■domine-domine seil:0b 俺の甘いものとついでにやらかしたっぽいもの 04

「痛かったら、言って下さい」
 俺は軽い身体を持ち上げ膝に座らせると、指を絡めた。そっちを見ようとせず、かと言って俺を見ることも出来ないで、俺の胸に熱い息をかける。
 声はまだきけないか。僅かに湿った音だけが耳に届く。綺麗な声で、かれる程喘いで欲しいと思うのは酷いだろうか。
「……痛い」
 震える腕が俺に触れる。
 俺は透明な液体を吐き、苦しげに熱をもった溝を撫でた。
 ひくん、と身体が跳ねて、俺にすがりつく。いい反応だ。耳の上側を甘噛みして舐めてやる。細い肩がこわばって、固く目が閉じる。俺は少し強引に顎を持ち上げ顔を覗き込む。薄く涙のにじんだ目が開く。
「敏感なんですね」
 可愛い顔が一気に染まる。熱そうだった肌を益々火照らせて喘いでしまう。
「……っ……あ」
 握り方を緩くして、ゆっくり動かす。
「ん……っ……ぁ……」
 はあはあと息を上げて、堪えて、俺を見る。堪え切れない声が愛おしい。
 手の中の湿り気は今でははっきり水音になって俺に届く。
「……っ」
 俺の濡れた手の上にそっと手が触れる。クラインの細い指。これがつくりものだなんて。
「触素、多目に貼ったって……言ってたから」
 先は言わせない。聞きたくない言葉を封じてしまう。
「ん……ぅ」
 唾液を飲ませるのはかわいそうだが仕方ない。こういう体勢だし。
 柔らかい舌の感触に身体が疼き、出したくなる。もういれたい。怪訝をさせたくない。堪えながら手首を掴む。痛いかもしれないが、このくらいは許して欲しい。
 頭と胴体(中身は少し置き換わってるらしい)は生身だって言ってたから、試験的に皮膚を貼り替えたり、そんな事をやっているんだろう。誰かが、その度にこのあったかい身体を切り刻むんだろうか。実験だって言って、撫で回すんだろうか。愛撫するのか、愛情もないのに。
 俺は嫉妬している。俺よりもクラインの総てをしってる誰かがいるなんて。そりゃいるだろう。キリがないのは分かってる。この艦のスタッフでさえ、俺よりも提督との付き合いが長い奴の方が多い。
 堪らなくなったのか、自分から舌を絡めてくる。手の中もあつく、震えている。
 これは言い訳じゃない。無様に嫉妬する男だが、俺はクラインを愛してる。
 今は俺の恋人だ。
 したいこと、するといい。俺は心の中で囁いて、受け止めた。
 手のひらに白く溜まっていく。
 気持ち良くなりたかったんですよね。したいことしてください。きもちいいですか。
 深いキスをしながら、全てを受け止める。


 唇を解くと、ぎゅう、と抱きつかれた。息が詰まりそうだ。首を狩りに来た奴の首をへし折った話を思い出す。一瞬怖くなったが、クラインは我に返って腕を緩めてくれた。
 俺にもたれて、頬ずりして、目を閉じる。可愛いな。抱き潰されてもいい気がしてきた。


 誰かに触れられた痕が嫌なんじゃない。その誰かが、書類一枚で、何かの権威で、奪い去ってしまわないか、俺は恐れてる。


 クラインがそっと腰を浮かせる。やれってコトか。気だるげで、恥ずかしそうな顔を撫でて、身体を支える。
「! ……」
 受け止めた精でくつろげる。他に何かあれば良いんだが、買うわけにいかないし。
 指先に絡み付く。微かな痺れが心地良い。強い圧迫感に血が止まってしまいそうだ。全部挿れてしまいたいが慎重に。いくらかは身体の内側から染み出してくるが、足りないと思う。負担になってる筈だ。クラインは平気だと言うが、俺としては、もっと解してやりたい。
「ちょっと、少なくないですか」
 俺の腕の中でクラインが呻く。
「余計なお世話……」
「そうじゃなくて」
 思わず赤面してしまう。ちがう。感想≠述べたんじゃない。
 これじゃ痛い筈だ。
「……っ……」
 指を動かすと、息が小さく震えた。気持ちいいのか。殺した声と儚げな仕草。ソレで一気に体温が上がる。
「いいから……」
 クラインは俺を押し倒した。彼を抱くのにいっぱいいっぱいで、両手が塞がってる。力が入り辛いので、ゆっくりだけど俺は背中からシーツに着いた。
「! っ……」
 こんなことするから。乱暴に突き上げてるのと同じだ。きっと痛い。クラインが俺の上で顔をしかめる。俺は指を抜いた。
「ジョス……」
 俺におおいかぶさって、クラインが囁いた。
「ダメです……」
 俺の言い分を無視して、細い指先が触れる。感触を確かめるように握り込み、上下に動かす。
 いいかなって、よくないです。
 気持ちいい、死にそうなくらい。
 だけどこのまま、昂ぶりのままをぶつけたら、傷付けてしまう。
「大丈夫だから」
 首筋にキスして、優しく舐める。恋人の手の中で、浅ましくもがく先からは、透明なしずくが悲鳴をあげるように湧く。
「……っ」
 クラインは声を殺してる俺を半開きの瞳で見つめて口付けた。ついばむような、というよりは、子猫が舐めるようなキスだった。唇だけを舌で触れて、そっと離れる。優しげな顔がひどく熱そうに火照っていて、俺はもうダメだとおもった。
 頭を掴んで、唇を奪う。あんな可愛いキスじゃなくて、奥まで舌を差し込んで、絡めとって、淫らな唾液も啜って。くしゃりと乱れた髪からいたいけなシャンプーの香りがしたが、うしろめたさが益々煽る。兵法だけじゃ飽き足らず、こんな男まで煽るのか。確かにあんたは天才だ。お望みどおり、全部塞いでやる。
 膝を使って脚を開かせて、一息に滑らせる。窮屈で俺の方が痛いくらいだが意外に引っかかることなく、奥まで届く。
 いかがわしい熱が絡み付いてくる。
 俺は目を細めて黒い髪を撫でる。唇を離してやると、クラインはくたりと俺のうなじに突っ伏した。アレだけで軽く達したみたいだ。潤んだ瞳の焦点が飛んでいる。唾液の流れる感触が心地良い。快感に任せて、更に奥をかき分けるようにする。腰を押さえつけると、目の前がチカチカした。放ってしまいそうだ。
 投げ出してた手が、タオルケットを固く握って震える。涙が甘く伝い、とろけた顔を濡らす。かなり痛い筈なんだが。気持ちいいのか、淫乱め。
 どうしてやろうか。
「ジョ……ス」
 愛おしげに、俺の名を呼ぶ。
「気持ちいい?」
 俺を気遣うように肩を握り、繋がった腰を撫でる。
「……申し訳ありません……」
 提督、と言いそうなのを堪えて、俺は儚い姿から逸らすように目を閉じた。だが奥では熱くたぎったまま。どうかすれば滅茶苦茶に突き上げてしまいそうだ。無様な俺。傷付けたくないってどの口が。
「あやまらなくていい」
 優しく、俺を抱き締める。
 それからまた囁いた。


 俺に、嫌われるのがこわいのか? それって。
 俺はさっきみたいな凶悪な猛りでなくて、自分が溶けてなくなるような熱に侵された。腐らせるんじゃなくて、優しく、包み込むような甘い手。クライン、可愛いな。


「ジョス……動いていい?」
 俺の顔を見ないで、囁いた。
「そんなこと」
 心臓がとまりそうだ。鼻血とか出したら台無しだよな。でも、いけない。クラインのこの身体に、俺の勝手な欲望で負荷はかけられない。
「俺……もっと気持ち良くなりたい……」
 大丈夫だから、と頬を撫でられる。俺の内心を察したように笑う。照れくさそうな小さい表情。切ないな。
 かわいがってるつもりが、あやされっぱなしだ。
 頑丈なだけが取り柄だから、いつものセリフ。あながち嘘でないトコロが恐い。
「やらしくなってもいい? でもお前に……引かれるのもイヤだし……いいかな」
「いいですよ」
 クラインの手を取り、そっと口付けた。くすぐったそうに俺をみて、顔が益々赤くなる。
 遠慮がちに腰を揺らすのにあわせて、指の関節を舌でなぞる。手のひらをくすぐって、唾液を絡めていく。
「……っ……ジョス、それ」
 引こうとするので掴む。手首を捕まえて、逃げられなくして愛撫する。
「ん……っ……」
 気持ちいいでしょう。震える肢体を見上げて、口に出さずに伝える。
 目が合うと赤面しつつも告げられた。
「……気持ちいい……」
 [ナカ]の感じで、いきそうなんだな、と思う。引かないさ。ずっとこうして、かわいいって触れていたい。
「あ……ジョス……」
 強く締め付ける。とろりとしたものに感触が変わる。柔らかな圧迫はなくならず、緩くなってはしまわない。
 クラインは猫のような姿勢で伏せて俺にもたれる。浅く達した身体はしっとりと程よい重みで、僅かに上がった息が心地良い。
「あう……」
 俺は注意深く体を起こして、華奢な身体を抱き上げた。腕が背中に回って、力が込められる。
「いいよ、このま……まで」
「しかし」
「皆にめいわくかけないから」
 普段と違う子供っぽい口調なのに、忘れてないのか。
「ジョス……」
 してほしいと言われた。俺ももう限界だ。
「触っていいですか」
 もっと良いことをしてあげたくなった。
「じゃあこれ」
 ティッシュの箱。ソレも頭に入ってるのか。苦笑する。


「……く」
「……っ……ジョス……いきそう……?」
 限界です。でも離したくないんです。
 俺はそんな単純な理由で堪えてる。少しでも長く抱いていたいというのは、めめしいだろうか。
「もうしわけありません……」
「いいから……嫌じゃないなら……して欲しい……」
「したいです」
「……っあ、ジョス」
 優しく突きながら、指を絡める。俺と同じものが、同じように熱く、こぼれそうになる。
「これで、も……」
 うわごとのように繰り返す、切れ切れな愛おしい声。
 細い腕がすがりつく。
「ジョス、うあ……俺……っ……もう」
 そんな顔されたら。
 ダメです。
「……っ! 俺もです……」
 滑り落ちそうな身体を支えながら、手のひらで受け止める。とても熱い。
 吹き出していく。
 こんな熱を、深く、あんな繊細なところで。俺は朦朧としてきた。気持ちいいのか、解けそうなのか。なんでもいい。
 もっと繋がりたくて、背中を押す。俺の方に手繰り寄せる。
 もう少し、血の流れが鎮まるまで。


 恋人を抱きながら、夢に浸る。あちこちベタベタしているが、心地良い温もりだ。
 のぼせた顔で俺にもたれる姿を眺めて、バカだが誇らしい気持ちになる。満たしてあげられるんだ。自慢したっていいだろう。まあ、本当に武勇伝よろしく披露なんかしたら、最悪軍法会議か。
 誰にも言えなくたっていい。俺は幸せな男だ。
 M.E.クラインに、もうダメなんて言わせてる。そういうのはすごく失礼だけど、俺にも助平心の一つくらいある。一つじゃないか。気持ちよくしてあげたいって健気に抱きつかれて溺れてる。
 もう≠チて言われたら俺もうダメv≠セなんて、俺はデレデレと幸せに浸っていたわけだ。
 他の言葉は考えたくなかった。


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