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第28話 杉戸村やらデートやら新怪人やら世界の構造やら…忙しすぎ!


 そういえば…

 この音楽室は、さらに別の謎を解く鍵があるはずだ。少女たちを撃退するアイテムか、次のステージに迎える鍵か、はたまた重要な地図か。探してみよう。

 アイテムはすぐに見つかった。それは小さな拳銃のようなものだった。弾を入れるところはないが、引き金だけがついている水鉄砲のようなものだった。水を入れるわけではなさそうだ。

 僕はピアノに向けて引き金を引いてみた。

 ぱしゅっ!

 小さな青い光の弾が飛び出し、ピアノにあたってはじけ飛んだ。神通力の波動を感じる。わかった! これは、女体に快感ダメージを与えることができる銃なんだ。自分の体内に自然に流れている神通力を吸収して、弾に変える装置なのだろう。

 村を探索する誰かが開発したのだろうか。確かにこれがあれば、敵の女の魅力に負けることなく、ほだされて射精し続ける前に、大勢を撃退することができそうだ。高校生相手でも通用するだろう。

 なかなかいいアイテムだ。僕はさらに体内に神通力を走らせ、もう一度引き金を引いてみた。

 バシュウウウ!! 「うおお!」強烈なビームが飛び出し、ピアノではじけ飛んだ! 快感攻撃だけの機能なので、ものを破壊する力はないが、これだけ強力なら、どれだけ大勢いても、一気に大勢を撃退できるだろう。

 この銃に神通力を合わせれば、かなり強いアイテムになる。一網打尽に蹴散らしてやるぜ。


 *呪いの半ズボンを手に入れた
 *ビームガンを手に入れた


 外に出てみる。廊下には少女たちの霊がうろついていた。僕の姿を認めると、一斉に迫ってくるのだった。「…覚悟はいいか」

 僕は銃を構え、少女たちに向けてぶっ放した!

 ビーム音とともに、子供たちの身体を神通力が貫通していく! 数人の身体をも突き抜け、壁に当たってはじけ飛ぶほどの勢いだ。

 「ひゃああ!」「ぎゃっ!」「ひいい!」少女霊たちは次々に消滅していく!

 ビームは無限だ。僕は遠慮なく彼女たちめがけて銃を乱射し続けた!

 僕に到達する前に次々絶頂しては消えていく幽霊ども。シューティング要素もあって、楽しく撃退できている!

 僕は周囲の幽霊たちを蹴散らしながら、下り階段の方に走っていった。この銃に僕の佐伯仙術を混ぜただけで、こんなに強力になるとはな。あらためて驚かされる威力だ。

 下り階段を降り、僕は2階に行く。

 ここは中学部棟の筈だ。よし、敵の幽霊どもを撃退しながら、この階の謎も解いて見せよう!

 「!?」

 そこにたむろしていたのは、予想どおり女子中学生の幽霊の群れだった。全裸の娘もいるにはいるが、制服の子、体操服の子、レオタードの子、水着娘まで混じっている。

 そういえば、一階の高校部も半裸や着衣の子がいたな。こっちもそれに準ずるというわけか。それなら、どうして3階だけ全員裸だったのだろう。

 そして、その人数は、1階や3階の比ではなかった。両側の廊下、奥がかすれて見えるほど広い校舎。その校舎の廊下に、数え切れないほどの女子たちが、あとからあとから出てくるのだった。

 ヴァジュラの力でかなりの人数を減らしたはずにもかかわらず、廊下を埋めつくさんばかりの人数が、どんどん教室から出てきている。

 その全員が、僕のペニス一本めがけて、じりじりと押し寄せようとしているのだった。まさに敵の群れの中に突然投げ出された格好だ。いきなり絶体絶命である。

 だが…

 バシュッ! バシュッ! ビイイイイイイイイイイ!!!!

 僕はビームガンを立て続けに撃ち続けた。

 「ひゃあん!」「あああ!」「きもちいっ…んあ!」少女たちはどんどん消えていった。

 僕がビームを撃てば、廊下の奥の方にまで届く。彼女たちの腹部を貫通し、さらに後ろの娘たちにまでビームが貫かれる。そしてその光線を身に浴びた子は、一人残らず消えてしまうのだった。

 僕はビームを撃ち続け左右に揺らし、右を向いては一度に数十人を消し、左を向いては数十人を消し続け、近づく娘から片っ端から一網打尽にしていった!

 これなら、何千人いようと、全員この神通力ビームで平らげてやる!

 うじゃうじゃと数え切れないほどひしめいた幽霊たちは、僕に近づくことさえもできずに、みるみるその数を減らしていき、あっという間にまばらになるのだった。

 よし! だいぶ数が減った。見通しが利くようになり、僕は探索を開始するのだった。

 「えっ…!」僕が数歩足を踏み出したとたん、信じられないことが起こった。

 女子中学生たちが、さらにどんどん教室から飛び出してきては、走って僕に迫ってくる! 僕は見つけ次第ビームガンで撃退するのだが、一体どこからこんなに大勢、無限に出てくるというのだ。

 消しても消しても、あとからあとからどんどんわいてくる幽霊たち。こんなに多くては、ヴァジュラ一発で消したといっても、すぐに廊下が埋めつくされてしまうではないか。

 背後から膨らみかけの胸の子が飛び掛かってくる! むにっと柔らかくすべすべの肌触りが僕に密着した! 「あふっ!」悩ましいふとももが僕の足をこすれていく。「こおおお!」佐伯仙術で幽霊娘を絶頂させ、消し飛ばした。

 ビームガンで消しても消しても、どんどん無限にわいてくる娘たち。右を向いては撃ち、左を向いては撃ちをくり返したが、それでも追いつかないほど、あとからあとから少女たちが出てきて襲いかかってくるのだ。

 「くっそ…どうなってるんだ…」

 こんなに大勢、幽霊がいるはずはない。何かのトリックが働いているに違いない。そのトリックを暴かなければ、無限増殖する中学生の群れに包まれて、きりがない射精地獄が始まってしまうだろう。

 どこかに、謎を解く鍵があるはずだ。

 「あははっ! センパイ!」「うぐああっ!」ビームガンが追いつかず、僕は複数の若娘たちに抱きつかれてしまった。

 もはや子供ではなかった。

 顔はまだまだ幼いけれども、身体はしっかり女性らしく膨らみ、あどけないかわいらしさと、女性らしい肉体を両立させている。胸の大きさは様々ではあるが、すべすべの肌触り、滑らかで吸い付くようなみずみずしいきめの細かさは、大人の女性以上に極上の仕上がりだった。

 何より、彼女たちの下半身は、すでに精を搾り取ることができる状態に十分発達している。幽霊だからか毛は生えていないものの、そのオンナはペニスを受け入れられるほどに発達し、若く直情的な締まりを具えているみたいだった。そして、発育の良い彼女たちの生足は、しっとりと引き締まっていて女性らしく肉付き、こすられるだけで精を充分搾り取れる形の良さを誇っている。若い弾力は、腰の膨らみからふともものつるつる感まで、見事に大人顔負けの魅力を持っていた。ふくらはぎがやや子供っぽいところを残すばかりで、下腹部はまさに女だった。

 僕は全身を柔らかい手で撫でさすられ、僕の両脚は何本もの生足が絡みついてスリスリされ続けている。小ぶりから大きめの乳房まで揃っている女の子たちが、僕の上半身に容赦なくおっぱいを押しつけこすりつけてくる。乳頭がまだまだ小さい娘たちであるにもかかわらず、その悩ましい肌触りに翻弄され、彼女たちの真ん中で全身くまなく刺激されている状況の中で、僕は一気に高められてしまうのだった。

 ペニスにはすでに何人分もの生手が張りつき、思い思いにしごき立て、手の柔らかくしっとりした感触を刻みつけてくる。亀頭先端に細い指がねじ込まれ、円を描くようにぐりぐり刺激してきた。僕は彼女たちの極上のふとももを撫でさすりながら、絶頂直前の多幸感に包まれていた。

 ぴゅぐっ! ついに射精が始まる。少女たちの幽霊の群れに包まれながら、誰の手か分からない中で精液を抜き取られてしまう。

 それでも女の子たちは攻撃を決して緩めない。生足地獄おっぱい天国に包まれた体勢のままで、今度は誰かの口がペニスを包み込んでしまう! 交代で激しい吸引と、ふにふにした唇の扱きに襲われ、ペニスは快感から逃れられない!

 滑らかな白い肉体がどこにもかしこにもあふれかえり、その群れに包まれながら、僕は少女たちの手や舌や小ぶりの乳房にペニスを刺激され続けた。急激に高められては、そのまま精液を抜き取られていく。廊下のあちこちをたらい回しにされながら、僕は中学生の手や舌や太ももやお尻やおっぱい、脇の下やおなか、膝裏にさえも射精させられてしまう。

 「くっそお!」僕は負けじとビームガンで応戦するのだが、消しても消しても教室からどんどん美少女たちがあふれかえってきて、ブルマ生足でこすられ、セパレーツ水着のおへそにかわいがられ、制服スカートで上半身裸の少女のフェラチオに負け、結局射精させられてしまう。

 風呂から上がったばかりのようなしっとりしたシャンプーの匂いが、僕の鼻孔をくすぐり続けた。

 教室から美少女たちが出てくる。教室から…教室から! 教室だっ!

 僕は近くの教室に飛び込んだ!

 「はあっ、はあっ、はあっ…」教室には誰もいない。

 どういうことだ…

 廊下には数え切れない中学生たちが、教室からどんどん飛び出してくる。きゃーきゃーいいながら、僕一人めがけて、全身でペニスをかわいがって射精させ続けようと押し寄せてきたというのに、教室に入ったとたんに、ウソのように周囲がしーんと静まりかえってしまった。

 つまり彼女たちは、教室から出てきたように見せて、実は教室と廊下の境界線上から現れていたに過ぎなかったのだ。それは一方向であって、境界線上から教室めがけて飛び出す娘は一人もいない。従って教室はもぬけの殻ということになる。

 だいぶ絞られちまった。僕は呼吸を整える。

 隣の教室まで、壁一枚隔てている。僕は一気に教室を飛び出し、廊下で襲ってくる女の子たちを撃退しながら、すぐさま隣の教室に飛び込んだ。

 「…ふう。」やはりな。隣の教室にも誰もいない。廊下に出たとたんに、美少女たちが埋めつくし、一斉に僕に襲いかかってくる仕組みだ。

 それなら、一瞬だけ廊下に出ては隣の教室に避難すれば、先に進むことができそうだ。

 ぴりっ

 またフラッシュバックだ。

 父親たちが犯されている中で、同じように美少女たちをかいくぐって先に進んでいる青年がいた。『花畑だ』彼はつぶやいている。『この階のどこかに花畑があるはずなんだ。』

 だが彼は、シャンプーの香りを漂わせる女子中学生たちに捕まり、ぐるりと取り囲まれて抱きつかれてしまった!

 生足が青年を襲う。『くっそ…こんな…ガキなんか…あう! …気持ちいい…』自分はロリコンではないと必死で言い聞かせて乗り切ろうとしているようだが、無駄だ。少女たちの肌に触れ、撫でさすり、また撫でさすられ、その太ももの味を知ってしまえば、理性的なこの青年も、10以上年下の美少女の群れの餌食になってしまう。

 青年はレオタード女子の生足に数回しごかれただけで、その柔らかで若くハリのある弾力に負けてしまい、精液を放出した。もがいて群れを脱出しようとしたが、人数はどんどん増えていくばかりだ。

 交代でふとももにペニスを挟み込まれ、そのつど射精させられていく。足に挟まれまいと抵抗すれば、変わりに手コキやフェラで徹底的に絞られるのだった。『花畑…花摘めば…身の育みの天国あり…うああ!』

 ここでフラッシュバックは終わった。

 なるほど、この階のどこかに花畑があって、そこに行けば次のステージに行かれるアイテムがあるのだな。

 って、建物の中に花畑なんてあるわけが…

 あの青年はなぜ、花畑に答えがあると思ったのだろうか。

 最後の彼の台詞にヒントがありそうだ。

 花摘めば身の育みの天国あり。

 意味が分からん。

 彼はおそらく、この階のどこかに花を摘める花畑があると踏んで、探していたのだろう。しかし一向に見つからないまま、ローティーンの女たちの餌食になってしまった。その謎の続きを僕が解けばいいんだ。

 彼の様子だと、教室には鍵はないっぽい。特別な場所を探さなければならないんだ。

 もたもたしていれば、ついにビームガンでも抑えきれなくなって、僕も彼と同じ運命をたどってしまうだろう。意味不明な暗号が指示しているところを見いださなければ、脱出は困難だ。

 花摘めば…花畑…花…はな…

 花を…つむ…

 分かった! トイレだ! 隠語として、「お花を摘みに」といえば女性がトイレに行くことを意味していたんだ。従って鍵は、女子トイレにあるんだ。

 教室ばかり探したり花畑を探したりでは見つかるはずもなかったんだ。

 ここから女子トイレは…すぐ近くだ。よし!

 僕はビームガンで少女たちを蹴散らしながら、女子トイレに飛び込んでいった。

 トイレの中は誰もいない。だが、ここのどこかに、次の行くべき場所が示された何かがあるはずだ。僕は女子トイレのあちこちを探してみたが、それといってめぼしいものはなかった。「ここじゃないのかなあ…」

 バタン! 「!?」

 個室に入ったときだった。突然扉が閉まり、鍵が掛かったように固く閉ざされてしまった! 押しても引いても開かない。僕はいきなり閉じ込められてしまった! 「しまった…」

 「ねえ…先輩…」「!!」個室の中に、突然一人の美少女が現れた。「エッチなこと、しようよぅ…」全裸の女子は便器に座って足を開き、僕の挿入を誘った。

 バシュン! ビームガンをお見舞いしてやる。幽霊は瞬時にして消えてしまった。

 再び後ろを向いてガチャガチャと扉を開けようとする。だが、どうしても扉は開かない。「クスクス…ねえ、セックスしましょう?」「んあ!」すぐさま次の美少女が現れ、ドアに向けて立っている僕の背後から、形良く膨らんだなまの臀部を、僕のお尻にぴったり押しつけてぐりぐりしてきた! くすぐったく柔らかくもちもちした女の子のお尻と僕のお尻が密着。”おしりあい攻撃”で、ふにふにした弾力を刻みつけられた!

 「くっそ! 佐伯仙…んあ!」彼女の方に向き直って神通力を流し込む前に、中学生の幽霊はペニスをその膣に飲み込んでしまった!

 バックの体勢で結合した美少女は、ものすごい勢いで腰を前後させ、よく締まるオンナでペニスを執拗に出し入れし続けた! 「あああ~…!」下腹部は十分に発達したとはいっても、オンナはまだまだ若く未熟で、青いつぼみだった。熟練した締まりの蠕動や包み込む大人っぽいひねりがない。

 その代わりに、ぎゅうっと強く締まっていく膣圧が、若くてキツすぎて気持ちいいっ!この直情的によく締まるオンナと、体力あふれる激しい前後運動で、ペニスはこれでもかと強く素早く扱き上げられてしまう!

 「ああああっっ!」出るっ! ごぼぼっ!

 僕は中学生の形良いお尻を撫でさすりながら、感極まって射精してしまった。

 かちゃり。ドアが開く。ああ…少女の霊と交わって、瞬時に抜かれてしまった…

 隣の個室に入ってみる。またもや、ドアが勝手に閉まり、開かなくなってしまう。

 「こおおお…」先の展開は読めている。僕は銃を構え、佐伯仙術をマックスに仕上げた。

 「せんぱ…きゃっ!」案の定、密室に幽霊が現れたが、即座に神通力で消し飛ばす。だがそれでも扉は開かない。「くすくす…ひゃん♪」二人目が現れたので消し飛ばしたが、それでも扉は開かない。

 「入れて!」三人目が現れるも、佐伯仙術をお見舞いしてやる。こうなったら…上から脱出してやる! 僕は上を見上げた。

 足下を突然誰かにすくわれた! 「わっ!」佐伯仙術が間に合わず、僕は便器の上に尻餅をついて座ってしまった。「おのれっ!」僕は銃を構えたが、その前に便座座位で美少女と結合してしまう!

 ああっ! 中学生はよく締まるッ! 噂どおりの攻撃力だった。彼女は激しく全身を上下させ、お尻を僕の足にペッタンペッタンとお餅のようにたたきつけながら、自慢の若い膣でペニスを翻弄した。「あああっ! だめ! やめ…」イク直前の多幸感が襲ってきても、彼女はオンナの激しい出し入れをいっさい緩めてくれない!

 「うああ!」僕は小ぶりのおっぱいを背後から抱きしめ、ブルルッと震えて、彼女の中に大量の精液をぶちまけてしまう。

 かちゃり…ドアがひとりでに開く。

 そう…この個室は罠なんだ。

 個室に入ったとたんに、ドアが閉まって出られなくなる。そこに女子中学生が現れ、しつこくセックスを迫る。神通力やビームガンで消し飛ばしても、次から次へと別の娘が現れ、隙を突いて挿入されてしまうんだ。射精するまで、外に出ることができない。

 だが、それだからこそ、個室のどこかに鍵があるはずなんだ。いったいどこに…

 「!!」あった!

 フックに引っかけられた小袋がある! 僕はそれを取り、中を確かめてみた。小さな鍵がひとつ入っている。この鍵が、次のステージに行くために必要になるんだ。

 それにしても…次に行く場所ってどこだろう?

 身の育みの天国、か。

 身の育み…はぐくむ…体の育み、体育館?

 行ってみよう。僕は少女たちを蹴散らしながら、一階へと降りていった。

 「うっ!」ドキドキが急に跳ね上がる。大好きな同年代の美少女たちが迫ってくる。

 だめだ、またここで包まれてしまっては、同じことのくり返した。心を鬼にして、一時の情に流されないようにしなければ! 僕は高校生幽霊たちにビームガンをお見舞いする! すると彼女たちはどんどん消えていき、相手の人数もまばらになった。彼女たちは無限増殖しないんだな。

 あ、そういえば無限増殖の謎をまだ解いていないな。校舎をもう一度くまなく探してみた方がいいのかな。

 とにかく体育館に行ってみよう。謎を解かなければ進めないのなら、引き返せばいい。

 体育館に入ってみた。…誰もいない。罠があるかもしれないから警戒する。あちこちを調べてみたが、結局何も出てこない。

 …。この鍵だ。

 この小さな鍵では入れる場所があるはずだ。それが”天国”というのだから、その場所には恐ろしい女の幽霊たちが待ち構えているに違いない。

 僕は鍵が差し込めそうな場所を探した。

 「これか!」ようやく見つけたのは、体育館の天井口だった。高いところにあり、電気を取り替えたりボールを拾ったりするために特別に作られた、狭い通路のような天井裏に通ずる扉を見つけた。鍵を差し込んでみると、扉が開いた。

 「うわあ…」高い! 高所は苦手なんだよなぁ…

 下が透けて見える。だから、かなり下の方に床があるのが丸わかりになってしまい、きゅっと身体がすくんでしまう。

 だが、この道を行かなければ、先はないのだ。仕方ない。

 通路は立って歩くことができず、上下がとても狭くなっている。這って進むしかない。「ひええ…」僕は床までの高さをじっくりかみしめさせられながら、すくむ身体で通路を向こう側まで渡った。その間は何も起こらない。

 反対側に降り立つと、機械類が並んでいる。が、基本的には行き止まりで、そこを探しても何もなかった。

 「あ…」さらに上がある! 小さなはしごがあって、上に登れるようになっていた。登ってみると、やはり狭い通路がある。鍵を使って扉を開け、這って反対側に出たら、その上からさらにもとの方向に渡れる、暗い通路があるのだった。二段構造だ。

 さらによく見ると、ベルトコンベアのようになっていて、スイッチを押すと自動的に向こうに渡れる仕組みのようだ。よし、渡ってみよう。スイッチは…

 「必ず仰向けに進むこと」スイッチの近くに張り紙がしてある。仰向けで進め、と書いてあるな。うつぶせで進んではいけないのか。なんでだろう。

 仰向けになったとき、その理由がすぐに分かった。

 通路天井のあちこちに押しボタンがあり、押すとそこで止まったり、もとに引き返したりができるようになっている。つまり、仰向けになることで、ベルトコンベアーで運ばれながら操作もできるというわけだったのだ。

 ういいいん…

 僕は反対側にたどり着くべく、仰向けでベルトコンベアに運ばれていった。とてもゆっくり進んでいる。

 それにしても…少し遅すぎるな。高所にあるから慎重に進むってことなんだろうけれども…この調子だと、向こうに着くまでに3~40分くらいかかっちまうぞ。これならうつぶせになって這って進んだ方がまだいいかな。

 がちゃん! 「!!!」

 突然、仰向けの体勢で手首足首が拘束されてしまった!

 「しまった! 動けな…」手首足首に鉄のベルトが完全に巻きつき、四肢が動かせない! わずかに上半身を起こすことはできても、この拘束から脱出することがどうしてもできなかった。罠だ!

 まずい…こんな体勢では、ビームガンを使うことができないぞ。「こおおお…」かろうじて佐伯仙術を発動、幽霊どもを撃退することくらいしかできそうにない…

 ぷしゅううう…

 「うっく!?」周囲に淫気の強いガスが充満していく。佐伯仙術で体内に流した神通力のおかげで、即座に我を忘れることはなかったが、淫毒が体内を駆け巡るので、これを呼吸とともに身体の外に放出しなければならなかった。

 吸い込んだ淫気は、佐伯戦術の神通力によって集められ、吐く息とともに再び体外に押し出される。これによって、僕への催淫効果は無効となり、平静を取り戻すことができた。

 だがその代わり、佐伯戦術そのものが攻撃ツールにならず、襲い来る敵を撃退することができなくなっている。せめて、防御力を高めて、うっかり射精し続けるなどということがないように、神通力によって性感神経を鈍麻させるくらいしかできそうにもない。

 それでも、何もないよりは遥かにマシだった。

 僕の腰元に、1人の幽霊が姿を現した。低学年生くらいの、まるっきり幼い女の子の幽霊だった。彼女は全裸で、上半身は細くしなやかできめ細かい肌をしている。もちろん胸はまったく出ていない。下半身も細身ながら、ふとももはすでに女性らしい膨らみが始まっている。腰回りの肉付きが良く、下腹部にもまったく毛が生えていない、まさに少女であった。

 まさか…こんないとけない娘までが、男どもを籠絡し、あまつさえ本番挿入してしまうというのか!

 だが彼女は、あえて未発達すぎるオンナでペニスを包み込むようなまねはしなかった。

 その代わり、萎えたペニスをお腹まで反らせた状態にして、その上にオンナごと乗っかってくる。ぷにっぷにの柔らかいオンナ表面がペニスを圧迫する。僕の腰回りにすべすべの太ももがこすれていく。

 少女はその体勢で、ゆっくりと腰を前後させ、幼く小さな女性器でペニスをズリズリとこすり始めたのだ! 「うあぁ…」柔らかくてツルツルで…気持ちいいっ!

 ペニスはあっという間に反応し始める。「クスクス…」少女は自分のオンナ表面でペニスが硬くなってくるのを感じ、子供とは思えない妖艶な笑みを浮かべて笑った。あどけない、それでいてすでに大勢の大人の男性をロリコンに仕立て上げた自信ある表情だ。

 すべすべの表面が執拗にペニスをこすりあげる! 少女スマタはえもいわれぬ快感だった。佐伯戦術で性感ダメージを最小限に抑えているにもかかわらず、股間に迫り来るホットドッグの感触は、彼女の体重による圧迫と柔らかでしつこいこすりつけ攻撃によって、いつでも射精してしまいそうなほど甘美なものとなっていた。

 ガマンしなければ…僕は踏ん張りながら、幼子のオンナ表面という禁断の魔の手から精子を守り続けるのだった。

 ベルトコンベアーはあまりにもゆっくりと進んでいく。

 佐伯戦術がなかったら、すでに何度も射精し続けていたに違いない。

 「!」少女の身体がわずかに変化していく。注意していないと気づかないような変化であるが、少しだけ彼女の身体が大きくなったような気がした。

 少女は素早く腰を小刻みに前後させて、しつこくしつこくペニスをこすりあげ続けている。柔らかく熱い器官の表面がぴったりペニスを覆い、ワレメに挟み込んでしっかりと圧迫しながら執拗に扱き上げ続けている。少女は僕にしがみつきながら、腰だけを動かしてペニスを一方的に責め続けた。

 ぎゅっと抱きついても、女の子の頭部はやっと僕のお腹にあたる程度だ。だが、注意深く見ていると、その頭部がじわじわと、僕の胸板に迫ってくるのが分かった。

 生足の感触もだんだん女らしくシコシコしていき、ペニスにあたる表面部分も急激に発達していく。

 間違いない! 少女は成長している!

 僕の腰に張りつきながら、彼女は誰と交代するわけでもなく、ベルトコンベアが進むごとに、急激に成長し、7歳、8歳、9歳と年齢を上げていっているのだ! 幽霊だからこそできる技である。

 ベルトコンベアがゆっくり進んでいる理由が分かった。幽霊が大人になっていくプロセスが急激で、それを男どもにたっぷり味わわせるためだったんだ。ベルトコンベアが最後に行き着くまでに、少女はどんどん大きくなっていき、一人の若くかわいい女の子が美しく成長しながら、最後まで男にはりついて精を絞り続ける。その成長を味わいながら延々と射精させられる…このベルトコンベアはそういう装置だったんだ。

 ぴりっ! フラッシュバックが始まる。

 あああ! なんて光景だ!

 大勢…というほどではないが、十数人の男性が、ベルトコンベアで並んで運ばれている。まるで工場で並んで運ばれている製品のように、等間隔で規則正しく並べられ、ゆっくりと運ばれているのだ。

 「あひいいい!」「うぐあああ!」「あああっ!!」大人の男性たちが快楽の悲鳴を上げ、脱出しようと抗っているものの、彼らの四肢はやはり鉄で拘束されており、身動きがとれない。

 そして、彼らの腰には騎乗位の体勢で一人ずつ女の子が張りついているのだ。

 淫気が充満し、彼らは狂ったように性欲の虜になってしまっている。そこへ幼い娘がはりついて、スマタからはじまり、途中から騎乗位挿入に切り替わっていくのだ。その間中、ほとんど途切れることなく射精の脈打ちが続いている。

 彼らは皆、鍵の謎を解くなどして、体育館の天井裏に入り込むことができた男性だ。高校生集団や中学生集団をものともせず、半ズボンの妖怪から逃れることができた猛者たちだ。おそらく、コドモになんかまったく興味を持たず、そこに性的ないかなる魅力も感じることがない大人の男性たちで、この杉戸村の謎を解こうとがんばり抜いた者たちなのだろう。

 しかし、この淫気に捕まり、四肢を拘束された状態で、少女がはりついて執拗に責めている状況では、いかにロリ嫌いの男性といえどもひとたまりもないのだった。彼らはあっさりと女の子供の魅力に取り憑かれ、彼女たちの身体に止めどなく射精し続ける。

 少女たちは小学生から中学、高校生へと成長していく。その肉体が女らしく膨らんでいく有様を目の当たりにしながら、その性器をしっかり味わい、その快楽にほだされて四六時中射精し続けている。

 「うわああ! やめ…もうやめて!」男たちは懇願するが、少女たちは胸を文字どおり膨らませながらクスクスと腰を振るばかりであった。

 恐ろしいのは、ベルトコンベアが最後まで到達したときに、彼らは瞬時にしてスタート地点に戻され、拘束されたまま、また運ばれているという状況である。ある少女が高校生になるまでずっと張りつき、最後まで射精し続けたかと思うと、また別のかわいい女の子が彼の腰に張りつき、スマタから始める。そしてその娘が18になるまでのめくるめくセックスの宴が、ベルトコンベアで運ばれる間中続けられることになるのだ。

 男たちは何度も運ばれ続け、すでに数え切れないくらいの少女たちの成長を見届け射精し続けたのだ。

 そこから逃れることができず、すっかりロリ属性が開発され、力尽きていく。一人、また一人と、コドモ大好き人間になった大人の男性は、獣道である学校の校舎へと送り込まれ、そこで今度は、大勢の少女たちと交わることになる。

 そう、この天井裏は、どうしても子供になびかない頑固な男たちを籠絡し、心の奥底までロリコンに仕立て上げてから、校舎内で最後の一滴まで搾り取るための、洗脳装置でもあったのだ。

 フラッシュバックとともに、彼らの無念が伝わってくる。かたきは…僕が必ず取る!

 「こおおお…」佐伯戦術を強める。淫気とスマタで止めどなく射精し続けた男たちと違い、僕はまだ一度も脈打っていない。防御力を強め、感じないように踏ん張りながら、突破口を探し当てなければ。

 ぬぷっ

 「うあああ!」ついにオンナが牙を剥いた! 高学年くらいに成長した少女が、突然ペニスをオンナの中にねじ込んでしまったのだ!

 うああ! きつい! なんて狭さなんだ! まだまだ発達途中の未熟な膣であったが、からだが小さいので、どうしても狭くて柔らかいのだ!

 「あっあっああっあっ…」女の子は可愛らしく鳴きながら、僕に抱きついて腰だけを上下させる。肌のきめが細かく、吸い付くように心地よい。成長するにつれて、その肌触りがより一層女らしくなっていき、男を快楽に包み込んでくれているみたいになっていく。さらに女の子は騎乗位で激しく全身を上下させ、ペニスをどこまでも扱き上げ続けたりもしてきた。

 「うぐあああ…」佐伯戦術でさらに強化したにもかかわらず、それを超える快楽が始まったせいで、僕はまたもや追い詰められてしまった。

 まずい…このままでは、射精してしまう! 佐伯戦術が追いつかないほど強力な少女霊なんだ! 神通力のない男たちがロリ属性を開花させてしまうのもやむないことだった。

 イク直前の多幸感が襲いかかる。それでも彼女は腰を振るのをやめてくれなかった。「うぐああっ!」僕は渾身の力で踏ん張ったが、じわじわとくすぐったい感覚が、きゅ~んと全身を駆け巡る。この気持ちよさこそ、射精が始まる直前の快楽こそ、もっとも甘く危険な感覚なのだ。

 それでも、ここで彼女たちの軍門に降り、無念に散っていった男たちの思いに応えられないなどということは、絶対にあってはならないのだという思いが、僕の射精をかろうじて踏みとどまらせていた。ここで堪えきることができなければ、敗北だ。鎮まらなければ! まけるものか!!

 涙目になっているあどけないつぶらな瞳が、妖艶に細まったかと思うと、少女は手を後ろに回し、僕の玉袋を柔らかく小さな手でなで回し始めた! 「うああああ!」イク直前の多幸感が何倍にも高まって、かろうじて堪えていた僕を一気に快楽地獄にたたき落とす行為だった。

 「へへっ☆」イタズラっぽい笑いがとどめを刺した。「ああああっっっ!!」どばあっ!

 精液が大量に、少女の膣内に吸い上げられていく! その間中も、腰使いと玉袋攻撃が緩むことがない。脈打つペニスをそのまま扱き続ける。彼女たちはそうやって男たちを堕としてきたのだ。少女の身体がさらに急激に大きくなっていく。

 膣はまだまだ直情的だが、彼女の胸に膨らみが見え始め、腰回りにも女性らしいくびれと肉付きが現れ始める。第二次性徴が始まったようだ。

 出し尽したペニスを抜くことなく、少女はさらに腰を振って次の射精を促してくる。13歳くらいに成長したとき、はっきりと乳房が突き出て、女の子が美少女に変貌していくのが分かる。生足が女性らしい膨らみを見せ、その肌触りも精液を絞るに十分な武器へと急成長していく。ペニスはそんな彼女の中で苦しめられ続けている。

 14歳でBカップくらいに胸が膨らむ。そのおっぱいもだんだん形が整い、肉付きが良くなっていくのがみるみる分かる。オンナの感触も発達し続け、ひとこすりごとに未熟であどけない感触から、ヒダの数や包み込む妖艶さに変化が見られるようになっていく。男たちはその変化をじかに連続してペニスに感じ、ひとこすりごとに脈打っていたのだ。

 どびゅるるる!! ついに中学生に成長した女の子のオンナに耐えきれず、僕はこのベルトコンベアで二度目の射精を許してしまった。少女はさらに成長し、身体も大人の女性とさして変わらないくらいになっていく。まだまだ顔に子供っぽいところは残しているが、身体はすでに大人のそれにかなり近づいている。

 その胸もどんどん膨らみ、大人の女性のおっぱいとほとんど変わらなくなった。いや、若くてハリがある分だけ、20代の女性を遥かにしのぐぷりぷりした弾力に満ちあふれている。その若い乳房が僕の胸板を這い回り、スベスベのほっぺが僕にほおずりしてくる。若者特有の脂っぽい息づかいが、かえって僕を興奮させるのだ。

 ついに少女は17歳、18歳へと変貌していく。完全に受胎能力を備えた女の子は、執拗にペニスを責め続け、僕の唇を奪い、大きなおっぱいで僕の胸板をくすぐり、太い生足で僕の腰や足を撫でさする。ガマンなど仕切れるはずはない。僕と同じくらいの年の少女、つまり女子高生なんだ。高校生には弱い僕が、彼女たちの成長したすばらしい肉体に耐えるなど、どだい無理な話だ。

 「ひゃああああ!!」射精が連続する。脈打ちが止まらない! イキ終わって律動が鎮まろうとするかしないかのうちに、次の射精が始まってしまうのだ。あの多幸感は一秒たりとも休まることなく、僕を天国に押し込め続けている。

 だめだ…このまま行けば、またスタート地点に戻され、6歳くらいの女の子がはりついて、スマタからはじまり、成長していく有様を見せつけられることになる。なんとかして脱出しなければ。

 ゴールまであと少し。だが、今のままではまたスタート地点に自動的にワープだ。

 …ワープ?

 一体どんな霊的現象が、僕をワープさせるのだろう。四肢を捕らえられた男たちは、どうやってワープさせられたのだろう。

 第一瞬間移動などという、完全に物理法則を無視した現象を、色情霊たちが実現できるのだろうか。

 実際には、瞬間移動なんてしていないのではないか。だとすると…

 「こおおお…」佐伯戦術を強める。しかし、防御力の強化ではない。身体の中に食い込んでいる淫毒をさらに放出し、いささかも残さないようにするんだ。「ムン!」僕は踏ん張りながら息を止め、耳から残りの空気をすべて放出する。きーんと頭が痛い。

 「!!」すると目の前がぐにゃりと歪んだ。僕は上半身を抱き起こし、ぶんぶんと首を振る。

 上半身を起こすことができた…つまり四肢はすでに拘束されていない!

 僕は出口付近で体勢を変え、思い切ってベルトコンベアから降りてみた。

 「…ぷはあっ!」やっと息をし、さらに呼吸を整えた。

 「!」フラッシュバック。なんと、仰向けに寝かされて少女に犯されている男性は、誰も拘束されていない。仰向けで寝たまま、彼女たちに犯されるままに身を任せている。そして、最後まで到達したとき、側面の非常用通路を自分で這って、スタート地点に戻っていくのだ。そして、自分から仰向けになり、もう一度ベルトコンベアで運ばれているのだった。

 あの淫毒には幻覚作用が含まれていたんだ。

 少しでも吸い込めば脳に侵食する幻覚霧。淫気を放出することに懸命になり、幻覚作用には気づかなかった。

 男たちは、幻覚によって惑わされ、自分からスタート地点に戻って何度も運ばれているのだが、彼ら自身それに気づかず、拘束されていると思い込み、ゴールにたどり着いたらスタート地点にワープしていると思い込んでいた。でも実際には、自分の足でスタート地点に戻っていただけなんだ。

 佐伯戦術で、幻覚作用のある空気まですべて放出したので、僕は気づくことができた。

 僕はベルトコンベアのゴールの先にいる。つまり、この罠を乗り切ることができたんだ。

 そこは小さな部屋だった。テーブルがひとつ置いてあり、そこに小さな紙切れと、どこかの鍵が置いてある。両方ともとても大事なアイテムなので、こんなところに隠され、少女霊たちによって厳重に守られていたというわけだな。



*地図の一部(5/8)を手に入れた。
*大浴場の鍵を手に入れた。



 ようやく、杉戸村も佳境に入ってきたんだ。そろそろ目が覚めるかな…

………。

……。

…。

 「…。」

 目が覚めた。呼吸を整えてコンディションを立て直すと、着替えて店に出向いた。学校に行く前にやっておきたいことがあったのだ。

 キノコぐんぐん伝説では、佐伯長官が懸命に修行に励んでいた。店の掃除、具材の準備など、いわゆる雑用を真摯にこなしているのだ。だが、本来”雑用”という仕事など存在しないことを、長官は身をもって学んでいるところなのだ。雑にできるものなど何一つない。マスターと手分けしながら、店の準備と開店に向けた動きが整えられていく。朝食の時間には、すっかり開店の準備が整った。

 最初のお客様は、僕たちだ。

 朝食オムレツセット、2人前。僕と並木さんの分だ。朝食ドッグフード、1匹前。もちろんポッティの分だ。長官とマスターは早朝に済ませて置いたらしい。

 僕:「学校の方はどうですか?」

 ポッティ:「ふむ。あらかたは片付いておる。今日から普通に登校しても、何ら問題はないだろう。…問題は…」

 僕:「あの矢のこと、ですね…根本的な対策がなければ…」

 佐伯:「そうだな…今のところ、根本的な解決方法は、ない。あくまで対症療法的な解決しかできないんだ。」

 クピドの矢。なんと恐ろしい武器を敵は開発してしまったのだろう。あの矢を身に受け、愛の告白を受けると、僕の心は掻き乱され、その相手を心底好きになってしまう。弱体化し、好きな娘とのセックスであっさり射精してしまうようにもなる。

 ポッティ:「君が見いだした突破口、愛の囁きも、ここからは通用せんじゃろうて。」そう…唯一、クピドの矢を打ち破る方法があった。それは、矢を放った相手に愛を囁くことだ。彼女たちは矢を放ちながら、同じ程度に僕を好きになっていて、僕から愛されれば、たちどころに女体が過敏に反応、愛される女の喜びに震えてあっさり絶頂してしまう。つまりクピドの矢は諸刃の剣でもあった。それを利用して、いったんはピンチを脱したのだった。

 だが、そんな欠陥があるということは、敵も分かりきっているはずだ。すぐにでも改良され、欠陥は克服されてしまうことだろう。従って、これ以上は愛の囁きで返しても、敵を一網打尽にすることはできなくなる。

 やはり、僕自身がしっかりしなければ、根本的には解決されない。

 しかし…運命は絶対だ。

 僕は誰かに愛されることが決してない存在だ。すべての女性に彼氏がいて、そのまま年老いていく。出会いもなく、あっても相手にされず、老人になれば老人であるというその一点だけで誰にも相手にされない。そう運命づけられているのだ。もしそれを打ち破れば、誰かを妊娠させたら、魔族どもに僕が“デーモンの息子”であることがばれ、よってたかって攻撃され、魔界に引きずりこまれてしまうのである。この運命を作ったポッティは、僕を守るため、助けるためにそうしたのだった。

 その結果、僕は本能的に、誰かに愛されることにとても弱い体質となってしまったのだった。ずっと気づかなかった弱点だ。本能に関わる部分なので、訓練で克服することは困難でもあるし、そもそも訓練法自体が存在しない。

 なんとかしなければ…

 佐伯:「とにかく、敵の狙いははっきりしている。属性開発だ。」

 僕:「属性…くそっ…」

 身にしみて分かっている。あれほど大量のクピドの矢を、僕は女子高生から浴び続けてしまった。その結果、矢を放ってもいない女子高生相手でも、その姿を見ただけで激しく心が高鳴り、緊張し、興奮してしまう。僕はすっかり、高校生属性を開発され、彼女たちには敵わないくらいにドキドキしっぱなしになってしまうんだ。もちろん、戦闘になれば、こちらの弱体化は甚だしく、メロメロな中で戦えば、矢を受けていない相手にだっていくらでも出してしまうことになる。

 敵の狙いは、僕にありとあらゆる属性を開発、どんなタイプの女でも激しく恋い焦がれ、すぐに射精してしまう心と体に仕立て上げることだ。子供でも、大人でも、おばちゃん集団がクピドの矢を撃ちまくっても同じことにさえなってしまうだろう。年齢だけでなく、体型、身長、性格、社会的地位など、様々な側面で、これからもクピドの矢が集中砲火、僕に浴びせかけられるだろう。

 すべての女性に弱い男、フザケンジャー。そうなったら最後、どれほど強化しようと、どんな神通力を身につけようと、どれほど修行しようと、そうした努力とは関係ないところですべて決着がついてしまうことになるのだ。

 ポッティ:「対策は我々も考えよう。君は学校に行って、女子高生たちを眺めながら、高鳴る心臓を抑えられないか努力してみたまえ。」

 僕:「わかりました…」

 並木:「がんばってね…」

 僕は並木さんに見送られながら、学校に向けて歩き出すのだった。

 マスター:「さて…一段落つきそうだね。」

 佐伯:「はい…これから昼の仕込みをお手伝いいたします。」

 マスター:「いや…その必要はない。今日は、別の修行をしてもらう。」

 佐伯:「えっ…」

 マスター:「最近はよく眠っているようだが、夢精はしておらんな。さすがは佐伯仙術創始者。エネルギー量は確かだ。」

 佐伯:「…。」

 佐伯翔は、特殊な修行の成果で、これまで超短眠生活を送ってきた。それは、夢を決して見ないようにするためだった。長年の戦いの後遺症で、佐伯は眠れば必ず強い淫夢に悩まされ、衰弱するほど夢精させられる呪いを身に受けている。だから、眠って夢を見るわけには行かなかったのだ。厳しい修行の結果、きわめて短い睡眠しか取らずとも平気な肉体へと鍛え上げてきたのだった。

 ところが、マスターは佐伯に酒を飲ませ、無理に眠らせた。淫夢を見てもらうためである。短眠法では、本当の意味での克服にはならない。淫夢を見ても射精しない状態を作るのが本来のあり方だという考えの基、佐伯は無理に長時間睡眠を取る習慣に変えられたのだった。

 ポッティ:「ふーむ…寝ている間も体内に大量の神通力が流れておった。佐伯君、そのまま神通力漬けになったまま眠るのは毒じゃよ。」

 マスター:「左様。淫夢の中で四六時中神通力を体内に大量に流し、夢の女を相手にどうせバッサバッサと切り捨て続けているのだろうが、それは逃げているのと同じだ。」

 佐伯:「しかし…」

 マスター:「君は、夢の中で神通力を制御できていないのではないかね?」

 佐伯:「…実は…その通りです。勝手に神通力が出てくる。止めようとは思わないが、たぶん止めたいと思っても勝手にあふれ出てきて、止まらないでしょうね。」

 マスター:「なぜだと思う?」

 佐伯:「簡単ですよ。俺は女が嫌いだ。嫌いな者が裸で大勢迫ってくる。おぞましいから神通力が勝手に出る。」

 マスター:「違うね。君は女が嫌いなのではない。女が…怖いだけだよ。」

 佐伯:「う゛っ…」

 マスター:「恐怖する自分を認めるわけにはいかないから、嫌いな振りをしているだけだ。少年時代の戦いがトラウマとなって、潜在的な恐怖が君の精神に食い込んでいる。だから淫夢を見ても、即座に神通力で切り捨てようとする。…それを逃げと言わず、なんというのだ。」

 佐伯:「…面目ありません…」

 マスター:「そこでだ。今日は、女性恐怖症克服の修行をしてもらう。」

 佐伯:「えーーー!!!」

 マスター:「恐怖感がなくなれば、淫夢の中で神通力だけに頼らない戦いもできるようになるはずだ。物事の見方にも柔軟さが備わる。その上で淫夢を克服すれば、君は一回り、さらに強くなり、長官として自他共に認める存在となることができるだろう。」

 佐伯:「俺は…」

 マスター:「おっと、自分に向き合おうとするなよ。そんなことは君はさんざんやってきた。だが、この恐怖症は、それだけでは克服できない。」

 佐伯:「じゃあ…どうすれば…」

 マスター:「デートしてこい。一日かけて、たっっぷりと。」

 佐伯:「げえええ!!!!」

 ポッティ:「ほっほっほ。ワシとデートだなんて、唯一神困っちゃう☆ だめよーだめだめっ」

 マスター:「犬を連れて散歩してもダメだ。」

 佐伯:「てめーは黙ってろ!」

 ポッティ:「う…ひどい…唯一神なのに…扱いひどいのじゃ…」シクシク…

 マスター:「並木君と一日デートしてくること。彼女が合格点を出すまで帰ってくるな。」

 佐伯:「うわあああん! やっぱりいいい!! おねがいしますそれだけは!」佐伯はマスターにすがろうとした。

 どきゃ! ぐわっ!

 マスターの肘鉄と並木のケリが同時に佐伯に炸裂した!

 佐伯:「ぐぎゃあああ!!!」

 並木:「どういう意味だ!」

 マスター:「第一歩から彼女を怒らせてどうする! だから君はダメなんだ! ちゃんと行ってこい!」

 並木:「言っておくけど、私は厳しいよ?」

 佐伯:「…ですよねー…」

 並木:「さ! まずは私をどこに連れて行くの?」

 佐伯:「えっと…テコンドージム?」

 どきゃ!

 佐伯:「ひぎい!! …すいませんでした。あ、わかった! ホテル! とりあえず俺の快感攻撃戦術を受けてみろはっはっ…ぎゃああああ!!!」

 手を腰に当てて足を拡げた佐伯のタマキンに並木の容赦ないケリ。彼はもんどり打って床を転げ回った。

 並木:「死ね! 本当に死ね!」

 佐伯:「うぐぐ…そんなこと言ったって…デートなんてしたことないもん…」

 並木:「つべこべ言うな! 行くよー!!」

 並木は佐伯の手を引っ張って無理矢理店の外へ連れ出した。

 ポッティ:「…やれやれ。行ったか。見ておれんな。」

 マスター:「世話の焼ける二人だが、…初々しいねえ。私はむしろ、じっくり見守りたいところですよ。もっとも、店をほったらかしにはできないがね。」

 ポッティ:「ワシも、見に行きたいが、こうしている間も魔族の手が伸びないとも限らん。ここを離れるわけにはいかんな。」

 マスター:「なぁに。あの二人なら、任せておけば大丈夫でしょう。失敗やケンカしながらも、なんとかうまくなっちまうでさあ。」

 ポッティ:「ふむ…」

 一方。外に出て歩き出した二人。

 並木:「で? まずはどこ行く?」時間は8時。考えつくスポットに行くには早すぎる時間帯だ。朝食も済んでいる。さて、こんなときどうするか…佐伯は考えながら歩いた。

 佐伯:「ふーむ…」

 並木:「ふーむじゃなくて。どこ行くの?」

 佐伯:「定番はショッピングと決まっているんだがねえ…ふーむ…」

 並木:「駅前のデパートは10時開店だよ。まだじゃん。」

 佐伯:「ふーむ…」

 どきゃ!

 佐伯:「ぎゃああ!!」

 並木:「減点1! 女の子の機嫌を損ねるな。」

 佐伯:「お前は減点する度にタイキックかますのか。」

 並木:「ほっほっほ。」

 佐伯:「…かえりたい…」

 どきゃ!

 佐伯:「ぐわああ!」二人の前途は多難のようだ。

 公園に着いた。ここは神谷がポッティと初めて出会った場所でもある。

 佐伯:「ちょっとここで休んでいくか。」

 どきゃ!

 佐伯:「ぎゃあ! なにすんだ!!」

 並木:「小さい公園で休めるのは、相当関係と絆が深まったアベックだけだ。初デートで来る場所じゃない!」

 佐伯:「アベックって言った…アベック…」

 並木:「で? どうすんの?」

 佐伯:「お前はどこに行きたいんだよ。」

 並木:「え~? わかんな~い♪」

 佐伯:「ぐっ…こいつ…」

 並木の行きたい場所を佐伯は一発で当てなければならない。外したら愛が足りない証拠だ。並木の考えそうなことを…探り当てるんだ。これも…大切な修行なんだから。

 佐伯:「こいつが行きたそうな所…こいつが行きたそうな所…分かった!」

 並木:「!?」

 佐伯:「ムエタイじ…じゃなくってえ、」あと0.1秒打ち消すのが遅かったら強烈なケリがお見舞いされているところだった。

 並木:「どこ?」

 佐伯:「朝からやっている近所の喫茶店だ。」

 並木:「…はぁ?」

 …。

 カランカラン。「いらっしゃいませー」中年のマスターが笑顔で出迎え、近くの席に案内される。コーヒーを二つ注文した。

 丹念にコーヒーを入れるマスター。近くには、客をびっくりさせまいとしてじっと動かないでいるテルテル坊主。この喫茶店の名前は、近所で有名な“キノコぐんぐん伝説”という。

 並木:「戻ってどうするんじゃああああ!!!!」

 佐伯:「まった! 蹴るな! 今日一日どう過ごすか、どこに行くかをさ、ここで二人でちゃんと話し合ってから行こうと思うんだ。」

 並木:「え…」

 佐伯:「俺一人で決めるんじゃなくて、君とちゃんと向き合って話してから、その上で俺が決断する。どうだ? 悪くない提案だろ?」

 並木:「…ふうん…」

 二人はコーヒーをすすった。

 佐伯:「…というわけで、こういうプランはどうだろう?」

 並木:「ムリ。忙しすぎだっつーの。デートだからってあれもこれもってせわしなくスケジュールを立てるのは御法度だよ。なにこの”デパートで水着ショッピング1分30秒”て。」

 佐伯:「いや…そのあと奈良ドリームランドでアスカに乗ってからとんぼ返りで飛行機に乗って行川アイランドでフラミンゴショーを見て、そこの温水プールで一泳ぎしてから、こっちに戻ってきて東京タワーのレストランに行って豪華ディナーワイン付きを楽しもうとするとな、どうしても駅前●武ス●アの水着ショッピングは90秒しか時間がとれないのだよ。」

 並木:「死ねよ。」

 佐伯:「なっ…!?」

 並木:「まっっったく分かってないなあ。女は、どこへ行くかが大事と言うより、どんな時間を過ごすかが大事なんだよ。考え直して。」

 佐伯:「そうか…ふーむ…」

 結局、佐伯の推したアスカとフラミンゴは取りやめとなり、一カ所で長時間を過ごすという当たり前の内容に修正された。

 ポッティ:「…やれやれ」

 並木:「げっ。テルテル坊主がしゃべった!?」

 佐伯:「はっはっは。あれは犬だよ。」

 ポッティ:「…わん…」

 二人は喫茶店をあとにした。

 マスター:「なんだかんだいって、ちゃんと進展しとるじゃないか。」

 ポッティ:「ワン。」

 マスター:「協力しながら、一方的にならずに二人で決めていく。いい路線だ。これで彼の女性恐怖症が治って、並木君の想いが成就したら、きっとフザケンジャーの組織も盤石になる。…未来に向けてもな。」

 ポッティ:「わんわん!」

 一方。二人は無事にデパートに着いた。

 佐伯:「行川アイランドで泳ぐこともないのに、水着を買う必要もないよなあ。」

 並木:「いいじゃん普通の服で。行こ。」

 佐伯:「ああ…」と言いつつ、近くのベンチに腰を下ろす。女の服選びは時間がかかる上ああでもないこうでもないと始まり、試着しては戻し試着をくり返して、実に退屈なのである。

 どきゃ!!

 佐伯:「ぎゃああ!!」

 並木:「一人で買わせるんじゃないよ! ちゃんとそばにいてつきあって、退屈な時間を過ごせ。女はそれがうれしいんだ。」

 佐伯:「はうう…」

 並木:「白いワンピースと黒いワンピース、どっちがいい?」

 佐伯:「上が白のワンピースでスカートが黒のワンピース。」

 げしい!

 佐伯:「げふうっ!!」

 並木:「ワンピの意味も知らんのかこのクサレチンカス! …はっ!?」

 ここはフザケンジャー本部ではない。普通のデパートの服コーナーである。近所のおばちゃんや子供連れが店内にいる。

 「まぁ…最近の若い子は乱暴ねえ。」「今時って女は強いんだねえ。カレシをあんなに蹴っ飛ばして」「おばちゃんが若い頃は…考えられなかったよ。時代なのかしらねえ…」

 ざわ…ざわ…ざわちん…

 並木:「はううっ!!!」

 並木は5674ポイントのダメージを受けた。

 佐伯:「ぐっふふふ…これでお前の得意なタイキックも封じられた…ここからは俺の天下だ! さあ好きなようにさせてもらうぜ! ふははは!」

 並木:「ぐっ…おのれ…」もはや並木は赤面でおかしくなりそうだった。

 とりあえず買い物はそこそこにして、二人は店をあとにしたのだった。

 そんなことをしていると、お昼も近くなってくる。

 並木:「ご飯にしようよ。何か食べたいものはある?」

 佐伯:「そうだなあ…」周囲を見回すと、野生の鳩が数羽歩き回っている。「…ヤキトリ。」

 並木:「…。」鳩が一斉に飛び立った。

 佐伯:「ふむ。平和だな。」

 並木:「どこがだよ。アンタが恐怖の大王じゃないか。」

 そんな会話をしながら、比較的すいている店に入っていくのだった。

 並木:「午後はどこに行こうかな。」

 佐伯:「そうだな。隣町にあるカセットテープ博物館なんてのはどうかな」

 並木:「さすがにレトロな感覚ではあるが古すぎでもなく今の人は誰も知らないだろうというネタでカセットテープ博物館などという存在するはずもなさそうなものをネタに何か書こうとしたら本当にカセットテープ博物館がサイトで実在していたのでびっくり仰天もう時代はそんなところに突入してしまっていたのかカセットテープと言えばフロッピー前の記録装置だったと言っても誰も信用してくれずそもそもカセットを知っていても音楽以外の用途など夢にも思わないベやーいやーいとやりたかったのにもはやどうにもこうにもネタに行き詰まって途方に暮れた驚きを隠せない十無のようになりたいのか。」

 佐伯:「すいません何を言っているのかわからないです。」

 並木:「却下。ほか!」

 佐伯:「その前に注文しようよ。えっと…あっ!!」

 並木:「どしたの?」

 佐伯:「う…うーぱーるーぱーの唐揚げというメニューがある…!」

 並木:「げっ!! 本当だ! 食べられるのか…あれ…」

 店員:「いらっしゃいませ。おいしいですよ。」

 並木:「いや…唐揚げって…そのまま揚げるの?」

 店員:「ええ。揚げたてを頭からがっつり♪ 当店おすすめメニューです。」

 佐伯:「…。」

 並木:「い、いやいやいや! アンタ食べる気じゃないでしょうね!?」

 佐伯:「俺のアソコはうーぱーるーぱー…」

 並木:「ちょっ! 正気になれ! 考え直せ! アホロートルだぞ!? オオサンショウウオの仲間だぞ(厳密には違うか…)!? 白ピンクだぞ!?」

 佐伯:「…。」

 並木の必死の説得により、二人はハンバーグランチを食べることで落ち着いた。

 並木:「あ…あぶないところだった…」

 佐伯:「何が?」

 並木:「フザケンジャーがグロ小説にならずに済んだんだよ。」

 会計。

 並木:「ここはお前が。」すっと伝票を男によこす。

 佐伯:「…そうだな。」

 並木:「あれ!? 以前と反応が違う! ここで伝票を押しつけあってケンカになるというネタが…」

 佐伯:「俺が払うのが当然だろ。」

 並木:「…。ごめんなさい割り勘でお願いします。」

 佐伯:「そう、か…」

 二人は店を出た。

 佐伯:「じゃあ、行こうか。」

 並木:「どこへ?」

 佐伯:「近所の喫茶…ぁ…」

 並木は佐伯の手を握った。佐伯は思わず彼女の手を握り返した。

 並木:「…これで、キノコぐんぐん伝説へは戻れないね。」

 佐伯:「…。行こう。」

 二人は、手を繋いだまま歩き出した。駅へ向かって。



######

ヘルサたん総統:「いよいよか!」

フローリア将軍:「新怪人の誕生ですね。」

ヘルサたん総統:「次の怪人は手強いぞ。今までの怪人のレベルを凌駕し、フザケンジャーの攻撃に徹底対抗した設計にしてある。そして…クピド計画と連動して、最強の敵となるのだ。」

フローリア将軍:「…。フザケンジャーのパワーや戦法を取り込んで、そのさらに数歩上をゆく怪人…一体どんな奴なのか…」

 青肌の超人。普通の女性よりも背が高く、体のパーツにどこか特化した部分が有り、世の男性を精液祭りに仕立て上げるセックスのエキスパート。ヘルサたん総統の作り出す怪人は、並の男性では太刀打ちできず、佐伯翔の仙術やフザケンジャーの特殊技能だけが、唯一これに対抗できるのだ。

 だが、今度設計された新怪人は、その斜め上を行く設計だという。神通力を弾き、フザケンソードやビームをものともせず、そして何より、レーザーブレードと奴の必殺技である満腔月斬りに対抗できる設計! 様々な改良を加えた怪人は、淫魔の中でもさらに強力な実力者となる。

 フローリアは内心戦慄を覚えていた。ヘルサたん総統の組織と実力は一体、どこまで強くなり続けるというのだ。

 鉄の掟。完全な序列。ずば抜けた作戦頭脳。さらに、悪の組織には似つかわしくない、内部統制上の寛容さもある。ヘルサたん総統は、たとえばフザケンジャーに倒された常任天国軍団のなんじゃ虫を処罰せず、そのまま密偵として引き続き同じ役職に就かせている。「失敗は許さない」「失敗には死を」という厳しさをあえて押しつけないのだ。ヘルサたん総統は、失敗から学んで改善を加え、組織を強化するすべを心得ているのだ。

 さらに、クピド計画と連動させれば、鬼に金棒、いっそうフザケンジャーに壊滅的な打撃を与えられるのだと、ヘルサたん総統は説明した。

 バリバリバリ!

ヘルサたん総統:「…本当は、このキャラは出したくなかったんだけどね。背に腹は代えられない。…出でよ! 新怪人”じゅっさいん”!!!」

 ドゴオオン!!!

 煙とともに現れたシルエットは、190センチ以上ある長身の化け物…ではなかった。

 「お初にお目にかかります。ヘルサたん総統様、フローリア将軍様。私がじゅっさいんです。」

 そこに立っていたのは、青肌の超人。だが、ちいさな体の少女だった。

フローリア将軍:「こ…これは…ヘルサたん総統!?」

 肌がブルーである以外は、背の高さも顔立ちも体型も、すべてがヘルサたん総統にそっくりだった。

ヘルサたん総統:「キャラがかぶるようなことはしたくなかったんだけど。そう、じゅっさいんは私に生き写しの怪人。私と同じくらい、10歳の子供の外見をしたロリ怪人なのだ!」

フローリア将軍:「なんですって…なんという…」

ヘルサたん総統:「いくつも改良点はあるぞ。神通力対策。会話能力。思考能力。すべてがこれまでの怪人とは格が違う! 私と同じ外見を持つ以上、みっともないまねはさせられないからね。」

じゅっさいん:「えへへっ☆ まだありますよー」

 ぐにゅにゅ…じゅっさいんの体が変形していく。

フローリア将軍:「こっ、これはッ!!?」

 あっという間に、じゅっさいんは中学生くらいの少女に変わり、さらに高校生くらいの背丈、体つきに成長した。そして、大人の女性にまでなることができたのだった。肌の色も、青から肌色、白(金髪)と変えることができた。胸の大きさなども変幻自在に変えられた。

ヘルサたん総統:「他の怪人は、おっぱいや生足など、身体に何らかの特長を具えていた。じゅっさいんの特長は、この変身能力、大人化する能力だよ。魔法少女は変身して大人になる。これこそが、じゅっさいんの長所。」

フローリア将軍:「クピド作戦との連動とはこういうことだったのか。」

ヘルサたん総統:「そう。すべての年代の女性に弱くなってもらうために、すべての年齢に変身できるじゅっさいんが矢を放てば、フザケンジャーは短時間で全属性を開発されてしまうことになる。じゅっさいんこそ、神谷の心を折れさせる最終兵器と言っても良い。」

フローリア将軍:「…タブーを破ったのですね。」

ヘルサたん総統:「そう。ここまで怪人を強化すれば、謀反になった時にやっかいなことになる。フローリア、力をセーブするのも、組織の長としては大事。よく覚えておくことね。あなたのアホな上司は、いつでも全力全霊、パワーをすべて使い切ろうとする。それで失敗したらどうにもならないくらいにね。でも、あえて部下の角を折り、手枷足枷をはめ、その実力をセーブさせて、抑えつけることも、上司としては大切なスキルなんだよ。自分が一番上であるために、ね…手足を縛っておいて“結果を出せ”とプレッシャーをかければ、その前までに勢いのあった部下を枯れさせることも簡単にできる。」

フローリア将軍:「悪魔め…」

ヘルサたん総統:「悪魔だよ。種族的にもね。…人間の世界では普通に行われていることよ。」

フローリア将軍:「…。」

 怪人を自由にしゃべらせることもできたし、もっと強化することもできた。だが、あえて弱点を付けたり、弱く作ることで、反逆の時に手を打てるようにして置いた。しかしじゅっさいんは、その枷をあえて外して制作されている。ヘルサたん総統そっくりに作られているため、弱点があってはならないのである。

ヘルサたん総統:「じゅっさいんの部下には全員、常任天国軍団が就いていただきます。リスクは覚悟の上。だから、じゅっさいんは必ず、ボウイ将軍が監視します。彼女には負担をかけるけど、フローリア将軍の監視よりはよい。」

フローリア将軍:「ぐっ…」

ヘルサたん総統:「あなたは今までどおり、アホ上司のお守りをしていてくださいね。」

フローリア将軍:「…そのアホ上司は…」

アホ上司:「あう~…疲れたのじゃ…」

フローリア将軍:「ああっ、アホ上司様、おいたわしい…」よろよろ出てきたアホ上司を抱きかかえる。かなりエネルギーを吸い取られ、衰弱してしまっている。

アホ上司:「なぁに。少し休めば…また回復するのじゃ。これで新怪人の強化に役立つのなら、わらわは本望じゃ。…おおっ!? ヘルサたん総統が二人おるぞ!? どうなっとるんじゃ?」

フローリア将軍:「我々は…恐ろしすぎるものを作ってしまいました。」

アホ上司:「はっはっは…よいではないか。これで憎っくきフザケンジャーどもを壊滅させることができるんだ。そうすれば…いよいよ魔族の天下なのじゃ。」

ヘルサたん総統:「フローリア将軍、アホ上司を寝室に案内して、お世話をして差し上げなさい。」

フローリア将軍:「…。わ…かりました…。ではアホ上司、どうぞこちらへ。」

アホ上司:「ふむ。って、さっきからキミタチ人の名前を呼ばないで失礼な言い方してない? おかしくね? 女王カリギューラサマをアホ上司とか抜かしてね?」

フローリア将軍:「いいから寝ろ!」

 どきゃ!

アホ上司:「ぎゃああ!」

 フローリア将軍はアホ上司を隣室のベッドに蹴り乗せ、無理矢理寝かしつけた。

 (はやく…なんとかしないと…これいじょうは…とりかえしがつかない…)フローリア将軍は焦った。

ヘルサたん総統:「ボウイ将軍。暗号報告を。」

フローリア将軍:「!!」

ボウイ将軍:「…。」ぼそぼそと何か声が聞こえる。だが、何を言っているのか分からない。無口な娘が、通信で、小声で何かをつぶやいているようだ。フローリアは耳をそばだて、キーンと聴力を上げてボウイ将軍の言っていることを聞き取ろうとした。

ボウイ将軍:「私が若山先生の次に尊敬しておる、コンスタッチ-セルグビッチ=スタレッツラスキーの『俳優の倫理』という本に寄りますと、”一方の方向を向いていない人間の集まりを集団と呼ぶことはできない”と、こう言っております。」

フローリア将軍:「?????」

ヘルサたん総統:「なるほど。よく分かったわ。たいへんだけど、引き続きお願いね。」

 通信は切れた。

フローリア将軍:「なぜ…暗号報告にしたのですか。私に知られるとまずいことでも?」

ヘルサたん総統:「あなたは以前、私の意に反してクピドの矢の弱点を勝手に克服した。何か罪過を用意することはできないけど、私があなたを信用しない理由にはなるわ。」

フローリア将軍:「ぐっ…」

ヘルサたん総統:「さあ、準備はもうすぐ整う。そうしたら再び行動開始よ。」

フローリア将軍:「…。」フローリア将軍の目が光った。



######



僕:「ふひ~…」

 僕は這々の体で学校からキノコぐんぐん伝説に戻ってきていた。疲れがどっと出る。もう一歩も動きたくはなかった。精神的な疲労の限界だった。あしたから…また不登校になりたいとさえ考えていた。

 とにかく、クラスの、学校中の、制服娘たちがまぶしいのである。女子の姿を見る度に、あの娘に惚れ、この娘にどきりとし、別の少女にドキドキし、となりの子にメロメロになる。相手にまったくその気がなくても、クピドの矢にすっかり属性開発させられてしまっているので、同世代の高校生たちを目の当たりにしては、心臓が高鳴り、性欲が格段に増し、勃起を抑えることができずに股間を隠してしまう。そんなことが、登校した瞬間から学校を離れるまで、一秒も休むことなくひっきりなしに続いたのである。

 精根尽き果て、心労も相当なものであった。店に着いた僕は、そのままぐったり動かなくなってしまった。佐伯長官と並木さんがいないことに気がついたが、意に介することもできないほど疲れ切っていた。

ポッティ:「たいへんじゃのお。」

僕:「も~…へとへとッす。なんもできねっす。なんとかしてくださいよー…アンタ神様でしょ~?」

ポッティ:「犬です。」

僕:「なんじゃそりゃ…」

マスター:「本来なら、精神修養で惚れっぽさをたたき直すという手がよいのだが、君の場合、その性向が本能レベルにまで食い込んでしまっている。努力でどうにかできる領域ではないのだよ。」

僕:「そんにゃ~…」

ポッティ:「対策は考え中じゃ。それまでは、がんばり続けるほかはない。」

僕:「はうう…また学校に行くのが嫌になった。」

マスター:「それはならん。遅かれ早かれ、君はクピドの矢によって、全年齢、全属性に弱くなるはず。街を歩けなくなるぞ。学校に行くも行かぬも変わるまい。だったら行くんだ。突破口は必ず、どこかにあるはずだ。」

僕:「…。」

ポッティ:「とにかく、おぬしは今日は相当に疲れておるようじゃ。どれ…特別に労をねぎらって、この世界の話をしてやるかいの。…こっちへ来い。」

 僕はポッティに連れられ、奥の修行室に入った。暗く何もない部屋だ。ここで座禅したりして気を高める修行をする。ロウソクがともされ、僕とポッティだけの二人になった。

ポッティ:「…心を静めなさい。」

僕:「…。」

ポッティ:「この話は、佐伯長官も知らないほど、深く隠されたこの世界の構造じゃ。本当は、唯一神の口から話すべきことでもないのだが…今は戦いのため、致し方ない。気軽に口外はせぬことじゃ。」

僕:「はい…」

ポッティ:「神界や魔界、人間界など、様々な世界があることは、おぬしも承知の上じゃな。」

僕:「いやでも信じざるを得ないですよ。おかしな連中に巻き込まれているんだし。」

ポッティ:「ふむ。それで分かると思うが、この宇宙、世界は、一つではない。複数の世界が重なり合って存在しておる。縦、横、奥行きという3次元に我々は存在しているが、同時に別の世界がそれぞれ3次元を持っておる。」

僕:「…?」

ポッティ:「別の3次元は、プランク長レベルの超ミクロ空間に折りたたまれている。」

僕:「あのー…おバカな僕にも分かるように…」

ポッティ:「あまり詳しく丁寧には説明できぬ。今の人間が知ってはならぬことも含まれておるからの。…そうじゃな…超ミクロの世界で、素粒子よりも小さな世界で、3次元以上の空間がすべて、”我々から見て”小さく折りたたまれていて、内部を知ることができない、とまでは伝えておこう。その次元、4次元以上は、我々の世界から見ると、空間の奥に折りたたまれていて、見ることができないのじゃ。しかし、もし、その折りたたまれた空間の折り目をすべて伸ばして、拡げたらどうなる?」

僕:「えっと…折りたたまれて見えなかったものが見える…」

ポッティ:「そう。折りたたまれた空間を拡げると、この世界とはまったく別の3次元空間ができあがる。この世界を第一空間と呼ぶなら、さらに背後には、第二と第三の空間が折りたたまれているのじゃ。第二空間から見ると、我々の世界と第三の空間は、ミクロレベルで小さく折りたたまれて見えない。お互いにそういう関係になっている。三つの世界が重なり合って繋がっているが、お互いに見ることができず、折りたたまれていて行き来もできない。3次元×3で9次元、それに時間軸と重力およびエネルギー軸を併せれば11次元じゃ。」

僕:「えー…とにかく三つの世界があるということは分かりました。」

ポッティ:「この三つの世界は同じ時間軸を共有している一枚の膜のようなもの。その外側に行けば、別の時間軸を持つ宇宙が存在する。時間軸が違うので、その別世界でいくら過ごしても、我々の宇宙では時間が経過しない。従って、ほぼ直接に繋がりあいはないとみてよい。」

僕:「はぁ…」

ポッティ:「ま…別の時間軸の話はよい。とにかく世界が三つ重なっていることは分かれ。それでな、一つがわれわれの住むこの宇宙世界。もう一つが、いわゆるファンタジー世界というもので、剣と魔法でおなじみの異世界じゃ。」

僕:「あ、それなら何となく分かります。魔獣とか妖精とか出てくる感じっすね。」

ポッティ:「妖精は時折、空間の狭間を超えて人間界にやってくるいたずら者もおるからな。その世界では科学はあまり発達しない。剣があれば生活ができ、魔法があれば困ったことのほとんどが解決してしまう。問題が生じてもそうした力ですべて解決してしまうので、人間が頭で考えて工夫する必要がない。鉄道も飛行機もない。魔法で空を飛んだり高速移動できれば、乗り物は必要ではないので発明されない。そんな世界じゃ。」

僕:「ファンタジーが成り立つのには理由があるんですね。」

ポッティ:「ま…近年は、こちらの世界の情報をキャッチして、ビルや乗り物などをまねて導入する地域も出始めておる。街をそっくりコピーした地方もあるらしい。興味深いんだろうな。まぁ、今はその世界はあまり関係ないのでこの辺にしておこう。重要なのは、第三の世界じゃ。」

僕:「第三の世界…」

ポッティ:「そう。精神の世界!」

僕:「ええっ!?」

ポッティ:「我々が直接関わっているのは、この精神の世界なのだ。その中に、カリギューラやヘルサたん総統がおる。大まかな構造を知っておくことは無駄にはなるまい…だが…それは現在の人間が知りうることではない。くれぐれも、そのことは忘れんようにな。」

僕:「わかりました…覚悟は決めます。」

ポッティ:「ふむ。まずはこれを見て欲しい。」

僕は壁に映し出された画像を見た。抽象的な立方体が三つ、三方向に並べられている。

ポッティ:「今説明したとおり、この世界は、3次元空間が三つ、それぞれ基本的には行き来できない形で重なっておる。その三つの世界は同じ時間と宇宙的力、重力などを共有している。我々の宇宙を第一の世界とするなら、エネルギーも共有している第二、第三世界も同じ時間進行の元、存在していることになる。第一世界では認識できず、触れることも検知することもできない物質群、エネルギー群がある。存在は予測できても、捕まえることのできない暗黒の物質やエネルギーは、第二・第三の世界では普通の物質やエネルギーとして顕現できておる。」

 よく分からないところも少なからずあったが、分かるところだけでも吸収しようと、僕は黙って聞いていた。

ポッティ:「第一世界と、第二世界…妖精などの異世界とは、ほぼ完全に断絶されている。次元を超越できる高次な存在しか行き来できない。妖精とか、偶然のいたずらなどを除けば、それぞれ独立した存在。もちろん交流もない。だが、その第一世界と第二世界との間にあって…ある条件の下で行き来が可能な世界、それが第三世界、精神の世界なのじゃ。」

僕:「…ある条件?」

ポッティ:「そう…精神と魂の世界であるがゆえに、生物が死んだあとに行く世界。そして、輪廻によって、この第三世界から魂が、第一か第二かの世界に呼び戻される。それが転生じゃ。」

僕:「つまり、第三の世界は死後の世界…」

ポッティ:「正確ではないが、そういうこと。もちろん、第三世界は霊魂だけの世界ではない。精神の力が物を言う別世界であり、輪廻をしない存在もあるのでな。死後の世界という言い方は不正確じゃ。が、死んだあとには必ず、その世界に行き、条件が整えば、いずれ第一・第二のいずれかの世界に帰ってくる。生まれ変わるということじゃ。」

僕:「…。死は意識の消滅ではないのですね?」

ポッティ:「うむ。第三世界で輪廻する者たちは、第三世界にいる間はすべてを記憶し思いだしているが、第一第二の世界で生きている間は、その生を全うするために、過去の記憶は一時的に引き出せなくなっている。死んだあとの魂はすべてを思い出すであろう。そして、その第三世界は、プランク長レベルの誤差のゆらぎをもって、この第一世界と重なっている。つまり、魔界はこの世界から遠くにあるのではなく、まったく同じ座標軸、今ここにあるのじゃ。ただし、そこに生身で行く手段は…通常はない。」

僕:「…。」

ポッティ:「死んだあと、その魂のレベルに応じ、ふさわしい場所に自動的に転送される。それは、お主たちのいう天国や地獄に相当しよう。この人間世界である第一世界、妖精などの住む第二世界、死んだ魂がゆく第三世界…その第三世界も、大きく5つのパーツに分かれておる。霊界、地獄、魔界、天界、神界じゃ。転生があるのは、この霊界と第一第二世界の間だけのこと。従って厳密には、第三世界とそれ以外の世界との間の交流は限定的ということができる。まず、その構造を知っていただきたい。」

僕:「うーん…」だんだん分からなくなってきたぞ。

ポッティ:「死んだ者の魂のレベルが高ければ、つまり善良な行い、優しい心、欲の少ない精神の持ち主ならば、霊界のうち、比較的幸福な場所に行くことになり、悪行、邪悪な心、強欲な人間は、その魂のレベルの低さのゆえに、苦悩の多い霊界に運ばれるのじゃ。」

僕:「ちょっ…と、まってください…整理させて…」

 えっと…まず、この宇宙は三つの世界で成り立っていて、第一の世界、第二の世界と、第三世界のうちの霊界という一領域とだけ、魂の行き来があり、それ以外の各世界間での交流は基本的にはない。

 ●←第一世界
 ■←第二世界
 ▲←第三世界

 とすると、●⇔△▲△⇔■

 △を霊界とし、第三世界の一部分と考えれば理解できるな。第三世界は△だけでなく、交流のできない深い領域(▲)もあるが、基本的に交流ができるのは△だけというわけか。

 で、霊界のうち、魂が善良なら善の霊界、悪なら悪の霊界に行くって?

ポッティ:「左様。霊界も一つではなく、魂に応じて、天国、餓鬼、畜生、修羅、色欲、不動の6つに分かれる。そのうちのどこかに行って、魂を浄化するべく業因縁に向き合ってもらって、一定の浄化ののち、またこの第一世界第二世界に生まれ変わってくるのじゃ。それを何回も何回もくり返し、魂のレベルが高まったところで、天国よりさらに先の、天界へと行く資格が得られるのじゃ。天国よりさらに高次の天界に行けば、もはや生まれ変わる必要もなく、すべての修行は終わる。魂の目的地じゃ。」

 つまり…それぞれの行いや前世までの積み重ねに応じて、行くところが決まっているんだな。こういうのは聞いたことがある。

 ポッティの説明では、よき者が天国へ行き、軽い労働を喜び勇んで行い、天女たちの慰めを受け、世界を救うための業務を行い、天国の住民同士がむつまじく助け合って過ごし、あらゆる願望が叶うのだという。しかしそれも一時的で、いずれかには生まれ変わる必要があるとのこと。さらなる高みを目指し、天国という作られた環境ではなく、天界という本物のパラダイスに行くために。

僕:「それ以外は悪いの?」

ポッティ:「残念ながら。よき道は狭き門じゃ。それ以外は悪業の報いとなっておる。畜生界は、欲深く、自分のために人を陥れ、怠惰を好み何もかもを出し惜しみをする報い。結果、欲に忠実な動物となり、人を助けようともせずケチでいかなる奉仕も拒んだ報いとして、強制的に肉となって食べられ、また、強制的に働かされて他に奉仕することを強要される。だが…その奉仕は必ず業をそぎ落とし、喜ばれて食べられたり働いたり飼われたりすれば、人間に生まれ変わってくる可能性はぐんと高まる。比較的苦悩の少ない世界じゃ。」

うへ…それで軽いのかよ。

ポッティ:「餓鬼界は、食が満たされず、欲が満たされず、常に渇望した状態で死んだ魂の行くところ。飢え、不足し、足りないことに苦しめられる世界。足りないことを苦に思わなくなるための訓練をする世界。修羅界は、人と争い、財物を勝ち取ることで人を蹴落としのし上がって、しかもそれを世のためにせずに負けた側を踏みにじる者が行く世界。あらゆる種類の戦いに明け暮れ、勝てる者はほとんどおらず、負ける苦しみを味わって人の心の痛みを学ぶ世界じゃ。」

 みさ! そうだ、みさのいた世界は餓鬼の道だった。

ポッティ:「不動の世界とは、もっとも恐ろしい…時間が止まっておるのに、意識だけは覚醒し、動くことも話すこともできず、ただじっとその場に固定され、体が痛かろうと痒かろうと何百年も同じポーズで身動きができない苦しみの世界。狂うことさえ許されず、ただ動けない苦しみに泣き叫びたくても声も出ない。ただひたすらじっとしていなければならない。運悪く棘が体に刺さった状態で時間が止まれば、その痛みをただ無意味に味わって数百年。無理な体勢で固定してしまっても、少しも立て直すことはできない。眠ることも瞬きもできずに無駄に堪えるだけの、もっとも過酷な霊界じゃ。…これは、自殺した魂の墓場じゃ! 飛び降りて激突したら体が砕ける瞬間の激痛を味わいながら身動きがとれず、首をつったり入水自殺をすれば窒息の狂わんばかりの苦しみが何百年も続く…」

僕:「…自分で死ぬのだけは絶対にやめよう…」

ポッティ:「そして…色欲界。またの名を、性霊界。我々が直接関わっているのはそこじゃ。性や愛に満たされずに死んでいった魂が、それを取り戻そうとセックスに明け暮れるばかりの、業の深い世界じゃ。なまじ肉体に快楽があるために天国に見えるが、性欲はますます強くなり、体も快感に慣れていって、強くなり続けてしまうために、結局満たされない。生物のサガでもあるが…子孫を残すという生物の使命が満たされないその怨念は、きわめて根の深い、業の深い領域なのじゃ。…そして、ワシが唯一神となって、性の奔放を禁じて以来、性霊界を賑わせる結果になってしもうた。満たされずに色情霊になる人間が急増し、魔王に力をつけさせる結果に結びついたのじゃ。だから、この事件に私が顔を出すのは、私にも責任があるからなのじゃよ。」

僕:「性霊界の幽霊も、一定の期間が過ぎれば、また生まれ変わってくるのですね?」

ポッティ:「うむ。不動の世界も含めて、年限が経てばまた生まれ変わってくる。時間の長短はあるが、この世に生まれ、責務を果たし、助け合い愛を拡げ、お互いを幸せにしていく、それがこの第一世界と第二世界の目的なのだ。それを果せるように高めるためのかりそめの場所が、霊界なのだ。だから、ゆくゆくは、天界と、第一世界第二世界は、究極のうちには融合するはずなのだ。その時節になれば、それらの世界を隔てるものはなくなるからの。しかし…それを妨げるもの、巨大な力が、それを妨げ続けるようになってしまった。」

僕:「それは…」

ポッティ:「ほとんどの魂は、霊界からまたこの世に生まれ変わってくるが、悪業が強すぎる者、欲が強すぎ、精神が凝り固まりすぎてしまった者は、生まれ変わることさえできなくなる。ちょうど、天国から天界に行くルートの正反対を行く者が現れ始めた。大罪を犯して死んだ者や、霊界でも浄化されずに悪化を続けた者が、さらに深い世界に飛び込んでいくようになってしまった。天国が天界へ繋がっているとするなら、他の世界は地獄へと繋がっている!」

僕:「なんですって!」

ポッティ:「餓鬼霊界は餓鬼地獄へ。修羅霊界は修羅地獄へ。何度生まれ変わっても自殺ばっかりする懲りない輩や歴史に残る大罪を犯して平気な魂は、無間地獄へ。そして…性霊界でさえ満たされずにさらなる性豪を求める色情霊は、色情地獄へと悪化の道を進んでいく。その地獄でさえ立ち直れずに悪化すれば…地獄の先には魔界がある!」

僕:「魔界!」

ポッティ:「天界で天の住人となれば、それ以上をめざす必要はない。神に最も近い存在、天使や天女になる。その先に神界があるが、そこでは情報のやりとりをするだけで、行き来や上下をするという構造ではない。なぜなら、神は私だけだからだ。従って神界は、私がいるだけの狭い世界となっている。しかし、地獄とそのさらに先にある魔界とは密接に繋がりあい、交流も盛んじゃ。色情地獄の住人の中でもさらに強い者は、魔界に招待されていく。そして、魔界には魔王を始め、サキュバスでさえ下っ端という恐ろしい魔族が星の数ほど住んでいる。にもかかわらず、その魔界はあまりに業が深く広大にすぎて、人口密度はまばらという状況なのじゃ。」

僕:「ヘルサたん総統たちはそこにいるのですね。」

ポッティ:「うむ。餓鬼魔界、修羅魔界などと並ぶ、色情の魔界。そこには、男の魔族は皆無じゃ。住人の大半は女性じゃ。結局、人間界では性欲が強いのは男とされているが、本質的に満たされずに強くなってしまうのは女ばかりというのが真実。だから魔界に住む淫魔や魔王はみんな女性なのだ。奴らはもはや霊魂ではなく、実体を永遠に保つ悪魔そのものじゃ。」

僕:「スケールが大きすぎる…」

ポッティ:「人間界も似たようなものじゃ。宇宙は何百億光年もの広がりがある。魔界は宇宙のように銀河や星が浮かぶ構造ではなく、広大な地面が拡がるだけの荒野だが、天界や神界全体ひっくるめてで、こっちと同じ広さを持っている。なにせこれらの世界は同じ規模、エネルギー、時間で重なり合っておるからのお。」

僕:「あ…そういうことか…」

ポッティ:「重なり合っているので、生まれ変わりをするか、妖精のように次元をすり抜ける能力を持っているか、魔族やワシのように次元の間を強い力でこじ開けて突き進むなら、それぞれの世界を行き来することはできる。」

僕:「できるんですか!? じゃあとっととヘルサたん総統の居城に乗り込めば…」

ポッティ:「残念だがそれはできない。魔界は広大すぎて、奴らの位置座標の特定ができないのじゃ。闇雲に魔界にワープすれば、一発で遭難確定、フザケンジャーの能力や佐伯仙術などまったく役に立たないような強豪がごろごろうろついている中に放り込まれることになる。一巻の終わりじゃ。位置座標を特定しなければ、敵の本陣に乗り込むことはできない。」

僕:「待ってください、強い力を持っているなら異世界を行き来できる…というのなら、ヘルサたん総統や他の魔族や魔王がこっちに押しかけてくるんじゃ…」

ポッティ:「その心配はない。ワームホール航法や、魔力による次元移動は、この私ができないようにして置いた。ワープ自体は可能だが、世界の間を行き来はできないように、世界の間に私がバリアを張っておる。科学の力で空間をこじ開けて異世界に行くことはできない(同世界間なら移動はできる)し、魔力を駆使して空間をこじ開けようとしても、張り巡らされたネットのようなバリアに阻まれて弾かれてしまう。魔王がこっちに来るようなことがあっては、世界のバランスは一気に崩れるからの。私は行き来できるが、他の魔王は行き来できない。」

僕:「ああ…よかった」

ポッティ:「バリアを完全にしすぎると魂の行き来まで阻害されるので、”弱い魔力”しか持たない、人間並みの力しかない魔族は行き来できる。が、そのような低級な者はまばらで、そもそも身が持たない。次元移動には耐えきれない。そして、それにも平気で耐えてしまうほどの強大な力を持った“強い魔力”の者ほど、ネットに引っかかるようにして置いた。これによって、魔力が強ければ強いほど、バリアが強く働く構造にしてあるのじゃよ。魔界から送り込まれる怪人は、神通力の隠れ蓑を巧妙に使って次元移動ができるし、ボウイ将軍も身に呪いをやつしてこっちにワープしてきた。それなりの犠牲が必要となる。」

僕:「いろいろうまくいかないんですねえ。」

ポッティ:「以上が、現段階で君に話せる世界の構造の授業じゃ。それ以上の詳しいことは、今の人間には語れぬ。だが…いずれ…そう遠くないうちに、何らかの形で、この構造について語られる時が来るであろう。魔界を制御し、人間が自分たちの存在意義と究極目的を受け入れるだけの素地を持つことができれば、いずれ天より語られる日が来るであろう。天変があった時には、その天の声を素直に受け入れるのじゃ。」

僕:「…できますかね…」

ポッティ:「できる。じっくり時間をかけ、その素地は育ち続けている。時代はがらりと変わるであろう。天からやってくる、大きな変化に、ただ自分たちの欲で奪い合う近代世界から脱却する契機を、多くの人は見いだすであろう。目的は一つだが、生き方は無限にある、真実の人間の生の意義を、そこに見いだすであろう。…見いだすことができずに地獄や魔界に行った者たちは哀れな存在なのじゃ。」

僕:「それで…」

ポッティ:「構造についての質問は受け付けない。これ以上のことは語れない。だが…これで君の果たすべきことが分かってもらえたはずじゃ。ヘルサたん総統たちは、次元の壁を越え、魔界と人間界、さらには第二世界にまで侵食し、それらをつなげてしまおうと画策している。それが成功すれば、この世界も第二世界も魔界と同化してしまう。…私の理想とする、天界と第一第二世界との融合の、正反対なのじゃ。そうなれば、地獄も魔界も宇宙も一つになってしまい、世界のバランスは崩れる。力のバランスが崩れれば、もはやすべての世界は大混乱に陥り、ただ魔族、ヘルサたん総統だけが一人勝ち。私も倒されてしまうであろう。色情魔界が打ち勝てば、修羅は戦わず、餓鬼は満たされ、天界の住人は堕落する。すべてが魔界そのままになってしまい、この世はただ性的快楽一辺倒だけの最悪の世界になってしまうのじゃ。我々はそれをなんとしても食い止め、浸食しようとするヘルサたん総統たちを倒さねばならんのじゃ!」

僕:「むっ…!!」

ポッティ:「どうかね? クビドの矢ごときで、ひるんでいる場合ではなかろう? 対策は考えるが、君もしっかり気を持たねばならんのじゃ。」

僕:「僕…がんばります!」

ポッティ:「その意気じゃ。話した甲斐があったわい。」

 どうすればクピドの矢、属性開発を乗り切れるか、今の僕には分からない。でも、必ずこの世界には突破口がある。ポッティの理想の実現のことはよくは分からなかったが、この世界を魔界にしてしまうのだけは、なんとしても避けなければならない。僕は闘志を燃やし、次の戦いに備えることを心に誓ったのだった。



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