■red-tint 07

「アンタさ、寝てんのか起きてんのか分かんなくなるんだろ」
 ずっと見てて気付いた、とサカキは言った。
「立って歩いてる間とか、ちょっとした会話の間とかに、意識が無くなるんだろ。だけどほんの一瞬だから、誰にも気付かれない、説明することも出来ない」
「そうだよ。治療はしてるけど、兎に角ストレスが原因だから、休養を取れって。疲れたと思ったら横になれとか」
「で、ちっとは楽になったのか」
「なったよ」
「でもスッキリはしねえんだろ」
「ソレはタダの怠惰だから」
「だからそーいうのやめろって、仮病って言われるかもとか気にして、グダグダ悩むからいくら休んでも足りないんだよ。なんでそんなバカなんだよ」
「じゃあどうすればいいんだよ、いつまでもヘタってられないよ。何とか、何とかしないと」
「ソレで焦って、ぶっ倒れてたらキリねえだろうが」
 マユトはどんよりした目を伏せている。やっぱり可愛いが、こんなのはダメだ。
「だからな、俺はアンタのその病気、治せなんて言ってねえよ。半分は病じゃねえし。アンタがこう、ふわっとくるのは巫女の神懸かりみたいなもんなんだよ。シャーマンが精霊呼ぶときみたいなな。なりたくても、なかなかなれるもんでもないんだぞ」
「そんなの」
「いいから聞けって。まあなんつーか、トランス状態ってヤツだよ。そういうトキはさ、何かチャンネルが開いてんの。だから変なもん受信するんだよ」
「ソレが他人の夢だっていうのか」
「まあそうかな。多分、アンタの魂は夢の世界に親和性があるんだよ。だから睡りに引きずられる」
「大体わかったけど、自分では選べないんだ。コントロールっていうのか? そういうの出来なきゃ仕事になんてならないだろ。それに、一緒にいれば、お前からだって」
「受信しちゃうってか?」
 きまり悪そうにうつむくマユト。顔が赤い。
「……ごめん」
「あ……さっきのエロ夢ってさ、ジョークのつもりだったけど、マジ?」
「すぐ、忘れるから」
「いいよ別に、で、どーよアンタのコトエロエロにしてたろ?」
「ばかたれ」
「怒んなよ」
 と、サカキは何かを思いついた。
「アンタ、多分スゲー才能あると思うよ。だって俺寝てねえもん」
「え?」
「意識のある相手から情報取り込むなんて、あんまこういうジャンル詳しくないけど、大した力だと思うよ」
 やっぱりマユ最高、と抱き締める。
「痛い……」
「お、悪い」
「お前はソレでいいのか」
「ナニがだよ」
「思ってるコトだだ漏れでもいいのかってハナシだよ」
「いや、もー今更だしな」
 でろでろの体を眺めて言う。
 確かに、もう隠すトコロなんてないかもしれない。
「ソレに、きちんと訓練受ければ閉じたり開いたり、出来るようになると思うしな」
「そうなのか」
「試しにギルドの講座受けてみ。まあ人外も特殊嗜好なヤツもウロウロしてっから、ちょっとコワいかもしんねけど。心配なら俺が一緒に行ってやるから」
「お前が一番不安だよ……」
「うわ、ひでーな。ナンパされても助けねえぞ」
「されるか」
 そんなもの好き、お前くらいだよ、とマユトは思って苦笑した。だけどその顔を、慌てて戻す。
 ナニ和んでるんだ、こんな初対面の男、とんでもないケダモノに。何やってんだ俺、と思う。
「そんじゃま、めでたく転職の道も開けたし、ぱあっと飲みにでもいかね?」
「離せ」
 抱き上げられてじたばたと暴れる。
「洗ってやるよ。このままじゃ外歩けねえだろ」
 重さなんか感じていない運び方だ。
「そんなの各自でやればいいだろ、だいたい、俺は霊媒だかになるなんて言ってな……ぷあっ」
 喚いているうちにバスタブに放り込まれてシャワーをかけられる。
「いいじゃんどうせヒッキーだろ、試しにやってみろよ。かなり後戻りは出来ないけど」
「そんなん気軽に薦めるなー!」
「あー、濡れた髪もエロいな」
「ふざけんな」
「俺は本気だ」
 真顔で抱き締められる。
「アンタは……どうなんだよ」
「……っ! ぁ……」
 熱い湯の中で握って動かされて思わず呻いてしまう。
「今更だけど、返事聞きたい」
 肩で息をしながら、マユトはサカキの手を掴んだ。
「離せ……真面目な話するならこういうコトやめろ」
「こういうって、こんな?」
 マユトの力なんか意に介さず、指を絡めて擦り上げる。
「……ひゃ、やめ……ぁ……いや……だ」
 細い身体がびくっと震えて、ぱしゃんと水面が壊れた。
「さいてい」
 にまにま笑うサカキを睨み付ける。
「お前には他に考えるコトないのか」
「ねえよ。アンタ何でそんなバカなんだよ、俺の頭の中みたんなら、分かんだろ、アンタしかいないんだ」
「……」
「こんな可愛くて、触ったら壊れそうで、暗くて弱い……男でも年上でもいい、好きなんだ」
「お前いくつなんだ」
「ハタチだよ。アンタより2つ下……つーか俺にダメ出しするならアンタもこんなラブシーンで細かいコト聞くなよなー」
 もー、と顔半分湯に浸かる。
「ちょっと考えさせろ」
「んあ!?」
 マユトの言葉に、サカキは肩まで飛び出した。
「マジで? そっかじゃあしばらく待ってるから」
「待て、良い返事かどうか、決まってないだろ」
「良い方にしか考えねえんだよ俺は」
「……」
 また笑いそうになって、今度はマユトが顔半分潜った。
「!」
 急に体が持ち上がる。
「丁度身体も暖まったし、洗ってやるよ」
「やめれ、子供じゃないんだから」
「コドモじゃないからやるんだよ」
 シャワーの下で押し倒される。
「まさかアレで終わりだと思ってんじゃないだろうな」
「ナニがだよ」
「セックスだよ」
「……っ」
 マユトは一瞬赤くなると、不安げに目を伏せた。
「怖い?」
 サカキは強張った身体を優しく抱き締めた。
「ちゃんとイかせてやるから……」
 顎を持ち上げて、唇を重ねる。
 それで諦めたのか、マユトはおとなしくなった。


 洗う、つもりはあるようだ。ボディソープの泡で、優しく撫でられる。
 変なトコロが熱心だったりしたけれど、お湯を掛けられると確かにさっぱりした。
「ありがとう」
「なんだよ」
「綺麗になったから」
「お、おう」
「石鹸、貸して」
「ナニ? 自分で洗うトコ見せてくれるのか?」
 目の色を変えるサカキをはたいて、マユトはボトルを引ったくった。
「いてっ」
「洗ってやるって言ってるんだよ」
 これ以上恥ずかしいコト出来るか、とぼやきながらサカキの身体に泡を付ける。
「こういうトコ、触っても大丈夫か」
 傷跡を見て、マユトが聞く。
「え? ……おけおけ。てか、アンタホントよく気が付くのな」
「そうでもないよ」
「あ、ちょい待った、その辺はもういいから」
 マユトは返事をしなかった。
「いや、マジいいから、アンタにキレイキレイしてもらったら余計汚れそうだから、触んなくていい、いいから」
「黙ってろ」


「あー……出るかと思った」
 洗い流されて、サカキはやれやれと座り直した。
「あのさ、俺そんな絶倫じゃねえから、連打なんてムリだからな」
「……誰もそんな心配してないよ」
 むしろ萎えてくれた方が助かるんだ、とマユトはコッソリ呟いた。
「マユ」
「なに」
 優しすぎて、背中が冷たくなるような呼ばれ方だ。
「こっち来いよ」
 多分、逃げても無駄。
 側まで行くと、ぐっと腰を引き寄せられた。その仕草にまで熱が籠もっている。
「マユ、足開いて座って」
 椅子に腰掛けた腿の上に、左右の脚を乗せる。首に腕を廻して、サカキの身体に掴まった。
 たっぷりした泡の感触が脚の付け根にある。そこから自分では見えないけどぺたんこな尻に拡がる。往復して何度も撫でられる。
 気持ち良かった。気を抜いていると、腕から力が抜けて、滑り落ちそうだった。
「……ぅくっ……」
 指先が少し触れる。
 ほんの少しなのに、身体がぴりっとした。
「……ぁ……っふ……」
 指の腹で、入口を丁寧に撫でられる。何でこんなトコロが気持ち良いのか、わからないけど、どうでもいい。
 泡が少しずつ、[]み込んでくる。


「ん……ゃ……」
 弱々しく喘ぐ姿に、あてられながらも苦笑するサカキ。
「な、まだちょっと撫でてるだけじゃね? そんな感じちゃってるのか」
 端に指を添えて、そっと拡げる。まだかなりの抵抗がある。小さな隙間に、掬い取った泡を吸わせると、マユトの身体は酷く強張った。
「ぁうっ」
 柔らかな泡に沿い指先を埋めるその僅かで、マユトは壊れそうに喘いだ。
「マユ……痛いか?」
 首を振って、小さく口を動かす。
「……」
「なに」
 優しく、耳を傾ける。
「名前」
「え?」
「なまえ……教えて、欲しい」
 ソレ、偽名だろ、と言われる。
「サカキ、って、俺の名前だろ」
 ずり落ちそうになるのを、必死で縋りつく。
「名前も……しらない男に……されるの、やだ」
「真夜」
「マヤ」
「そうだよ」
「マヤ」
「うん」
 真夜はマユトの背中をそっ撫でると、柔らかく指を埋めた。
「はっ……あう」
 背中が痛い。強くしがみついて、爪が掠ったようだ。腰回りも震える膝に締め付けられて、ひどく窮屈だった。
「力抜け」
「……っ」
「指動かね」
 これじゃ洗えないよ、と優しく告げる。
「そう……そんな感じ」
「……っや、ぁああ……」
「痛いか?」
「……い」
 痛い、マユトは何度もうなずいた。
「ごめんな」
「……や」
「もうちょっと、我慢してくれ」
 少し強引に指を押し込んでなるべく奥を探る。
「ひあ」
 また、背中が痛い。
「あ、あう」
 きゅ、と指を回して、圧す。
「っ……ぁあっ……!」
 絡み付くような感触に、真夜は少しほっとする。
「も……いたくないだろ」


 泡を足して、指を出し入れする。痛い程窮屈だが柔らかな襞と、とろけた悲鳴に、真夜の腰は熱く疼いた。
「マユ……気持ちいいか」
「……んっ……っぅ……ああぁっ……ぁっ……」
「っ……マユ……おまえ」
 真夜は朦朧としながら、マユトが一番感じるトコロを優しい指先で突いた。
「ふぁっ……ぁ……あ……っ!」
「うん……気持ちいい、きもちいいな、マユ……」


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