『TWINS』
○第11話○ 彼女を捜せ【前編】 愁と智が別れたその頃、鈴音は一人でとぼとぼと街中を彷徨っていた。 人気のない所や、外灯のあまりない場所の夜道は寂しいので、駅周辺を何となく歩いていた。 夏休みだから余計なのかもしれない、夜遅くてもこの辺りには人が結構いて、ちょっとだけ安心する。 ふと、ファーストフード店の前を通りかかり、足を止めた。 「・・・お腹、空いたなぁ・・・・・・」 そう言えば今日は朝食べたきりで、それからは何も口にしていない。 智の口から愁が家を出るつもりかもしれないということを聞いて、そればかりが頭の中でグルグルと巡り、何も考えられなかったから・・・ 鈴音は、歩きながらずっと、先程愁に自分の気持ちが伝わらなかったことについて考えていた。 ちゃんと言えたと思った。 だけど、それは少しも信じてもらえることはなくて・・・ でも、 愁は自分の事が好きだと言ってくれたのだ。 だから、まだ彼の気持ちが離れているわけではなかったということ。 きっと自分の伝え方が足りなかったか、間違っていたか、そう言うことなのだろう。 これで挫けずに何度も何度も彼に会いに行って、気持ちを伝えればいつかは・・・ ママも言ってたよね、 愁くんみたいな人には『好き好き〜』って言ってればいいって。 だって、絶対にこんなすれ違いだけで愁が家を出て、会えなくなってしまうなんて堪えられない。 そんなの一生後悔するに決まってる。 やっと自分の中で気持ちを整理することが出来た気がする。 あのまま家に帰る気にはとてもなれなくて、こんな風に歩き回っていたけれど、家に帰って考えるよりよっぽど冷静になれた気がする。 もっと愁くんにぶつかっていこう。 そう思い、鈴音は口をキュッと引き締め小さく頷いた。 そして、 来た道をUターンしようと立ち止まりかけた時、 不意に横から腕が伸びてきて、彼女の右腕を掴まれたのだった。 「えっ」 「カワイイね、一人で何してんの?」 「・・・な」 驚いて声をかけてきた人物を見ると、いかにも遊んでますといった風情の男性が二人。 一人は茶色の短髪で耳と鼻にピアスをして、タンクトップに膝丈までのズボンでサンダルを履いた割と細身の男性で、もう一人は肩までのロン毛を後ろに流し、隣の男と同じような服装の男。 類は友を呼ぶというが、あれは本当なんだ、と呑気にそんなことを考えた。 「あの・・・、家に帰るんです」 「ふ〜ん、そんなこと言わないでさ、オレ達とちょっと遊びに行こうよ」 「えぇっ、あの、行きませんっ!」 これが噂のナンパか、とやっとそこで事態を把握する。 慌てて逃げようとするが、腕をしっかりと掴まれて離してくれないので、その場から逃げ出すことが出来ない。 「ぃや、離してっ」 「またまた〜、純情ぶらないでさ、ハイ行こう〜〜っ!」 短髪の男が強引に鈴音の腕を引っ張り、ロン毛男が後ろから彼女の背中を押して無理矢理連れて行こうとする。 「やっ、やだ!」 「キミ、ホントカワイイね。今日見た中で一番」 ロン毛男に後ろから耳元で囁かれ、首筋に息が掛かる。 おぞましさで全身に鳥肌が立ちそうだ。 気持ち悪くて吐き気がする。 だが、鈴音が気持ち悪くて大人しくなったのを勘違いした短髪の男は、そこで腕を掴む力を少し弱めた。 ───今だっ!!! その一瞬の隙を見逃す手はないと、一気に振りほどき、全速力でその場から逃げ出す。 「あっ、待て!!」 冗談じゃない! こんなの、誰が待つっていうの。 早く早く、家に帰らなくっちゃ。 こんな場所なんてもう絶対、二度と来ないんだからっ!! そう思いながら必死で逃げる。 だが、バタバタと追ってくる2つの足音は止むことがない。 彼らは諦めずに鈴音を追いかけてくる。 「逃げても無駄だよ〜♪」 「っ・・・やぁ!!」 助けて、愁くん、愁くん!!! 足音はどんどん近づくばかり。 それと同時に男達の荒い息づかいも近づいて。 早く逃げたいのに恐怖で足がもつれそうになる。 何で愁と別れたとき、素直に家に帰らなかったんだろう。 家の前まで送ってくれたのはこういう危険も考えてのことだったのかもしれない。 水族館の痴漢だって、愁が助けてくれた。 いやだ、いやだ。 このままでは捕まってしまう。 鈴音は、程なく見えてきた大きめの公園に逃げ込み、真っ暗で隠れるには絶好の木の生い茂る中に紛れ、小さくなって息を潜めた。
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