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ナメてる戦隊フザケンジャー!


第13話 新たなる陰謀!

 

######

カリギューラ女王:「うぬぬ…フザケンジャーめ。またしても怪人が倒されてしまいおった。」

ヘルサたん総統:「ふうむ…」

カリギューラ女王:「一体どういうことなのだ。なぜフザケンジャーは、ふとももんもふぇらちおんも倒してしまうのだ。…ポッティが相当の神通力を込めているとでもいうのか。」

ヘルサたん総統:「その可能性は薄いわね。6大世界のうち、そういう力を持たせないのが、人間界(宇宙)ですもの。ポッティのそういう方針からして、過度に神通力を与えることはしていないはず。フザケンジャースーツは必要最低限。」

フローリア将軍:「では、やはり佐伯翔が何かをしているのでしょうか。」

ヘルサたん総統:「その可能性を一番に疑うべきでしょう。フザケンジャーは戦うたびに格段に腕を上げている。レッドスーツの能力やパワーは変わらないけど、中の人、神谷達郎自身が急成長しているのが伺える。その結果、天国軍団があっさりと倒され、怪人をヘルサ空間内であるにもかかわらず2体も失ってしまった…」

カリギューラ女王:「うぬぬ…おのれ! わが淫夢が功を奏してはおらぬのか! 夢精は確かにしておるというのに!」

ヘルサたん総統:「・・・こういう時こそ、落ち着いて分析し、事実関係を明らかにして、次の手を冷静に打つべきなのよ。」

フローリア将軍:「まず、淫夢にて夢精し、弱体化しているのは確実です。しかしながら、神谷達郎は元気なまま、性的な弱体化はいっさいしていません。おそらく、フザケンジャーの基地で何かをしていると思います。」

ヘルサたん総統:「そうね。それはまず間違いないと見ていいわ。特別な装置で、夢精の弱体化を無効にしているのでしょう。」

カリギューラ女王:「なんと…それでは、淫夢の効果は精神的な効果しかなくなってしまうではないか。」

フローリア将軍:「はい。神谷自身が女の色香に惑い、セックスの虜になって、淫欲に溺れるようになれば、淫夢は成功ですが、肉体的には回復してしまうため、彼の精神が魔の女に反発しているかぎり、淫夢は乗り越えられてしまったも同然となります。」

ヘルサたん総統:「まず、淫夢自体は成功しているのを確認しましょう。夢精もしている。その時は弱体化するものの、何らかの装置によって肉体は回復してしまう。もっとも、それで淫夢が無意味になるのではなく、彼の精神を堕落させ、女体の虜にしてしまえばよいのです。そうなれば一気に我々が勝利を収めるでしょう。」

フローリア将軍:「そのためにも、引き続き淫夢を見せ続ける必要がありますが…」

ヘルサたん総統:「気になるのは神谷自身の“成長”だよね。どんな修行をしているか分からないけど、一ヶ月も経たないうちにあれだけセックスに慣れ、実力をつけ、天国軍団20人に囲まれても一網打尽にできてしまう秘密を確認しましょう。」

フローリア将軍:「一度、佐伯翔が我々の前に姿をあらわしたことがありました。フザケンジャーの基地にいる時には、我々のレーダーから守られてしまい、どこに基地があるかも内部の様子もシャットアウトされてしまいます。ポッティのバリアがかかっているのです。」

ヘルサたん総統:「そうだな。」

フローリア将軍:「しかし、一度だけ天国軍団と佐伯が戦った時に、ヤツが妙な呼吸をしていたことに気づきました。」

ヘルサたん総統:「ええ。佐伯は一人山にこもり、何らかの神通力を得たと考えられます。人間界は、天界や霊界や魔界と違い、自身の魂の力、すなわち神通力や魔力を封じられ、身一つで生きなければならないよう、ポッティによって定められた世界。そこで神通力を獲得するには、相当厳しい訓練をしなければならないでしょう。」

カリギューラ女王:「それなら、佐伯がその仙人の力を、神谷に授けているのか。」

ヘルサたん総統:「その可能性は高いわね。でも、佐伯が10年以上かけて身につけた仙術を、数日で、童貞野郎だった神谷に伝授できるとも思えない。できても入門中の入門だけのはず。佐伯とは別に、何らかの修行を神谷独自で、しかも時間に関係なく行っていると見た方がいいわ。」

フローリア将軍:「時間に関係なく?」

ヘルサたん総統:「うん。10年かかる修行でも、数時間、あるいは数十分で、ある程度体得してしまうということ。言い方を変えれば、現実世界の時間軸とは別個に、外の世界では一分でも中では一ヶ月経過するような、そういう特殊空間で修行している可能性があるわ。」

カリギューラ女王:「しかし! そんな特殊な空間をポッティが作ることは考えられん! それに、佐伯は成功しても、同じ修行が神谷でもうまく行くとは限ろうまい!」

ヘルサたん総統:「…。」

フローリア将軍:「ポッティはそのような空間を作ってはいないでしょう。1日で1年分の修行ができる場所なんてものがもしあるのなら、神谷自身が年を取っていなければならない。でも神谷の外観は変わらず。したがって時間を飛ばしているという路線は消えます。」

ヘルサたん総統:「そうね。でもね・・・あくまでまだ推測だけど、たったひとつ、1日で1年分の修行ができる空間があるのよ。ポッティが作るわけでもなく、内部の人間が年を取るわけでもなく、しかも修行がほぼ確実にうまくいって急成長できる空間が、ね。」

カリギューラ女王:「なんじゃと!?」

ヘルサたん総統:「…正確には、1日ではなくてせいぜい数時間。一晩の間で。」

フローリア将軍:「そっ! そうか! ”夢”ッ!!」

ヘルサたん総統:「そう。神谷は毎晩のように夢を見ている。淫夢もだいぶ深まってきた。ここから先は推測だけれど、おそらく現実世界で、神谷は佐伯から仙術のイロハのイ、呼吸の仕方の初歩的なところを学んだだけでしょう。しかし、神谷はそれを淫夢内で実行に移した。」

カリギューラ女王:「なんじゃと!!」

ヘルサたん総統:「現実では弾くこともできないピアノやギターが、夢で見よう見まねで適当に弾いたら上手だった、なんてことは良くあることね。神谷はおそらく、それを楽器ではなく佐伯仙術で行った。」

フローリア将軍:「なるほど。それならつじつまが合いますね。夢の中という短い時間であっても、佐伯ほどではなくてもそれに近い形で仙術の呼吸を夢の中で実践できる! そのこと自体が、相当濃い修行となっている!」

ヘルサたん総統:「現実でやってみたら、上手な呼吸などできはしないけれども、夢だからこそ上手に神通力を発揮できる。そしてあの呼吸法はおそらく、男性のセックスバトルのレベルを格段に引き上げているのね。」

カリギューラ女王:「うぬぬ…我らが見せる淫夢は、夢でありながら半分は現実。だから、夢でうまく行ったことは、現実でもそのスキルを習得できているというわけか。」

ヘルサたん総統:「だとすると、淫夢の中でうまく行っている仙術の呼吸が、起きた後も習得され続けていることになる。これが、本来は10年かかる修行であっても、毎晩やっていくうちに急激に効果が出ていくカラクリ。佐伯が数年かけてできたことを、神谷は数日でマスターし始めている。」

フローリア将軍:「それなら、淫夢は逆効果!?」

ヘルサたん総統:「そうとも言えるわね。でも、淫夢をやめるわけにはいかない。それでね。神谷が夢の中で上達し続けている仙術の呼吸を、現実でも発揮して、フザケンジャーのパワーと組み合わせて戦うようになったということが考えられるのよ。だから、あんな短い時間で、フザケンジャーは実力をつけ、天国軍団を一掃できるほどにレベルアップを果たした。」

カリギューラ女王:「淫夢による弱体化は取り除かれ、それどころか神谷を急成長させ、フザケンジャーの強化を招いてしまったというわけか。おおお・・・なんということ・・・」

ヘルサたん総統:「原因が分かれば、冷静に対処すれば話は簡単よ。もっとも、それが本当の原因であるかどうかは、まだ分からないけどね。まだまだ憶測の域を出ていないから。」

フローリア将軍:「…いずれにしても、このままでは神谷がどんどん強化され、フザケンジャーが怪人を楽々倒せるようになってしまいます。」

ヘルサたん総統:「そうね。ま、私の憶測が事実かどうかなんて、べつにどうでもいいわ。ある程度傾向がつかめたし。決め手には欠けるけど、私の推測もあながちまちがっていないと思うの。だから、それが事実でなかった場合でも大丈夫な手を打つことにします。」

フローリア将軍:「夢で強化されている可能性があっても、淫夢を見させるのですか?」

ヘルサたん総統:「そうよ。その可能性があっても、そしてその可能性がなくても、引き続き淫夢を見せてちょうだい。ただし。これまでと同じではダメ。やり方を少しだけ変えましょう。」

カリギューラ女王:「うぬう…我が淫呪に手を加えよと申すか。」

ヘルサたん総統:「ええ。ただし、あなたに何か大きなことをしていただく必要はなくてよ。私もあまりあなたの淫呪に干渉する気はないし。ほんのちょっぴり、工夫を施すだけでいい。」

フローリア将軍:「…。」

ヘルサたん総統:「いずれにせよ、フザケンジャーが急に強化されたのは事実。したがって、我々も同じことをしていては勝てない。改善し、組織の強化を図り、方法に工夫を加えていきます。大丈夫。数点の改善を地道に実行していけば、ポッティどもの好きにはさせないからね。」

カリギューラ女王:「で、いかような改善をするのじゃ?」

ヘルサたん総統:「まず、天国軍団弱すぎ。これを早急になんとかしないとね。フローリア将軍、ボウイ将軍と連絡は取れる?」

フローリア将軍:「はい。やってみますが…」

ヘルサたん総統:「ボウイ将軍が40%以上の回復をしていた場合、次のように指示を出します。”自身の回復にひきつづき努めつつ、同時進行で常任天国軍団を養成し、なおかつ精鋭を選良せよ”。40%の回復をしていない場合、ポッティに見つかることを覚悟の上で一両日中に40%の回復を達成すること。これを伝達してちょうだい。」

フローリア将軍:「かしこまりました。」

カリギューラ女王:「常任天国軍団! 以前お主が申していたものか。」

ヘルサたん総統:「ええ。今の天国軍団は、その辺から集めてきた人間の女たちを操り、意に反して働かせていた、いわば烏合の衆。魔力によって強化されるといっても、しょせんは素人娘。これではフザケンジャーには勝てない。だから、常任の天国軍団を作り上げる必要がある。」

フローリア将軍:「常任、となれば、心の底から我々魔族に忠誠を誓わせる必要があります。」

ヘルサたん総統:「ええ。だからといって、強制的に思考を変えさせ、無理矢理に常任にすることはあたしの趣味じゃあないし、結局そのやり方ではどこかにほころびが出てしまう。あくまで自分から、心の底から我々に忠誠を誓い、家族も恋人も財産も地位も、これまでの過去もなにもかもを投げ捨てて、我々に従うのでなければならない。」

カリギューラ女王:「本当にそんな若い娘がおるのか。」

ヘルサたん総統:「少ないでしょうね。だからこそ、常任ではない、烏合の衆である天国軍団をたくさん集めなければならない。彼女たちの多くは、意に反して働かされ、本心は苦しんでいる。本当はあたしもそんなやり方を好んでいるわけじゃあないわ。で、その天国軍団の中に、快感を楽しもうという女がまれに出てくる。その女を常任にスカウトするのが一番なのよ。そういう女の数が少ないから、“候補”をたくさん集めなければならない。」

フローリア将軍:「多くの女性は心の底では苦しみ、いやなことをわけも分からずさせられているという意識ですが、その中に、ごくまれに、それなら目先の快楽を楽しもうと考える女性が出てくる。それが常任天国軍団になる。」

ヘルサたん総統:「そう。常任になれば、人間界との関係は基本的に絶ってもらい、もっぱら天国軍団のプロとして、それ以外の仕事はせず、天国軍団の仕事に専念していただきます。その、常任天国軍団の人数を増やさなければなりません。」

カリギューラ女王:「うむむ。想像するだにたいへんそうじゃ。数多くの常任天国軍団を集めるためには、相当数の“普通の天国軍団”を集めなければならないことになる。」

ヘルサたん総統:「そうね。でも、それをしなければ我々は勝てないでしょう。数多くの常任天国軍団から、部隊の統括者を選びます。そのエリートこそ、天国軍団の隊長を務め、我々の親衛隊となる女たちなのです。彼女たちはもはや人間をやめ、魔族となって人間界で暗躍するでしょう。そうやって軍隊組織を強化しなければなりません。」

カリギューラ女王:「…。」

ヘルサたん総統:「構造を説明すると。あたしが総統。カリギューラ女王が同盟者で、その下にフローリア将軍とボウイ将軍がいる。その下にメカニック怪人がいて、ボウイ将軍が直接の指揮を執ってメカニック怪人たちを動かす。そして、これとは別に、親衛隊を組織します。これが常任天国軍団の中でもとくに優れた力と技能を持つエリートで、各部隊の隊長です。隊長は常任の天国軍団を管理統括し、常任の天国軍団は、非常任の天国軍団を管理統括する。」

フローリア将軍:「親衛隊を統括するのは? 怪人ではないのですか?」

ヘルサたん総統:「怪人には言語能力がない。したがって指示系統には入れない。ヒエラルキーは、ボウイ将軍の下に怪人、でおしまいよ。親衛隊とメカニック怪人は同列に扱われます。実力も同じくらいになるでしょう。怪人の方は土から作ったもの、親衛隊の方は人間から成り上がったものという違いがあるだけです。」

カリギューラ女王:「それだけ巨大な組織を作り上げるのはさぞかし時間がかかるであろう!?」

ヘルサたん総統:「そうでもないわ。数週間もあれば可能よ。ボウイ将軍なら、ね。で。親衛隊はあたしが統括します。ボウイ将軍の指示に従い、怪人とともにフザケンジャー壊滅と人間界の魔界化に寄与するように動かします。」

フローリア将軍:「…!」

ヘルサたん総統:「あら。ご不満かしら?」

 フローリアは賛成できなかった。この組織構成は、明らかにヘルサたん総統側にばかり有利になっている。これだと自分やカリギューラは蚊帳の外、外様扱いだ。

カリギューラ女王:「うーむ。それだとヘルサたん総統が中心となってしまうのお。せめて親衛隊はこのカリギューラが統括できるよう…もぎゃっ!!!」

 フローリア将軍の見事なアッパーパンチがカリギューラ女王に決まった。

カリギューラ女王:「ひょっ…舌噛んじゃっら! なにをすりゅふりょーりあしょうぎゅん!?」

フローリア将軍:「何かございました? 私はなにもしていませんが? 幻覚でも見たのでは?」

カリギューラ女王:「ひょんなあ・・・」

 ヘルサたん総統の視線がキラリと光った。

ヘルサたん総統:「んー、バランスを考えると、たしかにあたしとボウイ将軍がメカニック怪人までを統括し、天国軍団をカリギューラ女王の管理とした方がいいんだけどね。万一怪人と天国軍団の意思疎通がうまく行かずにケンカになった時には、統括部門が違うと話がこじれちゃうのよ。同じ部門内部ならすぐに解決できるものでも、ね。組織って、そういうことにも気を配らないといけないの。」

 …遅かった。露骨に抗議すれば言いくるめられてしまうのは、以前にも同じことがあった以上、慎まなければならなかったのである。が、どう言おうかを考えている間に、カリギューラ女王が口を出してしまったため、すべてが台無しになってしまった。

 怪人に言語能力を付与しないのは、ヘルサの奸智であった。わざとだ。あらゆる組織、あらゆる力を自分の管理下に置くためだ。カリギューラを利用するだけ利用して、実権は100%自分が握るためだ。ここをつつけばまだ勝てたかも知れなかったが、カリギューラはなにも考えずに親衛隊を自分の管理下に置きたいと発言したため、アッサリと言いくるめられ、完全にヘルサたん総統の勝ちとなってしまった。

 いまさら怪人に言語能力を、と言っても、「それで丸く収まってるからいいじゃない」と切り返されるのがオチだ。カリギューラの発言前なら、怪人に言語能力を付与させ、その下に常任天国軍団を置くことで、ボウイ将軍と並んでフローリアが指示を出すこともできる状態を作れたし、組織を複雑化させて隙を作ることもできただろう。完全にタイミングを逃してしまった。

ヘルサたん総統:「非常任の天国軍団は、主に男性をたらしこみ、精を奪い取る任務を果たしていただきます。常任の天国軍団は、男に快楽と夢を与え、精を奪う役割とともに、非常任の女に具体的な指示を出し、動かしていく役割を担います。また、フザケンジャーが来た時に第一線に立って戦うのも彼女たちです。」

フローリア将軍:「…。」

ヘルサたん総統:「親衛隊または怪人は、あたしまたはボウイ将軍の指示のもと、各天国軍団を率い、または行動をともにして、搾精をしますが、主にフザケンジャーを倒すことを任務とします。さしあたっては、常任と非常任が入り混じって小部隊をつくり、細切れに行動し、地道に射精させ続けて、少しずつ世界を変えていくのが妥当でしょうね。」

カリギューラ:「うむ。理想どおりにいったら、誠に大部隊、そうそうたる軍隊組織となる。そうなれば我らの基盤も盤石、一気に人間界を手中に収めることができる! ふはははは!」

フローリア将軍:「…。」

ヘルサたん総統:「フローリア将軍、それで異存はないかしら?」

 ヘルサたん総統は勝ったという顔でフローリア将軍をにやりと見つめた。

フローリア将軍:「…はい。問題ございません。それで、私たちの役目は?」

ヘルサたん総統:「くすっ・・・もう、カリギューラ−フローリアの組織図ではないのよ。”私たち”なんてさみしいこと言わないでちょうだい。カリギューラ女王にはもっと重要な、やってもらうことがあります。もちろん、神通力の抽出の他に、ですよ?」

カリギューラ女王:「うむ! 何なりと申すがよい。できることならするぞよ!」

フローリア将軍:「…まぬけめ。」聞こえないようにつぶやく。

ヘルサたん総統:「ううん。特別に難しいことじゃあないの。今までどおりに淫夢を見させてちょうだい。あたしは神谷に淫呪を追加することもないし。大丈夫よ。ただね、あなたが見せる夢の中に、”コレ”を登場させて欲しいの。」

 ヘルサたん総統はカリギューラにあるものを渡した。

カリギューラ女王:「おおっ、これは…!?」

ヘルサたん総統:「それを神谷の夢の中に登場させれば、いくら上手に呼吸ができたとしても追いつけないはず。そうすれば、確実に神谷は夢精し続けるでしょう。仮にヤツが佐伯仙術を身につけているというあたしの推測がまちがっていたとしても、コレを登場させてさらに精を奪うことができるし、推測が当たっていれば、コレの登場で呼吸は乱れ、仮に乱れなかったとしても追いつけずにどんどん精を吐き出すことになる。どのみち神谷は逃れられないというわけ。」

カリギューラ女王:「むむ。こんな良いものを預かるとは、淫呪冥利に尽きるというものじゃ。まさに百人力、千人力。神谷といえどもひとたまりもあるまい。」

ヘルサたん総統:「もし推測が合っていれば、それでも神谷は呼吸を続け、徐々に強化され続けるでしょう。しかし、それは我々の組織力で押さえ込みます。カリギューラ女王の役目は、夢精させ続け、精神的に弱体化させていくことです。心を堕落させれば、いくら体を回復できる装置があっても、フザケンジャーは骨抜きになる。そこへ天国軍団や親衛隊や怪人が襲いかかれば、一気に倒すことができるでしょう。」

カリギューラ女王:「ふむ。言ってみれば、私がフザケンジャーを精神面から、内部から破壊していき、お主らがフザケンジャーを肉体面から、外部から破壊していく算段であるな。完璧じゃ。ほれぼれするわい。」

ヘルサたん総統:「くすくす。ただ、唯一の難点は、そうした組織の形成には数週間は時間がかかるから、先に神谷の精神を堕落させる必要があるってことかしら。カリギューラ女王、あなたの力にかかっているのよ。」

カリギューラ女王:「ぬあっはっは! 任せておくがよいぞ!」

ヘルサたん総統:「期待してるわ。」

フローリア将軍:「…。」

ヘルサたん総統:「さあ、次の怪人の準備を始めてちょうだい。フローリア将軍はボウイ将軍への伝達を。ある程度組織が形になるまでは、大規模な行動は差し控えましょう。」

カリギューラ女王:「えっ!? 次の怪人はすでに胎動を初めておるぞ。数日以内には誕生するのだが?」

ヘルサたん総統:「ええ。だからこそ同時進行で次の怪人も作っておくの。怪人の数は多い方がいいでしょう?」

カリギューラ女王:「それもそうじゃな。よし、神通力の準備をしよう。」

ヘルサたん総統:「よろしくね♪」

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 ふと目が覚める。外が明るくなっていた。

 夕べは珍しく夢を見なかったな。

 あるいは、今この情景自体が夢だったりして。

 空を見てみる。桃色ではない。透き通るような青空だ。新世界の夢でもない。みさもいない。杉戸村ではなく自分の部屋だ。ただ、日常に潜み込む淫夢の可能性もあるな。

 確かめる方法はいくつかある。一番確実なのは、フザケンジャーレッドに蒸着すること。レッドになることができれば夢ではなく現実だ。が、もし仮に現実だったとして、レッドに蒸着してしまうと、自分でオナニーして抜かないかぎりは元の神谷に戻ることができないのが難点だ。それはそれでなんかヤダ。

 もうひとつは、フザケンジャー本部に連絡を入れること。淫夢の中ではフザケンジャーとの接触ができない。

 僕は基地に通信を試みた。

佐伯:「お。おはよう。」

僕:「おはようございます。あ、今日は夢精してません。つーか夢を見てなかったんで。」

佐伯:「そうか。で、今日はどうする?」

僕:「学校に行きます。」

佐伯:「分かった。」

 通信できた。つまり夢ではないということだ。僕は安心して、着替えを済ませると学校に行った。

 学校ではあいかわらず友達のいない時間を過ごす。僕の方もあんまり気にせずに、何となく過ごしていった。

 放課後、僕はまっすぐキノコぐんぐん伝説に行く。図書館には絶対に行かない。

 マスターの指示に従って、お客様への対応を真剣にやった。笑顔で、はきはきと、そしてすばやく正確に注文を聞き、料理を運ぶ。ちゃんとやると、この仕事はかなりハードであることが分かった。呼吸を整えながら、修行だと思って真面目に働いた。

マスター:「変わったねえ。神谷君。あの佐伯さんとかいうお方のおかげかな。」

僕:「はい。」

マスター:「たいへんなことを一生懸命やると、充実するだろう?」

僕:「はい。」

マスター:「それを是非忘れないでくれ。つらいこともあるかも知れないが、そういうことをきちんとやっていけば、必ず状況は打開される。」

僕:「ありがとうございます。」

マスター:「またみんなで食事においでよ。たまにはごちそうもしよう。」

僕:「いえいえ、とんでもない!」

マスター:「はっはっは…」

 その日は何事もなく、フザケンジャーの呼び出しもなく、平和なうちに眠りについた。

 次の日も何事もなく、淫夢も見なかった。僕は呼吸を乱さずに、やるべきことをこなしていった。フザケンジャーの呼び出しはない。

 その次の日も普通に学校に行った。放課後になり、図書室で荷物運びを手伝った。

 さらに次の日。ちょっと心配になった僕は、学校帰りにフザケンジャー本部に立ち寄った。

佐伯:「よぉ。調子はどうだ?」

僕:「ええ。最近夢も見ないし夢精もしないし。順調ですね。」

佐伯:「何? 夢を見ない?」

僕:「あーいえ、見るには見るんですけど、たわいもないものとか、すぐ忘れてしまうものとか。普通の夢で淫夢ではないです。まったく夢を見ないで朝になる日もありますよ。」

佐伯:「ポッティ・・・」

ポッティ:「まずいな。」

僕:「え? なにがです? そっちも何事もないんですよね? 天国軍団が動いたりもしていないんですよね。」

佐伯:「ああ。だからこそまずいんだ。あの淫魔どもがなにもしてこないって、なにを考えているか分からん。何か企んでいる可能性がある。」

ポッティ:「大それたことの準備ではないか。我々はそう見ている。」

僕:「そう・・・ですか・・・」

佐伯:「なにもなければ悪くないというのは間違いだよ。小さなことでも敵の兆候や動向がつかめれば、それで敵の力や意向を読み取ることができる。だが、なにもしてこないということは、敵がなにをしているかが分からないということ。我々に気づかないところで暗躍しているかも知れない。警戒しないとな。」

ポッティ:「こちらのレーダーに映らない技術でも開発してしまったのか。実際、ボウイ将軍の暗躍は一向につかめないしな。まずいな。」

僕:「…。どうしましょう?」

佐伯:「そうは言っても、現状ではこちらからは手出しができない。警戒しながら、小さな情報でもキャッチして、敵の動向をつかむ努力はする。何かあったらすぐに知らせるから、君は学業やらアルバイトやら修行やらに励んでくれ。」

僕:「分かりました。」

 それから僕は、並木さんの体術の訓練を受けて家路についた。

 淫夢は見なかった。

 次の日は雨が降っている。一瞬、学校に行くのが面倒になったが、もうそういう悪習慣は断ち切らないといけないと思い直し、傘をさして登校。アルバイトもないので、フザケンジャー本部で瞑想して帰る。

 その次の日も、敵がなにもしてこないことを確認した上で、本部にて修行に明け暮れた。



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フローリア将軍:「…カリギューラさまからの報告です。すべて順調、淫夢への組み込みも終わり、神通力の抽出もほぼ済んだそうです。また、遅れておりましたメカニック怪人の胎動が完了、まもなく誕生します。」

ヘルサたん総統:「分かった。カリギューラ女王はあと30分くらいで出てくるのだな?」

フローリア将軍:「はい。出せるだけの神通力を出していますので、少し時間がかかっております。これが終われば、次に神通力がたまるまではマンガをいっぱい読むとおっしゃっています。」

ヘルサたん総統:「うん。いいんじゃないかしら。じゃあ、女王のためにマンガ図書室を設けましょう。」

フローリア将軍:「はあ…」

ヘルサたん総統:「それで。ボウイ将軍の方はどうなっている?」

フローリア将軍:「自身の回復はおよそ半分とのことです。天国軍団については、常任を探している最中との報告が来ています。」

ヘルサたん総統:「分かったわ。怪人が誕生するまでは身を潜め、フザケンジャーたちに気づかれないように隠密行動せよと指示していましたが、もうすぐ誕生ということなので、もっと大々的に活動することを許可しましょう。ただし、あくまで陽動作戦で、一度に必ず二カ所、行動を起こすことは忘れないでね。」

フローリア将軍:「かしこまりました。」

ヘルサたん総統:「さて。そろそろ生まれるかしら。クスクス…息吹を感じる。あふれる魔力と、コーティングされた神通力の波動を感じる。さあ、いよいよね。…いでよ、パイズリ怪人おっぱいん!」

怪人:「おっぱいぱい〜ん!」巨乳を両手でがっしり掴んだ青い人がぷるぷると乳房を震わせながら装置から出てきた。

フローリア将軍:「・・・ぷっ」

ヘルサたん総統:「あ! 今笑ったでしょ! あまりに安直なネーミングと恥ずかしげもない鳴き声にガマンできなくなって笑ったな!?」

フローリア将軍:「あっ、そのっ、も、申し訳ございませんっ!」

ヘルサたん総統:「せっかくの新怪人登場なのに雰囲気が台無しじゃない。」

 雰囲気もへったくれもあるもんか、とフローリアは思った。

ヘルサたん総統:「もう一回やり直し。失笑を買うようなネーミングと鳴き声だっていうのなら、別の名前と鳴き声にします!」

 怪人はとぼとぼと装置の中に戻っていった。

ヘルサたん総統:「・・・いでよ! パイズリ怪人バストボイーン!」

怪人:「ぼいぼいぼいーん!」動作はいっしょである。

フローリア将軍:「…。」

ヘルサたん総統:「…。」

怪人:「…。」

フローリア将軍:「…バカだろお前ら。」

ヘルサたん総統:「はうっ! 失笑すらしてくれなくなった!」

フローリア将軍:「やり直してどうするんだ。しかも根本的なところが改善されてないじゃないか!」

ヘルサたん総統:「うう…フローリアちゃんがイジワルするぅ・・・」

 結局、新怪人はパイズリ怪人おっぱいんと命名され、鳴き声は無難に「ちちちちちー」となった。乳から取っている。

フローリア将軍:「予定では、あと2日で次の怪人が誕生します。天国軍団の常任者がある程度揃うまで、もう少し様子を見た方がよろしいかと存じますが。」

ヘルサたん総統:「2日か。…。いいえ、ここはあえておっぱいんを先に動かしましょう。そのすぐ後に次の怪人を送り込み、敵に「間髪入れず次の怪人が作れるのか」と錯覚させた方がいいわ。そうするとフザケンジャーどもは怪人ばかりに注意を向ける。その一方で、常任天国軍団を集めるのよ。つまり、怪人の派手な活躍が囮で、本当の狙いが天国軍団の強化にあるということで、それを敵に悟らせない方法ね。」

フローリア将軍:「…かしこまりました。」

ギュラたん:「おっ!? そやつは、次の怪人か! ついに誕生したのか!」勤めを終えたカリギューラ女王が出てきた。新怪人を目に留め、嬉しそうな笑みを浮かべる。

ヘルサたん総統:「ええ。パイズリ怪人おっぱいんよ。」

ギュラたん:「ほぉほぉ。すると、鳴き声はやっぱり”おっぱいぱい〜ん!”になるのかのう。」

フローリア将軍:「OLAP!!!」

ヘルサたん総統:「あ〜〜〜ッと! もがけばもがくほど深みにはまり、ついには両腕をへし折る秘伝の必殺技が見事に決まったあああ〜〜〜ッッ!」

ギュラたん:「ぎゃあああああああ!!! ギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブ!!!!!」

 へし折る寸前で解放してやる。

ギュラたん:「なんなのじゃ! なんなのじゃあ! 私がなにをしたというのじゃあ!!(号泣」

フローリア将軍:「だまれ!!」

 フローリア将軍の苦悩は続く。

######



 ………。

 ……。

 …。

 朝になった。

 さて。今日も何事もないのかな。

 たしかに、ヘルサたん総統たちが一週間近くもなにもしてこないというのも気がかりだが、まぁいまのところは無事なのでよしとするか。情報のキャッチとかは本部に任せることにしよう。

 「あ、おはよう♪」

 ベッドに腰掛けていた女の子が声をかける。見ると、親戚のお姉ちゃん、朝野静佳だ。二歳年上で、確か結婚して四国に引っ越したはず。

 「…。」

 なんで彼女がここにいるんだ?

 「どうしたの? きょとんとして? 私の顔に何かついてる?」

 「聞きたいことは山ほどあるが、まず、なんで僕の部屋にいるの? 次にどうしてキャミソールにパンティ姿なの? 四国のダンナと子供はどうしたの? てか前にも似たようなことがあったようななかったような?」

 「んー、急にそんなにいっぱい言われてもお姉ちゃんわかんないよぉ。」

 「あ、達郎君、目が覚めたんだ。おはよう♪」そこへドアが開き、別の女の子が入ってきた。彼女は…北海道に引っ越した同い年幼なじみの望月直緒子だ。

 「聞きたいことは山ほどあるが、まず、なんで僕の家にいるの? 次にどうして裸エプロンなの? 北海道はどうした? てか前にも似たようなことがあったよな絶対。」

 「んー、裸エプロンなのは朝食を作ってたから☆ 北海道はでっかいどう☆ 前にもって、忘れちゃったの?」

 「いや…逐一答えてもらっているように見えて結局何一つ疑問に答えられてないぞ。朝食を作る時は裸エプロンなんですか。あほですか。」

 「だからー。私と結婚したじゃない。」

 「…はあ!?」

 「先日私が達郎の家に来て、ご両親の同意書を持って結婚してって迫ったら、”ふつつか者ですがよろしくお願いします”って言ってくれたじゃない。」

 「いやいやいやいや! 絶対言ってないよそんなこと! ”いやです。帰れ。”とは言ったけどさ。」

 「とにかく、達郎と私はもう夫婦なの! 分かった!?」キャミソール娘が胸を張る。

 「え〜…」

 だんだん思い出してきた。そうだ、以前静佳と直緒子が押しかけてきて、勝手に住み着いたのだった。メリケンサックかなんかでいわしたって、両親に結婚の同意メモを書かせ、むりやり僕と結婚しようとしてきたんだっけ。

 「結婚ねえ。で? アンタは何なの?」

 「私はですね。結婚は静佳さんに譲ることにしたけど、愛人と言うことでまぁるくおさまったの。」

 「収まってない収まってない! 僕はいっさい同意してないぞ!」

 思い出した。これは夢の中の出来事。淫夢だ。

 久しぶりに見たな。

 って、懐かしがっている場合じゃあない。このままではエッチなハプニングに持ち込まれて、射精させられてしまうぞ。

 なんだかよくわからないが、以前の淫夢でこの二人が押しかけ女房をして、僕は逃げ出したのだった。そこで別の女の子に襲われて敗北してしまったが、この二人については途切れたとばかり思っていた。

 それで、今日になって、なぜか静佳が妻、直緒子が愛人ということで話がついたらしい。んなアホな。

 「あー、ちなみに、みずほ先生はまだ寝てるから。」

 「ちょ、先生までいるの!?」

 「あ、先生さっき起きてたよ。ぼやーっとした顔でトイレに入った。そろそろ踏ん張り終わって出てくる頃じゃないかな。先生ロクなもの食べてないからウンコも固いんだって。」

 「なーーおーーこーー! 余計なこと言うんじゃあないよっ!」穗積みずほ先生、とっくに結婚して退職したはずの大人の女性が、なぜか僕の家で寝泊まりし、トイレで用まで足している。その先生が、上半身裸で下が先生らしいタイトスカート、そこから大人のすらりとした足が伸びているという格好で入ってきた。

 「先生までなんでいるんですか。」

 「んー? 決まってるじゃない。キミたちの保・護・者♪」

 「・・・全員死んでいただけませんか。」

 なんだかてんやわんやの展開で頭が混乱しそうだが、どうやら妻、愛人、保護者(?)という名目で、3人とも僕の家に住み着いて好き勝手をしているというハーレムシチュらしい。

 しかも僕の同意なしに、勝手に静佳が妻の座に、直緒子が愛人の座にすわり、そして先生が保護者役で、僕を取り巻いている。もうね、先の展開が読めるのですよ。

 「こおおおお・・・」

 僕は呼吸を整えた。気持ちが落ち着いてくる。佐伯仙術は夢の中でも有効だ。きっと寝ている僕の本体も同じ呼吸をしているのだろう。

 精力は回復し、体も強化されてイキにくくなるだけでなく、神通力が悪の女体に流れ込んで絶大なダメージを与えてくれる。

 佐伯さんのパワーにはもちろん、とうていおよばないものの、これで強化すれば、ポッティの夢対策バリアも手伝うし、この3人の快感攻撃にも耐えられるはずである。とっとと倒してしまって、夢から覚めてしまおう。

 「さて。朝ご飯もできたし、どうします? ご飯にします? それともトイレでウンコ? それとも、わ・た・し?」

 直緒子がくるりんと一回転してお尻や背中をじかに見せつけたり、前屈みになって胸の谷間を見せてきたりした。

 「ちょっと! そういうコトは妻である私が先でしょ!?」キャミソール静佳がくってかかる。

 「あら。みんな平等って約束だったじゃない。」

 「まぁまぁ。ここはひとつ、保護者である私が先ということで。」

 「ふざけないで! トイレから出て手も洗ってない、歯も磨いてないクセに!」「なにおう!? ちゃんと歯も磨いたし手も洗ったしシャワーも浴びたわよ!」「…あの〜・・・」

 やっぱりこういう展開か。だが以前のように、心をかき乱されたりはしない。どんな決着になったとしても、佐伯仙術で乗り切ってみせる。

 いっそ3人まとめて倒してしまおうか。天国軍団も簡単に倒せたし、それより少し強いだろうけど、もとは普通の女性たちだ。戦って勝てない相手ではない。他の夢で幽霊たちに囲まれた経験もあるし、いまさら静佳たちに抜かれることはないだろう。

 「じゃあさ、いっそ3人まとめて相手してもらわない? それなら平等でしょ。」「あ、それいいわねえ。是非そうしましょう。」「うん。みんななかよくね☆」「・・・あいかわらず僕の意向は完全無視ですかそうですか。」

 じゃあ、僕の実力とやらをこいつらに見せつけてやりましょうかね。整えた呼吸をさらに深めると、全身に軽く静電気を帯びたようになる。これが強くなれば、触れただけで女体をイかせる佐伯長官のテクニックになるんだ。手が光るほど熟練してはいないが、それでも彼女たち3人をまとめて倒すには十分なパワーだった。

 しょうがない。ここで抵抗してもロクなことにならないだろう。僕はパジャマを脱ごうと思ったが、すでに裸だった。用意はできているというわけか。ならばさらに深く呼吸を整えるばかりだ。

 ふもっ。

 3人に群がられる前に、玉袋に違和感を感じる。やわらかくて心地よいシリコンの膜のようなものが、玉袋全体をすっぽり包み込んだのだ。

 突然の感触に驚き、布団を剥がした。すると、ペニスに何か紫色のカタマリがはりついているのだ。

 「わあっ! なんだこれ!」

 「あー。それはね。」静佳が満面の笑みで僕を見据える。

 玉袋に貼りついているのは、ジャングルにありそうな気味の悪い植物だった。花部分がぱっくりと口を開き、玉袋だけに食いついて、それだけでじっとしてるのだった。

 ・・・コレ、どこかで見たことあるぞ。何だっけな。

 僕は落ち着いて植物を玉袋から引き剥がした。そのとたん、花はおぼろげになり、ほろほろと崩れて消えてしまった。

 「それは、私用の『タイムフラワー』」

 「…たいむふらわー!?」聞いたことあるぞ。何だっけ。

 「カリギューラさまのお計らいで、女一人につき一本、タイムフラワーが支給されたの。そのほかにも道ばたとか廊下とかエレベーターとかにも自生してるよ?」

 「うっく!?」

 股間がじわりとくすぐったくなる。この効果は…はっ!!!!!

 思い出した!

 『タイムフラワー』。怪人との戦いがたけなわの時に、ヘルサ空間に引きずり込まれるが、そこで出てくる架空の植物だ。近づくと玉袋に食いつき、快感を与えるわけではないものの、その代わりに玉袋の時間だけを急激に早めるんだ。

 1秒でおよそ1日、玉袋の時間が経過してしまう。

 ということは、5秒はりつかれたら、5日間、玉袋の精子が外に押し出されていないことになる。

 当然、女体に惚れやすくなるし、肌触りや性的な刺激にも敏感になるし、何より何日も抜いていないのだからすぐにでも射精したくてたまらなくなり、ちょっとした刺激でもアッサリとイッてしまう、危険なトラップだった。

 「なっ! なぜそんなものがここに!?」

 「企業秘密よ。くすくす・・・」

 しまった、すでにタイムフラワーに食いつかれて十数秒は経過している。引き剥がしはしたものの、溜まった精子が性的に疼いて、じわりとくすぐったく股間を痺れさせる。精巣には、およそ2週間抜いていない状態で追いつめられた体液が溜まりまくっている。

 射精せずに残された精子細胞は、自然と体内に再吸収されていくそうだが、抜いていなかったということで性的な衝動はどんどん強まってしまう。性欲が極端に高まり、女の肌を凝視しやすくなったり、性的な空想が出やすくなったりする。

 まさに今の僕がその状態だった。しかも、夢とはいえ肉感のある美女3人が僕のそばにいて、全員あられもない格好だった。空腹が限界に来ているところにごちそうが用意されるようなものだ。辛抱溜まらなかった。

 呼吸が乱れる。なんとかして呼吸を整え直すも、性的な衝動までは収まらない。

 佐伯さんなら、きっとこれさえも乗り越えられるのだろうけれども、僕はまだ未熟で、責め苛む吐精への衝動にはあらがえない。

 「たーつろおー♪」

 静佳が飛びかかってくる! 突然抱きつかれ、唇を奪われた。とろけるような甘いキスに、頭がぼーっとする。ほおずりまでされながら執拗に舌を入れる連続キス攻撃に、なにも考えられなくなっていった。

 だめだ、佐伯仙術のパワーが弱まってしまっている。ほぼ無敵状態だったはずの鉄壁の守りもなく、射精を押さえ込む総精力も激減している。

 もともとわずかであった佐伯仙術の強化策も、ポッティの神通力バリアと合わせていれば、相当の強化に結びついていた。女体を見てもあまり反応せず、落ち着いて思考を巡らすことができたし、その肌がこすれても感度は鈍く、股間を責められても快感は1割弱にまで抑えられ、興奮も高まらなかった。その上、総精力値が非情に高くなり、心をしっかり保っているかぎり、射精に至ることはないのだった。

 ただ、僕自身の心がそれほど強くないために、連続して長時間しごかれたり挿入しっぱなしであれば、だんだん高められやすくなってしまうし、敵の体の心地よさにじわじわと惚れていってしまう弱みがあった。そのせめぎ合いの中で、本来イかない体を手に入れているのに、気を抜けば射精するという状況になっていたのだ。

 強い佐伯仙術であれば、鉄の心で、無敵そのものになっていただろう。だが、そこまでに到っておらず、しかも実際にはセックスの経験はまだまだ浅いままである。若く性欲旺盛な僕は、さらに女体に慣れていないことも手伝って、通常であればあっさりとイかされてしまう体なのだ。

 付け焼き刃の呼吸法と、ポッティが夢の中で張ってくれたバリアが、この弱い体をコーティングしているに過ぎなかった。

 それでも、このコーティングが功を奏している間は、ほぼ無敵状態だったし、しかも夢から覚めてもそのパワーは健在で、実際の天国軍団との戦いでも相当の実力となってあらわれていたものだ。

 そのコーティングが、今や完全に剥がされてしまったばかりか、相当に弱体化させられてしまった。もはや呼吸法やバリアの強化術を突き破って、本来の僕自身の感じやすさがむき出しになってしまっている。

 今の僕は、佐伯仙術もバリアも突き抜けて、不慣れですぐイッてしまう神谷達郎に戻ってしまっている。

 いや、2週間も抜いていない体ということであれば、それ以上の弱体化とさえいうべきではなかろうか。

 エッチなことしか四六時中考えられなくなっていて、股間が強烈にくすぐったく疼き、衝動的な性欲の虜となっている。すでに数え切れないくらい肌を重ねて戦ってきたけれども、その経験のすべてが吹き飛ぶくらい、弱体化が甚だしかった。

 静佳のムチュッとした唇や女性特有の甘い香り、その体のやわらかさを感じるたびに、精子が今か今かと外に出たがって先走り続けている。体内からも体外からもすぐにでも押し出されてしまいそうな勢いで、脳が射精したがり、外部からの刺激も甘く強まっている。

 そんな、性欲ばかり強くてまったく未経験の肉体になってしまったところで、おあつらえ向きに美女が3人、しかもそのうちの一人とぴったり密着しているのだ。相手は僕の射精をばかり促している。こんな状況でガマンなどできようはずがなかった。



 僕は自分から静佳に強く抱きつき、生足を絡め合った。キャミソールにパンティ姿の彼女の体は、どこもかしこもが心地よかった。

 「にゃははっ、これがタイムフラワーの威力なんだね。すっごい興奮しちゃってるよ?」「静佳ちゃんの足、そんなに気持ちいいのかな?」

 周囲の二人の会話をよそに、僕は我を忘れて彼女の体に抱きつき吸いつき、ひたすら足をこすり合わせ続ける。

 きめの細かい、ツルツルの吸いつく肌が、僕の両足にしっかりと絡み付いて密着している。静佳の体温が滑るように僕の両足をくすぐり、名残悪しそうに吸いついては滑らかにこすれていくのだ。そのひとこすりひとこすりが、僕を心酔させ、とろけさせ、股間のくすぐったさが一段と強まるのである。

 首すじには、これまたスベスベした静佳のなまの腕がしっかりと巻きつき、ぎゅっと引き寄せて離さない。彼女の頬がしきりに僕の顔を愛撫していた。僕は体をかがめて、もっともっとと彼女の顔や首筋に吸いつき、自分からこすっていって快楽ばかりを求めた。

 「そんなに私の足が気に入ったんだ? …じゃあ、こんなことしちゃったら、いったいどうなるのかなぁ〜?」

 静佳はいきなりペニスを内股の間に挟み込んだ! シコシコした弾力が急激にペニスを締めつける。心地よさにひくついていたペニスは、急に心地よいふとももに包まれ、一気に下半身を脱力させた。安心しきってしまうような性感が下腹部から急に全身に広がる。

 「あふ!」2週間も抜いていないで、すぐに出したがっていた玉袋が、一気に内部の精液をすべて押し出しにかかる。強烈なくすぐったさが一気にこみ上げ、射精直前の多幸感に脳が支配される。

 精液は心地よい律動とともにどんどん放出されていく。もはやその間、なにも考えることができなかった。空白の数秒間は、完全なる無であった。その間はただただ、ひたすら気持ちいいの一辺倒である。

 股間から脳の脈打ちが終わるまで、僕は静佳にぎゅっと抱きつき、彼女を心の底から愛して止まず、それ以外は快楽一色、なにも考えることができなかった。

 やっとおさまると、僕は静佳の上でぐったり脱力した。溜めきっていたものを一気に出しつくし、全身の心地よい疲労感とともにけだるい安堵に包まれていた。

 射精する間中は、心の底から、なにもかもどうなってもいい、この気持ち良さにすべてをゆだねてしまいたいという思いだった。ああ、魔族の手に堕ちるということは、この快楽と心とが永遠に続くことを意味するのだな。瞬間的な、数秒間の、絶頂時限定の堕落が、数億年数えても終わらないくらいに続くことになるのだ。

 それはもはや、理性もなく、脳も働かず、ただ芋虫のようにじっとするかモゾモゾ動くだけで、射精し続けながら思考が完全に停止し続ける状態だ。芋虫でさえ食料を求めて必死でかけずり回るから、僕は人間をやめるどころか、芋虫以下の存在に成り果てることになるのである。

 それだけはやはり、何としても避けなければならない。そんな思考が頭をもたげたのは、律動が終わってからさらに1分近くが経過した時であった。その程度の精神では、その程度の覚悟では、その程度の反悪魔精神では、タイムフラワーの威力にはとうてい敵わないのである。

 そのことを、玉袋にいつのまにかはりついていた、みずほ先生の持つタイムフラワーで思い知らされることになる。

 「ああっ!」僕は慌てて玉袋から紫の毒花をむしり取った。だが、時すでに遅く、脱力してなにも考えられず恍惚に陥っていた数十秒の間、玉袋は徹底的に時間を進められてしまっていた。

 不思議なことに、体はぐったり疲れているのに、股間だけは極限に性欲に疼き、セックスへの衝動が強制的に高められている感覚に陥る。疲労感がさらなる脱力を誘うのに、股間だけはくすぐったくカウパーを滲ませている。

 およそ一ヶ月、精子を吐いていないのと同じ状態で、ガマンの限界に達してしまっていた。

 そうなってくると、奇妙な感覚に見舞われる。心地よい疲労感が、全身を痺れる快楽のフチにたたき落とすのだ。まるで子供に返ってしまったみたいに、経験が吸い取られ、あたかも女性と触れ合ったことがないかのように、極端に相手を前に興奮しながら、疲れたという神経の反応がすべて性感神経の反応とすり替えられるようなおかしな感覚が全身を包み込むのだ。こんな気持ちになったことはない。

 「くすくす…」みずほ先生が、僕の前ににじり寄ってくる。タイムフラワーをたたき落とすべく上体を起こしたまま、足をだらしなく投げ出して座っている僕の目の前で、先生は滑らかな手を見せつけてきた。

 「どお? 大人の女の手、やわらかくてスベスベで白くてキレイでしょう?」「はい・・・」「今のキミの体は、女の人に触られたことがないのと同じくらいの敏感さになっている。つまり、先生の手が、初めてキミのココに触れ、握りしめることになるのよ?」

 先生はきゅっとペニスを右手で握りしめた。

 「あああ!」

 とたんに強烈な快感がペニスを包み込んだ! すべすべで、むにっとしていて、くすぐったく吸いつく手のひらや指先が、じかにペニスを包み込み、少し力を入れて握りしめてくれている。

 急激な快楽が股間から全体に広がった。そして次の瞬間、一気に高められた。なにも考えられなくなり、ひんやりした柔らかな先生の、大人の女手に身を任せる。白濁液が、先生の手の間からあふれ返り、ヒクヒクと脈打ちながらついには噴水のように飛び出していった。

 さっきと同じ、なにもかもどうでもいいという快楽一辺倒の中で、脳が思考を停止した。「まだしごいてもいないのに出しちゃうなんて、よっぽどたまっていたのね」そんな先生の声さえも遠くでかすかに聞こえるばかりだった。

 それにもかかわらず、それだけ長時間射精していなかったペニスは、まだ出し足りないというふうだった。

 すると先生は、ペニスを亀頭以外しごき、玉袋を撫でさすりながら、先端に口をつけると、滑らかな舌でぬりゅぬりゅと亀頭ばかりを舐め始めた。先端に集中する心地よさが、出したばかりのペニスであるにもかかわらず、ふたたび脳をとろけさせる。

 カリの敏感なところに丹念に舌を絡めて這わせながら、べろべろと大きく舌が蠢いて、亀頭全体を丹念に舐め続けたかと思うと、時折ちょろちょろと尿道口のワレメのところに小さくなった舌先で小刻みに舐め尽くす。その間中、右手と左手は、それぞれ棒と玉袋をスベスベの手でしごき撫でさすり、股間全体を女手と舌の暴虐にさらし続けた。

 出し切れずに残っていた精液は、みずほ先生の手と口のコンボによって、あっという間に一滴残らず絞り出されてしまうのだった。

 玉袋が痛い。出し過ぎて疲労がピークに達している。急激に萎えたペニスを3人はにやにやしながら見つめていた。力が入らず、直緒子が手に持つタイムフラワーを振り払うことができなかった。

 疲れ果てた玉袋に花がはりつく。僕はなんとか手を伸ばし、花を振り払おうとしたが、起き上がるのもやっとで、簡単にはふりほどくことができなかった。

 不思議なことに、タイムフラワーがはりついたとたんに、玉袋の痛みが消え、疲労感も薄れていった。疲れや痛みの代わりに、痛覚も熱覚もすべての神経が性感神経に変わってしまう。身に受ける苦痛はすべて性的な快感に変わり、疲労も吹き飛んでしまう。玉袋の時間が進められるにつれて、出し過ぎた痛みは回復し、さらにはパンパンに精子が溜め込まれてしまうわけだ。

 やっとタイムフラワーを引き剥がした時には、すでに玉袋の時間は1ヶ月経過していた。

 「さ、神谷君。」直緒子は僕の隣にうつぶせになった。「…私のこと、好きにしていいよ?」

 精神をしっかり持っていれば、裸エプロンの娘がうつぶせになったセクシーな格好に心を動かされることはないだろう。そのスベスベの背中や色っぽい首筋やふくらんだお尻の弾力にほだされることもなく、セックスの快楽を拒否してその場を逃れていただろう。

 拒否しようと思えば拒否できる自由を、直緒子はあえて与えてくれた。だが、パンパンに溜め込まれた精子がこれを許さなかった。僕は自分の意志の弱さをかみしめながら、股間のくすぐったい衝動に抗うことができずに、直緒子の上に覆い被さった。

 ペニスがプニプニのお尻の肉にめり込む。お腹まで反り返されたペニスの下側に、女性特有のやわらかくきめの細かいヒップがむっちりはりつき、さらに僕が体重をかけるとグニッとやわらかくつぶれて、ペニスを心地よく圧迫してくれる。

 「あふう…」僕は自分から腰を上下させ、ペニスをしきりに女のお尻に押しつけ続けた。跳ね返される肉の柔らかさと吸いつくような肌触りに我を忘れ、あっという間に高められた。

 僕は直緒子の背中のスベスベ感を上半身に感じながら、彼女の大きな魅惑の臀部に濃い精液を放出した。一ヶ月も抜いていなければ、ごく短時間で、あっという間に射精まで至ってしまうのだ。

 一ヶ月分となると一度の射精では出し切れない。僕はあお向けに寝かされ、3人分の6本の腕、30の指先で全身をまさぐられ刺激された。

 直緒子が僕の両乳首やお腹をくすぐり、さらに腕や肩や脇の下を手のひらや甲で撫でさすった。みずほ先生が内股やふとももや足の裏を丹念に愛撫し、くすぐり続ける。そして静佳が玉袋をさすりくすぐりながら、猛スピードでペニスをしごき続けた。

 3人によってたかって女手で愛撫され、しごかれ、刺激され、くすぐられ、あちこちの性感神経を同時に責めたてられる。僕は何も考えられずにハアハアと悩ましい息をつきながら、身をよじって感じ続け、ほどなくして女手の群れの中で、絶頂の時を迎えた。

 イク頃になると、3人の手はじわじわと股間に吸い寄せられ、射精の瞬間には、誰の手か分からないくらいペニスに女たちの手が群がり、棒も先端も玉袋も会陰もアナルもしなやかな手や甲や指先の餌食になっていた。

 白い手の中からもっと白い体液がほとばしると、やっとペニスは落ち着きを取り戻した。

 タイムフラワーは一人一本。さらに、タイムフラワーを玉袋に貼り付けたままペニスを責めるのは、今のところ禁止になっているらしい。あくまで僕の意思で精を放出することをみずから認めるのでなければならないからだとか。

 というわけで、僕は3人がかりでしこたま射精させられてしまっていた。もはや夢精は何度もし終わり、現実世界では精液は枯渇し、絶頂時の脈打ちだけがふとんの中で起こっているに違いない。

 タイムフラワーはなくなった。それ以上の誘惑はできなくなる。僕は呼吸を整え、自分自身を正気に戻していった。

 淫夢に敗北したといっても、まだ目が覚めるわけではない。こうなれば、目が覚めるまで、できるだけ射精を抑える必要がある。

 しかし、タイムフラワーに食いつかれた状態で、どうやって自分を制御したらよいのだろうか。結局この3人にタイムフラワーをあてがわれ、僕は自制がきかなくなって、射精するに身を任せてしまっていたではないか。

 考えあぐねているうちに、3人はベッドから降り、着ているものを整えた。

 「はい。朝の準備運動は終わり。」静佳が不敵な笑みを浮かべる。そう、僕はこのおかしな3人組に完全敗北してしまったのである。

 「あー。あのさあ。」

 部屋を出て、リビングに向かおうとする僕のあとを3人がついてくる。その途中で、このように静佳が切り出した。「いま、お風呂が壊れちゃったのよね。」「え?」「きのうさあ、牛乳風呂をやろうとして、大量に牛乳を買ってきて浴槽を満たしてお風呂を沸かし、追い炊きに追い炊きを重ねて温めていたら壊れちった。」

 静佳はてへっと舌を出した。

 「何してくれてんねんお前…人の家のフロを…」そもそも牛乳風呂の方法自体が間違っていますよ姉さん!

 「と、いうわけで、神谷君、今から銭湯に行ってきて。」直緒子がにっこり微笑む。

 「はあ?」

 「だからね? 今はお風呂が真っ黒になってたいへんな状態になってるの。入れないから、銭湯に行ってきて、って言ったの。」

 「いや…僕、別にフロに入りたいわけじゃないし。朝風呂の習慣もないし。」

 「つべこべ言わずに行ってこい!」

 どきゃ!

 僕の背中を、みずほ先生の細い足が、足の裏が直撃する。

 「ぎゃああ!」僕は文字どおり、玄関から外へ蹴り出されてしまった。

 「じゃあね〜ごゆっくり。」「しばらく戻ってこなくていいからね〜」女たちは玄関先で数秒間だけ僕を見送ると、バタンと扉を閉めてしまった。

 そこ、僕の家ですよね。。。なんで住人が放り出されなければならんのですか。

 しかも…銭湯、風呂だと!? 淫夢の危険な香りがぷんぷんじゃないですか。先の展開が読めすぎる。誰が行くものか。

 と、玄関先に黒い車が止まった。

 中から、黒服に身を包んだ、いかにもSPっぽいお姉さんたちがサングラスをかけて数人出てくる。

 「神谷達郎さま。お迎えに上がりました。」

 「・・・は?」

 「これよりあなた様を銭湯までお送りいたします。」

 …。

 銭湯行きは強制イベントですかそうですか。

 すでに僕は囲まれてしまっていて、逃げられそうにない。

 「…一応聞いておくけど、銭湯に行きたくない、って言ったら?」

 「われわれSPが持たされているタイムフラワーをお見舞いして、放置して車を出します。街の娘にでも出しまくっていただくことになりますが?」「…。」どっちみちそういう展開か。

 僕は渋々車に乗った。

 「銭湯って、どこまで行くの?」「格式と伝統のある“まさのゆ”です。暖簾はひらがなが逆向き、右側から配列されておりますので、違う屋号に見えます。」「…。」

 …よく見ると、SPの中に一人、サングラスをして頭に”×”の髪飾りをしている、恐ろしく背の低い女の人が混じっていた。

 「おおゆーのーさま、ゆーのーさま、たーすけてパパイヤー♪」「ダメです。」小さい人が冷たく言い放つ。これほどにSPの黒いスーツが似合わない娘も珍しい。

 そうこうしているうちに、車は銭湯に到着した。

 「それでは行ってらっしゃいませ〜」吉野●先生にそっくりの緑の髪型をしたサングラスSPが、僕をどかっと蹴り出した。

 「んぎゃ!」僕は銭湯“まさのゆ”の前に一人投げ出された。車は容赦なく発進してどこかに消えてしまった。

 「…せめて降ろし方くらい乱暴ではなく普通にやって欲しかった。。。」

 とにかく、銭湯に入るしかないのか。結果が見えているから行きたくないんだよなあ。でも、行かなければ、もとひどい目に遭わされそうな気がする。SPも妻たち(?)も僕に対してものすごい扱いだし。

 そういえば僕は服を着ていない。朝から3人がかりでイかされまくって、そのまま家の外に放り出され、あれよあれよという間に車でここまで強制的に連れて来られたのだった。

 やっぱり、この中は女湯オンリーになるよなあ。淫夢と考えればそうなるのも仕方がない。

 こうなったら、絶対に呼吸を落ち着けて、何があっても慌てふためくことなく、タイムフラワーがあっても絶対気を迷わさずに、淫夢を乗り切るしかない。

 覚悟を決め、呼吸を深めてから、僕は意を決してまさのゆの暖簾をくぐった。

 

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