「待ちなさい!」

日を置かず、シティ内の金融機関が襲撃を受けた。
親しみやすいテレビCMを打っている表向きは普通のローン会社だが、その裏、かなり阿漕な
利率で貸し、強引な回収で手広くやっている高利貸しだ。
そんなところは襲われるに任せればいいと赤カブたちは言ったのだが、ハニーとしてはそうも
いかない。
市長の依頼を受けた手前もある。
今回は、その市長から極秘に出動要請を受けたのだ。

警察には、武装を整えてから装甲車で出動するよう命令していた。
特別の重武装で、装備の時間が少しかかるから、その間に……というのがライトの考えだった。
ハニーが駆け付けると、二人組の賊は、ほんの申し訳程度に矛を交えただけで、すぐに逃げに
かかった。

「待ちなさい! 逃げる気!?」
「逃げるだとっ!?」

吠えるような大声が響いた。
大柄な方が怒鳴ったらしい。
こっちに向かってくる素振りを見せたものの、横にいた小柄な方──でかい方がでかすぎるの
で小柄に見えるが、ひとりならこの男も立派な体格であろう──が、何か窘めたようで、巨漢
は渋々と外へと向かった。
ハニーは、被害者の応急処置だけして彼らの後を追った。
ふたりの犯人は、ハニーを待っていたかのようにまだウロウロしていたが、彼女の姿を見るや、
またその場を逃走した。

20分ほどの追跡で、ハニーは郊外まで来ていた。
走力、跳躍力など、どれをとってもハニーの能力は人間のそれを圧倒している。
なのにハニーは、そこまで彼らに追いつけなかったのだ。
ライトも言っていた通り、普通の人間ではないのだろう。
ふたりは廃工場の中に消えていった。
わざわざここへ連れ込んだということは、十中八九、罠であろう。
ハニーは油断なく、先へと進んだ。

「……」

リリは、通路を慎重に進んでくるハニーを観察していた。
あちこちにセットしたカメラから映像が送られてくる。
身体にピッタリとしたコスチューム。
上半身が濃紺、下半身は真紅のキューティーハニールックだ。
黄色いブーツが良いアクセントになっている。
髪は赤く、首にはハートのマークをつけたチョークを巻いていた。
右手にフェンシングで使うような細剣を持っていた。
歩くたびに、豊かなバストとヒップが扇情的に揺れている。

「ふん」

リリは鼻を鳴らした。女性から見ても、ほぼ完璧とも言えるスタイルに嫉妬を覚えたのかも
知れない。
それからスイッチを操作して、カメラを切り替えた。
ハニーの姿が一瞬にして赤く染まった。
サーモセンサーである。
ハニーの全身が、赤くぼんやりと光っていた。
赤外線が出ている。
熱を発しているのだ。

「……ということは、機械じゃなくて生身の人間なのかい……」

赤外線というものは、熱があれば生物非生物の区別なく発しているものだ。
絶対零度以上の音頭があれば赤外線は出る。
だから、理屈から言えば地上にあるものはすべて赤外線を出しているのだ。
とはいえ、ハニーから発しているそれは、摂氏35℃から40℃ほどらしい。
つまり人間の体温と同じなのである。
そこでまたカメラを切り替えた。
今度はエックス線である。

「!?」

そこでリリは驚いた。
やはり人間ではないのだ。
透視されたハニーの身体の中からは、人間の骨格を模した金属フレームが映されていたのだ。
見たところ、炭素フレーム、炭素カーボネイト、チタン、それに要所要所に工業用ダイヤモ
ンドが施されているようだ。
炭素繊維や、人造蛋白質の人工筋肉も確認できた。
血管を模した大小無数のチューブが、身体中に張り巡らされている。
その管の中を液体が流れているのも確認できた。

くまなくチェックしてみたが、生物らしいところはなかった。
生体部品を使っている様子もない。
それを知って、リリは感嘆の声を洩らした。
生体部品を一切使わず、ここまでの完成度の亜人間を造ることが出来るのか。
改めて如月博士の能力を認めざるを得ない。

それにしても脳や人工心肺はいったいどうなっているのか。
エネルギーはどこから得て、どう燃焼しているのか。
是非確かめたかった。
それに神経系だ。
ビデオでは、ハニーは傷を負った際、明らかに苦痛を感じていた。
ということは痛感神経を持っているということだ。にも関わらず、すぐに立ち直り、その後は
怪我や痛みを苦にした様子はない。

空中元素固定装置に加え、これらハニーの身体の秘密も暴きたい。
リリは、目をランランと輝かせてカメラを操り、データを集積していった。

賊の後を追ったハニーは、埃を被った製造機械が放置されている場内を巡り、建物の北の端に
到達した。
渡り廊下を進むと、厚そうなベトンで覆われた頑丈そうな建造物があった。
何かの実験棟か試作室か、そんな雰囲気である。
厚い鋼鉄製ドアを軋ませながら開くと、そこにあの男たちが立っていた。

「あら、ここにいたの」
「待ちかねたぜ、ねえちゃんよ」
「ごめんなさいね、不案内なもので。でも、せっかくお招きしてくれるのなら、もう少しムード
のある部屋がよかったわ」

ハニーはそう言って、油断なく室内を見回した。
待ち伏せ、トラップ。
罠であることは確実だから、それらの警戒は怠れない。
部屋の中はすっかり片づけられており、ほとんど何もない。
特殊な部屋らしく窓すらないのだ。
その様子を見て、強面巨漢の方が嗤った。

「そう脅えんなよ、ねえちゃん」
「名前があるんだからちゃんと呼んでよ。私は……」
「『愛と正義の戦士キューティーハニー』……だったか?」
「……」

巨漢の脇にいた青い男が言った。
着衣はない。
マネキンのようなイメージだ。
全身が青光りしている。

(アンドロイド……? それとも改造人間かしら……。そういえば)

大男の方も人間離れしている。
異様とも言えるほどに発達した筋肉は、鍛え上げた人体というよりは、突然変異した亜人間に
見える。

「ああら光栄だわ、ご存じだったのね」
「そりゃそうだろう。この街でキューティーハニーを知らなかったらモグリだそうだしな」
「……そういうあなたたちは? 最近、派手に暴れ回ってるらしいじゃないの。そろそろ名乗
ったらどう?」
「……やるたびに名乗ってはいるんだが、なにしろその場にいた連中がみんな死んでしまうの
でな。名乗るだけ無駄になってる」
「違えねえ」

マッチョがバカ嗤いした。

「命があったら憶えておけ。オレたちはマルコキアス姉弟だ」
「マルコキアス……あっ!?」

油断したらしい。
天井から凄まじい音がして何かが落ちてきたのだ。
思わず上を仰いだが、気が付いた時には閉じこめられていた。
ガラスかアクリルのようだった。
一辺10メートルほどの透明な箱の中にハニーはいた。
下は工場の床のままだが、四方と天井が透明シールドで覆われている。
素早く壁へ取り付き、拳で殴り、長い脚を伸ばしてキックしてみる。
ビクともしない。
ヒビも入らなかった。
閉じ込められた、と思っていると、巨漢が中に入ってきた。

「!?」

どこにも出入り口はないはずなのに、マッチョは難なく入ってきた。
どうも、中から出ることは叶わぬが、外からは入れるらしい。

「さあ、これで逃げられねえ」

大男は両手をバチンバチンを大きく打ち鳴らしながら言った。
ハニーは油断なく周囲を見回している。
まだ何か仕掛けがあるかも知れないのだ。
それを見透かしたのか、男が言う。

「もう何もねえよ。オレとおめえの一騎打ちよ」
「決闘ってわけ? でも、それならわざわざこんな所に連れて来なくてもいいのに」
「そうも行かねえのさ。姉貴や兄貴もいるしな」
「姉貴? そう、姉弟って言ってたわね」
「おう。オレは末っ子のアスタロってんだ。ま、末っ子ってことで甘やかされてな、我が侭に
育ってる」
「あらそう。それで私が躾てあげればいいのかしら?」
「こいつぁいいや」

アスタロが馬鹿笑いした。

「減らず口はそこまでだ。さあ勝負しようぜ、ねえちゃんよ。オレは女なんぞにはからっきし
興味はねえが、おめえはメアやレライエをぶっ殺してる。それなりに出来るはずだな」
「誰それ? ……ああ、こないだの強盗ね」
「そういうこった。じゃ、行くぜ!」

アスタロは言うが早いか、いきなり向かってきた。巨漢の割りに動きが素早い。
だがキューティーハニーに敵うものではない。
猪のように突進してくるアスタロを、ハニーは軽い動きでかわした。
アスタロはそのまま壁に突っ込み、激突した。
まるで工場が崩壊したかのような衝撃音がしたが、透明な壁には傷ひとつついていない。
ついでにアスタロの方もまったく無傷のようだ。
ぶつかった右肩のあたりを左手で叩きながら、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

「……」

ハニーは改めてアスタロトを観察した。
身長は優に2メートルを超えるだろう。
ハニーも180センチ近くあるから、アスタロは230センチくらいはあるはずだ。

見事なほどの逆三角形の肉体である。
肩幅が異様に広く、1メートル50くらいはありそうだ。
首も太く、肩回りも筋肉の塊である。
上腕部も二の腕も、もこもこと気色悪いほどに筋肉が装甲していた。
胸部も腹部も堅そうな筋肉だらけである。
まるで、岩を無造作に削りだしたようなイメージだ。

上半身に対してウェストは締まっている。
腰も細いように見えた。
しかしそれは上半身が異常に筋肉質だからであって、腹筋の山ははっきり見えるし、臀部も筋肉
も発達していた。

下半身もすごい。
腿の太さと来たら、ハニーのウェストよりは絶対に太いはずだ。
履いているタイツがはち切れそうなほどたくましさである。
ふくらはぎも同様だ。
無駄な贅肉はひとかけらもついていないようだが、その分、無駄に筋肉がついているように
見えた。
それら筋肉の塊の上に、小さな頭がついていた。
顔までゴツゴツしており、これも岩のようだ。

ハニーは、まるで恐竜のようだと思った。
小さな頭部には、大して脳味噌が詰まっていなそうだ。
いずれにしても、その圧倒的な筋肉から産み出されるパワーは尋常ではないだろう。
手足が千切れ飛んでいた被害者たちは、きっとこいつにやられたのに違いない。

力勝負は得策ではないと踏んだハニーはフルーレを振るった。
切れ味鋭そうな切っ先を見ても、男は怯まなかった。
むしろ、不敵な笑みを浮かべている。

「そんななまくらで何が出来るってんだ」
「あら失礼ね。なまくらかどうかは、あなたの身体で試してもらうわよ!」
「望むところよ!」

タッと軽快にハニーが飛び、ひゅんと剣が鳴る。
巨漢の割りには俊敏なアスタロだが、それでもやっとこれを避けている。
一般人相手ならそれで充分以上のスピードなのだろうが、ハニー相手ではそうはいかない。

ハニーは空中元素固定装置を使って、様々なタイプに変身できるが、もっともバランスの
とれているのがキューティーハニースタイルである。
レスラーハニーになれば人の8倍近いパワーを出すことが出来るが、身体能力以外のポテン
シャルが落ちる。
いかにアンドロイドとはいえ、無限大の能力を発揮することは不可能なのだ。
彼女の能力は全体値で決まっている。
その割り振りを変身によって決めるわけである。
その究極の形態がキューティーハニーであり、彼女の躯体に秘められたエネルギーやパワー
ユニット、増幅機能を極限まで使うのだ。
その結果、キューティーハニーは人間の持っているすべての能力最大値のほぼ4倍強の数値を
叩き出すことが可能となる。

ハニーはアスタロを目にして、一瞬、レスラーにでもなろうかと思いはしたのだ。
だが、この肉弾男を見るにつけ、少々パワーアップしただけでは補いがつきそうにないと判断
した。
そして切り札のキューティーハニーでいくこととしたのである。

「……くっ、この!」

アスタロは少しあせっていた。
思いのほか、敵の動きが良い。
たかが女と油断したとは言わないが、ここまでとは思わなかった。
今まで殺してきた人間とは比較にならない動きとパワーだ。
なるほど、これならレライエたちがやられたとしても不思議はない。
それどこか、押されているのは自分ではないか。
「敵の力を認める」とか「自分の反省をする」などといったこととは無縁の筋肉バカである。
敵から攻勢を受ければ出方を変えるなどという頭はない。
ちっぽけな脳が怒りで支配され、より強大な攻撃で返すこと以外思いつかない。

「うおおおっ!」

文字通りの丸太のような腕が、ごおっと空気を巻き込んで唸りを上げる。
巨大な拳がハニーの顔面を捉えた……と思った瞬間、彼女の顔は消え失せ、腕は虚しく空を切る。
ジャブなどまったくない。
左右の腕がすべてストレートのタイミングで襲ってくるのだ。
駆け引きなど出来ないのだろうし、またその必要もなかったのだろう。

しかし今アスタロが相手にしているのはキューティーハニーだ。
武装警官や兵隊──人間ではないのだ。
普通ならそれを覚って冷静に攻めるべきだが「沈着冷静」とは無縁の男であった。

「このっ! やろうっ!」

アスタロが繰り出すキックやパンチを、ハニーは薄く笑みすら浮かべてかわしている。
確かに普通の人間のそれよりは速い動きだが、ハニーにとってはどれほどのこともなかった。
動きが無駄だらけだ。
アスタロの身体に汗が浮き、呼吸が荒れてきたところを見計らって、一気に攻勢に出た。

「!」

ハニーのフルーレがアスタロの左腕に刺さった。
ところが突き抜けないのだ。
よほど堅い筋肉なのだろう。
筋肉の小さな瘤に確かに突き刺さっているのだが、ほんの2センチほどだ。
それ以上進まない。
刺さった箇所からは血が滴っている。

「くっ」

ハニーが剣を抜くと、アスタロはにやにやしながら指先で傷口を擦った。

「やるじゃねえか。このオレ様に傷をつけたのはおめえで何人目になるかな? まだ5人には
なってねえはずだ」
「それは光栄だこと。でもあなた、呆れるくらい堅い身体してるのね。まだ腕が痺れてるわよ」
「そりゃそうさ。身体中鍛えてるからな、余分な肉はねえ」
「そのようね。その小さな頭の中にも筋肉が詰まってそうだもんね」
「ほざくな!」

再び巨漢が向かってくる。
男の猛烈な攻撃をかわしながら、ハニーもフルーレを振るっていく。
思うように攻撃が当たらないアスタロもだが、実はハニーも少々焦っていた。
もう十箇所以上に傷を与えているのだが、例によって深手にならないのだ。
しかもアスタロは、神経もないのか、ちっとも痛そうでない。

(これじゃキリがないわね……。どこを刺してもおんなじみたいだし。しかたない、あそこを
狙うしかないわ)

アスタロのパンチを避けてジャンプし、片足で着地したハニーは、そのまま片足だけで再度
飛び上がった。
そのままフルーレを構え、アスタロの顔を狙った。

「!」

びぃんとフルーレを持つ手が痺れた。
また堅いところに刺した感覚だ。
見ると巨漢は、丸太ん棒のような腕で顔を覆っていた。

「惜しかったな、ねえちゃん」
「……」

ハニーは、鍛えようのない場所──目と口を狙ったのだ。
鼻でもいいが、とにかく粘膜のある箇所だ。
まぶたや眼球、口の中まで筋肉で覆うわけにはいかない。
そこを狙ったのだが、アスタロもさすがにそれは察知して腕でカバーしたのだ。

それでもハニーは前向きだった。
今回は失敗したが収穫もあった。
腕で守ったということは、ハニーの予測通り、目や口は弱点だということだ。
なら、付け入る隙はあるはずだ。

ふと気づいて、ハニーはまた顔を狙った。
アスタロは余裕すら見せて腕で覆った。

「何度やろうとしても無駄だ……う!?」

フルーレは、やはり上で遮られてしまったのだが、どうしたことかアスタロの顔が歪んでいる。
ハニーは不敵な笑みを浮かべると、続けて何度も同じ攻撃を繰り返した。
そのたびに、大男の苦鳴が大きくなる。

「ぐっ……こ、この……」

よく見ると、ハニーの繰り出すフルーレがだんだんと深く刺さってきているではないか。
堅いはずのアスタロの筋肉の中へ、徐々に深く突き刺さっていく。

(こ、この女……!)

ここに至ってアスタロも気づいた。
ハニーは、一度刺した傷跡と同じ場所を、寸分違わず何度も刺していたのだ。
最初は2センチほどだった深さの傷も、二回目には2.5センチ、三回目には3センチと、
だんだんと深くなっていったのである。
右腕と左腕を交互に使っても、結局は同じことだ。
このままでは貫通されてしまう。
これと同じ攻撃を急所に受けたら、いかに彼でもタダでは済まない。
アスタロは生まれて初めて恐怖を感じていた。

「ちっ……」

その様子を別室でモニタしていた長姉は舌打ちした。
ハニーの戦いぶりを見て、かなりやるだろうとは思っていたものの、自分が手塩に掛けて改造
した弟が窮地に陥ると平静ではいられない。
身内がやられるという悔しさと、こっちの思い通りにならない悔しさがない交ぜになる。
リリは黙ってスイッチを操作した。

「あっ!?」

ハニーは突然、顔を覆ってしまった。

(な、なに……? 今の……)

急に視界が飛んでしまったのである。
目の前が真っ白になったのだ。
慌ててまぶたをぱちぱちすると、ようやく視力が戻った。
まだ視界が乏しい。
目を閉じるとまぶたの裏が赤かった。
手の甲で目を擦り、どうにか見えるようになる。
すぐに周辺を見回した。
何か強烈な光を当てられたような気がする。

あった。
壁と天井の境目。
都合4箇所に、何かおかしなものがある。
プリズムだ。
あれに何かの光線を当てているのだ。
プリズムの角度を操作して死角をなくしているようだ。
まずい、と思ったその時、またしても強い光がハニーの瞳を捉えた。

「あぐっ……」

また視界が消えた。
一瞬のことではあったが、アスタロにはそれだけで充分だった。

「すまねえ、姉貴!」

そう叫ぶが早いか、ぶぅんと風を切って巨大な手が唸った。

「きゃあ!」

ばちーんと大きな音がして、巨大な団扇くらいありそうな手のひらがハニーの右腕を叩いた。
まともに当たった衝撃で、握っていたフルーレが飛んでいった。

「しまった! ……あうっ!」

飛ばされた武器に目をやった隙に、今度は左手のひらがハニーの顔をぶったたく。
右頬をしたたかにビンタされ、美女は壁に向かって吹っ飛ばされた。

「ぐう……」

背中を強打し、一瞬呼吸が止まる。
平手で打たれただけなのに、まだ手が痺れている。
常識はずれのパワーである。
ハニーは手首を揉みながら、それでもすぐに前へ跳躍し、身構えた。
隙を見せれば、圧倒的なパワーで叩きのめされる。

「ふふふ……」
「……」

武器さえなければこんな女、どれほどのこともない。
アスタロはほくそ笑んで身構えた。
大手を拡げてハニーに向かう。
ハニーも力勝負を覚悟した。
少し脚を開いて踏ん張る。
同じように両手をあげて応じた。
ガシッと両者は手を組み合わせた。
力比べである。

「く……」

ハニーは少し後悔した。
やはりレスラーか何かに変身するのだった。

一方、アスタロの方は感嘆していた。
女とは……いや人間とは思えぬパワーの持ち主らしい。
しかも。
アスタロは生唾を飲み込んだ。
筋肉の動きが素晴らしい。
腰をやや落とし、脚を開いて踏ん張っている。
そのふくらはぎ及び太腿の筋肉がグゥッと張り詰める。
脂肪層を押し分けて筋肉が剥き出しになってきた。
臀部にも力が入り、まろやかそうだったヒップが空豆のような形状となっている。
なめらかそうだった腹部にも、見る見る腹筋が浮き上がってきた。
そして彼の両手と組んでいる腕。
たおやかで女性らしかったそれは、肩、上腕部、二の腕にも筋肉が盛り上がってきた。

これでいい。
これでこそアスタロの相手となるべき初めての女だ。
だが、筋肉増強剤や肉体改造で、体力や腕力に偏った身体になった巨漢に敵うものではない。
実戦やレスリングの試合ならともかく、こうした単なる力比べでは如何ともし難い。

「く……うぅ……ああ……」

肩の上あたりで組み合っていた腕は、いつのまにか裏返しにされていた。
胸の前で手首が逆間接に掛けられている。
指も限界だ。ぎりぎりと骨の軋む音がする。
アスタロがにやっと嗤って、さらにぐいっと力を込めた。

「うぐあっ……!」

ビキビキビキッ。
骨が砕けたと思った。
実際には、折れてはいなかったものの、セラミックで出来た指の骨に亀裂が入った。
そこで巨漢はハニーを解放した。

「う……く……」

さすがにハニーは片膝をついた。
痛む箇所を手で押さえたいところだが、両手の指を折られている。
ひどい冷や汗をかいていた。
目に入ってしみているが、気にする余裕もない。
アスタロはずんずんと足音を響かせてハニーに近づくと、容赦なくその右肩を掴んだ。

「くっ……は、離しなさい……」

口調こそ命令形で強がってはいたものの、彼女は激しい苦痛を感じている。
指を折られた痛みだけでなく、今度は右肩が潰されんばかりに掴まれているのだ。
アスタロは片腕でハニーの右肩を掴み、彼女を持ち上げた。
驚くべき腕力である。
そしてハニーの肩を掴んだ左手に力を込め、ぐいっと捻った。

「うぐあああっっ!!」

ボクン。
厭な音がした。
巨漢は美女を投げ飛ばした。
ハニーはバランスも取れず、顔から床に落下した。うまく立ち上がれない。
今度は右肩の関節をはずされたようだ。
指の痛みは少しずつ消えている。治りかけているようだが、肩の痛みが激しい。
なおも大男は手を休めず、ハニーを攻めた。

「んっ……ああっ……」

男は美女の両手をひとまとめにして、それを右腕一本で持ち上げた。

(か、肩が……っくうっ……)

ハニーはあまりの痛みに顔を歪めた。
肩が外れた状態で、腕を掴まれて持ち上げられているのだからたまるまい。
普通の人間なら、激痛で失神しかねない。
アスタロはしばらくハニーの肢体をぶらぶらさせると、いきなりメガトンパンチを叩き込んだ。

「うんっっっ……!!」

ドボッと巨石を泥田に叩きつけたような音がした。
ハンマーのようなアスタロの拳がハニーの腹にめり込む。
拳が半分ほども腹部に沈み込んだように見えた。

「お……う……」

アスタロが手を引き抜くと、ハニーは呻いた。
その腹筋は、巨漢の拳の型がはっきり残っているほどの強烈なパンチだった。
ハニーは意識が遠のくのを感じた。

「……」

別室で監視しているリリは食い入るように画面を見ていた。
素の映像だけではない。あらゆる情報を得ようと、様々なスキャナを使用している。
今見ているのは体内循環系を透かしている画だ。
アスタロと力比べをしていたハニーが小さく跳ねた。
指を折られたに違いない。
アスタロに力比べを挑むなど笑止、とリリは嗤った。

見ると、ハニーの頭部が薄紅色に染まっている。
それが徐々に赤くなる。
そしてその色が全身に回りだした。
だが、よく見ると、その色は手の先端──指に多くが向かっていた。

「……なるほど。あれが苦痛を押さえている物質らしいわね」

ここまで観察してみると、やはりキューティーハニーといえど苦痛は感じているのだ。
ただ、その苦痛をすぐに克服しているように見えた。

リリが想定した原因はふたつである。
ひとつは単に我慢しているだけというケース。
実は痛いのだが、精神力で堪えている場合だ。
もうひとつは何かしら体内で苦痛を癒しているケース。
これは人間に近い。
つまり脳内麻薬である。
肉体的および精神的苦痛を和らげる物質だ。
ドーパミンである。
思うに、この赤っぽい流れこそ、そうなのだろう。
ただ人間のそれと異なり、脳に発生したドーパミン様物質は、患部に流れ込み、直接苦痛を
和らげるのだろう。

ライブ画面には、アスタロがハニーの腹に拳をぶち込んだ映像が映った。
リリはすぐに循環画面を確認した。やはりそうだ。
脳部に発生した赤い流れは、急速に腹部に向かって流れ込んでいる。

「……」

細かく調べてみると、体内を巡っている色は赤だけでなく青や緑もあった。
そういえば、確かドーパミンには快感と覚醒作用があるが、出過ぎると精神分裂症になる可能
性があったはずだ。
それを抑えるの物質がGABAである。
そしてそのGABAの作用を抑制するのがβエンドルフィンなのだ。
化学構造式はβエンドルフィンがモルヒネに酷似し、ドーパミンが覚醒剤に似ている。
ハニーの脳髄からも、同様の物質が出ているのであろう。

「……まったくよく出来ているわね」

リリは軽く頭を振って感心した。
同時に、これだけのものを作り上げた如月博士への憧憬ならびにハニーに対する嫉妬のような
ものすら感じている。
ギリッと歯を鳴らしながら、隣のモニタを見て驚いた。
そこにはハニーの骨格が透けて映っていたのだが、さっきアスタロに折られたはずの指が治り
かけている。
砕かれ、亀裂骨折していたはずの指が、朧気ながらくっつきつつあるのだ。
これは脳内麻薬では説明できない。
この女にはまだまだ謎が多そうだ。
リリは酷薄そうな笑顔を浮かべ、データの分析を始めた。

「ぐおっ!」

「うむっ!」

「うくあっ!」

「おおうっ!」

両手を吊られたまま、ハニーはアスタロのパンチを食らい続けていた。
重量級のパンチを何発も腹筋に喰らい、ハニーは半死半生だった。
殴られ続け、意識が遠のくと、次の拳で強制的に気を取り直させられる。
そこをまたパンチを受けるのだ。

「……いい加減まいったらしいな、ねえちゃん」
「ぐ……」

もはや、まとまった言葉が言えなかった。
最初のうちは反発するようなセリフを吐いていたのだが、もうそんな気力も失せている。
口の端からは血が滴っていた。
間違いなく内臓が傷ついている。
普通の人間なら、一発喰らえば衝撃死しそうなパンチを10発も20発も受けているのだから
当然だろう。
悪ければ内臓破裂くらいしていそうである。

がくりとハニーが顔を落としたところで、アスタロは女体を無造作に放り投げた。
まともに頭が壁にぶつかり、ハニーは目の奥に火花が散った。
巨漢はその脚を引きずって、うつぶせたまま小さな台の上に腹を乗せた。
ちょうど尻を突き出すような格好だ。
ゴクリとアスタロをツバを飲んだ。
たくましい臀部だ。
筋肉も発達していそうである。

はやる気持ちを抑えて、ロープで女を縛り始めた。
もうこれだけ痛めつければ反撃する気力も体力もないだろうと思うのだが、姉の指示でこうして
いる。
信じられないが、この女はどれだけやられても自己修復してしまうらしい。
念のために拘束するのだ。
やってる最中に反撃されたら厄介だからだ。
ぎりぎりと容赦なく、力一杯縛り上げた。
ハニーから苦しそうな呻き声が上がったが、気にするような男ではない。

「……ったく縛りにくいな、女の身体ってのは。このでかい胸は何なんだよ、やわらけえな。
邪魔だぜ、くそ。縛りにくいったらねえぜ」

普通の感覚なら、ハニーのバストを見れば昂奮するのが普通の男だろうが、アスタロはもともと
ゲイである。
柔らかい女体になど、何の興味もない。
彼がハニーを犯ってみたいと思ったのは、女とは思えぬ強さとその躍動美、筋肉の素晴らしさ
故である。
この身体なら、さぞかし括約筋も発達しているだろう。
締めつけもいいはずだ、というわけだ。

「く……きつい……どうせ縛るんなら……もっと緩く……しなさいよ……」

それを聞いて、巨漢は「ほう」と唸った。

「もうそんな口が利けるのかい。なるほど姉貴の言ったことは正しいようだな」
「何だか知らないけど……こっちはレディなんだから、もっと気を、あぐっ!」

ロープはハニーの胸を上下に挟み込んでいる。
そのまま縄尻を後ろに回し、両腕を肩胛骨の上でひとまとめにして縛り上げた。
遠慮のない緊縛で、目一杯きつく縛ったためか、ハニーの肋骨に数本亀裂が入った。
縄目が胸にも背中にも手首にも食い込んでいた。

「ぐ……うう……」

身動きがとれない。
普通の麻縄でただ縛られただけなら、ハニーはそれを引きちぎることも可能だったろう。
だが、樹脂製のロープでこのように不自然な格好で縛られたら、いかにハニーでも力の出しよう
がないのだ。
無理に力を入れようものなら、肩がまた外れそうだ。

ハニーがもがき、腰が動く。
尻がぷりぷりしている。
だがアスタロには、その大きな尻の内部に隠されている強靱な筋肉が透けて見えるかのよう
だった。
いっそ脂肪層をむしり取って、筋肉を剥き出しにしてから犯したいくらいだ。
だが、それをやったらリリに折檻され、カイムにもぶっ飛ばされるだろう。
カイムもハニーを犯す気なのだから。
ビリリッとハニーのコスチュームを破いた。

「あっ、いやあ!!」

破れにくい強固な繊維で縫製されているはずだが、アスタロのパワーにかかっては紙も同然
だった。
アスタロは尻の谷間に指を入れ、そこから一気に股間部分のみを引き裂いた。

「ああ……」

見られたくない女の秘密の部分だけが晒されている。
ここに至って、ハニーも初めて「犯されるのではないか」と戦慄した。
今までも、こうしたことがなかったわけではない。
しかしハニーの身体を欲しがるような性欲過多の連中は、実力的に彼女の敵ではなかったし、
強敵と認めるような相手は、戦いのみに全力を集中してきたものだ。

従って、ピンチがなかったわけではないが、結果として凌辱されたことはない。
こうなってみると、こいつらは最初から自分の身体が目的だったのかも知れない。
だからこそ、こうして罠に掛けたのだ。
だが、それにしては陽動が派手すぎる。
ハニーだけが目的で、あそこまでの事件を起こし続けたのだろうか。
そんなことを考えていると、突然、男がハニーの尻をひっぱたいた。

「痛っっ……!」

ばちーんと派手な音が響いた。

「おお、いい音だな」
「何するのよ! 子供じゃあるまいし、お尻ぺんぺんされるようなことはしてないわ」
「減らず口を叩くな。代わりにオレがケツを叩いてやらあ」
「痛いっ!」

もう一発ひっぱたくと一端ハニーから離れ、すぐに戻ってきた。
後ろで何やらごそごそしている。見えないだけに不安だった。

「な、何してるのよ」
「なに、大したことじゃねえ。姉貴に言われたことを忘れてたんだ」
「だから何を……」
「これさ」

そう言ってアスタロが見せたのは巨大な注射器だった。

「ちゅ、注射?」
「カマトトぶってんのか? 針がねえだろ、こいつは浣腸器だよ。おめえのケツの穴からクスリ
を入れてウンチさせるんだ」
「なっ……」

ハニーの顔から血の気が引いた。
とんでもなく大きな浣腸器だ。
一升瓶くらいあるのではないか。
そんなに入れられたらどうなってしまうのか。
美女は青くなった。
当たり前である。
これまでそんなことはしたことがなかったのだ。実はアスタロも躊躇はしていた。
アヌスをやってペニスが便にまみれるのは気分の良いものではないから、姉から浣腸するよう
に言われた時は納得していた。
しかし、これだけの量を入れたらタダでは済まないだろう。
腹が裂けるか、いや死んでしまうのではなかろうか。
生きていても使い物にならないのでは意味がない。

だがリリは薄く嗤って「絶対に大丈夫」と言ったのである。
なら従うしかなかった。
リリの方としては、ハニーに精神的な苦痛や苦悩を与えて、それがどう回復されるのか確認した
かったのである。
凌辱だけでなく、もっとも恥ずかしい浣腸や排泄を見られるという屈辱を味わわせ、その時の
脳の様子を見たかったのだ。

「や、やめて……やめなさい! そんなひどいこと……あ!」

アスタロは予告もなくハニーのアヌスにノズルを突き立て、その中身を注入した。

「う、ああっ……はああっ……な、なに、これ……いやあ……」

ハニーは異様な感覚を腸内に感じた。
入れられている薬液がおかしい。
水のようにさらさらしていないのだ。
濃度が極めて濃い。どろどろした溶液である。
いかに浣腸経験がなかろうとも、それくらいはわかる。

「心配すんな、毒じゃねえ。オレにはよくわからんがな、姉貴が特別に調合した浣腸液だとさ」
「そんな……くっ……き、きついのよ……い、入れちゃいやあ……」

溶液自体は毒物でも劇物でもない。
ただ、水分を少々飛ばしたマンナンゲルである。
ただ、それが腸内に入ると浸透圧の関係で、飛ばされた分だけ腸内の水分を吸収する。
経験のないハニーには死ぬほどきついはずであった。
だが死ねない身体である。
それを見越したのか、リリは気死するほどの強烈な薬液を用意したわけだ。
慣れていないのだから、最初は少しずつ入れるところだろうが、この男にそんなことは期待でき
ない。
ぐいぐいとシリンダーを押している。
アスタロも、浣腸されるハニーの苦悶の表情を見て、少なからず昂奮しているのだ。

「んおおお……やあ……入れないで……やめて……ぐぐぐ……お、お腹が……」

ハニーは、もう我慢できないとばかりに身をくねらせ、表情を歪めた。
尻がうねると、一層アスタロが昂奮する。
カイムなら、そのぷりぷりした豊満な尻たぶに昂奮するところだろうが、アスタロはその脂肪層
の中で臀部筋がくりくり動く様子に昂奮していたのだ。

「く……ふ……うう……ん、んん……ああ……」

もう半分ほども注入されていた。
少しは慣れたのだろうか、ハニーの呻きも少し変化してきていた。
苦しいのは苦しいのだろうが、泣き叫ぶほどではない。
それでも腸内が徐々に膨満していく感覚は耐え難かった。
わなわなと全身が震えている。
目は固く閉じられていた。
必死になって浣腸のおぞましい感覚を堪え忍んでいるのだろう。

「く、苦しい……も、もう……もういい加減に……なさい……あっ……お尻、きついのよ……
ああ……」
「そんだけ喋れれば上等だ。まだまだ入れてやるぜ」
「やめ、なさい……くう……お腹がどうにかなりそうよ……」
「まだまだ。あと一本は入れるからな」
「そんな……ど、どうしてそんなこと、あっ、されなきゃならないの……ううっ……」
「そりゃあこの後の準備のためさ。まあ姉貴も何か目的があるようだったがな」
「こ、この後って……まだ何かするっていうの……きついっ……」
「あたりめえだろうが。こんなのは余興のうちだぜ」

アスタロはそう嘯くと一気に残りを注ぎ込んだ。

「うあっ……」

残りがじゅるるっと強く注入されると、ハニーはグウンと身体を伸ばして呻いた。
その様子を見ながら、アスタロは新たな溶液を吸い上げている。

「どうだい、ハニー。初めての浣腸の味は?」
「いい……気分なわけ、ないでしょ……くっ……へ、変な感じよ、お腹が……」
「我慢しな。そのうち浣腸されたくて仕方がなくなるかも知れないぜ」
「バ、バカなこと言わないでっ……ああっ、ま、またっ!」

抜かれたノズルが再び侵入し、また腸内にクスリを注ぎ込まれた。
ハニーの呻きは、さっきよりずっと苦しげなものになっている。

「も、もうお腹、いっぱいよ、ああ……入れないで……こ、これ以上入れられたら……」
「どうなるってんだい? ウンチもらしちゃうってか?」
「……」

そう言われて意識してしまった。
重苦しい感覚がお腹の奥から湧いてきている。
便意だ。
もよおしてきたのがわかるのか、アスタロはにやにやしながらさらに注入する。
もう1リットルも入っているだけに、なかなか入っていかない。
腸内に溜まった薬液がシリンダーを押し返そうとしているかのようだ。
それをアスタロの馬鹿力で押し込んでいく。
もうハニーのスレンダーな腹部は小さく膨らんですらいる。
大量の浣腸液のせいだろう。ハニーの腸内は薬液と便意の嵐が吹き荒れていた。

「も、あっ……も、もう入らないわよ……や、やめて、お願い……くく……きつ……苦しくて、
もう……」
「へへ、いい具合に腹も膨れてきたな」
「ひゃああっ、やめて、触らないで! お腹がっ……」

軽く腹を押されただけで、ハニーはつんざくような悲鳴を上げた。
うねった裸身に汗が光っている。
冷や汗も脂汗もごっちゃになっているようだ。

「お腹……お腹がおかしい……もう破裂しちゃう……は、入らないわよ……あああ……」
「それ」
「あぐうっっ」

残りを一気に入れると、ハニーは全身を大きく痙攣させた。

「ほうら全部入ったじゃねえか。2リットルも入ったんだぜ。普通の女にはとても無理な量さ。
それを、浣腸初めてのはずのおめえは受け入れちまったわけだ」
「そ、そんなに入れたの……?」

ハニーは震えた。
腸内容積を上回っているのではないだろうか。
本当に腸が裂けてしまいそうだ。

「あ……ああ……」

ハニーの声が切羽詰まってきた。

「く、苦しいわ……あ、あ……もう……もう、どうにかして……」
「どうするって?」
「……」

言えるわけがない。
排泄したいのだ。
ハニーの腸が、ぐるるっ、ぐりゅうっと不気味な音を立てている。
人間と同じである。
もう息をするのも苦しそうに、歯を食いしばっていた。
アヌスの方もひくひくと蠢き、僅かに溶液が滲んでいる。
ちょっと力を抜けば、一気に出てしまうのだろう。

「あ……ああ……も、もう……」
「だから、「もう」なんだよ」
「ああ言えない……そんなこと、言えないわよ……くうう……」
「言えなきゃこのままだぜ。苦しいんだろ?」

もう限界だった。
さっきからハニーの腸では薬液が暴れ回っているのだ。

「も、もう我慢……できないっ……」
「我慢できなきゃ、どうなんだ?」
「くっ、こ、この……ああ……もうだめ……で、出ちゃうのよ!」

死ぬ思いで口にしたハニーだったが、まだ許されなかった。

「もっと言えよ。はっきりとな」
「いやっ……ああ、で、出そう……出ちゃうわ……んんん〜〜っ……苦しい……も、だめ、
出る……」
「まあいいか。じゃあしろよ、見ててやるから」
「いやっ!」

ハニーは目を剥いた。
ロープを解かれてトイレでするものだとばかり思っていた。
このままここで、しかもアスタロに観察されてするなんてことが出来るわけがなかった。
しかし理性ではそう思うのだが、身体の方がついていかない。
もう2リットルは注入されている。
普通の人間なら、とても入らない量だろう。
通常は、どんなに多くても500ccも入れることはない。
ハニーのすべらかなお腹が小さく膨れていた。

「ああ……もう……もうっ……さ、させて……」
「うほっ、キューティーハニーが「させて」ってか」
「が、我慢できない……こ、これ以上だめなのよ……ああ出る……し、したい……は、早く
させて……」
「だからしろって。見てやるから」
「いや、見ないで……あああ……だめ……もうだめ……出る……ああ、出ちゃうっ!」

その瞬間、アスタロは奇声を上げた。

「いやあああっっ、見ないでぇっっっ!」

「ふうん」

その様子を見ていたリリが感心した。
ハニーのアヌスからは大量に排泄されたわけだが、出てきたもののほとんどは薬液だったのだ。
排便はほとんどなかった。

「ということは、腹の中が空っぽだったか、それとも……」

人間の食物はそれほど必要としないか、ということだ。
少々便が出たということは、人間の食べるものからもエネルギーは得られるが、そうでない
直接的なもの──ガソリンとかウランとか──の方が効率よく熱運動できるのかも知れない。
一方、脳髄の方も変化が現れていた。
赤い物質が放出されている。
やはり疑似ドーパミンかエンドルフィンなのだろう。
肉体的な苦痛だけでなく、精神的なものにも作用しているということだ。
ということは、言葉だけで責めてもいけるということかも知れない。
ますますもってハニーの身体に興味を持つリリだった。

「ああ……」

浣腸と排泄。
決して見られたくない恥辱シーンをつぶさに観察された屈辱で、ハニーは涙を流していた。
ぶちのめされるよりも激しい怒りと恥辱を感じていた。
怒りがこみ上げ、ハニーのパワーレベルが上がる。
しかし、まだロープを引きちぎるところまではいかなかった。

ハニーのレベル──というより、能力リミッターは彼女の怒りによって外れることがある。
それは彼女が大事に思うものを傷つけられたりした場合に発動する。
言うまでもなく、空中元素固定装置である。

もうひとつある。
直慶たちだった。
彼らと暮らすにつれて、彼らを愛おしく思い、守りたいと真剣に思っていた。
だからハニーは、愛する人間──特に直慶たち──を守る時にこそ、最高のパフォーマンスを
発揮できたのだ。

だが今回はそれがない。
この場に直慶や団兵衛たちも連れ込まれ、アスタロが彼らを痛めつけでもしていたら、その時
こそハニーのリミッターは外れ、リリの想定以上のパワーを発揮し、姉弟たちをぶちのめして
いたことだろう。
リリらはそこまで考えたわけではなかったが、結果としてハニーひとりに的を絞ったことが功
を奏したのである。

「さてと」

アスタロはぐったりしているハニーを見て、舌なめずりした。
ぐうっとでかい尻たぶを開く。
思った通り、締まりの良さそうなアヌスがひくついている。
これなら愉しめるだろう。

「……まず、あっちからするか。お愉しみは後にとっとけってな」

そうつぶやくと名残惜しそうに女の尻を撫でた。
やはりぷにぷにと柔らかいのは趣味ではない。
犯す時は思い切り掴んで、脂肪の下にある筋肉の固さを満喫しようと思った。
その前にウォーミングアップだ。
アスタロはうつぶせているハニーの前に回ると、その赤い髪を掴んで顔を上げさせた。

「うう……」

まだ浣腸のショックが残っているのだろう。
肉体的にも精神的にも究極の辱めを受けたのだ。
まして初めての行為だ。
致し方のないことだろう。
もっとも、そんなことを斟酌するアスタロではない。

「ひ……」

髪を引っ張られ、やっと覚醒してきたハニーは、目の前に突きつけられたものを見て掠れた
悲鳴を出した。
大男のタイツを突き抜け、股間からそびえ立っていたのは男根であった。

巨漢に相応しい巨根で、びくびくと痙攣している。
太い静脈が浮き出てたくましさを強調し、亀頭はハニーの拳くらいありそうだ。
長さに至っては30センチくらいはあるのではないだろうか。
赤黒く、いかにも硬そうでカチカチしている。

ハニーは恐怖に震えた。
何しろ、まともにペニスを見ることなどこれが初めてなのである。
それが怪物サイズなのだから脅えるのは当然だろう。

キューティーハニーは処女であった。
当然と言えば当然で、彼女はヒューマノイドである。
彼女自身、それをよく理解していた。
団兵衛たちと暮らしてはいるが、人間ではないのだ。
しかし、如月博士は彼女に「心」を与えている。
愛や恋といった感情も朧気ながらあるのだ。

だが、ハニーは自分が「女」として扱われることをあまり期待はしていなかった。
まして男に抱かれるなど、思いもしない。
神経系統や脳組織など、人間のそれに酷似しているため、性欲そのものはあるのだが、彼女は
まだそれを意識したことはほとんどなかった。
そんな生粋の生娘が、経験豊富な熟女が見ても恐れおののきそうな逸物を目にしたのだ。
いかに正義のヒロインでも脅えるのは無理もない。

「くく、どうだ、良さそうなチンポだろうが」
「い……や……」

アスタロの方は、おののくハニーを見て満足げだ。
今までアスタロに強姦されてきた男たちも皆そうだった。
自分のペニスの偉大さに恐れおののく相手を強引に凌辱する。
それこそが彼の趣味だった。

ハニーの方も、過去こうして犯されそうになったこともないではない。
見た目が素晴らしい美女であり、官能的な肢体の持ち主なのだから、敵方にいる男どもが邪な
感情を抱かない方がおかしい。
幾度となくあったそのピンチも、すべてハニーは切り抜けてきた。
バストを揉まれたり、尻を触られたりしたことくらいはあるが、逆に言えばその程度で済んで
いた。
しかし、今回ばかりはただで終わりそうもない。
ハニーははっきりとした恐怖を感じていた。

「やっ……!」

それを口に突きつけられて、さすがにハニーも何をされようとしているのかわかった。
冗談ではない。
こんなもの、くわえるわけにはいかなかった。
むっとするような凄い匂いがする。
初めて嗅がされる男の匂いだ。
唇や頬に先っぽが当たり、擦りつけられる。
ぬるぬるしているのはカウパー液だろうが、彼女はそんなことも知らなかった。
ハニーが顔を振って抵抗すると、アスタロはその形のいい鼻を摘んだ。
閉じた口を開けさせるためだ。

「ぐ……む……」

死ぬ思いで耐えていたハニーだが、呼吸しないわけにはいかない。
意志ではなく、肺が酸素を求め、勝手に口を開けていた。
大男は、待ってましたとばかりにハニーの顎を持ち上げ、自らのペニスをその口にねじ込んだ。

「んむむっ!? ん、む……んっく……んんんっっ……」

亀頭部が唇を通り抜ける時、口が裂けるかと思った。
いや、でかい亀頭を飲み込まされた後でも、太すぎるサオがハニーの唇を目一杯開いていた。
唇の端が切れそうなくらいの太さで、咬みきろうにも顎に力が入らないのだ。

「んっ……んんん……」

またハニーの頬に涙が伝った。
まだキスすらしたことのない可憐な唇を奪ったのは、怪物の醜悪な肉棒だったことが悲しかっ
たのだ。
アスタロは嬉しそうに喚いていた。

「くぉぉ、こいつは具合がいいぜ! きつきつじゃねえか」
「ぐ……ぐぐ……」
「まるでケツを犯ってるみてえだ。きついが、中はぬるぬるしてやがる」

ハニーは目を白黒している。
咥内を規格外のものが暴れているのだ。
溜まった唾液が飲み込めないどころか、呼吸すらままならなかった。

アスタロは腰を使って、ハニーの美唇を犯し始めていた。
小さい口はきついが、唇そのものは柔らかく、男のペニスを優しくくわえている。
唾液のぬめりで、滑りもよくなってきたようだ。
あとは舌で愛撫させるだけである。

「ほれ、いつまでも呻いてねえで舌を使えよ」
「むぐうっ……んむ、んむうう……」

男はハニーの頬を軽く叩いて促すのだが、どうにもならない。
口の中いっぱいに男根が占領していて、とてもじゃないが舌の動くスペースがとれないのだ。
実際、ハニーの舌はアスタロの男根に押し潰されて、下顎に押しつけられている。
巨漢は「チッ」と舌を鳴らした。

「仕方ねえな。まあ、しゃあねえか。最初は誰でも俺様のものはでかすぎて扱いに困るらしい
しな」
「ふむっ……ふん、むむ……ぐうう……」
「じゃあこっちからやるぜ、いいな」
「ぐうう!」

アスタロはハニーの顔を両手で押さえると、グッと腰を突きだした。
ずぶずぶと男根がハニーの口中に沈んでいく。

「う、ぐぉぉっ……ぐぐ……うふうっ……」

半分入っただけで、もう口の中いっぱいだったのに、それをなおも押し込まれる。
限界まで開いたと思っていた唇が、さらに押し広げられる。
本当に裂けるかとハニーは思った。
顎が外れないのが不思議なくらいに、顎関節がガクガクいっている。
さっきよりも、また一回り太くなり、いっそう硬くなっているように感じた。
ハニーの美貌に、はっきりとした苦悶の表情が浮かんでいた。

「ん……んご……おおう……ぐううう……」

アスタロに遠慮はない。
今までもそうだった。
相手が死んでしまうとか、壊れてしまうからという理由で、責めを緩めたことは一度もない。
それで死んでしまったら、次の獲物を犯せばいいからだ。

「ぐ……ぐ……んぐぐっ!!」

とうとう男のペニスがすべてハニーに飲み込まれた。
アスタロの腰がハニーの顔にくっつく。
頬に当たるごわごわとした強い陰毛の感触も、男根の吐き気を催しそうな饐えた匂いも気に
する余裕がない。
男のものは、女の喉奥まで入り込んでいたのだ。
この現場を間近に見る者がいれば、ハニーの喉がアスタロの男根の形に膨れているのがわかっ
ただろう。

敵のペニスを喉まで入れられているという屈辱や嫌悪感よりも、息ができないという苦しさで
ハニーは悶えていた。
美女の苦しげな顔を見て、アスタロはいっそう昂奮する。
この姉弟は、揃いも揃って全員サディストなのであった。
ハニーの美貌から、さらなる苦悶を引き出そうと、男は腰を揺すって喉を突いてやった。

「ぐううっ!? が……げほっ、んほっ……ぐっ、ぐむううっ……」

咥内の粘膜が引きずり込まれるように喉へと押しやられる。
同時に喉の粘膜を太すぎるペニスがずりずりと擦り上げた。
ハニーは苦しくてえづき上げるのだが、その呻きすら口か出せない。
ハニーは口を犯されていることを実感した。
しかし、すぐにそれが認識不足だったことがわかった。

これは口が犯されているどころではない。
喉が犯されているのだ。
いや、食道を犯されているようなものだ。
アスタロのたくましい男根は、ハニーの唇を破り、咥内を突破し、喉を犯しながら、食道にまで
届いているのだ。
男が腰を動かすごとに、ハニーの白い喉をペニスが上下する。
腰を打ち込むと、喉の奥まで届かされる。
首の長さ分だけ、アスタロのペニスが侵入していく。
そのたびに、ぶくりと膨れあがる喉が破裂しそうだ。
腰を引くと、喉のふくらみが口まで引いていく。
それを何度となく繰り返された。

「んぐうっ……ぐうっ……んむうっ……ぐっ、おおう……」

少し慣れてきて、多少息苦しさがとれてきたと思いきや、アスタロはそれを見透かしたかの
ように、腰の動きを激しくしてきた。
強い敵を犯し、自由にしている。
口を犯しているのに、敵はそれを咬みきる気力も失せている。
その状態にアスタロは満足していたが、性的な快感としてはまだまだ物足りなかった。
女の方から愛撫させなければならない。
舌を使わせ、手でもやらせる。
今まだ拘束しているから手を使わせることは出来ないし、舌を使う余裕もまだないだろう。
だが、最後には必ずそこまでさせる。
それでこそ屈服させたことになる。
だが、この状態ではこれ以上望むのは無理だろう。
さっさと切り上げようと、アスタロは動き出した。

「んぐううっ……んむっ……ん、んおおっ……」

やっと慣れてきたところで動きが激しくなった。
再びハニーは苦悶した美貌を歪めた。
舌こそ使っていないが、アスタロにもそれなりの快感はある。
頬裏や喉の粘膜がペニスをぬめるように擦るのは気持ちがいい。
押さえつけた舌も、こっちから動けば、舐め上げているかのような感触は得られるのだ。
加えてハニーの苦しそうな美貌や呻きを聞いているだけで射精したくなってくる。

「くっ……よし、そろそろ出すぜ」
「ううっ……ぐうむっ……」

出すぜと言われても、何のことだかよくわからないのだろう。
ハニーは苦悶し、呻くだけだった。
アスタロは苦笑して教えてやる。

「わかってんのか、ねえちゃんよ。射精するって言ってんだぜ」
「ん……んぐ?」
「射精だよ。俺はキューティーハニーの口の中に精液を出してやるって言ってんだ」
「!! ぐうう!!」

いやいやと顔を振ったハニーだが、大きな肉杭が口に打ち込まれている以上、ほとんど動け
ない。
それでも必死の表情を浮かべて「それだけは許して」と懇願した。
その表情も、アスタロにとっては射精の手助けにしかならない。
いっそう激しく腰を使い出し、ハニーの喉奥を突き上げる。
途端にハニーはその苦しさに苦悶し、何とか息をしようと大きく吸い上げる。
その吸引が引き金になった。

「くおっ、だ、出すぞ!」
「んん! うぐううっ!!」

腰骨から足の裏にまで電流が通ったかのような激しい快感がアスタロを襲った。
その瞬間、堰を切ったように精がほとばしり出た。

どぼどぼどぼっ。
びゅくびゅくっ。
びゅるるっ。
びゅるるうっ。

「んんんっ!?」

初めての感覚に、ハニーは目を見開いた。
その頭をがっしりと抑えながらアスタロは叫んだ。

「くっ、いいかっ、飲むんだ! 全部、飲むんだぞ!」
「ぐうっ、ぐううっ」

飲むも飲まないもなかった。
アスタロは肉棒をハニーの喉の奥どころか、食道にまで押し込んでいるのだ。
そこに射精されたのである。
ハニーは生臭い精液を口で味わうことはなかったものの、直接、胃の中へ精液を流し込まれて
いた。
どろどろの、糊のように濃い精液がハニーの胃袋の中にどぼどぼと注がれていった。

「……ようし」
「ぷあっ……げえっ、げほげほげほっ……えっ、えほっ……」

巨漢は一滴残らず射精し、満足してハニーの口から肉棒を抜き去った。
嫌がる相手に、無理矢理精液を飲ませるのは、やはりいいものだ。
征服欲を満足させられる。
今回は最初ということで喉の奥に射精してやったが、今度は口の中に直接吐き出して俺の味
を覚えさせてやる。
そして、ごくごくと喉を鳴らして飲み干すように仕込んでやろう。
げえげえと、今飲まされた精液をほとんどもどしているハニーを見ながら、アスタロの武骨
な顔に笑みが浮かんでくるのだった。




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