■domine-domine seil:0b 俺の甘いものとついでにやらかしたっぽいもの 05

 手早くシャワーを浴びて、時計をみる。コンビニを出たところから、2時間しか経ってない。
「早過ぎるよな……」
「ハヤくないって」
 ペットボトルの茶を開けて、一口飲み込んで、クラインがつぶやいた。
「ジョスはかなり保ってると思うけど」
「ちょっと、ナニ言ってんですか」
「真面目だし溜まってそうだから早そうって思ってだけど、人は見かけによらないっていうか」
 俺は缶コーヒーを飲む気を無くして、タブにかけた手を離した。
 クラインはテーブルに肘をついて何やら思案している。
「今度『なかなかプレジャーしそうにないランキング』とかやってみるか……」
「やめてください!」
 誰とはなしに通信をまわして、『お嫁さんにしたいランキング』とか『浮気しそうなランキング』とかそういうお遊びはよくやる。ウチの艦隊でも、普通にまわってくる。大体は待機中のパイロットかOPが退屈しのぎに流すんだが、この提督は自分だとバレないように項目を付け足したりするのだ。まあ、パイロット上がりでネットヲタクという2重の十字架を背負っているのだからやめられはしないか。しかし下ネタは激しく却下だ。
 『キモウトにしたいランキング』に提督の名前――さすがに一桁だったが一体どこのバカが、俺じゃない――を発見してその不穏な響きの意味を調べて俺は青くなったが本人はしれっとしていた。しかし自分が平気だからってみんなフリーダムじゃない。1ヶ月程前に『ケフィアが光速で発射されたらどうなるか』を順序立てて説明して一部の女性クルーから鼻をかんだティッシュを見るような目で見られたトコロじゃないか。しかもソレが周囲でエロネタばかり言ってるから提督が調教されたとか変な解釈をされて、我々ブリッジの男性陣の株が大暴落した。
 そもそも俺が早いって言ったのは自分の性的な都合じゃなくて、一緒に過ごす時間です。とは口に出せず、やっぱりコーヒーを空ける。俺の好きな銘柄、いつも一つ置いてくれてるし。


 多分提督はショートスリーパーとかの類だ。見かけによらず健康なのもあるけど、必要な睡眠が極端に少ないタイプなんだ。ナポレオンやエジソンはそうだったっていうし、英雄足るものの天賦なのか。でも、神様に文句を言わせて貰えるなら、寝落ちが光速過ぎます。クラインは何も知らなさそうな顔で眠ってしまった。
 俺はめめしくもしばらくその顔を眺め、タオルケットを整えると部屋を出た。
 さっきのやり取りを思い出しながら歩く。


 明日の朝までかなりある。予定をきくと寝ると言われた。いまからか?
「やっぱり、辛いですか」
 俺のせいか。途中、強姦まがいに押し込んだし。
「まさか。だるいけど、いつもの範囲だ。元々寝られるだけ寝るつもりだったから」
 お前が来るんじゃないなら昼食ったすぐから寝てた、と言うのでほっとしつつも呆れる。
「俺ネサフする以外に趣味もないし、こんな寝られるの滅多にないしな。2、3時間あれば死なないから、あとはデザート別腹」
 そういや、二度寝三度寝して時間を噛み締めるなんて、他にも言ってる奴が結構いたな。アウトドア派の俺には理解出来ない世界だ。
「それじゃ、これから惰眠を貪るので何も無ければまた明日」
 あっさりとベッドに潜り込んでしまう。着替えてもその着替えはまた、味気ないトレーニングウェアだった。それでもダメ人間丸出しのクラインは俺の……天使だった。
 まあ、明日にはまた、顔は合わせる。
 でも、早朝のブリッジには、凛々しい提督が静かに立ってるんだ。
「確かにちょっと、足りないかも」
 タオルケットを被って、寝る姿勢をしながら、クラインは俺を見上げた。照明を絞った薄暗い部屋で、天使が悪魔のような事を言う。
「まあホントに立てなくなったら困るから、余裕あるくらいで良いんだろうけど」
「そうですね……」
 反応しかかった自分を心中で殴りつける。
「でも、一度正体なくなるまでしてみたいと思わないか」
 なんでこの人はすごいことをいうんだろう。そんな折れそうな身体で、壊してくれなんて。
「3日でも、4日でも、後先考えないでおかしくなっても構わないくらい」
 なんでこの人は提督なんだろう。
 本末転倒な事まで考えて、俺は固まった。
「……もしかして、怒った?」
「え」
「ごめん。ちょっと調子乗ってエロい事言い過ぎた」
 お前、エロネタ駄目だもんな、と謝る。耳を畳んだ猫がみえた。毛先の白い黒い子猫。かわいい。かわいすぎる。
「ちがいます」
 俺は再びたぎりそうなのを堪えて、クラインの浮いたような瞳をみた。
「俺もあなたを滅茶苦茶にしたい」
「そんなきっぱり宣言しなくても」
 クラインは小さくだけど笑い出し、俺は耳まで熱くなった。赤い顔をしているだろう。
「でも、ホントにそういうのできたらいいよな」
 俺が盛大に照れたからか、クラインも少し、染まった。
「そうですね」
 俺はそんなクラインの、ケーキみたいに甘く柔らかい頬に触れた。
「ジョス……今日はありがとう……ケーキうまかった……ごちそうさま」
 俺の指先にとろんとしつつ、クラインは淡い笑みを浮かべた。
 ありがとう、ともう一度聞こえて、目を閉じる。
 お休み3秒。


次のページへすすむ
前のページへもどる
Story? 02(小話一覧)へもどる
トップへもどる