魔族新法
やっと、出口を見つけた。僕は最後のお姉ちゃんと正常位で結合し、激しく腰を振ってオンナを悦ばせ、カウンターの締め付けに晒されて脈打つ。その肢体を乗り越えると、上に上がるハシゴが見えた。
僕は必死でハシゴを登り、マンホールの蓋を開けた。
「ここは……」
学校の片隅にあるマンホールだった。ここは学校の中だ。
外はすっかり薄暗くなり、空の彼方だけがオレンジ色に輝いている。外に出てみると、すでに生徒たちの姿は見当たらなかった。みんな下校してしまい、近所の男性の部屋に赴いているのだろう。
僕はすっかり精神的に疲れ果てた。今の学校なら、休むことができるだろう。不思議なことに、地下から脱出して新鮮の空気を吸うと、あふれんばかりの性欲はなりを潜めた。
体育館に入ると、すでに疲労した男女が床に座っていた。デパートで見た光景に似ている。
しばらく休んでから、僕は外に出た。デパートに向かうためである。あの場所なら、今の時間帯は、疲労した男女しかいないはずだ。
外は真っ暗になっている。街灯の光を頼りに、僕はデパートに向けて歩き出した。
僕は洗脳に目覚めてから、自分でも驚くくらい、大人びてきていることを感じていた。何も考えず、ただ当たり前のことを当たり前のように考えて、少しも疑わなかった。
でも、急激に変わり果てた一日を経験して、僕は快楽と引き替えに、いろいろなことを覚えた。良いことと思っていたのが、実は良くなかったというのはショックだ。そして……それでも自分にできることは何だろうと、考えるきっかけになった。
これからどうしよう。
行く当てはほとんどなかった。どこに行っても、魔界新法の下では、勃起したらその時点で負けとなる。弱い僕は、どうしても射精するまでしつこくかわいがられ、快感に打ち勝つことができずに、女の子や女の人に気持ちよくされちゃうんだ。
デパートも、確実に安全とまでは言えないかも知れない。
学校や家など、これまでの生活サイクルの中で行かれる場所は、小学生には限られている。あんまり１人で遠出をすることもなかった。
これから、どうしよう……
電灯の明かりを頼りに、僕は人気のない道を歩き続けた。デパートまで、もうすぐだ。
ひっそりとしたデパートにたどり着き、中に入る。がらんとしたフロア。どの階もだいたい同じようだった。僕はエスカレーターに乗って、上の方に行くことにした。
最上階はレストラン街だった。どの店も営業はしている。魔族によって自動的に運営しているため、２４時間体制になっていた。
食欲と性欲は相容れないらしい。デパート全体がそうだったが、男女とも“一時休戦”の状態になっていた。
ここなら、ひとまずは安心だけど……確実でもない。
大きな窓から外を見た。いつもよりもずっと静かな町並み。ときおり遠くから、電車の音が聞こえるだけだった。自動車がほとんど使われなくなり、街は騒音から開放されたみたいだ。
しかし、家やビルの明かりはつけられている。そこではきっと、めくるめく快楽が積み重ねられ、場所を選ばずに男女が交わっているのだろう。勃起可能な男子なら、容赦なく餌食にされてしまうんだ。
本当は神聖な営みだったはずのことが、今は魔族のエネルギー源になっている。これを食い止めなければ、僕たちは魔族にすべてを奪われてしまうのかも知れない。半ば強制的に快感を与えられ、それに心を奪われた男女が、連日連夜、快楽と引き替えに、何か大切なものを失い続けているような気がする。
どんな誘惑に晒されても、勃起さえしなければ、精を奪われない。でも、勃起を止めるのは、子供の僕にはまだ難しい。おまけに、魔族のしわざで性欲がずっと高まり続けている。精神的に疲れ果てでもしなければ、股間のくすぐったい疼きに我慢ができなかっただろう。
そして勃起してしまえば、女たちはありとあらゆる行為でペニスを気持ちよくして、ドクドクさせてしまう。もはや彼女たちのきれいな肢体が吸い付いてきて、射精を逃れるのは不可能だった。
ぼんやり窓の外を見つめていると、下の方が騒がしい様子なのに気づいた。
なんだろう……。目をこらしてよく見てみる。あれは……
「！！」
なんと、大勢の女性が、デパートの前に集まり始めている！
商業施設は憩いの場所ではない。ただ人が集まりにくいというだけで、疲れた男女がひっそりと過ごしているだけなのだ。
しかし、だんだんそうした男たちがデパートに集まるようになれば、彼らの肉体を求めて大勢の女性が押し寄せてくるようになっても、まったく不思議ではない。
「まずい……」
人よりも先に見つけた僕は、残念ながら疲れた人たちに警告する術も知らなかったので、仕方なく自分１人、逃げることに決めた。
仮に、うつむいて座っている男性たちに、大勢の女性が来ていますと告げたところで、いったい何になるだろう。彼らに、どんな逃げ場があるというのか。出口はすでに塞がれている。
それは……僕とて同じ事情だった。逃げ場なんてあるのか。
正面切って逃げるのは得策ではない。彼女たちが一定数集まって、一斉にデパートに押し寄せてくる前に、どこかに隠れて、隙を見て抜け出すしかない。
どこに隠れようか。トイレ？ いや、そういうところは真っ先に捜索されるだろう。僕は周囲を探した。高いビルディングなら、あれがあるはずだ。
下の階から、どたどたと足音が響いてくる。男女が追いかけっこをし、下の階ではすでに男たちが捕まってしまって、上まで逃れてきた男たちと、それを追いかける女たちが、壮絶な追いかけっこをしているんだ。
早く見つけないと。焦る。
「あった！」
それは、通常は使われない、非常時の避難用階段だった。
鍵はかかっていなかった。僕は薄暗い階段を音を立てずに降りていった。
一番下まで来る。女性たちは全員建物の中に入ってしまったので、僕は見つからずに済んだ。
できるだけ、この場所から遠く離れるんだ。電車の音がする。僕は自然と、音のする方向に走っていた。
しばらく歩いたり走ったりしていると、駅が見えてきた。滅多に１人では来ない場所だ。
だが、駅に近づくと、そこは交わる男女が多数たむろしている場所だった。まだまだ夜中になるまで移動は続けられているみたいだ。今、駅に行くのは得策ではない。
僕は駅を避けて、近くの道路を歩き出した。
「ふふふ……」
「！！」
道の陰から、コートを身にまとった女性が現れた。２６歳くらいのお姉さんだ。
「見てっ！！」
女はがばっとコートを開く。すると、コートの下は完全に裸になっているのだった。
「ふふっ、ねえ、私、キレイ？」
「……。」
性欲よりも恐怖の方が勝っていた。股間の疼きはなく、僕は数歩、後ずさりする。
「コドモでも男なら、女の裸、いっぱい見たいでしょう？」
女はじりじり近づいてくる。
完全に変な人だ。
しかし、新法の下では、むしろこれが正しい姿なのか。
勃起しない僕は、きびすを返して一目散に逃げ出した！
だが、大人の脚力にはかなわず、あっさり追いつかれてしまった。
「くそっ！ 離せ！ やめろ！」
僕は暴れて女の拘束から逃れた。柔らかな肌触りが僕の全身を滑っていくが、それでも勃起するわけには行かなかった。
「かわいいオチンチンだね。ね、もう何回くらい、ココからビュービューした？」
「ああっ、やめ……」
お姉さんは亀頭先端をやわらかい指先でつまみ、皮を揉むように指で亀頭をを刺激してくる。勃起もしていないのに、皮をいじくってくすぐったくさせるなんて、反則だよっ！
プシュー！
「！」
「あうっ！」
「こっちだ！」
急に何者かに手首を掴まれ、ぐいっと引っ張られた。状況確認が一瞬、できなかった。
コートの女は目を押さえてうずくまっている。どうやらガスを吹き付けられ、悶絶しているらしかった。僕の手を引いているのは、半ズボン姿の少年だ。
僕は何も考えられずに、少年の手を引くままに、彼と一緒に走り始めた。
そして、人気のない公園の、全身がすっぽり隠せる遊具の中に入った。
「……しばらくここにいよう。」
少年は僕の顔を見て微笑んだ。ちいさな明かりがともされていて、僕たちは明るく狭い空間に身を潜めたのだった。
「キミは……」
僕は何が何だか分からず、少年をじっと見た。知っている子ではない。
髪はやや長めで、首筋のところで切り揃えられている。髪のボリュームがあって、一見女子のようにも見えるが、こういう髪型の男子も少なからずいるので、特に違和感はなかった。
むしろ、彼が半ズボン姿であったことに、強い違和感を覚えた。
全体にほっそりしていて、きれいな肌をしている。上半身は裸で、下半身にぴっちりした半ズボンを穿いている。華奢な感じの少年だった。
「危ないところだったね。」
「……助けてくれたんだね。」
少年は護身用のスプレーを持っていた。それでコートの女の目をくらませ、その間に二人して逃げたという訳なのだった。
「君も、洗脳が解けているの？」
僕は思いきって尋ねてみた。
「……何か、おかしいよね。」
少年は、目を伏せながらつぶやいた。
「そうなんだ！ この世界は、どこかおかしい。魔族によって洗脳され、みんな狂ってしまっている。」
「待ってよ。大きな声を出さないで。通りかかった女がいたら見つかっちゃうよ。」
「あ……そうだね……」
僕は声を潜めた。
「……ボクがどうかした？」
少年は不思議そうに僕を見る。大きなぱっちりとした目は、本当に女の子みたいだった。
「いや……ズボンが……」
法律の決まりでは、男は全裸か、女物のショーツ以外、身につけてはいけないのだった。外を歩くのに不便なので、靴下と靴だけは許されている。そして、魔族の力によって、服はすべて消されてしまうのだった。
つまり、どうあっても服装規定には従わざるを得ない状態なのだった。
しかし少年は、法律に違反して半ズボンを穿いている。どこかで魔族に消されずに残っていたものなのだろうか。しかしそれにしても、男子が身につけたとたんに、自動的に消えてしまうはずなのである。
「これ？ クスクス……これはね。女の子から奪ったものなんだ。」
「うばった？」
「そう。女子用の半ズボンを奪って、自分ではいている。これで、勃起しにくくなるし、オチンチンをガードできるしね。」
「違反……だよね……良く消されないなあ。」
「君も穿いてみるといいよ。女物の服なら、取ってきて自分で身につけることができるはず。」
「そうなんだ……知らなかった。」
「と言っても、全身をカバーできるのはなかなかないね。制服とか、はだけたＹシャツくらいしかなさそうだ。女たちも結局、半裸なんだし。」
「そうだよね……」
奇妙でもあった。でも、どこか納得がいく部分もある。パンティなら身につけられる、ということは、ある程度女物を身につけても、魔族にばれずに、消されずに済む場合もあるのかも知れない。
女装……これはいいアイデアかも知れない。
女の子のフリをして、服が消されずに残れば、子供なので服装だけで区別もつかないだろうし、女装すれば、女たちが襲ってくる可能性は格段に減るんじゃないか。
「それは……いい手だね。」
「くすくす……そう？ ところでキミ、洗脳って、どういうこと？」
「！？」