■hao-chi 04

「ねえ駐在さん」
「……なんだよ」
「興奮してる?」
「くだらんことをいうな」
「だって顔赤いよ」
「酒のんだからだ」
 あんな強い酒を呑めば、誰だって酔う筈だ。もっと人間寄りだった頃の自分なら、きっとつぶれている。
「自分の血じゃ、酔わないんでしょ」


 特別な夜の特別な蜂蜜酒。魔物も蕩かす甘いもの。


 ぼくの駐在さん、可愛い駐在さん。すきなんだユイのこと。大好きで、泣かせたくない。だから恐い目に、遭ってほしくない。
 でも、駄目なんだ。駐在さんは駐在さんだから。
 風が切れそうに冷たくても、お花みたいに温室に避難させてあげられない。撫で撫でするだけじゃダメなんだ。いっそ閉じ込めてそうしたいけど。傷ついてほしくないから。
 駐在さんは、こわい仕事をしてる。すごく立派。ぼくの憧れで、その場所はとても遠い。影の世界の大勢が、おそれてる。とても賢くて、強いからだ。
 ぼくの形のない体で包むとあんなに細い肩なのに、駐在さんはみんなを守る。
 場所が外≠セったとしても望む人の安寧を奪ったら、暮らしを壊したら、絶対に逃さない。やりすぎだって、よくおこられてるみたい。
 仕事の話は、ぼくにはあまりしない。
 軽々しくしゃべれる内容じゃないし、仕方ないけど、きっとぼくにこわい思いをさせたくないからだ。
 もっと甘えてくれても、いいのにね。
 ちょっぴり寂しい。
 ぼくの中の邪な部分も愚痴を言ってる。そうだよね。悪い子のぼくに、賛同しちゃう。
 だって、可愛いんだ。困った顔とか、照れた顔とか、ぼくにもたれるときの顔とか。離したくないんだ。
 溶けていくときの鼓動も、奪いたいくらい好き。ぼくに身体あずける呼吸も、声も。
 ダメなんだ。抑えられない。
 きえそうな声を想うと、抑えられないよ。


 魔法のお酒の試飲会? は盛況におわった。
 この雰囲気を一生わすれない、なんてふいんき缶をつくっている人までいた。
 ぼくも、あんなおいしいお酒は初めてで、すごく楽しかった。薬草の神様だっていうすごい妖怪のオーナーさんも、おもしろくて優しいおじいちゃんだった。
 疲れてるだろうからって、撤収はしなくていいよなんて、ほら、みんないい人。
 駐在さんを連れて、廊下に消える。ひんやりした長い廊下は、静かな寝室に続いている。だけどぼくの身体は甘くて熱い。なんかまだわくわくした気持ちが残ってる。一生懸命考えてよかった。あんなに夢中になるなんて。
 ぼくの大事な人が好かれてるのはすごく嬉しい。
 駐在さんはしおしおな顔で騒ぐみんなを警戒しながら眺めてた。そいういのが、イケナイのにね。
 可愛い。


「やっぱりエッチしちゃおっかな」
「あっちいけ」
 駐在さんはその言葉に呆れて、それからぼくののばした触手をしっし、と追い払った。
「えーだってかわいいんだもーん」
「お前ね」
 じゃれ付いてくるぼくをうるさそうに張りつけたまま、駐在さんはブーツの紐を緩め始めた。
「着替えたらもったいなーい」
「……さっき女装とかメイドとか興味ないって言ったトコだろ」
「いいました」
 確かに、ぼくは駐在さんに女の子になって欲しいとか、お嫁さんになって欲しいとか、思ってない。あ、でもお嫁さんって、ああいう……服装もみてみたい。
「何嬉しそうな顔してるんだ、戻って来い」
「ホンモノみたらもどれなくなっちゃった」
 ムカついて無防備になってた隙をついて、ぼくはユイを押し倒した。
「ドレスとかも……きっとおいしいんだろうな……」
 ──レンタルじゃできないから……買ったら、いくらくらいするのかな……白くて綺麗なの、破きたい。
「おいしいって何だよ、しばくぞ」
 こんな日にわくわく(不謹慎)するのは、あなただけじゃないんですよ(魔物的には正統派)。
 ぼくの目は、多分、とても甘ったるくてあつい、魔物の色になってる。
 視線だけで、深くとらえるくらい、できそうだって、思い上がってもいい。
「……」
 ぼくは、最初にベッドに押し付けた姿勢のまま、ぼやくユイを見つめ続けた。
「着替えてからじゃ、ダメなのか?」
 ユイはぼくと目が合った瞬間、横を向いて、無意味なことを呟いた。もう怒ってないのが、この人を初めてみた人がわかるくらい、しおれた感じ。
「ダメだよ」
 でも、上った血が冷たくなったっていうより、何か違う色に、熱く変わった。
 解けそうなリボンみたいなこの人が、たまらなく愛しい。


 綻びをひらくように、舌を絡めて抱きしめる。
 しらないフリしても、身体が熱いのは隠せない。


「いつもと違う自分で恋人がドッキリみたいなの」
 今日読んだ雑誌にものってたし、いつも、色んな形で、人間の記事には踊ってる。
 おしゃれはそれだけの為にするものじゃないけど、恋をお題に購買意欲を煽るのは、それだけ需要があるからだ。
「だからぼくも駐在さんの新たな魅力に恋心がくすぐられたわけ」
「おまえはすぐに変な番組とか本とかの影響をうけすぎなんじゃ」
 ああもうこんなラブシーンなのにへらず口。
 でもソレってまだ、自分のペースを保つ余裕があるからだ。
 恥ずかしいからやだってキレてちょっと泣きそうなトコまで押すのもイイんだけど……それじゃいつものぼく。
 きょうは、そこまで待てないモードかな。
 ごめんね。
 どうするか、もう決めちゃった。
 ぼくはぼくにくどくどお説教する唇にそっと触れるだけのキスをして、にこりと笑った。
 優しく手を握って、髪の間から角が突き出た耳の位置に息を吹きかけると、ユイは火照った顔を背けた。ぼくの髪に届く吐息は、弱くて、だけど中身はなんなのかはっきりわかる。儚くてとても。
 白い肌が赤く染まるのを思い浮かべながら、ぼくは無造作な首筋に噛み付いた。
 ヴァンパイアじゃないから、牙はたてられないけど、隙をつくるとか……戦慄させるには十分。あと、えっちな身体がぞくりと反応するトコロも、ぼくの欲しい甘さには十分。
 もっと、欲しい。きょうは奪うくらい。
 乱暴に肩口をシーツに押し付けて、人間の体にはない、弱いトコロを掴んだ。


「尻尾……さわる……とか、ない」
「いいのー」
「よくない」
 離せ、とユイは弱々しく振り返った。
 地面に臥していては、どうもいかがわしい。
 何かいい眺めだ。
 ルナはほくそ笑んだ。
「力はいらない」
 だから、この人はダメだっていうけど、ぼくは嬉しい。
 だって好きなことできるし。
 好きなようにできるし。


「お腹きもちいい?」
「さわんな」
 ばか、と怒る仕草も、囁くようだ。
 尻尾に絡めた触手を、緩めたり締めたりしながら、ぼくは別の触手をスカートの下から入れた。
 残念な男物のぱんつはスルーして、ぺたんこのお腹。白くてつるつるで大好き。
 触ってあげると、ぼくを罵りながら駐在さんの身体はやんわりひらいてきた。
 立てた膝から力が抜けて、手は、だんだん握れなくなる。
 息も、あったかいからあつく、エッチで甘い。
 そんな風に、ユイがかわっていく。


 耳元に触れる微かな喘ぎが心地良い。ソレを楽しみながら、無意味な抵抗を剥がす。ぼくがベッドの隅に伸ばした手にももう気付けない。やわらかで、あったかな身体とは対照的な、冷たく硬い感触。細く長いけれど、触手とも違う。
 一息で絞められそうな首に触れる。そこからは素早く。
 小さな金気の音で、首輪を固定。
「なっ……なにする」
 鎖を引っ張ってキスして、にこりと笑ってぼくは告げる。
「今日はペットにしちゃう」
「ちょ、ばかなこというな」
 数時間前のチョット余裕のある困り顔と違う、本気で困った顔。可愛い可愛い。
 泣かせたい。
 一気にワンピースを肌蹴て、背中から抱きしめて撫でた。窮屈そうに畳んだ翼にも歯を立てる。
 気持ち良さそうな喘ぎを、ぼくは残酷に味わった。
「すごい感じ方。このまま触ってるだけで、狂っちゃうんじゃない?」
 その言い方に、ユイはびくっと震えて、薄く涙をにじませた。
「……覚えてろ……あとで、覚えてろ」
 ぼくはぎゅっと鎖を短く持って引いた。
「あう」
「うん。えっちなとこ、全部みててあげる」
 少し濡れた下着を剥がして、出そうなトコロを見つめる。
「今日は、満月だもんね」
 大きく、大きく潮が満ちる季節は、とても引かれやすい。
 月に引かれて壊れそうなんだ。
「折角、いつもと違う格好してるんだし、今日は、いつもとちがうことしよ」
 背中と、尻尾と、硬く尖った胸を撫でる。
「……っ」
 ふる、と震えて、白くとろりと快感が流れた。
 おわるまで、ぼくはじっとソレをみてた。
「ぼく、まださわってない」
 冷たく、熱く笑って、ぼくはまた鎖を引いた。
「勝手によくなって、勝手にいっちゃったね」
 ぼくの視線に、ユイはぐったりと弛緩した瞳を絡ませた。
 顔は悔しそうだけど、いまので、色んな張り詰めてたもの、剥がれちゃったみたい。気だるげに息をあげて、ぼくをみてる。でも、焦点がぼやけていく。力なく開いたままの脚の奥が、白い飛沫をまとったまま、また、かたくなろうとしてる。
「もう、いろんなコトされるの、考えちゃった?」
 ぼくは粘液で濡れた触手でユイのあごを持ち上げる。別の触手が右脚を撫でて、太腿をたどり、最後に触りたい場所は避けて蠢く。たっぷりにじませた粘液が触手につられて流れる。脚と腰を通って、小さなお腹を伝う。透明でとろんとしたソレが、白い精をとかして落ちて、お尻の下のペチコートを更に濡らす。ぼくは余さずそれをじっとみて、触手は可愛いお尻と脚の間でゆれて、ふにふにと出てるトコロとへこんでるトコロの間を押す。
「あ、や」
 違う、ユイは必死に首を振った。
「身体が……」
「えっちになっちゃってるんでしょ」
「……」
 酷いホントのコトを言うぼくをみて、黙る。


 ぼくは、犯したいっていわなかった。まあ、あの時はまだこんな風に虐めたくなってなかったしね。
 でもね。魔物さんたちは、ユイをたべたいっておもってた。
 あの人達は、駐在さんのファンなんだ。食欲と好意が混ざった、多分人間には忌まわしいとしか感じない感情を抱いてる。家族でも恋人でもなくて、かわいい。抱きたい。啜りたいとおもってる。特別な精気をもってるから。
 それと、多分あのがさつにみえてナイーブな、心の動きが好きなんだ。感じやすい身体の快感とか、恥じらいとか、深刻でない恐怖とか、まだ半分はタマシイが人間のこの人の感情は、多分とてもおいしい。ぼくはまだ感情までは細かに啜れないからしらないけれど、甘美な糧だという。
 ぼくの推理では──筆頭的な存在の天井さんがああだから特に──駐在さんと深いセックスで繋がってるひとはあまりいない。こういう場に出てこない人にはもうちょっといるかもしれないけど。
 さわりたいけどさわれない。時々ちょっとだけこわがらせちゃおう。ちょっとだけかじっちゃおう。みたいな。かわいい感情で引き寄せられてる。きっと似たもの同士。似たもの同士だから、きっと、いい人。それはさておき。
 そんな感じだから、殺し合ってまで奪いたいと思ってない。くれるなら、欲しいかも。みたいな。
 だけど人間と違って、感情を味わえるから、甘さはちゃんとしってる。撫でたり触ったりとかは、してると思うし。
 直接啜ればもっといいって、ホントはしってる。
 それはぼくが前に――悲しいコトだけど、すごくドロドロな時期ががあった――あの人を苛んで抽出してつくった感覚チップのせいかも。えっちなふいんき缶とか、使用済みのアイテム――さすがに洗ってからだけど――とか売ったりあげたりしたから、多分、絶対、何割かは影響が。
 たべたい、おいしそうって、魔物の眼があつく輝いている。
 たべたいたべたいって、そんな視線がぼくの触手みたいに絡みつく。衣装の下の肌を、あるいは肌の内側を巡る血潮を、柔らかな内臓を。みるだけで撫で回し、心の中で貪る。触れられてもいないのに、魔の気配に犯される。あつい気持ちに、いかがわしい憧れに、挿し貫かれて揺すられる。
 抑えた気持ちをくすぐられ、突き上げられて、酔わされていく。
 可愛いってからかいにも、耳をたたんだネコみたいに伏し目で困った顔するだけ。
「なんだよチョット、沸きスギじゃないか? 服一つでこんな」
 毒づこうにも、足りない。ほかのものが多すぎるんだ。真夜中の光、酒気の甘さ、狂わせるものが溢れてる。滅茶苦茶にぶつけられて、圧されて注がれる。
 お酒を注いでるのは駐在さんなのに、まるで尽きない妄想に引きずられて倒れそう。甘やかに甘やかに酔わされていくのはこの人。
 可愛さを愛でる視線に、具体的な味≠夢想しての視線に、染まっていく。
 桜みたいに火照った淡い肌は、恥じらいからくるものばかりじゃない。
 駐在さんっていう存在の奥に隠してる、殻の内側から沸き上がる、この人自身の熱だ。魔物だから。
 みんなに欲しがられる聖なる因子を持ってても、彼だって欲しいんだ。こんな夜には精気が。妖の宴に酔えるんだ。


 みんな人が悪いんだから、ぼくもお酒で火照った頬を触りながらコッソリ苦笑してた。
 なんて、人をこわがらせたり、おどかしたり、こまらせたりするのが、妖怪だったり魔物だったり、そういう生き物なんだ。いろんな感情が、糧になる。精気と違って嗜好品になっちゃうこともあるけれどだからこそたべたいんだ。
 普段は叶わない相手なら尚更、いつもなら噛みつかれる相手なら尚更。こんなチャンスもうないかも。


「あ……」
 ぼくの目を避けるように、ユイは顔を背けて目をつぶってしまった。まだ余力はありそうなのに、抵抗することもわすれてる。両手をシーツに投げ出して、ぼくをみないように、ぼくがもってるなにか熱いものを感じないように、してる。
 今日のユイは、視線をこわがってる。まあ、あれだけハァハァ愛でられたら、さすがの駐在さんもダメなのかも。それでも、みんなの前じゃ、辛うじて、壊れずにいて、ぼくの前でも、しばらくは堪えてたから。一度解けたら簡単に結べないんだ。もう、可愛いな。
 だからぼくが結んであげる。
 急に動くと危ないから、手足に触手を巻き付けて、それから、ぼくはリボンを取り出した。今日はどんなのか見て欲しかったけど、目を閉じてる顔も可愛いからこのままで。括ってあげた。
「……っ……」
 両手が持ち上がって、触手が強く引かれるので、放してあげた。袖口からのぞく手首に、薄く痕がついてる。ぼくはそれをみて益々あつくなる。どんなことしようか。背中をそっとさすって笑う。ぼくの背中にも、手の平の熱さ。ユイが自由になった腕で、ぼくに抱きついたからだ。
 いつもしてるコト、なんだけど。だってコレはいいんだ。括るともっと可愛くなるんだもん。出さなくてもいっちゃうえっちな身体なのに、出せなくなると苦しがる。そういうトコロはやっぱり、男なんだなって思う。今は、男の娘ってカンジだけど。まあ、見た目だけ。
 抱きついてきたので、嬉しくなって首筋を辿る。うなじに舌を這わせると、ユイは慌ててぼくから離れようとした。
 どうして? 自分からくっ付いてきたのに。
 ぼくは笑って、細い腰を捕まえる。
「……!」
 閉じようとする脚の間に屈んで、口付ける。泣きそうな顔してるのわかるよ。可愛い。
「……ひあっ」
 リボンの上から、舌を絡めて撫でる。ぼくの頭を懸命に押すけれど、とても弱々しくて儚い。細くて清楚な身体なのに、そこはとても淫らな音がして、ぼくの唾液や触手の粘液だけじゃないものがにじみ出て、押し上げられていく。
 どんなに昇っても、途中でつかえるのにね。
「ん……」
 出せないのが辛いのか、ユイは酷く息を乱してぼくを見つめた。涙がこぼれて、それがぼくを責めてるみたいにみえる。でも、そういうのはダメだ。ぼくの駐在さんが泣いちゃう。そんな可愛い仕草をされると、抑えられない。一度に数が増えた触手をみて、絶望的な目をするこのひとは、ぼくのものだ。
 倒錯的な光景だ。ぼくはいつでもユイの事、男だって思ってるのに、なんか、こういうのみてると、おかしくなりそう。柔らかくて白い肌を女の子の服が覆ってて、黒い髪に映えるホワイトブリムが揺れてて、ぺたんこだけど薄く色づいた胸。掴めそうな腰も、ひらいた脚も、細くて綺麗だった。でも、ぼくが括ったリボンは透明なしずくに濡れて、震えてる。触るとすごく硬くて、あつかった。指を離しても倒れなくて、苦しがってる。女の子みたいなのに。違うんだ。


 かしゃん、とすこし重い音がする。
「ぅ……あ、やだ」
 もう、なにするんだ、とも抗議しない。
 ちょっと痛いかな。手枷で括った腕が窮屈そうだ。
「でも、スキだよね、縛られるの」
「……っ」
 ユイは自由にならない肩を震わせて顔を背けた。
「きらい?」
「! いや、嫌だ」
 濡れたリボンをやさしく撫でる。
「……っ、もうだめ」
「だめじゃないでしょ」
 ぎゅっと握ると、あつく、びくんと震えた。
 枷の鎖が軋んで引っ張られる。首輪の金具も涼しい音で揺れた。
「ね、気持ちいい」
 反対の手で胸に触れると、達したばかりの身体がまた震えた。
「こうしててもいっちゃうなんて、やっぱり括るのがいいんだ」
「やっ……も……やめて」
 細くしずくがにじむ溝に触れる。再び触手を蠢かせて、尻尾を絞めて擦り上げる。
「……っぁ、……!」
 虚ろな両目から涙がこぼれる。
「ひ……ぁ、……し……」
「死んじゃう?」
 手を離して、抱き締める。
 あったかくてきもちいい。
「大丈夫。心臓とまったら、生き返らせてあげる」


 今度は、触手を絡める。ぬるぬるしてるのは、粘液だけでなくて、もう壊れそうだから。
 ホントにしんじゃうかも。きもちよくて死んじゃうなんて、えっちな身体。スキだよ。
「……お願い……」
「なに?」
 小さな水音が耳の中を満たす。ぼくの悪魔じみた情欲も。
 でももっとほしいな。
「はなして……」
「離すだけでいいの? いいよ」
「!」
「だめなんだよね」
「もうやだ」
「こんなになって苦しいよね」
 ぼくはユイの頬を撫でた。
「どうして、こんな風になるの?」


 ぼくは膝の上の恋人を執拗に苛んだ。
 開放されかけたトコロを、軽く爪を立てて、動かして、触手で絞める。それから緩く撫でる。
「……からだ……おかしく……うあ」
「気絶しちゃだめだよ」
 ムリヤリ意識を引き戻すと、はあはあと息を上げる。
「……っ……おかしくなる……」
 たどたどしい口調が可愛かった。
「あ、やだ、……も……」
 ダメだって言って涙交じりの声が懇願する。
「今日は……そんな、さわったらだ……め……」
「どうして?」
「……満月だ……から」
「うん」
「だめ」
「うん」
「だめになる」
「いいよ」
 ダメになってもいいよ、なんて言ってみる。
「だめ」
「どうして?」
「やだ」
「嫌じゃないでしょ」
「こんなに、したら……あ……ぁ……」
 瞳孔が開きそうになる。
「きもちいい?」
 括られたままで激しく達してしまう。
「いや……おわらなくなる……」
「どうなるの?」
「……と……いっぱい」
「欲しくなるんだ」
 ぼくは朦朧とした顔をのぞきこんだ。
「いっぱい、おかしくなってね」


 おかしくなるって言ったのに、リボンに手をかけると、食い入るようにみつめてくる。
「どうしてほしいの?」
「それ、とって」
「じゃあ、ちゃんと言って」
「リボン……解いて」
「そっちじゃないよ」
 ぼくはリボンから手を離し、震える先を撫でた。
「ユイの身体、どうなっちゃうの?」
「したくて、欲しくなる」
「それって、えっちなコト? しちゃうよ。やらしいこといっぱい」
 いいの? ぼくは優しくわらった。
「いっぱいして欲しい?」
「ほしい、したい」


 ぼくがリボンを解くと、ユイはぼくの身体に解かれた先を擦りつけるようにして吐き出した。
「よかった?」
 えっちだったよ、とぼくは半開きの唇に指をいれた。
 唾液が溢れて舌が蕩けるように絡みつく。
 鎖をひいてみた。
 舌と一緒に瞳がとけていく。
「きもちいいいね、ペットになるの」
 涙と唾液がシーツに染み込んでいく。半裸の背中と腰の上で小さく震える翼と尻尾が、酷くいたいけだった。


「ねえ……駐在さん」
 ぼくは彼をワザとそう呼んだ。
「ぅ……あっ」
 ぎし、と梁が音をたてる。この豪奢な棟が壊れるハズないから、演出。だってえっちなコトいっぱいする為の閨だから。交わすものたちを昂める振る舞いをする。もしかしたら、ほの暗い愛を司る命が、芽生えかけているのかも。
 幾夜もこうして、淫らな空気を包んでいれば、そうなるかも。なんて、かんがえた。
 でも、ぼくって子供っぽいな、と反省する。お家が生きてたらなんて、また、笑われそう。生きた建物があるのはホントウなんだけど。
「いたい?」
「……」
 ユイは虚ろな目で僕を見上げた。かえってきてないかんじだ。弱々しく身じろぎする度に手枷と更にその上から括り付けた布が軋んだ。
 梁の音もそう。聞いて、ぼくはどきどきした。もっと犯したいって。
「駐在さん」
 あなたも、何をされるかってもう、心臓がこわれそうなんだよね。
 ぼくがしてあげる。いっぱい。わからなくなるくらい。死んじゃうくらい。


 梁に通した布に絡めた腕はかなり窮屈で、多分少し痛いと思う。だけどユイはぼくを咎めなかった。
 嫌がりそうな呼び方をしても、とろんと瞳を動かすだけだ。でも、ソレでいいと思ってるワケじゃない。
 強引に責め立てられて、いっぱい出したから、すぐには力がはいらないんだ。心もまだ、とろけたままなんだ。だから反応が小さいだけ。
 ぼくには、わかる。きもちよくなりたくて、それがこわいんだ。
 可愛い。
「足、開いて」
 力なく折りたたまれた膝を撫でる。すべすべでいつもよりあたたかくて、うれしくなった。優しく笑うぼくを、ユイは猫みたいな仕草で見上げた。ミルクが欲しいって鳴いてるみたいな顔だ。
 でも、あげない。
「できるよね」
 ぼくの笑顔をみているのか、もうソレも曖昧なのか、魔物の色を帯びた瞳が消えそうにひらいて閉じる。火照った肌を、唾液が伝う。
「いい子……だね」
 もう壊してしまおうかと思った。
 そろそろと開いた脚の間には、白い飛沫。
 されたくてされたくて、ひとりでイっちゃった。出したばかりなのに、透明なしずくを伝わせて、ぼくを誘う。
 いれたくなっちゃった。でもだめ。
 もっとイイコト、してから。
「はいコレ」
 ぼくはスカートの端を差し出し、濡れた唇に触れた。
「離しちゃだめだよ」
 おとなしく裾を咥えたユイがかわいくて、傷付けたくて、ぼくは胸がきゅんとした。


「こんなのあった」
 小さなガラスの器には、薄桃色の蜜みたいなものが入ってる。香りもやさしい桃の味がした。
「せっかくだから、使っちゃう」
 たまには、ぼくの粘液じゃないものもいいかも。それに、コレは多分、普通じゃ手には入らないような霊薬だ。
「痛みを和らげて、快感を高める、えと……それから、肌が若返って綺麗になるんだって。精気をうまく廻すのかな?」
 いつもなら微妙な顔で呆れるか逃げるところだけど、ちがう。ユイは脅えたような、それでいてとろけそうな目でぼくをみた。


「ん……く……」
 くぐもった呻きが部屋を満たす。ぼくにいわれたとおり、スカートの裾を咥えたまま、放さないで堪えてる。
「……ぅ……」
 閉じた目の端から涙がにじんで、震えるまつげを濡らす。
 手枷が軋む音と、対照的な柔らかでぬるい音に支配されて、腰が揺れる。
 いいところにはあまり触れずに蜜を行き渡らせる。それでも、効果が現れはじめると、達してしまった。
 もっと奥にほしいのはしってる。わかってて、指を抜く。弱々しく翼が震え、腰が浮き上がって、梁が軋む。
「ぎゅってしてないとだめだよ。ほら、こぼれちゃう」
 言いながら、ごく浅く抜き挿しを繰り返し、淫らな粘膜をいじめる。
 拘束してはいないので閉じることも出来る筈の脚を、ぐったりと、いっぱいまで開いてしまう。
 最後に一瞬だけ根元まで指を埋めると咥えた裾を落としそうになった。
「はい、おしまい」
 露わになった太腿を撫でて、ぼくはユイのおでこにキスをした。
「もっといっぱいあそんでから、  してあげる」
 ぼくが囁いた言葉に、ひくんと肩が震え、スカートの裾を放してしまって、ユイは気を失った。リボンの付いた尻尾がぱたんと倒れる。
 かわいいなもう。ぼくはえっちな身体をそっと抱き締めた。


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