第25話 修行、そして新たなる闘い!
「…。」
僕は目覚めた。
天井が見える。
いつもどおりの、自分の部屋だ。
「こおおおお…」あおむけになりながら、佐伯仙術の呼吸を始める。「ヴァジュラ!」バチバチバチ! 体が黄金色になり、強烈な神通力が全身にまとわりつく。夢精した分の弱体化は一瞬にして吹き飛んでしまった。
夢での機転によって、僕は自力で、ヴァジュラの力を身にまとうことができた。もはや佐伯仙術とは異質な、性的な神通力ではない、魔そのものを滅する究極の力だ。もしかしたら、この力は常任天国軍団にさえ通用するのかもしれない。
「…。」だが、ヴァジュラの力が出せるのは、ほんの一瞬だけのようだ。
金色の光はすぐに消えてなくなり、普通の佐伯仙術の神通力に戻ってしまう。もっとしっかり修行しないと、この力を本当に自分のものにすることはできない。自分の自由自在で扱えるようにならなければ、本当に自分の力として身につけたとは言い難い。まだまだ修行が必要だ。
そんなことより。
「みさ…」
みさの顔を、全身を思い出し、僕は胸が張り裂けそうになった。「私のこと、忘れないで。」そんな彼女のかすれるような声が、ずっと耳の奥に残っている。
僕の中ではもう、なにがなんでも、新世界は食い止めるという覚悟ができた。だがそれは、運命的に、みさと永遠に別れることを意味していた。そのこともひっくるめて、僕は覚悟を決めたはずなのだ。
でも、もしかしたら、なにか方法があるかもしれない。
その希望だけは捨てないでいる。
新世界を食い止めた先に、それでもみさと会える。そんな方法が、どこかにあるのではないか。
その方法を見いだすことができれば、袋小路は打開される。
みさ、待っていてくれ。僕はきっと、新世界を食い止めながら、その方法を必ず見つけ出してみせる。
「よし!」僕は飛び起き、着替え、フザケンジャー本部に朝の修行をしに行くのだった。
######
ヘルサたん総統:「くっくくく…見つけたぞ。フザケンジャーの弱点、否、神谷達郎の弱点を!」
カリギューラ女王(久々の登場♪):「なにっ! 本当か!」
ヘルサたん総統:「ええ。決定的な弱点を、ね。そして、あの男が”デーモンの息子”である決定的な証拠も掴んだわ。」
フローリア将軍:「着床もしていないのに、ですか?」
デーモンの息子。その精は普通の男性の数千倍は濃く、その男を魔界で飼うことのできた魔族は、すぐにでも魔王の座を勝ち取ることができるほど強大な魔力を得ることができる。魔族であれば誰であれ、喉から手が出るほど欲しい男なのだ。
その男がデーモンの息子であるかどうかが分かるためには、セックスをし、相手の子宮に子種を着床させる必要がある。着床の瞬間に放出される魔の信号が魔界に伝わり、その男の素性が魔族にばれてしまう。逆に、着床しなければ、その男がデーモンの息子かどうかは分からないというわけだ。
ポッティは、デーモンの息子が魔族の手に落ちないよう、彼の運命を操作し、決して女性と結ばれないように仕向けることで、彼の身を守ってきた。
神谷達郎は、デーモンの息子だ。ポッティは彼から女性を遠ざけ、決して誰ともつきあえない、誰とも結婚できない状態にしていて、魔族にばれないように腐心してきたのである。
ヘルサたん総統:「ええ。あの男は間違いなくデーモンの息子よ。これまで私は、何人ものデーモンの息子を飼ってきた。魔王になれたのはそのおかげじゃあないけど、力は格段に増したのも間違いないこと。その私が見いだした、デーモンの息子に共通する特徴を、神谷もちゃあんと持っているの。」
カリギューラ女王:「なんと! そんな特徴があったのか!」
ちなみにカリギューラは、元が天界のトップ、神に属する存在だったため、魔界に堕ちてからも強大なパワーをすでに持っており、デーモンの息子を飼わずとも魔王の名を恣にした。彼女はデーモンの息子を飼った経験がない。
ヘルサたん総統:「デーモンの息子は、“恋”に弱いんだ。極端なまでに、ね。」
カリギューラ女王:「なんだと!?」
ヘルサたん総統:「より正確には、誰かから恋されること、誰かに愛され求められることに弱いという特質があるわ。異常としか思えないくらいに、女に恋され、迫られることに過剰な反応を示すの。」
フローリア将軍:「し、しかし…それだけでは、デーモンの息子という決定的な手がかりにはなりませぬ。いくらデーモンの息子が、ポッティの操作によって、誰からも愛されない状態になったからと言っても、万が一愛されてメロメロになりやすいのは当たり前、しかし…」
ヘルサたん総統:「ええ。それだけというなら、デーモンの息子でないとしても、惚れられることに弱い男なんてゴマンといるわ。判別はつかないでしょうね。デーモンの息子でなくても愛されない男なんていくらでもいるし、そういう男が誰かから好かれたら、ころりと傾いてしまう、つまり恋されることには弱い。そんな大勢の男たちの中から、デーモンの息子だけを捜し出すのは無理ね。判別はやっぱり、着床を待つしかない。」
カリギューラ女王:「それでは、神谷がデーモンの息子という決定的な証拠にはならぬではないか。」
ヘルサたん総統:「いいえ。あの男はデーモンの息子よ。大勢の中からデーモンの息子を見つけるのは無理だけど、”こいつ”と決めて精査し、その男が過剰な反応を示せば、間違いなくデーモンの息子と分かるわ。それはね、あの男が愛されたときの異常な心拍数、惚れられたその相手をみんな受け入れてしまおうとする混乱した愛欲に現れる。サラが神谷に惚れて迫ったときの神谷の反応。そして、淫夢の中で案内人に迫られたときの神谷の反応。」
フローリア将軍:「たしか、みさ、とか言いましたか。」
ヘルサたん総統:「そうね。その女に惚れられたときに、神谷は今までにない過剰な反応を示した。じゃあ、あの男、サラとみさのどっちに傾くと思う?」
カリギューラ女王:「んむ? なんの話じゃ?」
ヘルサたん総統:「神谷は、サラとみさに愛され告白されている。どっちを選ぶ?」
フローリア将軍:「今までの流れで言えばみさではないですか。それ以前は好きあっていたようですし。」
ヘルサたん総統:「いいえ。彼はどちらも選べない。というより、悪気なく両方を選んでしまう男よ。」
カリギューラ女王:「なんと!」
フローリア将軍:「サイテー…」
ヘルサたん総統:「そうじゃないんだよ。それがデーモンの息子の特質。愛されたら、その愛のすべてに答えようとしてしまうのだ。これはもう、本能みたいなものよ。倫理とか人間の世界のルールとかを飛び越えてしまうの。ポッティはそういう男をすべての女性から遠ざけることで、デーモンの息子たちが浮気者、反社会的存在というそしりを受けることも防いでいたってワケね…ポッティ自身が気づいていたかどうかは別として。」
カリギューラ女王:「そ、そうだったのか…」
フローリア将軍:「そういう本能なら、”こいつはもしかしてデーモンの息子では?”と思って追跡すれば、惚れられることに弱い証拠を掴むだけで…多くの魔王を誕生させることが…」
ヘルサたん総統:「それは無理ね。ポッティが目を光らせていて、どの女もその男を愛することはない。魔族の娘を差し向けようものなら必ずポッティが動く。神谷はあくまでフザケンジャーとして、多くの女や幽霊や化け物と、リアルでも現実でもまみえる機会があったから分かっただけであって、ほかのデーモンの息子を、恋に弱いという弱点だけを手がかりに見つけ出すのは不可能だよ。」
フローリア将軍:「そ、そうですね…」
ヘルサたん総統:「今や我々にとって、デーモンの息子などどうでもよい存在。そんなスケールをはるかに超える、全世界の侵略征服をもくろむ我々からすれば、デーモンの息子など小さい、小さい。そんなことよりも、デーモンの息子の特質を具えている神谷達郎の攻略法が見つかったことを喜ぶべきよ。」
カリギューラ女王:「して、その攻略法とは?」
ヘルサたん総統:「くっくっく…コレよ!!」
フローリア将軍:「こ、これは!?」
ヘルサたん総統:「名付けてGGスパークフィンガー!!」
カリギューラ女王:「GGスパークフィンガー!?」
ヘルサたん総統:「そう。これを戦闘員たちに使わせれば、神谷も、変身したフザケンジャーも、佐伯仙術は使えない。もちろん、最近習得したようだけど、あのおかしな金色の光の力も使えなくなる。そうすれば、我らが圧倒的に有利になるは必定。神谷を弱体化させる決定的な装置。ポッティの力をもってしても、デーモンの息子の特質である恋されることへの弱さは、決して克服できないから、GGスパークフィンガーは決して破られない。つまり、このアイテムの力は神谷攻略に絶大なる効果をもたらし、決して克服することができない決定的な兵器と言えるわけ。」
フローリア将軍:「す、すばらしい!」
ヘルサたん総統:「早速量産に入りたいんだけど、大量のパワーが必要なのよね。カリギューラ女王、装置への力はどのくらい溜まった?」
カリギューラ女王:「おお、それなのだが、もう99%は溜まっておるぞよ。あとはおぬしが魂を込めれば、いつでも新怪人が誕生する!」
ヘルサたん総統:「そう。じゃあ、残念だけど、新怪人は今回はなしよ。」
カリギューラ女王:「なんじゃと!?」
ヘルサたん総統:「そのエネルギー、全部このGGスパークフィンガーの量産のために使わせてもらうわ。新怪人の生成よりもずっと威力があるからね。コレでフザケンジャーに決定的なダメージを与えてから、新怪人はいくらでも量産すればよい。」
カリギューラ女王:「ふむ。その通りじゃな。よかろう、存分に使うがよい。」
ヘルサたん総統:「ありがとう。一日もあれば量産、というより無限増殖の状態に持ち込めるから、すぐに終わるわ。…早速準備を始めましょう。」
######
早朝。
フザケンジャー本部こと『キノコぐんぐん伝説』に、二人の男の影がうっすらと揺らめく。まだ日が昇る前の、しんと肌寒い時間帯だ。
マスター:「おはよう。」
佐伯:「おはようございます。」
マスター:「じゃあ早速、修行を始めようか。」
佐伯:「よろしくお願いします。」
マスターと佐伯は、早朝のこの時間に、これから毎日、修行をすることになっていた。力の差や技術の差、というより、なにか決定的案ものの差を見せつけられた佐伯長官は、あらためてマスターに教えを請い、さらなる高みを目指して修行をすることになったのである。
佐伯長官は、佐伯仙術を編み出した元祖である。すでにその道は極め、マスターをもはるかに超える神通力を自由自在に扱うことができている。
しかし、なにかが決定的に欠けているために、どうあってもマスターに傷ひとつつけることができず、あっさり敗北してしまうのだ。その欠けているものを掴まなければ、長官としての役割は果たしきれないと判断したのである。
佐伯:「で、いったいどんな修行を?」
マスター:「ん? 店を手伝ってもらうよ?」
佐伯:「はあ!? それが修行かよ!」
座禅とか荒行とかをイメージしていた佐伯にとって、店の手伝いとは意外だったし、あまりにも心外だった。もしかして、店の人手を補うために、ただ働きをさせることが目的だったんじゃないか?
マスター:「不服かね?」
佐伯:「不服です。店で料理したり下ごしらえしたりすることのなにが修行なのですか。」
マスター:「やれやれ。それが理解できないから君は、どうしても私には勝てんのだよ。」
佐伯:「くっ…」
マスター:「まずは掃除からだ。バケツとぞうきんを持ってきなさい。」
佐伯:「えっ!? 掃除機は? モップは?」
マスター:「バケツと、ぞうきんを、もってこい。」
佐伯:「う…わ、わかりました…」
佐伯は言われたとおりに、バケツとぞうきんを持ってきて、冷たい水をくみ、フロアと厨房のぞうきんがけを始めた。
手が冷たい。あっという間に真っ赤になる。かがむために体への負担も大きい。モップも掃除機も使わないため、ぞうきんはあっという間にゴミだらけになる。それをバケツですすいで拭きなおす。あっという間にバケツの水も真っ黒になってしまう。そのため、何度も何度もバケツの水を取り替えなければならない。
マスター:「遅い遅い! そんなんじゃあ、下ごしらえの時間がなくなるどころか、開店にも間に合わんぞ。客が来はじめてもぞうきんがけし続けるつもりかね?」
佐伯:「うぐぐ! わかりましたあ!」佐伯はさらにピッチを上げ、全身の筋肉をフル稼働させてぞうきんがけにいそしむ。
小一時間かけ、すべてのぞうきんがけが終わった。
マスター:「馬鹿者ー! そんなに時間をかけておきながら、なんだその雑なぞうきんがけは! ほら! ここにゴミがある! ここが黒ずんでおる! ここにほこりが溜まっている! この奥のところにぞうきんがかかっておらず乾いている! なにをやってるんだ!」
佐伯:「ぐっ…てめえ…」
マスター:「そんな目はまともに掃除ができるようになってから言え。もういい。残りは私がやっておくから、君はフライパンと卵を用意しておけ。」
佐伯:「はい…」
佐伯が棚からフライパンを取り出す。
マスター:「ばっかものーーー!!!」
佐伯:「ひっ!」
マスター:「ぞうきんがけした手を洗わずにフライパンを握る奴があるか! だからお前はダメなんだ! ちゃんと手を洗い、そのフライパンも洗っておけ!」
佐伯:「す、済みません!」佐伯は言われたとおりにする。
マスター:「よし、準備できたな。」
佐伯:「はい。」
マスター:「ではこれから、卵料理を覚えてもらう。」
佐伯:「はあ?」
マスター:「オムレツを作って見ろ。」
佐伯:「おむれつぅ!?」
マスター:「早くしろよ。」
佐伯:「うぬぬ…わかりましたよ!」
佐伯は納得がいかないでいた。なんで神通力の修行に来たのに、料理させられているんだ。
一応佐伯も修行をした身。一人で暮らすことも長かったので、それなりに料理はできた。卵焼きくらいなら簡単に作れる。フライパンを温め、バターをしき、そこに溶き卵を入れ、フライパンを揺らしながら箸でかき混ぜ、よく攪拌して、半熟の状態になってから、取っ手のところを叩いてしっかり寄せてまとめる。みるみるうちに、形のよい、おいしそうなオムレツができた。
佐伯:「どうだ。俺をナメんなよ。オムレツなんて簡単…あっ!」
皿に盛られたオムレツを、マスターはすぐにゴミ箱に捨ててしまった。
マスター:「卵がもったいないではないか。なにをやっとるんだ。」
佐伯:「はあ!? てめえが捨てたんだろうが! いい加減にしろ!」
マスター:「試食に足るオムレツを作れないのは君の落ち度だ。それともなにかね? 君は食材に調理途中に小便を振りかけて作った料理を、目の前で捨てられて腹が立つのかね?」
佐伯:「おえ。なんてこと言いやがる。ションベンなんてオムレツにかけてねえだろ!」
マスター:「同じことだよ。君のオムレツには、君の小便が混じっておる。そんなもの、気持ちが悪くて、試食する気にはなれないね。」
佐伯:「ションベンなんて入れてねえ!」
マスター:「もう一度作りなさい。」
佐伯:「くっそ!」
佐伯はもう一度オムレツ作りを始めた。なにかがマスターに気に入らなかったんだ。小便が混じっているとまで言われるということは、調味料になにか問題があったのか。作り方がいけなかったのか。
オムレツは西洋料理の基本と言われる。西洋料理の技術として必要な素養のすべてが、この卵焼きにはすべて含まれているのだ。佐伯の作ったものには、プロの目から見て、なにかが決定的に足りなかったのだ。
今度は慎重に、知識をフル稼働して、丁寧にオムレツ作りに専念した。手順は正しい。タイミングも申し分ない。さっきの掃除の時に、雑だと言われたな。作り方が雑だったのだろう。今度は大丈夫なはずだ。
佐伯:「今度はどうだ!」
マスターは無言でオムレツを捨てた。
佐伯:「てめえ! 一体なにが足りねえってんだ!」
マスター:「自分で考えろ。もう一度。」
佐伯:「お、おのれ…」
技術的には申し分がない。味もたしかなはずだ。しかし、どうしてもマスターに試食すらしてもらえない。だんだん佐伯は悔しさに震えるようになっていった。ほとんど涙目である。何度やり直しても、結果は同じだった。
マスター:「あーあ。いくつ卵を無駄にすれば気が済むのかね。もういい。今日は終わりだ。」
佐伯:「うう…」
マスター:「本部司令室で、今朝のことをよく振り返ってみるんだな。そこでなにも気づくことができないんだったら、長官なんて辞めちまえ。」
佐伯:「あ、ありがとうございました…」
佐伯はがっくりと肩を落として、奥にある司令室に入っていった。
マスター:「…佐伯君、君なら、絶対に気がつくはずなんだ。絶対に…」マスターは、ゴミ箱いっぱいに溜まったオムレツを見ながら、静かにつぶやいた。
僕:「おはようございます!」
そこへ僕がやってくる。
マスター:「おっ! 神谷君か。おはよう。 む? 今日は淫夢にやられていないみたいだが?」
僕:「マスター、見てください、僕、自分で淫夢の弱体化をはじき飛ばせたんですよ。」
マスター:「ほお!? すごいじゃあないか。どうやったのかね?」
僕:「こうです。こおおお…ヴァジュラ!」
マスター:「むっ!?」
バリバリバリ! 一瞬僕の体が金色に光り、すぐに普通の神通力に戻る。
僕:「魔を滅する究極の力ですよ。まだ一瞬しか出せないですが、もっともっと修行して、いつかきっと、自由自在に出せるようになります!」
マスター:「そ、そうかね…それは…ま、まあ、がんばりたまえ。」
佐伯:「か、神谷…いまのは…」
僕:「あ、長官、おはようございます。」
僕が来たのを察知した佐伯長官が出てきて、愕然とした表情を浮かべている。
佐伯:「そ、そんな…」長官は後ずさりして、再び司令室に戻ってしまった。
僕:「い、一体どうしたんです、みんな…」
ポッティ:「ふむ…退魔金剛印じゃな。」
僕:「あ、ポッティ!」
ポッティ:「おぬし、それをどこで身につけた?」
僕:「えっと、初めは杉戸村淫夢の中で拾ったヴァジュラが身にしみて、一時期効果を失ってたんだけど、昨日の新世界淫夢で取り戻したんだ。一瞬だけどね。」
ポッティ:「なるほど。そうだとすると、杉戸村伝説の謎のひとつを解決する手がかりになるかも知れんな。」
僕:「どういうことですか?」
ポッティ:「なぜ、魔族が絡む大規模な乱交逆レイプ事件が、国中に広がることなく、ひとつの小さな村落だけで、しかもたったの10日で終息してしまったのか。その謎が解けるかも知れん。」
マスター:「退魔金剛印は、まさに魔を滅することだけを目的に編み出された、秘呪の中の秘呪、ほとんど禁呪に近い特別な技なのだ。その力は、佐伯仙術の力を遙かに上回る。これはどうあっても自力で習得することは不可能で、千年以上前には一子相伝で秘密裏に伝授されていたらしいが、それも廃れ、現在も、江戸時代にも、この禁呪を用いることができた者はいない。」
ポッティ:「…じゃが、杉戸村の魔族侵攻を10日で食い止めた者がもしおったとすれば、話のつじつまが合うのだ。その秘法を用いることができる者が杉戸村に現れるなら、瞬時にして淫魔どもを壊滅させ、操られた女たちから魔性を取り除くことができる。素性は分からないが、そういう秘法を用いた僧侶が杉戸村に現れたとすれば、ヨウコヒメの野望は打ち砕かれても不思議ではない。」
マスター:「問題は、退魔金剛印がすでにその時期には廃れていて、普通の神通力だけでは淫魔どもの侵攻を食い止めることができず、どうしても10日では終息できないし、国中に広がってしまってもおかしくはなかったということだ。だから、退魔金剛印説は初めから否定されていた。しかし…」
ポッティ:「神谷君が杉戸村淫夢でヴァジュラを拾ったとすれば、退魔金剛印は廃れていなかったことになる。そのヴァジュラの力が実際に君の体に染みつき始めているのだからな。どうやらなにかで中和され、パワーはずいぶん衰えているようだが、時とともに取り戻すことができるかも知れない。」
僕:「それにしても、一体誰が…」
ポッティ:「とにかく、その謎は引き続き追いかけることにしよう。」
バタン。沈痛な面持ちで、佐伯長官が出てきた。話は立ち聞きしていたようだ。
マスター:「神谷が自分の力をあっさり超えたことがショックだったかね?」
佐伯:「ええ…正直。」
マスター:「だからダメなんだ。もっとしっかり自己を見つめ直せ。」
佐伯:「はい…」
僕:「長官…」
マスター:「とにかく食事にしよう。今朝は私が作る。」
しばらくして、トーストとオムレツのセットが出てきた。そこへちょうど、並木さんもやってきた。
僕:「いただきます! …ああ、おいしいや!」
並木:「卵のふんわり具合と半熟加減と、適度な塩味が…絶品。さすがにプロね。」
佐伯:「…。」
ポッティ:「なんでワシだけ、またドッグフードなのかね?」
佐伯:「…なにが、一体なにが違うのだ。俺の作ったものとほとんど同じはずなのに…」
ポッティ:「なんでワシだけ…」
僕:「あ、マスター、トーストおかわりできます?」
マスター:「おやすいご用だ。」
佐伯:「…。」
並木:「どうしたの佐伯長官。ぜんぜん進んでないじゃない。」
マスター:「放っておきなさい。」
並木:「…?」
ポッティ:「なんでドッグフード…」
僕:「あっはは、そんなこと言ってしっかり食べてるじゃんポッティ!」
ポッティ:「…香料の混ざり具合が丁度良くてな。」
そんなこんなで朝食が終わる。僕は修行を求めたが、マスターはまだ認めてくれなかった。そんなことより学校に行けというのである。仕方なく、僕は準備をして、学校に向かうのだった。
僕:「ん?」
軽い違和感を感じる。学校に着くと、なにかがおかしいことに気づいた。
男子の数が少なくないか?
「あー。とても残念なお知らせだ。青木はやっぱり行方不明。近藤はインフルエンザ。御船はノロウイルス。香山は野生のライオンに襲われて入院。高橋は野生の猫に金玉を噛まれて入院。小倉は野生のハムスターに襲われて意識不明の重体。岡本は…」
ホームルームで担任が次々と欠席の情報を漏らし始める。
僕:「あのー先生、ツッコミどころ満載なんですけど。」
「ま。今日は欠席だらけだってことだ。チトさみしいが、普通に授業はやるぞ。」
そう、男子の半分以上が、何らかの病気や怪我やトラブルを抱えて学校を休んでいるのである。てかここ日本だよなあ。なんで野生のライオンがいるんだ。なんだよ野生の猫って。野良猫とは違うのか? ハムスターに至っては完全に意味不明だ。カー●の手から生えた子リスちゃんみたいに凶暴なのか。
というわけで、クラスのほとんどが女子、僕を含めて男子はたった4人という異常な状態になった。
僕:「…お前がなにかしたのか?」隣にいるなんじゃ虫に聞いてみる。
なんじゃ虫:「知らないよ。本当ネ。」なんじゃ虫は素っ気なく答えた。彼女も不思議がっている様子で、その表情からはウソをついているそぶりは伺えない。
魔族の陰謀なのだろうか。しかし、偵察役であるなんじゃ虫が知らないということは、奴らは関係ないのだろうか。不思議なこともあるもんだ。
「あー、神谷。お前たしか図書委員だったよな。」
僕:「え、あ…」
そう言えばそんな設定だったな。ずっと前だったから、すっかり忘れてたよ。たしか僕以外はみんな高校生女子なんだよなあ。
「今日は荷物運び、よろしく頼んだぞ。」
僕:「分かりました。」今度は素直に答えることができた。美少女に囲まれて委員会活動、というと聞こえはいいが、ただの肉体労働だ。以前はイヤイヤやっていたが、これも修行だと割り切れば、喜び勇んで快諾することができた。
放課後、僕はいわれたとおり図書室に行き、重い本の束を何度も運んだ。女の子たちにお世辞を言われながら、密かに佐伯仙術の呼吸法を用い、てきぱきと本を運んでいく。もう顔も名前も分からないかわいらしい女の子たちに囲まれても、僕は黙々と作業を続けていくだけであった。作者でさえも名前とか設定とかすっかり忘れてるんだからしょうがないじゃん。
作業が終わると、辺りはすっかり暗くなっていた。図書室から出て、帰る支度をしている。
廊下でも教室でも、女の子たちがキャイキャイ騒いでいる。男子の多くはもう帰ってしまったようだ。
なんじゃ虫:「タツロー!」
僕:「なんだお前、まさかずっと待ってたのか? 言っておくが、一緒には帰らんぞ。」
なんじゃ虫:「違うよ! 待っていたのは本当だけど、一緒に帰るのが目的じゃないネ。なんか、学校がヘンだYO!」
僕:「ヘンなのはお前の頭だ。」
なんじゃ虫:「気づかない? 学校が女の子だらけだよ!」
僕:「…。いつもこうなんじゃないの?」
なんじゃ虫:「そんなわけないじゃない! 言っておくけど、ワタシはなにも聞かされていないし、なにもしてないYO!」
僕:「言われてみれば…」
放課後の学校は女の子たちであふれかえっている。男子は、緊急入院などで欠席か、さもなくば放課後になったらまっすぐ帰宅してしまい、残っているのは女子ばかり。たしかにそれは異常な光景でもあった。偶然にしてはできすぎている。
制服の娘、体操着にブルマの娘、きわどいスパッツ姿の娘。それだけなら、居残り勉強や部活動などで女の子たちが残っていることは不思議でもない。
だが、そこに水着姿の女の子や、レオタードの娘や、もう少しで乳房が見えてしまいそうなほど着衣の乱れた柔道着娘たちも混じっている。
そして、男子はまるで人払いされたかのようにみんな学校からいなくなっている。
その部分はたしかに異様だ。
しかもなんじゃ虫によれば、自分たち(魔の者)はこの状態に関与していないという。なんじゃ虫のうろたえようからしても、たしかに魔族は関係していないらしい。だとすれば、本当にただの偶然だろうか。
とはいうものの、彼女たちは楽しそうにはしゃぎ周り、普通におしゃべりをしているだけで、なにか攻撃してきたり、僕をターゲットにしているそぶりもないので、なにかの陰謀が働いているとも思えない。
やはりただの偶然なのだろう。
僕:「たしかに気味が悪いけど、ま、偶然だろう。帰るぞ。」
なんじゃ虫:「あ…うん…」
なんじゃ虫は赤面しながら僕の横を歩いた。そのまま家の近くまで一緒に帰る。学校で起こった事態が薄気味悪いのか、なんじゃ虫は一言も発せず、僕も会話を避け、黙って家路についた。
夜はゆったり過ごし、そのまま眠りにつく。
その日は不思議と淫夢を見なかった。
次の日の朝。普通に目覚め、着替えを済ませ、フザケンジャー本部に足を運ぶ。
佐伯:「くっそおおお!」
いきなり佐伯長官の叫びが飛んできた。
佐伯:「何でダメなんだ! なにがいけないんだ!」
僕:「長官…どうしたんですか?」
佐伯:「…。な、なんでもねえよ…」
僕:「あ。オムレツですね。おいしそうじゃないですか。」
佐伯:「…! そう、見えるか?」
僕:「ええ。」
佐伯:「だが…ダメなんだ。マスターは絶対に認めてくれない。依然としてこのオムレツには、俺のションベンが混じってるんだとよ。」
僕:「えええ!?」
佐伯:「そんなもの入れてねえ! 作りも仕上げも味付けも完璧なはずなんだ! でもマスターは、一瞥するだけで味見もしてくれないんだ。」
僕:「ちょっと…食べてみてもいいですか?」
僕は佐伯長官の作ったオムレツを一口食べてみた。
僕:「おいしい! いや、これおいしいですよ長官! 昨日食べたマスターの味とほとんど変わらないできばえじゃないですか。」
佐伯:「!!?」
マスター:「おはよう神谷君。」
マスターが奥から出てくる。
マスター:「丁度いい。そろそろみんな揃うころだな。朝食にしようか。」
僕:「ありがとうございます!」
佐伯:「待ってください! その朝食、俺に作らせてください。」
マスター:「そんな資格、君にはないよ。みんなに小便入りの朝食を食わせるつもりかね?」
佐伯:「お願いします!」
僕:「…。」
マスター:「…いいだろう。作ってみなさい。」
佐伯長官は急いで厨房に戻る。そして手早くオムレツのセットを作りはじめた。
ごく短時間で、全員分の朝食ができあがった。
佐伯:「さあ。食べてくれ。」
マスター:「ふむ…」
佐伯長官が作ったオムレツセットは、上品なできばえで、一流の料理と言えるほどの立派なできばえだった。しかしそれだけでなく、さっきのものとなにかが違っていた。
見せ方も変わっているし、人によってその大きさや味付けを微妙に変えているように思えた。年をとっているマスターや女性の並木さんには小降りのものを。食べ盛りの僕にはやや大きめのものを。自分の分は標準的な大きさのものを。そしてポッティにはドッグフードを。
ポッティ:「…。」
マスター:「ようやく、君に欠けたものが分かってきたようだな。」
佐伯:「俺は、料理をするとき、自分のことしか考えていませんでした。自分の技術を信じ、自分を過信して、たしかに技術はあったけど、それだけでした。料理をするときに一番大切なことをまったく意識していなかったんだ。」
マスター:「そう。それが欠けていたのだよ。料理を作るということは、修行の中でも最も大切な、根幹に関わるところである。」
僕:「!」
マスター:「自分の名誉心、自尊心しかない状態で作られたものなど、汚物混じりの料理でしかない。」
佐伯:「おっしゃるとおりでした。料理、とくに飲食店の料理は、自分の技術をひけらかす場ではない。食べていただく相手のことを想い、その相手のために作る、いや、作らせていただくものなのだ。それが分かっていないものの作ったものなど、試食には値しない。」
マスター:「いいだろう。ひきつづき修行に励みなさい。頭で理解するのではない。体で示すのだ。君の理解はあくまで入り口に過ぎない。料理の道は厳しく険しく、奥が深い。もっと精進したまえ。」
佐伯:「はい!」
佐伯長官は、マスターとの修行で、なにかを掴んだらしい。精進、という言葉に僕は引っかかった。
僕にも、なにかが欠けているような気がする。食べることについて、なにかが…
佐伯長官がオムレツを口に運ぼうとする。
僕:「…お前はそれを食するに足る人間か?」
佐伯:「だあああああ!!! 食えるかあああああ!!」
そうだよなあ…
僕もさらにパンを口に運ぼうとする。
僕:「…」
しかし、僕はパンを皿に戻してしまった。
自分はこれを食するに足る人間か?
みさが僕に言ったこの問いかけは、実はいたずら心ではなく、大事なアドバイスだったんじゃないだろうか。
あの時…夢の中で、みさは僕に、精進料理のことがまるで分かってないと言っていた。僕はなにか間違った感覚を持っているのではないだろうか。
僕の目の前におかれた料理は、野菜のみというわけでもない、ごく普通の朝食だ。卵も肉もあるしバターもある。とても精進料理とは言えない。
だが、同じ修行中の身となった佐伯長官も、これを普通に作り、食している。
この朝食は、佐伯長官が作ってくれたものだ。自分の力や努力で作りだしたものは何一つない。
僕:「あ! そうか!」
佐伯:「な、なんだよいきなり…!」
料理自体、人が作ったものだ。精進料理は、自分で作ってこそ精進と言えるし、さらには人に作って食べていただくことにこそ価値がある。人に作ってもらう分際で、食べるだけの分際で、精進料理を所望するというのは、とんでもない思い上がりだったんだ。
マスター:「なにかが分かったのかね。」
僕:「ええ。野菜中心の粗食が精進料理だと想っていましたが、とんでもない思い上がりでした。」
マスター:「はっはっは、そういうことかね。そりゃあそうだ。食べ物を粗末なものにしてこれを我慢することが修行ではない。そんなものは逆効果だ。豪華絢爛にはしないが、与えられた食材をこそありがたく頂戴することに価値がある。」
僕:「自分で作ってこそでした。」
マスター:「ふむ。料理も掃除も、その他生活のいっさいについて、心を込めてひとつひとつ無心に励むこと。これが本当の修行なのだよ。佐伯君、君は腕もあるが、それが足りなかったのだ。技術に酔いしれている。だから、私の仙術に恐れをなし、君の砲弾は当たらない。料理と同じさ。」
佐伯:「はい。」
マスター:「神谷君、君はさっき“これを食するに足る人間か”と問うたね? どこでその質問を思いついた?」
僕:「夢の中です。」
考えてみれば、みさは江戸時代の人間。現代人なんかよりもはるかに、信心深い人ばかりだった。だから、僕なんかよりも、修行とか精進とか仏教用語に詳しいのは当たり前だったんだ。修行中の身なら自分の分や人の分くらい自分でやれよと、彼女は言いたかったんだ。もっとも、新世界淫夢だったので、修行されては困るということで、あえて答えは示さず、これを食するに足る人間かと問うてヒントを出してくれたんだ。
ありがとう、みさ。
僕:「人に作ってもらって、食べるだけの立場なのに、これに感謝もできなければ、それを食するに足るとは言えません。また、食材についても、農業で収穫し、包装され、商品として売買され、輸送され、店頭に売られ、管理されながら、多くの人の手を経て食卓にあります。たくさんの苦労と手間がかかっているのです。それを認識しなければ、これを食するに足るとは言えません。さらに、食材が手に入るということ自体、人間の努力だけではどうにもならない自然の恵みの部分があり、すべてはつながりあって、地球の産物、その恩恵の結果として、こうして朝食が目の前にあるのです。これが理解できなければ、これを食するに足るとは言えません。」
佐伯:「認識しただけではダメだ。たぶん、自分自身も、そうした恵みや労苦に見合うだけのことをしているか厳しく問いかけないとな。俺は、やはりまだまだ、十分たる人間とは言えないようだ。…これからもがんばります!」
マスター:「いいだろう。それが口先だけかどうか。実行が伴わないとな。神谷君、君も明日から店に来たまえ。佐伯君と一緒に稽古をつけてやろう。」
僕:「本当ですか!? ありがとうございます! よろしくお願いします!」
マスター:「さあ、残りを食べてしまおう。佐伯君、皿洗いは頼む。」
佐伯:「もちろんです!」
マスター:「そのあと君には続きの修行をこなしてもらうぞ。神谷君は今日も学校に行きなさい。」
マスターの指示どおり、僕は支度して学校に向かうことになった。佐伯長官は皿洗いの修行に入る。ただ機械的にこなすのではなく、ひとつひとつに心を込めて。それがいかに難しいことなのかを、思い知っていくことになる。
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神谷が登校したあと、佐伯は黙々と皿洗いを続け、すべてをキレイに片付けた。技術もいらない単純作業だが、心を込め、しかし時間をかけず手早く済ませていく。
マスター:「ふむふむ。やはり実力も素質もある。コツを掴み始めただけで、いい上達ぶりだ。しばらくはアルバイトとして、皿洗いをしてもらおうかね。」
佐伯:「何でもやります!」
マスター:「いいだろう。そうしたら、こちらの準備も終わったので、皿洗いのバイトは明日からとして、今日は終わりでいいよ。」
佐伯:「いえ、ぜひやらせてください!」
マスター:「だめだ。君には午後からやってもらうことがある。」
佐伯:「やってもらうこと、ですか?」
マスター:「片付けの準備をしなさい。」
マスターに言われたとおり、佐伯は周囲の片付けと掃除を済ませ、着替えをして、フザケンジャー本部に戻る。
本部ではマスターが待ち構えていた。その手には、液体の満たされたコップがあった。
マスター:「来たね。早速、これを飲んでもらおうか。」
佐伯:「これは?」
マスター:「泡盛というおいしい水だよ。」
佐伯:「つまり酒じゃないですか。ダメですよ。俺は酒は飲まないのです。」
マスター:「どうしてだね?」
佐伯:「それは…」
佐伯長官は、今でも魔族に狙われている。
18年前の戦いは、魔界の多くの魔族の知れ渡っているところであり、カリギューラを破った佐伯を堕とせば、魔族としての格が格段に上がるのだ。一躍有名となり、魔王と呼ばれても不思議ではないくらいの実力者として認められるのだ。
どの魔族も、佐伯の精は、喉から手が出るほど欲しいものなのである。
そのため、佐伯には何重にも何重にも淫呪が張り巡らされ、実は寝ても覚めてもエロティックな誘惑にさらされ続けているのである。
普通の男性であれば、小学生、中学生と成長するにしたがって、その誘惑に負け続け、ついには堕落しきることとなる。20歳になるかならないうちに、魔界に連れ去られてしまったことであろう。
実際、佐伯自身、クラスメートや女教師、近所の女性に誘惑されまくり、夜も淫夢に毎日さらされ、快楽漬けの中学高校生活を送らされている。
しかし、それでも彼が堕落しなかったのは、佐伯の元来の女嫌いと、中学卒業後に始めた仙術の修行、および高校卒業後に本格的に山ごもりして窮め尽くした佐伯仙術のたまものであった。
女が大嫌いになった佐伯は、周囲の女性たちの誘惑になびかず、淫夢に追われてもあまり射精しなかった。仙術を身につけ始めてからも、誘惑が強まるごとに強くなり、山ごもりしてからは、完全に射精を抑えてしまうことができている。
今では、佐伯仙術が彼の身を守り、数千数万の魔族の淫呪が取り巻いていても、びくともしないでいられるのだ。
ただし、その佐伯仙術には、ひとつ大きな弱点があった。
神谷と違って、佐伯の神通力は、射精とともに消えてしまうのである。そしてそれを習得し直すに、長い時間がかかってしまう。しかし、その習得し直しのあいだに一斉に淫呪が押し寄せ、佐伯は助からないだろう。つまり、一度でも射精してしまったら、佐伯は完全に敗北してしまうのである。
そのために、佐伯は絶えず佐伯仙術を身にまとい、一晩中を起きて過ごさざるを得なくなっている。眠気も仙術で吹き飛ばしながら、ごくごく短時間、瞬間的に眠り、その間決して淫夢を見ないよう深い深い眠りに落ちて、次の瞬間に目覚める。そんな毎日を送っているのだ。
もし、酒など飲もうものなら、脳がアルコールに冒され、短眠ができなくなり、浅く長い眠りにあっという間に落ちてしまうだろう。そうなったが最後、神谷以上の淫夢が押し寄せて、夢精しまくってしまうのである。
そして、それを取り戻す時間もなく、数日で吸い尽くされてしまうことになる。
だからこそ佐伯は、絶対に酒は飲まなかったのである。
マスター:「君の仙術は超強力だが、その代償が大きすぎるのだよ。そんな不安定な状態では、土壇場で耐えきれないはずだ。だから、普通に眠っても佐伯仙術を失わないようにしておく必要がある。そのためには、酒でも飲んで楽しくやっておくのが一番だ。」
佐伯:「こっ殺す気ですか! 絶対ダメだ!」
マスター:「大丈夫だよ。仙術の威力は落ちるが、君はごく短時間、数時間程度で仙術の力を取り戻せる。少しだけ手伝ってやるから、その不安定な状態を克服しろ。それが今日、君がやることだ。」
佐伯:「うわああああ! いやだあああ!」
そんな佐伯をマスターは仙術で拘束、身動きがとれないようにして、ムリヤリ口に泡盛を流し込んでいく。アルコール度数の高い濃厚な液体が、佐伯の胃の腑にダイレクトに流れ込んでいった。
佐伯:「もがががが!」
マスター:「さて。いきなり強力な酒を飲んだんだし、しばらくは酔う感覚を楽しめるはずだ。そのあと眠ることになるね。淫夢の中で、佐伯仙術を掴み直しなさい。神谷もそうやって成長したんだ。それができなければ、しょせん君は長官にはなれないし、そもそも不安定な仙術でいつまでも魔族の猛攻をはねのけ続けることはできん。遅かれ早かれ突破され、命を失うことになる。がんばりたまえ。」
佐伯:「あががが…そんにゃあ…ひっく…」
マスター:「さて。昼のラッシュがそろそろ始まるので、私は店に戻るよ。冷蔵庫にまだお酒はいっぱいあるから、好きなだけ飲んでくれ。あっはっはっは~」
オニだ…佐伯は本気でそう思ったが、気分の高揚にはどうしても勝てなかった。
######
一方、僕は。
学校に行くと、さらに男子の数が減っていた。なんじゃ虫も、なにが起こっているのかまるで分からず、ただただうろたえている。常任天国軍団が知らないこととなれば、これはただ事ではないのだろう。
女子たちの制服のスカートはさらに短くなり、少し動くだけでおへそが見えそうなくらい上着も小さなものになっている。
しかし、彼女たちは別になにをするというでもなく、いつもどおりに日常を過ごし、楽しそうにはしゃぎ回っている。魔力の波動も感じることがないので、水面下で操作されたり魔族が介入している節が見あたらないと言っていい。一体、なにが起こっているのだろうか。
放課後になると、女子たちは思い思いの格好で校内や校庭を埋めていく。まるで女子校に迷い込んでしまったかのように、男子の影がまるで見あたらなくなってしまっている。
悩殺的な格好が目立っているが、誘惑するでもなく、なにかをしてくることもまったくない。いつもどおりの放課後の光景だ。それだけに、服装とのギャップが不気味さを増している。
なんじゃ虫:「どういうことか調べるネ!」なんじゃ虫は放課後になると足早に去っていった。どうやら本当に事情を知らないらしい。
僕もフザケンジャー本部に行って、学校で起こっている異常事態を報告しておいた方が良さそうだ。
とくに誰からなにかをされるわけでもなく、僕はまっすぐフザケンジャー本部にたどり着いた。
僕:「ん?」
本部の扉に鍵がかけられ、固く閉ざされていた。誰もいないのかな。
「どひゃあ~!」
中から声がした。佐伯長官がいるな。なんか楽しそうにしている。
コン、コン…
ドアをノックしてみる。「佐伯長官? ちょうかーん?」
返事がない。ただのしかばね…もとい気づかれていないみたいだ。
ドンドンドンドンドンドン! 今度は思いっきりドアを叩いてみる。「あけろー! たのもー!」
がたっ!
やっと奥から声が聞こえたかと想うと、緊急用のインターホンから、ろれつの回らない声がのっそりと出てくるのだった。
佐伯:「だ、だああれえ?」
どうしたんだ長官。なんかヘンだぞ。様子がおかしい。
佐伯:「誰えん??」もっちゃりした声でたずねてくる。
僕:「警察だ! 開けろ!」つい悪のりしてしまう。
佐伯:「だ、だああれえええ!??」
僕:「だーかーらー! 警察! 開けろ! 警察だ!」
佐伯:「けーさつぅ~~?」
僕:「そうだ、取り調べがある! さっさとここを開けるんだ。」
佐伯:「ここは警察じゃないよお~~?」
僕:「い、いやいやいやいや! ここは警察じゃないよ。俺が警察なんだよ!」
佐伯:「だ、だーれ~?」
僕:「警察! サツ! ポリ! デカ! まっぽ! け! い! お! ん!」
佐伯:「けいおん?」
僕:「そうだ! けいおんだ! 律のふとももが君を誘っているぞ!」
佐伯:「おれは唯派だよぉ~」
僕:「なにを言ってるんだキサマ! とにかくここを開けるんだ! 警察だ! あけてくれればあとはなんにもしないから!」
佐伯:「警察ぅ~?」
僕:「なんか疲れてきたな。」
佐伯:「ここは警察じゃないよ~?」
僕:「ここは警察じゃないよ! 俺が警察なんじゃないかああ!! ぜえ、ぜえ…というわけで神谷です。いい加減開けてください。」
佐伯:「かみや~?」
僕:「そうです。神谷ですよ。フザケンジャーの。」
佐伯:「俺は神谷じゃないよお~~?」
僕:「一体どうしちゃったんですか長官!」
佐伯:「…。」
僕:「ちょっと? ちょうかん? さえきちょうかあああん!!?」
…ごおー、ごおー…
いびきが聞こえてきた。
佐伯長官は眠りこけてしまったらしい。一体どうしたというのだろう。
ここにいてもしょうがないし、ポッティもいないし、マスターは店で忙しいし。…帰るか。
家に着き、佐伯仙術の呼吸の修行を続けながら、夜も遅くなってきた頃合いで、眠ることにした。
######
ヘルサたん総統:「いよいよ完成ね。」
フローリア将軍:「…。」
ヘルサたん総統:「これより、フザケンジャー対策の切り札である“クピド作戦”を決行します。」
カリギューラ女王:「ふう。さすがに疲れたぞ。」
フローリア将軍:「カリギューラさま、お顔色がいささかよろしくないようですが。」
ヘルサたん総統:「仕方ないわよ。この作戦のために、ずいぶん神通力をいただいたからね。」
当初、怪人一人分作成に必要な神通力で足りるかと思っていたのだが、思った以上に神通力が必要であることが分かり、カリギューラ女王から急ピッチで神通力を吸い上げたのだった。
フローリア将軍:「少しおやすみになった方がよろしいのでは。」
カリギューラ女王:「心配は要らぬ。矢継ぎ早に新怪人も作らねば、フザケンジャーを圧倒することはできぬ。ここは私のがんばりどころなのじゃ。…18年前の屈辱を晴らせるチャンス。ちょっとくらい神通力が激減したところで…」
ヘルサたん総統:「くすくす…頼もしいわカリギューラ女王。これが成功したら、まさにあなたこそが、作戦の立役者として永遠に賞賛されるのよ。」
カリギューラ女王:「うむ。さあ仕事じゃ。またカプセルに入るぞよ。」
フローリア将軍:「…。」
ヘルサたん総統:「そんな顔しないでよ。大丈夫、カリギューラ女王はとてつもないタフな女ですもの。それはあなたもよく知ってることよね?」
フローリア将軍:「ええ…ですが…」
ヘルサたん総統:「それより、クピド計画をいよいよ実行に移すよ。ボウイ将軍に伝達を。」
フローリア将軍:「…かしこまりました。」
フローリアが伝令を行うと、いよいよ作戦が実行に移される。ヘルサたん総統、カリギューラ女王、フローリア将軍、そしてボウイ将軍だけが知っている、極秘中の極秘プロジェクトだ。
フザケンジャー、というよりは、神谷達郎に対する作戦として、きわめて有効だとされる“クピド作戦”とは、どのようなものか。
神谷は、ポッティによって恋愛も結婚も禁じられている状態にあるが、これを打ち破って恋愛すると、心奪われる度合いが常人の数倍にも及ぶという特質がある。これは“デーモンの息子”特有の性質で、本気で惚れられると、それに対して過剰に反応してしまうのである。愛されると、その想いにどうしても応えてしまう。
ただの戦闘でエッチな誘惑にさらされても、そこは割り切ってはねのけることができる。欲情にほだされることはない。しかし、相手が本気で神谷に恋心を抱いたとき、神谷は過剰に心臓が高鳴り、相手の女が迫ったときにはねのけることができないのである。
すると、あっさりと性交に応じ、しかも弱体化して佐伯仙術なども使えなくなってしまう。これはまだ、神谷自身が気づいていない弱点である。
クピド作戦は、その弱点を突くものだ。
クピド、つまり恋を取り持つキューピッドから作戦名がとられたのだが、神谷を取り巻く女たちが本気で神谷を愛するようにするという作戦である。
ただし、ポッティの呪縛があり、周囲の女たちを仕向けて愛させることはできない。みさとサラは特殊なケースだったのであって、こういった女を増やすことは難しいだろう。
また、女たちを操作して、無理に惚れるような洗脳を行ったとしても、それは所詮ウソで塗り固めた甘言であり、誘惑である。「本気で好きです」と口先で言われても、神谷には通じないし、見抜かれてしまう。
そこで、クピド作戦は、仮に女たちが本気で神谷を愛していなかったとしても、受け取る神谷側が「相手は本気だ」と錯覚するようにすればよいことに着目し、特殊なオーラを女たちから出せるように変革する道具、”GGスパークフィンガー”を、天国軍団らに備え付け、これを使いながら神谷を襲う作戦なのである。
本気で神谷を愛しているときの女の情念、雰囲気、オーラと同じ波長のオーラを擬似的に作り出す。それによって、神谷の脳や肉体は、本当に愛されていると錯覚してしまい、体が過剰に反応してしまうというわけだ。
たとえ、GGスパークフィンガーの存在に気づかれ、女たちが本気で神谷を愛してなどいないということが分かったとしても、体や脳はデーモンの息子の特質から逃れることができない。つまり、ウソだと神谷が認識して、抵抗しようとしても、その波動を身に受けてしまうと、体だけは反応し、どうしてもドキドキしてしまうというわけだ。
惚れられた相手にどうしても過剰に惚れ込んでしまい、体を許してしまうという、デーモンの息子の特質を悪用し、神通力を封じ、体も弱体化させ、神谷を徹底的に射精させてしまおうという作戦なのである。
このオーラを生み出す力は、魔力では生み出すことができない。結果、どうしてもカリギューラ女王の神通力が大量に必要となった次第である。
ヘルサたん総統:「問題は…ポッティね。」
フローリア将軍:「間違いなく、フザケンジャーたちはクピド作戦の対策を打ってくるでしょう。遅かれ早かれ、神谷自身がその特質を克服してしまうと思われますが。」
ヘルサたん総統:「それはないわ。魂の特質を根底から変えることはできない。ポッティがそこまで手を出すのはあくまで規約違反。ポッティ自身がこれを破ることは、人類の危機に瀕しても絶対にない。したがって、神谷の特質は一生変わらないし、克服もされない。」
フローリア将軍:「…。では、特殊なバリアを開発してくるのでしょうか。」
ヘルサたん総統:「その可能性は高いわね。でも、そのバリアを超えて神谷にダイレクトにオーラを伝えることは簡単にできるし、ポッティ側もそのことを理解しているはず。バリアだけでは不十分ということをね。だからこそ、今回のクピド作戦には、とくに“属性”に着目しているの。」
フローリア将軍:「属性、ですか…」
ヘルサたん総統:「そう。手とか足とかお尻とかオッパイとか。のみならず、年齢の属性、背の高さの属性、OLなのか女子高生なのかといったことも、属性のひとつ。このオーラを身に受ければ受けるほど、神谷の属性が開発されるようにあつらえてあるわ。これによって、属性の累積が可能になる。その相手に対する防壁ができたとしても、属性だけは開発され続ける。次に同じ属性の女が出てきたとき、神谷は弱い状態で戦わなければならない。これだけは、神谷自身が努力して克服できるけど、容易ではないはず。そこに大量のオーラが神谷に浴びせかけられれば、結局克服が追いつかなくなって、止めどなく精液を我らに提供することになるの。どお? 完璧な作戦でしょう。」
フローリア将軍:「…すごい、です…」
ヘルサたん総統の狡猾さ、作戦の緻密さに関しては、フローリア将軍も脱帽せざるを得なかった。
そして、それだからこそ、フローリア将軍は、彼女に対していや増す警戒心を抑えることができなかった。わたしも、カリギューラさまも、ヘルサたん総統の餌食になってしまうのではないか。そんな不安が強く残ってはなれないのだ。
しかも、そんな不安を、ヘルサたん総統も見抜いて、さらにこれを利用しようとしている。空恐ろしいことであった。
ヘルサたん総統:「ボウイ将軍が動いて、神谷の学校から男子を減らしておいたわ。明日、神谷が学校に来たときこそ、我らの作戦の脅威を刻みつけてあげる。」
ヘルサたん総統の作戦は、ボウイ将軍にまでは伝わっているが、それ以外にはいっさい口外されていない。サラがこの事情を知らないのも無理はなかったし、神通力によって作戦が遂行されていたので、魔力探知をしていた神谷に気づかれることもなかったのだ。
ヘルサたん総統:「そうそう、このクピド作戦は、現実世界だけで使うことにします。淫夢に持ち込むことはできません。淫夢は神谷を急成長させますからね、その代わり、女の魅力を脳に刻みつける魔の霧を充満させることにしましょう。これによる効果はそれほど大きくはありませんが、目が覚めたあとの弱体化に役立つからね。」
フローリア将軍:「…かしこまりました…」
######
夕べも淫夢は見なかったな。
たしか、淫夢をあまり見ない日々というのは、敵側がなにか大きな作戦を企てているので危険だと、前にポッティが言っていたな。
とにかく、今日からはマスターのところで修行だ。佐伯長官の様子からして、お店の掃除などをすることになるのだろう。
早めに家を出て、『キノコぐんぐん伝説』に足を運んだ。
マスターと佐伯長官はすでに来ていた。僕たちはマスターの指示どおり、店中の掃除をする。細かいところまで気を配ること、工夫をしてなるべく短時間で終わらせること、使う人や客のことを考えてきめ細かな配慮をすること、これがなかなか難しい。丁寧にやろうとすると時間がかかるし、雑にやれば怒号が飛ぶ。
僕たちはまだまだ不慣れな中、なんとか掃除を終わらせた。
マスター:「そういえば佐伯君、神通力は取り戻せたかね?」
佐伯:「いいえ。しかし、淫夢には打ち勝つことができました。なにか体にバリアが張られているみたいでした。」
マスター:「うん、私が少し細工をしておいた。早く佐伯仙術を取り戻さないと、いつまでも私が手助けをするわけに行かないね。」
佐伯:「おっしゃるとおりです。がんばります。」
マスター:「うむ。佐伯君は引き続き、失われた仙術を取り戻す修行を続けなさい。神谷君は学校へ。」
僕:「はい。あ、そうだ。ここ2,3日なんですが、男子が減っています。」
佐伯:「なんだと?」
僕:「妙なんです。偶然病気とか怪我とか野生生物に襲われるとかで、男子ばかり長期に休んで。学校は今、教職員と女子ばっかりです。」
マスター:「…ヘルサたん総統の仕業だな。」
僕:「でも…魔力の波動をまったく感じないのです。偵察のなんじゃ虫が不思議がっていました。」
マスター:「ふうむ…それは妙だね。だが、それほど大がかりなことをすることができるのは、ヘルサ一味と見て間違いはないだろう。君の周りでなにか作戦が進んでいるに違いない。」
僕:「ええ…」
佐伯:「気をつけた方がいいな。警戒するに越したことはない。いいだろう、俺も修行の傍ら、本部で君の行動をモニターしておこう。」
ポッティ:「…なにかイヤな予感がするな。ワシも警戒しておこう。」
僕:「よろしくおねがいします…」
ともあれ、僕の目線・拾った音がそのままフザケンジャー本部にモニターされるようセッティングされた状態で、僕は学校に行くことになった。
僕:「あっ、なんじゃ虫。」
サラ:「タツロー! 今日は学校に行かない方がいいネ!」
校門の前で待ち構えていたなんじゃ虫が、通せんぼしてくる。
僕:「一体なにがあったんだ。」
サラ:「分からない。わからないよ…でも、この学校には男子はいないね。男がいないね。先生も若い女教師だけね。それ以外はみんな学校を休んでいるね。しかも、魔力の波動は依然として感じられないYO!」
僕:「なんだって…!?」
それはいくら何でも異常すぎる事態だ。それも魔族の仕業ではない、だと? 一体なにが起こっているんだ!
ピンポンパンポーン!
いきなり校内放送が流れる。
「久しぶりね、フザケンジャー」
僕:「!!?」
どこかで聞いたことがある声だ。低くてかすれるような…ハスキーでセクシーながらかわいらしい、あまり抑揚のない声。
戦慄が走る。これは…ボウイ将軍だ。
「この学校は我々が占拠した。ここには天国軍団と、私と、おっぱいんしかいない。」
おっぱいんだと!? 怪人が中にいやがるのか。
しかも、この学校の若い女がみんな天国軍団にされているとなると、放っておくわけにはいかないだろう。
サラ:「ボウイ将軍! 一体これは…」
なんじゃ虫は本当になにも聞かされていないみたいだ。
ボウイ将軍:「サラ。今回の作戦にはあなたは無関係です。今日は家に帰りなさい。」
サラ:「し、しかし…」
ボウイ将軍:「…下がりなさい。」
サラ:「は、はい…。タツロー…気をつけてね。」
僕:「ああ。ここはおとなしく帰った方がいい。僕がなんとか学校を救ってみせる。」
サラは帰って行く。僕は彼女を見送ると、学校の校門をくぐった。