■domine-domine seil:07 あの の記憶 03

「いいところに来たわ。もう数時間遅かったら、相凍結させて収納するところだったのよ」


 卵を産んだらしんじゃうなんて。そんなのしってたら、ダメって言った。
 泣きじゃくる俺をみて、スタッフはみんな困ってた。


 じゃあ……いいか……いつか、俺だって、あの引き出しに仕舞われるんだし。
 その時は……隣にして欲しい。
 そんなこと……お願いしたら、ダメかな。


 こんなに激しく拒絶するなんて、どんな苦しいテストでも、俺は泣きわめいたりしなかったから、いやだって叫ぶ俺をみて、研究所のスタッフはびっくりしてた。だからって、やめとくよなんて言ってはくれない。
 決まった事だからだ。
 ここでは、決まったことは、滅多にひっくりかえらない。わかってたから、俺はずっと思ってても言わなかった。嫌いな検査とか、痛いテストとか、死にそうな訓練とか。ひっくりかえらないのは、必要なことだからだ。
 だから必ずそのとおりになる。
 なるけど、涙は止まらなかった。
 教えられたとおりに息を吸って吐いても、苦しかった。
 俺は最後まではいって言わなかった。
 いろんなことすごくムダ使い。みんなを困らせて、最後は決まってるのに賢くない。でもだめ。嫌なんだ!


 記憶を消されるなんてやだ。
 悲しかったことを忘れる。だけど、一緒に  を好きだったこともわすれるなんてやだ。
 何……だろう。  ≠チて、


 何だ。


 結局俺は朝から全速力で2回走った。
 飛び出すときも飛び込んだときもテッセ曹長の舌打ちしそうな顔が恐かったが、勘弁してもらおう。ぶっちゃけあの人の顔はバカな男どもを見下す目をすると益々美人にみえるし、むしろ俺得。
 理由を話す時間はなかったから、目薬をもらって点してまぶたを冷やして、アサギリ少佐に礼を言っただけでおわった。時間ができたらきちんと挨拶にいこう。そしてもう走りませんて謝ろう、でも許してくれないんだろうな、と横道にそれながら脳みそを整理する。今日の予定とか、腫れはひいたけどウサギのように赤いままの目の言い訳とか。
 こんな日に限って、エッケルベルグ大尉と一緒だ。心配そうな顔をみると、紛らわしいことは言えなかった。
 調子にのってネサフしてたら目が疲れ気味、って言ったら思ったとおり説教された。ウソをついているので2重に心苦しい。でもまあ病気と言わなくてよかった。そんな事言ったら、きちんと治療してくれって、医療スタッフに詰め寄りかねない。ありもしない過失を他人になすりつけるウソはよくない。個人的な都合で人を傷付けるのはナシだ。
 すっきりしないなら、正直に言ってもよかったのかもしれないが。
 確信がもてなかった。
 感触は涙しかなかった。だから泣いたんだろうなって思っただけだった。
 悲しい夢をみたから泣いたっていうのも、本当なのかどうか、わからなかった。
 そういえば、最近泣いたことってあったっけか。
 いい加減大人になってから、悲しいことってあったっけか。
 もしかしたら俺はもう何年も何年も、悲しくて泣いたことがないのかもしれない。


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