■party-night 06
外には細い三日月がかかってた。3日目じゃないかも。何日だっけ。ぼくはぼんやり考えながらカーテンを締めた。泣きそうに閉じた瞳みたいな月がみえなくなる。なんにもすることがなくなって、布団に入る。頭ってないけど、適当な部分を枕にのせる。
駐在さんいないし、友達との約束もないし、明日何しようかなって考えながら電気を消す。そんなの消したってみえなくならないけど。魔物は大体そう。懐中電灯で洋館をサマヨウお化けとかいないし。星明かりや、少しの隙間――例えばカーテンの上とか――から漏れる人間の作った明かりでも、物の形がはっきりわかる。色は灰色がかっててわかりにくいかも。光が全くない暗闇だと真っ暗だって感じるけど、あんまり行ったことはない。それにぼくに本当の意味で目はないし、みえないなら例えば温度とか、体の表面に届く他のもので様子を測ればいい。つまり普段は光を感じ取って、他の生き物が目で見ているような感覚を得ている気になってるってコト。
とかって難しく考えると眠くなってきた。電気も消したし、ねよう。最初から点けなければ忘れないんだけど、ソレはダメ。
暗くなったら明かりを点ける。
忘れるのは駄目なのだ。最初お師匠さまからもいっぱい言われたし、お姉ちゃんからの手紙にもいつも書いてある。
夜中暗がりで暮らしてるなんて、そこにあやしい奴がいるって宣言してるようなもんだって駐在さんも言ってた。
人間の街で住むなら、あの部屋の人は変だって思われないようにしないといけない。ヒソヒソいわれたり、交番のおまわりさんを呼ばれたりしちゃうかも。最悪、やってもいないことやったっていわれたり。人間っておかしいことはお化けのせいだって思ってるみたいだし。
そういうふうに考えると便利なのかな。
ぼくにはよくわからないけど、多分そう。隣のおばちゃんの意地悪だって思うより、触れない見えないお化けの仕業の方がいいんだ。
確かに祟りとかあるし、気分を損ねるとなかなか鎮まってくれない大変な人達もいるけどね。
でも悪いことしなきゃ、滅多に食べにきたりしないのに。
街で無闇に食糧を漁ったり、人間が作った法を私利私欲の為に壊してはいけないって習ってるし。
そうじゃないと、学校もコンビニも、新聞もお酒もなくなってしまう。電気も来なくなるし、蛇口をひねっても水が出なくなる。そんなのつまらない。街がなくなったら退屈。だから魔物はコッソリ暮らすって決めてるんだ。
出来なきゃタイホされちゃうかも。
試験もあるし、賞罰もある。
ぼくみたいに見た目までじゃなくても、お化けってぐにゃぐにゃしてるから、全員がぴったりはまる丁度良い枠はないんだけどね。だからすごーく適当な縁。
だけど、誰かが不幸になるくらい、超えてしまったら、八つ裂きにされても文句はいえない。ソレが魔物の境界。
ぼくの大事な人は、そんな曖昧な線の上で働いてる。
かっこいいぼくの駐在さん。ぼくは頼もしく嬉しくなって、一人布団の中でゴロゴロっていうかくねくねした。あれ? 最初は何かちがうことかんがえてなかったっけ。まあいっか。はやく抱っこしたいな。クールにお仕事してる姿思い浮かべて、だけどにょろんて出した触手によみがえるのは柔らかな感触。ぼくの前だけ可愛いんだ。
ぼくはドアでも窓でもないノックの音をきいて、少し驚いてから、さかさまの姿をみた。
「こんばんは」
「こんばんは」
天井さんに潜れないトコロはあまりない。と思う。駐在さんが駄目っていわなければ、ここにも。特別な棲家じゃないから簡単に来れる。だけど玄関からこないなんて、なにかな。
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