■party-night 09

 妙に部屋がオレンジがかっているのは何だ。
 それに、身体はあちこち痛いのに、気だるい甘さが心地良い。軽くなったみたいな。Lvでもあがったのか。
「おはよう……ってもう夕方だけど」
「……」
 身体を起こして座り込んだユイを、ルナがそっと抱き締めた。ほんのりとバニラエッセンスの香りがして、ゆるくあたたかかった。
 一瞬猫のように目を閉じてから、ユイは飛び上がった。
 夕方、それはマズい、仕事は……大丈夫、出勤は明日朝だ。マテ、まさか3日4日過ぎてるとかじゃないだろうな、ていうか、この部屋、この部屋だ。約束は朝まで。
 慌ててコートをかけた椅子に手を伸ばし、引き戻される。にょろりと伸びた触手に掴まれる。
「だいじょうぶ」
「っ……」
 ぺろりと頬を舐められて首筋を触手が掠める。夕焼けによく似た半透明の異形の指。
「今日はぼくが借りる日なの」
 触手だけど、ルナだからいい。屁理屈だけどいいか。てのひらに絡まった一本を握って、手を繋ぐみたいに受け入れる。
 ほんのちょっとだけ舌が触れたキスは、微かにシロップの味がした。


 テーブルにはホットケーキが山積みになった皿があった。
 天然ものでなくていい。バターとシロップの染み込んだ甘く暖かい欠片を、つかえそうになりながら飲み込む。
「昨日は駐在さんがお部屋借りててぼくがお邪魔して、今日はぼくがお部屋借りてて駐在さんが来てる」
 向かいに座ったルナが、嬉しそうにみている。
「いいけど、お前ヤツにナニを払ったんだ」
 悪いバイトはイカンよ、と保護者っぽい顔もしてみる。
「えとね、メイド服のお礼だって」
 思わずホットケーキを切り分ける手が止まる。
「駐在さんに可愛い服とか着せられるの、頼める中にはぼくしかいないからって」
 反論はできない。今も、知らない間に着替えさせてくれたこのパジャマも、見ればさりげなく女の子っぽいデザインだった。
「えとね」
「なに」
「そんなに食べて大丈夫?」
「大丈夫」
 ユイはホットケーキを一枚また皿に置いた。


「ねえねえ駐在さん」
「なに」
「おいしい?」
「うん」
 空になった皿に少し透けた影がうつる。伸びた触手に触れる。柔らかくて、あったかで、優しい。
「ありがとう。ごちそうさま」

 (1stup→110528sat) clap∬


前のページへもどる
Story? 01(小話一覧)へもどる
トップへもどる





























◇オマケ的なもの◇

「はいこれ」
 紙袋を手渡される。
「この前はありがとうございました!」
 洗濯すると言って持って帰った寝具か。薄い毛布とシーツと敷物だったか、そんなのだ。にしては体積が増えてないか。ふっくらさせる豆知識か? いやいや。倍ってことはない。
「えと、趣味に合うかどうかわからないけど、同じタイプので新しいの買っちゃいました」
「そんな気つかわなくても」
「お世話になったお礼です〜。貰ってください」
 とキラキラした目で言われると貰うしかない。いいのか。仕方ない。
「それじゃあまあ」
「洗濯機無かったからコインランドリー行かないといけないし、替えがあると楽かなって思いました!」
 そうだけど、普通の家じゃないからってこのトロロちゃんにはわからないか。
「あとね、綺麗に洗えたけど、やっぱり嫌だったら捨ててね。それか……」


 これからも駐在さんをよろしくお願いしますって、あんまりデカい声で言わないでもらいたい。こっちは目立ちたくないんだから。この商売、彼にばかりよろしくしていては成り立たないし、純粋に感謝だけされるのも困る。仕方ないか。
 可愛らしく手を振ってから歩く後ろ姿を眺める。美形で尽くしてくれて擦れてないって都合のいいアニメの美少女キャラか、と思うが男の子――チョット舐めるくらいならアリだけど付き合うのはナシだ――だし正体は山芋のお化けみたいな物体だし、羨ましくはない。
 若干青ざめた顔でラッピングを見つめる。横の袋が洗濯済≠ゥ。
 ――それか、こういうのすごく欲しがる人いるし、譲ってあげるとか。
 とか言うしイロイロアレ過ぎる。
 取引相手を選ぶなら、カワイイ駐在さんにしばき倒されることもないんだが、いいのか。いいんだけど。
「大事にしてくれるなら嬉しいです」
 とか言うんだろうな。
 無邪気というよりカオス。
 別の意味で死の商人だと天井は思った。