『ラブリィ・ダーリン2』

○第8話○ 告白3〜親友・沙耶の場合〜(その2)







 夕食も食べ終わり、皆で食後のお茶を楽しんでいると、相変わらずテンションの高い沙耶に向かい、優吾が話しかけた。


「華ちゃんって学校ではどう?」
「ふっふっふ、この子を狙ってるヤツ結構いますよ〜」

 その言葉に優吾の片眉がピクリと動く。

「・・・狙ってるヤツ?」
「そう、華みたいな子って守ってあげたいって、そういう気にさせるんじゃないかな。本人その気無しだから何とも言えないけど・・・でも、私が男だったら絶対彼女にしたいと思うし♪」
「沙耶何言ってるの、変なこと言わないでよ」
「ふふん、困ったチャンねぇ。私の方がずっとそう言うの詳しいのよ〜? 私の情報網を見くびっちゃ困るわ」
「あくまで噂でしょ?」
「グッサ〜、アイタタタ、傷つくわぁ」

 沙耶の言葉にたいして気にも留めていない華だったが、優吾はそんな華に視線を向けつつ、ちょっとだけ拗ねたような顔で呟いた。

「へぇ、華ちゃんモテるんだ・・・」
「優吾さん心配ですか?」
「・・・うん」
「あははは、正直〜〜ッ」


 沙耶・・・よく言うよ。
 そんなの聞いたこともないのに。

 大体ね、パパってば信じやすすぎ。
 何でこんな事本気に受け止めちゃうんだろ?


 二人の会話に呆れ顔でため息を吐く華を余所に、優吾は彼女をジッと見つめて頬杖をつく。
 それに気づき、少し首を傾げ、見つめ返す華を目に留め、そのままの姿勢で盛大な溜息を吐き、彼は沙耶にぼやきはじめた。


「そうだよねぇ、僕だって華ちゃんがモテないわけがないって分かってるんだよ。だって、誰よりも華ちゃんのことカワイイって思ってるのは僕なんだから。・・・はぁ、でも・・・そうかぁ・・・やっぱりそうだよねぇ・・・はぁ・・・」

「・・・・・・」

 あまりの親バカ発言に流石の沙耶も絶句したのだろうか、ポカンとしたまま固まっている。
 しかし、優吾はそんなことに構うことなく更に言葉を続けていく。

「今度学校に学生服着てついていこうかなぁ・・・華ちゃんの側にピッタリくっついてさ、男の子なんて近づけないようにして・・・・・・でもそれは無理があるよねぇ、もう学生服なんて似合う歳じゃないよ・・・、せめて、あと2、3歳若ければなぁ・・・」

 あと2、3歳若ければなんだというのだろう・・・
 優吾の外れた思考回路にも、間違った着目点にもツッコミどころ満載なのだが、沙耶はむしろそんな彼に感心し始めていた。

 一方、華は優吾の発言があまりに恥ずかしくて、顔を真っ赤に染めながら下を向いている。
 優吾はそんな二人に構わず尚も言葉を続けた。

「そりゃ、あんまり華ちゃんにベタベタすると嫌われちゃうかもしれないけどさ、華ちゃんはカワイすぎるんだよね。ギュッてしたり、チュッてしたり、色々したくなっちゃう。だけどさぁ、それと同じ気持ちを他の男の子に思われるのはイヤだなぁ、絶対イヤだなぁ・・・」


 ・・・ギュッとかチュッとか・・・なんて事いうの、パパ。
 場所を選ばないというか、人を選ばないというか・・・

 どうしてパパってば、いつもいつもこんな事口に出して言えるんだろう。
 しかも、沙耶とは今日初めて会った初対面・・・
 後で沙耶に何を問いただされるか分からない私の事も考えて欲しいよ。

 華は、優吾の恥ずかしい発言に口を挟むことも出来ず、ただ俯いていることしかできなかった。



 と、隣の沙耶が、

「私、わかっちゃった」
「ん?」

 わかった?
 何が?

「何で華がファザコンなのか。この環境じゃ当然よね! あ〜ん、でも私が娘でも絶対ファザコン間違いナシだわ!! こ〜んな若くてピチピチ・・・やだぁ、死語? ま、いっか、ピチピチしたカッコイイパパだったら危ない道にでも走っちゃうわよ〜」

 一瞬、沙耶が二人の関係を見破ったのか!?
 と思ったが、どうやらそうではなく、彼女なりの冗談のつもりらしい。

「危ない道?」

 きょとんとした顔で、優吾は沙耶に聞き返す。

「そうそうっ! パパッ、私、パパのこと男の人としてスキなのッ!! なんちゃってっ!!!!!!! きゃ〜〜〜〜〜っ☆☆☆」

「・・・っ・・・」



 ・・・・・・全く心臓に悪い。


 華は沙耶の発言にいちいちビクビクしてしまう。
 彼女の言葉を冗談と理解しつつも、九割方本当のことなので思わず腰が引けてしまう。
 だが、優吾の方はそんなことは全く気にならない様子で、いつも通りの穏やかな表情のままだった。


「さ、沙耶、そろそろお風呂に入らない? 明日は休みだけど、何だか今日は早く寝た方がいいような気がするの!!」
「え〜? 私は朝まで優吾さんと喋っていたい気分なんだけどなぁ」
「何言ってるの、もうお湯は沸いてるんだから、先に入って来なよッ!!!!」
「もぉ〜、何でそんな必死なのよぉ」
「私は普通だよっ! 全然必死じゃないんだから!」
「・・・変な華。・・・わかったわよ〜。入ればいいんでしょ〜?」
「沙耶ちゃん、よ〜くあったまるんだよ」
「は〜い♪」

 パパの言うことだけは素直に返事して・・・

「じゃ、先に入らせて貰いますね〜♪」


 そうして、沙耶を無理矢理お風呂に向かわせた。


 沙耶がいなくなった後、華は一気に脱力してソファに深く腰掛け、身を沈ませる。


 ───スゴク疲れる時間を過ごしている気がする。

 優吾はそんな華に気付いているのかいないのか、恐らく後者だろうが、隣に腰掛けて華の顔を覗き込んできた。

「ねぇ、今日って別々?」

 ・・・今日?

 質問の意味が理解できない。

「なにが?」
「僕としては今日はどうしても一緒が良かったんだけど・・・・・・やっぱダメ・・・だよね」

 上目遣いでおねだりするように見つめる顔はどう見たって30代じゃない。
 思わずカワイイと思ってしまう・・・

「だから、なんの話?」
「寝るお部屋のこと。華ちゃん、やっぱり沙耶ちゃんと一緒に寝るでしょ?」
「・・・・・・」

 何の心配をしているんだ・・・

「そのつもりだけど・・・どうして?」
「・・・・・・ん〜・・・」

 なんだろう?
 歯切れが悪い。

「華ちゃん」
「うん」
「キス、していいかなぁ?」
「え?」
「沙耶ちゃん、お風呂だし大丈夫だと思うんだけど」

 心なしか目が潤んで色っぽく見えちゃう。
 そんな時の彼に逆らうなんて出来るわけがなかった。

「・・・い〜よ・・・っんっ・・・!」

 言うと同時に彼の顔が近づいて唇を塞がれる。
 そして、スルリと舌が滑り込み、口膣内を丹念に味わっていく。

「・・・んぅ・・・っ」

 華の後頭部を手で押さえ、離れることを許さないかのように。


 ち、ちょっとちょっとぉ・・・!
 こんな・・・こんなにされたら、おかしくなっちゃうよ。


 キスだけに留まらず、彼の手は服の上とは言え華の胸を触り、身体を密着していく。
 次第に熱を持ってくる身体。
 歯止めが利かなくなってしまう。
 この家に今、二人だけじゃないのに・・・


「・・・ぁっん。パパ・・・やめ、て・・・」
「イヤ?」
「・・・じゃなくて・・・・・沙耶が・・・」
「知ってる」
「いじわる、パパのえっち・・・」
「そうだね」
「・・・っ、や、・・・あん・・・今はダメだよぉ」


 これ以上されたら堪らないと思い、身を捩って逃れようとすると、優吾はガッチリと華を抱きすくめ、耳元で小さく囁いた。

「だいすき」

 その言葉にくにゃりと力が抜けてしまった。
 真っ赤になり何も言えないでいると、優吾はもう一度キスを落として楽しそうに微笑み、密着した身体を漸く離した。

「じゃ、僕は今日は一人で寝るね、とっっっっっっても寂しいけど」
「・・・う、うん」

 ドキドキが止まらない。
 いっつもパパだけ平然とした顔して・・・私だけこんな気持ちにさせるんだ。
 だいすきなんて、あんな色っぽい声で言われたら変になっちゃうじゃない。


 華は優吾に見えないように何度も深呼吸をして、自分を落ち着けた。

 ・・・それに、寂しいとは言っても流石にみんなで寝ましょうってワケにはいかないと思う。
 華だって寂しい気持ちはあるが、沙耶と一緒という、いつもと違う感じがとても楽しい気分にさせてしまっているのも確かで・・・

 優吾には悪いと思いつつも、そんな自分は隠せないのだった。






その3へつづく


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