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第21話 戦慄の廃病院!


  風呂場に入る。物音を立てないように、周囲と水晶を交互に見ながら、注意深く。

 「!」

 ”それ”はすぐに僕の目に飛び込んできた。

 北欧系の顔立ち、金髪、絹のベールと手袋。プリンセスラインの純白のドレス。この世のものとは思えない魔界のブーケ。

 浴室の脱衣所の片隅に、その女は立っていた。

 一目見ただけで、そいつがあまりにも異常であることがすぐにわかった。

 ちょっと見では美しい西洋美女であるが、赤く光る目、肩や脇の下や腕を露出したその滑らかすぎる真っ白い肌、清純さと魔性の色気を同時に噴出する強烈な吸引力。そのどれもが、ただの人間の女性や、色情霊でさえもないことを如実に物語っている。

 こいつはもう、幽霊の類ではなかった。あまりにも多くの、数え切れないくらいの色情霊が融合したか、あるいは似たような現象によって魔界から呼び寄せられたかした、完全に魔物、淫魔そのものであった。それも、中級から上級に位置するほどの強力なモンスターである。こいつは「ブライド」と呼ばれる女の怪物で、淫魔の中でもかなりレベルの高い敵。相当に熟練した勇者でも苦戦すると言われ、多彩な技と絶倫精力と肉体そのものの強烈な攻撃力で男を射精させるという。

 脱衣所の異様な雰囲気が、この女の魔性を何よりも物語っている。

 淫気に満ちあふれ、さらに強烈な吸引力がブライドから放出されている。瞬時にしてペニスがはちきれんばかりに勃起し、そのまま勢いだけで射精してしまいそうであった。

 ブライドの吐く息は淫毒そのもの、その甘い体臭も魔性の淫気にあふれ、体液に触れただけで男性は呪われ、永遠に勃起と射精をくり返すほど体内から感じさせられてしまうという。つまりキスだけで死ぬまでイキ続ける体にさせられると言うことだ。

 絹の手袋で触れられれば、それが男性の体のどこであれ、その刺激だけでイッてしまう。全身のすべてが強力な武器であるだけでなく、そのブーケも変幻自在に変質して男を感じさせる武器になるらしい。

 これは…あまりにもまずい敵だ。一瞬でも早く、外に脱出しなければ。そう思ったところで、もはや体は言うことを聞かず、フラフラと吸い寄せられそうになってしまう。外に出なければという強い思いがあるにもかかわらず、肉体がそのように動いてくれず、逆に彼女の方にゆっくりゆっくり進んでしまうのだ。

 彼女と目が会えば心を完全に奪われてしまうだろう。一瞬垣間見た赤い瞳を金輪際見てはならない。

 ブライドは脱衣所の隅に立って僕を見据えたまま、それ以上襲ってはこない。だがそれは、そんなことをしなくても僕を瞬時にして魔界に引きずり込んでしまえるくらいの実力を誇っているからである。

 仮に神通力があっても、彼女と渡り合う自信はない。フザケンジャーになっても、おそらく太刀打ちできないだろう。ましてや今は、神通力も蒸着も奪われた、生身の神谷なのだ。吸い寄せられた瞬間、ひとたまりもなくすべてを吸いつくされ、その魂は魔界に送られてしまうに違いない。夢であるにもかかわらず、肉体ごと魔界行きになってしまうのは確実だった。

 そのくらい相手は強力で、危険な香りを強風のように醸し出していた。強い風に当てられている感覚なのに、まるで重力があるみたいにどんどん彼女の方に吸い寄せられていってしまう。

 かろうじて意志を強く保ち、視線を落とすことはできているが、もはや彼女の肢体から目を逸らすことはできなくなっていた。

 妖しく微笑む口元、首すじや肩や腕やわきの下、そして半分近く露出された胸の谷間。乳首が見えずとも、その鎖骨のなめらかな白い肌を見るだけで、ふくらみと谷間と、美しすぎる方を眺めるだけで、僕の心はどんどん理性を失っていく。まして、その周囲の純白の清楚な雰囲気に飲まれてしまえば、僕は彼女の色香に完全に堕ちてしまい、取り返しがつかなくなってしまうだろう。

 気を抜けば彼女の意思どおり顔を上げてしまい、その妖しい瞳を見つめてしまうだろう。一瞬たりとも気を抜かず抗い続けているからこそ、まだ口から下に視線をかろうじて向けていられるのだ。

 加えて、そこがブラックホールであるかのように、ものすごい勢いで僕の体を引き寄せてくる。渾身の抵抗をし、筋肉をフル稼働させて後ろへ後ろへと抵抗しているからこそ、かろうじてゆっくりゆっくり彼女に引き寄せられているのであって、一瞬でも力を抜けば一気に彼女に吸い寄せられ、抱き締められてしまうに違いない。

 ブライドほどの相手に抱きつかれたらそれこそ一巻の終わりである.完全に我を忘れてしまうだろう。たとえ全裸でなかったとしても、その滑らかすぎる腕が僕の首に巻かれ、魔族の白い肌が瞬時でもわずかでも僕に触れようものなら、それだけで僕は完全に理性を失ってしまう。つまり、吸い寄せられてしまえばそれで完全にアウトなのである。

 近づけば近づくほど、色気と吸引力が増していき、心も身体も抵抗が徐々に空しくなっていく。どんどんブライドに心奪われていくし、体のくすぐったい疼きも強くなっていく。

 数十人数百人などというケチな色情霊の集合ではない。数千・数万体が集まらないとこれだけの淫魔を召喚することができない。と、いうことは、それだけの淫魔が守らなければならないほど、大切な物や秘密が、脱衣所の奥、浴室に隠されているということなのだろう。

 これほどまでに、物理的になるほどに、この怪物の魅力は男を引きつけすぎるんだ。それほどのモンスターが守らなければならないほどの物とは一体…!?

 いや、もうそんなことを言っている場合ではないぞ。なんとかしてこの脱衣所を脱出しないと。危険すぎる相手だ。戦うなんてとんでもない。一刻も早く逃げなければ。人生最大のピンチである。

 しかし、どう踏ん張っても彼女の方に吸い寄せられる肉体の動きをこれ以上制御できない。一気に我を忘れて飛びかからないようにするので精一杯だ。何とかしなければ、彼女に抱き締められてしまうのも時間の問題だ。甘い香りと淫気が脳をくすぐる。わずかでも油断すれば、彼女の目を直視してしまった上、下に落ちるように彼女の体に吸い寄せられてしまうだろう。心も身体も完全に奪われ、かつてない快楽と引き替えに魂まで完全に奪われてしまう。

 ブラックホールに近づきすぎてその重力に捕らえられてしまっているみたいだ。エネルギー全開で脱出するようエンジンフル稼働させているのに、じわじわとブラックホールに落ちて行っている宇宙船と同じである。何とかしないと、あと数分でブライドに捕まってしまう。

 脱衣所がひじょうに広く、トイレやサウナや複数の洗面台も設置されてあって、かなりのスペースがあることが、かろうじて僕を救っている。もし僕の家の脱衣所くらいしかなかったら、今ごろ完全に堕ちてしまっていただろう。

 バチイッ!

 「ウッ!」

 頭の中に映像が流れ込んでくる!

 それは、僕がブライドに完全に抱きすくめられている光景だった。吸いついて離れない白く美しい肌が僕の上半身を多い、胸のやわらかさが押しつけられる。ほおずりされた瞬間、精液がほとばしり、純白のドレスに振りかけられる。

 さらに、手袋のまま背中や肩を撫でさすられ、その刺激だけで股間が爆発してしまう。滑らかでありながら手のやわらかさだけで、その心地よさで精液を奪われてしまったのである。

 幻覚は続く。その絹の手袋がペニスを優しく掴み、じわっと力を込めると、もはや精液は止まることなく出続け、ペニスが脈打ち続けている。

 ブーケが僕のお尻にはりつくと、無数の触手や魔性の舌がアナルや会陰や玉袋をこれでもかと撫でさすり刺激し、アナルの奥までやわらかい物がどんどん侵食していく。

 ブライドがしゅるっとドレスを脱いで、裸で抱き合う。もはやペニスの脈打ちは一瞬も休むことなく律動し続けている。お腹、胸、生足、腰、性器の感触が、僕の全身すべてを快楽一色に染め上げ、魂ごと吸われていく。血も肉も魂もすべて精液に変換され、ブライドの体表面に振りまかれ、体内へと染みこんでいく。

 死の間際に、極上の快楽と引き替えに、ブライドのオンナがペニスを飲み込んでいった。僕は完全に理性を失い、すべてを忘れて快楽だけを味わっていた。

 「あああっ!」次の瞬間、僕は我に返った。今のはブライドが送りつけてきた幻覚だ。幻覚を見せられただけで、脱衣所のあちこちに濃く粘ついた白濁液が振りまかれている。僕は吸い寄せられていると週、誰にも触られていないのに、幻覚を見て射精してしまっていた…それも何度も!

 甘い声が脳内に響き渡る。”ホントウ ニ ダキアッタラ…カイカンハ ソノ ナンジュウバイ…シャセイ ノ ドクドク ノ ハヤサ ハ クラベモノニ ナラナイ…サア…テイコウヲ…ヤメナサイ”

 「ううぅ…!!」幻覚と囁き攻撃で、心と身体が一瞬緩む。僕は射精しながら一気にブライドのすぐ近くまで吸い寄せられてしまった! お互いに手を伸ばせば触れ合うことができるくらいの距離!

 も、もうだめだ・・・このまま抱き合ってしまうのは時間の問題だった。そして、幻覚をはるかに超える快感に負け、フザケンジャーのことも、自分が神谷であることも忘れて、何億年も何十億年も脈打ち続けるだけの存在に成り果てるのだ。

 誘惑がさらに強烈になる。もはや僕とブライドしかいないような異空間で、分身した無数の金髪美女と裸で絡み合っている。魂を奪われたらこれが実現するんだ。しかも、幻覚では感じられない強すぎる快感も約束される。

 あああっ、もはやこれまで、か…

 「・・・あ! そうだッ!!!!」

 僕は必死の思いで一枚の御札を取り出した。

 「頼む効いてくれ!! 悪霊退散! たいさーーーん!!!」

 それは、いつぞや民家の神棚で手に入れた、淫魔除けの御札であった。数が限られているから、おいそれとは使えないものの、この札を突きつけられた霊体は、有無を言わさず消滅してしまうアイテムだ。

 ぶわあっ!!

 「ぎゃあっ!」僕は強い風にはじき飛ばされる! 何メートルも先にある脱衣所の壁、入り口横の壁に強く叩きつけられた!

 「がふっ…」やっとの思いで立ち上がる。体がフラフラする。

 「…。」辺りを見回す。僕を引きつける強烈な魔界の吸引力もなくなっていたし、僕を誘惑していたブライドの姿もどこにもなかった。

 「はあっ、はあっ・・・やった・・・!」

 お札の効力はすさまじかった。ブライドほどの上級淫魔でさえ、瞬時にして消し飛ばしてしまったのだ。ブライドは一瞬にして消滅し、吸引が強烈だった分、反動ではじく力も強烈で、僕は一瞬にして壁に叩きつけられてしまったのだった。

 8枚あった御札は7枚に減ったが、それでも助かった。このアイテムを手に入れていなかったら確実にゲームオーバーだった。

 そう、この御札は、こういう絶体絶命のピンチのとき、色情霊とはもはや言えないような強烈な敵に遭遇したときに使うということである。

 僕は体勢を立て直した。周囲にはブライドはもちろん、他の色情霊の姿もない。水晶も反応しない。ブライドほどの敵が守っていたからこそ、他の霊体はおいそれとここには近づかないんだ。

 それにしても、危ないところだった。ここぞのピンチを御札が救ってくれた。あと7枚ということは、こういう魔物さえこの村には何体も控えているということを意味するのだろうか。僕は戦慄した。

 とにかく、先に進もう。一体ブライドの誘惑だけで何回射精してしまったのだろう。床に飛び散っている自分の精液を見ながら、この冒険が相当に過酷であることを思い知っていた。呪怨やらサイレンやらに近いステージで、ただしエッチな幽霊や化け物に襲われるという違いはあるが、本当に死と隣り合わせという点ではさして変わらないんだなと思った。

 ブライドほどの化け物が守っていた物とは…?

 僕は浴槽に足を踏み入れた。予想どおり広い洗い場と大きな浴槽だ。お風呂となれば当然、裸の入浴性霊でもいそうなものだが、やはりブライドの影響で誰もいなかったし、水晶も反応しない。

 「むっ!?」浴槽の片隅に金属のハコがある。あお向けに倒された金庫のようだった。

 「これか…」僕はカードキーを取り出し、金庫の挿入口に差し込んだ。その隣に暗証番号を打ち込む番号ボタンがある。番号はおそらく…5,9,6,3。

 かちゃ。

 中で音がした。カギが開いたんだ。僕は蓋を開け、金庫の中を見てみた。

 中には古びたカギが一本入っていた。これは…どこのカギだろう。

 あ、そうか。この家は病院の院長さんかなにかの家だった。だから、その主人が大事にしまっているカギといえば、この村にある病院のカギであるに違いない。



*廃病院のカギを手に入れた。



 病院、と言っても、無人となった村の病院、すなわち廃病院だ。廃病院という響きがとてもおぞましいのだが、それでも僕は、このカギで大きな一歩を踏み出したことを理解した。

 ブライドほどの魔物が守っていた理由もわかった。このカギによって、謎解きは中盤以降にさしかかっているということである。

 これまでは数軒の民家を調べることで手いっぱいであったが、ここから初めて、規模の大きな“施設”の探索ができるということなのである。これまでは学校も病院も役場も、カギがかかっていて中に入ることができなかったが、初めて民家からビルなどに足を踏み入れることができるようになったということなのだ。もちろん、これから先も民家の探索はしなければならないだろうけれども、それでも大きな進歩であることは間違いない。

 よし、さっそく廃病院に向かおう。

 僕は民家を出て、村の奥に向けて一目散に走り出した。

 「!」

 僕は足を止めた。一番始めに村全体を見回ったときと同じ風景であるが、あれから色情霊に襲われるようになって、二度目にこの場所に来たのだが、明らかに雰囲気が違っている。

 民家が建ち並ぶ、村の入り口付近と、村の奥側、山林に近い場所の、大まかに言って半分に分けることができる。民家が建ち並ぶエリアは、これまで僕がさんざん彷徨っていた場所である。そして、今僕が立っている場所、病院などの施設が密集しているエリアは、色情霊が現れ始めて以降、初めて足を踏み入れることになる。

 そこで僕は、これまでにない違和感というか、胸騒ぎを覚えたのだった。

 さっきのエリアと…何かが違う。

 ちょっと整理しておくと、民家など建物内では地縛霊が潜み、僕に直接襲いかかってくる。僕はこれを避けたり退治したりしながら先に進み謎を解くわけだ。そして、外に出れば、浮遊霊たちが集まっていて、視覚攻撃を中心に僕を誘惑し、僕が勃起したら襲ってくる仕組みになっている。淫気に毒され、色情霊たちの裸体を目の当たりにして、僕が欲情すれば負けというわけだ。

 村の半分よりも奥のエリアに足を踏み入れた瞬間覚えた奇妙な感覚は、心の警鐘そのものであった。何かが…やばい!

 浮遊霊たちの雰囲気がよくないのだろうか。いや…それだけではない。佐伯仙術が使えなくなって、武器も何もない丸腰の状態に対する不安だろうか。…それだけでもない感じだ。正体はわからないが、直感的に、このまま先に進んではいけない気がするんだ。

 僕はおそるおそる、後ずさりして、前半エリアのところまで戻ってみた。すると、奇妙な恐怖感はなくなり、「わけも分からぬ不気味な心の警鐘」も消えた。やはりこの奥には…何かがある。

 考えてみれば、この先はさらに強力な敵がいつ現れてもおかしくないんだ.それに対して僕の方は佐伯仙術を封じられ、魅了は回避できるものの、それも僕の心次第であり、それ以外の武器も防具も何もないんだ.せいぜい、水晶を頼りに、幽霊を回避するしかない。だが、おそらくこの先は、回避だけではどうにもならないのだろう。

 僕は近くにあった小さな民家に入った。先に進むための何か手がかりがあるかも知れない。

 水晶の反応はない。この小さな家には幽霊はいないみたいだ。

 家…といえるのだろうか。むしろお堂みたいな感じで、中には部屋がひとつだけ、水道も電気も通っておらず、板張りの小さな3畳間があるだけだった。中にも何もない。ここには本当に何もないのかな。

 「南無…」「!!!!」

 僕はびっくりして周囲を見回した。たしかに声が聞こえたぞ!?

 しかも・・・色情霊ではない。間違いなく野太い男の声だった!!

 ここには何かあるに違いない。僕は板張りの部屋の中央に立ち、床から天井から、何か変わったところがないかじっくりと見回した。もちろん、水晶とにらめっこしつつである。

 コツ。

 「ひゃあっ!」僕はびっくりして飛び上がった。床下から何か硬い物が跳ねてきて、僕の足もとに振動を伝えたからである。つまり、床の下に何かあって、それが跳ねてコツッと音を立てたのである。

 下に…何かあるのか!?

 板張りの床はもろく、ちょっと力を入れればすぐに剥がれてしまった。

 「あ。」板を剥がした下に、小さな箱があった。僕は箱を拾い上げ、中を開けて見た。

 そこには、二股に分かれた奇妙な道具と、小さな紙が入っていた。紙にはこう書かれてある。「汝の霊気をそろへ。両端を邪悪な霊におしあつるべし。心乱す事勿れ。」

 この形は…どこかで見たことがあるぞ。なにかのお守りだったか。


*ヴァジュラを手に入れた。


 この紙が使用説明書のような物か。霊気を揃える…両端を押し当てる。なんだかわかるようでよく分からんな。とにかくこのふくらんだ両端を色情霊に押し当てればいいのかな。しんらんす…こと・・・???読めん。

 ま、このアイテムが何か武器になるのかも知れないのは確かだから、勇気を持って先に進んでみるか。

 元の奥のエリアに足を踏み入れてみる。…やはり、奇妙な違和感はなくなっていない。未知の物に対する恐怖のようなものが、たえず心を突き刺している。まだアイテムが足りないのだろうか。

 あいかわらず僕の周囲には、半裸や全裸、あられもない格好の美女たちがうろついている。僕の姿を認めると、一斉に群がり、僕に触れてはこないものの、おっぱいを見せつけたり微笑んできたりオンナを自分でまさぐったりして、しきりに誘惑してくる。僕が彼女たちの魅力にほだされてペニスを勃起させれば、それが彼女たちとやりたいという合図となり、一気に抱きついてくるのだ。

 そこは前半のエリアとさして変わらないな。僕も気を強く持って、女たちを無視してどんどん先に進んでいる。ここまでは順調だ。

 では、この胸騒ぎは一体何だろう?

 たしかに淫気は濃くなっている。いつまでも外をうろついていれば、僕とて徐々に毒されていって、やがては女たちに反応してしまうだろう。そうなる前にどこかの建物に入らないとまずい。だが、この違和感はどうやらそれだけの問題ではなさそうである。

 廃病院までもう少し、というところで、淫気が僕の体を毒し始めた。一度射精すれば効果はなくなるが、できれば避けておきたいところだった。

 誰にも触れられていないのに、股間がくすぐったく疼いていく。そして、周囲にいる女たちの肉体を見ては、徐々にガマンの限界に達し、ペニスが反応し始めていった。もうこうなると、佐伯仙術もない状態で、ペニスは勝手に隆起していく。抑えが効かなかった。

 ちょうどその時、僕の前に、上半身はぴっちりピンクのスーツで、下半身お尻丸出しの妖艶なお姉さんが現れた。僕は彼女のふくらみきった形のいいヒップについ見とれてしまい、ペニスをあからさまに反応させてしまう。

 仕方ない、ここで一回抜いておくしかなさそうだ。周囲には他に誰もいなかったのは幸いである。一回出しておいて、一目散に廃病院に駆け込むことにしよう。

 お姉さんがニコニコしながら僕に近づいてくる。僕も股間の疼きに耐え切れなくなって、彼女に近づいていった。

 僕の前でお姉さんが再びくるりと後ろを向き、グッとお尻を強調してくる。僕は前屈みになって、お姉さんのお尻に股間をあてがった。

 ビリビリビリ!

 「ああああ!」

 彼女に触れたとたん、僕の全身に電撃が走ったようになった。痛みというより、安心感に包まれるような心地よいしびれの感覚だった。

 体の力が抜けていく。心地よさと精神的な多幸感が全身を包み込んだ。それでいて心臓は極度に高鳴り、興奮が最高潮に達する。

 僕は彼女の背中にしなだれかかるようにして覆い被さった。すると、ペニスに密着していたお尻がむにゅっと圧迫してきて、お姉さんが左右に腰をくねらせると、臀部の滑らかな肌がペニスを圧迫しながらなまめかしく滑って行く。

 「ああっ、き、気持ちいっ…!」僕はお姉さんの背中にしがみつき、自分からも前後に腰を振った。どこまでもめり込む女の臀部の感触に僕は心酔しきってしまっていた。

 ほどなくして精液が彼女のお尻に吸い取られてしまった。ほんの十数秒の出来事であった。

 何が起こったのか理解できなかった。

 お姉さんの霊に触れた瞬間、僕はほぼ心神喪失状態になり、脱力してしまって、セックスのこと以外何も考えられなくなってしまっていた。魅了の御札はたしかに所持したままである。いや、御札があるからこそ、彼女たちの姿を見た瞬間心が奪われることがなくて済んでいるのである。

 だが、今度は勝手が違っていた。彼女たちと直接肌が触れたとたんに、僕は我を忘れてしまった。

 ビリビリと電撃のようなものが全身を駆けめぐったかと思うと、心地よい痺れに包み込まれ、安堵感が拡がって、あとは欲情の赴くままに、性行為に夢中になってしまった。その間中完全に理性が飛び、何も考えられなくなってしまっていた。

 別のツインテール娘が現れて近づいてきたので、僕は彼女の手をぎゅっと握りしめてみた。

 ビリビリビリ!

 まただ!

 「あふっ…」僕はツインテールが跪いてフェラチオしてくれているのに身を任せる。腰をみずから突き出し、ただひたすら快感だけを愉しんだ。そしてあっという間に精液を抜かれてしまう。

 やはり同じであった。霊の体に触れたとたんに、快楽の虜になってしまい、何も言葉が浮かばず、ただひたすら射精することだけに没頭してしまう。

 これが・・・さっきから感じている違和感の正体だったのだ。さっきまでとは明らかに違っていた。このエリアでは、女体のどこかしらに触れたとたん、完全に我を忘れてセックスのことで心も身体もいっぱいになってしまうのだ。そして逃れることもできず、逃れる気すら起こらず、射精するまで我に返ることがないのである。

 淫気のせいだけではないのは確かだった。このエリアの色情霊は、一種の呪いの能力を持っている。それは、触れた相手を骨抜きにし、セックスのことしか考えられなくする淫呪であった。ちょっとでも触れられたらもう終わりで、射精するまでは何も考えられなくなる。もちろん防御も何もないので、あっという間に精を奪われてしまうことになる。

 まずい…これは厳しいぞ。浮遊霊ならこちらから触らなければいいし勃起しなければやり過ごせるが、施設内の幽霊も間違いなく同じ呪いを仕掛けてくるだろう。ということは、彼女たちに見つからないようにするというだけでなく、いっさい指先さえ触れられないようにしなければならないということである。僕を射精させようと襲ってくる彼女たちを相手に、その制約はかなり不利に働くはずである。

 触られないように逃げ回るか、さっき拾ったヴァジュラで応戦するしかない。といってもこの道具、飛び道具ではないので、至近距離で相手に押しつけて倒すしかない。だとすると、相手に触れられる前にこの両側を押しつけなければならず、高度な技術が必要となる。幸い、女体に触れずにヴァジュラ両側を押しつけられる形をしてはいるが、相手がすばやければ確実に負ける。

 さすがに村の核心を突きかねないエリアだけあって、性霊たちの特殊能力もレベルアップしているというわけか。

 とにかく、対処法やヴァジュラの有効利用は、実戦を通して身につけていくしかなさそうだ。とにかく慎重に、先に進んでいくしかない。

 廃病院には当然、カギがかかっている。僕は持っているカギで扉を開け、中に入っていった。

 ところどころに電気がついている。が、それは霊的な力によるものであり、単純に通電しているわけではなさそうだった。薄暗く青っぽい光で、ようやく内部の様子がわかる程度になっている。

 そこには、あまり好ましくない光景が広がっていた。

 村の病院は学校に近いつくりになっていて、曲がり角がなく、まっすぐの廊下と、両側に病室が並んでいる光景だった。申し訳程度のフロント以外は、すべて同じ構造である。

 そして、廊下のあちこち、病室のあちこちから、うなり声を上げながら女たちが徘徊しているのだった。

 「うう~」「ぐるる・・・」

 浴衣またはパジャマ姿の若い女性たちだ。おそらくはこの病院の患者だった人たちだろう。

 病院だけあって、入院者のほとんどは老人たちのはずであるが、村を襲った呪いにより、老人たちはあっという間に倒れてしまい、若者だけが残ったはずである。そして、その若者たちの間で、凄惨なセックスの宴が繰り広げられていたに違いない。あとは民家のときと同じ展開であろう。

 浴衣はだらしなくはだけ、パジャマ娘も、上半身裸だったり、下だけパンティ姿だったり、服が破けてあちこち肌が露出されていたりする。全裸の女性もいた。

 あまり大きくない病院ではあるが、病室から廊下へ、廊下から病室へと、ゆっくり徘徊する患者霊たちは、ざっと見て数十体もいる。

 パジャマ派と和服派に分かれているのは、彼女たちが死んだ時代が異なるためであろう。比較的古い幽霊は和服であり、最近の娘はかわいらしいパジャマ姿なのである。

 それにしても、彼女たちの状態には奇妙な違和感を覚える。

 うなり声をところどころで上げながら、彼女たちはゆっくり廊下などを徘徊している。それだけなのである。

 表情はうつろで、思考をしている節もなく、ただただ足を引きずるようにうろついているばかりである。よくよく見ると、手の形がおかしかったり、足がおかしな方向に曲がっていたり、服を血で汚したりしている娘もいた。それでもかまわずに彼女たちは、ただひたすら歩き回っている。うつむき加減で、僕の姿を見たとしても襲ってくるわけでもなく、ただただズリズリと歩いているだけなのである。

 「うっ・・・」すぐ近くを通った女は、右足首が90度折れ曲がり、そこから骨が飛び出している! 気色悪くてついに声を出してしまった。そんな状態なのに彼女たちはいっさい痛がる様子もなく、虚ろな目で歩くだけなのである。いや…そんな足で歩いていること自体、かなり異常なのである。

 そうだ、彼女たちがただの色情霊と違うのは、その風貌や物腰が、まさにゾンビそのものだという点である。死体ではないものの、理性のなさ、うなり声、虚ろな目、目的もなく体がボロボロのまま歩き続ける様子…ゾンビそっくりなのである。

 病院内に甘い香りが充満している。若い女の匂いだ。それは僕の性欲をいやがおうにもかき立てる。だが、それで我を忘れるようでは所詮三流だ。気を引き締め、彼女たちに触れないようにすれば、なんとかセックスは避けられるだろう。

 とにかく、向こうから襲いかかってくる節はなさそうだ。巧みに避けて、先に進んで謎を解くことにしよう。

 この病院は2階建てのようだ。といっても、同じ広さなのではなく、一階が広くて2階がかなり狭い。事務室や院長室などが2階に密集していて、病室や診察室が一階にあるんだ。それならまず、一階を探索するのがいいだろう。

 病室を片っ端から回る。だが、どの部屋もゾンビ状態の患者霊がうろついているばかりで、何か特別なものがあるわけでもなさそうだった。

 彼女たちが僕を無視してただ徘徊するだけというのは助かる。注意深く進めばうっかり彼女たちに触れてしまうこともないのだから。

 小さな病院だけあって、女医さんのような人は見あたらない。あるいは二階にいるのかも知れないけど。一階は患者ばかりだ。危険はなんとか回避できるが、手がかりもあまりないので、このままいても話が進まない。二階に行ってみるか。

 「!」二階に行くための階段は上れるが、二階のフロアに行く直前、火災などの非常用の扉が閉ざされてしまっている。さっきまで開いていたのに、先に進めなくなっているぞ? 一体どういうことだ?

 どうやら別のルートで上に行かなければならないみたいだ。その手がかりが一階にあるということかな。

 それにしても、僕が二階を探索しようとしたとたんに、急に扉が閉まるとは、何か強力な霊障が働いているのだろうか。

 仕方ない、一階で何か手がかりがないか、もっと丹念に調べてみよう。

 「うぐるるる…」オレンジの髪のショートカット娘が、うつろな表情のままゆっくりとこちらに向かってきた。間違いなく僕に襲いかかるつもりのようだが、一歩一歩がゆっくりで足もともおぼつかなく、しかもその表情から色欲の気配がまったく読み取れない。

 感情もなく性欲もなく、ただ虚ろなまま僕に近づいているといった感じだ。一体何を考えているのだろう。まったく心が読めない。まるで何者かに操られるままに何も考えずに動いているかのようだった。

 「くっそ、こっちに来るな!」僕は近くにあった棒(どうやら掃除用モップの棒だけ部分のようだ)で、女の子の喉を強く突っついた。すると彼女は力なく後ろに倒れ、ゆっくりと起き上がる。受け身をまったくとらず、シコタマ後頭部をぶつけているようだが、まったくものともせずに何事もなかったように起き上がる。そうか、彼女はゾンビでしかも幽霊なんだ。

 別の長髪の娘が今度は近づいてきた。「くそっ!」僕はさっきと同じ方法で女の子を突っついて倒す。棒で突けばあっさりと女患者たちは倒れていくが、すぐにむくりと起き上がってまた近づいてくる。

 さっきまでは僕の存在などまるで無視だったのに、ひとり、またひとりと、ゆっくり僕に近づいてくるようになった。

 僕はそのつど、棒で女を突いて遠ざける。

 まずい、このままここにいたら、棒だけでは追いつかなくなって囲まれてしまう。

 僕は周囲の隙を突いて、全力で走り去った。動きの鈍いゾンビたちは機敏に追いかけてくることもできず、トロンとした生気のない目で遠くから僕を見つめるばかりであった。

 一体どうなってるんだ。この廃病院のゾンビ霊たちは、他の色情霊と何から何まで違いすぎる!

 すると、近くを通りかかっていた若娘が突然、こちらを向いた。「くっ!」危険を察知した僕は後ろに飛び退け、棒を手に身構える。もう一歩でも近づいてみろ、棒で突き倒してやる。

 「うぼおおお!」びちゃあああ!

 「うわあああ!」女の子は突然、口から何かを吐き出した。嘔吐物でも血でもなく、透明な粘液であった。液体は僕の股間にあたり、ペニス周辺を粘液でぬとぬと濡らしてくる。幽霊なのに熱い液体は、その方向や粘度から、愛液と同じ成分であることがわかった。

 「…う?」

 体が熱くなる。ペニス表面から体内に染みこんでいったゾンビ幽霊の粘液成分が、僕の体に何か作用しているのだ。

 しまった、と思ったときにはもう遅かった。僕はカランと棒を床に落とし、がくっと膝を堕としてしまう。心がかき乱され、心臓が高鳴り、目の前の若娘の女性性に心奪われてしまっている。

 目の前の女の子は、パジャマ上半身をだらしなく乱し、肩もブラも露出している。下は膝上までズボンをすり下げた状態で、純白のパンティを露出した状態で徘徊していたのだった。

 僕は彼女の露出された内股に手を伸ばし、スベスベの生足を両手で撫でさすった。

 ビリビリビリ!

 「あああ…内股やわらかい…」プニッとした弾力で包み込んでくれる彼女の内股は、冷たいながらもとてもやわらかくスベスベしていて、若くきめ細かいハリのあるみずみずしい感触であった。指がめり込んでいく心地よさに酔いしれ、僕は完全に我を忘れてしまった。ツルツルと滑って行く内股やふとももを撫でさすりながら、僕は彼女の肉体の虜になっていく。

 すると疑似ゾンビ娘は強い力で、自分のパンツとパジャマズボンを引き裂き、下半身を完全に露出させた。そのまま僕に跨り、滴る女をペニスにあてがうと、一気に騎乗位で腰を落としてきた!

 「あああっ! すごい・・・やわらかく包まれてっううう!」僕は完全に床にあお向けになり、若娘のオンナの感触に酔いしれてしまった。

 ごぼおっ! ぬとっ! ごぽぷっ・・・

 ゾンビ娘の膣から大量の粘液が滴っていく。彼女の体液は止めどなく大量ににじみ出ていって、あっという間にペニスも玉袋もローション粘液で覆い尽くしていった。

 じわりと性感が高まる。粘液によって彼女のオンナの具合がよくなり、それによって僕の耐久力が下げられたというだけではない。ゾンビ娘たちは、オンナからのみならず、口からも汗腺からも、自在に同じ成分のローションを放出することができる。これに当てられると、肌から淫欲の成分が吸収され、相手の女体の魅力に敏感になってしまうのである。だから僕は、彼女の生足を触りたくてたまらなくなり、結果、我を忘れてしまったというわけである。

 挿入中に魅力を高める粘液を滴らせたのだ。その上で女の子はゆっくりだがリズミカルに全身を上下させ、ペニスを幽霊特有の極上膣でズリュズリュ扱き続けているのである。耐久力を下げられ、相手の魅力に見中になる成分がどんどん吸収され、おまけに極上の快楽でペニスを刺激されてしまえば、そのやわらかな肉体とオンナの感触で、ペニスはひとたまりもなく高められてしまう。

 「あうああっ!」白濁液がゾンビの膣内に存分に放出される。脈打ちが終わるまで、彼女は決して離れてくれず、最後まで腰を振り続けて快感を持続させてくれた。

 「うぐ…」女の子は僕から離れ、また同じように徘徊を続けた。粘液は完全に僕の肉体に吸収され、射精によってその効果も中和され、僕はまた元の状態に戻った。

 しかし今度は、別の娘が僕に近づいてくる。

 「うわああ!」僕はとっさに、近くの病室に駆け込み、扉を閉めて、患者霊たちが入ってくるのを防いだ。幸い、この部屋には別のゾンビ娘が1人もいなかったのである。

 椅子や棚などでバリケードをつくり、色情ゾンビたちが入ってこないようにすると、ようやく心が落ち着いた。

 やはり思っていたとおり、あるいはそれ以上に、廃病院ステージは手強い。触れれば我を忘れ、粘液を拭きかけられれば相手の魅力にメロメロになって、あっという間に精液を搾り取られてしまう。なんとか突破しないと、このままここでイキ続けてしまうことになるだろう。なにか打開策はないものか…

 病室内を見渡してみる。思ったよりも狭い部屋で、ベッドがひとつしかない。ここは病室の中でも個室なのだ。ここには何か手がかりがないだろうか。

 しかし、窓ははめ込み式になっていて開かず、殺風景なベッドが置かれているだけで、特に何かがあるわけではなかった。ベッドはシーツまでしっかり整えられており、とても昔に廃病院になったとは思えないくらいにきれいだ。怪しいとしたらこのベッドくらいのものだが。調べても何も出てはこなかった。

 「ふーむ・・・困ったな。」僕はキレイなベッドに腰を下ろし、ため息をひとつついた。これからどうやってここを突破しようか。

 がたん! 「!!!」

 突然僕の体が勝手に動き、僕はベッドに横向きに寝かされてしまった。何か強い力がGのように僕に襲いかかり、体が自然とベッドに寝てしまった感じだ。一瞬、何が起こったのかさえ理解できなかった。

 何者かによってベッドに強制的に寝かされた! ということは、ここに何か淫霊の罠が潜んでいるということだ!

 とっさに身体を起こそうとしたが、わずかに頭が浮き上がるだけで、それ以上身体を起こすことができなくなっていた。透明の膜がベッドの周囲に張られているみたいになっていて、自由に身動きを取ることができない!

 ベッドの上数十センチよりも上に起きようとしても、手を上に伸ばそうとしても、見えない壁に阻まれて、それ以上、上に行くことができない。ベッドの上を転がることはできたので横から脱出しようとしたが、ベッドの側面にも同じような見えない壁に阻まれ、僕はベッドから脱出することができなくなっている。

 ばしい!

 突然脳裏に映像がフラッシュバックのように浮かんでくる!

 それは、僕が知っている光景ではなかった。

 目の前に拡がるのは、まさにこの病室だった。そしてそこに、ひとりの若い女性が、浴衣姿で寝ているのだった。どうやら彼女は背骨に異常をきたして入院しているようだった。自由に動き回ることができないため、看護婦さんや家族の人が体を拭いたりして、時折お医者さん、ああ、あのときの院長先生だ、彼が半裸の女の子を診察しにきている光景が浮かぶ。どうやらこの病院の唯一の医者で院長なのが、あのお父さんなのだった。

 そんな折、彼女にも悲劇が襲いかかった。

 夜な夜な性欲に悩まされる。だが背中を動かせない=全身ほとんど動かないという状態で、自分でオンナをまさぐることもできず、性欲の疼きが狂おしい苦痛となって彼女を毎晩責め苛んでいる。元気であれば、夜が明けたと同時に外に飛び出し、男を求めてかけずり回るところであるが、彼女にはそれさえもできないのだ。

 数日後、彼女はついにこらえきれなくなり、動けば背骨が悲鳴を上げ、運動すればそのまま折れてしまう危険もある(わずかに動いても激痛が全身に走るため、通常はみずから動かない)にもかかわらず、彼女は朝起き上がり、激痛に絶叫しながら、それでも勝手に体が動いてしまうかのように病室を飛び出してしまう。

 しかし、病院を出る直前、彼女の背骨はあっさりと砕け、彼女は激痛と性欲に鬼のような表情にまで顔をゆがめたまま、その場で絶命してしまったのである。

 ああ! これは…この病室の最後の患者の光景なのだ。その色情怨念が、ベッドにとどまり、僕に映像として残したのだった。

 さぞかし無念であっただろう。原因不明の性欲に悩まされ、それが命尽きるほどに強まっても、誰もどうすることもできないのだ。そのまま彼女は命を落としてしまう。なんということだ!

 悪魔どもめ! 何がセックスの理想郷だ。これほどの地獄を我々に押しつけ、平気な顔をしてやがる。絶対に許さない!

 「クスクス…そんなに怒らなくてもいいよ?」

 「!!!」

 声が聞こえたと思った瞬間、僕の目の前に寝間着を着乱した若い女性が現れた。この人はまぎれもなく、さっきのビジョンに登場していた、背骨が折れて死んだ娘そのひとであった!

 清楚な顔立ちながら、好色な表情を浮かべ、すべすべの肌とぷるんとした唇を武器に、僕の目の前に横たわっている。

 心臓が高鳴る。

 それは、単なる性的な興奮だけではなかった。

 それよりも強く、戦慄と恐怖、そして何より、地獄の底からわき出るような激しい憎悪の念によるものであった。

 なぜだ!

 あれほどの苦しみに苛まれて死んだというのに、どうしてキミはそんな好色な笑顔でいられるのだ。なぜ、このような状況に追い込んだ悪の存在を怨みもしないのだ!

 「なぜだ・・・」やっと、絞り出すように、僕は彼女に話しかけた。だが、彼女は好色な目で僕を見つめながら、クスクスと笑っている。

 背骨が折れて絶命したはずの娘は、体もまっすぐに繋がっている。そして、病人とはとても思えないハリのある若々しい肉体を具え、生前の苦悶など微塵も感じさせない。

 「くっそ・・・」だんだん相手の状況がつかめてきたぞ。彼女はきっと、生前自分に襲いかかった謎の性欲に対し、何らの怨みも持っていないのだ。むしろ、死をもって解放され、その後色情霊となって彷徨いながら、快楽をむさぼり続け、性感の虜となってしまっているのだ。気が触れているわけでもなく、体の痛みも背骨のこともすべて解決し、セックスの快感をのみ求め、これを喜びとしているのである。怨みなど微塵も感じさせない妖しいクスクス笑いはまさに、自分が地獄に喘いでいること、霊として永遠に性欲に縛りつけられ囚われていることに気づいていないことを証左していた。

 「このバリアは君がはったのか?」「…そうだよ。ね、私と楽しいことしよ?」「ダメだ。いいか、これは魔物の罠なんだ。君は何も知らないんだ。よく聞いてくれ。君を呪いにかけ、性欲の虜に仕立て上げた悪い魔物がいるんだ。それが原因で君は背骨を折って死んだ。しかもそのあとも永遠に霊として君を縛り、苦しめているんだ。」

 「くすくす・・・しってるよ?」「なっ!!」娘はかわいらしい顔でしれっと答え、微笑んだ。何もかも分かっているというのか?

 「じゃあどうして! 君を殺した奴が憎くないのか? 解放されたいと思わんのか!?」「クスクス。私ね、そのお方に感謝してるの。体の苦しみから解放してくださって、おまけにずっとずっと、こんな気持ちいいことを続けていられるんだもん。この病室に入ってきた男を私のベッドに捕らえ、いっぱい精を絞るとね、私の体も心もすっごい気持ちいいんだ。こんなすばらしい世界を教えてくださったことに感謝してるんだよ?」「そんな…!」

 信じられないことだった。全く考え方が根本から違うんだ。

 僕は戦慄を強めた。

 「うふふっ、ここに寝た男の子は、絶対に逃げられないんだよ? 見えない壁がベッドの周りにあるから、上にも横にも行かれないから、私に抱かれるしかない。それに、この病院で女に触れたら、すべての男が理性を失うことも知ってるよ?」

 「やめろ・・・ちかづくな・・・」僕は震えた声で後ずさった。が、やはり見えない壁に背中を阻まれ、どうしてもベッドの端から先に行くことができない。女の子はクスクス笑いながら、じわりじわりと僕に近づいてくる。彼女が手を伸ばして僕に触れればそれだけで僕は性欲の虜となる。それが分かっていながら、少しずつ近づいて恐怖させることを楽しんでいるんだ。

 こちらから彼女を突き飛ばすわけにもいかない。そんなことをすれば理性が飛ぶだけだ。それが分かっていながら、わざとじらして遊んでやがる。彼女の精神は完全に魔性そのものであった。

 僕は力一杯後ろに身を引き、なんとか彼女から距離を取りながら、脱出方法を必死で考えた。だが、どうあっても背中に壁の圧迫感を感じるだけで、じりじり迫ってくる若娘の肉体をどうすることもできなかった。

 乳房を強調しながら誘うような笑みで体を近づけてくる女の子。小降りながら形の良い乳房はとてもやわらかそうで、肌のきめもとても細かい。触ったらさぞ心地いいだろう。細いのに内股はしっかりふくらんでいて、女らしいキレイなふとももだった。全身みずみずしいハリのある肌の質感は、死んだ幽霊とは思えないほど生々しく妖艶でさえあった。

 「ふふっ、逃げられないよ? あきらめちゃいな?」「うっく…」もう少しで触れてしまいそうなほど女の子が近づいた。僕は力一杯後ずさったが、やはりこれ以上どうすることもできなかった。

 「がんばった方だね。私のカラダを見せつけられても抱きに来ないなんて。」女の子がじらしたのは、触れたときの呪縛に頼らず自分の体の魅力だけで男をその気にさせようという魂胆も含まれていたようだ。だが、フザケンジャーの使命を忘れず、謎を解かなければという石が、そして何より、快楽に溺れて廃人となることへの恐怖が、僕を押しとどめていた。

 「…。」

 一瞬、空気が止まる。

 「うりゃ。」

 バリバリバリッ!!

 「あああああ!」

 ついに女の子は、一気に体を押し寄せ、ぎゅみっと僕に抱きついてしまった。背中を追いつめられたところで前方にやわらかい肉と吸いつく肌が覆い密着してきた格好だ。瞬間、電気ショックが全身を駆けめぐり、僕は理性をなくした。

 いや、おそらくは性欲に我を忘れる呪いなんかなくても、この魅力的な娘の肉体誘惑には勝てなかったであろう。僕の胸に飛び込んでおっぱいを押しつけると同時に、彼女はすらりとした生足でペニスを挟み込み、ぎゅっと締め上げてきたのだ。シコシコした吸いつく肌触りがペニスを覆う。

 想像通りのみずみずしい体。滑らかでやわらかく、全身心地よい。とろけそうな密着誘惑に勝てる道理はなかった。

 女の子は高速で左右の足を交互にスリスリしてペニスをしごく。プニッとした内股はパイズリに負けない弾力と心地よさを持っている。溜め込まれた精液はあっという間に体の奥からこみ上げてきて、僕は女の子の体をぎゅうっと抱き締めながらぶるぶる打ち震えた。

 「あううっ!」名前も知らぬ若娘の生足攻撃にほだされ、精液がふとももの間からほとばしっていく。

 強烈な快楽が股間から全身へと走り抜ける。先に精液が出て、あとから絶頂の快感が押し寄せたかのような錯覚さえ覚える。そのくらい急激な射精であった。

 「あふっ・・・いい気持ち・・・何度やってもこの快感は忘れられないっ、…ねえ、もっとしようよ?」

 女の子は股を開くと、腰をグッと突き出してきた。まずい、このまま挿入に持ち込むつもりだ!

 僕は腰を引いてオンナを避けようとしたが、お尻も見えない壁に阻まれ、これ以上引くことができなかった。

 「あああっ!!」股間にやわらかく心地よい感触。幽霊なのに熱のこもった内部器官が、しっかりとペニスに巻きつき、ぎゅうっと締め上げながらどこまでもやわらかく包み込んでくれる。ペニスは完全に若娘の膣に飲み込まれてしまっていた。

 「ああ~いい気持ち~いい気もちぃ…」女の子は積極的に腰を前後させ、ペニスをオンナで激しくしごき続ける。彼女にとっては、性感神経を刺激されることよりも、セックスをして男を悦ばせ射精させることそのものが、極上の快感のようだった。魂が打ち震えるほど気持ちがいいんだろう。だからこそ色情霊をやめられないでいるのだ。

 神通力を発揮しきれない僕では太刀打ちできない相手だった。

 「あっ、あひっ、やめ、やめてえっ…んあ!」太もも以上の締まりと若いヒダがペニスを激しくしごき上げ、僕は腰を引くこともできず彼女の腰の動きに身を任せるしかなかった。出したばかりのペニスであるにもかかわらず、すぐに溜め込まれた体液がオンナの奥へと絞り上げられていく。濃い精液が子宮めがけて放出され続けた。

 「あははっ、良かったよ、また来てくれたら、もう一回気持ちよくなろうね?」

 僕はやっと解放された。

 フラフラと病室を出る。ここに留まっていればまたもや逃げられない中で患者幽霊に搾り取られてしまうからだ。

 だが、廊下は廊下で危険地帯であることに代わりがなかった。ゾンビ娘たちが大勢徘徊しているのだ。僕は彼女たちに触れないように避けながら、別の病室に飛び込んだ。

 そこにはゾンビもいないし、幽霊の痕跡もなかった。

 代わりに小さなテーブルと、その上に置かれたろうそくを発見した。


*理性のろうそくを手に入れた


 「これは…」ろうそくを手に取ると炎が勝手について、小さくゆらゆら燃えている。触れても暑くはなく、ロウが垂れてくるわけでもなく、振っても吹いても火が消えることがなかった。不思議なろうそくだ。

 他に何かないか、部屋の中を探してみる。とくに何もなさそうだ。

 僕は外に出て、さらに別の部屋を探ってみることにした。

 「ぐおあああ!」「うわあっ!」部屋に入ると突然、患者と思われるゾンビ娘がしがみついてきた! こいつ、部屋の中で待ち伏せして、入ってきた男に抱きつくことで理性を奪いセックスに持ち込む作戦を取ってやがったんだ。

 「?」

 電流のような響きが体内で起こらない。さっきまでなら、女体に触れたとたんに理性が飛び、セックスがしたくてたまらなくなり、そこへ女が体を開いて待ちかまえてくれるからどうにも抑えられなくなり、精を抜き取られてしまうのだ。

 だが、ゾンビ娘に抱きつかれているにもかかわらず、電流はおこらず、理性にも何らの変化がなかった。

 そうか、ろうそくだ!

 見ると、理性のろうそくが激しい炎で燃えさかっている。みるみるロウが減っていくのが分かる。なるほど、一定時間触れられていても理性を保つことができるアイテムなんだ。

 「離れろ!」

 ゾンビ娘を突き飛ばすと、ろうそくの炎は元の平静な小さな灯りに戻った。触れられていない間は小さな炎がついたままでロウが減らない。触れられている間は、ロウを消費して炎が激しく燃え、理性が飛ばないですむんだ。ただ、どうしてもロウの減りは早い。ロウが尽きれば効果はなくなるのだろう。やはりできるだけ触れないようにして、ろうそくを長持ちさせる必要がある。

 どうやらこの部屋はこの娘のトラップだけのようだ。僕は足早に次の部屋に向かった。

 ぴかあ!

 「うっ!」突然まぶしい光に包まれた。これまで闇が多かったため面食らったが、徐々に慣れてきたので、しばらくして目を見開いてみると、僕の体が透き通っていた。

 目の前に広がる光景は、見るもおぞましいものであった。

 廊下や病室のあちこちに人だかりができている。裸の男女だ。いや、よく見ると大半は若い女性で、その中心に男…それも小学生くらいの男子のようであった。

 この光景は…さっきの患者が見せたのと同様、昔の病院の記憶だ。だから僕の体が透き通り、誰からも認識されなくなっているんだ。

 カギがかけられ、決して外に出ることができずに死んでいった娘たち。彼女たちは半幽霊、半アンデッドという不安定な状態のまま、外に出ることも死ぬこともできず、永久に病院内を彷徨っている。中には、さっきの娘のように完全に幽霊となった者もあるが、ほとんどはゾンビ化しているみたいだ。

 …なぜ幽霊になる者とゾンビ化する者が分かれたんだろう?

 ともかく、そんな彼女たちの慰み者は、年端もいかぬ男の子たちであった。

 呪縛によって、少年といえども性欲に苛まれている。だが、外の男たちと決定的に違うのは、ここで死ぬまで女たちと交わり続けなければならない運命にあるということだ。

 外は昼間。以前見た手記によれば、昼間はとりあえずセックスからは解放されていたはず。だが、この病院に限っては、24時間休むことなく快楽の宴が繰り広げられていた。

 男の子たちには理性がない。女体に触れ続け、片時も休むことができなくなっているんだ。たえず誰かの手や胸やオンナや足などが少年に触れているため、彼らが正気に戻ることがなくなっている。衰弱しても理性が飛んだ状態でしかも魅了の粘液を全身に浴び続けているのだから、少年たちは快楽の虜となって女たちと交わり続けるしかなくなっているんだ。

 そうして、小さなペニスに触れ、しごき、舐め、挟み、挿入し、集団でひとりの男の子によってたかって全身愛撫し、女体の渦に巻き込み続けていた。中には脈打つだけで精液がまだ出る段階にない体の子であっても、おかまいなしにかわいがり続けていた。ひとりの少年に2,30のゾンビが群がっている。

 そんな人だかりの塊が、あちこちに5~10ほど。少年が絶命すると、どこからともなく別の少年が現れ、彼女たちの相手をした。

 その宴は、村が全滅するまで続けられていた。

 記憶の映像がそこで終わりを告げ、何もない病室に戻った。僕の体も元に戻っている。あれは…実際にこの病院で起こったことなんだ。

 部屋の片隅に古びたベッドがある。マットが抜け落ちていて、あちこち錆びており、とても横になって寝ることはできない。そのベッドには古いロープがくくりつけられて、途中で朽ちていた。ベッドの四隅に結わえ付けられたロープが何を意味しているか、だいたい想像がついた。衰弱して立っていられなくなった者を縛りつけて寝かせ、次から次へと乗っかって犯し、絶命するまで精を絞り続けたんだ。つまりこのベッドが、さっきの少年たちの死に場所だったということだ。

 「くっそ・・・」僕は気分が悪くなり、部屋をあとにした。

 入り口付近に戻る。その先に進み、さっきの階段のところにたどり着いた。さっきまで閉ざされていた扉が開いている。これなら上まで行かれそうだ。

 しがみつくゾンビたちをはねのけながら、僕は先を急ぐことにした。

 二階に上がる。禍々しい雰囲気はさらに濃くなっているのが分かる。そこには、ゾンビたちが徘徊していなかったものの、いやな気配がぷんぷんする。警戒してかからなければ。

 目の前に大きな部屋があった、プレートに「院長室」と書かれてある。さっそくいきなりラストかよ。

 中に入ってみると、そこには誰もいなかった。散らばった書類と、奥に置かれた立派なデスク。応接用のテーブル。古びたドイツ語の本の数々。他には何もない。幽霊の姿も見あたらない。

 ふーむ・・・院長室だから決定的な何かがあるのかと思ったが、とくに大きな手がかりはなさそうだ。

 机の引き出しを調べてみたが、いずれもカラであった。当てが外れた僕は外に出て、別の部屋に向かうことにした。

 一階よりも二階の方が狭い。部屋の数も多くはなかった。院長室の他に、部屋はふたつ。いずれもスタッフ用の施設のようだ。その殺風景なたたずまいは、もはや病室ではない。

 さらに拍子抜けなことに、二階には誰も姿もなく、どの部屋も殺風景なままで、何も手がかりはなかった。トラップすら仕掛けられていない。本当に何もなかった。

 仕方なく僕は、もう一度別の手がかりを探すべく、ゾンビどもの徘徊する一階に降りていった。

 ばちい!

 「うっ!」

 また例のフラッシュバックだ!

 僕は瞬時にして外に飛ばされた。いや、僕の意識だけが、病院の外に出ただけのようだ。体が透き通っている。昔の記憶を映像として僕に見せているだけなので、僕は誰にも認識されない状態なのだ。

 昼間の、人気のまったくない古びた廃病院。二階の窓が四つある。その端っこの窓に白い人影が映っていた。院長室の反対側のようだ。人影は複数あり、いずれも女性…看護婦さんのようだった。

 一階に目をやると、そこにひとりの少年がいた。彼は虚ろな目で病院に吸い込まれていく。「待て! その先にはゾンビがいるぞ!」思わず声を張り上げてしまったが、虚空のようにさみしいかすれた声は、決して少年に耳には届かなかった。そう、僕はただ単にこの記憶を映像としてみせられている立場、何らの干渉もできないのだった。

 少年は病院の入り口から入っていくかと思ったが、そうではなく、横の方に足を向けていた。病院の脇にある仮設トイレのような小屋に入っていった。それはトイレではなく、小さなエレベーターのようなものであった。

 上に伸びているわけではない、ということは、エレベーターは地下へ向かったと考えられる。つまり、この廃病院には、どこかに地下室があるということだ。

 そこで記憶の世界から元に戻った。

 気になった僕はもう一度上に戻ってみた。さっきの看護婦さんたちは何を意味しているのか、確かめたくなったのだ。

 院長室にはやはり誰もいない。短い廊下の両脇には窓が三つ、その先は壁に阻まれている。院長室には窓がなかった。

 「おかしい…」さっきの映像で見たよりも、二階が狭い気がする。窓の数も合っていない。ということは、この壁の先に…もう一つ窓つきの部屋があるということだろうか。だが、いくら調べてみても、壁が頑丈で、先に行くことができなかった。別の入り口があるのだろうか。

 とにかくそこに、何とかして行ってみなければ。絶対何か手がかりがあるはずだ。

 僕は一階に降り、その「あるはずの部屋」の下に当たる部分に足を運んだ。何もない病室だ。

 「…。」天井を見上げる。とくにここから登れるようなハシゴやロープの類はなさそうだ。

 隣の部屋に行ってみる。3人のゾンビが群がってきたが、僕は彼女たちを蹴散らし、部屋の外に追い出した。はたして、部屋の端に上に行くハシゴがあった。ここからなら上に行かれそうだ。

 僕は上の部屋に行ってみた。二階の通路からは入れない秘密の部屋。絶対に何かある!

 薄暗い部屋は、僕の灯りによって内容が分かるくらいには照らされた。そしてまた、例のフラッシュバックが襲いかかってきた。

 「申し訳ない…」男性の声が響く。目を開けて見ると、あの院長が病院のドアにカギをかけていたところだった。窓をすべてはめ込み式にし、他からは外に出られないようにして、最後に入り口の扉に厳重にカギをかけたのだった。

 この段階ですでに、村の呪いは拡がり、院長自身にも異変が生じていただろう。性欲に苛まれる患者たちが入り口に押し寄せ、泣き叫びながら悩ましい叫び声を開け続けている。女たちが狂い始め、色情霊どもが夜な夜な徘徊する魔性の村である。

 院長の家庭でもおかしくなっているさなか、彼はひとつの残酷な決断をせざるを得なかった。

 性欲に苛まれたまま生きながらえる娘たちは、入院しているにもかかわらず、外に出始めたのだ。性欲に耐え切れなかった者は半狂乱となり、足が悪かろうと体がきつかろうと、若くして末期がんに冒されていようとも、その苦しみ以上に性欲の疼きが大きく、たえられるはずもなかったのだ。そのうち、さっきの娘のように背骨を折って絶命する者も現れ始めた。

 院長は、苦渋の決断をせざるを得なかった。これ以上村の外に女を出してはならない。しかも身体に深刻なダメージを負っている患者たちを外に出そうとすれば、彼女たちの命も危ない。院長なりに考えた末の決断だったのだろう。カギをかけ、絶対に出られないようにして、院長は病院を捨てることにしたのだ。

 そのあとは、院長の自宅を見た僕の知っているとおりだ。

 残された患者たちは、病気と性欲に苛まれながら狂気の苦痛のうちに絶命していった。そして、そのうちの一部が色情霊に、大半がゾンビとなった。院長の思いは打ち砕かれ、永遠に彼女たちを廃病院の牢獄につなぐことになってしまった。

 院長には院長なりの苦渋の決断があったのだろう。全身を骨折していても男を求めて村中をさまよい歩く自分の患者を見るのは忍びないと考えた。それはそれで、正しかったかどうかは分からない。だが、院長自身のせめてもの愛だったのだろう。これを踏みにじる魔の者は決して許せない。

 「!」そのあと、黒い人影が院長に見つからないように走り込んできた。人影は生身の人間のようだ。そいつは…さっきのフラッシュバックに出てきた少年と同じように病院の横へと走っていった。

 …

 まだパーツが繋がらない。謎が多すぎる。悲劇は分かったが、彼女たちはどうしてゾンビになったのか。閉ざされた病院のはずなのに男の子たちがいたのは。入り口とは別の地下室は? さっきの黒い人影は…?

 もっと探索を続けないと。そう思ったとき、フラッシュバックが解け、元の暗闇に戻った。

 「あああっ!!」

 設備の数々から、そこはナースステーションだと分かった。青白く光る部屋中に、十数人の若い女の幽霊が立っていたのだ。パジャマにパンティ姿、ブラジャーにジャージ姿、ショーツだけの娘、全裸の娘など。綺麗な体をしているが、患者霊であることはすぐに分かった。

 そして僕の目の前に、フラッシュバックの時に見た看護婦さんたちの姿があった。ひとりは僕の目の前でMじ開脚をし、自分のオンナを拡げまさぐりながら上目遣いで僕を見つめ、乳房をこねくり回している半裸のおねえさん。ナースのミニスカを身につけているだけで、上半身は裸であった。もう一人は、せっけんを手にぴっちりナースミニスカ服に身を包んだレディで、好色そうな目で僕に近づいてくる。

 女たちは僕を取り囲むようにして円陣を組んで立っていた。逃げられない!

 くっそ…ここで悪霊退散の札を使うべきか。いや…数に限りがあるんだ。乱発は禁物だ。でも、どうすれば切り抜けられるだろう。15人くらいのナースと患者の幽霊を相手に、これを振り切って逃れる方法を模索しなければ。

 朽ちたナースステーションの中心に、ドス黒く光る水晶玉があった。手に取ろうとしたが、とてもイヤな予感がしたので手を引っ込めた。これはアイテムの類ではない。何か禍々しい気を発している。これに迂闊に触れてしまったら、取り返しがつかない気がする。

 この水晶のパワーに、彼女たちは吸い寄せられたとでも、いうのだろうか・・・見るにつけゾッとする輝きを放つ水晶だ。

 とにかく目的は二つだ。この先へ進む謎を解くことと、目の前の妖艶な若娘幽霊どもをどうにかすることだ。なりふり構わず逃げるだけならどうにかなりそうだが、そうすると謎は解けない。が、謎を解くことに集中すれば色情霊どもの餌食になってしまう。瞬時にして理性を奪われることはないだろうが、その頼りのろうそくにも限りがある。

 女たちは待ってくれない。考えるいとまもないと言わんばかりにじりじり近づいてくる。僕の周囲に半裸全裸の娘たちが甘い息づかいでぐるりと取り囲み、僕とのセックスを切に望んでいた。この誘惑に負け、飛びかかってしまえば、人数分以上の射精を奪われてしまうことだろう。それだけは何としても避けなければ。

 「うっく…」股間が誰かに後ろから掴まれた! それと同時にナースの一人がぴったり僕に寄り添い、全身を愛撫し始めた。理性のろうそくが激しく燃え始める。

 後ろを見ると、半透明の看護婦霊がぴったりと僕の背中に貼りつき、後ろから手を伸ばしてペニスを両手で掴んで優しくしごいてくれていた。

 スベスベのしなやかな大人の手が、きめ細かい肌ざわりでペニスに絡み付き、ゆっくりでありながら感じやすいポイントすべてに吸いつく指がしっかりこすれていく絶妙な指使いで撫でさすり、こすりあげていく。根本から先端までしっとりと滑って行く優しい女手の攻撃に、僕はつい腰をくねらせて感じ入ってしまう。

 とろけるような安心感が股間から全身に広がり、それでいてくすぐったい刺激がガツンガツンと脳天まで突き上げてくるような心地よさに包まれてしまう。先端の敏感なところやカリヒダをくすぐり揉み込みながら、全体を優しく撫でさすり、ほぐしてくれる。これは並大抵のテクニックじゃあない。

 白魚のような指先がペニス全体に絡み付いて、ふにふにやわらかい手の感触を刻みつけながら、強弱をつけた力加減で手を前後させ、女性特有のきめの細かい白い肌ざわりを丹念に味わわせてくる。手の甲を駆使して内股や玉袋まで優しい手つきで愛撫されると、僕のくねる腰がさらにぶるるッと震えた。

 看護婦は三人いたのだ。目の前でオナニーするナース、僕にぴったりはりついて横から愛撫攻撃を加えてくるお姉さん、そして後ろから手コキをしてくれる達人看護婦である。

 愛撫担当のお姉さんは、手にせっけんを塗りながら僕の全身をくまなく洗ってくれる。乳首、脇の下、内股、首筋、肩や背中、脇腹、膝裏、お尻、両手両足にいたるまで、まんべんなくスベスベの手のひらが這い回る。その指先は手コキナースに負けるとも劣らない美しさと触り心地の良さを具えていた。しなやかで、きめ細かく、それでいてむにっとやわらかい大人の女の手が、僕の感じやすいところにピンポイントで、しかもすばやく撫でさすり、くすぐり、こすり続けてくれた。

 背後からの両手コキと全身愛撫の息の合った攻撃に、僕は内股になって悩ましいため息をついてしまう。そんな僕の視界に飛び込んでくるのは、目の前で尻餅をついて女や乳房をあらわにし、自分を慰め続ける妖艶な美女であった。彼女の地帯を目の当たりにしながら、別の二人に体をかわいがられているという倒錯が、僕の興奮をいっそう高めてくれた。

 女手を使って、リアルなエロ動画を見ながら自分で自制のきかぬオナニーをしているみたいな錯覚に陥る。そしてその光景をじっと見つめながら若い肌をさらけ出し見せつけ続ける患者霊たちの姿もいやらしかった。

 どこを向いても、若娘たちのあられもない姿、おっぱいや女やふとももやお尻が視界に飛び込んでくる。前屈みで谷間を強調する娘、後ろを向いて形の良いヒップを強調しながら、軽く足を開いて内股の引き締まったやわらかお肉を見せつける女の子、脇の下を見せたり、腰を突き出してツルツルの性器を強調する子もいる。

 しかも、尻餅をついたナース霊は浮遊もしているのか、僕が視線や顔を背けるとぴったりついてきて、どこを向いても目の前にあられもないオナニー姿が正面に来るようになっている。僕は彼女を、彼女たちを見ないでいることができないのだった。目をつぶってもまぶたの裏にリアルに女体の渦が映し出されてしまう。

 僕は女性たちの体をじっくり見つめながらペニスをしごかれ、せっけんまみれでにゅるにゅるのまま、じわじわと高められていった。

 このままでは抜かれてしまう。なんとか脱出しなければ。

 「くっそ! 離せ! 離れろ!」僕はブンブン両手を振り回し、横や後ろのナース霊を振り払おうとしたが、すかっすかっと体をすり抜けてしまい、どうしても当たらない。性的な行為だけは身に受けるのに、はねのける動きは全部幽霊どもの体をすり抜けてしまうのである。そうしてあいかわらずいやらしい体を見させられながら優しい女手がにゅぐにゅぐペニスを刺激し続けた。

 徐々にお姉さんの手がスピードを上げ、リズミカルになっていった。僕はその動きに耐え切れず強く腰を引いたが、そうすると後ろのナースはぐいっと背中に自分のおっぱいを押しつけてのしかかるように密着し、なおも執拗にペニスをしごき続けるのである。

 僕は前方のお姉さんのオンナのワレメを目の前に見せつけられながら、その妖艶な性器の美しさに見惚れ続けた。ソコに入れていながら目の前に見せられている錯覚を胸に、全身に快楽が廻った。

 「んあ!」精液が女手に絞り上げられる。後ろの女性のふとももの感触を両足に受けながら、僕はぶるるッと震えて快楽の子種を勢いよく吐き出してしまった。

 それでも女たちの手は止まらない。手コキのエキスパートであるナース霊たちはさらにせっけんを増量させ、執拗に体を見せつけながら、手コキを甘く続けている。周囲の患者霊たちも自分の体をまさぐりながら、ナースたちが飽きて自分たちが群がることのできる順番を心待ちにしていた。その集団オナニーの光景が僕をさらに興奮させ続ける悪循環だ。

 「ま、負けるものか・・・!」僕はゆっくりと歩を進め、前方に歩いていった。幽霊たちはぴったり密着してしごきの手を休めない。僕は手コキされながら愛撫されながらナースステーションの調査を始めた。

 ちゅくちゅくちゅくちゅく・・・ 「ひゃうう!」

 手コキナースが指先で亀頭だけをつまむようにしてすばやく小刻みにこすり続けた。指の腹のやわらかく吸いつく感触で先端ピンポイント攻撃され、僕はつい腰をかがめてしまう。幽霊にぴったりはりつかれしごかれながら歩き回ることがこんなに気持ちいいなんて。歩いて周囲に気を向ければ股間の防御がおろそかになり、女手の攻撃をダイレクトに身に受けてしまうのだ。

 快感に負けてはいけない。射精をしないようにして、ガマンしながら、先へ進む手がかりと、幽霊娘を撃退する方法を模索するしかない。

 婦長の机とおぼしきデスクを発見した。きっとアソコには何かがある。そう信じて僕はゆっくり歩みを進めていった。

 幽霊たちも負けてはいない。デスクに向かって一歩足を進めるごとに、若娘たちがはりついてくるのだ。幽霊なので浮遊し、半裸のまま僕にしがみついてくる。そうして、おっぱいや生足を押しつけこすりつけ、全身をスリスリして、射精を促し続けるのである。幽霊なので重なり合うことができ、スベスベの若い肌全員分を同時に身に受けることになってしまう。

 「うっ、ううう!」また股間に、射精直前の多幸感がこみ上げてきた。あと2,3秒で射精してしまうというタイミングで、手コキナースがまたもや先端指先攻撃に切り換えてきたのだ。「ああ!」白濁液がまたもや先端から飛び出していった。

 それでも幽霊たちはペニスを責め続ける。手だけでなく、おっぱいでしごいたり、ふとももでしごいたり、それを同時に行ったりして、十数人の女たちに全身を愛撫され続けながら僕は歩かなければならなかったのだ。

 あああ…いい気持ちだ…このまま快感に身を任せてしまいたい衝動に駆られ、必死でこの強欲を押さえつける。

 やっとデスクにたどり着いた。思ったとおり、引き出しに怪しげなスイッチがある。これが何かを動かすのは間違いなかった。

 僕はためらいもなくスイッチを押す。すると周囲が響き、低い音とともにゆれ動いた。見ると、ナースステーションを仕切っていた壁が開き、院長室に向かう廊下と繋がったのだ。そして開けっ放しの院長室の扉の奥に、何やら光る四角い装置が出現しているのを発見した。

 あれは・・・エレベーターだ!

 僕は一目散に走り出した。幽霊たちはナースステーションから外に出られないらしく、廊下に出たとたんに僕から離れてしまった。

 「ああっ、ろうそくが! きっ、消える…!!」

 さんざん群がられ、理性を失わない効果のろうそくは完全につきようとしていた。そして、最後の力をふり絞って、ついに消滅してしまった。

 まずい・・・この先女に触れられたら、また暴走してしまうぞ。くっそ、どうしたら・・・

 悩んでいても仕方がない。もしかしたらこの先、もう一本くらいあるかも知れないじゃないか。先に進むことにしよう。

 院長室に出現したエレベーター。白い光を発しているということは、稼働しているということだ。

 フラッシュバックの時に見た、外からのエレベーター。病院の横に設置されたあの装置は、たしかに地下に繋がっているようだった。そして、院長室直通のこのエレベーターも、同じくらいの大きさで、やはり地下に向かうもののようだ。つくりは小さく、人一人乗ったらそれでいっぱいになってしまう。おそらく地下に何かがあり、それが答えに繋がっていると見て間違いないだろう。

 僕はエレベーターに飛び乗った。すると扉が閉まり、機械的なアナウンスが聞こえてきた。「このエレベーターは服を着ている者を運びません。すべての服を脱いでください。」・・・もうすでに全裸だよ。「ぴぴぴ・・・全裸を確認。ただいまより稼働します。」

 ゆっくりとエレベーターが下り始めた。手狭なエレベーターで、座るスペースもない。立ったまま下に降りるしかなさそうだ。

 エレベーターが徐々にスピードを上げているのは、体の浮遊する感覚からすぐに分かった。地下って、一体どのくらい降りるのだろう。

 突然周囲が光り始める。またあのフラッシュバックだ。だが、そこには多くの手がかりが潜んでいる。

 エレベーターの中にいたはずの僕は、廃病院の屋根に半透明で立っていた。病院の裏側に民家の屋根が二つ見える。ひとつは青い屋根で比較的新しく、もう一つは木の屋根でかなり古そうだった。

 びよびよびよ。びよびよびよ。

 民家からおかしな音がする。なにかの発信音のようだが…

 「!!」

 その音を聞きつけてフラフラとやってきたのは、2人の年端もいかぬ少年だった。

 「さあ…病院横のエレベーターに乗りなさい。」どこからともなく聞こえてくる声。少年たちはその声に従うように、虚ろな目でフラフラとエレベーターに乗る。エレベーターは閉まり、例の裸になれというアナウンスが流れる。男の子たちは全裸になる。エレベーターがゆっくり下っていった。

 あの民家から何かが出ていて、それが少年を引き寄せ、廃病院に誘い込んでいることは分かった。そして、その行き着く先は、地下のどこかであり、そこで洗脳された少年は、絶命するまで廃病院のゾンビ娘たちを抱き続けなければならないのだ。

 怒りがこみ上げてくる。一体、少年たちを呼び寄せているのは誰なのだ。そいつはかなり黒幕に近い感じがするぞ。いずれにしても、悪い奴であることは間違いなさそうだ。多分、前のフラッシュバックで垣間見えていた黒い人影がその人物だろう。

 廃病院を抜け出したら、裏手にあると思われる民家二軒を探索してみよう。何か手がかりがあるに違いない。

 エレベーターが止まる。扉が開くと、広い部屋の中に出た。

 何カ所かにエレベーターがある。「外」「廊下」そして自分の乗ってきたエレベーターには「院長室」というプレートが掲げられていた。

 怪電波に当てられて吸い寄せられてきた少年は、おそらく「外」というエレベーターに乗ってここまで来て、そこから「廊下」エレベーターに乗り換えて上に上がることを強いられるに違いない。

 部屋にはベッドが並べられていて、燭台と線香立てが並んでいる。つまり。。。霊安室なんだ。

 もちろん、死体はなく、カラのベッドだ。それもそのはず、死体はすべて幽霊か、ゾンビ娘となって上にいるんだからな。

 さて、このまま外に出れば、例の民家に行くこともできるだろうし、そもそも病院からの脱出も可能だ。迷うことなく外に出るべきだが…

 何かやり残した気もする。霊安室の探索? あまりおもしろそうではなさそうだが。

 「!」

 奥の方のベッドには誰かが寝ている。おそるおそる近づいてみると、死体でも幽霊でもゾンビでもなかった。

 それは人形だった。

 10歳くらいから30歳くらいまでの、全裸の女の人形だ。人形というより、リア●ドールのような精巧なつくりをしている。罠かも知れないのでおそるおそる触ってみたが、プニッとした女性ならではのやわらかさは再現されているものの、襲ってくるわけでもなし、こちらの理性が飛ぶわけでもなし、ただの人形だ。

 生足のつるつる感とか、おっぱいのふくらみとか、スベスベで柔らかい肢体とか、その辺は女体そっくりに作られているし、素材も特殊だ。乳首も女の形もリアルに作られているし、理想的な美しい顔立ちでもある。が、肝心の「穴」がない。これではダッチワイフとしての役にも立たないなあ。

 一体誰が、なんのためにこんな人形を置いているのだろう。

 見ると、子供から大人まで、一直線に成長順に並べられているのが分かった。10歳くらいの、男の子と大して変わらないツルペタな体つき。12歳くらいの、やや胸がふくらんで内股も女らしくなり始めた人形。14歳くらいの、ふくらみかけの胸とやわらかそうな腰つき、成熟し始めたふともも。16歳くらいの若々しい純朴な肉体。17歳くらいのピチピチハリがあって胸もしっかりふくらんでいる若娘の人形。20歳くらいのすっかり大人になった成熟人形。25歳くらいの熟練した女の色香を醸し出している人形。27歳くらいの、やや衰えはしたがしっかり女盛りを体現している人形。30にさしかかって肌のおとろえが出始めているが、まだまだ若く妖艶な色香を醸し出している人形。

 こうして並んでいると、女性の半生の肉体的な成長と成熟のプロセスが一目で分かるなあ。人間の体ってよくよく不思議だ。

 またフラッシュバックが始まった。僕は光に身を任せる。

 またひとり、少年が怪電波に誘い込まれ、エレベーターでこの地下の霊安室にやってきた。怪電波で呼び寄せられた男の子も、ここに来ると正気に戻るらしい。全裸の少年は、この薄暗い雰囲気に恐怖し、再びエレベーターに戻って上に上がろうとした。だが、エレベーターは作動せず、決して地上に上がることができない。

 少し慣れた男の子は、それでも機械の促すままに「廊下」行きのエレベーターに乗ろうとはしなかった。霊安室を彷徨い、この妙な人形のあるところまで来る。

 「…。」男の子は、あたりをきょろきょろする。僕の姿は彼には見られない。それもそのはず、実際にかつて起こった出来事を僕が映画のように見ているというだけなのだから。

 「…。」誰もいないことを確認すると、少年は、10歳くらいの女の子の人形に手を伸ばした。その華奢な身体、プニプニの内股、吸いつくような肌触りに興味を覚えている。この少年にも、すでにセックスの魔の手が伸びているのだろうか。だとすると、その快楽と恐怖の両方が、その幼い肉体に刻みつけられているはずである。

 少年は思い出したように顔を上気させ、小さなペニスをむくむくと大きくしていった。彼にとって、「女」は、自分のチンチンをくすぐったくしてくれる存在と、脳に刻まれてしまっているのだろう。

 「はっ…あっ・・・」少年は内股になり、全裸の女の子の人形の、精巧に作られた股間のワレメを凝視しながら、ペニスを自分の手でまさぐった。まだまだオナニーの仕方も知らぬ、幼いペニスは、彼の指先で包皮を包まれ、もみゅもみゅと揉みしだかれて、赤く充血していく。彼の右手の指先がせわしなく動き、皮をつまんだままその奥の亀頭を刺激しているんだ。

 「ん!」上気した少年がイッた。精液は出ず、ペニスが脈打っただけであった。

 また少年は辺りを見回す。誰もいないことを確認すると、彼の行動はエスカレートしていった。

 14歳くらいの美少女の人形の上に乗り、全身をズリズリと前後させて、とくに股間をやわらかい女の肌に押しつけこすりつけているのだ。足、股間、お腹にペニスがこすれると、やわらかい圧迫が彼の股間をくすぐったくしてくれる。少年は年上人形に上からしがみつきながら、その肌ざわりを愉しみつつ腰を振ってペニスをこすりつけ続けた。

 25歳くらいの人形をうつぶせにすると、その形のいいヒップの上に自分の腰を載せ、お尻のやわらかさを堪能しながら腰を上下させ、やがてまた絶頂を迎えるのだった。

 なるほど…この人形の意味が分かった。

 恐怖する年端のゆかぬ少年に、女体に興味を抱かせるために置かれた人形なんだ。いわばオナニー用の人形というわけだ。ただ、ダッチワイフではなく、本番挿入は上の連中に大してしてもらうために、わざとオンナに穴を開けていないということだ。

 ただ、その肌ざわり、きめの細かさとみずみずしさ、やわらかい圧迫、胸のふくらみなどは精巧にできていて、女体の良さを刻みつけるに十分な魅力を備えているというわけである。これによって、セックスの快楽を思い出し、自分から「廊下」行きのエレベーターに向かうように仕向けているのである。

 フラッシュバックが終わる。他の男のオナニーを見るのは、相手が子供でもけっこう恥ずかしいものだ。もちろん、それを見せるというのはよほどの変態でもない限りあまり気持ちの良いものではない。それでもあえて僕にこれを見せようというのは、その男子の霊魂の無念を伝えたかったからにほかならない。

 その気持ちは受け止めないとな。

 部屋の隅に扉があるのを発見した。霊安室の奥にまだ何かあるというのか。僕は罠の可能性を想定して最大限の警戒をしつつ、ドアに近づき、おそるおそる開けて中に入ってみた。

 「こっ! これは!!」

 そこにあったのは、計器やパネルなど、物々しい機械類の数々と、パラボラアンテナのような大きな装置、ベッド、そして転送装置のような巨大なカプセルだった。

 なにかの研究施設だろうか。

 「…!」スイッチが入っている。まだ稼働しているんだ。一体何のための機械なのだろう。これを破壊すればゾンビも鎮まったりして。

 小さなテーブルの上に、メモ書きがある。拾ってみると、何か文字が書いてあった。「赤のボタンを押し、カプセルに乗り、カプセル内の赤ボタンを押すこと。」

 「・・・。」罠かも知れない。僕はかなり躊躇した。が、他のスイッチやレバーを操作してみても何も反応はしないし、これをやるしかなさそうだ。

 僕はメモ書きどおり、機械の赤ボタンを押し、カプセルに入る。カプセルには「とめった」のいやあな経験があるからどうしても好きにはなれない。

 カプセル内には赤と青と緑のボタンがある。僕は赤いボタンを押した。

 するとカプセルが閉じ、頭に直接電流が流れるような軽いショックを感じた!

 「・・・これは後世に残すメッセージです。」頭の中に声が響く。「これを聞いているということは、あなたはこの杉戸村の謎を解いているということでしょう。私には謎は分かりませんが、この病院で起こったことを残します。どうか少しでも役立ててください。私の理性が残っているうちに。」

 これは…この機械を操作していた女性、研究員か何かか。病院の関係者で機械に強いものがメッセージを残したのだ。

 「私は谷崎ともか。この病院の電波療法士です。先端医療のパイオニアとなるかも知れない新技術として、電波を用いた医療の可能性を探る研究をしています。私がここに赴任して、世間に認められていない電波療法の研究を積み重ねることにしたのは、院長とのご縁のたまものですが、そのことが大変な悲劇を生み出してしまいました。このメッセージは、私の罪過の告白でもあります。」

 頭の中のメッセージとともに、映像がくっきり脳裏に浮かび上がる。

 谷崎さんは電波で人を治療する研究をするためにここに来た。大学ではできないことだったので、院長の取り計らいでここでの研究ができるようになったらしい。そして、杉戸村の例の呪いを身に受けるハメになってしまった経緯が映像つきで紹介されていた。その内容は僕も知っているところだ。

 「私は性欲に負けるまいと必死でした。院長に会えば襲ってしまうことが分かっていたので、彼に見つからぬよう、彼が病院の入り口のドアにカギをかけ、立ち去るのを見届けてから、ひそかにエレベーターから霊安室の地下実験室に移動しました。」

 ああ…やっぱりあの黒い人影は谷崎ともかであったか。

 「ある種の電波は人の脳に作用し、そして性欲は脳によって司られるものであるから、人々がセックスに狂ったところである周波数の電波を当てれば、性欲も消えるのではないか、そう考え、性欲を抑える周波数を必死で探しました。地上の女性たちに電波を当てては失敗し、周波数を微妙に変えて同じ実験をくり返しました。そしてまた失敗するというくり返しでした。」

 「…。」

 「私は患者たちの苦しみを救うため、また、私自身の性欲を脳科学で押さえつけるために、電波、放射線、薬、電極など、ありとあらゆるものを試しました。幸い、私自身の性欲は、かなりの程度まで抑えることができました。私はもともとセックスに興味はなく、その快楽も知らず、研究に打ち込むことが喜びでしたので、体質的にも性的なものが苦手だったため、効果が出やすかったのでしょう。しかし、すでにセックスの虜となっていた人にたいしては、そうはいきませんでした。」

 映像がだんだん過酷なものになっていく。目を覆いたくなるような実験の数々。それはもはや、狂気としか形容できないものであった。

 「背骨を折って絶命する者、死の間際にあったはずなのに全身の筋肉をふり絞って歩き出し、それでも出口にたどり着けずに絶命する者、なんとかたどり着けても扉が閉ざされ出られないことが分かり落胆したショックで死ぬ者。半狂乱になりながら、骨粗鬆症にもかかわらず悶え苦しみ転げ回って、全身複雑骨折で絶命した者。そんな者たちは、死後幽霊となってさまよい歩くようになりました。私は、なんとかひとりでも多くの女性を救いたいと、なりふり構わず、手段を選ばず、狂った実験をくり返しました。しかし、大脳新皮質をえぐってもゾンビのようにセックスを求めて歩き回る女を見て、心底体が震えたものです。」

 そう・・・

 谷崎さんは、閉じ込められた女たちを助けるために、狂気の実験をくり返したんだ。強烈な電波を浴びせ続け、ロボトミー顔負けの手術を行い、危険な薬物を大量に注入し…。

 その目的は、彼女たちに安らかな死を与えること、今日でいう尊厳死に近い考え方だろうか。性欲を鎮めるありとあらゆる手を尽くそうとしたんだ。

 しかし、魔族の呪い相手に、人間の科学など通用しない。そして、怪電波の大量放射により、彼女たちは半幽霊半ゾンビのような存在になってしまった。もはや生物とは言えなくなってしまい、彼女はもう、手の施しようがなくなってしまったのだ。

 「幽霊は科学の対極に位置するものですが、呪術には呪術。同じメカニズムを発する装置を制作し、そこから怨みや呪いのエネルギー電波を放出させ、ナースステーションに設置しました。一部の幽霊には効果がなかったのですが、実験前に絶命した患者の霊や、外で絶命し色情霊となった看護婦たちの霊をそこに呼び寄せ、とどめておくことには成功しました。この強力版があれば、色情霊たちを一カ所に集め、悪さをしないようにしておくことはできるかも知れません。」

 …! あのナースステーションの水晶も谷崎さんの装置だったのか。

 「私の性欲には一定の効果をもたらした電波周波数ですが、完璧というわけにはいきませんでした。ただ効果を鈍らせ、遅らせていたにすぎませんでした。私は、日に日にセックスの虜になっていく自分、性欲に苛まれる自分をはっきりと自覚しています。毎日電波放射を強め、体への悪影響も出始めています。そうやってやっと理性を保っていられるのですが、いつかは、毒電波の影響で死ぬか、性欲の虜となって彼女たちと同じ運命をたどることになるでしょう。その前に、この病院で起こった一部始終を、誰かに伝えるべく記録しておこうと思った次第です。」

 その記録を、今僕が目にし、耳にしているわけだ。

 「もしあなたに科学の知識や技術があるなら、どうか装置を完成させ、強め、色情霊を一カ所にとどめる強力な装置を作ってください。それができないとしても、私の作った装置に神聖な何かをあて、パワーを強めてください。それだけでも、きっとあなたの役に立つはずです。」

 神聖な何か、だと?

 「どうか、この杉戸村の謎を解き、犠牲者を増やさぬよう、あなたが犠牲にならぬよう、切に願っています。なお、この施設にある機械は半永久的に稼働します。決して壊すことのないようお願いいたします。」

 …。

 通信はそこで途絶えた。彼女がこのあとどうなったか、僕には分からない。

 僕はカプセルを出た。

 外へ出るエレベーター、には向かわない。院長室直通のエレベーターに乗り、僕は元の道に戻っていった。

 ナースステーションにたどり着く。そこにはナースと患者の霊がたむろしていて、僕にまた群がってきた。神聖な何かと聞いて、僕はあるものを思い出していた。

 「ヴァジュラ!」僕は二股の道具を取り出し、幽霊たちにぶつける。すると幽霊どもは、ヴァジュラを恐れて数歩後ずさりした。それでも果敢に飛びついてくる娘もいたので、抱きつかれる前にヴァジュラをあてがってやる。

 バシュウ!

 衝撃が幽霊に走り、吹き飛ばされた。やっぱり霊的なものに一定のダメージを与える道具だったんだ。これを駆使して色情霊をはねのけることができそうだ。

 ちなみに、触れたとたんに理性を失うのも、谷崎さんの電波の影響のようだ。ゾンビ娘の吐き出した体液に魅了効果があるのは、彼女たちに注入した薬剤に魔力が混ざって生み出された効果である。

 いずれにしても、機械を破壊できない以上、触れられる前に吹き飛ばすしかない。

 が、ヴァジュラを手にした僕を恐れた幽霊たちは、体を見せて誘惑はするが、恐れてそれ以上なかなか近づいてこなかった。

 中央の水晶に近づく。これに神聖な何かを当てろと谷崎さんは言っていたな。よし、やってみるか。

 僕はドス黒い水晶にヴァジュラをあてがってみた。

 ドバシュアアアア!!!

 ものすごい煙とともに、腕に衝撃が走る。何かが中和された感覚。いや、神聖なものに、何かが吸収されたような充実感があった。

 水晶の禍々しい色は輝きを取り戻し、次の瞬間粉々に崩れ落ちてしまった。

 幽霊たちが飛びかかってくる。自分を縛っていた装置がなくなり、自信が出てきたのだろう。

 「ヴァジュラ!」そのうちの1人にヴァジュラをあてがう。

 ドゴオオオオ!

 さっきとは比べものにならない衝撃! 幽霊は吹き飛ばされもせず、砕けて消えてしまった。

 「これは・・・すげえ。」ヴァジュラが一気にパワーアップしていた。

 恐れをなした色情霊たちは一目散に逃げていった。

 こんな強力な武器があれば、民家でも施設でもかなり探索しやすくなるはずだな。

 よし、このまま外に出て、あの民家を探索しよう。僕は廃病院を脱出し、裏手の民家をめざして歩き始めた。


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