日本、東京。
千代田区霞ヶ関にある警視庁庁舎から見下ろす東京の夜景は、この時刻になっても、一向に
弱まる気配はない。
不夜城・東京を護る猛者たちが詰める、刑事部捜査第一課──通称、刑事部屋でも、今日は
もう人影がほとんどない。
取り立てて大きな事件もなく、解決に手間取っている広域犯罪もなく、取り敢えずは平穏な
一日だった。
そのせいか、刑事たちの帰宅も早かったようだ。
いざ事件が発生すれば、真夜中だろうと早朝だろうと、あるいは休日であろうとも容赦なく
呼び出され、捜査に当たる。
基本的に、彼らには「休日」というものはない。
常に自分の居場所は知らせておかねばならないし、すぐに連絡がつけられる環境にないと困る。
「休日」ではなく「非番」と呼ばれる所以だ。
おまけに、大事件ともなれば何週間も帰宅できないことも珍しくない。
だからこそ、何もない時にはさっさと家に帰って身体を休めるのも仕事の一部だ。
ただひとり居残っていた男──強行犯捜査三係の高木渉刑事は、デスクに座って何やらパソ
コンで書き物をしている。
何が気になるのか、ちらちらとドアに目をやっていた。
ついでに壁の時計に確認すると、もう23時である。
キーボードから手を離し、首をコキコキ回していると、いきなりドアが開いたので高木は飛び
上がって驚いた。
「あら、高木くん?」
入ってきたのは、強行犯捜査三係の紅一点──というより「刑事部屋の華」と称される佐藤
美和子刑事だ。
昭和52年、群馬県警に於いて25歳と23歳の女性警察官が、日本で初めて殺人担当の刑事
として抜擢されている。
以来、他都道府県でもぼちぼちと強行犯担当の刑事に女性が起用されることが増えてきた。
この警視庁でも例外ではないが、美和子ほど有能な女性刑事はいなかった。
女性捜査官としてというよりも、男性捜査官と比べても何の遜色もないどころか、彼ら以上の
能力と実績を示していた。
捜査能力はもちろんのこと、射撃の腕前などは一課でも1,2を争う。
年齢にそぐわぬ「警部補」という階級が、彼女の能力、実績を示している。
気丈で精神的に強いものの、決して厳しい一方ではなく、民間人に対しては物腰が低く、
人当たりも良い。
ややきつそうな目つきではあるが、一課どころか本庁内の男どもの視線を奪う美貌を損なう
ほどのものではない。
何かの拍子に笑顔になると、いっぺんに年齢が若返る。
高木刑事も、美和子に惚れているひとりである。
「……あ、佐藤さん、終わりましたか」
「あら? もしかして待っててくれたの?」
「あ、いえ、そんな……」
美和子がからかうと、高木が照れくさそうに慌てる。
その様子が面白くて──あるいは可愛いと思ったのかも知れない──、先輩の女性刑事が
さらに言う。
「なんだ。待っててくれたんじゃないのか」
「い、いや、そういうわけでは……」
「まあいいわ」
クスクス笑いながら美和子はデスクに戻った。
場所は高木の隣である。
座りながら「うん」と言って伸びをすると、首を回した。
だいぶ肩が凝ったらしい。
高木は、揉んでやろうかとも思ったが、セクハラ扱いされても困る。
そんなことを考えていたら、美和子が顔を寄せてきた。
「なにしてたの?」
「はあ、こないだのヤマの報告書を……」
「ふうん」
前回、高木と美和子が組んで捜査に当たった強盗傷害事件の調書と報告書らしい。
画面を覗き、高木のタイプした文章をチェックしながら美和子が言った。
「高木くんね、これ、どうしてゲロさせるの手間取ったと思う?」
「いや、僕の能力がなくって……」
「能力の問題じゃないの」
後輩の弱気を、美和子はぴしゃりと否定した。
「もっと強気でビシビシやらないから、容疑者に舐められてるのよ、あなた」
「いや、でも……容疑者にも人権はありますから、あまり無茶なことは……」
「それはそうよ。戦前戦中の特高警察じゃないんだから、手を出しちゃダメよ」
と言ってはいるものの、美和子は時々「やりすぎる」こともある。
ただそれは、あまりにも犯人が狡猾だった場合とか、その容疑者から早く証言を取らないと、
さらに被害者が出かねない場合など、止むに止まれぬ時に限られる。
美和子自身もわかっていてそうしているから、我を忘れて殴る蹴るなんてことはない。
加減はしているわけだ。
もちろん容疑者に「不当な暴力」を加えることは違法捜査になるのではあるが、美和子の場合、
それが問題になったことはない。
裁判になった時、被疑者が不当な取り調べだったと──特別公務員暴行凌虐罪だと主張すれば、
自白証言が無効とされるのだが、美和子に殴られた被疑者がそれを訴えたことはなかった。
取り調べの最後には、容疑者の方も美和子に絆されて納得ずくになっているからだ。
一方の高木は、まだ経験が浅いということもあろうが、美和子などから見れば、今ひとつ詰め
が甘い。
物足りない。
オトシの技術面というよりは、気の優しい高木の性格的なものだろう。
先輩として同僚として、美和子もしばしばそのことを指摘しているのであるが、性格のこと
だけに、そうそう変わるものではないらしい。
「いいこと? 何も容疑者の人権を無視しろって言ってるわけじゃないわよ。押してもダメ
なら引くっていうのならいいけど、高木くんのは最初っから引きっぱなしじゃない。それじゃ
相手に舐められるってこと。あなた、あと一押しが足りないのよ。わかった?」
「はい……。努力します」
「で?」
「で、とは?」
「この報告書上げるためだけに居残ってたわけじゃないんでしょ? 課長に提出するのは来週
でいいんだから。私に何か用があったんじゃないの?」
「……」
図星である。
次の非番の時、デートに誘おうとしていたのだ。
美和子の非番の日を調べて、その日は仕事に影響がないとわかったから、自分は有給を取ろう
と思っていた。
言い出すきっかけが掴めず、そのまま日が過ぎて、とうとう美和子の非番が明日に迫ってしまっ
ていたのである。
高木が、ここまで思い切りが悪いのも、男の自分が年下の後輩であることを意識し過ぎるという
ことに加え、まだ美和子が松田刑事のことを忘れられないのではないか、という懸念があった
からだ。
美和子の側も、高木に悪からぬ印象を持っていることは彼にもわかるのだが、生来の優柔不断
な性格もあり、なかなか恋人同士に発展できないでいる。
つい高木は話を逸らしてしまう。
「それより佐藤さん、課長の話って何だったんですか?」
「私? ……ああ、出張の件」
「出張? 佐藤さん、どこか行くんですか?」
「ええ、明後日から。だから明日の非番は貴重だわ」
「……」
美和子がちらと思わせぶりな視線を送るのだが、高木は口ごもってしまう。
そんな彼を見て、軽く首を振りながら続けた。
「アメリカですって。シカゴ」
「は? アメリカ? 何ですか、それ」
出張に限らないが、仕事の件なら、通常、松本課長は一課内の自分のデスクに呼び付けて行う
のが通例である。
それが、どうしたことか今回はわざわざ滅多に使わぬ課長室に美和子を呼びつけたのだ。
しかも、内示は午前中にあったものの、実際に部屋へ来るよう言われたのは22時過ぎだった。
課長の態度も妙におかしかったので、訝しんだ美和子が部屋に行くと、課長の他にふたりほど
先客がいた。
直属の目暮警部がいたのはわかるが、刑事部長の小田切敏郎警視正までいたのには驚いた。
ただならぬことだと美和子が覚悟していると、口を切った小田切からとんでもない話が出た。
「パレットですって!?」
高木の声も高くなった。
美和子が唇に人差し指を当てる。
「しっ。一柳警視の件もあるし、本庁内でも誰が連中の協力者かわからないんだから、大声で
言っちゃダメよ」
「す、すいません……、しかし、なんで今頃……」
「それがね……」
敏腕女刑事も声を潜ませた。
実はシカゴで、パレット関係者らしい容疑者が浮かんだらしいのである。
前回の事件で、パレットが日本でも本格的に活動し始めたことを重大視した警察庁は、IC
POを通じてユーロポールおよびアメリカ司法省、FBIとも連携した捜査協力を行うこと
にした。
日本で起こした事件は、パレットにとって大失態だったらしく、以降、各国での活動も低下
していた。
沈静化していた事態に動きがあったのでは先月のことらしい。
別件で追っていた大物の犯罪容疑者が、パレット幹部らしい情報があったのだそうだ。
しかも驚いたことに、その容疑者がミシェルらしいのだ。
その名前を口にした美和子の美貌が少し歪む。
無理もない。
仲間たちは誰も口にしないが、美和子が前回の事件の際、性的な暴行を受けたことはほぼ間違
いがないとされている。
気を使って言わないだけのことだ。
その主犯である男がいたというのだから、刑事魂とは別に復讐心が燃え上がるのは当たり前
だろう。
穢されたのは美和子だけではない。
毛利蘭や親友の交通課巡査・宮本由美まで毒牙にかかったのだ。
蘭はどうにか日常を取り戻したようだが、由美は凌辱のショックが大きく、未だに警察病院へ
入院している有り様だ。
許せる相手ではなかった。
高木は深くうなずいた。
「そういうことですか……。あ、それで佐藤さんが面通しをってことなんですか」
「みたいね。まあ面通しって言っても、まだ確保してあるわけじゃないらしいけど」
そうなら美和子に協力要請が直々に来たのもわかる。
何しろ、生きたパレット幹部を目撃して、なお命長らえているのは、世界でも彼女ひとりだけ
なのだ。
由美もそうだが要請に応じられる状況ではないし、蘭は民間人の上に記憶を失っている。
美和子しかいないわけだ。
おまけに、警察官である彼女の証言は、証拠としても重く受け取られるに違いない。
思うところがあるのか、後輩の表情が重くなってきたので、美和子はおどけるように言った。
「そういうわけで、明後日から海外出張。でも、相手の人相確認をするだけで他には何も仕事
はないから、休暇気分で行って来いって言われたわ」
「はあ、それじゃ忙しいですかねえ……」
「私? そうでもないわよ、準備なんか着替えくらいだからすぐ出来るし、出発は明後日の
夕方の便だもの。チケットはもう取ってあるそうだし。明日はまる一日フリーね」
「そ、そうですか」
ならばチャンスではないか、と、高木でもそう思うのだが、美和子を目の前にすると、どうし
てもその先が言えない。
「それなら明日は気晴らしにどこか出かけませんか」と言えばいいだけなのに。
美和子が断るはずもないのに。
彼の口からは、まったく別の言葉が出てしまう。
「それなら……明日はゆっくり身体を休めておかないといけないですね。ぼ、僕ももう今日は
上がりますから、佐藤さんも帰りましょう」
「……」
美和子は内心ため息をつく。
彼女としてはモーションをかけているつもりだし、まともな男なら、それを敏感に受け取ると
思う。
なのに、高木は腹芸が通じないのか、単に鈍いのか、それとも気づいてはいるが踏み出せない
のか、わかってない顔をしている。
恋に悩む腕利き女性捜査官は小さくため息をつき、頼りない恋人候補生に聞こえぬよう小声で
つぶやいた。
「……ホント、あと一押しが足りないんだから」
─────────────────
アメリカ、シカゴ。
この合衆国第三の都市は、北米大陸の真ん中から、やや北東にあるイリノイ州にある。
日本で言うと、緯度は北海道の函館とほぼ同じ。
冬は寒いが、気候は温暖で大気も乾いており、快適な土地柄だ。
アメリカの大都市の中では、例外的に安全な街である。
ただしそれは「アメリカの常識範囲内で」という意味であり、日本のそれと比べれば遥かに
危険度は遥かに高い。
それでも近年、めきめきと犯罪発生率──それも殺人、強盗、レイプなどの重大犯罪──が
減少しているのは事実だ。
その治安を預かる本拠地であるシカゴ警察局。
そのビルの局長室で、先ほどから大きな声が響いている。
何を言っているのかまではわからないが、怒鳴り合っているのはわかる。
いつものことなのか、署員たちは無反応、あるいはクスクスと笑いを噛み殺していた。
「だから、なんだってこの俺がパレットなんかの……」
「『なんか』とは何だ! きさま、パレットがどれほどの組織か知っとるのか!?」
「ああ、それくらい知ってるさ。だがな、俺の追っかけてるのはロードバスターであって、
そんな犯罪組織じゃねえぞ!」
「それくらい儂だって知っておるわ! だが、今回の件には市長も注目しとる。儂としても
最優先で取り組まにゃならんのだ」
立っている男が「ふん」と鼻を鳴らした。
金髪の髪をオールバックでまとめている。
少々白いものが混じっているところを見ると、けっこう歳もいっているかも知れない。
40歳すぎといったところか。
口の周囲に髭を蓄えており、これは綺麗に手入れされていた。
そのくせ、着ているスーツもネクタイもよれよれだ。
ものは良いようだが、如何せん手入れを怠っているらしい。
目つきは鋭く、口元は皮肉げに歪んでいる。
「せっかくウチの管内で掴んだ情報だ。これを逃せば市長にも叩かれる。それだけじゃない、
この警察局は無能と見なされ連邦警察に乗り込まれるぞ。わかっとるのか、パーシー!」
デスクを叩いて怒鳴っている巨漢は、局長のオライリーである。
こちらは、痩せ気味のパーシー警部とは対照的なビール樽体型だ。
ブルーの制服ワイシャツの腹のボタンが弾けそうになっている。
丸い身体の上に、これまた丸い大きな顔が乗っている。
頭部は半ば禿げ上がり、黒い髪は額を遥かに上へ通り越している。
モミアゲを伸ばし、鼻髭とつなげていた。
その髭を引っ張りながらオライリーが言い含めるように告げた。
「だからおまえにもそっちを手伝ってくれと言っとるんだ。もしやり損なったら、ロードバス
ター……運び屋の追っかけも出来なくなるぞ。それでもいいのか?」
「……ちっ」
「ロードバスター」とは、パーシーが追い掛けている犯罪者のニックネームだ。
いわゆる「逃がし屋」である。
報酬さえ得られれば、仕事は選ばない。
警察から逃げようとしている犯罪者も、悪党から追われている善人も区別はしない。
追っ手から依頼人を逃がすことのみを生業としているのである。
パーシーはそのロードバスターとは腐れ縁で、彼がショバをシカゴに移すと、自分もシカゴへ
転属を希望して来たのである。
パーシーは、デスクに放り出された資料を渋々手に取った。
彼が腕利きの捜査員であることは、局長であるオライリーも認めている。
だがこの悍馬は、能力がある分、自己中心的で極めて扱いにくい。
もしかすると、そうしたものは表裏一体なのかも知れない。
1920年代からマフィアと戦い続けてきたシカゴ市警も、今はサラリーマン的な警察官が
増えている。
彼らは常識的で扱いやすいが、その分、捜査活動に執着がなく、能力的にも物足りない。
結局、いざという時にはパーシーに頼らざるを得ないのだ。
パーシーの方も、そのことは理解している。
自分が好き勝手に「運び屋」を追えているのも、オライリーが容認しているからだ。
一匹狼のパーシーは、他の刑事どもとも折り合いは良くないが、捜査員としての腕は一流だから、
本来、殺人などの強行犯罪に向けるべき男なのだ。
ところがこのパーシー、そうした事件には目もくれず、腐れ縁のビーンを追っかけている。
それを無理に止めさせるのは無駄だし、逆効果だ。
そうなら普段は好きにさせておいて、ここぞという時に、今まで好き放題させていたことを
恩に着せて、言うことを聞かせればよい。
オライリーはそういう判断をしていた。
両者共こうしたことは納得済みで、警察活動を行っているのである。
パーシーは、面白くもなさそうな顔で資料を眺めている。
「おまけに、何だって? ジャップのメスポリの面倒まで俺が見なきゃならねえのかよ」
「パーシー、口を慎めよ。本人の前でそんな言葉は使うな」
「わかったよ。んで、そのニップの……」
「ニップもいかん!」
どちらも日本人に対する蔑称ではある。
「いいか、その女刑事はだな……」
「待て、そいつはデカなのか? 事務屋じゃなくて?」
「そうだ。女だてらに捜査一課……こっちで言うところの殺人課のデカだよ。おまけにまだ
28歳だが、警部補だそうだ」
「警部補?」
パーシーは余計に面白くなかった。
自分より一階級下なだけだ。
年齢は10年以上も離れているのに。
若いくせにその階級にあるということは、日本警察が「キャリア」と呼んでいる警察官僚かも
知れない。
つまり、刑事部に籍は置いているものの、捜査はズブの素人ということだ。
あるいは、男顔負けのマッチョなゴリラ女ということもある。
どっちにしても、エスコートはお断りしたいタイプに違いない。
部下の気を知ってか知らずか、局長は言葉を続ける。
「こっちの捜査協力要請を受けて、わざわざ来てもらうんだ。失礼のないようにしろよ」
「だったら、もっと女子供相手の扱いに慣れたやつを応対させりゃいいじゃねえか。俺よか
ディックの方がよっぽど……」
「パーシー!」
オライリーが大声で窘めると、デスクの上のインターフォンが鳴った。
フックを押してぞんざいに返事をする。
「なんだ!」
「局長、日本からお客様が見えています」
「何、オヘアからもう着いたのか? よし、通してくれ」
局長が目で「来たぞ」と合図すると、パーシーは舌打ちしてネクタイを締め直した。
オライリーも緩んでいたタイを直すと、立ち上がって客を迎えた。
ドアが開き、制服警官が中に導き入れたのは佐藤美和子警部補だ。
彼女を見て、局長はもとよりパーシーも驚いた。
(へぇっ、こりゃ凄ぇビューティ・コップじゃねえか。こんな美人、ウチにだってそう何人
もいないぞ)
スラリとした体型は、まるでモデルみたいだ。
ブルーのスーツとタイトスカートがよく似合っている。
スカートから覗いた脚は長く、細い。
それでいて、布地に隠されている腰や腿には十二分に肉が乗っていそうだ。
ブラウスとスーツで胸はよくわからないが、きっとバランス良く膨らんでいることだろう。
ショートボブの髪型は活動的に見え、表情もきりっと引き締まっている。
「出来るキャリアウーマン」のようだとパーシーは評価した。
同時に、見かけ倒しに違いないとも思った。
どうせ部内のお偉いさんが置いておいてるお飾り的な「お人形刑事」だろうと踏んだ。
「何をボケッとしとるか、パーシー」
自分も美和子の美貌に見とれていたオライリーが我に返って言った。
そして美和子の方に向き直ると握手を求めた。
「東京警視庁のミワコ・サトー警部補ですな? ようこそシカゴへ。私はここの警察局長の
オライリーです。で、そっちが今回あなたに協力していただくパーシー警部です」
「よろしく」
美和子はオライリーの手を握ると、パーシーにも手を差し出した。
仕方なく彼もブスッとした表情のまま握手を受けた。
局長は美和子を応接セットのソファに誘うと、さっそく切り出した。
「遠路はるばるようこそ。ご足労させて申し訳なかったが、写真を送るわけにも行かなくてね。
それに写真では細かいニュアンスがわからないところもあるので、こうして来ていただくこと
になった」
それは美和子にもわかる。
パレット幹部の写真をメールやファクスで伝送しようものなら、内部にいると思われる内通者
にたちまちバレてしまうだろう。
そうなれば警戒され、ヘタをすれば逃げられてしまうこともある。
それに、送ってもらったとしても、写真でははっきりとした判断は下せないだろう。
美和子にも経験があるが、手配写真が犯人にちっとも似ていなくて呆れたこともある。
見る角度や明るさ、表情によっても、まったく別人に見えてしまうこともあり、別人が似てしま
うこともある。
本人を直接見るに越したことはないのだ。
「お疲れでしょうから、今日はもうホテルでお休みください。こっちで部屋を取ってあります
から」
「いいえ。まだ日も高いですし、そちらの都合がよければこれからでもけっこうですよ」
「そうですか。では……」
オライリーは美和子の言葉に笑顔でうなずくと、パーシーに向けて顎をしゃくった。
警部は無言で立ち上がる。
美和子は一礼してパーシーの後に続くと、オライリーの声が追い掛けてきた。
「お気をつけて」
続けて部下への叱咤も飛んだ。
「パーシー! 失礼のないよう丁重にご案内しろよ!」
─────────────────
「……」
美和子はパーシーの運転するクルマに乗せられ、市内に出た。
署の駐車場でそれを見た時は驚いた。
でかくて平べったい感じの、いわゆる「アメ車」だったのである。
美和子は知らなかったが、車種はマスタングのマッハワンだ。
馬力はあるが、いかにも燃費が悪そうで、大消費時代の古き良きアメリカを象徴するような
タイプだ。
今ではアメリカも環境保護、省エネルギーが重視され、従来のようなアメ車は、日本車のような
コンパクト・カーに駆逐されつつある。
にも関わらず、頑固にこうしたクルマに乗っているのが、頑固そうなパーシーに合っているよう
にも思えた。
乗ってみてまた驚かされた。
車内は、所狭しと無線やミニコンが装備され、回転灯もあったのだ。
ということは警察車輌なのかも知れない。
こんなクルマを覆面パトにするなど、日本では考えられなかった。
「こっからクルマで20分ほどのとこにある」
とパーシーは言った。
ぶっきらぼうな物言いだ。
美和子は、自分が女だからかなとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
不器用なタイプの刑事なのだろう。
今の警視庁では少なくなった職人気質の男なのかも知れぬ。
車窓から眺める異国の都市は物珍しかった。
ついキョロキョロと町中を見てしまう。
これではまるで「お上りさん」だと自分でも思うのだが、好奇心には勝てなかった。
「シカゴは、以前に比べてだいぶ犯罪発生率が下がっているそうですね」
「まあな。カポーンがいた頃とは違うさ」
カポーンとはアル・カポネのことだろう。
1920年代の禁酒法時代、ここシカゴではマフィアのギャングが幅を利かせていた。
美和子は映画などで知っているだけだが、実際に警察や市の上層部とギャングどもが繋がって
いたこともあったらしい。
以来、シカゴと言えば治安の悪そうなイメージがつきまとっていたのだが、警察当局と市は
並々ならぬ決意と努力で払拭しようとした。
パーシーが、パネルに据え付けられてある液晶モニタを無造作に指差しながら言った。
「そいつが「CLEAR」の端末だ」
「CLEAR?」
シカゴ市警が導入した警察情報のデータベースの名称だ。
それまでは、無線でいちいち署に確認を取っていた容疑者の情報を、手軽にパトカー内で行え
るようになったわけだ。
さらに、ここから現場のナマの情報を入力することにより、データが細かくタイムリーに反映
されることとなった。
つまり、こうした情報を署のデスクワークによる一元的なものから、現場視点に一変させたわけ
である。
これが極めて効果的だった。
このシステムは全米の警察のモデルともなり、日本でも試験的に導入が進められることになる
らしい。
「俺はあんまり使わねえが、それでもホシの経歴を洗うには便利なもんだ」
「そうでしょうね。でも、それだけではここまで犯罪率が低下することはないんじゃありませ
んか?」
「まあ、そうだ。警察もだが、市議会も市長もことさら治安てことに気を使ってんだよ、この
街はな。例えば、もう5〜6年前になるかな、ギャングというかカポーンをイメージしたような
バーが出来たことがあったんだが、たった1年ほどで取り潰されちまったよ。公序良俗に反する、
街のイメージを悪化させるってことでな」
「へえ……」
表現の自由や権利についてことさらウルサイこの国で、ここまで徹底しているとは思わなかった。
それなら治安も良くなることだろう。
実際、車窓から見える歩行者たちも、せかせかと急ぐビジネスマンは別として、みんな穏やか
そうな表情をしていた。
そんな美和子を見透かしたのか、パーシーは彼女を横目で見ながら言った。
「一見、治安が良さそうに見えるがな、表通りだけだよ」
「表通り?」
「目に付くとこだけってことさ。ダウンタウンのサウスエリアなんかは、今でも一人歩きは
危ねえぜ。あんたの国とは違うのさ」
「……」
治安の良い日本とは違うと言いたいのだろうが、最近はそうでもないのだ。
日本も貧富の差の拡大に伴い、安楽と暮らしていけるような国ではなくなってきている。
そう言ってやろうかとも思ったが、美和子は別のことを聞いた。
「それでミシェル……、いえ容疑者というのはどこに?」
「マルタンの野郎は……、ああ、こっちではデビット・マルタンて名乗ってるんだがな。
そいつは表向き、宝飾店のオーナーなんだ」
「宝石商ですか」
「ああ。けっこう有名な店でな、客層もセレブ中心だ」
「はあ……」
「しかもマルタン自身、市の名士なんだよ。市議会や市長にもたんまり献金してる。市内で
開催されるイベントやパーティなんかには必ず噛んできて、寄付金を提供する。おまけに、
この市でいちばんでかい病院の理事長までやってやがる」
「……」
「こうなると、少々怪しい程度じゃうっかり捜査もできねえんだよ。別件で引っ張るなんて
とんでもない話さ。市長たちもえらく気を使ってるしな」
「なるほど……」
「だが、そいつは隠れ蓑で、裏では大がかりな密輸をやってるらしいとオレたちは睨んでる」
「密輸……」
「ヤクや美術品のな。その捜査線上で浮かび上がったんだよ。やつが、どうもパレットと関係
しているらしいってな。人身売買の噂もあったんだ」
最初からミシェルに目を付け、別件で当たろうとしたのではなく、別件で捜査していたら、
そいつがミシェルらしいということのようだ。
「やつが胡散臭いことをやってるらしいってことは、暗黙の了解なんだよ。マルタンは、表に
こそ出て来ねえが、あれこれ危ないことはやってるだろうな。ただ、証拠がねえ」
「……」
「汚え仕事は子飼いのチンピラどもにやらせてるしな」
「チンピラ?」
「街のクズどもだ。ストリートギャングだよ。非合法なことはみんなあの連中を使ってやがる」
突然にクルマが停まった。
遠慮のない急停車で、考え事をしていた美和子は危うくフロントガラスに頭がぶつかりそうに
なった。
「もう着いたんですか?」
「……いいや」
パーシーは路肩に駐車すると、そのまま道沿いにある店に入っていった。
ハンバーガー・ショップだ。
聞き込みでもあるのかと思って待っていると、ほどなくシカゴ市警の警部さまは手に紙袋を抱え
てショップから出てきた。
そのままクルマに乗り込むと、袋の中身を取り出して、不愛想に美和子へ渡した。
「これ……」
「あん? チーズバーガーだよ。ほら、これはコーヒーだ」
「あ……、どうも……」
美和子がビックリしたような顔をしているのを見て、パーシーは少し表情を変えた。
「どうした? ハンバーガーがダメか? マックは日本にもあちこちにあるって聞いたがな。
それともコーヒーが苦手か?」
「あ、いえ、そういうことじゃなくて」
ミシェルの店へ行くと思っていたら、着いたところがハンバーガーショップだったから面食ら
っただけである。
そう言うと、パーシーは鼻を鳴らして答えた。
「ふぅん。やっぱニップ……じゃねえ、日本の刑事ってな真面目なんだな」
「はあ……」
「ちょうど昼時だったからな、メシにしようと思っただけだ。余計なお節介だったなら……」
「あ、いいえ、そんなことありませんよ」
普通、日本でこういうことがあれば、それなりのレストランへ連れて行くだろう。
接待のようなものなのだろうから。
ところがこのアメリカ人刑事はファストフードで済ませた。
日本ならこうしたものは経費で落とすのだろうが、彼はポケットマネーに違いない。
それにしても、初対面の相手をいきなりこういうフランクな場所でもてなすのが、いかにも
パーシーらしいような気がして、美和子は微笑んだ。
「……」
改めて、手にしたチーズバーガーを見て呆れる。
この大きさは何なのだろう。
日本の平均的なハンバーガーは、概ね大人の握り拳くらいのものだ。
それが、美和子の持っているそれは、彼女が手のひらを大きく拡げたくらいはある。
決して小食の方ではないが、食べきれないような気がした。
コーヒーもSらしいが、これも日本なら立派にLで通用しそうだ。
ちらりとパーシーを見ると、これも凄い。
二段重ねの巨大なハンバーガーを頬張り、手にはコーラの1.5リットルペットボトルを持っ
ている。
ガツガツと喰らい、コーラをそのままラッパ飲みにしている。
おまけに、遠慮なく下品なゲップまでしている。
美和子が彼の食事に圧倒されていると、突然、電子音が鳴った。
無線だ。
──8thストリート551のシカゴ・ジャクソンバンクに強盗事件発生。犯人は複数で武装
している模様。周辺のパトロールは急行せよ。市警強行犯チームおよび特殊部隊も……
「いくぜ!」
「え? きゃあ!」
パーシーは通信を聞くや否や、クルマを発進させる。
全開にした車窓から、手にした食いかけのハンバーガーとコーラのボトルを投げ捨てた。
そして回転灯を引っ張り出すと、ダッシュボードの上に乗せながら、美和子に向かって叫んだ。
「あんたもそんなもんは捨てろ! ベルトを締めてしっかり掴まってないとケガするぜ!」
車窓からものを捨てることにはかなり抵抗があったが、言われるままにハンバーガーとコーヒー
を窓から投げ捨てた。
それを確認すると、パーシーは思い切りアクセルを踏んだ。
ほぼ同時にサイレンが鳴り響く。
急発進したクルマの揺れを堪えながら美和子が訊いた。
「け、警部! どこへ……」
「知れたことだ。悪いが、このままジャクソンバンクへ行く!」
さっき連絡があった銀行強盗のところらしい。
さすがに舌足らずだと思ったのか、警部は付け加えた。
「バンクのある8thストリートってのはこの道なんだよ!」
すぐ近くだということのようだ。
ならば美和子にも異論はない。
目と鼻の先で事件が起これば、管轄云々を差し置いても駆け付けるのが警官だと、彼女も信じ
ているからだ。
本当に近かったのか、あるいは無茶苦茶なスピードでカッ飛んで来たからなのか、5分もしない
うちにクルマは停まった。
ジャクソンバンクという看板のある建物の路肩にクルマを停めると、パーシーはゆっくりと外
へ出た。
サイレンは止め、回転灯も消している。
周囲は静かで人の気配はない。
武装犯を恐れているせいか、市民たちは建物の中に籠もっているらしい。
中から恐々と銀行の方を覗いている者もいる。
通報したのも彼らに違いない。
市民が恐れたのも無理はない。
銀行のガラス張りの壁面がぶち破られているのだ。
犯人が中に入るためにやったのかは不明だが、そうならかなり荒っぽい連中だと言うことだ。
「……」
パーシーはクルマの陰から中の様子を窺っている。
幸い、ウィンドウが破壊され尽くしているから、丸見えである。
美和子がその側へそっと駆け寄ってきた。
警部はそちらを見向きもしないで言った。
「あんたはクルマん中にいろ」
「え? でも」
「いいからそうするんだ。あんたは刑事だが日本警察の警官だし、今は客だ。ここは俺たちの
縄張りなんだ」
「いいえ」
美和子はきっぱりと言った。
凛とした美貌が輝いている。
「私は確かに日本の刑事で、シカゴでは捜査権も逮捕権もありません。でも警官です」
「……」
「目の前で行われている犯罪に手を拱いていては、恥ずかしくて刑事だなんて名乗れません」
「い、いや、あんたな……」
「見れば、まだ他の警官は誰もいないじゃありませんか。協力できることはさせてください」
パーシーは、異国の女性刑事をまじまじと見ると、諦めたように首を振った。
「よっしゃ、わかったよ。ならクルマへ戻れ」
「ですから協力を……」
「そうじゃない。クルマへ行ってガンを取って来な、と言ってるんだ」
「銃? でも私……」
「ダッシュボードの中に、俺の自前のハンドガンがある。そいつを使え。相手は武装してるんだ、
丸腰ってわけにゃいかないだろう」
美和子は頷いてすぐにとって返した。
ダッシュボードから小型の拳銃を引っ張り出し、現場へ戻った。
美和子は知らなかったが、マウザーのHScというピストルだ。
いつも使っているシグP230と形状がよく似ていたので、ほとんど違和感はなかった。
スライドを引き、初弾をチャンバーに送り込む。
クセで、一応セーフティを掛ける。
パーシーの側に膝立ちすると、警部の愚痴が聞こえてくる。
「……ったく、何やってやがんだパトロールの連中は! どうせまたドーナツ屋でさぼって
やがるんだろう」
「……」
「仕方ねえ、いくぜ」
「行くって?」
「突入だよ。今、中を見てみたが、行員たちはみんな床でひっくり返ってる」
「……」
「血まみれだったよ。やつらトウシロだ、人質にとることもしねえで、みんなぶち殺しちまって
やがる。ま、お陰で人質を気にしないでいいがな」
ギリリッとパーシーの歯ぎしりの音が微かに聞こえた。
「警官隊を待ってる暇はねえ。今突っ込まねえと、やつらさっさと逃げちまう」
「わかりました。じゃあ」
「おっと、あんたはここにいてもらう。俺が突っ込むから援護してくれや」
「そんな!」
「いいか、ここは俺のシマなんだから俺の言うことを聞いてくれ。どっちにしろ、ふたり
いっぺんに飛び込むのは無謀だよ。片方が残って援護してくれなきゃ入れもしないだろう」
「……」
「俺が飛び込んだら、奴らは大慌てで反撃してくるだろう。 そうしたらあんたが……」
「わかりました」
四の五の言ってる余裕はないだろう。
ここは地元警官である彼に従うべきだと美和子は思った。
美和子が了承すると、パーシーは懐のホルスターから銃を抜いた。
SWのM945である。
シカゴ市警の警部は、日本の女性警部補に不敵な笑みを見せると、突入を告げた。
「行くぜ!」
その次の瞬間である。
突然、バンクの自動ドアが内側から弾けた。
爆発かと思って一瞬身を引いたが、そうではなかった。
轟音とともに、中から自動車が飛び出してきたのである。
例のぶち破られたガラス面は、こいつが中に入ったからのようだ。
豪胆で鳴る敏腕女性刑事も、さすがに悲鳴を上げた。
「きゃあ!」
「危ねえ! 伏せてろ!」
そう言うとパーシーは美和子を突き飛ばすようにして庇った。
そして彼女が転びもせずに受け身を見せたのを確認すると、自分は一声吠えてクルマに立ち
向かった。
「警部!」
「あんたはあっちで援護しろ!」
警部は叫ぶように指示すると、ドアを破った衝撃で止まっていた軽ワゴンの前に仁王立ち
する。
「警察だ!」
クルマは停車したまま動かない。
何の反応もない。
「シカゴ市警だ! 全員、銃を捨てて両手を頭の上に組んで出て来い!!」
パーシーは油断なく銃を構えながらも、周囲をちらちらを見ていた。
警官隊の到着を待っているのだ。
それを見透かすかのように、ワゴンが動き出した。
まっすぐパーシーに向かってくる。
「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
そう喚きながらも彼は後悔していた。
こんなことならマグナム44でも持ってくればよかった。
M945も45口径のでかいガンだが、エンジンをぶち抜けるかどうかはわからない。
鋼板の薄い日本車なら何とかなるだろうが、生憎アメ車のようだ。
軽でも油断は出来ぬ。
「仕方ねえ!」
パーシーは覚悟を決めた。
ビーン・バンディットを除いて、人を撃つのは好きではないが、この場合やむを得ない。
パーシーは迫ってくるワゴンの運転席を狙い、トリガーを引いた。
銃声が三発続けて轟いた。
フロントガラスに大穴が三つ空き、全面が細かいヒビで真っ白になる。
それが内側から真っ赤に染まった。
急停車したクルマの助手席から、慌てたように人影が飛び出てきた。
逃げる男に、今度は無警告で警部は発砲した。
左腿から血しぶきが飛び、怪鳥のような悲鳴を上げて、若い男がひっくり返った。
そいつを横目で見ながら、パーシーはクルマに近づき、車内を観察する。
ドライバーだった男は胸と頭を撃たれてハンドルに突っ伏している。
他にはいなかった。
それを確認すると、今度は銀行に向かうべく歩を進める。
すると、目の前に立ちふさがった人影がある。
「あんた……」
呻くように言ったパーシーの先にふたりの男がいた。
ふたりともすっかり観念した様子で、両手を頭の上で組んでいる。
その後ろから顔を出したのは美和子だった。
美和子はパーシーの姿を見ると、片手に持った銃を二丁、彼に手渡した。
どうやら犯人のものらしい。
「警部が逃げた方の相手をしてくださっている間に、銀行内に入りました」
「……」
「あ、いえ、警部の指示に背くつもりはなかったんですけど、中の人質の様子が気になって
……。もしかしたら、まだ息のある人がいるんじゃないかって」
「……」
「そうしたら、まだ彼らが残っていたので現行犯逮捕しました。現行犯の場合は、警官以外でも
逮捕権はあるのですよね?」
その通りである。
それは日米ともに変わらない。
パーシーは呆れて口も利けなかった。
本来なら感心すべきところだが、美和子のあまりの手際の良さに呆然としてしまったという
のが真実だ。
銃声はしなかった。
ということは、美和子が撃たなかっただけでなく、相手にも発砲の隙を与えなかったという
ことだ。
日本の警官は空手や合気道を修めているという話だが、彼女もそうした東洋の神秘の技で敵
を倒したのだろうか。
言葉も出ないパーシーに、美和子は思い出したように告げた。
「そうだ、警部」
「な、なんだ」
「被害者! 被害者でまだ生きている人がいます。至急、救急車の手配を!」
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