■red-tint 04
痛くはなかった。
ただ、さっきまで執拗に吸われていた胸の傍を、そっと指で辿るだけ。時折唇を掠めたりして、優しく撫でるだけだった。
「硬くなってて、尖って、めちゃくちゃやらしいな。今すぐ舐めてやりたいよ」
「んっ……」
ふっと息を吹きかける。
「……や」
「なに?」
温度を感じるくらい近くに舌を這わせ、指の腹で擦る。
「いや、嫌だ」
「いやなのか?」
そうじゃないだろと、目が笑っている。
「嫌だよ、もう嫌だ」
こんな触り方、殺されそうだ。
「! いやだって、も……」
肝心な場所をスルーして、暖かな舌が往復する。指先と爪の感触が残酷だった。
「や……っあ、やだ」
半泣きの顔を晒しているのもサイアクだった。もうどこかに行ってしまいたい。
「っ……嫌だ……」
「いいよ」
こぼれた涙を拭って、サカキは優しく微笑んだ。
「イヤイヤ言いまくってくれたから、泣き顔たっぷり楽しめたよ」
あー、マジ幸せ、と頬ずりされる。
こんな変態が世の中にいるものだろうかと、マユトは呆れた。いる、なんてどこか遠い世界のハナシだと思っていた。
「いいもの見れたから、イイ事してやるよ」
目の前が暗くなる。覆い被さって、マユトの唇を奪う。ほんの少し、タバコの味がした。
舌を絡めてしまうのは、胸の感触を紛らわせる為だと思う事にした。優しい指につままれて、撫でられ、柔らかにつぶされる。
気が付くと唾液が掻き回される湿っぽい音に、自分の吐息が混ざっていた。
唇の合わせ目から微かに漏れる声は、鼻にかかった甘いものだった。性的な響きでないなんて否定は出来そうにない。認めざるを得なかった。
気持ち良いっていうこととか。
「うあ……ぁ、ぁ……」
キスを解かれて、声の封が甘く破れる。とろとろと唾液をこぼしながら、マユトは大きく身体を反らせた。
背中の隙間に手を入れて掬い、片方の胸に口付ける。ねっとりと吸い付いて離し、その繰り返し。
あまりの快感に、ぐっと胸を反らせてしまう。
もっと欲しいみたいに。
違う、ホントウにして欲しかった。
時折左右の位置を変えながら、サカキは愛撫を続けた。
舌でざらりと舐めたり、甘噛みしたり、小さなトコロを優しく苛む。
「は……ぁ……ん」
マユトは半分意識が飛んでしまっているようだ。涙ぐんだ目は、完全に焦点が合ってない。それでいて、無意識に身体を押し付けてくる。細い脚の間にある硬い感触に嬉しくなる。触れている腿をこちらからも押し付けると、華奢な腰が浮いた。密着させたまま、再び唇を重ね、舌を貪った。
「んく、んふ……」
甘い吐息、遂に背中へ廻った細い腕。サカキは幸せだった。
夢にまでみた相手を抱いている。
「次は下、な」
素早くベルトを外して、ジッパーを下げる。何か言う前に手を突っ込まれて身体を硬くしてしまう。
マユトが閉じた脚を、サカキは無理に開けようとはしなかった。
潤んだ瞳でマユトを見つめると、熱く囁いた。
「コレ、夢じゃないんだな」
そうだったらよかったのに、そうじゃない。マユトは恥ずかしさと惨めさに打ちのめされていた。
「すげ……ビンビンだな」
熱い息を絡ませながら、サカキは下着の中の手を握り締めた。
「……っ……!」
一本一本の指で、表面を確かめるように撫でる。
「は……マジおかしくなりそう……」
おかしくなりそうなのはこっちなのに、サカキはそんな事を言った。
「マユ……いま気持ち良くしてやるから」
額にキスすると、握った手を上下に動かし始めた。
「! ぁ、や」
閉じた脚からひとりでに力が抜けていく。
「な……すごくイイだろ……」
熱い息の混ざった、サカキの声。ジーンズのウエストに掛かる大きな手。指が長くて、綺麗な形をしていた。
「んっ……」
衣擦れ、というには乱暴な音がして、腰から下がひんやりした。強引じゃないのに、抗えないまま広い手に片脚をかける。
何も知らない相手。ニセモノの名前。
誰だか分からない誰かに、裸の身体を好きにされる。鼓動が速くなり過ぎて苦しかった。
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