『ラブリィ・ダーリン2』番外編・1

【その6】









11.高辻秘書のけじめ


『ねぇ、さっきの電話、あなたも横にいたんでしょ?』
「だからなんだ。俺が君に専務を紹介したのはそんな事の為じゃない」
『・・・そうだけど・・・、でも掛かってきた番号、よく考えたら会社からだったし、確かに女の声がした気がしたけど、ホントは結婚とかってウソでしょ? ちょっと馬鹿にしてない?』

 高辻は久々に心の底から苛ついていた。
 昔の彼女はもっとさばさばして、とても頭のいい女性だった。
 随分変わるものだ・・・と思いながら、彼は口を開く。

「専務にそう言う女性がいるのは事実だ」

 ただ結婚は出来ないだけで。
 薄っぺらい関係などではない。
 お互いが唯一のかけがえのない存在なのだと、見ればすぐ分かる。


「君は、少しやりすぎたな・・・」
『なによそれ』


 優吾が許しても、高辻自身はとても彼女を許せそうにない。
 片腕になりたいと思った人に不快な思いをさせ、しかも、その人物を紹介したのはよりにもよって彼自身なのだ。

 それに、この様子だと、彼女はまた同じ事をしないとも限らない。


「二度と専務に近づくな。いいか、君が専務に会って得たものはビジネスチャンスだが、あの人は何をしても手に入ることはない。少しでも妖しい動きをすれば、それが最期だ」

『・・・・・・どういうこと、最期ってなに!? あんたなんて、所詮は秘書じゃないっ!? 何が出来るって言うのよ!』

 高辻は溜息を吐きだし、それでも歩く靴音に乱れはなく、ロビーを出る。

「・・・これでも結構色々出来るつもりだ」
『・・何・・・言ってるの? あなたの冗談って初めて聞いたわ。ねぇ、私知ってるのよ、高校の時、私の事好きだったんでしょ? だから電話したのよ、絶対に動いてくれるって思ったから、ねぇそうでしょ!?』

 ・・・会わなければ良かったのかもしれない。
 何もかも、不快でしかない。

「仕事に私情を挟むのは好きじゃない。俺が動いたのは、純粋に君の会社を評価したからだ。・・・・・・だが、どうやら俺の目が間違っていたようだ」
『・・・・・・ッ』

「分からないなら教えようか。最期というのは、飯島との取引が無くなることではない」

『・・・・・・?』


「アート・クォーツが無くなる、ということだ」


 彼女は電話口で息をのみ、グッと携帯を握り締めた。
 その手は僅かに震え、ゴクリと喉を鳴らす。


「・・・・・・あぁ、それからもうひとつ」

 高辻は思いだしたように僅かに口調を変え、空を見上げた。
 未だ日が高い。
 こんな時間に帰ることなど殆どないから、妙に新鮮だった。


「2年の時同じクラスだった春日真波(かすがまなみ)憶えてないか? 俺が好きだったのは彼女だったんだが・・・多分マナミ違いだ、誤解しているようなので訂正しておく」


 プツリ、と電話を切り、高辻は携帯を内ポケットに仕舞った。


 だが、少し考えてもう一度手に取ると今度は別の番号へ掛ける。
 その間、彼の目は先程までとは別人のように穏やかだった。


「・・・あぁ、俺だ、今仕事終わったんだ、これから実家に行く。身体の調子はどうだ? ・・・当たり前だ、もうすぐ産まれるのに気にならないわけないだろう? 何か食べたいものはあるか? ・・・・・・あぁ、わかった、買っていく。じゃあ・・・」


 電話を切ると、高辻は腕時計に目をやり、臨月間近で里帰り中の妻のいる彼女の実家へ、彼女の大好きなケーキ屋のショートケーキを持って会いに行くため、足早に通りを抜けていった。


 ───蛇足だが、彼の妻の名前は、高辻真波。
 二人は高校の時からつき合い、24歳の時に結婚した。
 おなかの中の子供をあわせて、高辻は3人の子供に恵まれた父親なのだった。











12.抱っこの先は?


 二人になった専務室では───

 優吾は高辻から華を返してもらい、腕の中に閉じ込めたまま、暫くじっとしていた。
 信じられないくらい高辻に嫉妬をしてしまった・・・
 そんな自分に内心かなり驚いていた。


「ね、華ちゃん、抱っこしていい?」
「・・・・・・・・・やだ」
「・・・じゃあ、椅子の上で抱っこにしようか」
「あっ、やだってばっ!」

 やだと言っているのに、優吾は聞き流して華を抱き上げると、自分の椅子まで彼女を運んでいく。
 彼は、まずは自分が腰掛け、華を膝の上に向かい合わせになるように乗せ、ぎゅうっと抱きしめた。

「・・・ちょっ・・・っ、・・・パパ! 恥ずかしいよっ、やだっ!」
「恥ずかしくないよ」
「パパは良くても私は恥ずかしいの〜っ! 赤ちゃんじゃないんだしぃっ!!」
「華ちゃんはい〜の、特別だから」
「なにそれ〜っ」
「もう二度と他の人に抱きついたりしちゃダメだよ」

 ちょっと怒った顔を見せて、コツン、とおでこがぶつかる。
 そんなにじ〜っと見られるとやっぱりドキドキしちゃうし、何より思いっきり『抱っこされてます』というようなこの体勢は恥ずかしすぎる・・・

「そっ、そんなことよりっ、さっきの教えてくれるんでしょ!?」
「教えるよ? だから抱っこしてるの」
「意味分かんないよパパ」

 にこっと笑って、ちゅっ、ってキスされた。

「すぐわかるよ」

 何を考えてるんだかさっぱりだ。
 優吾は華の首筋に顔を埋め、唇を這わせていく。
 チクッとした痛みを感じて、華はびっくりして固まった。

「えっ、・・・ちょ・・・っ、なにやって・・・!??」
「・・・ん」
「やんっ、やっ、服、脱がせちゃ・・・ダメッ!!」

 ホントにホントに・・・・・・っっっ
 パパなに発情してるのぉ〜〜〜〜!?!?!?

 セーターの裾部分から手を忍び込ませ、探るようにして脇腹の辺りを直に撫でて。
 徐々に上の方へ移動させながら、強く唇を塞がれた。

「・・・っ〜〜っ、・・・んぅっ、・・・っぁふっ、やぁっ・・・っ」

「安心して、お洋服全部脱がせたりしなくてもデキるからね」

「・・・・〜〜〜〜〜っ、なんっ!?」


 もしかして、ここで・・・!?

 目を見開いて優吾を見ると、にっこり笑って頷かれてしまった・・・



 ・・・・・・うわ〜〜〜〜〜んっ!!!
 信じらんないっ、こんな所でなんてぇっ!!!


 パチン


「・・・あっ!」


 胸の辺りの圧迫感が急激になくなった。




 ・・・・・・ブラジャー外され・・・っっ









その7に続く


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