性霊の棲家14


 

 過去の映像は同じパターンしか繰り返せない。裸エプロンの屈辱的なシーン等は段々興奮しなくなって行った。だが、ろくろっ首や妖怪退治屋のような魅力的なシーンは、見せられれば見せられる程鮮明に思い出して興奮を高める。

 それでも、人間は便利だ。飽きる事ができる。飽きる事ができれば新しいものを作ろうとする事ができる。だから発展する。発展の概念がない「過去」は、一度起こってしまえばその記録映像だって同じ事のループでしかない。

 興奮するエロシーンだって結局ループである。しかも僕がその誘惑を撥ね退けようと頑張っているのもある。飽きる範囲もどんどん増えて行った。最初の内はかなり形勢不利だったが、時間が経つに連れてこっちにも勝機が出て来た。

 僕が飽きたと思われるシーンは流れなくなった。ニセの授業で女子大生達に太ももをこすりつけられたシーンは飽きた。が、彼女達に部屋で回された記憶は生々しい。

 お尻の穴のくすぐったさと上質のフェラチオの連携攻撃で僕を責めたろくろっ首も、そのグロテスクな外観から興奮を鎮める事ができるようになった。そうするとそれらのシーンは次に出て来る事がなくなった。そしてまだ僕が興奮するようなシーンだけが流された。

 つまりこっちが飽きれば飽きる程映し出されるシーンの数は減ってゆく。減っていけばそのシーンが多く"放送"されるけど、それは考えようによっては「飽き易くなる」事でもある。こうやって一つ一つ消去して行けば僕の勝ちだ!

 風呂が消え、女子大生達が消え、モンスター達が消え、二次元が消える。ドリアード達ばかりが繰り返されるようになった。

 以前テレビで見させられて「数十人に囲まれる」シーンと、隣の部屋に住んでいた娘のシーンは出て来なかった。トイレで「声だしちゃだめゲーム」をしたシーンもない。これはきっと彼女が性霊ではなく生身の人間だからなのだろう。本人がそう言ってたじゃないか。

 その内ドリアードの誘惑もはねのける事ができそうになって来た。「なんだなんだ!こいつらなんて石川ごときが作ったお守りで燃え尽きたくせに!」僕は叫んだ。その気合で僕は性欲をコントロールした。

 フッ…。画面が突然消える。再び暗闇に包まれた。ペニスの先からはガマン汁が滴っていたが、もう萎えてしまったし性欲も半ば振り出しに戻す事ができた。「やった…乗り越えたぞ。僕の勝ちだ。」

 これだけコワイ思いをしたんだ。現世界に戻っても、二度と性霊でオナニーしようなんて気は起こらないだろうな。戻った後はもう完全に僕は性霊を突っぱねた事になる。戻ったら…気になるあの子、隣の娘(多分生身の人間)で興奮すればいい。

 バリバリバリッ!突然激しい音がこだまする。上から雷が落ちたような衝撃音だった。

 驚いて上を見上げると、そこに映し出されていたのは…。「あああっ!そ、そんな…」僕は衝撃を受けた。

 「うふふ…最後まで私の事を想ってくれてありがと☆」「そんな……くっ…」紛れもなく隣の部屋の彼女だった。「声出しちゃだめゲーム」の彼女だった。好きになった女性だった!

 いや…本当は…分かっていたんだ。認めたくないだけで…。彼女も性霊だった。時折隣からどーんと強い音がしたのも…この性霊の仕業だったんだ。でも…僕の心を奪った相手だから、最後まで彼女だけは生身の人間だと信じたかったんだ。

 だが「現実」がすべてを打ち砕いた。僕は落胆したが、今自分が置かれているピンチな状況が気を取り戻させた。落ち込んでいる暇はない。落ち込むのは後だ。今はとにかくこの異世界から脱出する事が先なんだ。

 僕は気を取り直して空中に浮かんでいるジャージ娘を睨みつけた。現実を受け入れよう。彼女は性霊なんだ。だからそれを跳ね除けて始めて僕の勝ちになる。

 好きだった相手を跳ね除ける事。つらい。でもここは心を鬼にするしかない。そうしないと今までの苦労も水の泡になる。

 むしろ…僕が最終的に「呼び寄せていた」のは、彼女なのかも知れないな。だから彼女がラスボスになるのも不思議じゃない。僕が彼女を呼び寄せ、その力で他の性霊達も呼び寄せていた。

 好きな人の誘惑をはねのける手段は「飽きる」事よりも「幻滅する」事だ。彼女は性霊だったんだ。結ばれる事はないんだ。そのやるせない思いを幻滅のエネルギーに変え始めた。

 ふわり、とジャージの娘が僕の前に下りて来た。体は半分透き通っている。ふわふわと浮かんだ状態で、半透明の女の子は僕を見つめながら微笑んでいる。くっそ、かわいいなあ…。でも…あきらめるんだ。

 僕は彼女の肩を突き飛ばそうとした。が、半透明の性霊の体を突き抜けてしまう。どうやら実体を持ってはいないみたいだ。

 「あわてないで。私が実体化するには…もっと貴方のパトスが必要なのよ。」「…残念ながら…君には消えて貰うよ。実体化していないなら好都合だ。」「そう…それが貴方の今の気持ちなのね。」「お、お前なんか大っ嫌いだ!」僕は顔を背ける。

 段々落ち着いて来た。性霊に恋をすればそれで僕の負けになる。今まで散々な目にあったのを思い出せば、これ以上惑わされる事はない。僕は段々鉄の心を作って行った。

 「いい事教えてあげる。実はねえ…クスクス…あの場所に性霊を本格的に集めたのは、この私なの。」「なっ…!」「強い情を辿って行ったら古いアパート。障気に満ちてたわぁ。ゾクゾクする位。女の子が殺されたのはその障気からすぐに分かったわ。ものすごい怨念が漂ってたからね。怨念と言っても可愛さ余って何とやらで、男を求める念も強かった。私が活動するには丁度よい環境だったわ。」

 「くっ…」「私が淫気を発すると、すぐにエッチな幽霊さんが集まって来てくれたわ。女の子が入居したら殺して性霊にする。彼女達は本当に簡単に自殺してくれたわ。そして、男の子が…君のような子が入居したら…しこたま精を搾り取って私達の糧にするの…フフフ…クスクス…」僕は背筋が寒くなった。

 「そうそう、自己紹介が遅れたわね。私の名は…マリアンヌ…」ザワザワ…ショートカットから二本の尖った耳が突き出て行く。その目は赤く光り、唇からかわいらしく顔を覗かせていた八重歯も大きくなり、牙になった。「ククク…霊魂もその力を強めれば魔力を得る…。私は一般にはサキュバスと呼ばれているわ。魔界の領域に達する性霊界の奥深くからやって来た"淫魔"よ。」「そ、そんな…」

 「私の付き人も一緒に現世界に出て来たんだけど…付き人の方は力不足ね。仙草寺で性霊バスターズに倒されてしまったみたいね。」髪の毛がピンピン跳ねる。これも彼女の魔力なのか。

 「もっともゲートを潜る為に私も付き人も相当力を消費したから、魔族として活動するには力不足。性霊達を集め、男の精を吸い、すべてを私の力に還元して、魔力を取り戻す必要があるわ。その為にあのアパートは格好の"棲家"になった訳。」コイツは…悪魔だ…何もかもを自分の為に犠牲にする…。こんなヤツがのさばっていたのか。何より…こんなヤツに僕は…恋をしたというのか。

 「私を見た男の子は一瞬で心を奪われる…そういう魔法なの。」心を見透かしたサキュバスが口を挟んだ。「でも、学校のトイレで君を抱いた時に君すっごくかわいい声を出したから…気に入ったのよ。だから私の正体も明かした。」

 僕は震えおののきながらやっと口を開いた。「お、お前は…罪のない女学生達を自殺させ、西沢さんを利用して自分の力を蓄えたというのか…」

 「そうよ。」あっさりと答えるサキュバス。「私の為に人間が犠牲になる。それが信じられないみたいね。」「…。」「そんなのごく当たり前の事じゃない。それに違和感を持つ方がおかしいのよ。人間世界だって自分達の私利私欲の為に人間を犠牲にしてるでしょ。」「ぅ…」

 「本当は君を虜にして魔界に連れて行こうと思ったんだけど…その前に君は性霊バスターズと接触してしまった。あの天敵どもめ…あいつらさえいなければ成功していたのに。」「てめえ…」僕は段々怒りがこみ上げて来た。

 「性霊バスターズのせいで西沢の怨念が消えてしまった。その怨念に同化して力を蓄えていたのに、怨念が消えたからそこに蓄えていた魔力も消えてしまった。だから私は半透明の存在になってしまったし除霊の札のせいでアパートにも寄り付けなかった。」「…おまえがいなければ…西沢さんが20年も苦しまずに済んだのに…」

 コイツがいなければ西沢さんの想いはもっとダイレクトにメッセージになっていた。しかし性霊達が入り込んだせいでメッセージが鈍り、解決が遅れてしまった。その間の彼女の苦しみを考えれば…目の前のこの女だけは許せない。

 「魅了の魔法の効果ももう切れてしまったから、君が再び私の虜になるって事はなさそうね。もう魔法をかけるだけのパワーも残ってないし。だから君には性霊体験を思い出して貰ってその気にさせようとしたけど…それも失敗。しょうがないからこの私が直接出て来たって訳。」

 「…もういい。」僕は冷たくつぶやいた。「僕はお前を許さない。」「…ふん。性霊バスターみたいな言い方しおって。」

 僕は性霊の記憶による誘惑を完全に打破した。そして目の前の女に完全に幻滅し、僕はすべての誘惑を乗り越えた。サキュバスの悪を知った以上は、これ以上誘惑されても靡かないだろう。僕は女を睨みつけた。

 「ふふ…西沢が苦しんだだと?利用できるものを利用しない奴は愚かだ。私は怨念を利用した。それだけの事じゃないか。相手が苦しいかどうかなんてどうして私が気遣わなくちゃいけないの?」「…。」

 「元々怨念を残して死んだのは彼女の落ち度。怨念の塊になるのはそいつが脆弱で隙ができていたから。その隙に付け込まれるのも彼女の自己責任じゃなくて?ホホホホ!」「ふざけるな!」

 「ふん。声を荒げるだけで何もできないくせに。ぼ・う・や!」僕はわなわなと震えた。怒りでどうにかなってしまいそうだった。

 でもたしかに僕は無力だ。大沢さん達みたいに霊力がある訳じゃないし。辛うじて性的な攻撃は受け付けないだろう、という位だ。腹が立って性欲所じゃない。しかし性霊はセックスが武器。つまりお互いに力を封じ合って膠着している感じだ。

 「…さて。」ふわり、とサキュバスが宙に浮いた。「君は覚えているかな?さっきの私の言葉を…。私はこう言った筈よ。『私が実体化するにはもっと貴方のパトスが必要』ってね。」「てめえに欲情する訳ねえだろ。絶対に許せない!お前だけは!」

 「…くっくっく…私はパトスと言ったのよ。言葉では言い表せない、筆舌に尽くしがたい『強い情感』こそ、私に必要だった…。意味が分かるかしら?」な、何を言ってるんだ…?

 …。…!「あっ!!!」「気づいたようね。」半透明だったサキュバスの体がどんどん実体化して行く。「そ、そんな…そんな…」

 「貴方の怒りのパトス、たしかに受け取ったわ。」「う…ぅぅ…」ヒザがガクガクと震える。「あらぁ…恐怖のパトスも頂けるなんて…幸せですわ…お坊ちゃま☆」

 そんな…バカな…。僕は、サキュバスの口車に乗せられ、怒りに我を忘れそうになった。そのエネルギーを吸い取ってサキュバスが実体化してしまった。

 僕は両膝を立ててその場に崩れた。怒りの感情が吸収され、あれほどひどい事を言われたのに腹が立たない。恐怖さえ吸い取られてしまい、ほとんど無心に彼女を見上げるしかなかった。

 「ふう。何とか実体化にはこぎつけたけど…まだまだエネルギーが足りないわ。魔力を取り戻すには…やはり男の精が必要ね。」「くっ…」悔しさと怒りでいてもたってもいられない筈なのに、そういう感情が全然沸いて来ない。いや、そういう感情が沸いた瞬間相手に吸収され、怒りを怒りとして認識できないんだ。

 こっちがパトスを発すればそれだけ相手を強化させてしまう。一体どうすれば…

 「貴方の為に取って置きの舞台を用意してあげるわ。…その前に萎えた性欲を取り戻して頂きましょう。」

 薄暗い壁が一気に明るくなった。また過去の映像を見せられるのか?

 ガラス張りのようになった壁に映し出されたのは…広大な浴場だった。あちこちに湯気が立ち込めている。

 サキュバスがパチンと指を鳴らすと奥の扉が開き、全裸の若い女性達が何十人も一斉に入って来た。彼女達は僕に気づかないようで思い思いに椅子に座って体を洗ったり湯船に浸かったりし始めた。

 360度どこを見回しても蠢く女体が目に飛び込んで来る。目をつぶっても情景は同じだった。

 「どお?誰にも咎められる事無く女湯のぞき放題よ。」「くっ…」

 さっきまではサキュバスへの怒りが先に立ってどんな誘惑があってもあっさり突っぱねる自信があった。しかしその怒りが吸い取られ、反感が出ても無に帰せられてしまう状態で、しかもさっき徹底的にガマンして射精しそうになっていたのを堪えた後だったので、女体の渦が魅力的に映ってしまう。

 しかもさっきまでの過去のシーンは「飽きる」事で対抗できたが今見ているのは見た事もないシーンだった。次から次へと入って来る美女達のリアルタイム映像だった。

 こんな事をしている場合じゃない、犠牲になった人達が踏みにじられているのに…そう思った瞬間その感情が吸い取られてしまうのだった。

 いや、待てよ…過去映像なら「覚えがある」事で飽きるまで時間がかかったが、これは只のエロビデオと一緒で飽きるのも早いんじゃないか。

 立ったり座ったり、体を洗う度にぐにゃりと歪むおっぱいの肉、歩く時にぐにぐに蠢くお尻の肉、スベスベした女体、毛が生えておらず丸見えになっているオンナ部分…。泡塗れになったり湯船で体を桜色に染める娘達…。たしかに魅惑的だが見るだけならその内慣れそうな気がして来た。現に僕は自分のペニスを思わず掴むなんて事にはならずに耐え抜いてる。

 入って来る娘達が数を増す。だがいくら増えた所で…負ける訳には行かない。

 ここで欲情してしまえばサキュバスに完璧なエネルギーを与える事になってしまう。それだけは避けなければ。

 そういえば…どうして「実体化したサキュバス」が直に僕に襲い掛かってこないんだろう?彼女は宙高くに浮いたまま僕を見下ろしている。サキュバス程の実力者なら…それ以前にこんな女湯に囲まれたまま僕のペニスに触れればどんな女性でも僕に簡単に快楽を与えられる筈なのに…

 はっ!もしかして…

 僕はサキュバスを睨みあげると、わざとかったるそうな倦怠のため息をついた。疲れ果てた時の記憶を思い出しながら心の中で「やってらんねー」とつまらなそうに繰り返した。

 「むうっ…貴様…」サキュバスが身を捩らせ始めた。快感ではなく苦痛に顔が歪んで行く。思った通りだ。コイツはこれまで僕の激しい感情や欲望を吸収し続けている。という事はドレインの為に心のどこかで繋がりがないといけない。その繋がりのパイプから僕の情感を吸い取っているからだ。

 だから僕がかったるいと思えばその感情がサキュバスに伝わってしまう。僕の心を見透かす事ができるのはそのリンクのお陰でもある。

 そして倦怠感こそ、パトスの反対物なんだ。飽きたとかだるいとか。そういう無気力無感動の気持ちが情感を殺してしまう。パトス、つまり強い意志が霊魂のエネルギー源なら、倦怠感が自動的に相手に送り込まれると相手の力も弱まってしまう訳だ。

 サキュバスが不用意に僕に近づかないのも強い倦怠感を直接大量に送り込まれるのを避ける為だった。心をリンクしているから彼女は直接僕に手を出せない。これは彼女の戦法上のミスだ!

 よし、このままアイツのエネルギーを僕の「だりぃ〜」で削り取ってしまおう!…おっと、削り取ってしまおうと「やる気」になってしまうと逆効果だな。ま、めんどーだけどしょうがねぇからやるしかないか。あ〜〜かったるいなぁ。

 「うぐ…おのれぇ…これで終ると思うな!」バチィッ!突然目の前が暗くなる。次の瞬間まばゆい光に包まれた。

 突然の場面の変転に面食らったが、目が慣れて来ると共に僕の目の前に広がる光景が分かって来た。これは…あの大浴場の中だ!目の前に裸の美女達が入浴している。

 「…折角お前の怒りのエネルギーで実体化したというのに…お前を映像の中に押し込む為にそれを使い切ってしまった。また半透明になっちまった。だがな…くく…心のリンクは既に切断した。これでお前の倦怠攻撃も通用しない。」

 「…そうかい、じゃあ遠慮なく怒り心頭に発させて貰うよ。」「ふん。そううまく行くと思うかい?周りを見てみなよ。」

 100人以上いる裸の美女達。僕を目の前にしてもまるで相手にせず、まったく気づいていない様子でずっと入浴を続けている。いや、僕の存在に気づいてはいるのだ。僕をよけて歩いたりしているから。気づいていないというより完全に無視されている感じだ。

 さっきまで壁の向こうで展開されていた光景が今目の前で起こっている。壁越しに見るのと目の前で直接見るのとでは女体のやわやわした蠢きや弾力の迫力が違う。

 僕が全裸でこの女湯にいても騒がれる事なく、いくらでも見放題になっている。目をつぶっても開いても目の前の光景は変わらないしどこを見ても女だらけなんだから、結局魅惑的な肌をまじまじと見る他はなかった。

 映像だけじゃない。辺りに立ち込める石鹸等の香りが鼻をくすぐり続ける。石鹸だけじゃない甘いクラクラする香りは…どうやら湯船から漂っているみたいだ。

 この状況に慣れるとか飽きるのは難しそうだ…。でも戦わなければ勝てない。心のリンクを切ったという事は、サキュバスが力をつける手段は僕が欲情して積極的に精を提供するようになる事。逆にそれを避ける事ができれば活路が見えて来る。

 幸い女性達は僕を無視している。まだ視覚に訴えて僕の自慰を誘おうとしているのだろう。意地でもペニスには触れるものか。

 「さて。よくこのお風呂場を見てご覧。女の子以外、何か気づく事があるでしょ?」「…。」

 よく見ると、この浴場の作りが一風変わっているのに気づいた。浴場にありがちな仕切りが縦に続いている。壁の向こうから見ていた時は気づかなかったが、この仕切りが通路のようになっているみたいだった。

 洗い場、シャワー場、浴槽と一列に並んでいる。浴槽の奥にさらに洗い場や休憩用の長いす等が続いている。この浴場は縦長なんだ。

 壁の部屋の周りをぐるりと取り囲んで、大浴場が形成されている。浴場には仕切りがあって、それが通路になっている。通路は迷路のように入り組んでいるけど一直線で、通路沿いに歩いて行ってすべての通路を通った先に、壁の部屋に辿りつく扉がある。そうサキュバスは説明した。

 「さあ、歩いてここまでいらっしゃい。貴方は…ここに来るまでに私を実体化させるエネルギーを蓄える事になるわ…。ここまで来たらたっぷり吸い取ってあげる…」

 多分サキュバスは、僕が通路を歩く内に欲情して、裸の娘達をおかずに射精し続けるのを狙ってるんだろう。僕が性霊に魅了されればされる程、その「気持ち」が高まる程、サキュバスの元に辿り着いた後で彼女にパトスを吸い取られる際に多くの精神エネルギーを提供する事になる。

 逆に僕が目の前の女達の無言の誘惑に打ち勝ち、大したパトスを提供できなければヤツにエネルギーを与えずに済む。それ所か心がリンクしたとたん強烈な倦怠感をお見舞いしてやれば、半透明の淫霊を吹き飛ばせるかも知れない。そうすれば僕の勝ちだ。

 よし。アイツの元に辿り着こう。目の前の女達なんて相手にしてはだめだ。向こうが無視しているなら好都合だ。僕は悠然と歩き出した。

 「…そうそう、言い忘れたけど。通り過ぎる時に女の子達に触って行ってね。そうしないとゴール地点の扉は開かないから。」「なっ…!」「触るといっても手でちょっと触れば大丈夫。もちろん手じゃなくても、抱きついてもオチンチンこすり付けてもいいわよん☆」

 ふざけやがって。「それから。貴方が彼女達に触っている間は、女の子は貴方を無視しないから。ククク…気をつけてね。」

 無視しない、だと?キャーって騒ぐのかな。それとも襲い掛かって来るのか。どっちにしてもろくな事にはならなそうだ。

 とりあえずスタート地点に戻って再スタートだ。女性達に触れて歩かなければならないからね。僕は側にいる女性の肩にぽんと触れて、歩き始めた。肩を叩かれた女性は振り向いて僕を見つめている。視線の誘惑なんかに負けるものか。僕は彼女を無視して先を急いだ。

 ちょっと歩くともう女性の集団だ。みんな一心不乱に体を洗っている。スベスベのしなやかな背中が並んでいた。僕はどんどん彼女達の背中を障りながら歩いた。いきなり触られてびっくりしているらしく「きゃっ」「やん♪」「うふふ…」と反応して来る。かわいらしい声を間近で聞かされながら、何とか心を鬼にして先に進んだ。

 女体のどこを触ってもスベスベした柔らかい感触が手を伝わって来る。腕を上げて髪を洗っている娘のワキから胸がチラリと突き出している。特に弾力のあるこの部位を触りたくなってしまう。でも気を引き締めて僕は彼女の髪に触れると先に進んだ。

 何とか第一洗い場を乗り越えた。自分の体を洗う事に集中している上僕が足早に過ぎ去ってしまうので女の子達が何かリアクションを強く取って来る事はなかった。その先にはシャワーが並んでいて美女達が体を流している。

 さっきまではみんな背中を向いていたが今度は前向きだ。魅力的なわきの下を全開にしながらお湯を浴びている。自分で胸やふとももをさすり、マッサージしている。体を流れるお湯の感触を楽しんでいるようでもあった。僕は端っこにいる娘から触って行く事にした。

 彼女の手にそっと触れる。次の瞬間女の子が僕の手を鷲掴みにした!「わっ、離せ!」僕は手を引いたがそれでも彼女は離してくれない。何らかの形で触れ合っている状態の為、彼女は僕を無視せずにいる。完全に身を引き離すまでは僕は彼女達の積極的な攻撃に晒されるんだ。

 僕の手を掴んだ女性は僕に抱き付いて来た。水に濡れた温かい女体が全裸の僕に押し付けられる。僕はとっさに彼女を突き放した。体が触れ合わなくなったので彼女はまた僕を無視し始め、再びシャワーを浴び始めた。

 ううっ、久しぶりの女性の体の感触だった。僕の気持ちは少しそっち側に傾いた。

 次の娘はわき腹に触れた。彼女が手を伸ばす前に僕は手を引っ込めた。三人目もわき腹。触れる度に一瞬身を捩じらせてから僕を捕まえようとするのでこっちが手を引っ込める方が早かった。

 シャワー場ももうこの娘で終わりか。僕はまたわき腹に手を伸ばそうとした。しかしこの子は気を付けをして無心でシャワーを浴びている。わき腹攻撃は通用しない、か。しょうがない…

 僕は人差し指で彼女の小さなおっぱいをツンとつついた。これでも触れる事になるんだ。でもちょっとつついただけなのに指先が肉にめり込んで行く。この感触も気持ちよかった。

 さて、シャワーの先は浴槽か。その先はまた洗い場になって、シャワー、休憩所、そして浴槽と続いている。奥に見える浴槽に比べてここはちょっと小さめに作られている。そしてここには3人の女の子が入っていた。

 僕は女湯に足を踏み入れた。女性しか入っていないお湯に入るというのがいやらしい。が、ここは欲情しない鉄則だ。
 

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