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ナメてる戦隊フザケンジャー!


第18話 さらば愛する人よ…悲しき別れを乗り越えよ!

 

みさ:「これがこの施設最後のプログラム。『ローション大広間』だよ。」

 僕は監視員たちに大広間の前まで連れてこられる。みさはまだ服を着ていない。

みさ:「レジスタンスのほとんどは、これまでのプログラムによって新世界の魅力を理解し、順当に更生されてきたの。がんばる男の子たちも、20分部屋には耐えられなかったわ。ここまで来るのは、よほど意志の固い硬派か、レジスタンスの幹部クラス以上のツワモノ。でもね、そんな男たちでも、この大部屋から洗脳されずに脱出できた人はいないんだよ。」

僕:「…。」

みさ:「それでも、今はレジスタンスの全盛期だからね。多くの男たちがここにたどり着いてはいるけどね。それでも、この大広間の誘惑には絶対に勝てない。そうやってレジスタンスグループはどんどんつぶされ、時間が経つにつれて壊滅していくことになる。そこから先はもはや魔界だよ?」

僕:「・・・ふざけやがって。」

 僕は監視員に促され、ローション大広間に入っていった。

僕:「これは…」

 中に入ると、壮絶な光景が繰り広げられていた。

 広い体育館以上に遙かな広大さを持つ大広間。床には空気マットが敷き詰められ、そこに全裸の動物たちが大勢、寝っ転がってたむろしている。

 体育館の天井の装置から霧のような雨が降っており、それが動物どもをてかてかに光らせている。

 その雨こそがローションであることは一目でわかった。

 淫気は薄いが、そのローションが催淫剤でもあることもすぐにわかった。

 あちこちで絡み合っている固まりの中心に男がいる。彼の体が桃色に染まっているのだ。ローションに毒され、体が性欲に弱体化しているのであろう。

みさ:「ここは歩いていってはだめだよ。つるつる滑るからね。あと、そのローションは催淫剤じゃあないよ。淫気はあくまで、そこにいる女たちの体から発せられる分だけ。でも、少なくとも1000人くらいいるから、その分の淫気はこの大広間にこもっているかもね。このローションは、男の子たちの体を童貞にする薬が混ざってるんだ。」

僕:「はあ? 童貞だと?」

みさ:「もっと言うと、性に敏感な思春期くらいの感度になる。それでいてどんな百戦錬磨も、女体に触れたことも、ましてや挿入したこともないのと同じくらいの快感が訪れるという優れもの。淫気で精子が溜め込まれた体にゃ、初めてのセックスは極上、ガマンできるものでもないでしょ。それに、彼女たちの方はセックスの訓練を十分受けた上級の監視員たちで、全身ローションまみれ。まず耐えられないというわけ。」

僕:「ちくしょう…」

みさ:「これで外に出ても、ローションの効果は持続するから、しばらくは初セックスと同じ感覚を楽しめるよ? 不慣れで快感に弱くてすぐイッちゃう気持ちいい体になれるから、効果は抜群だね♪」

僕:「ま、まけるものか…」

みさ:「じゃ、這っていってこの向こうの扉から出てごらん。そしたら外に出られる。ずいぶん時間も経っているから、新世界1日体験も終わるかもね。」

僕:「つまり…夢から覚めるというわけか。」

みさ:「うん。また私ともしばらくお別れだね。」

僕:「…。」

みさ:「というわけで、このローション地獄、私も混ざるからね。」

僕:「はああ!? 消えてろよ!」

みさ:「だあめ♪ じゃ、向こうの方で待ってるからね。…にゃはは〜!」

 みさは全裸のままローションと女体の海を泳いでいった。アホめ。

 僕もうかうかはしていられない。このローションの海を克服して、なんとしても夢から覚めるのだ。

 一歩足を踏み入れ、四つん這いになって、這って進もうとし始めたとたん、僕の全身がローションまみれになった。ローションは一度床から吸収され、浄化されるとふたたび天井から清潔になって降ってくる仕組みのようだ。

 そのとたん、体がじわりと痺れるようになる。見ると、全身がほのかにピンク色になっているのがわかった。

 たしかに、このローションは淫気ではない。しかし、この薬は、どうやら肌神経の「慣れ」を除去する効果があるらしい。同じ刺激をくり返すと徐々に鈍麻していくものだが、その鈍麻化がなくなってしまう。これは、現在の刺激に対してだけでなく、過去に受けた刺激の記憶に関しても同じ効力を発揮するらしい。

 つまり、セックスの刺激を受けたことがまったくない体に戻り、そのまま一向に慣れることがなく、ずっと女体に対して新鮮な感覚を受けることになる。まさに童貞化、しかも、女性に敏感な思春期くらいの肌神経へと変えさせられてしまうのである。

 そこへ、極上の肉体を持ち、一定の訓練を経たエキスパート監視員たちが、全裸で絡み付いてくる。なるほど、どんなレジスタンスも、洗脳されてしまう道理だ。

 女の数は1000人。それがぎっしりと体育館を埋め尽くしている。彼女たちにとって見れば、外で数少ない男を捜し回るより、こうしてレジスタンスが捕まえられてくるのを待っていた方が、男性に出会える確率がグッと高いので、この上なくおいしい仕事なのであろう。

 空気が流れている。ということは、淫気が吸い上げられ、浄化されているのだろう。これだけの人数が収容されているのだから、空気の整調と清浄は絶対条件、淫気がずいぶん薄く感じたのも換気が行き届いているからなのだろう。

 あちこちに人だかりができている。彼女たちはこれだけの人数の中からでも男性を的確に捜し出せる。ピンクの肌をめがければ良いのだ。

 男たちは無言で女体に自ら絡み付き、あるいはローションプレイされるに身を任せ、ほぼ毎分射精している状態だ。換気が行き届いていても女体からリアルタイムに吐き出されている淫気には毒されるから、童貞厨房の肉体となった男性の玉袋は、おそらく30秒以内に復活、勢いよく溜め込まれて、そこへ極上のローションマットテクニックが襲いかかるので、数十秒以内に射精してしまうということだ。

 と、いうことは、ここで絡み合っている男性は、ほぼひっきりなしに「射精直前の感覚」のまま衰えることなく、イッて出しつくしても、脈打ちが終わった瞬間に次の「直前の感覚」に襲われた状態を続けていることになる。

 つまり男たちは、イキながら立て続けに女体のローション刺激を受け続けているというわけだ。これを一体どのくらい続けているのだろうか。

 そうこうしているうちにも、僕の方にだって魔の手、魔の体が伸びてくる。

 彼女たちの、あるいは更生施設としての流儀なのだろうか、ローションまみれの娘たちは、あまり積極的に襲いかかってこない。むしろ、こちらがセックスを求める気になった時に容赦なく抜きまくっている節が見られる。

 やはり、更生させる=セックスの虜にさせることが目的であり、心を変え、洗脳することが何より大切なのだろう。そのためにはただ射精させればよいのではなく、その快楽に対して心を開かせ、外に出てからもレジスタンスではなくメスに精を提供する魔族のしもべに仕立て上げなければならないのである。

 そのため、初めのうちはあまり積極的に襲ってくることはなかった。

 ただ、これだけ床がツルツルになっていては、歩くことも走ることも叶わず、這ってゆっくり進むしかない。それも、ただの四つん這いでスピードよく行くというより、匍匐前進に近い体勢を取らなければならないのだ。手をついて進もうとしてもその手が滑ってしまうのである。そのくらいにローションはにゅるにゅるであった。

 匍匐前進ということは、床にあお向けやうつぶせに寝そべっている監視員さんたちの裸体を超えていかなければならないことを意味する。

 にゅるにゅると彼女たちのローションまみれの体に、自分の体を押しつけこすりつけながら、先に進むことになる。経験値を奪われ、何もかもが初めてと同じ新鮮な感触に陥る効果付きであり、そこにみずみずしい肌をさらにモチモチに仕立て上げたローションレディたちが、クスクス笑いながら僕の体に自慢の女体を押しつけてくるわけである。

 女の子の体のやわらかさ。すでに何度となく経験してきていることである。が、あたらめて彼女たちの上に乗り、その裸体の群れを滑って行くに従って、どこまでもめり込んでしまいそうな弾力にいちいちはっとさせられてしまう。

 出っ張っているところがしっかり出っ張り、くびれているとことがしっかり美しく際だっている。にゅるにゅると滑りながらそこかしこひっかかってやわ肌を刻みつけてくるその感触に、やはりあらためて酔いしれさせられてしまう。

 その肌の滑らかさ。きめが細かくみずみずしく、吸いつくようなツルツルスベスベの感触は、やはり男の体よりもずっと美しくしなやかにできている。これも幾度となく経験したことなのに、ローションの魔力のせいで、一人一人の感触がゾッとするほど心地よいのだ。

 にゅるんとなめらかに滑って行くローションのぬとぬとした感触も、経験済みのはずだったにもかかわらず、初めて風俗にいって瞬殺された時のような高まりを見せている。

 心臓のドキドキが止まらず、生足のシコシコした感触、オンナ表面のプニッとしたやわらかさ。おっぱいの突起と、どこまでもめり込むやわらかさ。お尻の吸いつく感触。足の裏の、硬さとしなやかさを備えた彫刻のような美しさ。なまの手のスベスベした感触、プニッとした二の腕、なめらかな背中。細くてスベスベした首すじ、きめの細かいほっぺ、柔らかい髪の毛。つるつるの脇の下。

 女の人の体って、どこもかしこも魅力的で、性的で、気持ちいい。男を感じさせない部位などどこにもない。

 そう言えば、女の人の耳の裏こそに興奮するという趣味の人も世の中にはいたな。肩だけに興奮するとか、指の間こそ女神とか、指の節のしわしわ萌えとか、中には全身真っ青に入れ墨している女性にしか感じないという悩ましい殿方もいらっしゃるとかいらっしゃらないとか。エロは奥が深いぜ。

 となると、やはり全身を駆使したローション攻撃は、耳の裏はともかく、全身の全ての、男を感じさせる部位を余すところなく用いて、男性を興奮させて射精に至らしめ、もって新世界の魅力を洗脳していくプログラムの最後にふさわしいステージなのだろう。

 ペニスに刻まれる感触も心地いい。這って進むにつれ、ペニスは女たちの足、お腹、脇腹、お尻、胸、背中、首、ほっぺ、唇などまんべんなく滑って行く。そのどこにはりついても、イキそうになるくらいに感じてしまうのである。髪の毛でさえ、僕を射精に導く立派な武器だ。

 徐々に性欲が高まっていく。微量の淫気は吐き出されているものの、もはやそんなものの力を借りずとも、タイムフラワーの力を借りずとも、僕を性欲の虜に仕立て上げるのは簡単なようだった。

 股間が強烈にくすぐったく疼く。このまま真下の女性の体にペニスを擦りつけて射精してしまいたいという衝動に駆られる。だが、そのたびに僕は、頭を振って誘惑をはねのけ、カメのようにゆっくりと這って進んでいくのである。

 しかし、そんなことを何度もくり返していくうちに、徐々に耐えきれなくなってしまう。ついつい、ある女性の体の上に乗っかった時に、出来心で、腰を上下させて、女の子のお腹や生足にペニスを擦りつけてしまった。

 すると僕は、その場を動けなくなってしまった。

 強烈な快感が股間から全身を駆けめぐり、不可抗力で滑って行くのとはまったく違う、性欲の対象としての肉布団が、突如僕の真下のあらわれたのだ。そしてその苛烈を極める女体の誘惑は、“初めて”の僕にとっては、この上もない快楽であり、そこから脱出したり、心を鬼にして無理に這って進んだ利などは、とてもできる相談ではなかったのだ。

 それでも、僕はフザケンジャーとしての義務を忘れず、何としても先に進むのだという強い意思を持って、肉欲と精神的に戦い続けていた。

 そこへ、肉欲にとってあまりに頼もしい助っ人が現れた。

 別の娘が、いきなり後ろからペニスをきゅっと掴んできたのだ。

 「あう!」女の人のやわらかい手が、触られたこともないのに、いきなリダイレクトにペニスを掴んでしまったのである。

 しごかれるまでもなく、さんざんローション女体に高められていたペニスは、鋭い反応を示した。こすれるたびに心地よく、玉袋に精子が急ピッチで生産されていく中で、いつ射精してもおかしくないところに、むっちりしたローション生手がペニスを握りしめたのだからたまらない。

 精液は、下の女の子の腰あたりにぶちまけられてしまった。

 イキ終わった僕の全身に、ローション生手が襲いかかる。さっきも手で抜かれていたのに、あらためて触られると感覚が新鮮だ。これが童貞化の効力なのだ。

 そのうちに彼女たちの淫気によって玉袋に精液が溜め込まれ、引き続き射精させられてしまうのがわかっていた。今度はフザケンジャーの義務の方が勝った。

 僕はまたゆっくりカメのように這っていく。すると、女たちは即座に手を離し、また床に寝転び始めた。

 なるほど、性欲にほだされて立ち止まっている(這い止まっている)時には、女たちは積極的な誘惑攻撃に入る。だが、進んでいる時には、彼女たちは手を出さず襲いかかりもせず、その代わりに僕の体が滑って行くにつれて女体が滑り、淫気とローションに合わせて男をその気にさせるのだ。

 そうして、性欲に疼いて立ち止まったり悩んでいる時には、一斉に襲いかかってきて連続射精させてくるというシステムだ。

 それなら、僕さえしっかりしていれば、これから先一滴も漏らさずにゴールまで行けるんじゃないか。がんばるしかない。

 とはいえ、やはり進みは遅い。匍匐前進状態ではどうしてもスピードが上がらず、女体の上をじっくり滑るようにして一人一人の肉体を超えていかなければならないのだ。

 数人分を超えたあたりで、僕はまた苦しみ始めた。一人の女体を超えて次の女体に進んだ時、皮膚細胞が慣れることなくそのつど新鮮な魅力を味わってしまうからである。何度でも同じ攻撃で興奮し、何度でも射精してしまう恐るべきローションだ。

 スタイルのいい美女の上をぬるんと滑りながら、僕はゆっくりと先に進んでいた。前方を見ると、まだまだ出口は遠い。若娘たちの肉体を滑りながら、彼女たち一人一人の新鮮な心地よい感触を味わわされている。

 何もしなくても性欲が増大してしまうローションに加えて、にゅるにゅるになったきめの細かい女体の群れが僕の下でつぶれていく。僕が進むたびにそのぷるぷるしたやわらかい肉が僕の体をこすっている。若娘たちの裸体の誘惑はあまりにも強烈で甘いものであった。

 「うう…」股間のくすぐったさに身震いする。すぐにでも射精して、女の人たちに抜いてもらいたいという衝動的な欲動が、僕の進みをまたもや止めてしまうのだった。

 止まらずに進み続けている間は、彼女たちはあお向けやうつぶせに寝そべっているばかりで、抱きついてくるわけでもなければ、もちろんペニスに触れてくることもなかった。ただ、僕の進みに従って自動的に滑って行く裸体の感触とローションの効果だけで、彼女たちは十分に僕を誘惑することができたのだった。

 その誘惑に負け、性欲に耐えきれなくなった時、僕は自然と進みを止めてしまうことになる。止まったが最後、周囲にいる女性たちは一斉に僕に襲いかかってくるのである。

 ぬるぬるのローションにまみれた肉体が僕に覆い被さってくる。数人がかりで押さえつけられ、僕はあお向けに寝かされた。僕の背中にもすでに何人かの女性が寝そべった状態で全身を押しつけてきている。

 その上にさらに、Bカップくらいの若い娘が乗っかってくる。彼女はローションの滑りを駆使して、大きくゆっくりと僕の体を下から上に這っていった。

 別の女の子も同じように全身で僕の体を足下から顔面までこすりあげる。こうして、何人もの女性が、全身ローションで僕の体に女体を押しつけこすりあげていく。

 僕は下からも上からも女体にサンドイッチされる格好になりながら、お腹も背中もペニスも女の体にぬりゅぬりゅこすられまくっていた。

 彼女たちの生足やお腹やお尻がペニスをこすっていく。全身をこすり上げる勢いで、ペニスもまた、ローション女体の餌食となっていた。僕は脱力したまま、彼女たちのなすがままになる他はなかった。

 肉付きのいい大人の女性のヒザの裏に、突然ペニスが挟まれた。そして足全体を駆使して、膝裏でペニスをしごいてくれた。別の娘が指先で亀頭だけをかわいがる。

 「あああ!」ローション膝裏に耐えることはできなかった。あお向けのまま腰を突き出し、快感の証を女の足でぴゅるぴゅると放出していく。

 また同じことのくり返しだった。少し進んではじわじわと高められ、進みを止めてしまうのである。玉袋の精子はすでに溜め込まれ、また射精できる状態になってしまった。

 ローションの毒成分は、すでに全身に回りきってしまっており、女体に触れていなかったとしてもすぐに性欲の虜となってしまうくらいに、全身が毒されてしまっていた。そこへ裸のローション娘たちの上を這って進むなど、自殺行為にも等しい。

 進みを止めた僕に待っていたのは、ローション生足スマタ攻撃だった。交代でふとももの間にペニスが挟み込まれ、数回こすりあげては次の女性の足に挟まれる。シコシコした心地よい生足ばかりであったが、敏感なペニスはそれでも、一人一人微妙に違う心地よい感触を見分けることができた。一人一人違う生足の感触に犯され、僕はあっという間に高められてしまった。

 このままでは、いずれは一歩も先に進めなくなるだろう。出しつくしてもその場を動くことができず、連続して永遠に精を抜き取られ続けることになるのだ。…ローション美女は数え切れないくらい寝そべっている。

 施設の強烈な誘惑をも乗り越えてきた屈強なレジスタンスの男たちでさえ、このローション大部屋の誘惑には勝てなかった。あちこちで裸の女体の山ができているが、その中には哀れにも理性を失い、もはや先に進むことができなくなった男たちが埋まっている。そして毎分毎秒絶頂させられ続け、外に出てからは快感を提供するだけの道具に成り下がってしまう。

 このままでは僕もその一人になってしまうであろう。僕がそうなってしまっては、夢から仮に覚めることができたとしても、もはやフザケンジャーはつとまらないだろう。女体を見たとたん精神が崩壊し、天国軍団でも誰であっても飛びかかって積極的に腰を振って、自分から精子を放出しようとするはずだ。枯渇するまで抜かれ、廃人となってしまうのかも知れない。

 それだけは何としても避けなくてはいけない。いけない、のだが…いったいどうすれば、崩壊せずに最後まで歩みを進められるというのか。

 1メートル進んだ当たりでまた進めなくなる。四つん這いになった僕のペニスに、下からおっぱいが襲いかかる。ローションパイズリで、僕は女の子の胸に白濁液を放出してしまった。

 出しても出しても、すぐに精子が溜め込まれ、性欲に全身がつき動かされてしまう。これはタイムフラワーによるのではなく、ローションに含まれる毒成分によるものである。

 佐伯仙術の呼吸法ができれば、そんな程度の毒などすぐにでも体外に放出できるのに。

 それができないのは、もしその呼吸をしようものなら、女たちにタイムフラワーをあてがわれるとおどされているからである。タイムフラワーは、一秒につき1日分、玉袋の時間を進められてしまうものである。そうなるとあっさり精液がパンパンに溜め込まれ、出したくてたまらなくなるばかりか、簡単な刺激だけでイかされてしまうのである。

 今の僕には、タイムフラワーの餌食になりながらも射精せずに戦えるだけの戦闘力がない。タイムフラワーをあてがわれたら射精は必至なのである。

 …まてよ?

 今、ここにいる女たちは、生まれたままの姿である。一体どこにタイムフラワーを持っているというのか。

 特殊なローションと、タイムフラワーでは、タイムフラワーの方が強烈とはいえ、似たような効果を持っている。だから、ローションがあれば、タイムフラワーは不要なはず。僕は呼吸法を禁じられているし。

 「こおおお・・・」僕はダメモトで、佐伯仙術の呼吸法をやってみた。これでどこからともなくタイムフラワーを取り出されたら僕の負け。万事休すである。そのまま進めなくなって廃人確定だ。

 体の中に神通力がみなぎってくる。すると、さっきまでほてっていた体と性欲が、急に鎮まってくるのを感じた。

 「コオオオオオォォォ!!!」本格的に呼吸を深めていく。すると、みるみるうちに汗のようなものが拭きだしていく。それは汗ではなく、ピンク色した淫毒であった。これが体内にあって脳を犯し、玉袋に精子を溜め込ませつつ性欲の虜としている張本人である。

 「げげげげっ!?」「ちょっ! それはルール違反だよぉ!」「だっ、誰かタイムフラワー! こいつが佐伯仙術を使ったら罰としてタイムフラワー!」「って、アンタは持ってないの!?」「持ってないよぅ!!」「あたしも持ってない。」「私も。」

 「って、だれももってないのかよおお!!!」

 女たちが動揺する。どよめきは波状に周囲に広がり、みんなが僕に注目する。体内の毒素は完全に外に放出され、僕は性欲の虜でなくなった。玉袋の精子も抑えられ、なおかつ性感神経が鈍くなって、快感を感じにくい強靱な体へと変貌していく。

 思った通りだ。彼女たちは人数も多く、僕が禁を破って佐伯仙術を使うとは夢にも思わなかった。人数が多いだけに生じる油断である。誰もタイムフラワーを持っておらず、僕の佐伯仙術を食い止めることができなかったのだ。

 「こおおおお!」さらに呼吸を深め、全身表面に神通力のコーティングのようなものができた。きわめて薄い見えない膜であったが、鎧のように女体の弾力を跳ね返し、染みこんでくるローションのにゅるにゅるも感じない。いや、感じないだけでなく、実際にローションが僕の体から離れ、付着もしないみたいだった。魔力を帯びたローションは神通力を嫌い、僕の体を避けるようにはじかれていく。

 これなら…僕は意を決して立ち上がってみた。本来なら、ぬるぬる滑ってしまい、立って歩くことは不可能なはずだった。

 だが、一歩踏みしめると、その周囲にローションが逃げていき、僕の足の周囲だけローションのない乾いたシーツとなる。従って滑ることもない。

 僕は寝そべっている女体を踏まないように気をつけながら、隙間を縫うように足を踏みしめ、ずんずんと歩き始めた。

 「ちょ! とまれ! みんなもこいつを止めてえ!」「わわわっ!」「たてないよお!」

 女たちは僕にしがみつこうと飛びかかってきたり、立ちはだかって僕に抱きつこうとしてきたりした。ローションがはじかれた以上、肉体そのものを使って僕を取り押さえ、射精に持ち込むつもりなのだろう。

 だが、今度はローションが彼女たちに仇成した。立ち上がって僕に襲いかかろうとしても、床がツルツルと滑り、一歩僕に近づこうとしただけでドシンと尻餅をついたり、前に倒れたりしてしまう。僕にしがみつこうと飛びかかってみても、ローションで滑る体では僕を捕まえることはできず、万一しがみつくことができても、足下もおぼつかず、僕が少し力を入れただけであっさりと引き剥がすことができている。

 その間中、僕の方はいっさい性感ダメージを受けず、女体の海を見ても興奮しないだけの精神を取り戻し、しがみつかれてもそのやわらかい感触を直に感じなくなっている。神通力のコーティングはまさに、フザケンジャーのスーツのように僕の全身を守ってくれているのだ。

 そうこうしている間も、僕はずんずんと足早に出口を目指して歩いていった。タイムフラワーを持たない(大広間のどこにもないらしい)状態では、彼女たちは僕に手も足も出ないのだ。

 一人の女がしつこく僕にしがみついてくる。何としても射精させてやりたいという、監視員上官の意地のようなものがあるのだろう。「こおおお!」僕は呼吸を深めながら彼女の背中をすべすべと撫でさすってやった。

 「ああっ、なに!? か、体が・・・熱いッ!!?」ビクビクとのけぞった上官は、全身を流れる神通力の感覚に打ち震えた。女体の内部、奥底に潜むすべての性感神経が同時に刺激されているのだ。佐伯仙術の神通力は、防御だけでなく攻撃においても超絶なる威力を発揮する。「あひいやあ!!」上官はその場に崩れ落ちてしまった。

 その姿を見た女たちは戦慄し、もはや僕にしがみついてこなくなった。それどころか、ぞぞぞっと這って僕の周囲から離れ、寄りつかなくなった。僕の前に、歩きやすいように自然と通路ができ上がる。僕は悠然とその道を歩いていった。誰もが無言で、大部屋は静まりかえっている。

 「待って!」そんな僕の前に立ちふさがる美少女が一人いた。僕よりも先にローションの海に入り、出口付近で待ち構えていた幽霊娘だ。

 彼女は危なっかしそうに小刻みに滑りながらも、筋肉をこわばらせ、機敏に動いて、なんとか両足で立ち、通路の、僕の前に立ちふさがることにかろうじて成功しているのだった。ちょっと押せば倒れてしまいそうなギリギリの通せんぼだ。

 「みさ…」僕も立ち止まる。15歳の、ふくらみかけた青いつぼみの裸体が、ローションでてかてか光っている。明るかったみさの表情は、いまや真顔になって、まるっこい顔立ちなのにどこか大人っぽい、凛とした真剣さに満ちていた。

 「…どうして?」「…みさ…」「どうしてわかってくれないの?」「みさ、そこをどけ。僕は夢から覚めなければならない。」「達郎…」

 みさの真剣な顔がほんのり赤く染まる。その声にうわずった涙声が混ざり始めた。

 「どうして達郎は、そんなにも新世界を拒否するの? こんなにすばらしい、快楽と幸せだけの世界なんだよ? そりゃあ、その人間の快感によって、魔族は魔力を得るけれども、それは決して人間を隷従させることには繋がらないし、魔族が人間から魔力を得ても人間の幸福には影響しない。そして、苦しみも、死も、病も、老いることもない、快楽一色で、しかも飽きることさえもないすばらしい世界なのに…」

 「みさ、自分が正しいと思ったり、善だと思ったりしたことは、必ずしも万人にとって正義や善であるとは限らないんだ。万人に共通の正義などというものは存在しない。せいぜいのところ、『自由で平等』な諸個人が“装置”に入って、合意を得た結果が『自由と平等』であったというような、同じ結論しか出てこないものだ。そんなの、ポットに『水』を入れて蓋を閉め、つぎに蓋を開けたら入っていたのは『水』でした、といっているのに等しい。」

 「…。」

 「たしかに、ポッティの考える世界、今の僕の世界だけが、絶対に正しいとは思わない。きっと、君の言う新世界も、まちがってはいないんだろうよ。そこはきっと快感にあふれ、何でも思い通りになり、しかも決して退屈をしない精神状態となって、永遠の幸福を享受できるのだろう。」

 「そうだよ! 新世界には苦痛はない。死もない。飢えることもない。身分や生まれた境遇によって惨めな思いをすることもないんだ。」

 「みさ…」そう、みさは天保の大飢饉で、飢えて苦しみ抜いて死んだ。もともとはそれが原因で幽霊になったのだろう。その後魔族に目をつけられ、色情霊となって、僕の夢の中、しかも淫夢で、なおかつ新世界紹介の時にしか、肉体を得ることがない存在となっているのだ。それだけではない、江戸時代の末期とはいえ、貧しい農村で生まれ育ったみさは、生きている間も、相当に惨めな思いをし続けたのに違いない。彼女の表情から、そのことは十分に読み取ることができた。きっと、何一ついいことがないまま、これから良くなろうという時に飢饉で死んでしまったのだろう。

 「争いもなく、飢饉もなく、いつでも食べたい時に食べ、寝たい時に寝て、望むものは全て手にはいる。性的な快楽がメインだけどそれ以外の幸せも全て望むままに実現する。貝に生まれ変わらずとも、十分に幸せになれる、幸せにしかなり得ない世界に、どうして反対するんだよ!」

 「それは…。きっと、ポッティは、単純に与えられるだけの快楽以上の、そういう快感だけでは得られない、もっともっと深い、本質的な幸福というものを、人間に味わって欲しいと思っているんじゃないかな。運命や理不尽を前にしても、神の世界の本質を信じ、不断の努力と、助け合う博愛精神とによって、運命を切り開くことで、初めて見えてくるものをこそ、人間界において実現させるべきなんじゃないか。それこそが、きっとポッティが望んだ、人間界のあるべき姿なんだと思う。」

 「そんな…」

 「そりゃあ、そんな世界は苦しいさ、いやなことがいっぱいだよ。でも、それがあるから人間は成長できるし、単純に苦痛と考えるのではなく、それが自分と他人との双方にとってプラスになるような何かを、必ずどこか含んでいるものだと思う。失敗をすればそこから何か学べないか一生懸命考える。そしてひたすらひたむきに行動し、さらなる成長に結びつける。そのことが、周囲の人を助け、幸せにしていって、それが自己の幸福となっていく。」

 「達郎…」

 「時代によって、たいへんな理不尽もあるだろう。生まれ変わることを拒否して貝になるのもいいだろう。なんにもいいことがないまま苦しんで死ぬこともあるだろう。現代だって、ちょっと前までは”お前たちの世代はいいよな、戦争も終戦後のがれきも体験せずに豊かな暮らしができるし、そういう贅沢な一生が送れるんだから”なんて言われたものさ。でもいざ蓋を開けてみれば、バブル崩壊、就職氷河期、苛烈な競争に世界経済の制約、環境問題…と、完全な停滞期に入り、自殺者は年間3万人を数えるほどになっている。戦後復興期のつましい暮らしの方がよっぽど幸せなんじゃないかと多くの人が思い始めている。運命に翻弄されるのは変わっちゃいないのさ。」

 「…。」

 「それでも、なおも人類には希望がある。希望はいつでも恣意的に呼び出せるものである。希望が持てる根拠など何一つ必要ではない。カミサマでも想定しておればよい。いや。仮にそんな想定がなくても、毎日の日常生活そのもの、一秒一秒を大切にすることで、自己に執着しすぎることなくダメモトでも一生懸命やってみて、その一歩一歩のプロセスそのものが、きっと希望になるんだ。」

 「希望…そんなもの、私にはないよ。」

 「みさ!」

 「じゃあ達郎は、もう私に会えなくなっても、それでもいいの!?」

 「えっ・・・」

 「新世界にならなければ、私は幽霊のまま、いつかは夢も廃れ、消滅してしまう。もう二度と会えなくなっても、それでもいいの?」

 「みさ…」

 「幽霊じゃなくて、人間になって、この世に復活して、…たまに見る夢の中だけじゃなくて、それこそ毎日、達郎と一緒にいられるようになりたい。…それって、そんなに贅沢なことなのかな。そんなに悪いことなのかな。そんなに、否定されなければならないことなの? そういう“希望”は、満たされてはいけないの? …だとすれば、やっぱり私には希望はない。」

 「み…さ……」

 「いいよ。私を倒してごらん。神通力を得た達郎なら、私なんてちょっと触っただけでイかせ倒せるでしょう。でも、それでキミが目覚めたら、…私はもう、二度とキミの前には現れない。もう、二度と会わない。達郎とは永遠にお別れだよ。」

 「…。」

 「さあ、選んで。ここで神通力を解除して、ローションとタイムフラワーと若い娘の体でイキ果てて、私と一緒に新世界を築くか、それとも、私を倒して、…うっ…うう、私と別れるか!」「みさ・・・」

 僕は…。

 僕は、みさが好きだ。今はっきりと自覚する。みさと一緒にいたい。みさと愛し合いたい。大好きなみさと、セックスだけでなく、いや、それ以上に大切な心の通い合いを通じて、みさと一緒に、幸せになりたい。みさを幸せにして、僕もそれで幸福になる。大切なみさと、共に歩んでいきたい。

 ああ! しかし!

 みさと一緒になるということは、この世界を崩壊させ、新世界に移行することを意味する。新世界になるにつれて、人間の娘たちは美しくなり、老いた女性は若返っていく。子供にも妙齢にもなることができる。その過程で、男たちの数はみるみる減少していく。

 これは男たちが死んだり消えたりという意味ではなく、その男を中心とした世界が多重にでき上がっていくことを意味している。最終的には、ある男性は世界に一人だけ、残りは全て女性となる。が、別の男性も同時に世界に一人だけの存在となっていくのである。

 もし40億人の男性がいるとすれば、世界は重なり合いながら40億でき上がることになる。40億の世界がパラレルワールドとして重なり合いながら、それぞれの世界で男性が主人公となっていく。これは一人一人の女性の主観にとっても同様らしい。つまり世界は無限に平行化し多重化していくというわけだ。

 そればかりでなく、その男性一人に対して女性の数は、無限に増え続けるというのである。人間の女性が40億人いるとすれば、その40億人が「人口の限界」ということではない。それだけいれば十分すぎるはずであるが、魔族はさらに容赦なく、もっともっと多くの女性を、世界でたった一人の男性にあてがってくれるのだ。しかも全員がその男性の好みになるように肉体と精神とを変貌させていくという。

 人間は飽きる動物だ。だが、飽きるという精神状態を抑制させつつ、どれほど貪欲でも十分すぎるほどに与えようとする世界構造故に、女性の人口限界をさらに超えた女の怪物たちを、世界に徘徊させるというのである。

 すでに世を去った女たちが、土から肉体を得て、アンデッドとして復活していく。イブにでもさかのぼる勢いで、すでに死んだ女たちがどんどん復活していくのである。同時に、それとは違う方法での復活もある。死して別の世界に旅立った女たちは新世界に引き戻され、ゾンビのようなアンデッドとして復活するが、死してなおあの世に行かれずにさまよっている幽霊たちは、幽霊の状態のまま肉体を得て復活するというのである。文字どおり一人も逃がさず復活していくことになる。

 みさが望んでいるのは、そのような形での現世への復活である。もはや幽霊となっている以上、ゾンビとしての復活はないが、幽霊がそのまま空気から肉体を得て、人間として具現化し、この世に復活することこそ、みさが渇望していることなのである。そのために、彼女にとっては、なんとしても僕の精神を籠絡せしめ、新世界への移行を推進しなければならない。

 さらに、ゾンビも幽霊も全て復活しきった時、人間界は、もはやその世界の境界を保つことができず、6大世界の統合へと加速していく。僕たちが「世界」と言っているところ、大きくいえば宇宙であり、さしあたってはこの地球である。もしゾンビも幽霊も、人類のすべての女が復活してしまえば、地球に女たちがあふれ返り、ぎゅうぎゅう詰めになってしまうだろう。だが、実際にはそうはならず、地球という物理法則が崩壊し、地平は有限ではなくなっていくのである。

 世界そのものが一変する。我々の住むところはもはや地球上ではないし、もはや宇宙の中の一部でさえもなくなる。地上は無限に広がっていき、どれほどの人数が復活しても有り余るほどの土地が広がっていくことになる。そこでは、世界は人間界と魔界の中間状態となり、魔族の娘たちが自由に人間界にやってくることができるようになるというのだ。

 そうなれば、人魚やゴルゴンといった女の怪物や悪魔のたぐいの魔物娘たちが、僕一人めがけてどっと押し寄せることになる。ゾンビや幽霊だけでなく、文字どおり魔性の女たちまで、新世界を徘徊することになるのである。何千億年経とうと、飽きることも、生を苦しむこともない世界になるのも道理であった。

 生きることの苦しみを死ぬほどに味わって幽霊になったみさだからこそ、ふたたび具現化して幸せばかりの世界になって欲しいと強く強く願うことも当然である。だが…いま、みさの願いは、単純にそればかりとも言えないみたいだ。

 それは…僕も同じ願いであった。みさは僕を好いてくれている。僕もみさが好きだ。僕と幽霊、しかもある夢に限定された幽霊というつながりではなく、ずっとずっと一緒にいて、ケンカをしながらも支え合って生きていくような、そんな二人でありたいと、僕も彼女も本気で思っていた。

 しかし、みさが本当に具現化するために、新世界は避けて通れないのである。

 「みさ・・・」僕は佐伯仙術の呼吸を解いた。神通力がなくなる。

 「たっ・・・達郎・・・」みさは体をこわばらせる。

 僕はみさに抱きつき、その唇に吸いついた。

 「むぐっ・・・! ぷはっ、ず、ずるいよ、達郎!」「みさ。君が好きだ。僕は…ポッティの定めた運命で、誰ともつきあえない、結婚できないで一生を終わることになっている。でも、みさ、君だけは…失いたくないんだ。」

 みささえいれば、もう何もいらない。でももし…みさがいないのであれば、もう、何もいらない。

 本気でそう思えた。

 僕は何度もみさの唇を奪い、抱き合い愛し合った。ローションで滑る床であっても、かろうじて二人とも立っていることができた。

 「みさ・・・ごめん。」「・・・えっ」

 こおおお・・・僕はふたたび佐伯仙術の呼吸を始めた。肉体に神通力が充満していく。

 「お別れだ。」「そ、そんな…達郎っ!!?」

 僕はかろうじて涙声になるのを抑え、落ち着いて声を出した。だがもはや、目から涙が頬に伝わっていくことまでは、止めることができなかった。

 「愛している、みさ。でも…そのために、僕たちのために、世界そのものを変えてしまうわけにはいかない。世界を自分のために巻き込むことは、できないんだ。」「た、達…郎・・・ううっ…」

 僕はみさの肩から腕にかけて、ゆっくりと両手を滑らせた。愛撫と同時に膨大な神通力がみさの体を直撃し、体内のすべての性感神経を容赦なく刺激していく。

 こうなってしまっては、別れたくないという思いが頭をもたげて呼吸を止めても、もう遅かった。神通力はすでにみさの体の奥まで入り込み、幽霊の体の隅々までを、瞬時にして絶頂まで追いつめてしまう。もう、戻れない。

 「あがが…」みさは全身をこわばらせ、強烈な快感に白目を剥いた。「うう! さよならっ、さようならみさ! うわああっ!」僕はぎゅううっとみさの体を抱き締めた。瞬時にして数回以上絶頂させられ、ビクビク打ち震えている彼女の体を、号泣しながら抱き支えるだけで精一杯だった。

 みさがイキ終わると、彼女はその場にべちゃっと崩れ落ちた。気を失うかとも思ったが、かろうじて意識は保っているらしい。ローションの海の中で、彼女は妖しく身をくねらせ、顔を上気させたまま、立っている僕を見上げていた。

 「…強くなったね、達郎。」みさがにっこり微笑む。

 「…強くなんか・・・ないさ。」佐伯仙術がなければ、タイムフラワーやローション攻撃だけで、簡単に世界を新世界へ引き渡してしまう程度の実力しかない。みさを救ってやるだけの方法も力もないんだ。たとえフザケンジャーとして、何十人もの怪人を倒していこうとも、このふがいなさをぬぐい去ることは、決してできないだろう。

 目の前が白くなっていく。最後にみさになんて言葉をかけたらいいか、わからない。いや、きっと、何も言う必要もないのだろう。彼女もこれ以上、何も言ってこなかった。

 いよいよ、夢から覚める。もとの世界に帰るのだ。視界から何もかもが消え去り、何も聞こえなくなった。

………。

……。

…。

 僕は目を覚ました。体がくすぐったく疼いているのは、夢の中で何度も射精してしまったせいである。だが、それ以上に、暗く重苦しい切ない気持ちが、僕の心に充満し、体を重苦しくさせていた。

 「みさ…」

 つぶやいたとたんに、涙があふれた。

 恋人と別れたあとって、何かぽっかり穴があいて、何も考えられないさみしい気持ちになると言うが、今の感覚がそれなのかも知れない。普通だったことが、もはやなくなってしまうという喪失感が、僕の全てを支配しつくしていた。

 涙をぬぐい、着替えを済ませると、僕はのろのろとフザケンジャーの秘密基地に出向いた。

 「・・・あれ?」

 いつものクラムボム公園トイレ裏。その片隅にあるはずのマンホール。このマンホールは特殊な力で守られていて、フザケンジャーのメンバーにしか見えない。だから一般人にも魔族にも見つからない。そのマンホールを開けて下に降りれば、フザケンジャー本部だ。

 だが、そのマンホールがどこにもないのである。草の根を分けて探してもマンホールは見つからない。公園のあちこちを探したが、やはりそれらしきマンホールはなかった。

 あ…そう言えば。

 長い夢を見たためか忘れてしまっていたが、昨日フザケンジャー本部に“招かれざる客”が来て僕たちを驚かせたんだっけ。喫茶店“キノコぐんぐん伝説”のマスター、遠藤瀏斉だ。

 実はマスターは若い頃にセックスバトルをしており、正統な修行によって神通力を得たのだった。その結果、隠されていたフザケンジャー本部まで見つけられてしまったというわけ。

 ただ、マスターは敵じゃあない。逆に、僕たちのために力を貸してくれると言っていた。

 パワー自体は衰えたが、それをカバーしてあまりある技術力を持った、心強い味方である。ということは、フザケンジャー本部もそこに移動したのではないか。

 ためしに僕はキノコぐんぐん伝説にまで足を運んだ。

マスター:「お、神谷君、おはよう。」

僕:「おはようございます。」

マスター:「んーむ? …その顔は、ずいぶん淫夢にやられたと見えるな。」

僕:「そ、そんなことまでわかるんですか?」

マスター:「ま。年の功というヤツだな。それにしても、このままでは、淫夢の影響で肉体が弱体化し、ちょっとした刺激でもイキまくってしまうようになるぞ。精神的にも女の魅力には勝てないだろうに。」

僕:「はあ。だから、フザケンジャー本部で“とめった”をやって、毒を吸い出すと同時に強化もしてるんです。」

マスター:「なるほどねえ。」

僕:「それで、フザケンジャー本部に行こうと思ったんですけど、どこにもないんです。」

マスター:「ああ、それなら、店の奥にあるよ。場所を移動したんだ。」

僕:「やっぱり。」

マスター:「厨房の片隅に時空の歪みがある。フザケンジャーのメンバーで、なおかつ本部に行きたいと念じた時にのみ、その異空間へとワープできる仕組みだ。」

僕:「わかりました。行ってきます。」

マスター:「いいや。”とめった”装置なんかいらないよ。射精回数に応じて痛みがひどくなる装置では、ショック死してしまうかも知れないしね。あ、ポッティがそれを支えてくれてるのか。」

僕:「まぁ、そうですね。」

マスター:「どっちにしても、危険な方法だ。ポッティが不在なら使えない装置ということでもある。…ちょっと息を止めてごらん。」

僕:「はあ…。」

 マスターはいきなり、僕のペニスを片手でまさぐってきた。

僕:「ちょっ、何してるんですか! 僕にはそっちの趣味は…」

マスター:「息を止めろ。」

僕:「うぐっ!?」

 急に全身が熱くなってきた。熱は一瞬で通り過ぎたが、なんだか体がだるく、重苦しくなった。

 じわっと、股間にある感覚が集中する。性感ではない。

マスター:「トイレはそこの突き当たりだよ。」

 僕は走ってトイレに駆け込んだ。強烈な尿意が股間を支配したのだった。拷問のように水を飲まされて利尿剤が効いてきたみたいな、居ても立ってもいられない画面できない尿意だった。

 どばばばばば!

僕:「うわああ!」ペニスからピンク色の液体が飛び出していく。1分弱、血尿かと思えるきつい色のおしっこが、便器に吐き出されていく。

マスター:「それは水分じゃないから安心したまえ。いくら出しても体が干からびたりはせんよ。そうやって体から淫毒を放出すれば、効果は同じはず。」

 トイレから出ると、たしかに妙にすっきりしていた。体の重苦しさやだるさは取れ、体力がみなぎっている。”とめった”をされた時とほぼ同等の効果だった。

マスター:「その装置が鍼を使うということは、体内にある気の流れを操作して、全身から淫毒を放出させるのだろう。同じことを気の流れだけですれば、ハリの痛みを伴わずに淫毒を放出することができる。体に穴を開けないからションベンという形になるけどね。どうだい、すっきりしたろう。」

僕:「は、はい…スゴイですね。ありがとうございます。」

マスター:「なぁに。そのうち私の力を借りなくても、君自身の力で同じことができるようになってくれればいいさ。」

僕:「できるんですか?」

マスター:「コツがいるけどね。佐伯仙術を少しは身につけているようだから、そう難しくはないんじゃないかな。」

僕:「…。」

 昨日マスターと佐伯さんは戦った。佐伯さんのパワーは若くみなぎっており、マスターの総パワーをはるかに超えていた。にもかかわらず、マスターはあっさりと佐伯さんの防御を突き破ってしまった。あれが“コツ”の一言で済んでしまうのだろうか。

マスター:「おっと、勘違いはしてくれるなよ。もし私と佐伯長官が本気で戦ったら、私では勝てないからね。実践力の面でも、私ではほとんど役に立たない。天国軍団を蹴散らすのも難しいかもな。」マスターは”はっはは”と笑った。

僕:「…。」

 朝の時間は誰も来ない。僕はマスターに、淫夢のこと、タイムフラワーのことなどを話した。

僕:「というわけなんです。タイムフラワーを避けることができない以上、玉袋にパンパンに溜め込まれて弱体化した状態で戦わなければなりません。どうやって乗り越えたらいいのやら…」

マスター:「うーん、そればっかりはねえ。ガマンするしかないんじゃない?」

僕:「そんな…」

マスター:「精子ってのはね。数日経って放出されないと、ふたたび体内に取り込まれてしまう。それは知ってるよね? じゃあ、射精可能な精子が体内で作られるのに、どのくらいの時間を要するか知ってる?」

僕:「え? えっと・・・精子は毎日出てるから、1日くらいで作られるんじゃないかな。人によっては1日数回オナニーしてるって話も聞いたことあるから、個人差でもっと速いペースで作られてるのかも。」

マスター:「およそ75日だ。」

僕:「ええ!?」

マスター:「気の力も大切だが、そういう知識もある程度は知っておかないとね。」

 すいません(十無)。

マスター:「一秒で1日経過するタイムフラワーだが、実は新たに作られ始めてから放出されるまでに、2ヶ月半の期間が必要なのだから、実際に時間を進められたとしても、75秒は必要ということになる。」

僕:「…。」

マスター:「それと。精液は精子の他に、さまざまな分泌液が混ざり合って作られる。その成分の中で特筆すべきは、前立腺液なのだよ。」

僕:「前立腺…」

マスター:「タイムフラワーが覆い被さるのは玉袋だけなんだろう? 時間が進められるのはあくまで玉袋のみ。だが、精巣という器官は、精子の生産工場というにはあまりにお粗末なんだ。本当は、さらに奥のところで、精子細胞から精液の成分まで作られている。その分泌液を無視して、玉袋だけの時間を進めても、十分な射精には至らないはずなんだ。」

僕:「…、じゃあ、タイムフラワーの効果というのは…」

マスター:「うむ。せいぜいのところ、すでに精巣にある“生産が終わった”精液を放出させる手助け程度の効果しかない。ほとんどが、“気のせい”なんじゃないか。」

僕:「そんな…」

マスター:「タイムフラワーが玉袋の時間を進めるのは本当だろう。しかし、その結果生じるのは、すでにある精液を放出させるように反応を促すことと、性欲の増強程度なのだ。そんなに強力な装置ではない。だから、すでにある精液を放出しないように踏ん張れば、タイムフラワーにはりつかれたままずっと過ごしたとしても射精したりなんかしないんだ。」

僕:「そ、そうだったのか…」

マスター:「男性の射精メカニズムは、単純な生理的反応ではないのだよ。もっと複雑な生産装置を有し、なおかつそこに心理的な作用が加わって、初めて射精ができるたいへん複雑な仕組みなのだ。精神がしっかりしていれば、つまりちゃんとガマンすれば、性欲がふくれあがったとしても、そこでストッパーをかけることができる。しかも、1秒で1日進むのなら、君ほどの若さなら、あっという間に精液は体内に吸収されて消滅する。つまり、タイムフラワーにはりつかれればはりつかれるほど射精しやすくなるのではなく、ある一定時間を経過してしまえばそこそこの水準で落ち着いてしまうと言うことなのだ。」

僕:「知らなかった…」

マスター:「玉袋だけの時間が進むということであれば、おそらく連続射精は難しいだろう。数回出したら枯渇してしまうはず。玉袋以外の肉体の時間が経過していないのであれば、結局「途中まで作られていた精子」が全て出し終わった時点で、75日しなければ降りてこない体細胞を待つことになるからね。」

僕:「えっ、でも…」

マスター:「そこから先は、ただイクだけだろう。何度でも出しているように見えたものは、結局は精液とは呼べないものだ。空っぽなのだ。だから、連続射精をタイムフラワーによってさせられているというのも、全部君の気のせいというわけだ。」

僕:「うう・・・」

マスター:「気のせいであれば話は早い。気の持ちようでいくらでも抑制できるからね。要は、性的な刺激と、その刺激に対する君自身の精神状態だけの問題ということになる。そこで精神が負けてしまえば、簡単にイッてしまうし、逆に精神状態、つまり気の流れによる肉体の鍛錬と操作がうまく言っているのであれば、おそらくタイムフラワーにはりつかれたまま数十人のマ●コに出し入れしてもイかないだろうよ。」

僕:「…。」

マスター:「もっと恐ろしいのは、その気のせいによる射精によって、君自身の心が弱体化することだな。」

僕:「あ、それは長官たちも言ってました。」

マスター:「魔族がほしがっているのは、精子細胞ではない。射精する時の男性の悦びの精神である。イク時の快楽、射精時の多幸感、その心のエネルギーを吸い取っているのだ。精液のタンパクなどたかが知れておる。そんなものはなんのエネルギーにもならないだろう。だが、色情霊や魔族のたぐいは、男性の絶頂時に全身から放出される精神エネルギーを糧にしているのだ。より大勢の男を悦ばせた女魔が魔界で強大な力を持つ。絶大な魔力を持つにいたったものが魔王と呼ばれる。ヘルサもカリギューラもそうだ。…もっとも、カリギューラは神族だったようだが。」

僕:「…。」

マスター:「だから、魔族やその手の者にセックスさせられ、イク快感を味わえば、それだけ敵に魔力を提供することになり、奴らはさらに多くの精神エネルギーを奪おうとして、その男の心をますます貪欲に淫乱にしていく。つまり心を弱くしていくのだ。それが昂じれば、その男は快楽の虜となり、理性を失って、何も考えずに交わり射精し続けるだけの、動物以下の存在に堕落してしまうのだ。」

僕:「それが淫夢の本当の目的…」

マスター:「そう。淫夢によって君を弱体化させるのが奴らの目的だ。体から毒を放出して効果を弱めてあるが、君がしっかりしていなければ、徐々に女体の魅力にとりつかれていって、ついには精神は崩壊してしまうだろう。タイムフラワーにはりつかれた程度で、射精したくてたまらなくなっているようじゃあ、精神崩壊は時間の問題だよ。」

僕:「うぐっ…」

マスター:「厳しいようだが、私は…精神崩壊して堕落した男がどうなるかを知っている。君にはそうなって欲しくない。だから、絶対に女の色香や女体の感触なんかに負けてはいけないんだ、精神的にね。」

僕:「はい。」

マスター:「もし、タイムフラワーではなく、本当に精液全体を急ピッチで作らされる肉体に改造されてしまったら、一体どうなると思う?」

僕:「!?」

マスター:「完全に理性を失うほどに魔族に精を提供し、魔力を吸い上げられた男の末路は、そりゃあ悲惨なものだ。不思議な魔力によって、出したばかりなのに75日分以上の精子が瞬時にして生産され溜め込まれ、文字どおり毎秒射精する状態になったらどうなる。」

僕:「うわ・・・」

マスター:「魔界に魔王クラスの女魔がごろごろいるのも、そういう絶望的な快楽の淵に落とされた男たちから、徹底的に絞り上げてきたからなのだ。悲劇は数え切れないくらいにある。だからこそ強大な魔王たちが魔界に大勢いる状況になったのだ。君は絶対に、そんな悲劇の男になってはいかんぞ。精神的に踏ん張りさえすれば、勝機は必ず見える。」

僕:「わかりました。がんばります。」

 そこへ、厨房から佐伯長官、並木さん、ポッティが出てきた。

佐伯:「お。おはよう。顔色がいいな。今日は淫夢は大丈夫だったか?」

僕:「えっと…」

 マスターとのやりとりを話す。

ポッティ:「わかった。自分で克服できるのならそれに越したことはない。引き続き修行に励むとよい。」

僕:「はい。」

佐伯:「とにかく朝食だ。マスター、よろしく頼む。」

マスター:「了解。」

 フザケンジャー本部がキノコぐんぐん伝説に移転したことで、朝食からここでいただくことになったみたいである。

 出されたのは、佐伯さんがハムエッグとサラダとトーストのモーニングセット。並木さんがトリプルソーセージのマフィンとスクランブルエッグ。先に二人とも頼んでおいたらしい。

 僕の目の前には、ご飯大盛りに味噌汁がぶっかけられた物体が出てきた。

僕:「えっと…これはいじめですか?」

佐伯:「嬉しいだろう。俺が注文しておいた”ねこ飯”だ。わかめと豆腐抜きにしておいたぞ。今から注文だと時間がかかるから気を利かせておいたんだ。優しいだろう。」

僕:「死んでください。つーかそのトーストと取り替えろ。」

佐伯:「ま、そこまで言うのなら。」

 佐伯さんはトーストを僕によこし、ねこ飯を持っていった。優しい、のかなあ。

 佐伯はそのままハムエッグに喰らいつき、サラダをほおばり、味噌汁ご飯をずるずるとかきこんでいく。

 …たしかに僕はトーストと、って言ったけどね。でもトーストだけですかそうですか。なんかものっそい損した気分である。

ポッティ:「してマスター、これはどういう了見じゃな?」

 テルテル坊主の目の前には、皿にこんもりとドッグフードが盛られてある。

マスター:「いやあ、ポッティって何を食べるのかわからなかったから、とりあえず。」

ポッティ:「唯一神は食事などせん。犬扱いかね。」

マスター:「犬は忠実だからなあ。」

ポッティ:「…。」

 ポッティは前屈みになったかと思うと、ガリガリとドッグフードを犬食いし始めた。

僕:「って、食うんかい!!!」

 思い思いの食事を済ませる。「ここはお前が」「ここはお前が」「ここはお前が」「ここはお前が」「ここはお前が」「ここはお前が」「アホかおまいら。」

マスター:「いやいや、食糧補給栄養補給も立派なフザケンジャーメンバーのつとめ。お金は取りませんよ。」

佐伯:「お。そうか。悪いですな。」

マスター:「いえいえ。」

 結局、ここはマスターが、ということになった。栄養補給というのならもうちょっと考えて欲しいです。てか喫茶店なのにねこ飯とか置いとかないでください。
 

 

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