翔のあぶない冒険!


15 最終章 珍宝神社の甘い試練 1

 

 「…。」

 少年の体は真っ青に染まっている。

 もはや呼吸すらしていなかった。

 時間的には一晩ではあるが、少年は擬似的に数ヶ月分の淫夢を体験しているはずだ。

 こちらの世界の一秒が、夢の中では数時間も経過している。

 睡眠を始めてから、少年の体には無数の入れ墨のような悪魔の紋章が浮かび上がり、徐々に濃くなっていく。全身に悪魔模様が生じたところで、体の色が青くなっていくのだ。

 これで最後の選択を誤れば、少年の体は青が高じて真っ黒になり、スミのようになって砕けてしまうだろう。その後少年の意識は一時的に途切れ、世界のすべてが種に汚染されてしまうことになる。

 そうなれば、この世界は完全に変わり果て、少年の夢、魔界、そして人間界が融合した、快感一色の世界ができ上がるだろう。カリギューラの世界支配が完全に成功を収めてしまうわけだ。

 カリギューラも必死だった。

 彼女の魔力は、この種の計画のためにほとんど使い果たし、尽きかけている。失敗は許されない。

 最後の仕上げといわんばかりに、少年への淫夢を最大限にし、この夢をも脱出されたら、世界支配さえ失敗する勢いだった。

 カリギューラは最後の賭けとして、二重の仕掛けを用意している。ひとつは、少年の意識の上では数ヶ月にもおよぶような、趣向を凝らした長く濃密な淫夢を見せ、そのまま少年の意識を完全に食い尽くす方法。もう一つは、仮に万一彼が夢から覚めても、夢の中での射精の回数分だけ、起きてからの性欲が高まるようになっている仕掛けである。

 万一夢から脱出されても、その間の射精回数も半端ではないだろう。そうなれば、起きた瞬間発狂するほどセックスへの願望が強くなり、半狂乱で女を求めるはずだ。そこに誰かが通りかかれば、迷わず襲いかかる。そうなれば、もはや佐伯翔に理性も意志もなく、抱きついた瞬間、その女めがけて一生分の精を放出することになる。そこで結局すべての種がばらまかれ、理想郷が実現する。

 ポッティがいようがいまいが、どっちにしても理想世界は実現する。

 数百回も射精してから目覚めていれば、確実に佐伯は動物となって、とてつもない力とスピードで射精を求めるはず。射精しながら彼は崩壊し、種の計画は完了する。

 あるいは夢から抜け出せなくなれば、そこで同じ結果が生じる。カリギューラが最後の賭けとして設定した二重の仕掛けは以上である。

 ひとつだけの懸念材料は、翔があまり夢の中で射精しておらず、禁断症状のようにつき動かされる性欲の衝動を、何とか押さえ込んでしまった場合だ。そうなると、魔力はほとんど使い果たしてしまっている以上、これ以上手を出せなくなってしまう。

 もちろん、佐伯にかけた呪いや、種の原理そのものが消えるわけではないから、その後佐伯が射精すれば、やはり同じように種がばらまかれるが、それで理想郷が実現する可能性は五分五分といったところだ。それではカリギューラの気が収まらなかった。

 何とかして夢で果ててもらうか、目覚めた直後来るってもらって射精し果てるかしてもらわなければならない。カリギューラは手に汗を握っていた。

 最後の賭けは、ポッティ側でも同じであった。ここで少年が朽ち果ててしまえば人間界は魔界化する。完全敗北である。なんとか性欲の疼きを抑えてもらわなければならない。おそらくカリギューラの魔力も限界のはず、この長くて甘い淫呪を乗り切れば、反撃のチャンスがある。その準備はすでに済んでいた。あとは、佐伯翔が目覚めるのを待つばかりであった。

 魔界に設置されたモニターからはカリギューラが、そして少年のベッドの上では浮遊しているポッティが、それぞれ少年の目覚めの動向を、固唾を飲んで見守っていた。

 「!」

 佐伯翔が呼吸を始めた。いよいよ目が覚める。

 カリギューラは顔をしかめた。目が覚めてしまうということは、奴は淫夢を乗り越え、淫無内部で精神崩壊させることに失敗したことを意味するからだ。

 だが、まだチャンスはある。目覚めた時に強すぎるセックス衝動に脳が崩壊し、射精だけを求める強烈な機械に成り果てるチャンスだ。人間の脳は力をセーブしてしまうが、それが崩壊すればたいへんな力となる。もはや何者にも佐伯を止めることはできない。そうなれば飼ったも同然だ。いよいよ賭けである。

 ポッティも同じ思いだった。目覚めるのは一安心だが、その後の発狂が心配だった。念のため、ベッド後と高速具をして、佐伯翔が女体を求めて家を飛び出すことを防いではいるが、発狂し精神が完全崩壊して、力をセーブするタガが外れれば、手足肋骨を骨折させてタコのようになってでも拘束から逃れ、そのまま痛みを意に介さずに女を襲いに行くだろう。

 そうなったら、ポッティが取る最後の手段は、佐伯翔を殺すことだ。そのまま少年の首をはねるしかない。

 それは絶対にとってはいけない禁断の手段である。これをやれば、一時的に世界をカリギューラから救うことができるが、ポッティ自身はもはや唯一神という立場にいることはできなくなる。人間殺しの神など唯一神とは言えない。世界を統べるものとしては不適格だ。神界でも糾弾され、ほぼ確実に追放されてしまう。

 そうなれば、今は危機が回避されても、魔界からの侵略も頻度を増し、それを誰求められなくなれば、いずれ人間界が誰かの手に落ちることも考えられる。

 佐伯を殺すことは、世界を守れたとしても、ポッティにとっては敗北なのである。

 「…何とか、それだけは避けなければ。あとは…翔君次第なのだが…。」

 体が青い少年の状況は、ポッティにとってもカリギューラにとっても、あまりいい状態とは言えなかった。

 おそらく射精回数は100回程度。あるいはもう少し多いかも知れない。ということは、確実に発狂するところまでは達しておらず、少年なりにがんばってガマンを重ねたことを意味する。

 ということは、半狂乱になって女を求める可能性も、性欲を乗り切って正常に戻る可能性も、フィフティフィフティなのである。どう転ぶかは、双方ともに分からなかった。

 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 一瞬で声がつぶれてしまいそうな、大絶叫が響き渡る。実際、喉が出血し、少年は鮮血をがはっと吐き出した。

 少年は暴れる。ポッティが仕掛けた拘束具が、彼の体をベッドに縛りつけているが、目覚めたことによる地獄の苦しみは、少年をベッドごと七転八倒させた。

 夢の中で射精を重ねれば重ねるほど、その分強い性欲が全身と脳を支配する。数日抜いていなければ相当に強い性欲で身もだえするものだが、これが何百倍もの強烈さで、一気に佐伯翔に襲いかかっているのである。もはやくすぐったい疼きどころの騒ぎではないはずである。半狂乱となり、そのまま狂ってしまいかねない。

 声が出せなくなった佐伯翔は、もはや自分の意識や記憶を持たず、自分が誰で、どんな記憶や経験があってなど、理性も何もかも失ってしまっていた。ただただ、性欲の疼きが動物としての強烈な本能と結びついて、彼をつき動かしているのだ。

 「がんばるのだ翔君!」ポッティは手が出せない。ここで干渉すれば完全に彼の自我が崩壊する。神通力を流すこともできない。せめて応援し、声をかけ、彼自身がこの禁断症状を乗り越えなければならないのである。

 ポッティは懸命に声援を続けた。翔の生い立ち、義務、ポッティ自身のこと、カリギューラの陰謀のことなどを根気強く、暴れる佐伯に説明し続けた。

 もちろんそれは、翔の耳にはまったく届いておらず、枯れきった喉から血を吐き出しながら、声にならない叫びを上げながら、全身をガタンガタンと暴れさせる。

 拘束ロープがくい込み、その場所が血だらけとなる。ああ、このまま骨折し、手足がもぎ取れてしまうのだろうか。

 ポッティは覚悟を決めた。失敗すれば、自分は唯一神を返上し、どんな厳罰でも甘んじて受けよう。

 だがその一方で、最後まであきらめてはいけないとも思っていた。希望を捨てずにポッティは、声を大にして佐伯翔に呼びかけを続けた。

 地獄の苦しみと悶絶は続く。太陽が昇り、さらに傾き、月と交代していく。その晩は夢を見ることなく、覚醒した佐伯少年が、どこに力が残っているのか、朝と変わらぬ暴れっぷりを見せていた。

 空が完全に暗くなった頃に、佐伯少年の両鎖骨の骨が折れた。その激痛でさえ意に介さず、性欲だけが彼を暴れさせた。筋肉も相当断裂し、深いアザがあちこちにできていた。

 そして。

 空が明るくなってきた。

 少年はグッと全身を突っ張らせ、大きく目を見開いた。

 「翔君! 翔君。しっかりしろ翔君がんばれ! かっ、かけるうううう!!」

 ポッティは絶叫した。ついに狂ったか、さもなくば性欲を乗り切って気を失うのか。ふたつにひとつ。その結果が数秒後には明らかになる。

 「!」

 少年は、ぐったりと脱力した。そして、軽く呼吸をしながら、ぴくりとも動かなくなった。

 「やっ・・・やった・・・」

 ポッティは拘束具を取り、少年に神通力を施した。骨折も出血も、すべて回復させていく。

 「やったぞおおお! 翔君、乗り越えたんだね! よかった、ほんとうによかったあ!」

 ポッティは絶叫した。

 回復術を施したおかげで、気絶した少年は10分もすると目を覚ました。

 ………。

 ………。

 …。

 ぼんやりと目を開ける。

 長い長い夢を見ていた気がする。

 僕は…。

 天井が見える。自分の部屋の天井だ。

 「気がついたかね?」

 「ポッティ…」

 「よかった、君は無事に夢を乗り越えることができたんだね。」

 「ぽっ・・・」声が詰まる。ぶわあっと涙があふれた。

 「ああ。淫夢から冷めたあとの禁断症状も見事に乗り越えることができた。」

 「そっ、そうなの?」

 淫夢から冷めた直後かと思ったが、そうでもないらしい。半狂乱になるような性欲の疼きもない。

 ポッティの説明によると、一度僕は目が覚め、セックスへの衝動が禁断症状となって現れ、射精を求めて暴れ回ったそうだ。ベッドに拘束具を設置し、僕を縛りつけていたから大事に至らなかったものの、あちこちにけがをしたり血を吐いたりもしたらしい。

 それが一晩中続いたらしい。

 その間の出来事は、僕はまったく覚えていなかった。気がついたら、拘束具もなく、ぼんやり天井を見ているばかりだった。

 「とにかく君は、カリギューラの最後の最大の淫夢を乗り越えることができたんだ。」

 「そういえば…夢の中身、あんまり覚えてないや。まぁ、ロクな夢じゃあなかっただろうけどな。思い出す必要もない。」

 全身には痛みも疲れもない。ポッティが回復させてくれたらしい。僕はゆっくりとベッドから起き上がった。

 「…勝ったんだね、僕たち。」

 「うむ。…だが、最後の戦いが残っておるのだ。」

 「え!」

 まだ、何かやることがあるのか!

 「君も知っているとおり、君の精液は“種”の原理に支配されている。今後射精するごとに、やはり同じように種がばらまかれ、世界の淫乱化がさらに深まってしまうのだ。」

 「なっ…!」

 「世界はずいぶん開放的になってしまった。これ以上射精し続ければ、遅かれ速かれ、世界は魔界化してしまうのだ。君とて、もっと成長すれば性欲の処理くらいしたいだろう。しかしそのたびに人間の世界が快感の虜になってしまってはまずい。」

 「僕は…どうすれば…」

 「カリギューラの影響を絶ちきるのだ。さらに、すでに始まってしまった世界の変化を元に戻す必要もある。そのために、君にはある試練を乗り越えてもらわなければならない。」

 「試練?」

 「うむ。予定よりも早くセッティングが完了しておる。これからさっそく現地に向かってもらう。君の体から“種の原理”を抜き取り、カリギューラが仕掛けた精子の呪いをたたき出す。そうやって君の体を清浄化しなければならない。さらに、変革された世界を元にも土図べく、放出された種をその現地に回収し、完全に種を破壊し尽くさねばならない。さあ、さっそく現地に向かおう。」

 「現地って、どこなの?」

 「近所の無人の神社だ。珍宝神社というのがあるだろう?」

 「?」

 「知らないか。ほとんど人が入らない場所だからな。だが、そこの地下室に、種の原理を排出するための仕掛けを作っておいた。」

 「地下室?」

 「無人の神社ではあるが、本当は氏神が宿り、霊験もあらたかな場所だ。私はその氏神と話をつけ、地下室を作らせてもらった。そこに、種を破壊する設備を整えたというわけだ。」

 「試練って、どんなの?」

 「原理は淫夢と同じだ。君の精子に組み込まれた種の原理を、君の体から切り離し、排出させ、破壊するのだ。当然、種からすれば、君の精子から離されて破壊されるなんてまっぴらごめんだ。そこで、君に様々な幻影を見せて、性欲の虜にし、種を切り離さないように誘惑してくるだろう。君はその誘惑に負けず、射精しないで奥までたどり着かなければならない。」

 「つまり、種を僕の体から排除しようとすると、種の側からの抵抗があって、その抵抗に負けて射精すると、種を引き剥がすことに失敗することになると?」

 「そういうことだ。逆に、その抵抗誘惑に負けさえしなければ、種の原理は君の体から完全に抜け出すことになる。毒素を完全に抜けば、君は射精しても、世界を魔界化させずに済むようになるのだ。同時に、世界にばらまかれた毒素も珍宝神社に集まってくる。私はこれを封印し、かつ完全破壊するつもりだ。破壊は私がやる。君は誘惑に勝つことが仕事だ。」

 「…。分かった。僕がんばる。」

 「よし、さっそく現地に向かおう。」

 珍宝神社は歩いてすぐのところにあった。無人の、小さな神社だった。そういえば薄気味悪い神社があったな。行ったことはなかったが。

 この神社に地下室を造り、そこに種を破壊する試練設備を、ポッティが作ったのだ。

 僕たちは鳥居脇のマンホールのような白いハッチを開け、下に降りていった。

 神社の地下は薄暗い。電気は通っておらず、通路にろうそくが何本か立てられていて、それだけが周囲を照らしているのだった。

 地下室、というよりは、地下通路であった。10メートルくらいの通路で、一番奥に何かの祭壇がある。

 ろうそくの数は8本。短い通路に均等に立てられている。

 通路はまっすぐで、思ったよりも狭く、幅は一メートルくらいしかない。ろうそくの熱を避けるとすれば、僕一人通るのがやっとの狭さだった。つまり、地下通路はずいぶんこじんまりとしているというわけだ。

 廊下は板張り、入り口のところに白い円が描かれている。

 その円の上にポッティが浮かんでいた。

 「さあ。これが試練の通路だ。君はこれから、この通路をまっすぐ進み、一番奥にあるお札を手にするのだ。」ポッティが厳かに言う。

 一番奥の祭壇部分だけ少し広くなっていて、ろうそくが3本大きく立てられている。暗いので文字まではよく見えないが、たしかに祭壇の中央に白い札が立てられているみたいだった。

 「肝試しみたいだね。」

 「ある意味では肝試しだ。もっとも、その肝というのは度胸ではなく、性的な誘惑をはねのける強い鉄の意志に相当するがね。」

 「一体、この通路には何があるのですか?」

 「うむ。その前に、この試練の通路の目的から話さねばなるまい。あの奥の札は、君の肉体と、世界中にばらまかれた“種”とを封印する媒体なのだ。それを手に取ることで、種のすべてがぐんぐん札の中に吸い込まれる。ものの数秒ですべての種は札の中に封じられ、世界と君の体は浄化されるだろう。あの札を用意するのにそこそこ時間がかかったが、機能は万全だ。」

 「すごい…あの札があれば、これまでばらまかれた種も回収できて、快楽に歪み始めた世界も元に戻るんだね。」

 「そういうことじゃ。その封印が完成すれば、君が射精しても種はばらまかれなくなる。それによって君は、カリギューラの種の呪縛から完全に切り離されることになる。だが・・・ことはそう簡単ではない。」

 「誘惑がある、ということか。」

 「種だって、みすみす封印されようとは思うまい。君の体から出ていきたくないと激しい抵抗をしてくるだろう。その抵抗こそ、君に幻影を見せ、とろけさせ、射精させる甘い罠なのだ。」

 「…。」

 「もしあの札を私が君に手渡ししようとすれば、君は昨晩の淫夢をはるかに超える濃く深い幻影を一瞬で見せられてしまうことになる。そうなればおそらく精神崩壊は免れないだろう。だから、こうして地下通路を用意し、種側の抵抗を8つに分割することにしたのだ。」

 「8つ…」

 「左様。幻影を、たとえば手や足などのパーツ、年齢や国籍などで分け、それぞれ専門分化させることにしたのだ。これによって、幻影のパワーも分散させ、抵抗の威力を抑えることができたのだ。あとは、その誘惑に君が打ち勝ち、先に進んで、ついには祭壇までたどり着けばよい。」

 「…。」

 「試練は全部で8つ。手、胸、口、足、大人、子供、中高、北欧美少女、だ。あのろうそくの横を通る時、試練の幻影が始まる。手の幻影が始まれば、無数の女手が君の全身にはりついてまんべんなく刺激してくるだろう。種を浄化すればそんな思いは二度とできないと体に覚えさせるのだから、種の幻影も必死だぞ。」

 「うう…」

 「幻影が始まった時、君の足は自動的に止まり、力では先に進むことができなくなる。足を進めるのはあくまで、この試練には負けない、快感には屈しない、絶対に札を掴むのだという強い意志だ。その意志も中途半端ではダメだ。女手の快感にうっとりして、その気持ち良さを味わっていたい、と、少しでも思っている限り、足を前に進めることはできない。数歩のところだが、意思の力だけで足を進めるのだ。」

 「そんなの…」

 「無理難題なのは分かっておる。だが、そこまでの意志を種に対して示さなければ、君は自分の体から魔性の種を追い出すことなどできんのだ。8分割してさえその状態になる。厳しい試練だぞ。」

 「もし・・・もし誘惑にあらがえなくなってしまったら?」

 「ずっと足止めを食わされることになる。その間中ずっと性的に刺激され続けるから、いずれは射精してしまうだろう。」

 「射精すれば失敗か…」

 「まぁそうじゃな。といっても、射精したら、ほれ、そこに○が描かれておるだろう、そこがスタート地点になるが、そのスタート地点まで戻されてしまうのだ。」

 「…それだけ?」

 「うむ。何度でも、何日でも再チャレンジはできる。だが…試練を克服していないうちの射精はすなわち、種を内包したままの射精となるわけであるからして。」

 「そう、か…ここでの射精は世界をさらに淫乱な方向に導いてしまうのか。」

 「しかもずいぶん世界は様変わりし、開放的になって乱れてきておる。これ以上に射精を繰り返すようならあるいは…」

 「分かった。なるべくイかないようにがんばるよ。僕だってあのカリギューラの“最後の淫夢”を乗り越えたんだ。何とか耐えきれる気がする。」

 「夢の快楽とはまたひと味違うぞ。今度は現実に肉体があらわれる。幻影ではあるが、それは種の魔力によって実体化したものであるからな。おいそれとは克服できまい。私としては、数日のチャレンジを繰り返したあげく、きっと乗り越えられると信じておる。」

 「数日…」

 「これは危険な賭けだ。私の見立てでは、まず無射精での試練の乗り越えは難しい。数日の間、数え切れない射精をすることになるだろう。ギリギリのところで、何とか札を手に取れるか、それとも人間界の魔界化が先に訪れてしまうか。」

 「う…」

 「別に君の実力を疑っているわけではない。そのくらいにこの試練は厳しいのだ。何度となく射精させられても、間に合いさえすれば、空中にばらまかれたすべての種は回収できる。だが…間に合わなかった場合、すべての種が人間界に蒔かれ、発芽し、成長した暁には、もはやその札はタダの紙きれ。その瀬戸際の戦いだと思ってくれ。」

 「分かったよ。それでやるしかないんだ。」

 「このままでは、遅かれ早かれ世界は淫魔界と同じになってしまう。その前に、何とか人間界を救うのだ、翔君。」

 「…。」

 「私は信じている。淫夢を乗り越え目覚めることのできた君なら、たとえギリギリであっても、必ずやこの廊下を渡りきり、種を封印してくれることを!」

 「ああ・・・行ってくる!」

 僕は裸になって円の中に立った。10メートルほど先に祭壇がある。あんなに近くにあるのに、途中の試練があまりに厳しく、たどり着けるか分からないとは。

 ろうそくの数は8本。あの横に行った時に誘惑が始まる。種が僕から離れたがらないために、強烈な抵抗をするのだ。それに負けてしまえば、僕は種を引き剥がすことに失敗し、はじめからやり直しをすることになる。

 とにかく、快感に負けることなく、極力、できうれば一度も射精せずに、一時間でも早く祭壇にたどり着くのだ。間に合わずに射精回数が一定量に達してしまえば終わりだ。…突き進むしかない!

 僕はゆっくりと、廊下を歩き始めた。

 ひとつ目のろうそくの前にたどり着いた。

 「…。」僕の足はそこで自然と止まり、足がすくんだように一歩も動けなくなってしまった。

 「ねえ。捨てないで。」「種を捨てないで。」「種があればもっともっと気持ちよくなれるわ。」「いい気持ちになりましょうよ。」「お願い、種を離さないで…」

 あちこちから、ささやきかけるような懇願の声が聞こえる。もちろん、そのくらいでは僕の心はなびかない。

 「ほら…種を浄化しなければ、こんなにいい思いができるんだよ?」

 何かが…来るッ!

 突然、目の前の光景が一変した。

 先に見えていたろうそくの群れがなくなり、どこまでも暗く続く狭い通路に立たされている。石造りで、床にだけ、桃色の絨毯が敷かれており、天井がほんのり光っていて、周囲の状況だけを映し出している。

 壁際に、大勢の女が立ち並んでいた。

 左右の壁のところに、ずらりとお姉さんたちが立って並んでいるのだ。しかも全員がナース服に身を包んでいる。右側がズボン、左側がミニスカで統一されていた。何人いるか、奥の方が暗くなっていて数えられない。明かりが届かない位置のはるかに先まで、看護婦さんが僕をじっと見つめながら並んでいるのである。

 微笑んだり、顔を上気させたり、悩ましい表情だったり涙目立ったり。お姉さんたちは思い思いの表情で、僕の体を触りたくてうずうずしているみたいだった。

 僕は身構えた。女手地獄の試練がいよいよ始まったのだ。

 これまでさんざん、女の人のやわらかい手に全身撫でさすられ、集中的にしごかれて、幾度となく射精させられてきた。もう、金輪際、女の手で射精するわけにはいかない。

 目の前にある光景は、いわば幻影。僕の体から呪いの毒気を抜き去ろうとする最後の仕上げの時に、毒気の方が体から追い出されるのを嫌がって、脳に幻影を見せ、なんとかして追い出されないようにと強烈な誘惑を仕掛けてくるのだ。

 その誘惑に負けて射精してしまえば、毒気は体内にとどまり、敵は思いを遂げたことになる。

 誘惑に負けずに先に進もうとすればするほど、誘惑はさらに熾烈を極める。なんとかして呪いの宿主の体内にとどまろうと必死になるのだ。

 僕はそれでも射精せずに、珍宝神社の最奥部にたどり着き、そこで完全に毒気を抜き去らなければならない。これに成功しさえすれば、これ以上の世界汚染はなくなり、僕の肉体は、完全にカリギューラと切れることになる。

 切れてしまえば、あとはポッティと神社との浄化で、世界はもとの秩序に戻るのである。浄化の作業に対して、もはやカリギューラは手を出すことができず、彼女の計画は頓挫することになる。もはやふたたび僕に種や呪いを仕込めるほどに、彼女の魔力は残ってないだろう。

 つまり、この試練が最後の勝負であり、世界を救う最大の戦いでもあるのである。勝てば世界は戻る。射精し続ければその分、種が決定的に振りまかれることになり、いつかは世界が淫気に染め上げられてしまうのである。

 これ以上、ムダに精液を吐き出すことはできない。なんとしても、この試練を乗り越えなくては。

 看護婦さんたちが一斉に群がってくる。行く手を阻まれた上、全身にやわらかい女手が一挙に襲いかかってきた。

 頭を撫でられ、顔や首筋にもスベスベの手のひらや甲が滑ってくる。肩も腕もわきの下も背中も女手の餌食になる。乳首はくすぐられ、お腹をさすられる。内股にもお尻にもヒザの裏にもお姉さんの手がやわらかく滑って行った。

 ペニスも玉袋もお姉さんたちは遠慮なく撫でさすり、くすぐり、しごき上げた。

 くっそ、絶対女手なんかに負けたりしない!

 僕は全身をこわばらせ力ませ、ありったけのガマンで、全身を撫でさする女手に感じまいと踏ん張り続けた。やわらかくいたずらな手先指先は、そんな僕をとろけさせようと交代でコチョコチョし続けている。

 これまでもここで負けてきて、精を奪われてきたのだった。だが、今は違う! そう簡単には、感じたりもしないし、まして射精まで高められたりもしないのだ。

 それは、あの苛烈極まる淫夢の数々に犯され続け、無限空間で身近な女の人たちを相手に、彼女たちのやわらかいスベスベのしっとりした女手に、幾度となく全身とペニスをさらし続けさせられた結果でもあった。

 慣れたというにはまだまだではあるかも知れないが、少なくとも精神的には、女の手の誘惑に抗うことができていた。

 もとよりさんざん全身に女手を味わい、いまさら集団愛撫だけで射精させられる僕でもない。が、何より精神的に強くなって、仮に性感帯をことごとく刺激するしなやかな大人の手の複数攻撃にさらされても、それだけでゾクゾクと精力を消費する失態を犯すことをしなくなったのだ。

 これはセックスではない。もとより、セックスなんて大っ嫌いだ。性感帯への刺激など、ただの思い込みの産物でしかない。股間がパンツにこすれただけでは勃起しないし、ましてや性的なダメージを受けて射精に至ることなどありえない。そんなことになれば、下着を着けて外を歩き回るだけで何度も絶頂しているではないか。

 そうならないのは、ひとえに、性的な興奮から離れているためである。ペニスは日中もさまざまな刺激にさらされている。生地がこすれるだけでなく、小水の時も自分の手で触るし、体を洗う時もそうだ。そのつど性的な興奮を伴い、精力を消費しているわけではない。それは、性的な想像や反応を精神的に持っていないためである。

 ある刺激に対して、結局は僕が主体的に、性的な意味合いを付与しているから、勃起もし、射精もするのである。見慣れたポスターや飽き飽きしているエロビデオを見たところで、すぐさま体が反応するわけでもない。そこに、「快楽を求める」自分がいるからこそ、射精に至るのである。

 いい例がスカトロだ。女性がウンチをしているシーンを僕が見たところで、嫌悪感だけが残る。目の前でそんなことをされたら臭いだけだろう。だが、そこに性的な意味を見いだす男性たちは、そのシーンでこそ射精するのである。性的な興奮はあくまで、自分の精神がもたらしているものであり、やはり射精しようとして射精するだけなのである。

 「う〜〜〜っ…! 女なんて嫌いだ、女なんて嫌いだ…」

 女に撫でさすられている、と思うから、そこに性的な意味を見いだしてしまうんだ。ぎゅっと目を閉じ、虫が這っているとでも思っておけばいい。

 おぞましさ半分、快楽半分で、勃起はしてしまっているものの、それ以上に急激に精力を消費することがなく、なんとかやり過ごすことができていた。

 触られている、愛撫されていると思うのではなく、満員電車でもみくちゃにされているとでも思っておけばよい。スベスベの手が全身に絡み付いているからって、それが何だッてんだ。

 僕は呼吸を整え、性的な興奮を静めようと踏ん張り続けた。神経を鈍くさせて、触られている感触にあまり意識を向けないようにした。絹のような服がこすれてでもいるかのように、なんでもないよう装い続けた。

 それでも股間のくすぐったさは残るものの、僕は心の底から、「セックスがしたい、射精したい、気持ちよくなりたい」という思いを完全に払拭した。性的に気持ちよくなることはおぞましいことだ。絶対的な悪だ。それよりもすばらしいことは世界にたくさんある。

 心が平静になるにつれて気持ちが遠のき、触られている感覚自体が遠くなってくるように感じる。心のどこかにセックスへの思いが残っているかぎり射精は免れないが、僕はそうした思いそのものが消えていき、もっとすばらしいものが頭の中に浮かんでいるのをはっきりと感じた。

 静かな月。春の花畑。散りゆく桜。夏の氷菓子。秋の落ち葉や冬の雪。自然の移ろいと折々の姿のすばらしさ。勤労や勉学によって目的を達成した時のあふれるよろこび。人のためになり、人に感謝され、世界に役立つ瞬間が来た時に、生きていて良かったと思えるような、そうした自己実現の欲求。

 自己実現はあくまで、他者の助けになった時に果たされるものである。社会的な承認をさらに超えて、人に喜ばれるような行動をなす事のできる自己であること。これを認識することが自己実現であると、僕は思う。

 女手に触られているのに、ペニスが萎えていく。下卑た肉体的欲動など、取るに足りないことだ。女なんて嫌いだし、それに翻弄されて射精していた自分はもっと嫌いだ。だが、女に翻弄されてもビクともしない自分であることができたら、きっと自分を好きになることができるだろう。その時に初めて、肉の縛りを超克することができるのだ。僕は今、その入り口に立っていることをはっきりと実感する!

 …だが。

 リクツは合っていても、そうそう簡単に思い込み続けることなどできるものではない。

 女手の心地よさは、徐々に僕の精神にくい込み、むしばんでゆく。これに抗おうと力んでも、少しずつとろけさせてくるのである。

 手首をつかまれ、手のひらを合わせるようにがっしり握りしめられている。足首も数人の女手が掴んで持ち上げ、足の裏もいけない指先がコチョコチョと這い回っている。

 体が浮いた状態で、さらに全身がこれでもかとくすぐられ、愛撫され続けた。しつこいお姉さんの手の動きが、僕の抵抗に徐々に穴を開けてゆく。

 僕は床から1メートルのところでうつぶせに浮かび上がっていた。彼女たちが僕を持ち上げ、体を支えているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
 
 僕は文字どおり、体が宙に浮いている状態となっていた。そうして集団ナースたちの前に小さな背中をさらけ出しているのである。半立ちのペニスがだらしなく下に垂れ下がっていた。

 僕は山の中の滝を想像し、森の中の小鳥のさえずりを聞き、イメージをふくらませて、肉欲から遠ざかり続け、さらに強く感覚を鈍らせて、深い瞑想に入るよう心がけながら、全身を快感に犯されまいと踏ん張り続けた。

 すると、何か暖かいものが背中やお尻に塗りたくられ始めた。

 「うあ!? なに!!?」

 つるつるのやわらかい女手がさらにもっちりしっとりしている。細い白魚のような指先も、ムニッとした手のひらも、スベスベした手の甲も、その攻撃力を格段に高めていた。ま、まさか、ここでローション攻撃か!?

 だが、看護婦さんたちが手につけていたのはローションではなかった。ただのローションであれば、まだまだイメージをふくらませて、いずれは僕の精神力が勝っていたであろう。ローション攻撃はまだ超克できる範囲だったのである。

 それは、マッサージ用のオイルであった。

 ただの油ではないことは、皮膚から浸透してくるじわりと暖かい薬効成分からも明らかだった。極端にぬるぬるしてはいないものの、滑りが良くなり、しなやかな女手の吸いつくような感触をますます強め、ゾクゾクする快感を生み出すことができるようになっている。

 やっかいなのは薬効成分だった。催淫剤ではないみたいだが、これに近いものがあった。

 じわりと肌から浸透してくる油は、ジンジンするほど体を温めた。唐辛子のお湯に入っているような刺激があったかと思うと、軽い痛みも和らぎ、あとはじわっと心地よい感覚が、女手の滑ったあとに残っていくのである。

 これは血の巡りをよくしていく薬剤のようであった。体がじわっと温まり、心地よく脱力していく。そのまま眠ってしまいそうな癒し系のオイルであった。もちろん眠ることは許されず、その分だけはっきりととろけるような快楽が体の外から内からどんどんこみ上げていった。

 都合の悪いことに、イメージしている自然の癒し映像が、なおさら体をリラックスさせ、僕を脱力させていくのである。

 ナースな格好をしたお姉さんたちの手の動きも、はっきりと変化した。それまではひたすら僕の体に大人の女の手の感触を刻みつけ、徹底的にくすぐり愛撫するばかりであった。露骨に性的な手の動きに警戒した僕は、体を踏ん張らせ、性的なイメージから遠ざかることによって抵抗することで、感じることなく勃起さえ抑えられていたのであった。

 だが、彼女たちのなめらかな手の動きは、ゆっくりじっくりかわいがる動きへと変わっていったのである。撫でさすって性的に感じさせるというよりは、完全に筋肉をもみほぐすような絶妙な動きになっている。

 内股を揉み、筋肉をほぐす。ふくらはぎを掴んではうにゅうにゅと揉んで、こわばりを取っていく。お尻をもみほぐし、引き寄せては左右に引き剥がし、臀部に手をめり込ませてはその奥に隠れている筋肉をぐりぐりしてくる。

 背中には何本もの手がゆっくりと大きくオイルで滑り、肩をマッサージしては脇腹へと滑って行った。くすぐる動きはなくなり、もっぱら血行を促進するマッサージ攻撃へと移行しているのだった。

 「あふ・・・」体がとろけていく。こわばった筋肉や力んでいた全身が、絶妙なマッサージテクニックでもみほぐされ、じわじわと安堵感と脱力を誘っていく。

 下に回った看護婦さんたちの手も、お腹をさすり、もみほぐして腹筋を脱力させ、胸の筋肉も腰のこりもしっかりと取り除いていった。

 全身が充血し、暖まったところで、もみほぐし攻撃が僕の小さな体を脱力させていく。フワフワ浮かんだまま、僕は性的な意味とは異なる全身の心地よさに酔いしれ、ついつい全身の力を抜いてしまうのだった。

 看護婦さんたちはマッサージのテクニックを存分に身につけ、力んでいる男の体をもみほぐしては眠ってしまいそうな脱力へといざなうことを全員が得意としていた。

 集団マッサージの心地よさで、疲れが吹き飛び、オイルの効果で全身がとろけ、血行が促進される。女の人のやわらかい手はこんな芸当も可能なのかとあたらめて思い知らされた。

 そこへ容赦なく、女手の感触が刻みつけられる。遠ざかっていたやわらかくてスベスベの感触が、あらためて全身を這い回っていることに気づかされる。血行が良くなり、体がじわっと温まっているために、その心地よい大人の女性の手が、突然性的な意味を持ち始めたのである。

 海綿体への血液の充実を止めることは、もはや不可能であった。血の巡りが良くなっているところへ、優しい女手のマッサージが一気に襲いかかっているのである。勃起を抑えることなどできようはずもなかった。

 「あああ・・・」僕の体はふわりとあお向けになる。だらしなく脱力したまま浮かんでいる僕の体に、今度こそ性的な女手が集団で一気に襲いかかってきた。

 マッサージの手の動きはいきなり愛撫とくすぐりに豹変し、さっきと同じように撫でさすり、しごき、指先でもコショコショしてくる。

 「くっそ!」僕はリラックスしている自分が情けなくなって、ふたたび体をこわばらせた。目的を忘れてはいけない。女の手の快感に抗い、これを克服しなければならないのだ。

 しかし、僕が全身を力ませて抵抗を決め込んだとたんに、ナースたちはあの悩ましいマッサージへと切り換えてくるのである。そうして全身をもみほぐしてはオイル効果で血行促進、脱力を誘って、ふたたびとろけさせてくる。

 とろけたとたんに、僕を射精させる愛撫攻撃に上手に切り換えてくる。

 僕の足は開かれ、玉袋も会淫も丹念に愛撫された。指先、手のひらで揉みくすぐりながら、こしょこしょと優しくくすぐってくれる。

 容赦のない白魚たちは、僕のアナル周辺をもくすぐり、穴の奥へと指をゆっくりなめらかに出し入れしてくる。前立腺を的確に刺激しながら、細長いおねえさんの指、人差し指と中指で、にゅぐにゅぐとアナルを犯し続けてきた。

 ペニスは容赦のない快楽にさらされた。

 根本から真ん中までをなめらかな女手がこれでもかとしごき上げ、周辺を指先だけでくすぐっている。内股の付け根のくすぐったいところに数人分の指先がはりついてくりくりしてくる。

 亀頭は誰かの手のひらにすっぽり包まれてぐりぐりされながらコシュコシュと小刻みにしごき続けられる。カリの敏感なところにも女の指がはりつき、丹念にそしてしつこく優しくしごきこすり続けた。

 それでいて全身はなめらかな手のひらがマッサージしながら滑り回り、手の甲のツルツルの感触を刻みつけ、そうして、全身の空いている部位をひとつとして逃すまいと細い指先がくすぐりまくっているのである。

 「あ! あああっ! いやあっ!!」僕は身をよじらせて抵抗するが、もともと宙に浮いた体で、脱力させられてもいるために、もはや女手の集中攻撃を振り払うことなどできはしなかった。仮に万一抵抗ができたとしても、ナースたちはまたもやマッサージ攻撃に入るだろうから、結局同じことだっただろう。

 しつこい愛撫が股間に集中する。一人一人わずかに違う手のやわらかさと心地よい感触が、交代で股間をかわいがり続けた。

 「あひい!」急に全身が勝手にこわばったかと思うと、射精前の強烈な多幸感が一度に襲いかかってきた。それでも女たちは優しい手を止めず、ますます激しくしてくるばかりであった。

 ごぼぷ!

 勢いよくペニスから精液が噴射される。

 絞り出すような手の動きによって、玉袋に残っていたわずかな生殖細胞も、一匹残らず体外に押し出されていった。何もかもを忘れ去ってしまいそうな、全身を支配しつくす快感の波状に、僕は声を出すことさえできなかった。

 脈打ちが終わっても1分くらいは、心地よいマッサージとペニスへの女手の愛撫が続けられた。

 そのまま倒れ込んでしまいそうなくらい、心地よい射精であった。

 「…ね? 気持ちよかったでしょう?」「私たちと一緒に、新世界を作りましょう。」「だからもうあきらめて、私たちを捨てようとなんてしないで? ね?」看護婦さんたちの甘いささやきが脳天をしびれさせた。そのままとろけるように、僕は深い眠りに落ちていった。

 ・・・女手には勝てなかったよ…

 「…はっ!?」

 気がつくと、僕はスタート地点の○の中でぼんやり立っていた。眠りは一瞬だったらしい。

 最初のチャレンジは完膚無きまでに失敗に終わってしまった。

 「気にすることはない。一回で乗り越えられるはずもないのだ。くり返しながら、敵の誘惑の傾向を掴み、少しずつ克服する方法を模索していくしかない。大丈夫、あと数回の射精でいきなり世界が変わるわけでもないのだ。まだ余裕がある。さあ、もう一度気を引き締めて、試練に立ち向かうのだ。」

 僕はポッティに促されて、もう一度第一のろうそくに向けて静かな一歩を踏み出していった。

 ひとつ目のろうそくにたどり着くと、さっきと同じように別空間にワープしたような感覚に陥り、そこで無数の大人の女性に囲まれてしまう。そして、うつぶせの状態で1メートルのところに浮き上がった上で、彼女たちに全身をいいように撫でさすられてしまうのだった。

 戦慄のオイルマッサージの続きが始まった。

 落ち着くんだ。何か突破口があるはずだ。この幻影の快楽を克服する具体的な手段がどこかにあるはず。

 さっきは、理念だけで対抗しようとしたから負けてしまったのである。そうはいっても実際の肉体的な快楽の誘惑には勝てないではないか、という敗因である。理屈が正しいとしても、実際にそれを実践できる技術がなければいけない。本物の実力がなければいけない。本当の、具体的な方策がなければならない。何かがあるはずだ。

 力んで体をこわばらせ、性的な刺激を感じまいと踏ん張っても、いやされる全身マッサージの効果によってふにゃっと脱力させられてしまい、そこへ容赦なく性的な快楽が一気に押し寄せてくる。これのくり返しで結局高められ、射精に至ってしまったのである。

 ということは、ただ単に性的な快楽から遠ざかったり逃げたりするだけではいけないということだ。そんなことをしても、実際に撫でさすられ、揉まれ、しごかれ、くすぐられ続ければ、徐々に抵抗の堤防は突き崩されてしまうし、マッサージのようなテクニック次第でアッサリ打ち破られてしまうのである。

 目の前の快楽をたっぷり身に受け、ここから逃げずにダイレクトに感じ続けながら、なおかつ射精せず、刺激に対して心から抵抗できるのでなければならない。

 本物の抵抗ができた時に、心の底から誘惑をはねのけられた時に、第一の試練を克服することができる。

 さっきと同じように、全身を撫でさすられくすぐられ、玉袋を愛撫されながら、ペニスは根本からすばやくしごかれつつ、誰かの親指が尿道口やカリの敏感なところをぐりぐりと丹念にこすり続けている。その快楽に身をよじらせながら、なんとか突破口がないものか模索し続けていた。

 ちなみに、この試練においても、射精したばかりというのはまったく無関係である。すぐにでも適量の精液が玉袋に溜め込まれ、さっきの射精が“なかったこと”同然となり、いくらでも、何度でもイキ続けることができた。

 小学生の小さな体が、無数の大人のお姉ちゃんの生手に襲われ、女手の群れが全身を完全に覆い尽くして、触られていない箇所は皆無であった。

 10歳で、戦いが始まったのは最近のことであり、その間にとても永いあいだとも思えるほどの経験値を摘んできた。だが、それとて、結局はたかだか1年にも満たない期間のことであった。

 そんな僕が、これほどの集団のやわらかい手に全身を撫でさすられて、無事でいられるはずもないのだ。

 何年も何十年も、ペニスが女の肌で性器でしごかれ続ければ、慣れも生じ、なかなか簡単には果てないようになってくるに違いない。自分はまだまだ未熟なのだ。

 …いや、それだけでは済まない話だ。

 経験が浅い子供の僕であるにもかかわらず、なぜ快楽に抵抗しようという強い意思を持つことができたのだろう。あの長い長い淫夢を見ても、なぜ僕は脱出しようという意志を保ち続け、多少なりとも射精をしないよう踏ん張ることができたのだろうか。

 本来なら、とっくに魔性のやわ肌の虜となり、完全に自我を失って肉欲の奴隷となって、世界が終焉するまであっという間に精を放出しつくしていたに違いない。もともと、カリギューラがもくろんでいたことも、そうやって一瞬にして我を忘れさせ、セックスに溺れてひっきりなしにイキ続けさせ、種を世界にばらまかせることであったはずだ。

 だが、簡単には世界の秩序を崩壊させるわけにはいかないので、唯一神であるポッティが僕の前に現れ、色々とアドバイスをして、…そうだ、アレコレと僕の体を強化してくれたのだった。

 はじめのうちは、防御力の方を重視し、簡単には射精しないよう、性的な刺激に感じないよう、神通力のバリアのようなものをはってくれたのだった。

 だが、敵の快感攻撃も熾烈さを増していき、それにつれて僕の方の未熟さが露骨に現れるようになってきた。そこで、僕の体内に張り巡らされた神通力を、攻撃主体型に切り換えてくれて、なんとかエッチな戦いに打ち勝つことができたのだった。その代わりに弱体化も激しく、淫夢ではあっさりと敗北を喫し続け、死ぬ一歩手前のところまで射精しつくしてしまったのだった。

 今は攻撃の必要はない。ひたすら守りに徹し、射精しないようにすればよいのだ。ということは、攻撃力に偏ったポッティの神通力を、なんとかして防御主体型に切り換えることができれば、…いや、自分の意思と能力によって、攻撃と防御の比重を自由に変えることができるようになれば、もっと戦闘は楽になるはずである。

 問題は、どうやったらそれができるようになるか、である。

 まずは、自分の中に流れているポッティの神通力を、自分自身ではっきりと感じ取れるようにならなければならない。これを認識できて初めて、その先の、神通力の操作へと移行することができるのである。

 そこまで考えたところで、過酷な現実が押し寄せてきた。

 肩から腕まで大きく女手が滑って行く。なめらかな肌触りがゾクゾクとした快感を醸し出し、内股も、お尻も、背中もお腹も、やさしいお姉さんたちのしなやかな手が滑り回っている。

 どんなに力んでも、ガマンしても、スベスベのオイルマッサージでもみほぐされ愛撫され、脱力したところで、一気に性的な刺激が襲いかかってくるのだ。集団で全身を柔らかいお姉さんの両手が何本も僕に覆い被さってくる。

 この敵の作戦というか、攻撃パターンを何とかして克服しなければならない。さもなくば、何度でも女の手による集団愛撫で高められ、あっという間に射精させられてしまうだろう。

 考えるんだ。何か突破口があるはずなんだ。

 全身をもみほぐされ、血行が促進され、全身が心地よい脱力感に包まれるやいなや、熟練した手コキ攻撃が一気に襲いかかる。人体を熟知したナースたちのしなやかな手の攻撃は苛烈を極め、男の感じるポイントを的確に刺激してくる。

 カリ、尿道口、根本、玉袋やその周辺、会陰やアナルに至るまで、むにっとした手のひらとスベスベの甲と白魚のような指先を上手に駆使して、いっぺんに刺激する。役割分担も完璧で、全身をくすぐり撫でさすりながら、同時に大勢でペニスの性感神経すべてを余すところなくしごき上げくすぐり抜きぐりぐり愛撫し続けるのである。

 その性感刺激を避けようとして力んだり意識を飛ばしたりして防御を強めたところで、看護婦さんたちは再びオイルマッサージのゆったりした撫でさすりと揉みしだき攻撃に切り替え、再びリラックスさせて脱力を誘ってくる。この繰り返しで、じわじわ高められたあげく、なまのきめ細かい手でペニスから精液を搾り取るのである。

 一見、完璧な作戦だ。

 だが、どこかに突破口、ほころびがあるはずなのだ。その隙を突くことによって、女手の誘惑をはねのけることができるはずなのだ。

 そもそも、女性の手による刺激を乗り越えるということは、なにも長時間手の刺激や愛撫を受けてそれでも射精しなければいいとか、一定時間耐え抜いたら勝ちということではない。

 女手の魅力に完全に心がなびかず、平常心を保った瞬間勝ちとなるのだ。女の手を嫌い、その魅力に屈しない勝負である。逆に、ほんのわずかでも、女性の手の刺激、その魅力に心が動いている限り、何年シコシコされても逃れることができない。その前に射精は必至ということになる。

 たとえ性的な刺激が続き、生理的な反応によって快感を肉体に得たとしても、それでも「女の手が魅力的」と感じなくなれば、それでこの試練は必ず乗り越えられる。

 それは…本当に至難の業なのだろうか。

 たしかに、女の人の手はスベスベで白くて柔らかくて、きめも細かくて、何とも魅力的だ。小さくてツルツルで、細くてきれいな形をしている。それが性的な刺激となれば、自分でするよりもずっと良いに決まっている。

 だが…それだけのことだ。

 ここで無理に「魅力的ではない」とがんばってみたところで、逆に女手の魅力を全身に叩き込まれて、その快感を思い知らされるだけだろう。

 僕はあることに気がついた。もっとも「魅力」にたいして抵抗できる「ある感情」がある。それは…

 それは、“飽き”だ。倦怠こそ、性的な魅力を減退させる。性的な興奮も、肉体の魅力も、飽きてしまえばなんということもない。イクかイかないかは全く別の次元で、女手に飽きてしまえば、この試練を乗り越えることができるのではないか。

 しかし、何十年も日々手コキされてきたわけでもなく、飽きが来ている状態とはほど遠いのが実態だ。実際に飽きるまで何度も女手で抜かれ続けるほど、種の余裕はないはず。

 だとすると、意識的に飽きていくしかない。一体どうすれば…

 「ふううう…」大きく深呼吸をする。心を落ち着けて、女手のマッサージを身に受けながら、どんどん呼吸を深めていった。どこかに、ポッティの神通力と繋がるところが、僕の体の中にあるはずなんだ。スベスベの手の心地よさを認めながらも、なおかつこれに飽きなければならない。その強い精神力を体内に醸成する何かが、必ずあるはずなのだ。

 その瞬間、体に電流のようなものが刹那、走った。性的な快楽ではないむしろその正反対の、青空のような爽快感だった。

 体の奥底にある、神通力の片鱗のようなものと、僕自身の意志とが、一瞬だけであるが、がっちりかみ合った瞬間であった。心が落ち着き、覚醒していながら深い眠りに入っているような、冷静な呼吸であった。

 その時に素直に、全身をまさぐられている女の手の快楽に対して、「もういい」と思うことができた。心地よいのは確かだが、素直に、それ以上はいらない、と思えるようになっていた。そのまま刺激され続ければいつかは射精するだろうけれども、それは快楽に満ちあふれたそれではなく、あくまで生理的な、倦怠をともなう射精に過ぎないだろう。

 心の底からそう思った次の瞬間、僕はすんなりと女手を心底拒否することができた。激しい抵抗感を伴うものではなく、心静かに、もう十分満たされたからこれ以上はいらないという、落ち着いた拒否であった。

 「!」気がつくと、僕はろうそくの横に立っていた。激しく燃えさかっていたろうそくの火は、ごく普通の小さな炎に戻っていた。懇願するような女のささやきはもはや聞こえなかった。

 「やったぞ翔君! 君は自分の意志で、女の手の誘惑を乗り越えることができたんだ!」後ろからポッティが叫ぶ。そうか、これが乗り越える感覚なんだ。心が落ち着いている。

 「…。」通路の少し先には、激しく萌えて残像を残す炎の光がある。「さあ翔君。次の試練に向かうのだ。試練は全部で8つ。2つ目に挑むがよい。」

 乗り越える時には妙にあっけなかったが、興奮状態・錯乱状態のうちの多幸感を伴う射精を超えるということは、存外そういうものなのかも知れないな。

 僕は静かに、次の試練に向けて歩き出した。
 


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