■terror 03

 甘いのは、この人に似てる。
 飴を溶かしながら、正気も溶かす。舌を擦り合わせて、唾液を飲んでしまう。こくんと鳴った喉に気付いたユイが身じろぎする。引き剥がそうとする仕草が可愛かったので、ルナは殊更に上を向いた。とろりと甘いものが流れ込んでくる。自分の姿勢とは反対に、ユイの身体は触手で持ち上げた。いかがわしい仕草に、動揺しているのが分かる。抵抗があっても離さない。こうして下を向かせると、嫌でも落ちてしまう。口の中を辿っている間は、止める事が出来ない。快感と同じに増していく。ルナの舌から逃げながらも、ユイは唾液をこぼし続けた。
 口の中から硬い感触が消える頃には、熱い身体から力が抜けていた。ルナにもたれかかったユイには、飴が溶けてしまったこともわからない。
 ルナは重ねていた唇を離して笑いかけ、喉を伝う唾液を舐め取った。ユイはもう逃げなかった。


 脚の間に滑り込み、ユイの身体を覆う。湯の外に出た膝が震えている。握り締めたルナの手に反応している。力を込めて扱くと、ユイは抗議するようにルナの肩を掴んだ。いつもと違う愛撫に警戒の糸が触れたようだ。ほとんど手加減のない力で押すが、そのまま細い指がめり込んでしまう。
「っ……そうい……の……」
「ずるい?」
 ルナは埋まったユイの手を押し出し、新たに生やした触手を絡めた。手首を一つにまとめて壁の高い位置で固定する。浴槽の底に腰がつかなくて、体重は触手に掛かるしかなくなった。何とか剥がそうとユイが身をよじる。水滴が飛び散って、ルナの身体にも掛かる。
「そんなに暴れると痛いでしょ」
「うるさいっ……」
「跡だって残っちゃうかも」
「ひあっ」
 しぶきが激しく飛ぶ。乱暴に動かすとユイは堪え切れずに悲鳴を上げた。
「暴れちゃだめだって」
 目の端ににじんだ涙を舐めて、ルナは優しく囁いた。
「さっきはあんなに可愛いかったのに」
 握った手は離さない。執拗に弄り続ける。人差し指で先端の隙間に触れると、水とは明らかに違う感触があった。
「はっ……ぁっ……」
 僅かに粘度を感じるソコを爪の先でなぞる。手の中がますます硬く震えた。
「飴、すごくおいしそうにたべてた」
「……ふ」
「ぼく、あなたがたべてるトコロみるの好き」
 ルナは無邪気に語る。楽しげに、澄んだ瞳が輝く。薄紅い熱を帯びてユイを見つめる。
「とろけそうにふわふわしてる。浸かる前、さっき体洗ってるトコもずっとみてた。猫みたいで可愛いんだ。気持ち良さそう」
 抑えようとしても、腰の震えを止められない。
「駐在さん、用心深いんだもん」
 触手がぎゅっと締まる。
 達してしまいそうなのを堪える。
「こうでもしないと溶けてくれないし」
 そんなに張り詰めないで、と囁かれる。そこは、素直に嬉しかった。
 でも、出来たら別の機会に聞きたい。
「あ……」
 腕を高く上げられて、身体は僅かに反っている。突き出すような姿になった胸に口付ける。
「あ……ぁ」
 舌を巻き付けて吸うと、掴んだ腰が熱く震えて湯の中に白く放った。
 朦朧と息を上げるユイに、ルナは悔しがる時間を与えなかった。
「ぁ……く」
 ごく細くしたとはいえ、何の予告もなしに挿し込まれては堪える筈だ。ユイの両目から咎めるような色が消えて、代わりに一筋涙が伝った。
 触手は無慈悲に潜り込んでいく。
「っ……」
 簡単に探り当てられて、触手の先に擦られる。自分の身体が湯を跳ね上げる音も、どこか遠くでしか聞こえない。
「……うあっ」
 小さく蠢きながら、触手は少しずつ膨らんでいる。圧迫感はあるが、痛くはない。ただ何か熱いものがにじむ。ソレは擦られたところから広がって、自分の体液と混ざるとぬるぬると粘度を増した。いかがわしい音まで聞こえてきそうな気がする。まだ進みたくないのに、押し上げられる。媚薬だ。
 奥が熱い、苦しい。
 強引な快楽に喰われる。
「あ……あ……あ」
 ユイは頭の中が真っ白になった。
 こんなこと、酷い。
 柔らかにされてないのに、一突きされる毎に身体がねっとりと疼いた。心は解されてないのに、奥だけが、勝手に受け容れて悦がっている。
 突き上げる動きが早すぎて、胸が苦しい。呼吸がついていかない。鋭い快感に息が詰まってしまう。
「や……」
「嫌?」
 でも、気持ちいいでしょ、ルナは淡く紅く澄んだ目を細めた。頬にかかった髪から雫が落ちる。
「ごめんね。駐在さん強いから普通に襲っても負けちゃうし」
「……!」
 圧迫感が増す。触手はまた、硬く大きく変化した。
 何をするつもりなんだろうか。
「……も……」
 駄目だった。強く揺さぶられて目の前が霞む。何だったとしても、自分にはもう蹴飛ばす力なんかない。
 あつい。苦しい。残酷な刺激に焼かれてしまう。
「がくがくされるのイヤなんだよね、気持ち良すぎて怖いんでしょ」
 敏感な箇所を執拗に突かれる。
「でも駄目。ちょっと弱ってて欲しいの」
 乱れる自分を見つめる笑顔は熱く、穏やかだった。優しいのに、ぞっとする。媚薬のように残酷だ。
「……激しく……しないで」
 ルナの綺麗な顔を目に入れながら、ユイは気を失った。


 頬には生き物の感触があった。異様に暖かくて――ひょっとしてコイツ、のぼせてるんじゃないかとか。好き過ぎて、とかそんな思い上がりじゃなくて、バカな事したからだ。炎に弱いなら、熱めの湯なんかも苦手かもしれない。スライムには少しだけ、変温動物的な部分があった筈だ。暑いときも、寒いときも、動きが鈍っていた。
 そうまでして何で、とぼんやりした頭で考える。どうしようもない奴だ。こんな熱くなるまで風呂に潜って驚かしてよろこんで子供かよ。呆れるユイの身体には、これまた大丈夫なのかと思う速い鼓動が伝わってくる。目だけ動かして盗み見た顔は、まだ何か考えてそうに浮かれていた。
 身を起こそうとすると、胴に巻き付いた触手がぞろりと動いた。背中や脇腹を撫でられて、ため息が出そうになる。まだ身体が戻ってない。押し上げられたトコロから下りて来られずに、漂ったままだ。思わず、腕に絡んだ触手を握り締めてしまう。
 ソレで、戻った意識に気付いたルナと目が合う。こうして見ると、寒気がするような整った顔だ。
 今すぐ解けこの馬鹿、罵ってやりたいが言葉が出て来ない。
 身体が、自由にならない。気を抜けばまた白く閉ざされそうだ。
「な……にして……る」
 触手を滑らせる度、きゅ、と僅かな音。くもりが拭われてはいくが、新しい湯気がまた跡を覆う。繰り返しにみえたが、更に別の触手が撫でると表面は鮮明なままだった。
「こうしてリンスとかトリートメントとか薄くのばすとくもらないんだって」
「そんなこと……」
 聞いてない、ユイはそろそろと視界を移動させた。正面から目に入れる勇気はない。ルナが撫でた鏡は、まだくもりが消えただけだった。塗られたトリートメントが映ったものを歪めている。少し安心する。
 こんな姿をみるなんて御免だ。
 それでも肌色は判別出来てしまうので、焦点は合わせない。冗談じゃない。
 上手く力の入らない手で、ルナを押し退けようとする。
「きゃ」
 鏡を磨く事に気をとられていたルナは、椅子から落ちるというか崩れた。手に取ったばかりのシャワーヘッドも離してしまう。
 堅い音をたてて、シャワーが床とぶつかる。
「もうちょっとだから、おとなしくしてて」
 水の勢いでじりじり移動するシャワーが、肩口で止まる。ルナの身体から滑り落ちて、ユイは床に転がったままだ。まだ、素早く起き上がる程の力は戻ってない。ルナがシャワーを拾い上げるのをただ眺める。かなり悔しい。
「やめろよ……」
 悪趣味悪趣味悪趣味この変態、頭の中は罵声で一杯だが、身体がついて来ない。
 いつもくもったままにしておくのに、何でわざわざ、見ようとするんだ。
 見せようとか。
「……め」
 何とか起き上がったユイを、ルナは触手で引き倒した。
「んっ……」
「おとなしくしててね」
 片手で口を塞いで、首筋を舐める。感じやすい肌がたちまち染まる。
 シャワーは触手に握らせて、空いた手で脚の内側を撫でる。
「こういうの、好きでしょ」
 さっき柔らかくしたので、簡単に分け入れる。
「っ……う」
 同時に、口の中にも指が滑り込む。
「ん……」
 好きじゃない。
 ルナを睨むユイの目はそう言っているが、脚はやんわり触手に絡み付いている。手は支えが欲しくて握り締めている。震える指の間の触手は痛かった。でもそれが快感だった。
 落とされまいとするトコロを崩す。こんなゾクゾクする事はない。
 もっと苛めたい。はやく落としたい。


「……っ!」
 ユイは内側を這い回る感触にもがいた。
 優しく擦られて、もう全部捨ててしまおうかと思う。無様に涎を垂らして開きかけた身体なんか見たくもない。ぎゅっと目を閉じて耐える。
「あふ……」
 ドロドロの唇を拭われる。その触手には細かい綿毛のようなものがあった。頬を優しく撫でた後、ユイの目の前で揺れる。見ろってことか。薄目を開けて、即座に閉じる。こんなものみてたらおかしくなる。ユイは首を振った。ふわふわとしているが、羽や獣の毛とは違う。空気に動かされている訳でなくて、自分で蠢いている。柔らかで淫らな繊毛が、誘うように揺れている。根元からにじむ粘液が、更にいかがわしくユイの正気を揺さぶる。
 落ちてたまるか。
 毎回翻弄されてばかりはいられない。普通に触ってくれればソレでいいのに、どうしてこうも手を変え品──今日はアイテムじゃないけど──を変え、メタメタにしようとするんだ。腹を立てれば気が紛れるかと思ったが無駄だった。
 腹の中は熱く湧く。
「ふ、ぅ……」
 柔らかく膨らんで、口の中を犯す。
 繊毛のある触手に絡められ撫でられて、心も身体も昇っていく。
 もういい。
「う゛……」
 緩めた腰の分だけ、触手が潜り込む。
 固く閉じていた瞳を薄く開けて、ユイが無防備に喉を晒した。巻き付いた触手が滑ると、心地良さげにまつげが揺れた。快感を貪ろうと舌が触手を撫でる。
「……ぁ……っ……!?」
 悩ましい滴をこぼして、触手が抜ける。
 火照った顔のユイが、ルナを見上げる。思わず怪訝な顔をしてしまう。駄目だ。嵌ったらだめだ。遅い、遅い。
 ルナは綺麗な顔に熱をにじませて、とても優しく笑った。さくらんぼみたいな瞳も、濡れた髪も唇も、恐ろしく色気があった。
 柔らかな笑みに抉られる。
 またかなわないかも。
 ユイは暖かな湯が流れる床に這ったまま、ぼんやり絶望した。それは子供っぽく無邪気な恋人への、甘い感情だ。可愛いルナの持ってる別の顔だ。
 酷いけど甘い。


 ルナはその後も落ちそうなトコロで止め、昇りつめそうなトコロで引き抜いた。
 もうどうなりたいのかわからないユイに、ルナは優しく囁いた。
「ね、こっちみて」
 ──見たら、いかせてあげる。
 耳に触れる吐息が熱くて怖かった。


 わざと床を滑らせて、身体を引っ張って、膝に座らせる。押し殺した悲鳴が、締める度に悩ましい。それでもユイは泣きそうな顔で目を閉じたままだ。
 余分なトリートメントを流し終わった鏡は、くっきりといかがわしげな光景を映している。背丈のあるルナに抱えられるとユイの身体は酷く小さく、壊れそうにみえた。
「嫌だ……」
「何で?」
 ルナは少し火照った顔を傾けた。
「多分、すごく気持ち良いと思うよ」
 膝の上にあった脚を持ち上げる。
 手なら足りなくなるけれど、これなら。伸ばした触手で割り広げる。儚い抵抗を感じた。だけどソレはすぐに解けて弛緩する。ルナの手が包んで、押し上げていく。
「……っ、駄目……」
 優しい闇へ。
「だめなの?」
 一度手を離して、硬く上を向くトコロに沿って指を這わせる。触れているのかいないのか、本当は僅かに触れながら、何度もなぞる。
「ぅ、く」
 歯を食いしばるのをみて、耳たぶに噛みつく。小さなピアスの感触。似合いの清楚な色だ。半透明の、白く丸い石。陽の中なら優しげな笑みを思い出すそんな形状も、今は別のものを誘う。
 今ルナの指を伝う無色の液体は、自分の触手が紡いだものじゃない。コレを、可愛いピアスと同じにしたい。尽きるまで。
「あ゛、う」
 小さな呻きが聞こえる。傷を付けるつもりはないけれど、とうに甘噛みのLvを越えている。
 震える身体を締め付けて、もう一方の手を胸に伸ばす。生き物の柔らかさだけど、しっかりとした感触があった。
「かわいい色」
 ルナは鏡の中に微笑むと、整って艶のある爪を立てた。
「っ……い……た」
 ユイは思わず、涙ぐんだ目を開けてしまう。痛みに、忘れそうになった。見たら、ダメなものがあるのに。
「……!」
 悲鳴を飲み込んだ喉が、ひくりと動く。そこを逃がさないように、触手を伸ばす。
 目を閉じようとする所を締め付ける。
「っく……」
 戒めの下で、華奢な手が届かないものを掴もうとした。振り解こうと震える指先には何もない。
 ルナはユイの呼吸を半ば封じながら、触り心地に酔った。うなじから梳いた内側の髪はとても柔らかだった。耳の後ろ、顎のライン、それから喉。滑らかだけど、こうして辿ると凹凸があるのが判る。ルナにとっては甘く、素敵なナニカが混ざった可愛い人でも、男である証だ。
 そっと緩めると、ユイは壊れそうに息をして、ほんの少し、悲しげな顔をゆがめた。
「苦し……」


 流れるシャワーが巻き上げる湯気も、自分を抱き締めてる身体も、こんなに暖かいのに、持ち主の瞳は冷たかった。今のルナは熱くて熱くて、冷たい。縛られる窮屈さも、感じやすいトコロに牙を立てる痛みも、冷たくて意地悪だと思った。おまけに、息まで自由にさせてくれない。絞められて窒息したくらいでは、簡単に蘇生してしまう自分の生命力が恨めしくなった。そんなワケないと思うけれど、今日は、殺されるかもしれないとか。嘘。痛くしてじゃないけど、いつだって、殺されそうだと思ってる。
 死んじゃいそうだとか。
 今もこれからそうされる。
 息ができないのは、目を閉じてるから。


「苦しいんだ……」
 ルナは優しく言った。
 時折緩めて、ほんの少し息継ぎをさせてくれる。でもそんなの、文字どおり真綿で首を絞めるような。
「目、開けたら解いてあげる」
 涙みたいに零れるしずくを広げるように握り込む。
「恥ずかしいトコロみて、きもちよくなろ」
 激しく、上下に動かされる。
 もう、痛いのか気持ち良いのか分からない。胸は壊れそうだし、耳も。話していない時はルナの歯にきつく噛まれている。
 苦しい。
「さっきすごく熱くなった」
 弾んだ息がかかる。唇が離れても耳が疼いた。
 慌てて閉じたけど、もう焼きついた。開けてしまった目に映ったアレ。手足が強張ってさっと肌が染まる。
「いま思い出したでしょ」
 隠せない身体を撫でて、ルナが嬉しそうに告げる。
 目、あけて。
 耳の中に舌が入ってきた。全部熱い。
 絡み付いたルナの手が、きもちいい。
「やらしいね」
 ルナが嬉しげに囁いた。


 僅かに開いた口から唾液が伝う。噛み締めたせいか、少し血が混ざっている。いつ切ったかなんて、ユイにはわからない。
 胸も、耳も痛かったから分からなかった。苛まれて澱んだ瞳に、濡れたまつげ。握られてぐちゃぐちゃなトコロはもっと酷い。跡が残るくらい触手に縛られて、割られた脚の間。自分では思うように動かせなくて、されるがままに震えている。
 そんなに何もかも零れるくらい苦しいのか。苦しい。恥ずかしいコトされて泣きたい。ていうかもう泣いてる。
「すごく……硬くなってる」
 うっとりと甘いルナの声。淫らな指に好きにされてる。
 いつもされてる。好きにされてる。
「自分のえっちな姿、感じるんだ」
 ルナの指が優しくなった。粘液を絡ませて、指の腹が胸を撫でる。
「されてるトコ、みるのきもちいいよね」
 ルナの好きに。
 ユイは少しずつ壊れていく。
 誰の好きに。自分の。
 ──俺も、好き。
 きもちいい。
 ユイはぐったり力を抜いて身体を開いた。触手に体重が掛かってしなる。
 ルナは噛み付いた跡を舐めながら、腕を吊してやった。そっと背中を押すと、弛緩し切った身体が揺れた。腰回りだけが違う動きをする。
 絡めた指を追って、震えている。
 熱くて、淫らな器官。
「かわいいよ」
 ルナは脚に絡めた触手の一本で、蕩けた入り口を撫でた。
 びくびく、とユイの身体が跳ねた。


 触手を解いて、膝に乗せる。力の入らない身体は、もう強引に開かせる必要がない。
「……は……ぁ……」
 緩く手を動かすと、残った精液がぴゅく、とこぼれた。火照った顔のまま、眠りかけの猫のように身体をもたせてくる。手の中で放ってしまうと、大抵こんな風にしどけなくなるが今日は殊更だ。
 鏡にかかった飛沫を眺めて、ルナは自分も溶けていく。
 鏡の前で犯されちゃう、そんなシチュエーションが刺激になりすぎたんだ。そう思うとありもしない心臓が震えた。なんてエッチでかわいいんだろう。おかしくなるって、今日は自分が言ってしまいたい。
「すごかったね。ぼくもおかしくなっちゃいそう」
「あ……」
 脇腹を触手でつついてやる。傷だらけだけど、柔らかで甘い肌。自分が這わせた触手の跡が、くっきり残っている。ソレをみて、ああ、ぼくも壊れてるなと思う。
「汚れちゃったね」
 冷たくなった滴を掬い取る。唇に押し込んで舐めさせる。最初は逃げようとした舌が、次第に甘く絡んでくる。指を吸わせたまま、背中を押す。姿勢を変えさせながら盗みみた脚の間は、再び硬くなりつつあった。
「ほら、こっちも、綺麗にして」
「……」
 言われたことの残酷さにユイは呆然とルナをみたが、その後のろのろと這い進み、床と壁の境目に舌を這わせた。流れるシャワーの音に混ざって、微かに音が届く。飛沫を舐め取って淫らに響く。少しずつ身体を起こして、舌が壁をなぞる。崩れ落ちそうになりながら、白い滴を吸う。
 鏡に唇が触れると、向こう側から澱んだ快感に溶けた瞳が見えた。疼く熱さを感じながら、ルナはその光景に魅入られる。同じ顔同士が口付けているような錯覚も背徳感を煽る。
 プレートの紐を指で引っ掛けて言う。
「首輪、用意しとけば良かったね」
 ルナはうっとりと微笑んだ。
「何か、全然進まないね」
 ユイの身体に覆い被さる。
「舌、冷たくて気持ち良いんでしょ」


 腰を捕まえて突き入れる。
 続けられなくなって、舌が鏡の表面を滑る。溢れた唾液が流れる湯に溶ける。
「ルナ……」
「なあに」
 [なか]が細かく痙攣するように締まる。熱くなった先を、柔らかな襞に包まれて吸い付かれて、ルナはかりそめの脳が溶ける気がした。目の前が霞む。もうなにもかんがえられない。
「あ……ん、なあに」
「……っ……」
 薄い爪が、鏡を引っ掻く。
 もうダメなんだってわかる。
「……ぁ……ぼくも」
 鏡の中の瞳が、消えそうな色でルナをみた。ルナはうっとりと微笑んだ。赤くなった耳たぶを優しく舐める。
「おそうじ、しなきゃ、ダメだよ」
 熱い息を絡ませながら囁いた。ユイが懸命に舌を這わせたところで腰を引いてぶつける。一際強く擦りつけて、花が開くように触手を蠢かせる。微細に分裂した先端が、襞の総てと絡み合い奥を喰い尽くす。
 ユイは手の平を鏡にべったりと付け、滑り落ちた。
 瞳を大きく見開いたまま、ひくん、ひくん、と失神した身体を震わせる。
「ぼくも……も、ダメ」
 ユイの身体の中にあるものもないものも、ルナは伸ばした触手の全てから精を吐き出して、重なって崩れた。


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