魔族新法

 


 「これは……」

 奇妙、というより、恐ろしい光景だった。

 飲食店やスーパーは営業している。小物や雑貨、本やCDショップもある。下着と靴下、そして靴も普通に売られている。従業員は一人もおらず、僕たちは商品を自由に持ち帰ることができ、なんでも食べることができた。代金はかからない。それでいて、自動的に売り上げのお金が会社に入る仕組みになっていた。魔族が、そうしているのだった。

 しかし、デパートなどのテナントのほとんどは、たしかに洋服売り場なのだ。かつてはどのフロアでも、洋服ばかりが売られていた。

 新法になってから、服は禁止。自動的に家庭からも街中からも、洋服は消えてなくなってしまった。下着屋に、スク水やらコスプレやらの簡易な衣装が売られている以外には、服屋は完全に廃業されているのだった。

 その結果、デパートのどのフロアも、ガラガラに片付けられてしまっていた。奥の方に営業している下着屋などがある以外は、陳列棚も衣紋掛けもマネキンも撤去され、柱と床だけのがらんとしたスペースが、あちこちにだだっ広く拡がっている。かなり明るいはずの照明さえ、どこか閑散とした雰囲気を醸し出している。

 それは非常にうす寂しい空間だった。ほとんど、完全大不況でどのテナントも店じまいしたような風景だった。シャッターは閉まっておらず、そこに疲れた男女が大勢、ぐったりと座り込んでいた。

 これは非常事態だ。

 僕は初めて、あの男性の言っていたことの一部を理解した気がした。

 ぐったり座っている人々は、どこかから逃れてきた避難民のような風体だった。服屋ばかりが営業していて賑わっていたフロアが、いまやシーンと静まりかえり、かなり遠くの方まで見通せるくらいに、何も置かれていないで、あちこちの柱ばかりが、さびしく点在しているだけなのだ。

 変わり果てたデパートは、もはや避難所にしかなっていない。ここは昼も夜も、ほとんど人が集まらなくなっている。疲れ切った人々だけが、そこに群がり、じっと体をうずくまらせて、物音ひとつたてないのだった。

 この風景は、完全に異常だった。僕たちは、こんなにも疲れ切ってしまっていたんだ。

 本当に、洗脳されてしまっているのではないか。そんな恐怖感と淋しさが、フロアから強圧的に押し寄せてくるのが分かった。まるで廃墟の中にいるみたいだった。

 服を着るのが本当なのに、それを奪われてしまった結果、デパートが閑散としている。そこに異常さを感じ取った。

 僕は元ジーンズショップの片隅に座り込んだ。完全に営業を停止しており、商品も棚も鏡もすべて撤去され、床だけが拡がるスペースだった。光っていないローマ字の電光看板がもの淋しい。

 かなり遅い時間になっていた。僕はそのまま、裸で横たわり、眠るしかなかった。床は硬いけれども、慣れるしかないだろう。

 明日から、どうしよう?

 本当に、早朝に学校に行き、昼間に休んで、夜に自宅で宴を楽しむ……それでいいのだろうか?

 本当は、快感に忠実になることは、悪いことだったのではないだろうか。魔族の支配は、まさに快楽を媒介とした“悪夢”なのではないか。

 そうだとすると、女の子たちの誘惑を振り切れないでいる自分が情けなかった。おそらく、少女たちに遭遇して誘惑されれば、僕はそれに勝てないだろう。洗脳からの脱出は不可能に近かった。

 ささやかな抵抗をするというのなら、一日じゅうこの寂しいデパートに身を潜めるか、人々が集まらない時間帯・場所に行って、わずかな誘惑に勃起せず、最小限の射精にとどめておくくらいしかない。

 あるいは、あの男性のように、疲れた人々に「洗脳されているんだ」と触れ回るか……誰が僕の言うことなど信じるというのか。

 何も結論が出ないままに、僕はうつらうつらと、浅い眠りの世界に誘われていった。

 どのくらい時間が経っただろう、僕は目を覚ました。

 デパートのフロアだ。

 人の数はあまり増えていないが、何人か入れ替わりがあるみたいだ。夜通し家で性の宴を謳歌し、どこかに無理をしているために精神的に疲れて、のろのろとこのフロアまでやってきた男女もいるようだ。そういう男性たちは、皆疲れ果て、こんこんと眠り続けていた。眠ることもできない女性たちは、ただ黙ってフロアに横になるか、座ってじっとしているばかりだった。人間の暗い心の闇が、彼らの光景から感じ取られた。

 これでは、いけない。

 大勢の人が集まっているところで快楽をむさぼり、ごく一部ではあるがそれに疲労を感じた男女が、ひっそりとデパートに来て、音も立てずにじっとしている。まったくちぐはぐになっている。どこかでは快楽の乱痴気騒ぎが繰り広げられ、その一方で、さびれたデパートでぐったりしている人間の姿。

 なにかに、操られている。

 絶対に、操られている。

 光と影の両方を垣間見た気分だ。魔族新法の異常性を、じかに肌で感じ取った。

 なんとかしたい、どうにかしなければ。でも……僕は無力で、状況をどうにかできる力もない。違和感を感じながらも、目の前に異性が現れて、クスクス誘惑されたら、どうしても勃起を抑えきれず、セックスに応じてしまうのは明らかだった。

 起き抜けにはペニスが隆起し、いつものとおり朝立ちをしてしまっている。生理反応を自分でコントロールできるには、僕はあまりに幼かった。

 しばらくすると朝立ちは収まったものの、体のくすぐったい疼きが一定時間ごとにこみ上げてくる。まるで、しばらくオナニーしてもいなかったみたいだ。ちょっとした性的刺激で、あっさりペニスは勃起してしまう状態だった。

 一体どうしたらいいのか、まるで決められないでいた。

 誰か洗脳もされてもいない、頼りになる人を探すしかないだろう。でも、どうやって探せばいいんだ?

 とりあえずは、家にいったん戻ってみようか。

 帰るというよりは、様子だけを見て、すぐにその場を離れるようなイメージだ。

 大きな道路に出てみる。やはり、自動車はほとんど走っていない。これまで車で出勤していた人々も、電車を使って早朝に出かけるようになったためだろう。また、トラックなどの輸送の仕事は、魔族が自動的に転送してしまうので、必要がなくなっているみたいだ。結果、道路はずっとガラガラの状態で、大勢の人は学校などの「集まりやすい場所」にたむろし、人もまばらになってしまっている。

 空腹を覚え、途中の店に入った。たしかに、無料でなんでも食べることができている。人気はない。音楽もかかっておらず、無味乾燥そのものだった。

 食事を済ませると、再び家に向けての道を歩き出した。

「……あれっ!?」

 あまり通り慣れていない場所だったためか、僕はどうやら道に迷ってしまったみたいだ。この角を曲がれば、知っている道に出る、そう思って歩いてきたのだが、いざ曲がってみると、まったく違う、見知らぬ場所に出てしまった。

 いったい今、自分がどこにいるのか。皆目見当も付かなかった。

 そういうときは、高いところに登って、目印を見つければいい。

 僕は近くにあった小さめのビルに入る。ここは雑居ビルになっていて、普通なら誰も勝手に出入りはできない場所のようだが、僕は簡単に屋上に上がることができた。ドアはすべて鍵がかからなくなっているのだった。

 屋上に出て、周囲を見回す。あのへんに学校がある。ということは、家に向かうには、この道をまっすぐ行ってから左に曲がって、大通りに出て、しばらく歩いていけば、近所にたどり着くはずだ。

 念のため物音を立てないようにして、僕はビルを出て、車の通らない細道に向かって歩き出した。大通りに出てしまいさえすれば、元に戻れる。

 すると、小さな十字路から、突然、1人の女性が飛び出してきた!

「うゎっ!」
僕は曲がり角で彼女とぶつかってしまい、後方によろけて尻餅をついてしまった。

 さらに別の方向から、2人の女学生が訪れる! 彼女たちも僕を見つけ、さっそく“戦闘準備”に入るのだった。

 僕はすっかり3人の女性に取り囲まれてしまった。たしかに、大勢が集まる場所ではない。でも、まばらな場所だからと言って、絶対誰もいないと思い込むのは、甘かった。

 そもそも、大勢の男女が、年長者さえも若返り、性欲の快楽に突き動かされて、至るところにたむろしているのだ。

 まだまだ、家に閉じこもっている男性も多く、彼らを求めて家々を訪ね歩く女性集団も少なからずいるんだ。ということは、閑散とした街中に彼女たちが歩いていても、決しておかしくはない。若い男女の数は、薬のおかげで格段に増えているんだ。僕は自分の身通しの甘さを悔やんだ。

 しかし、勝負はこれからだ。勃起さえしなければ、そのままこの場から脱出できてしまえば、僕の勝ちなんだ。射精させられずに済む。

 僕にぶつかった女性は、胸もしっかり膨らんだ大人の女性で、細い足がすらっと長く伸びている。上半身裸で、下半身にタイトスカート、そこから大人の細長い生足が伸びている。内股は膨らんでいながら全体的に引き締まり、それでいて細く伸びたふくらはぎがとてもやわらかそうだ。

 女性は自分からスカートをめくって、ツルツルのオンナを見せつけてきた。パンツさえはいていなかった。

 さらに背後から僕を取り囲んだ女学生たちは、夏服に身を包み、オンナが見えてしまいそうなほど短いスカートをはいていて、Yシャツをはだけて若い乳房を露出させていた。彼女たちも健康的な太ももを僕に見せつけて、性行為を誘ってくる。

「お姉さんたちといいことしよう?」「コドモでも男だしね……ちんちん立つでしょ?」「かわいい……少年もいいよね……ゴクリ」

 年上の女性たちは性欲を丸出しにして、小学生相手であることなどお構いなしに、僕を勃起させようとしてくる。

 こわい。

 同年代や中学生くらいのお姉ちゃんなら、身近に感じることができるために、直接、誘惑に弱くなってしまう。異性をじかに感じてしまうんだ。

 でも、それよりも上の世代が相手となると、どこかよそよそしくって、自分とは遠い世界、違う世界に住んでいる相手のように思える。まさに大人と子供の世界がまったく違うのと一緒だ。だから、性的な対象として、簡単には見れなくなっているのもたしかだ。

 そのために、彼女たちの胸や脚を見ても、それだけで勃起してしまう事態には至らなかった。ただ、自分の部屋で大人の女性を相手に射精させられたこともあって、そのスベスベの肌に触れたり、やわらかいしたいにムギュッと包まれたりすれば、たちまち性欲が全開になってしまうことも知っている。触られたり抱きつかれたりしたらアウトだ。

 僕は周囲に警戒して、彼女たちを近づかせないようにした。じりじり近づいてくれば、僕は蹴りを空中に入れて威嚇した。

 彼女たちは視覚攻撃を中心に、僕を欲情させようと体をくねらせている。が、こっちはギンと光る目線で周囲を威嚇しているため、それ以上近づいてくることはなかった。

 するとそこへ、もう1人、OLらしき女性が近づいてきた。誘惑の群に1人加わり、僕の周囲には4人の女性が群がっている。

 こうなるともう、多勢に無勢となる。

 僕の蹴りなどまったく追いつかず、お姉さんたちは次々と手を伸ばし、僕の体に触れてくるようになった。胸板を撫で、脇の下をくすぐり、内股にスベスベの手を滑らせてくる。背中やお尻も大人の女手の餌食になっていく。

 そうしてついに、僕の両手首は、女学生2人にがっしりと掴まれてしまう。手首を固定され、やわらかい手のひらで圧迫されると、それ以上暴れることが難しくなる。

 そこへすかさず、OLお姉さんが攻撃を仕掛けてくる。遠慮なく乳首をくすぐり、胸板をじっくり撫でさする。その手はだんだん下に向かっていき、股間周辺や内股をゾワゾワとくすぐったく愛撫してきた。

 ペニスは半立ち状態になり、くすぐったく反応していく。僕は彼女の胸の谷間を見下ろしながら、お姉さんが跪いて股間に顔を近づけるのを、ただ黙って見ているほかはなかった。

 やばい……これはフェラチオだ。自分の部屋でこれをされて、あっという間に爆発してしまったほど気持ちいい攻撃だ! 僕はなんとかして彼女から逃れようと、強く腰を引いて足をばたつかせ、抵抗した。

 しかし、両腕が塞がれてしまっているので、それ以上に身動きを取ることができず、結局僕は逃げられない。

 くちゅり……

「あうぅ!!」くすぐったい刺激がペニス全体を覆い尽くす。

 OLは自分の指ほどの小さなペニスを、ゆっくり丹念に口に含め、内部をもごもごとかき回して、さらなる刺激を送り込んでくる。やがて半立ちのペニスはすっかり元気になり、お姉さんは首をゆっくり前後させて、ふにふにした唇でしごくようになる。舌先はペニス先端の皮をこじ開けるようにして、内部の敏感なところに集中して蠢いている。

「ひあっ!」

 お尻の穴が急にくすぐったくなった! 見ると、もう1人のOLが僕のお尻に顔を近づけ、ワレメを左右にこじ開けるようにして、敏感なお尻の穴をやわらかい舌でねぶっている。

「だめっ! やめてぇ!」

 僕は腰をくねらせて、急激に高まる快感の波に悶絶した。しかし、前からも後ろからも大人の女性の舌先が押し寄せてきていて、腰を引いてもお尻が激しくねぶられるばかりだし、後方の快楽を逃れようと腰を突き出せば、甘美なお姉さんの口がペニスを強く圧迫しながらクチュクチュしゃぶり続けている。逃げ場はなかった。

「やだっ、やめてよっ!」
僕は哀願するように叫んだが、フェラチオにこなれた大人のお姉さんたちは、僕の言葉なんかに耳を傾けることなく、粛々と前後から口と舌を動かし続けるだけだった。

 股間に急激なくすぐったさがこみ上げる。きゅ~んと全身に拡がっていく多幸感は、射精直前のあまりの心地よい天国だった。

 前後からのお姉さんの口の攻撃に、僕はなすすべもなく、また快感に抗う我慢の仕方も分からなかった。

 僕は強く腰を引いた。すると舌先がお尻の穴に深くねじ込まれた。同時に、前方の口がペニス根元までをしっかり包み込み、ぎゅうっと強く吸引しながら、舌先だけチョロチョロと先端をいじめた。

「ぉあああ……」
ビクン! どくどくどく……

 強烈な快楽が僕を包み込んだ。絶頂の快楽は長く続いた。その間じゅうも、お姉さんたちは口や舌を休めることがない。後ろの女性は脈打つお尻の穴を愉しみ、前方の女性も律動するペニスを口に含んだまま、決して離してくれなかった。

「むぐうっ!」
前後の女性たちも激しい絶頂を迎え、その場に崩れ落ちる。僕なんかとは比べものにならない快楽を女体全体の性感神経に受け続け、あっという間に気を失ってしまうのだ。その魔族絶頂を、もし僕が受けてしまったら、きっと気絶では済まされないだろう。男性はそれだけの快感に耐えきれないはずだ。

 僕の腕を固定したお姉さんたちは、その絶頂には与れなかった。直接僕に快楽を与えるのではなく、体を固定しただけだったので、彼女たちは気を失わなかった。それは、彼女たち自身の意志・計算によるものだった。


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