性霊の棲家10


 一日中寝ても覚めても、ほとんど休みなく僕の体は快感に晒された。畳の部屋は昼間は女学生達がやって来て、夜になると手だけの妖怪や不定形の肌色の塊がペニスに張り付くのだった。スライム状の物体が僕の下半身を覆いつくし、グニグニと蠢いて僕を高める事もある。ひどいのになると筒の形の化け物が張り付いて激しく前後し、そのオナホールみたいな感触で感じさせられた。

 性霊達が求めて来るともう逃れられなかった。彼女達の甘い誘惑に負け、何度でも射精してしまう。抵抗すると寸止めや誘惑攻撃に移ったり金縛りで有無を言わせず抜いて来るので、性霊に遭遇したら僕はもう射精が義務付けられるしかなかった。

 それでも不思議と疲れなかった。何度射精しても、相手が満足するまではまだ性欲がこみ上げた。いや、無理やり性欲を持たされたと言った方がいいかも知れない。異様に空腹になるのを除けば、特に衰弱して死にそうな事はなかったが、やはり不安が残る。このまま快感の奴隷になってしまったら、それこそ廃人になってしまう!!

 眠っている時は、彼女の夢を見る。あの首吊り自殺をした女性の夢を。キョウコ、という名前だという事が分かった。断片的に見せられる恐怖の映像。そしてその後に訪れるめくるめく快楽の世界。

 キョウコの見せる夢だけは特別だった。他の性霊が只セックスを楽しむだけなのに、彼女の時だけ、言い知れぬ悲壮感と怒り、胸の締め付けられるような切なさが伴っていた。キョウコとのセックスが終わって目が覚めると、僕はいつも涙を流していたのだった。その涙をぬぐう暇もなく、布団の中からもぞもぞと性霊がかわいらしい笑顔を見せるのだけれど。

 4日目に入った。今日も異常な饗宴の一日となってしまうのだろうか。それとも今日こそ大沢さん達が来てくれるのだろうか。そんな事を考えながら目を開けた。顔には涙の筋が跡になって残っているようだった。

 僕の下腹部の辺りが盛り上がった。枕元には、祭りの時のような浴衣姿の女の子がいた。今朝は二体か。

 「オハヨ!」「もあよ!」布団の中にいる方は、既に僕のパジャマを脱がせ、ペニスを頬張っていた。僕は無言で彼女達にされるがままになっていた。

 やがて布団に横たわったまま性霊の口の中に朝一番の射精をする。浴衣の子は僕の顔を覗き込みながら、順番を待っていた。「じゃ、次は私の番ね。」そう言うと浴衣の子は、はらりと浴衣をはだけた。袖を通したまま彼女は胸を露にした。

 彼女が布団の中に入って来た。僕の左側に潜り込んで来た。そして右側から、さっき僕のペニスを舐めていた子が顔を出した。よく見るとそっちの方は、ウェディングドレス姿だった。「…結婚して♪」甘い囁きが耳をくすぐった。ドレス姿を間近で見たのは初めてだったので、ドキドキした。

 「私の番でしょ?」浴衣姿の子がすねて抱きついて来た。そのまま僕の上に乗っかる。幽霊とはいえ、体重がある。いや、あるように感じた。それが生身の女性の感覚と錯覚してしまう程だった。つまり重かった訳だが。彼女は前後に自分の体をこすり付けて来た。またペニスが反応する。

 「それっ!」浴衣の子が元気よく腰を動かすと、ペニスは彼女のオンナに一瞬で収まってしまった。ココの感触だけは慣れる事がなく、いつも僕はあっという間に絶頂に達してしまう。ごぽっごぷっ!オンナの中に精液を放出した。

 「もう少し入れていたい!」そう言うと彼女はさらに体をゆすり、巧みにペニスを締め上げて上下に揺さぶるのだった。

 その小刻みかつ大胆なグラインドに、僕は3度目の発射となった。

 「ねえ、あたしまだ入れてないんだけど、ダーリン!」ウエディングドレスの女性はもの欲しそうに僕を見つめた。浴衣の女が僕を離して、ウェディングドレスの子と交代になった。彼女は体を起こし、長いスカートを捲り上げた。ドレスの下は全裸のようだった。

 そのまま僕に背中を見せる格好で、女性逆上位で挿入。結合部分はドレスに隠れて見えなかったが、そのヌメヌメした感触だけで十分だった。前かがみになると僕からは彼女の姿が見えにくくなった。

 「えいえいっ!出しちゃえ!」激しく体を上下させ、彼女は僕を搾り取った。ケープが柔らかく揺れている。なんか新婚になった気分だ。その倒錯が僕をさらに興奮させた。新婚さんでもドレスは脱ぐだろう事に気づかなかった。

 「こんなの、どお?」ぐりん!「うわああ!!」

 結合したままドレスの女は体を回転させ、騎乗位になって僕と正面向き合った。オンナの中でペニスが捩れてるうう!締め付けが一層強くなった。彼女が腰を動かす前に、僕はたまらなくなってイッてしまった。それだとドレスの女性は不満らしく、さらに体を上下させた!ねじれ攻撃に上下運動攻撃が加わった!

 結局朝一番で、6発抜かれてしまった…。

 トイレに行く。ファスナーからブツを出して小。用も足して水も流して、そこで金縛り。またろくろ首かと思ったが、今日は違った。後ろから抱き付いて来た。両手がある。背中に当たるおっぱいの感触もある。今回は化け物ではないようだった。

 "Hi, how are you?"

 えっ!耳元で囁きかける甘い声は英語だった。金縛りが解けたので思わず振り返る。背の高い白人女性が、かわいらしく微笑みながら僕の顔を覗き込んでいた。

 「えっ! あ、あいあ、む、はいんさんきう…」

 "Did pee finish? But you have not finished all yet, aren't you? Since I help, let's take all out!"

 ダメだ、まったく分からないし通じない。しゃべるのも聞くのもダメな上に、相手が外人の美女とあって、緊張がさらに高まってしまった。

 白人美女は、後ろから僕のペニスを両手で握り締めた。そして細くて柔らかい指でムニムニと揉みしだいて来た。相手が性霊だと何度でも射精できる。当然何度でも勃起する。快感が衰える事もないし疲れたり痛くなったりもしない。これも霊障の一つだ。おいしい霊障のようにも思うし、なにかヤバイ感じもする。何の代償もなく気持ちいいだけなんて考えられない。

 段々何も考えられなくなって来た。彼女の指がばらばらに動き、亀頭、裏スジ、真ん中あたりから根元まで、やわやわと揉みしだく絶妙な動きに加えて、玉袋まで指先で転がされている。優しく引っかくような愛撫に思わず身を捩じらせる。すぐに勃起してしまった。

 完全にいきり立った事を確認すると美女は両手でしっかりとペニスをくるみ込んだ。そしてそのまま腕を前後させ、やさしく、かつすばやく、ペニスを扱き上げて来た!じわりと締め付けたり根元から亀頭にかけて段々すぼめるように力を入れたり抜いたりして、僕のペニスを責めている!

 「くうう!」僕はこれまでにない指先のテクニックに感じまくってしまった。また射精感が込み上げる。耳元にかかる吐息が僕をくすぐった時、たまらずに便器に精液を放ってしまった。

 白人女性は北欧系の整った顔立ちをしていた。彼女は微笑みながら僕の横に立ち、僕と向き合う格好になった。いつの間にか全裸になっていた彼女は、上下とも金髪で、透き通るような白い肌をし、スレンダーなんだけど全体的に肉付きのよい肢体で、青い目が切なそうに僕を見つめている。まだ物足りないといった感じだ。

 彼女はしゃがみ込むと、再び僕のペニスを扱き始めた。今度は右手だけで。左手は僕のお尻を抱えている。

 手首を返すようにスナップを効かせてしなやかに大きく、激しい手コキ攻撃。その圧倒的な快感に僕は再び発射準備に入った。彼女はいたずらっぽく笑いながら、僕の顔とペニスを交互に見ている。どうやら彼女は自分の手コキで男が身もだえして射精するのを見る事で、興奮したり満足したりする性格のようだ。だからこんなにテクニシャンなのか。

 「!!!」左手の指が、突然僕のお尻の穴を貫いた。細くて冷たい感触。それが僕の中でグリグリ暴れている!

 さっきからイキそうになっていたのに駄目押しの攻撃で、僕は彼女の顔めがけて勢いよく射精した。もう何も言えなかった。

 手コキで征服された様子を見て満足したのか、白人女性は消えて行った。僕はもう一度水を流し、トイレを出た。

 食事の時だけは、誰にも手を出されなかった。とにかく腹が減る。いつもなら食べ切れない程の量を、ガツガツと食いまくる。多分この補給分が、精液となって性霊どもに提供されるんだろうなあ。

 食事が終わると、畳の部屋で横になる。すこし休みたい。疲れはしないけれども、やっぱり精神的にきつい。何もやる気が起きず、ぐったりしていた。

 トン、トン。

 ノックの音がする。男子トイレに出没した女子学生の幽霊達が来たのだろう。僕は暫く居留守を使う事にした。昨日は玄関のドアを開けちゃったからひどい目にあった。座布団を頭からかぶり、ノックも聞こえないふりをする。その内あきらめて帰ってくれるまで。

 トントン。トントントン。「あーけーてー」

 女の声だ。やっぱり奴らが来たんだ。窓の外は明るい。開けてみたら月の光だったなんてオチはいやだ。現代には時計がある。文明の利器がある。午前10時28分。正確な時計がある限り現代に牡丹灯篭はありえねえ。って、何を言ってるんだ僕は。

 ドンドンドンドン! 「あああけええええろおおおお!」ノックの調子がどんどん激しくなって来る。

 「ひいい!帰ってくれえ!」僕は思わず叫んでしまった。

 「イキナリそれはないんじゃないの!せっかく大沢君とこうして来てあげたってのに。ちょっと遅れたのは悪かったけど、だからって『帰れ』はないじゃない!」

 あ、聞き覚えのある声だ。この声は…そう、石川かりんだ!やった、ついに来てくれたんだ!

 僕は助かったと思い、玄関のドアを開けた。

 「へへへー♪」そこに居たのは、7人の女子学生達だった。

 「え…」「現代にはコレがある。文明の利器がある。ボイスチェンジャー♪」一人の女の子がなんか怪しい機械を自慢している。つまり、性霊達がボイスチェンジャーとかいう物を使って石川の声色をまねて、僕を騙したという訳か。幽霊のくせに。

 「ああああ…」「さっ、今日もわたしたちと遊びましょう♪」「い、いやだあああ!!!」「だぁめ!」

 僕はまた彼女達に抱きかかえられて、畳の部屋に連れて行かれた。多勢に無勢で、抵抗できなかった。あっという間に僕は全裸にひん剥かれた。も、もうだめだ、これから午後5時まで、休みなしに彼女達の相手をさせられるんだ…

 「悪霊退散!」

 ブワアアアアッッッ!!!!突風が部屋の中を吹き荒れる。男の声だった。

 性霊達は、苦痛の叫びを上げる暇もなく一瞬にして消え去った。この技のキレは石川かりんのへなちょこなものとは一味違う。

 玄関を見やると、長い髪の長身の男が立っていた。切れ長で端正な顔立ち、痩せているが力がありそうな肉体、全体的に黒っぽい服装。達観したような雰囲気が、男の僕でも惚れてしまいそうな不思議な魅力をたたえていた。

 「あ…」

 「大丈夫か?」

 「あ、ハイ。」

 「俺は大沢幹久。石川から話は聞いているかな?」

 「あ、あなたが大沢さん!」今度こそ僕は助かった!

 「入ってもいいかな。それと、できれば君も服を着て欲しいのだが。」

 「あ…ど、どうぞどうぞ、お入りください。すぐ着替えますので。」僕はあわてて大沢さんの言う通りにした。大沢さんは畳の部屋に入って来た。

 「それにしても、ここは思った以上にひどい所だな。あ、お構いなく。」

 大沢さんは、僕の出したお茶をすすり、辺りを見回した。

 「ええ、実は連日大変な事になってまして。…分かります?」

 「うむ。君がどんな目にあっているかも大体察しがつくよ。ここに住むとは大した度胸だ。」

 「はあ。あ、あの、それで、石川…さん、は、今どちらに?」

 「あぁ。石川ならバイクで豪快に走っていてすっころんで、彼女は法力で無傷だったんだけど、バイクはオシャカになっちまったみたいで、今電車でこちらに向かっている。」

 「ぬあーーーーー!!!!!!!」

 「どうした?」「あのバイク僕のなんですよ!」「ほう、そうだったのか。それは知らなかったな。」「ひえええ…」「うん、見事にバイクはスクラップだった。まあ許してくれ。後で弁償させよう。」

 僕は固まってしまった。命の次に大事なものを勝手に乗り回された挙句、簡単に壊されてしまうなんて。

 「とにかく後30分もしない内に石川がここに来る筈だから、彼女が到着したら話を始める事にしよう。」

 「はあ。」なんかやっぱり落ち着いてるなあ、大沢さん。大人の魅力と言う奴か。僕とは偉い違いだ。

 「待てよ。あのバイクが君のだとすると、その内警察から君の所に連絡が行くかも知れないなあ。一応事故だった訳だし。はっはっは。」

 「ひえええ!!!」やっぱり落ち着き過ぎてるのもどうかと。

 そんな事をしている内に案外早く石川が到着した。

 「おう美少年。元気だったかえ!正義の味方、石川かりん参…」

 ゴッチーーーーン!!!!!

 「キャアアア!いったーい、なにすんのよ!」

 「痛いのはこっちだ!人のバイク勝手に乗り回して、その上壊しただと!しかも中途半端なお守り渡しやがって、おかげでどれだけ苦労したと…」

 「だからってレディにゲンコツ食らわせる事ないでしょ!しかも思いっきりグーでっ!」

 「殴ってやるって決めてたんだ。」

 「はっはっは、決めていたんだったらしょうがないな。石川君、もういいじゃないか。」

 「…」大沢さんて、落ち着いているというより、天然ボケなのか…。天は二物を与えず?

 「それよりもこの部屋の事だ。」

 「そうね。思ったよりもひどい状態ね。もう既に一回お祓いはしたんでしょ?」

 「ああ。ついさっきな。でも、そんな程度じゃあ相手は怯まないみたいだ。次から次へと性霊が集まって来ているし。」

 「あ、あの、どういう事なんでしょうか?僕には事情が全然つかめないもので。」

 「ああ、そうだったな。」

 大沢さんは事の成り行きを丁寧に説明してくれた。石川なんかよりもずっと分かりやすかった。

 この世界には物質の世界と、霊魂の世界がある。物質にそれぞれ霊魂が入り込むと、その物質は『モノ』としての機能を持つようになる。霊とモノの関係は意外と単純だ。霊魂といっても色々あって、鉱物や水の魂ような意志を持たない、不定形の弱い魂もあれば、明確な意志を持った魂、つまり生き物の霊魂まで、千差万別だ。別名エードス。

 それで、すべての霊魂がすべての物質に入り込んでいる訳じゃない。物質だけで機能を持たない『エネルギーだけ』のものもあれば、物質に入り込まずに浮遊している『霊魂だけ』のものもある。通常僕達が幽霊と言っているのは、意志を持った霊魂が物質(肉体)を持たないままでいる状態の事を指すようだ。

 人間や動物等の生き物は、通常は肉体(物質)に入り込んで機能している。たまに人形等の物体に入り込んでしまうものもあるが、大抵は肉体に宿る。物質に宿るのは意思を持たない弱い霊魂だからだ。

 生き物が死ぬと、魂が肉体から離れて『霊魂だけ』の状態になる。霊魂は物質の世界とは違う次元にある。空間座標上は重なり合ってるんだけど、次元が違うから通常は見えない。そして霊魂は、自分に見合った『物質だけ』のものに入り込む。生物の場合は、まだ魂が入り込んでいない肉体に入り込むのがほとんどで、つまりこれが生き物の誕生という訳だ。生と死はそういう物質と霊魂の結合分離の連鎖でできているのだという。

 霊魂の内で高等なもの、強い意志を持つ存在は、自分達の意識の世界を持つから、他の霊魂と違う世界を独自に作る事も可能だ。しかしそこまで強烈な意思を持つものは少なく、独自に世界を作る場合には『同じ意思を持った集まり』になる。これは意図して作るというより、ほとんど自動的に同じ志向を持った霊魂が集まって形成される世界だ。

 長い年月をかけて霊魂は自分達の次元を作り上げ、いくつかの『世界』ができ上がった。いつも何かに飢えている餓鬼界や、恨みのカタマリで構成される世界、只苦しいだけの『地獄』、すべてにおいて満足している『天界』などなど、幽霊の世界にも色々ある。

 その中で性的に満たされないで死んで行った人間の霊魂は、性的な満足感を得る事を目的として浮遊する。この霊魂を『性霊』とか『色情霊』とか呼ぶ。通常性霊達は、『性霊界』と呼ばれる世界に住んでいて、性霊同士で四六時中セックスをし、お互いに満たし合っている。ただし完全に満たされる訳ではなくて、一度満たされてもそれはあくまで一時的、すぐに後から後から性欲がこみ上げて来る。だから永遠にセックスから離れられない…霊魂としての意志の力が消えてなくなるまでは。だから性霊界は善の世界じゃなく、地獄の世界だ。

 それはそれでかわいそうだが、人間がそれに手を出す事はできない。自分達で解決しなければならないのだという。そういう世界が発達するにつれてルールができ上がり、ある世界の住人は別の世界に干渉してはならないルールができているからだ。

 僕達の世界、現世界は、霊界に干渉できない。また霊魂も現世界の住人、つまり生き物や物質に干渉してはいけない。霊魂はあくまでそれらに入り込んで現世界の住人にならない限り現世界になんらの作用も齎してはならないという訳だ。

 もちろん霊界同士での干渉もタブー。性霊界の住人は、性霊である事をやめない限り別の霊界に手を出したりする事は許されない。だから原則として餓鬼が性霊とセックスする事もありえないし、性霊が現世界の人間とセックスする事もあってはならない。

 だけどごくまれに、異世界同士が繋がりあってしまう事がある。元々違う次元だったのが、なんらかのきっかけで同調し、二つの世界を繋げてしまうのだという。大沢さん達は、このような繋ぎ目の事を『ゲート』と呼んでいる。

 ゲートは、偶然開く事もあれば、人為的な力で次元を繋げて開かせる事もあるという。呪術を用いる事もあるし、また、強い恨み等を残して死んだ人間の霊魂が、無意識の内にゲートを開かせる事もある。いずれもルール違反なので、ゲートを開いて干渉したら地獄送り等の処罰が待っている。

 たとえば霊魂が現世界に干渉して、さまざまな物質に影響を及ぼしてしまう(特に意識のある動物への悪影響は大きい)。この悪影響を霊障という。性霊の場合には生身の人間とあくなきセックスをしてしまう等。こういうルール違反を監視するために、各世界には監視員がいる。警察みたいなもんだ。

 夫々の世界に夫々の霊魂のタイプに合わせた警察がある。現世界にもそういうのがあって、怨霊を相手にする部門、餓鬼を相手にする部門等多岐に渡っている。

 大沢さん達は、法力を用いてこのゲートを塞ぐと共に、ゲートから出て来てしまった性霊や、ゲートの向こう側に入れないでいる霊魂などを、霊界に押し戻す事を仕事としている。特に『性霊』に的を絞ってこの活動をしている為、性霊バスターと呼ばれている。

 今回このアパートに来たのは、このアパートに巣食う性霊達の蔓延を防ぎ、これを性霊界に押し戻すと共に、なぜこのアパートに性霊が大量発生したのか、その原因を探って欲しいという依頼があったからだ。依頼主は秘密との事だが、大体察しがつく。大家のババアに間違いないだろう。幽霊が出る事を知って置きながら僕を入居させたんだ。すぐに出て行かせて、粗利を稼ごうとしたんだろう。ま、今はそれはどうでもいい。

 大沢さん達の調べでは、僕の住んでいる部屋が性霊の発生源だとの事。だが、どんな事情で性霊が発生したのかまだはっきりとは分かっていないらしい。調査を進めている間に、僕が入居してしまって大変な事になった。

 「いやあ、君を探し出すのに苦労してねえ。行方不明になったから。」

 「え、僕学校にも行ってましたよ。」

 「いや、君は入学式以降一度も学校には来ていない。」

 「あなたが行っていたのは、多分旧舘の方。性霊達に引き寄せられたのね。」

 「旧舘?」

 「そう、あの大学には新館と旧舘があるの。何年か前に新館ができて授業は全部そこで行う事になったんだけど、旧舘の取り壊しには至っていないわ。」

 「でも僕、そこでちゃんと授業も受けたし、学生だって教室に…」

 「どんな授業だったか覚えているか?」

 「…」あれ?そういえば思い出せないぞ。授業の中身も、先生の顔も、授業形態も、全然分からない。

 「多分それは、性霊のカモフラージュだろう。君はそこでまともな授業はできなかった筈だ。」

 た、たしかに僕の周りにいた女子学生達は僕にエッチな事をして来たし、そういえば男子が一人もいなかったな。あの授業にいた女子はみんな性霊だったのか。
 

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