魔族新法 4

 

 すぐに合点がいった。

 女たちは、すでに外出し、目的の場所にたどり着いていた。小中学生は学校に。高校生は学校または歓楽街に。大学生は学校か、街中に。社会人はオフィスに。店には人がいないが、そこで働いていた人たちは事務室か、街中にいるかしていて、オープンな場所にはあまりいないのだ。もちろん、アルバイト学生は学校だ。

 僕が職場に着いた時も、先に来ていた子供OL集団に襲われたっけ。

 そこで集団で固まっており、出社・登校してきた男たちを、さまざまな年代の肉体で待ち構え、精を奪い続けているのだ。途中にいるより、「目的地」に待機していた方が、より男性との遭遇確率は高いということである。また、家から出ようとしない男性も多くいるはずなので、彼女たちはひっきりなしに、家やアパートに押しかけてきているのだという。

「僕の家も狂いました。家族は外に出て、かわりに大勢の女の子がーー大半はクラスメイトと、妹のクラスメイト6年生たちですけどーー家に押しかけてきました。狙いは僕でした。魔族のせいなのか、家に鍵はかけられず、彼女たちは自由に入ってきて、僕を……」

 彼はめくるめく快楽の宴を、まずは家で味わわされたようだった。射精すれば、周囲の娘たちは気を失うほど絶頂するので、何とか脱出はできる。ただ、いつまでもそこに留まれば、さらに別の女たちが彼の家に次々やってくることになるという。

「どうやら、男がどこに住んでいるかの情報は、当局によって女性たちに知らされているみたいなんです。だから、僕たちは学校に行って女生徒たちを相手にするか、家にいて彼女たちを迎えるしかない。どっちにしても同じことになります。」
「だから逃げてきたんだ?」
「そうです……」

 彼の行動は正しい。そして、家や学校にはすでに大勢の若娘がいるということは、逆に言えば、電車や裏道などは人通りもまばらになるわけである。彼の読みも正しかった。そして、期せずして僕自身が、店や駅、電車という、比較的安全な場所に“避難”することができていたのだった。

 しかし、問題はここからだ。

 家に帰ろうと思っていた僕は、目的を失ってしまった。

 アパートに戻ったが最後、情報を掴んで、女たちが次々、押し寄せてくるだろう。しかも、少年が言うには、魔族によって家の鍵が無効になり、堂々と彼女たちは入ってきてしまうのだという。つまり、部屋に戻ることはきわめて危険な自殺行為、ということになる。

 だとすると、どこに行くのが正しい?

「……このまま、終点まで行こう。」
「ええ。それが正しいと思います。比較的田舎に行けば、もっと人は少なくなる。僕たちは安全になれるし、きっと……もしかしたら……同じように。」

 同じように。洗脳されてしまった男性は、セックスの宴を受け入れ、彼女たちと会社や学校で交わり続けることになるだろう。僕の職場のように人数が少なければ、別のオフィスなどに出向いて、自分から快楽を求めるか、家にいて女性たちが押し寄せるのを待つのだろう。あるいは、同じように。

 そう、同じように、人がさらに少ない郊外へと逃れるはずである!

 洗脳されていない男性たちは、僕たちと同じように、郊外に身を潜め、団結していって、魔族に対抗するために知恵を絞り始めることになる。これは重要な突破口になるはずだ!

 大半の男性は洗脳されているので、郊外に逃れようとは考えない。ごく少数だ。もし大勢の男性が郊外へ逃れようとすれば、女たちもそれを追ってくるだろう。だがそうではないので、追い詰められる心配はない。むしろ郊外や田舎の男女は、さらなる快楽を求めて、都市に大挙してやってくる可能性すらある。ますますこちらに有利だ。

 徒党を組むことには、さらにメリットがあることに気がついた。男性を射精させた女性たちは、その場で気を失うほどの天国を味わう。ということは、仮に男が2人いれば、どちらか1人が射精すれば、そこで女たちは倒れ込んでしまい、射精していない方は助かることになるのだ。

 さらに多くの男性集団になれば、1人が犠牲となれば、あとの男たちは、魔族に精を提供せずに済む。誰かを生け贄にする形となるので、一見、悪いことのように見えるが、総合的には、魔族に提供する精液量が減るので、それだけ人間理性にとっては有利になる。

 その場合、犠牲になる男は、先に勃起してしまった男ということになるのも必然だろう。こすずるいようではあるが、僕はこの中学生と行動を共にすることで、僕自身の精液を守ることになる。さらに人を増やしていくことで、彼をも犠牲から救うことができるかも知れないし、逆に彼ばかりが犠牲になることもあり得る。すべては、彼の自制心と生理的欲求の如何に掛かっている。

 僕はそんなずるいことも考えながら、電車に揺られた。このまま終点まで行き、さらに次の電車に乗り換えて、どんどん都会から離れることにした。

 電車はさらに進む。駅についても、誰も乗り降りしない。都会であればあるほど、学校や会社など、人の集まりやすいところに女たちが集まっている。男たちは羞恥のゆえに家から出ない選択をし、そのせいで女たちの押しかけ逆レイプの憂き目に遭うか、学校ないし職場に出向いて、待ち構えていた女性たちの餌食になる。どちらにしても、都会であればあるほど、その傾向が強くなるのだ。従って、電車に乗ってくる人は、特に下り電車では稀、ということになる。ひとまずは安全。少年は正しい。

 電車は駅に着く。終点だ。ホームの反対側に、別の電車が止まっている。さらに郊外へと進む電車である。

 僕たちは周囲に気を配りながら、その電車に乗り込む。この電車の車両座席は、横に長いロングシートではなく、向かい合って座れるクロスシートだ。ロングと違って、このタイプの座席は、身を低くすれば、外からも、周囲からも見つかりにくくなる利点があった。

 僕と少年は身を低くしながら、電車の発車を待った。

 やがて発車のベルが鳴り、扉が閉まる。ゆっくりと電車が動き出す。駅から見つからなければ、とりあえずは安全だった。

「……ふう。」僕は身を起こし、少年を見る。彼も安全なところで、一応は落ち着いたみたいだった。股間もどうやら平静を取り戻したようである。

 さて……この電車でも、終点まで向かう方がいいだろう。僕たちはそう判断した。周囲に田畑が増え、家がまばらになっていく。時間は、午後もかなり過ぎていた。しばらく何も食べていないが、空腹に困ることはなかった。どうやら数日は食べなくても大丈夫にできているようだ。

 もっと奥地まで行けば、きっと山が見えてくる。そこまで行かれれば、さらに安全になるに違いない。

 電車はどんどん進んでいく。もっと行けば、無人駅さえ出てくるかも知れない。そんなうっそうとした風景が広がっている。駅に着くと、僕たちは身をかがめて敵の目をくらました。2,3駅そうすると、僕たちは見つからずにやり過ごすことができた。もとより、人は少ない。

 日が傾き始めたのが分かる。誰にも会わずにやり過ごしたまま、僕と少年は電車に揺られている。

 さすがに山奥というわけにはいかないけれども、そこそこ山が見えてくる手前あたりで、身を潜めることにしよう。学校などに出向かなければ、とりあえずは安全を保てるかも知れない。神社や森というのも手だ。

 同じように考える同胞がいれば、もっと仲間が増やせるはずだ。射精量を抑えたグループが団結し、組織を大きくしていって、対抗策を考えるのだ。

 問題は、いかにして洗脳を解くか、である。

 女たちは……魔性の快楽に取り憑かれてしまっていては、たとえ正気に戻れたとしても、気絶するほどの快感が忘れられず、きっと逆レイプ衝動を止められはしないだろう。だとするなら、男性側の洗脳を解いて正気に戻す方向で検討しなければならない。

 洗脳から解放された男たちは、さらに郊外での団結を強めていく。ある程度規模が大きくなれば、女たちも彼らを捨て置かず、郊外へと攻めてくるはず。そこで大々的に……理性の優越を示すのだ。性欲に負けず、闘うのだ。そして、堂々と法律を破り、ゲリラ戦のようになっても、射精の快感に屈服しない鉄の意志で迎え撃つ。法を無効化していけば、さしあたっては“宴”を避けることはできそうだ。

 そのあとどうしていくのか……そこまでは、まだ分からない。魔族というものが何者なのか、勝手に憲法まで変えてくる魔性の侵蝕に本当に対抗できるのか、未知数なところはたくさんある。

 だが、人間として、どうしても抵抗しておきたいのだ。

 そういう有志があることが自然である。それは唯一、不自然な形で支配を受けた人類の、ささやかではあるが決定的な抵抗となるはずである。

 男性の洗脳を解く鍵があれば、同じように女性も解放できる。彼女たちはしばらく、魔性の快楽にやみつきにはなるかも知れないが、もともとは女性はセックスに積極的ではなく、むしろ嫌悪的であり、受け入れた男性以外とはしようとしないという、生来の本性が備わっている。子孫を選定する本能とでもいうべきか。だから、時間をかければ、かならず彼女たちは自分を抑制することに成功するだろう。

 洗脳を解く鍵は何か。団結した有志たちの研究により、絶対に見つけ出してやる。そうすれば、このおかしな魔族新法も、じわじわとでも撤廃に向けて動かすことができるかも知れない。

 僕はそんな話を少年に聞かせた。少年はいちいち同意したが、根本的なところでは、解決に対して懐疑的でもあった。そんな甘い話ではない、というのだ。

「洗脳を解く方法が、見つからなかったら、どうするんです。」

 そう。そこが最大の難所だ。

「みんな、この世界の変化に、何の疑問も抱いていないんです。あるいは、世界が変わったことにさえも気づかずに、いつの間にか当たり前のこととして受け入れている。先輩、みんなが当たり前と思っていることを“当たり前じゃない”って言い張って変えさせることは、とても難しいんじゃないですか。」

 正論だ。

 この洗脳は、何かのコントロールが働いてはいるのだろうけれども、人間の理知や操作の範囲を完全に超えた領域で行われたものである。いつの間にか伝統として沈殿したことに対し、異議を唱えることはとても勇気のいることだ。まして突然、大半の人間が気づかないうちに操られているなら、なおさらだ。

「僕は以前、作文の発表会で死刑の問題について発表したことがあります。死刑は残酷だからと書いたんです。でも、途中から生徒たちみんながわいわいと悪口を言い始めました。大騒ぎし始める生徒もいました。みんなして、被害者のことを考えろ、被害者の立場に立ったらそんなことは言えないだろうと言って、大騒ぎになりまして、発表の音声が喧噪に遮られました。」

「……。」

「みんな、ほんとうは被害者の感情に立ってなんかいないんです。どの事件も、明日は我が身、自分がいつ巻き込まれてもおかしくないことばかりになったから、自分の身を守るために、犯罪を抑制しようとしているんです。自分のためなんです!」

 ずいぶん頭のいい子だな。

「みんなが言うことを、違いますと堂々と言うことは、とても恐ろしいことです。徹底的にたたきつぶされます。洗脳を解くって、そういうことだと思うんです。それに似てると思うんです。」

「悪いけど……」僕は彼には反対だ。「僕は実際、”みんな”の言い分が分かる方でね。自分が巻き込まれる、同じ目に遭う恐怖から、君の意見に反対する……そうだとも、みんな自分がかわいいんだ。だけど、それでいいじゃないか。自分がかわいいことの何が悪い。身を守ろうとする正当な行為だ。たしかに被害者がどうのこうのという論を立て、自分がかわいいという本音を隠すのはよくないのかも知れない。それでもしかし、全員がそうだと決めつけるのは早計だし、やっぱり僕はキッチリ犯罪を抑制した方がいいと思う。それは、洗脳とか何とかと同じレベルで話せることではないはずだよ?」

「……」少年は何も言わない。

「それにね、本当に正しいと思う、意見を持っていること自体は、とてもすばらしいことだと思う。叩きつぶされようと何されようと、堂々と言えばいい。世の中、バッシングされようと何されようと、何もしないよりは、行動したヤツの方が有利なんだ。言った者勝ちのところもあるんだ。一度や二度、そんな目に遭ったからって、もう無理と思うのは違うんじゃないか。」

 絶対に活路はある。どんなことであれ、時間をかければ、必ず突破口はある。どんな状況でも、その信念までもを失ったら、それこそ魔の者の思うツボではないか。長く続けていれば、時代の方が変わってくれる。少年より多少年配者の僕には、まだその信念を捨てないでいる根拠らしきものを持っていられるのだった。

 そんなことを話していると、夕方も近くなってくる。終点までは、まだ何駅もある。

 とある駅に着くと、僕たちは身をかがめて敵に見つからないようにした。

「あはははっ」「それでさー」

 どやどやどや

「!!!」

 突然、大勢の人が入ってくる足音が響いた。声はうら若くキャピキャピしている。

「あ!」

 すぐに見つかる。

「なっ……」しまった! 夕方! 僕は驚愕と戦慄に身を固くする。しかしもう、遅かった。

 夕方といえば、学校も下校時刻になる。日常によくあるような、女学生たちの帰りの電車だ。そこは都会と違い、客層が固定されてしまう。下校時刻になれば、田舎の学校から自分の家に帰ろうとする学生たちが大勢、駅で待ち、やってきた電車に一斉に乗ることになる。サラリーマンだの自由人だのは、普段からほとんどこの時間帯の電車には乗らない。この時間帯の電車は、ほぼ彼女たち専用車に近い。つまり、車両内は女子高生だらけになってしまうのである。

 普段と違うのは、彼女たちが全員、乳房もあらわに、制服を着崩し、超ミニスカート、ショーツ、ブルマ、(パンティ抜きの)スパッツなどを下半身にまとうか、あるいはツルツルのオンナをさらけ出して、あられもない格好でいることだった。

 彼女たちは学校で、何度も男子生徒や大人の男性、はたまた子供に至るまでを性の毒牙にかけ、射精時に訪れるあの快楽に味を占めてしまっている。女子校であっても、洗脳された男たちは、その女の園に吸い寄せられるためである。

 それでも物足りず、男を見つけては集団で襲いかかる女学生軍団と化した少女たちは、その着崩した制服の魅力をプンプンさせながら、下校の電車に乗ってくるのである。

 彼女たちは、電車には大人しく揺られつつも、まっすぐ家に帰るのではなく、後々それぞれの自宅近くにたむろし、男が隠れている家やアパートに押しかけて、夜中まで、ハシゴしてでも、精を絞り続ける魂胆なのだろう。

 そんな彼女たちにとって、僕たちの存在は計算外だったようだ。普段は、この学校の女生徒以外、車両を占めることはまれだからだ。

 だが、僕たちはもう逃げられない場所にいた。扉は閉まり、電車は走り出す。密室空間になってしまった。

 僕たちはすぐに見つけられ、取り囲まれてしまう。クロス式の座席は、一つの場所を固められたとたんに、逃げ場を失うという欠陥があった。向かい合った座席の右側を固められれば、そこから先に出ることができなくなる。

 計算外の存在ではあるが、快楽のチャンスを逃す女子たちでもない。すぐにでも襲いかかろうとしつつ、まずは立たせないといけないことを思い出したかのように、少女たちは僕たち2人に殺到する。

 座席周辺にぎゅうぎゅう詰めになって、十数人の女の子たちが僕たちを取り囲む。絶体絶命だった。さらに彼女たちは呼びかけあって、車両の奥にいる娘たちや、隣の車両の女生徒らにも声をかけている。遠くの子は携帯電話で連絡をさえしている。

 まずい……ヘタをすると、ここからずっと抜け出せなくなるぞ。彼女たちは連携して、いつまでもいつまでも僕たちを誘惑し勃起させては、その若い肉体で精液を奪い取っていくだろう。人数は次第に増えていって、次から次へと、僕たち2人めがけて殺到し続けるに違いない。なんとかしなければ。

 だが、長い時間をかければ見えてくるはずの突破口は、目先においてはまったく見いだせないものでもある。突然訪れた大ピンチ。夕方だから下校の女生徒が大量に出現することくらい、予見しなければいけなかった。

 それができず気づかずに、のほほんと電車に揺られていたのは、完全に僕の落ち度だった。注意深い少年でさえ、その時間帯になる前に電車から降りるという選択肢に気づけなかった。気づいてからでは、遅かった。僕たちはただ、ひたすらに、終点にたどり着くことしか考えられなかったのだ。

 すかさず僕の両脇に2人、少年の両脇にも2人の女の子が座り込んでくる! もともと2人がけの狭い座席なのに、僕と少年を挟み込むように2人ずつの女子が無理くり座ってきたので、完全にぎゅうぎゅう詰めの状態になる。

 両側から少女の肉体が押し寄せてくる。横尻のやわらかい弾力が、両側からぎゅうぎゅう押しつけられ、スベスベの生足で高校生特有の弾力と凄艶さを具えてこすりあげられる。さらにあらわになった乳房が、僕の腕や脇腹で潰れていく。少女たちは大小さまざまなおっぱいを自慢に、密着して若い女の子の肌触りと柔らかい触感を押しつけてきたのだ。

 そうして、両側から僕の内股を、まだ指の太さが幼さを代表しているような、それでいて十分に女性的な柔らかさとスベスベ感を具えている、彼女たちの手が撫でさすっている。その絶妙な心地よさと、両側からぎゅうぎゅうされるむっちりした吸い付く肌の攻撃で、ペニスは情けなくも反応をし始めてしまう。

 少年の方は、すでに彼女たちの姿を認めた時からか、両側に座り込まれた時からかは判別できなかったが、この体勢になった瞬間に、すでに誘惑に負けてしまっていた。中学生男子では、年上の女子高生たちの肌が強く密着しただけで、勃起を止めることはできない道理だ。

 僕の目の前で、少年の包茎ペニスが両側からかわいがられる。

 1人は先端をつまんで、皮を揉みしだくようにして、亀頭先端をやわらかな指先でいじめている。その指の動きも素早く、こしょこしょと親指と人差し指を動かして、執拗に先端を揉み、まだ発達途中の肌色ペニスをイかせようといじり倒している。

 そうしてもう1人が、根元をぎゅっと掴み、優しくゆっくり上下させる。手のひらの柔らかさを刻みつけている格好だ。

 先端と棒部分と、それぞれ違った刺激を一度に受けてしまっては、性に不慣れな少年では太刀打ちできないはずだ。

「ねえ……おにいさん……この子、とっても気持ちよさそうでしょう? ね、おにいさんも……」右側の娘が優しく甘く囁く。情けないことだが、両側からの肌触りに加えて、すでに勃起してしまっていた少年の感じまくっている痴態を目の当たりにして、僕のペニスの方もぐんぐん大きくなっていってしまうのだった。

 完全に僕たちの負けだった。

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