしかしてみさみさですかぁ? Yes! Yes!
Yes…オーマイガッ
「なにすんだよ! ご先祖サマだぞ!」「黙れ。こないだの仕返しじゃ!」
みさは頭を抑えて涙目になっている。仕返しというのはもちろん、レディースなお方たちに暴力と性力で徹底的に絞られたのにもかかわらず、助けてくれなかった仕返しである。
「だってしょうがないじゃない! 私は幽霊で、達郎にしか見えない触れない体なんだから!」「てかなんでお前ずっと僕のこと呼び捨てなの?」
みさはニヤーッと笑って頬を染める。
「ほっほっほ。私と達郎の仲じゃない。」「仲じゃない。」「ふええ…」
まったく。
とにかく、ここは適当に受け流して、ちゃっちゃとやりすごし、早々と夢から覚めてしまうのが吉というものだ。
「さ。外に行きましょ。」「ひきこもりたいです。」「べつにいいけど、…ルール忘れたんだっけ? 外での本番行為は、人目につかないところのみ。…今や専用の施設があちこちにできてるよ。そして、家の中では昼夜いつでもやりたい放題。ここにひきこもってたらパンツ一丁のお姉さんがかぎつけて訊ねてくるけど?」「・・・でかけようか。」
家の中は思っている以上に危険なようである。しかたない、外に出て、様子をみてくるか。
「おっと。法律で決まってるのよ。外に出る時は下はパンツ一丁。ただ、規制緩和されて、男性はブリーフまたはトランクスになってるから。着替えて着替えて。」「…。」
下半身が下着一枚だけということの違和感を、新世界の女たちはまるで感じていないらしい。そりゃあ、家の中ならそういう格好のアネゴもけっこういるだろうけどさ。そのまま外に出なければならないということが信じられない。
僕自身、そんな格好で外に出るのはたまらなくいやだった。どんな羞恥プレイですか。
僕は上半身裸、下半身ブリーフというあまりにも破廉恥な格好で外に出ることにした。なぜか下着しか持っていないからである。念のため、小さなバッグにトランクスも詰め込んでおくことにした。
「じゃあ、外の様子を見てみるよ♪」
僕はみさに連れられて町の中に出てみることにした。
電車にゆられる。自動運転らしい。みさによれば、悪魔の力で労働分野はどんどん機械化され、男女ともに勤労の義務から解放されているのだという。ごく一部のサービス業以外は、ほとんど機械がやってくれた。
電車の中はあいかわらず人がいない。だが、利益追求の必要もなくなった新世界では、ひっきりなしに電車が運行されており、待つこともなく乗れるけれども、その代わりに電車の中はガラガラという状態なのだ。
本来なら、本数を減らしたり車両数を減らしたりし、なんとかして乗客を座らせないように工夫するのが“企業”として必要な利益追求努力(どうしても座りたいならごくまれな偶然性に頼るかグリーン車で金を払えと)なのだ。いつでも満員になるくらいでなければ商売あがったりである。座席が空いてるなんて考えられない。そのくらいの勢いで、J●は必死にがんばっているわけである。
が、今は全然違う。新世界では、努力なしに何でも手に入る。エネルギーも物質も食料も好きなだけ使うことができる。空気のように、無限なのである。だから希少価値が生じず、経済が破綻する。が、それで誰も困らない。道楽を除いては利益を追求する必要がなくなっているのである。
どうやら、この電車に乗っているのは僕一人のようだ。運転手も車掌もなく、僕とみさが街までゆられていく。
街に着くと、以前よりも人が増えているのが一目で分かった。
かつてのように男女が入り混じって大勢であちこち歩き回るような繁華街ではないが、それなりの活気を取り戻している。
もちろん、街にいるのはみんな若い娘たちだ。淫気も濃くなり、それまで羞恥心から家に引きこもって、外に出ることをためらっていた娘たちが、外に出てきたのであった。
同時に、男性の数はますます減少し、街中に姿を見せることはほとんどなくなっている。こうして見回しても、僕以外の男性の姿は見あたらない。
「ちなみに今はね、男1人に対して女180人になっているよ。法律も少し改正されてるね。」「…。」「まだ一斉に襲ってくるほどに狂わされてはいないけど、性欲は相当なものになっている。それを保護するように決まりもイロイロ変わっている。たとえばね、そこ見てごらん。」
みさに指さされたところを見ると、小さな城のようなものが立てられていた。こういう造りはたいていラブホテルだ。
繁華街の駅前に堂々とラブホテル!?
しかもよく見ると、駅前だけでも数件、街のあちこちにも似たような煉瓦造りの城が建てられている。
「以前の法律だと、女たちの誘いに応じた男は“物陰”とか人目につかないところでなら性行為をしていいってことになってたんだよね。でもそれだと、物陰が追いつかなくなってきて、公然猥褻が流行り始めたの。そこで、政府は法改正して、無料のラブホを大量に建設、誘いに応じた男はそこでなら好きなようにやることができるってことになったの。」「…なんだかなあ。」
僕の姿を認めた女性たちが近づいてくる。繁華街は危険だ。
僕はきびすを返して、足早にその場を立ち去った。
僕一人にいきなり180人が群がってくるわけではない。まだごく一部、家に閉じこもっている娘もいるはずだし。
それでも、やはり人数は多かった。道路も裏路地にも、たいてい数人の女性たちがいる。走るように逃げていると、その先々でかわいらしい女の子たちに出くわしてしまうのだった。
こんなに若い女性の比率が高い世界は、たしかに斬新だろう。現実に外に出れば、周囲にいるのは男とおばちゃんばかりである。若い娘など皆無だ。というのは言い過ぎかも知れないけれども、今や僕の周囲には100%若娘ばかりなのである。しかも全員がパンティで生足露出状態。目のやり場に困るというものだ。
彼女たちは僕に出会うなり顔を上気させ妖しい笑みを浮かべながら近づいてくる。捕まったら何されるか分からない。とにかく僕は逃げ続けた。が、町の中は女たちでいっぱいだ。逃げ場などあろうはずがなかった。
「そうだ!」
僕は近くの洋服屋に飛び込んだ。「なあ、みさ! この世界では商品は当然すべて無料なんだろ?」「そうだよ?」「よし!」
僕は女物の洋服を適当に見繕うと、女子トイレに駆け込み、個室で着替えた。
大きめの女物のシャツと、ブラウスに身を包み、かっさらってきた口紅を濃いめに塗る。それから見通しのよいサングラスをして帽子を被った。下はもちろん女物のパンティである。
「…アンタって、そういう趣味があったの?」「うっさい! 作戦じゃ!」
女性にしては背が高めではあるが、このくらいの女の人は今時めずらしくもないし、女装&グラサンで身を固めれば、近くで見ない限り分からないはず。
そっとトイレから出る。さっきみたいに露骨に追いかけられることはなくなった。だが、よく見ればやっぱり男だし、一時的なごまかしに過ぎないことは百も承知だ。どこでも好きなように安心して行き来できるほどではない。警戒はしておかなければ。
そうは言っても女装する男に近づく女もグッと減るのではないか。好きこのんで“変な人”を誘おうとはしないだろう。
「ふうん。おもしろいコト考えたねえ。女装すれば遠目からは分からないから囲まれる心配もない。近くにいれば気づくけど、女装が気持ち悪いのであまり近寄ったり誘惑してきたりもしない。」「…。」
あんまりいい気分ではない。自分がキモチワルイのは重々承知しているからである。疑似オカマな僕に好きこのんで近寄ろうとする娘も減るだろう。事実、そばを通り抜けた妖艶な女性は僕を一瞥すると、ツカツカと足早にその場を通り過ぎてしまった。
内心傷つくが、この新世界で射精せずに済ませるにはやむを得ない犠牲である。
「でも甘いわね。そんな程度じゃあへこたれない子もいっぱいいるよ?」「…。」「あと、口紅が濃すぎる。少しつけて伸ばすようにつけるんだよ。それじゃあオバケだわさ。」「…。」…お前がゆーな。
でも、たしかにみさの言う通り。僕はハンカチで口紅をぬぐい、ほんのり赤く映える程度に抑えた。「どっちにしても、そんな付け焼き刃じゃあ、新世界の魅力に抵抗することは難しいわね。」「…。」「何とか言えよコノヤロー!」
「うっさい! そんなことは分かりきっとるわい!」僕はみさをしかりつけた。そのとたんに、売り場にいた娘たちが一斉に振り返り、僕の方を見る。
そりゃあ、低い声を出せば、遠くからでも、女装した数少ない男がここにいるってばれちまう。当然彼女たちは、じりじりと僕の方に近寄ってくるのだ。
僕はダッシュで店を飛び出した。「あー…そういうことだったんだね。ごめん、ほんっとごめん。」みさは僕の真横を浮遊しながらしきりに謝ってる。やっと僕が黙っている理由を察知したらしい。こいつもとんだドジ娘だ。気をつけておかないと、こいつのヘマでどんなひどい目に遭わされるか分かったもんじゃない。まったく。
「でも、会話ができないんじゃあ不便だし、達郎が何か疑問に思っても質問できないね。じゃあ、何か話したくなったら私の手を握って念じて。それで伝わるから。」
僕はみさの手をきゅっと握りしめた。女の子らしいやわらかくて小さい手。それでいて指はしなやかに細く、手のひらや甲はムニムニしてる。
(そんな方法があるならはじめから言えこのヘボ幽霊め!)
「はうう! ひどい…! しょうがないじゃない! 達郎がずっと黙っているなんて想定してなかったんだから!」
(そのくらい予想しろ!)「むーりー!」みさはチロッと舌を出した。(しね!)「もう死んでるもーん☆」「…。」僕はみさから手を離した。
すこし歩くと、店が見えた。カレー店と牛丼店とハンバーガーショップが建ち並んでいる。そういえばお腹がすいたな。起きてから何も食べていない。
夢なのに腹が減るのは、魔王の干渉により、夢でありながら半ば現実でもあるからである。
何か食べていくか。
(お前も何か食べられるのか?)「あー…ごめん。まだ無理。」(そうか。この新世界では案内役で、世界の住人には見えない幽霊だもんなあ。)「でもね、新世界になったら私も具現化できるから、そうしたらお腹いっぱい食べるんだ。…あのね?」
みさは急にしおらしくなった。
「私が飢饉で死んだのは話したよね? だから、何かを食べることはずっとあこがれだったんだ。現代や新世界にはおいしいものもたくさんあるから、具現化したらまずはいっぱい食べるんだ。お腹いっぱい食べるってとっても幸せなことなんだよ?」「…。」
そう、だよなあ。
みさは江戸末期に死んだご先祖サマ。死ぬ間際はそれは苦しんだに違いない。ひもじさという点では、彼女も苦労したのだ。その思いはたしかに残っているらしい。
しかも、幽霊になってからイロイロ知識を蓄えていて、食べ物の知識も豊富にある。実際に彼女自身の舌で味わっていないだけである。それは強い願望として今も彼女の中にあるに違いない。
何か食べさせてやりたいなあ。
「あ、気にしなくていいよ。幽霊になってからずっと、人が食べてるところを見てきてるから。遠慮なくどうぞ。」(見てるだけって、余計につらくないの?)「そこは大丈夫。餓鬼ってね、とりついた相手にどんどん食べさせて、その食の快楽をむさぼるのが仕事だから。だから私も、達郎が食べているところを見ると同じように食べている感覚を味わえるんだよ。」(…それで僕に食べろ食べろと…)「あ、今は色情霊に転じているから、餓鬼の能力は受け継ぐけど、そんなに飢えている訳じゃないし、ムリに食べさせて苦しめるってこともないから安心して。」(そう・・・)「というわけで、遠慮なく食べてネ♪」(…ありがとう。)
それなら、何を食べようかな。
外から覗いてみる。女、子供はすっこんでろと言われ続けた男の聖地、牛丼の与謝野屋は、今や女子供でいっぱいである。ここは混んでいるからパス。
隣のハンバーガーショップ、マックデウナルゾもけっこう女の人が入っている。中では下半身下着姿の娘たちががつがつと皮付きの芋をほおばっている。
(…ちょっと聞きたいんだけど?)「何?」(何でここの女たちはイモしか食ってないの?)
ハンバーガーを食べている娘は一人もいない。皮付きのジャガイモをまるごとふかして、そのまま油で揚げた皮付きフライドポテト(バター味)にかじりつきほおばり続けている。この店の人気メニューで、頼まないヤツに対してはしつこくしつこく「ご一緒にジャガイモを頼めコンチクショー」と定番の言い方でセットを強要してくるという涙ぐましい努力の結果、人気となったメニューである。
皿いっぱいのジャガイモを手にとってはかじりついている。胸が詰まったら水で流し込んでいる。そうやって次々とイモを食べている女たち。
「あー…ハンバーガー全品品切れみたい。ポテトしかないんだって。ここのビタミンバーガーと餃子バーガーがおいしいらしいんだけどねえ。」
…もちろんパスである。
ちなみにマックスモモやピクルス100%バーガーもおすすめである。
与謝野屋とマックは両方とも全自動化されており、注文は自販機、提供も機械でやってくれていて、店員は一人もいない。
最後のカレーショップには客がいない。その代わり、店員さんが一人、カウンターのところで待っている。
僕はそこに行くことにした。
「いらっしゃいませー♪」店の中にはこの女の子一人しかいなかった。
「ようこそカレーショップ”すかとろ”へ。こちらは私の創作カレーを扱っています。性欲をカレー作りの情熱に変える! これが私のモットーです。どうぞご賞味くださいませー!」
元気系の娘ははきはきと話してくれる。なるほど、機械化ではなく、自分の工夫でおいしいカレー作りを追求している子なのか。けなげだ。そういう場合は機械ではなく、自分の努力で働くことになるわけだな。
「こちらメニューですー! ごゆっくりどうぞー!」「ありがとう。」
僕もつられて声を出してしまう。が、カレー屋の娘は一瞬たじろいだものの、僕が男と分かっても誘ってはこず、ふたたび平静を取り戻していた。
こんな子もまだいるんだな。自分の性欲に負けず、その情念をカレーに賭ける。立派だ。そういう人が心を込めて作るのだ。きっとおいしいのだろう。
本格インドカレー、ヨーロッパ風シチューカレー、ただのバー●ントカレー、はちみつカレー、バナナカレー、コンニャクカレー、チョコレートカレー、コーヒー豆カレー、シュウマイカレー、ピクルスカレー、フィギュアカレー、バニラアイスカレー、ねこカツカレー…
ちょっと待て。この店に客がいない理由が分かった気がするぞ。
「トッピングで自家製ソフトクリーム、くさや、チョコチップ、ポテトチップのりしお味、熟成発酵母乳などを無料で追加できマース!」「…。」「あと、ピクルスなどが苦手なお方は、ピクルス抜きもできます。ほかにもいろいろ何かを抜くこともできますー。組み合わせは自由自在、それがうちのカレーの売りなんですぅ!」
うむむ。与謝野屋もマックも、つゆだくだのネギ抜きだのピクルス抜きだのいろいろ注文をつけられるシステムだし、ここもそういうシステムを導入しているのはうなずけるが。このカレーのメニューから何をトッピングしたり抜いたりできるというのか。
ま、女の子は一生懸命だし、ちゃんとしたのもあるから、ここで食べていくことにしよう。
だが、こんな時に魔がさすのである。
「じゃあ、本格インドカレー。大盛り。カレー抜きで。」何を抜いてもいいって言ったよな。どうせ夢だし、思い切ったことを試してみよう。カレー抜き。やれるもんならやってみやがれ。
「はい! かしこまりましたぁ!」「・・・え?」女の子はあっけらかんと厨房に引っ込んでいった。僕の方があっけにとられてしまう。
数十秒後、お皿にこんもりと大量のご飯が盛られた状態の物体が、僕の目の前に置かれてた。
「…なにしてんの?」対面に座ったみさがあきれ顔だ。「う、うるさいやい! まだ福神漬けが残っているッ!」すいませんでした。こたびのことは100%僕が悪いんです。
僕はみさの心配そうな顔を尻目に、山盛りご飯に大量の漬け物をのせてがつがつほおばっていった。ジャガイモの方がまだマシだった気がする。
カレーを食べようと思っていたのに、福神漬けご飯を食べることになった。それでも腹は満たされ、僕は店を後にした。
もし隣で、「ハンバーガー! バーグ抜きで!」などといったら、パンだけが出てくるのだろうか。よい子はまねしてはいけない事例だな。お店にマークされる諸刃の剣ぞ。
街のあちこちを見回してみる。下半身パンティだけの女たちが普通に暮らしている。人数が増えた。ラブホが増えた。…それだけのようである。
あとは以前よりも男性の数が減ったから、その男性の周りを女の群れが固まってぞろぞろついてくるということがなくなっている。逆に、以前の方が異様ですらあった。
もっとも、僕が女装しているから、ばれにくいというのもある。女装せずにここにいれば、どうなるかわかったものでもなかった。
「!」
近くのラブホから何人かが出てきた。数人の女子高生。セーラー服にパンティ姿といういやらしい格好だ。その後ろから、ふらふらした状態で、一人の少年が出てきた。背はそこそこ伸びているが、まだまだ幼い顔立ち。15,6歳くらいの美少年だった。
もちろん彼は女装などしていない。上半身裸で、下半身は白いブリーフ一枚姿で、華奢な裸体を露出させている。
僕は気になった。全快の夢の時にも大勢の女たちが群れていた。1対180になった今、この新世界で、めったに会うことのない男がどうなってしまうのか、見届けなければならないと思った。
僕は目立たない場所にそっと移動し、そこに設置されていたベンチに座った。サングラス越しに、その少年の様子をうかがうことにした。
淫気も濃くなっている以上、パンティの生足を見せて誘うだけで済むのだろうか。あるいは露骨に人数が増えて、無理矢理ホテルに連れ込まれてしまうのだろうか。
さっそく少年に一人の美女が近づいていった。20代後半くらいの妖艶な女性だ。
彼女は少年の前に立ちはだかると、突然生足を少年にこすりつけ始めた。彼の細い足の間に大人の女性のシコシコした足をねじ込み、しきりにこすって刺激している。
以前の世界では、誘うにしても触ってはいけないことになっていたはず。露骨に抱きついたりすれば、公然猥褻になるということだった。
「あー。言い忘れたけど、法律改正されてね。公衆の面前で昼間に“性器の露出”と“本番性交”をするのは犯罪になるということになったんだよ。それ以外は合法。だからああやって抱きついて女体を押しつけこすりつけ。男の手を取って自分の体のあちこちを触らせるのはOk!」
なるほど。それで彼女は露骨に抱きついてすべすべの肌を少年にこすりつけて誘惑しているのか。
「もちろんおっぱいを出したり、パンツ越しでもオチンチンを触ったりしごいたり、あまつさえその場で射精させるのもNGだよ。そういうことはすぐ近くにあるラブホでやることになってるのだ。」「…。」
少年は力なく、おねえさんの足から逃れようと後ろに退いた。だが大人の女性はしつこく少年にしがみつき、しきりに足を絡めふとももの感触を味わわせ続けながら、少年の手を自分の胸に導いて、そのやわらかさを感じさせるのだった。
少年はいやがり、今度は力強く彼女から離れる。そしてふらふらとその場を離れようとした。
だが、そこに別の女性が待ち構えていて、ふくよかなお尻を少年の腰に押し当て、女体の柔らかさを刻みつけている。
少年がそれをも拒否すると、数人の大人の足が彼に絡み付いてくる。ぎゅっと細い体を抱き締め、少年の足よりも太いふくらんだふとももを彼の股の間でしきりに滑らせる。ふともものすらりとしたふくらみと、対照的にふくらはぎや足首のきゅっと引き締まった細さのギャップが、少年の肌を翻弄し、彼の性欲を強制的に高めていく。
さっきまで数人の高校生の先輩娘たちと、おそらくはしこたま抜かれて、ふらふらと出てきた矢先、もっと年上の美女たちに囲まれ、生足を押しつけこすりつけられ、滑らかに滑り回っているのだ。
その時、男の体に触っている女たちの興奮した吐息は、甘い香りとともに少年の性欲を高めていく。大気の淫気は男をほとんど狂わせず女だけに影響するが、そうして興奮した女の体臭や息や体液は男を狂わせるのだ。
何度も射精したはずの小さなペニスは、ふたたび元気を取り戻したようだ。
すると、少年は急にしおらしくなり、周囲を群がっていた数名の美女たちと一緒に、ふたたびラブホテルに入っていくのだった。
「女の誘惑に負けて勃起した男は、そのまま近くのラブホテルに入る決まりだよ。もっとも、そんな決まりがなくても、新世界の男たちは女の甘い息に感極まって、ホテルに飛び込まずにはいられなくなる。」「…。」
くっそ、いまいましい。前回の夢よりもずっと悪化しているのだ。ただ体を見せ、ぞろぞろと後ろをついてくるだけだった女たちは、いまや露骨になまの体で抱きつき、極上の肌触りで男の体をすべすべ愛撫して、勃起したらホテルに直行だ。
「街のどこにも男の人がいなかったでしょう? ずいぶん少なくはなったけど、1対180くらいなら、繁華街のあちこちにはまだ男性の姿があってもおかしくなかったのにね。」「…!」ま、まさか・・・
「数少なくなった男たちは、もうホテルからは出られない。電車の中にはホテルはないけど、特別車両が最後尾についている。店や施設にも特別ルームがあって、そこはホテルと同じ扱いになる。あと、家の中も同じ扱いだからね。」くっそ・・・
行為が終わってやっとの思いで外に出られたとしても、すぐに次の女たちがしがみついてくる。ホテルの中では全員を満足させるまで解放されず、やっと解放される頃には、男の方も出しつくしてふらふらになっているだろう。
だが、発情した女の体臭を間近で嗅ぎ、その吐息に包まれ、体液にまみれると、ものの数秒で玉袋の精子はパンパンに溜め込まれ、ふたたび性欲につき動かされて激しく興奮してしまう。こうして、何度でも射精することができるようになってしまうのだ。もちろん、体力・生命力はその分確実に削られていく。
何時間かかっても、その場の女全員を満足させるまで解放されない。だが、解放されても別の娘たちが待ち構えていて、男の姿を見つけるとすぐさま数人がかりで群がってきて、生足と甘い吐息で欲情させ、勃起に追い込む。
その結果、男は外に出られたとしても数分が限度で、結局ふたたびホテルに逆戻り。食事や生理的作業(トイレや睡眠)以外は、なかなか抜け出せなくなっている。
つまり今現在、数少ない男たちは、ほぼ全員、いずれかのホテルや特別室の中にいて、街を歩いていないというわけである。
ホテルから別の男がふらふらと出てきた。サラリーマン風の若い男だ。もっとも、今は趣味でもなければ労働というものがないので、サラリーマンではないだろう。
サラリーマン風の男は外に出るなり、渾身の力を込めて走り出した。だが、疲れがあるために、そうそう全力では走れない。すぐに疲れてふらふらになる。
そこへ介抱するかのように女たち数人が駆け寄り、彼の両腕を肩に乗せて抱え、支えて立たせる。
そこに容赦なく生足攻撃である。興奮した女たちの吐息が僕のすぐ近くでサラリーマンに吹き付けられている。幸い女の香りは僕のところまで届かなかったが、サラリーマン風の男には直撃している。
彼のトランクスがふくらんでいく。彼は性欲に負け、女たちのやわ肌に負け、ふたたび欲情してしまったのだ。
男は女たちと一緒にラブホテルに入っていく。逃げられはしなかった。
「…ま。逃げおおせたところで、どうせ別の場所で同じように群がられて、特別室とかで抜かれる運命だよ。」みさが言った。(こんな世界は最低だ!)僕は強くみさにそう伝えた。彼女はまだ不思議そうな顔をしている。「なんで? みんな気持ちいいのに。」くっそ。こいつは魔族の手の者なのだ。そこは忘れるべきではないな。
「!?」
突然、スーツ姿の美女二人が、僕の両隣にどかっと腰を下ろしてきた。上半身はぴっちりカタそうなスーツなのに、下半身は白いパンティだけという破廉恥極まる格好だった。
女二人は、露骨ではないにしても、僕の真隣に両側腰をかけ、生足をかすかに触れさせてくる。
少しでも力を抜いて足を開いたら、僕の両足はお姉さんのふとももにぴったりくっついてしまう。そのくらいに近い距離だった。
「…。」僕は無言で立ち上がろうとした。
だが、そこへ別の女性が立ちはだかった。ワイシャツを着崩したパンティ美女だ。
両側の女性は25歳くらい、目の前の女性は20歳くらいの若い娘たちだ。左側の女性は茶髪のセミロング、右側も髪を少し染めた今風のボブカットOLだ。目の前の女性は、長めの黒髪を後ろで束ねただけのシンプルな髪型だった。
まずい、こんな間近で見られたら、女装していることがばれてしまう。僕はうつむいて、帽子を目深に被り、できるだけ顔やのど仏を見られないよう、足をぴったり閉じて小さく縮こまった。
「…感づかれてるわね。」みさがマスク越しにニヤッとした。やはりそうか。
「…そりゃあ、目の前にサラリーマン風の男が誘惑されているのに、それを目の当たりにしながら、それに参加しようとせず、座ったままの“女”が澄ましていれば、ちょっと鋭い女なら、怪しいって思うわさ。たしかに、男性保護の観点から、一度に誘惑できる人数は8人までとなっている。つまり、その男にすでに8人が群がっていたら、それ以上はその男に近づくことは禁じられる。」「…。」
「で、さっきの少年も、今のサラリーマン風の男も、8人までにはなっていなかった。そこまで人数が増える前に立っちゃってホテルに連れ込まれたからね。他の女たちは、ここにたどり着く前に少年たちがホテルに連れ込まれて残念がっているわけ。そんななか、追いつこうと思えばすぐに追いつけたはずの“女”が、すぐ近くでベンチに座ったまま。怪しまれるのも当然ね。」
しまった…まずいことになったぞ。
「いちおう、レズ行為は禁止になっているので、女同士で街中堂々と誘惑攻撃ってわけにはいかない。だから彼女たちは君を試してるんだよ。」(試してる、だと?)「そう。声を出したり、オチンチン立たせたりして、男だって分かれば、堂々と誘惑したりホテルに連れ込んだりできる。」
そういうことか。それでごく自然に周囲を固めて、僕が勃起するのを待っているのか。
どうしようか。突き飛ばして逃げるという手もある。だが、そんな怪しい行動を取ればマークされ、連携されてどこまでも追いかけられかねない。
「あるいは彼女たちは本当にレズかもよ? 密かに誰かの家に入れば、室内での行為は同性だろうと何だろうと合法だからね。」「…。」
女たちは足の力を緩めた。すると、あと少しで吸いつきそうだったすべすべの肌が、ついに僕の両足にぴっちりくっついてしまった。
目の前では、パンティをあらわにした若い娘が脚を広げ、おいしそうな内股を存分に目の前に見せつけてくれている。
その肌は恐ろしくきめが細かく、肌つやも人間離れしてゾッとするほどだった。透き通るような、吸いつくような、みずみずしい肌触りと質感。それは僕の両足にはりつくふとももと、目の前に見せつけられている生足からも明らかだった。
現実世界では、女の足は案外に汚い。遠くで見れば美しくキレイだけれども、間近で見れば毛穴は広がっているしシミだらけだし、あちこち毛だらけだし、蚊に刺されたあとをひっかいて真っ赤になっているようなところがそこかしこにある。それでも、触り心地は最高だけれども。
そりゃあ、毛が生えていないとか毛穴がぽつぽつしていないだとか“あるべき形”より細すぎても太すぎてもだめだとか、そういうのは絶対的な価値観じゃあなくて、あくまで世間一般の価値に踊らされているだけで、その結果大切な体の一部を“むだ毛”と称して一生懸命剃らなければならないということが、実際にはばかばかしいことだというのも承知しているつもりだ。
だが、性的な快感をつむぎ出すという観点からは、そのツルツルの魅力には勝てないのである。自分の性的な“肉の支配”が情けない。
事実、新世界の女性の足は、毛どころか毛穴さえも見あたらないほどしっとりスベスベであった。
「新世界になるとね、女の肌細胞は乳幼児と同じ大きさになるの。子供の頃は体が小さいから肌細胞も小さく、それがきめの細かさになる。その細胞数があまり変わらずに体だけ大きくなれば、一個一個の細胞は肥大化し、そこから毛穴ぽつぽつなんてコトになる。でも、大きさが変わらない、あるいはもっと小さくなり、細胞の数自体が二倍になったとしたら、どんな肌触りになると思う?」
そう、彼女たちの体は劇的に変化してしまっている。表皮細胞の数自体が二倍に増えている。その分一個一個の細胞の大きさは小さくなり、それがきめの細かさとなって極上の肌触りを生み出すのである。文字どおり吸いつくような感触を備えてしまっているのである。もちろん毛穴なんてものはまるで見えなくなってしまうわけだ。
かなり非現実的だが、この夢の新世界では事実そうなってしまっていた。
ただでさえシコシコしたツルツルの生足が、格段に攻撃力を増しているというわけである。
両側の女たちは、わざと足を組んだり、元に戻したりして、僕と触れ合っている方の表面を、しきりに押しつけこすりつけてくる。ここで勃起したら一気に抱きつかれ、そのまま僕の脳を淫気で犯して、ホテルに連れ込もうとするだろう。
…いまこそ、修行の成果を試す時だ。
ここで女の足にほだされて勃起してしまうようでは、フザケンジャーの名がすたるというもの。何のために本部で厳しい訓練を受けてきたのだ。
僕は佐伯さんに教わったとおりの呼吸を始めた。もちろん、1秒間に10回とか、人間をやめるような呼吸はできないけれども、基本的な型は知っている。たしかにそのようにゆっくり大きく特殊な呼吸をすると、心が静まってくるのだった。おそらく、これをさらに極めていけば、擬似的な神通力、すなわち仙術を身につけ、フザケンジャーにならなくてもいろいろなことができるようになるだろう。
こおおお・・・
夢の中であっても気持ちが落ち着いてくる。周囲に女の色香をかいでも、興奮は静まっていく。ただ深く呼吸するだけなら、女たちの甘い吐息を肺の奥底まで嗅ぎ取ってしまい、有無を言わさずペニスが反応してしまっていただろうけれども、たとえ淫気を吸い込んでもその毒素だけを排出できる呼吸なのである。
目の前の生足を凝視しても、そこから妄想をふくらまさなければ、性的に興奮するに至らない。
性的興奮は、男性にとっても記号なのである。
「興奮するぞ、興奮するような材料だぞ」と自分自身に何らかの形で言い聞かせることによって、女の体を見て勃起するのである。
ポスターに裸体があって、毎日見慣れていれば、それを見たところで興奮はしない。だが、その同じ写真を見て、オナニーしようとしてイロイロじっくり見ながら、その肌の質感やオッパイのふくらみに「性的な記号」を見いだすことによって、男は興奮するのである。
いいかえれば、目の前の生足に性的な記号を認めなければ、そんなものはただの人間の足なのであり、何ら刺激的な情報を含まない。
呼吸と、エロビデオの修行によって、そしてこの夢の中のポッティのバリアによって、僕は間近に女の足を見ても、ペニスを反応させることはなかった。
やがて、僕はゆっくりと立ち上がり、無言でその場を離れた。
「へえ。あんなに密着されて足こすり合わせてるのに、立たないんだ。いんぽ?」(インポ言うな! だいたい、インポだってこの新世界では意味ないんだろ?)「まあね。現実世界で性的に不能な男は、新世界では普通に勃起して射精できるからね。」(あとは、仮に去勢をしてペニスをまるごと切り落とすような蛮行に出たとしても、夢の世界や新世界ではペニスが復活するので意味がない。切り落としてもすぐに生えてくるのであろう。)「よくわかってんじゃん。その通りだよ。」(ふん。)
セパレーツの水着を着て下半身はパンティという美少女が僕に突然しがみついてきた。そして足やお腹の柔肌を押しつけ、胸の弾力を刻みつけてくる。足の間に女のふとももが滑り込み、しきりにすべすべとこすられていく。そのなまの感触が滑らかで心地いい。
だが、僕は落ち着いて、呼吸によって淫気を体外へ排出すると、女の子の体を引き剥がし、無言で立ち去った。