『ワガママで困らせて。』

○第6話○ オレだけを困らせて【その1】










 流花とした初めてのエッチから1ヶ月。

 オレ達はあれから何度も身体を重ね、その度に流花を前よりずっと近くに感じるようになっていた。



 流花とした事でオレの気持ちも少しは落ち着くかと思ったけど、そんな事はゼンゼンなくて・・・
 何だか益々加熱するばかり。


 抱きしめたい、キスしたい、その先もしたい。
 何度だって、何十回だって、流花と一緒に真っ白になるまでしたい、などと四六時中考えてしまう重傷ぶり。




 だけど、オレの想いとは裏腹に、今週に入ってからの流花の様子は少し変だった。


 ちょっと難しい顔をしたり、ため息を吐いたり。
 ふたりでいても、時々ひとりで考え込む瞬間があるようにも思えた。


 どういうわけか、オレとするのを避けているような気もする。

 たぶん・・・それは気のせいじゃない。
 むしろ分かりやすいくらいの変化が、この1ヶ月で確実に起こっているのだ。



 何かマズイことしたのか・・・。


 オレは『う〜ん』と唸って、この1ヶ月をよく思い出してみることにした。







☆☆☆ふたりの1ヶ月(テツ・心のメモ)☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


1週間目・・・・・・

   痛がる流花のため、それはもうイロイロがんばって、試す日々。
   努力の結果、週の終わり頃には流花もちゃんと気持ちよくなる。

2週間目・・・・・・

   毎日のようにする、日に2〜3回するコトもあった。
   ずっとこんな日々が続くのだと確信すらおぼえる。

3週間目・・・・・・

   流花が生理に。キスと抱擁だけの毎日を送る。
   いつ終わるのかよく分からず、聞くのを躊躇った所為で、結局一週間丸ごと大人しくしていた。

4週間目・・・・・・

   久々に流花とした。もっとしたくなったので2回目をオネガイする。
   『そんなにしたらバカになっちゃうからだめ』とNGが。
   そのうえ、『毎日するのもだめ』と言われたので、『2日にいっぺんならいいのか?』と聞く。
   回答:『しばらくするのやめよ』


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





 やっぱり変だ。

 この変化は、いったいどういうことなんだろう。


 流花が痛いと言って泣いたのは最初の何回かだけで、今はもう違うはずだ。

 受け入れるたびに流花が気持ちよくなっていってるってのは、オレ自身が受ける感覚もゼンゼン違うし、流花の反応もすごいし、間違いではないと思う・・・たぶん。


 ・・・・・・・・・とすると、問題があるとすれば、2週間目だろうか?

 日に2度も3度もヤったのがまずかったのか?


 流花はホントはイヤだったとか? そうなのか?






「・・・・・・・・・ッ、・・・テッちゃん・・・」


 ・・・まぁ・・・、せめてもの救いというか。
 抱きしめたり、キスしたり、そういうのは良いみたいだから。

 だからオレはおあずけを喰らった犬みたいに(心の中で)涎を垂れ流しひたすらガマンガマン、そのかわり二人きりになるとめいっぱいキスをして。


 何度も角度を変え、流花の舌にオレの舌を絡ませ、ちょっと苦しそうに喘ぐのを『可愛い』と思いながら、咥内を思う様に這い回る。



 流花を抱きたい。


 ホントは毎日だって何度だって繋がりたい。


 こんな風に思ったらいけないんだろうか?

 がっついてるとか思われちゃうんだろうか?


 それで距離を置こうと・・・



 考えすぎ・・・だよな・・・
 流花だからこんな風に思うって・・・ちゃんと伝わってるよな?



 長い長いキスで流花はトロンとした目で少し放心している。
 けど、漸く唇が解放されて抱きしめられた身体も自由になると、流花は小さく息を吐いて何かを思い出したのかオレに言った。


「・・・あぅ・・・ふ・・・・・・っ・・・、テッちゃん、・・・明日のお昼は一緒にいられないから、他のヒトと食べてね」

「・・・何か用があるの?」

「ウン」


 流花は小さく頷いて、それ以上話す必要はないと思ってか、それきりその話題は終わってしまう。


 だが、実はこの言葉もオレの疑問を膨らませるひとつだった。


 なぜなら、最近、流花がこんなことを言う日が増えたからだ。
 『先に帰っていいよ』と言われる日も・・・。

 そりゃあ学年が違うんだから、イロイロあるのかもしれない。


 だったら突っ込んで聞けばいいとは思うのだが、詮索してるみたいで余裕無いオトコとか思われたくない・・・というちっぽけなプライドが邪魔をして、物わかりの良いオトコを演じてしまう。



「テッちゃん」

「うん?」

「もういっかい、ぎゅってして」

「・・・うん」


 オレは言われるままに流花の身体を抱きしめる。
 やわらかい身体が堪らなかった。


 ホントは余裕なんてあるはずがない。

 2つも年下って時点で、少しでも流花と釣り合うように背伸びしまくりだ。

 それでも、流花には頼れるオトコに見られたいんだよ。
 どんなことでも笑って受け止められるように、・・・・・・オレは一日も早く、そんな大人になりたい。







 でも・・・

 この時ばかりは、かっこ悪くても余裕無いオトコと思われてもいいから、ちゃんと流花に聞けば良かったと・・・・・・後になって後悔するハメになろうとは、夢にも思わなかった。













▽  ▽  ▽  ▽


 翌日、流花を迎えに教室まで足を運んだ放課後。

 ナッちんと話してた所に亮もやってきてバカ話を繰り広げてたってのはあったけど、放課後のチャイムが鳴ってからそんなに時間は経ってないはずなのに、なぜか教室に流花の姿はなかった。


「あー、オトウトくん。もしかして流花迎えにきた?」

「あ、そうッス」

「よかった〜、もう少し来るのが遅かったら帰ってたよ〜」

「・・・はぁ」


 教室のドアの所に立っていると、流花のクラスメイトがオレに話しかけてきた。
 いつもオレのことを『オトウトくん』って呼ぶ、流花と仲の良い友達だ。


「流花から伝言。今日は先帰ってだって」

「え?」

「はい、ちゃんと伝えたからね」

「あ、あの・・・」

「私これからバイトで急いでるの、じゃね、オトウトくん」

「・・・・っ」


 そのクラスメイトは本当に急いでいたらしく、それだけ伝えると走り去ってしまった。

 オレは呆然と立ちつくす。

 昼だけじゃなくて、放課後も?
 昨日は何にも言ってなかったよな・・・


 教室を見回すとまだ結構生徒達が雑談がてら残ってて、時折こっちを見てはゲラゲラ笑っているのがやけに目につく。

 『下僕宣言』以降、こうやって見られるのは良くあることだ。
 アホみたいな噂も広まってるらしいってのは、ナッちんや亮から聞いて少しは知っているし。


 オレはそれらの笑いを完全無視の方向で吹っ切って、さっさと教室を後にした。



「ホラー、あんたが笑うから逃げちゃったじゃない〜」

「だって、しょーがないだろ〜」

「お嬢様のお迎えにあがった召し使いの少年がひとり寂しく帰るの図じゃん」

「カワイイじゃない、あんな子だったら私も欲しいな♪」

「おまえじゃ女王様と奴隷になっちゃうよ」

「ひどーい」



 ・・・・・・廊下まで全部聞こえてるし。

 勝手に言ってろ・・・はぁ。









その2へつづく

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