■domine-domine seil:07 あの の記憶 02
彼が好きだ。
そういった情動に、複雑な動機は必要でない。ただ、多くの個体の中で、一際目をひいた。彼らはおぞましい事も平気で行うが、一律に理性的であり、ソレにとっては好ましい。
ソレのような一見コミュニケーション不可能な存在に、コンタクトを試み、当然のように接してくる。
おそらく、彼が忌避なく純粋な目を向けてくるのは、そんな彼らの中で育まれたからだろう。
ソレが彼を求めれば拒否しなかったのも、とても好ましい。
彼も、彼らも、この設備も、良いものだ。
ソレに与えられた環境は簡潔だった。
元々真空に近い空間を漂うだけとなる筈のソレに、決まった棲み家は不要だ。暖かい必要も、涼しい必要もない。適度な潤いや、呼気さえ必要としない。
ソレはどんな環境にも会わせるが、ここはソレに合った環境に、彼らが整えたものだ。
だから家具などというものもない。
必要でないものは削いでくれてある。
部屋を満たす気体は、彼らが溺れないように作っている大気──塵が少なく澄んでいる──の成分と同じであり、コレは彼らがソレに会う為に置いているものだ。特になくても構わないが、こうして彼を愛でられるなら必要なものだ。
「俺のこと……お嫁さんにしてくれるの……?」
イキモノは触手を伸ばし、大事そうにクラインの腹を撫でた。同時に、頬と、頭もつんつんと突付き、撫でる。
心地良くて目を閉じてしまう。腕に絡まった先を、きゅう、と握る。手を握るつもりになる。心がとてもあたたかだった。
そのまま、たくさん触ってもらう。
身体が震えるのが隠せなかった。びくびくしてとまらないのは恥ずかしかったけど、こうされるのが嬉しくて、涙まで少し出た。クラインはイキモノが大好きだった。だから、たった一人に選ばれて、とても嬉しかった。こんな風に大事にしてくれて、自分も、ずっとずっと、許される限り、彼? を大切にしたい。だけど、これでいいのか。
なんの膨らみもない胸をくすぐられ、嬌声というには幼すぎる悲鳴をあげ、クラインはなくなりそうな意識を持ち上げる。足の間の水溜りも、白くて、こんなにたくさんになってしまった。
「……俺……男だよ……」
恥ずかしさに赤面しながら、クラインが告げると、しってる、と言わんばかりにまだ育ちきらない器官を吸われた。内側が無数の糸で構成された触手の筒だった。あどけない顔で喘いで、気を失ってしまう。悩ましく突き出した舌から、ぽたぽたと唾液が滴る。触手はそれさえも愛しげに啜り、意識のない身体を撫で回した。粘液に濡れた髪が揺れる。透明な雫と白い雫が小さな手足から飛び散る。
「ありがと」
好きって、嬉しい言葉だ。イキモノに言葉はないが、意思は受け取れる。気に入ってもらえたのが、とても嬉しい。
「……これが……卵?」
ちょっとだけこわいけど、たのしみ。すごく、きもちいいことだって、イキモノが誘う。
「ぁ……あ……」
これよりももっと、気持ちいいことなんて、あるんだろうか。
「……ふあ」
キスするのも、お腹の中を触られるのも、もうしんじゃいそう。
人間よりもすき。
ひろげられても、いたくない。
「ああぁ……」
卵を入れる為なのか、執拗に内側を撫で、繊細な壁を圧される。
「……あ……ん……そんなに……はいら……な」
クラインは快感に微かな恐怖と期待を感じ、気を遣った。
「も……きもちよくて、しんじゃうよ」
触手が膨れ上がる感触に、目を覚まし、また喘ぐ。
「……っあ゛、ひろげ、な……で……」
激しい快感に、小さな手足が硬く張り、つま先が丸くなる。
中奥をくつろげたまま、触手が抜ける。粘液をとろとろと纏わりつかせて、先だけを少し残し、勢いを付けて出てくる。激しく動いたせいか、少し、血が絡んでいる。
「っぁ、ああああ……ぁ」
蕩けた舌を撫でられる。
触手に顎を持ち上げられて、クラインは上目遣いに微笑んだ。少し、濁った笑みだった。
「ふあ……きもち……い……きもちい……っぁ、あ……」
途中で舌を何度も弄ばれ、言葉を途切れさせながら、問いかけに応える。
「……ひろげるの」
触手の先が少しだけ離れる。ひらいたままの箇所から、透明な液が溢れる。ゆっくりと閉じて、また、くぱ、とひらく。
溢れる液体が小さな身体を汚す。
「す……き」
閉じたところを、少し突く。
「ひ」
一瞬身体が硬直して、だらしなく揺れる。白く飛沫が散って、唇からは唾液が伝う。
「おなか……きもちい……あ゛、あ゛、ひろげて、して……なか……いっぱい、して」
触手はクラインの頭を優しく撫で、爪の先ほどの出し入れを繰り返した。
「あっ、あ、ぁ」
ちゅ、と柔らかく淫らな音がする。粘液が糸を引き、華奢な手足がもがく。
「いい、の」
もうこわれてしまった瞳で、クラインはお願いした。
「こわしちゃっても、い」
つう、と唾液があふれる。
「もっといっぱい、して」
触手は一息に奥まで突いた。
「 !!」
壊れそうに痙攣し、淡い瞳から光がきえる。
すごかった。
なにを、されたんだろうか。肩で息をしながら、考える。いつもと同じこと。ちょっといっぱいしただけ。
同じじゃないと、イキモノが告げる。
特別なことをする準備だと、身体を撫でられる。大丈夫。弱そうって言われるけど、丈夫だから。
──お嫁さんにしたい。
好きってこと。俺のこと、大好きってコト。変だけど、嬉しい。うれしかった。きもちよくされて脳が故障したからとかじゃなくて、本当。だって俺、イキモノの事大好きだし、これからもずっと、一緒にいたい。
それに、俺、男だから大人になったらお嫁さんと結婚したいけど、そんなの、誰も、なってくれないようなきがしてた。大人にだってなれないかも。こわがってちゃだめだってわかってても、時々、胸が苦しかった。このまま、特別に好きって言われないままなんて、苦しいくるしい、こういうの、なんていうのかわかんない、しらないけどやだ。
なのに姿も全然違う──俺はニョロニョロふわふわして可愛いって思ってるけど、向こうからみたら人間は恐い外見かもすごいブサイクかも──のに、それと女の子じゃないのに、大好きって、お嫁さんにしたいって、ツガイタイって。
──嬉しい。
特別にすきって、うれしい。
「は……ぁ……ん……」
いたわるみたいに何回も撫でられて、そんなのでも気持ち良くてトロトロになった。
感覚の共有かな……さっき耳の奥とかスロットにも入ってたし。みえるハズない卵の入るトコロ、お腹の奥が浮かぶ。まるでみえてるみたいに脳に投影されて、わかる。思い出したら、スロットにまた入ってきた。体がびくびくして、硬くなって出ちゃう。
「ぁっ、っあ、あ……」
スロット、こんなきもちい、なん……て、くちゃくちゃ、音するのが、余計きもちいい。
いっぱいしてもらいながらトロトロのお腹みると、胸がぎゅっとなって、息するの何回か抜けた。拡げられて、いつもよりひろくなってるって、イキモノが教えてくれた。時々、閉じて、開く。ソレはきもちいいのと同じタイミングで、みてるともっときもちよくなりたくなった。あかいいろの奥から、透明なトロトロしたのがポタポタしてくる。こういうのも、特別なコトの為にイキモノが俺の体を変えたからなんだって。怪我しないようにって。
ふわふわのおっぱいなんかないけど、胸、尖ってるトコ触って欲しいなって思ったらつついてくれた。も、わかん……ない。
人間の舌より気持ち良く吸ってくれて、スロットもしてくれて、何回も頭がねてしまう。耳もしてもらったら、また胸がぎゅっとして、止まらなくなってた声がなくなった。
イキモノの体に絡まって、ぶらんってなってる姿もみえる。目、半分ひらいたままで涙とかポタポタ落ちてて、口からも、舌が出てて、なんか、死体みたいに体全部開いてる。だけど、顔は赤いし、時々ひくって揺れるから死体じゃないってわかる。俺、死んでないし。
「ゃ、ぁ……」
恥ずかしいの? っ撫でられて、そう思う。何でかみるの恥ずかしくて、きもちよくて、
みたい。
「あ゛……ゃ……やだあ゛ー……」
イキモノはそんな俺の気持ちを感じ取って、色んなトコみせてくれた。
きもちいいのに口はイヤって言ってて、恥ずかしくて、体はもっとびくびくして、お腹は塊みたいなトロトロをこぼした。
ぱしゃん、と音がして、イキモノの体が解けた。俺はしばらく動けなくて、だけどイキモノに触れてたいから、頬ずりした。
いい子いい子って頭撫でてくれて、それから、キスした。
大好き。
それと、こんなきもちい、コト、いっぱい、はじめて。
少しして、体起こす。やっぱり平気。体は頑丈だから。っていっても、立つのは無理みたい、笑ったら、イキモノは俺の体を支えてくれた。優しい。
「もっといっぱい……さわって」
俺の体には、イキモノの這った跡がいっぱいあった。もう消えなくてもいい。
だってこれからずっと大好きだから。
さわって欲しいって思うとどきどきして、体がひくん、てなった。イキモノも同じ気持ちだって伝わってきて、倒れそうに気持ちよくなった。
「す……き」
硬く尖ってちょっとこわい姿になったイキモノの先を抱きしめる。さっきキスしたみたいに優しく唇くっつける。舌で撫でる。イキモノのヌルヌルと一緒になってくちゅくちゅ音がする。耳の奥がふるえる。そんな風に思ったら、イキモノが耳を撫でてくれた。また、出ちゃって、腰がびくびくした。耳スキだから。中はもっとスキ。イキモノがぬめぬめって、耳の中も触ってくれる。だいすき。
なんか、舌まできもちよくなって、いっぱい、擦り付ける。いいの。
もっと奥もしてって願ったら、ソレはダメって優しく頭を撫でられた。脳は傷付けたらいけないトコロだから、遊んじゃ駄目なんだって。大事にしてくれてるんだ。嬉しい。
でも俺、殺されてもいいよ。
そんな風に思っちゃダメってまた、頭、撫でられた。
俺には生きて欲しいって、へんなの。でも、イキモノの触り方が気持ち良すぎて、俺もうあんまりわかんない。
いっぱい、一緒になりたい。
キスしてトロトロになったイキモノの先をお腹に近付ける。自分で脚開いて……きもちよくてどきどきする。手の中で、イキモノがどんどんかたくなる。びくびくしてる。おなじなんだ。
嬉し
「 」
細い首を晒して、声にならない嬌声をあげる。
2秒して、クラインが軽く意識を戻したのを確認すると、イキモノは触手を絡めて小さな身体を浮かした。
「ぅ……あ」
抜ける際にも擦られる快感を受けて、力のない首に新たな唾液の線が伝う。触手が括ったのは膝と胴体のみで、腕は自由になる。あどけない腰をひくん、と痙攣させながら、抜けた触手に手をのばす。
触手は細い指を弄びながら、鎌首をもたげ先から粘液を僅かに噴き出した。
「……ふぁ……っ」
見せ付けながら、胸の先を撫でる。
「ぁっ……あっ………あっ……」
胸を突き出して、もっと激しい愛撫を求める。望むままにしてやる。作った鉤爪の先、傷付けない程度につつき、べつの柔らかな触手で揉みしだく。
「ひあ゛」
とろけた顔で啼いて、脚を大きく開く。触手に吊られた身体が揺れる。
ゆっくり、運んでやると、愛らしい瞳が愉悦で澱んだ。
「あ……」
薄い腹に触れるか触れないかの距離で降ろす。緩い拘束と愛撫は止めない。
クラインは力のはいらない身体を懸命に持ち上げ、もどかしさに泣き声をあげ、ながく時間を掛けた。
同時に触手も焦れ、益々歪に硬くそそる。
懸命に浮かせた腰を、下ろす。
元々はいらない力を無理矢理込めていた、だから、安堵で、ソレはなくなる。墜ちるように。
「ひ、」
挿れる、というより、刺さる。
「あ゛……いいの……」
ソレは快感への訴えでもあり、イキモノの気遣いへの返答でもある。
「きもちいっ……」
外側からみても、触手のありかがわかる。ソレ程に深く蠢き、また受け容れる身体が小さい。
促しているわけでもないのに、細い腰を揺らす。力はほとんど入っていなくて、意識の限界を感じる。求めてやまない清濁、思慕と情欲。
朦朧に閉ざされて一際、高い声をひいて、儚き心が沈む。
意識のなくなった身体を柔らかに受け止めて、頭を、涙の跡が乾ききらない頬を撫でる。
己と生態は全く違うが、イキモノは、クラインがその種の中で幼生に属することは理解している。辛うじて配偶子を分泌出来る状態ではあるが、まだまだ守ってやるべき対象である筈だ。本人が言うように、丈夫で健やかではある。しかし幼きものであるのだ。
無垢な好意や素直で瑞々しい快感は糧となるが、闇雲に啜り尽くしてはいけない。
それでは命を削ってしまう。
いつまでもこうして、触れ合っていたいが、殺したくはない。自分達のような生物が、こんなに想われることは稀だろう。
ならば、自分は幸せなんだろう。
自分にとっても、只の複製用の宿主以上の存在だ。
崩壊するまで喰らい尽くしたいが、してはならない。
望むままに悦びを与えてやりたいが、まだ成体になりきっていない心身──特に心──を壊してしまいそうだ。
大切に、大切に。
生きていて欲しいから。
「さっきの……も……いっぱい、して」
抜かれたときも、せっかく起きたのにまたねちゃった。もっと長いこと、感じてたいのに。子供だから、ダメなのかな。もっと体鍛えよう。
でも、そういうのは無駄なんだって。気持ちいいのがふえたら、コップの水みたいに越してしまう。だからダメなんだってイキモノに笑われた。ちゃんとした言語じゃないけど、わかるよ。
それと、してくれないって。俺が死んじゃうからダメだって。いいのに。
綺麗な卵、みせてくれた。さっきよりもどきどきしてる。触ってたら、逃げた。苦しそう。痛いとかじゃなくて、早く生みたいんだろうな。俺もどきどきしてきた。照明に透けて、管の中で浮いてる。いっぱいある。全部、もらってあげられるかな。
「だいじょうぶ」
イキモノが不安そうに──自分だって出したいのがまんしてるのに、えらい──俺を撫でたから、一生懸命、笑った。笑うのは下手だけど、わかるかな。研究室の人は判るってゆうけど、よそから来た人は分かんないって、俺が話さないと何て思ってるかわからない。だから、ちょっと、外の人は俺みたいなのが苦手っぽい。別に、何にも思ってない。殺したりとか。しない。えと、しようとしても、できないかもしれないし。したくないからまあいいやそんなの。でも、したくないのにするときは、多分いやだろうなって今は考えられる。そのときは、かんがえるとかできないかも。いい、そんなの。今じゃないこと考えてもしょうがないし。非生産的っていうんだ。そういうのは。
いまは、好き同士の時間。イキモノと一緒の時間。次の訓練も、検査も、実験も、ないといい。でもそれはだめかな。なくなったら、俺はいらなくなる。と思う。東亞工廠が倒産することなんてないから大丈夫な筈だけど。そんな事なったら、今の人間の世界は一緒に死ぬ。だから考えるだけ無駄。
「だいじょうぶ……俺、がんばる、から」
なんでそんな頭ヨシヨシしてくれるのかわかんないけど、トロトロでベタベタになるくらい、イキモノは俺を抱っこして、長いことそうしてた。そんな子供じゃないよ。もう弾道計算だって出来る。手書きじゃ間違えるかもだけど。それと、今はだめ、こんな頭ふらふらだと、平方根も出来ないかも。数字を探して書いていくだけ。あ、やっぱりできない……途中から忘れる……解らなくなる、だめだー。
なんか、面白くなって、くすっと笑った。イキモノも少しだけ、楽しそうだったけど、どうして、そんな顔──はないけど──するの? 読まれないように閉じたってムダだよ。わかんないけど、わかる。少しだけなら、わかるよ。大好きだから。
「お腹……苦し、ぁで……もやめな……で」
やめないで。
かわいらしい舌の、精一杯の愛撫。震える手で抱き込んで、触手と管に口付ける。頬を寄せて、懇願する。
苦しさとソレを塗り潰す快感に、無垢な意識がきえていく。悲鳴が蕩けた吐息と涙の蜜にたぎり、とまりかけの甘い鼓動と思慕を味わう。
きもち、い、たまご。す、き。
きもちいのでなかいっぱいに、あたまのなかも、ソレして、ほしくていっぱいなる。欲しい気持ちと、すき、でいっぱい。こころがたべられちゃう。
でも、いいの。
いっぱいほしい、の。
管の中、でふわふわしてて、ソレがいっこ……つはい、てくるの……お腹がふくらんで、も、くるしの。へんなこえ出ちゃう。苦しいのすき。これきもちいい。いいの。こわれてもいいの。こわれちゃうの。
変なこえ、いっぱいだしてる。でも、そういうの、イキモノは……うれし……みたい。だか……がまん、しない。よ……。
いっぱい、だしてね。
イキモノだってくるしくないように。
したいこといっぱいして、
大好き。
すきにして、
すき。
ひらいて、
だいすき。
だして
ご ぽ り。
くぷ、ぐぷ、ぐぷ、
ソレは、狂いそうな程の、快楽だった。
幼き心が灼き切れる寸前まで悦がらせ、捩れていく。
唾液が、粘液が、涙が、もう色の付かない精が、千切れた羽のように散っていく。可憐な手足が力なく揺れる。
姿は違っても、蕩けきった淫ら顔が、ソレでもとても愛らしいことが、イキモノにはわかった。
こうまで酔わせ、昇らせ、愛で尽くして、知る限りの快感を与えてやれた。誇らしくて、愛おしかった。ゆるされるならえいえんに。ソレ、は、互いに同じであったと知れて、彼は幸せだったと感じた。
目を覚ますと、お腹がへこんでいた。びっくりして、コールしようとしてしまう。でも、自分の部屋じゃない。いつもの人が来てくれた。
聞くと、卵は別に保管してるって。孵すには俺の身体は小さすぎて負担がかかりすぎるかららしい。頑張るのに。
□次のページへすすむ
□前のページへもどる
□Story? 02(小話一覧)へもどる
□トップへもどる