保のペニスが奥深く子宮口を押し上げるほどに挿入されてくると、たまらず喜悦の声を上げて
しまう。
もう子宮口に先っぽが当たっているというのに、もっと奥までとでもいうように腰をうねらせ、
両脚を保の腰に巻き付けて締め付ける。
こうされては動けないので、保は脚を振りほどいて押さえつけ、ガシガシと突き上げていく。
修一も、下から抉るように腸管をこそいでいった。ふたりとも玲子のことなど考えず、ただ
ただ快感を貪ろうと激しく動いているだけなのに、玲子の肉体はそんなふたりの行為に合わ
せるように襞を蠢かせていた。

上昇限界点にまで近づいている性感を表すかのように、玲子の乳首は固くしこって尖り、ゆさ
ゆさと揺れ動く胸肉の上でツンと隆起している。
それを修一が手を伸ばしてクリクリと転がし嬲るものだから、玲子はいよいよたまらなくなった。

「ああっ……ああっ、も、もうっ……」

玲子は溢れそうになる唾液を飲み込みながら懸命に喘いだ。
そうでもしないと、ふたりから送りこまれる快感が身体の中にたまって爆発してしまいそうだ。
喘ぎ、よがることで少しでも口から快感を逃がしたかった。
あうあうと喘ぐ玲子の唇に欲情した保が、思わず吸い付いていく。

「あむっ……んっ、んっ、んんっ……んむっ……」

突然口を吸われた玲子は目を白黒させていたが、すぐに瞳の色がとろけ、少年のキスを受け
入れた。
奥に縮こまっていた舌が引っ張り出されると、引き抜かれるように強く吸われる。
咥内に少年の舌が侵入してきて、所狭しと暴れ回った。
そんな荒々しいキスに若さとたくましさを感じ、玲子は恍惚となっていた。
3分以上も続いた長いディープキスが終わって口が離されると、玲子は何とか息継ぎをしたが、
すぐに別の唇が迫ってきていた。
顔を横に向けさせられ、休んでいた憲彦が吸ってきたのだ。

「ぷあっ……はあ、はあ、はあ、はあ……あ、やめっ、うむむっ……」

顔を傾けさせられると、憲彦が唇を奪った。
保との激しいキスでとろけていた玲子は、憲彦の舌が入ってくると、待ちかねたようにその舌
を吸い上げた。

「ん、ん、んんっ……んじゅっ……ん、んじゅるっ……んんっ……んむっ……んくっ」

玲子の方から舌を吸ってきたことに驚いた憲彦だったが、積極的に振る舞いだした美女に昂奮
して、再び主導権を取り返す。
玲子の細面の顔を掴むと、歯と歯がぶつかるくらいに深く強いキスをしてやった。
咥内の頬裏や歯茎を舌で舐め上げ、舌同士を絡ませあい、唾液を吸い取られた。
口中の唾液を飲まれると、今度は憲彦の側が唾液を流し込んできた。

「んんん!? ……んっ……ん、んくっ……ごくっ……んくっ……」

これには玲子も動揺したようだが、すぐに受け入れて憲彦の唾液を嚥下した。
自分の唾液を美女が喉を鳴らして飲み干したことに満足し、憲彦はその舌先を強く吸ってやった。
玲子の全身がびりびりっと痺れたように細かく震えた。
もしかすると、軽く達したのかも知れなかった。
晶が呆れたように言う。

「あらら、恋人同士でもやらないようなお熱いキッスだこと。その調子じゃ、おねえさま、いよ
いよこの子たちの子を孕むつもりになったのかしらね」

長いキスをようやく終え、憲彦が口を離すと、玲子はもう辛抱できなくなっていた。

「ああ、もうっ……もっ、あっ、い、いく……」
「まあ、またいくの?」
「ああ、どうしよう……ま、また、いきそうっ……」
「いいわよ、いいわよ。何度でもいきなさいよ。この子たちも精力が続く限りつき合ってくれ
るわよ。ところでおねえさま、随分よさそうだけど、どっちが気持ちいいの? 前、後ろ?」
「ああ、ど、どっちも……どっちもいい……」
「ちゃんと言ってくれる? オマンコとお尻の穴がいいって」
「いい……お、オマンコ、いい……お、お尻の……穴も……いいっ……どっちも、ああ……
どっちもおちん……ちんでいっぱい……ああっ……」
「じゃいいわね。精液を中で出してもいいわね?」
「そ、それは……ああっ……そ、外に……」
「あら、まだそんなこと言ってる。それに前はともかくお尻にいくら出されても妊娠なんか
しないわよ。それくらい知ってるでしょ?」
「で、でも……ああ、いいっ……」

すでに胎内に射精される快感を覚え込まされている玲子だったが、最後の理性が邪魔している。
セックスに乱れる屈辱や羞恥はともかく、物的証拠とでもいうべき妊娠だけは避けたかった。
しかし、そんなことを彼らが許すはずもない。
それは彼女にもわかっているが、それを敢えて嫌がって、嫌がるところを無理矢理射精されたい
と思っているのだ。
そうしてこそ至高の高みに昇ることができるのだ、と。

口ではイヤだと言いながらも、前後の穴は「まだか」と言わんばかりに挿入されたペニスを
締め上げていた。
襞もざわざわと射精を促すかのように蠢く。
保にもそれがはっきりとわかった。
膣の最奥にある子宮口を突き上げている時、そこがもう小さく口を開いていることが亀頭で
確認できていた。
修一も保も、射精すべく腰を一層激しく使ってきた。
華奢な玲子の身体が揉みつぶされ、汗や体液が乱れ飛んだ。

「ああ、だめえっ……もっ、もう……もうっ……」
「いくのか、検事さん」

保が囁きかけると、玲子はガクガクと首が折れそうなくらいに何度も頷いた。
甘美な愉悦に身悶え、性の悦楽にどっぷりと浸りきっている美女の喘ぎっぷりを見て、責める
少年たちも腰の動きが早くなってくる。
腰骨を砕かんと、両者ともに力いっぱい腰を突き上げてきた。
二本のペニスが腹の中で粘膜を通じて擦れ合うと、玲子はどうにもならないほどの快感で失神
しそうになる。
保も修一も根元まで玲子に埋め込み、そのまま腰を回してぐりぐりっと内壁を擦り上げた。
そしてそのまま、保は子宮口を突き上げ、修一は直腸上部の肉襞を抉った。
玲子はたまらず絶頂に押し上げられた。

「おおっ、だめえっ……もう、あっ……い、く……いくっ……い、いくううっっ!!」

見ている晶たちが圧倒されるほどの激しい絶頂だった。
玲子の肢体は、弓のように反り返り、がくがくっ、ぶるるっと凄まじいほどに痙攣した。
細い両腕を保の背中に回して抱きしめ、官能的なラインを描く美脚もしっかりと腰にしがみ
ついていた。
襲ってきた強烈な締め付けを前に、まず保が我慢できずに欲望を放出する。

「くっ……出る! く、くそっ、孕めっ!」

保は玲子に脚を巻き付かれたまま、尻に手を回してぐいっと自分に引き寄せた。
胎内でしっかりとペニスの先と口を開けた子宮口が密着したのを確かめると、思い切り射精
してのけた。

びゅるるんっ。
びゅるるっ。
びゅびゅーーっ。
びゅーーっ。

「うああっ! で、出てるっ……ひぃっ……あ、濃いのがお腹の中にぃっ……い、いくっ……」

勢いよく噴き出てくる精液を子宮内部に感じ、玲子は連続絶頂した。
それにしても、この少年たちの射精の凄まじさはどうだろう。
さっきの憲彦もそうだったが、射精の発作が「びゅるっ」ではなく「びゅーーっ」である。
一瞬だけ強く出るのを繰り返すのではなく、まるでホースから水が噴き出るかのように長い
発作だった。
しかもそれが簡単に終わらない。
憲彦など16度も発作を続けているのだ。

ただ、憲彦は子宮口に亀頭をくっつけたまま射精が終わるまで動かず、一滴も漏らさず子宮
に注入しようとしていた。
一方の保は、孕ませたいのは同じだったが、おのれの快楽の方が勝っているらしく、射精しな
がらも硬いペニスをずんずんと突き上げていた。
これには玲子もたまらなかった。
射精しながら律動してくるのだ。

「ああっ、出てるのにっ……出てるのに突かないでぇっ……いひぃっ……だ、だめ、またいくう
っっ!!」
「ううっ」

尻穴を犯していた修一は、できるだけ愉しもうと射精を堪え続けていたが、さすがにこう何度
も妖美かつきつい収縮を受ければどうにもならない。
そうでなくとも、膣よりアヌスの方が締め付けが強いのだ。
仕上げとばかりにガシガシと4,5回ほど玲子の尻を押し潰すように突き上げる。
玲子が甲高い悲鳴を放った。

「あああっ!? だめ、やめてっ……まだ前に出てるのにぃっ……あひっ……お、お尻が壊れ
るっ……お尻が熱いっ。燃えちゃううっ……お尻、いいっ……!」
「くっ……で、出ちまうっ!」

悔しそうに言い放つと、豊満な尻たぶをぎゅっと掴んで腰を押しつけた。

どびゅるっ。
どぷっ、どぷっ。
どぷぷっ。
びゅるるっ。
びゅるんっ。

腸管の深いところに射精され、汗に濡れた美貌を快楽に歪めて玲子が達した。

「ひああっ、お、お尻っ……! お尻にも出てるぅっ……ああ、前にも後ろにもいっぱい出さ
れてる……う、うむ……またいく!」

玲子は一瞬、全身を固くしたかと思うと、ぶるるいっと激しく痙攣した。
首が折れるほどに仰け反り、保の腰を巻いていた両脚の爪先がぐぐっと思い切り屈まってた。
親指だけ逆に仰け反っているのが、激しい絶頂を物語っていた。
快楽の頂点を彷徨い、突っ張らせ、痙攣させていた両脚からガクンと力が抜け、ベッドに落下
した。
玲子はまだ首をカクカクと小さく仰け反らせ、腕や腿がぶるっ、ぶるっと思い出したように
震えている。
首筋や二の腕などには細かく鳥肌すら立っていた。

ふたりの少年は、やっと満足するまで精液を注ぎ込んだのか、前後から肉棒を引き抜いてよう
やく玲子を解放した。
玲子はされるがままで、くたりとベッドに横たわったままである。
どうやら本当に連続絶頂により失神してしまったようだ。

「ふう」

息をついたのは晶だ。
あまりにも激しいセックスを間近で見ていて、その熱気に当てられたのだろう。
椅子から立ち上がると、気を失っている玲子のもとへ行き、軽く頬を叩いた。

「起きて、おねえさま。まだ一回ずつしか終わってないのよ」
「……い……や……もう……ゆる……して……」
「許さないわ。あなたが妊娠するまで許さないんだから」
「そんな……本当に死んでしまう……」
「そうね。おねえさまが死ぬのが先か、それとも孕むのが先か。どう、賭けてみない?」

晶はそう言って暗く微笑んだ。
それを合図に、また少年たちが玲子に挑み掛かっていく。

生々しいセックスを見せつけられ、少々疲労を感じた晶は椅子に腰掛け、テレビのスィッチ
を入れた。
32型の大画面プラズマTVにはニュース映像が映し出されている。

「あらら、おねえさまのことやってるわよ」
「え?」

極上の女体の上へのしかかっていた少年たちの動きが止まった。
三人とも、そのままの姿勢で画面に見入った。

──官房長官の発表を受けて、警視庁の白馬警視総監よる記者会見がありました。それにより
ますと、今回の東京地検・九条検事の誘拐は、連続した四件目の事件であり、目下、警視庁が
中心となって広域捜査を行なっているとのことです。過去三件の事件については……

「……」

玲子も画面を凝視していた。
性の快楽でぼんやりしていた表情に生気が蘇ってくる。

──この件について、東京地検の宇田川検事正は「捜査中の案件につき、詳しいことは言えな
い。身代金支払いに関しては、家族や政府の判断に委ねる」と述べています。

上司の沈痛な顔を見るにつけ、玲子は正気を取り戻しつつある。
警察や同僚たちは、自分のために──いや、事件解決に向けて懸命に努力している。
自分はどうだ。
いいように子供たちに犯され、あまつさえその行為に染まりつつある。
セックスの魔悦に取り込まれてしまっている。
情けなかった。

(わ……たしは、何をやってるの……)

ベッドに突いた手のひらが握り拳になっていく。

─────────────────

保は軽く一息つくと、さっきまで晶が腰掛けていた安楽椅子に座った。
自分の股間を覗き見て苦笑する。
四度も射精してのけたのだ。
今日はもう打ち止めだろう。
他のふたりもそう思ったのか、この部屋にはいない。
憲彦はネットで情報を取りに行った。
修一はシャワーを浴びているらしい。
晶はわからないが、自室に戻ったようである。
一休みして食事を済ませてから、また輪姦しようということになっている。

30分ほど前まで凄惨なレイプを受け続けていた玲子は、気を失っているのか、正体もなく
絨毯の上に寝そべっていた。
保はそのしなやかな肢体を見つめていた。
汗は引いたようだが、肌は輝くばかりである。
これで三十路とは到底信じられない。
うつぶせになっているそのぷりぷりとした尻を見ているだけで、またムラムラと獣欲がわき上
がってくる。

「ほら起きなよ、検事さん」

保は玲子の肩を掴んで起き上がらせた。絨毯の上に座らせたのだが、すぐにまたドタリと倒れ
込んでしまう。
無理もなかった。
少年たちは、ただ青い欲望を玲子の肉体に叩きつけただけではない。
一度犯せば(射精するまで)、そのたびに玲子を絶頂まで確実に導いていた。
それをおのおのが3度、4度と射精するまで繰り返したのだから、玲子の体力だって尽きるの
も仕方がなかった。

保もさすがにもう少し休ませた方がいいかと思い、その身体から手を離した。
その時、注意深く玲子の顔を少しでも見ていれば、彼女の目が鋭く光ったのがわかったかも知
れない。
玲子は音もなく、しかし満身の力を籠めて保の脚に拳を叩き込んだ。

「あてっっ!!」

保はびっくりする間もなく崩れ落ちた。
玲子渾身の一撃は、少年の向こう臑に決まったのである。
腕力もなく、もちろん格闘技の経験など皆無の彼女だったが、それでも人体の急所くらいは知
っている。
回りに筋肉がなく骨が浮き出ている「弁慶の泣き所」は鍛えようがないから、弁慶に限らず
すべての人間にとって弱点だ。
玲子を隙を突いてそこを狙った。

「なにすんだ! ……ああ、くそっ、痛えええっ!」

大柄な少年は両手で右の脛を抱えて、ごろごろと床を転げ回っていた。
最大の、というより最後のチャンスだ。
他の子たちが戻って来ないうちに逃げるしかない。

玲子はすぐにキーを探した。
クルマでもいいが、モーターボートのがなければこの小島からは逃げられない。
落ち着け落ち着けと心に言い聞かせてはいたが、いつ彼らが騒ぎを聞きつけてここに来るか
知れたものではない。
知らず知らずのうちに慌てていた。

テーブルやサイドボードの上にもそれらしいものはない。
引き出しを引っかき回して探そうかとも思ったが、やめた。
この部屋にあるとは限らないのだ。
そう覚ると玲子はあっさり諦めた。

「!!」

ドタドタという乱れた足音と「どうした!」という叫び声が聞こえる。
彼らが戻ってきたのだ。
普通ならパニックになりそうなところだが、玲子はかえって沈着さを取り戻していた。
これがダメならおしまいだという、一種諦観した気持ちになっていたのだ。
やるしかない。
玲子は自分を縛っていたロープが目につき、それを拾った。
そして何を思ったのか、テーブルにあったフルーツバスケットからバナナを数本むしり取った。
その時、ドアが乱暴に開いた。

「あっ!」

入ってきたのは憲彦だった。
脚を押さえて呻いている保を見て、彼はかなり動揺していた。
やったのは玲子に違いないが、まさかこの女にそんな抵抗力が残っているとは思いもしなかっ
たのだ。
加えて、自分や修一ならともかく、頑健な保が伸されるとは想像もしなかった。
玲子を捕らえることも忘れ、呆気にとられていたのはそのせいだろう。
玲子はそんな少年には目もくれず、踵を返してダッシュした。

「あ、待て! ああ!?」

憲彦は開いた口が塞がらなかった。
彼は部屋のドアをバックにして立ちはだかっていた。
そこを守っていれば玲子は逃げられない。
万一、殴りかかってきても、一発で倒されない限りは何とかなる。
そのうち修一と晶も来る。

だが玲子は想定外の行動に出た。
何とベランダに向かって走ったのだ。
そして手すりを掴むや否や、ひらりと身体を浮かせて飛び降りたのである。
二階とはいえ、地上までは4メートルや5メートルはある。
一般人ではなかなか飛び降りられる高さではない。
飛んだとしても、着地が悪ければヘタをすると足を捻挫か骨折しかねない。
しかし玲子は躊躇なく飛んでいた。

ドンと派手な音が響く。
慌てて憲彦が追い掛けて下を見ると、玲子はクルマの脇にしゃがんでいるところだった。
よく見ると、クルマの屋根がへこんでいる。
そこをクッションにしたようだ。

「どうした!」

ようやく修一が部屋に飛び込んできた。
シャワーの途中だったのか、髪からは水が滴っている。
晶も後ろから顔を覗かせている。
大慌ての修一に対し、晶はあまり慌ててはいないようだ。

「あ、晶さん、すいませんっ。逃げられました!」
「なんだと!」

修一は唖然としたが、晶は床で転げている保と呆然としている憲彦を見て、大体の状況は掴ん
だらしい。

「ほら憲彦、呆然としてる暇ないでしょ、追い掛けて。修一も、さっさと保を起こして追い掛
けなさい」
「わ、わかりました」

憲彦は幾分青ざめた表情で部屋を走り出た。
キーを取りに行った分、また少し遅れてしまった。
だが、湖から出るためのボートのキーはこっちが押さえているし、他にはオールのボート一艘
ない。
最短の岸まででも、ざっと400メートルくらいはある。
玲子が水泳の選手でもない限り、そんなに泳げるものではないだろう。
泳げたとしてもモーターボートの速度に敵うわけもなかった。

ランドクルーザーのシートに飛び込んだ保がキーを回し、エンジンを掛ける。

「晶さんも早く乗ってくだっ……!? うわっ!」

エンジンを噴かすと、車体が大きくガクンガクンと揺れる。
どうしたことだと思って、またアクセルを踏んで空ぶかしするとガクガクガクッと揺さぶられる。

「なっ、なんだよ! どうしたんだよ!」

ナヴィに座っていた修一が、フロントガラスに頭をぶつけて顔を顰めた。
保は意地になってアクセルを踏み込んでいたが、突如スカッと手応えがなくなった。
エンストしたのだ。

「ねえ、ちょっと来て」

晶の落ち着いた声がクルマの後ろでした。
保が飛ぶようにそこへ行くと、晶が座り込んで指差している。

「これこれ」
「あ……」

憲彦がかがみ込んでそこを確認すると、唖然とした声を出した。
排気管に何か詰められている。
そこに指を突っ込んで中を確かめていた晶がポツリと言った。

「……これ、バナナかな」
「バナナ!?」

指の先に何かついていて、その匂いを嗅いで晶が確認した。
玲子は、排気を止めたことでエンストさせたらしい。

「……へえ」

晶は少し感心したような声を出した。

「くそ!」

保は荒々しくドアを閉めて、片足を引きずりながら走り出した。
後を追うように、修一と憲彦が続く。
晶はそれを少し眺めてから歩き出した。

─────────────────

玲子は走っていた。
ちらっと後ろを振り返ると、ベランダから三人の少年たちの顔が見えた。
思ったより戸惑っている。
これなら逃げ切れるかも知れない。
小石や枯れ枝を踏むと足の裏が痛い。
それでも止まっている余裕はなかった。
目の前に湖が広がっていた。

─────────────────

「いたぞ!」

真っ先に駆け付けた保が湖を指差した。
見ると、玲子が何と泳いでいる。
全裸ではないようだ。
褐色のものを身につけている。
モーターボートの中を見ると、ライフジャケットがひとつなくなっていた。

「早く乗れ!」

ボートの運転席から保が叫ぶと、憲彦と修一が飛び込むように乗り込んだ。
なぜか晶はそれには乗らず、泳ぐ玲子を桟橋の先に出て見つめていた。

保は、晶が乗るのを待たず発進しようとした。
少女の機嫌を気にするよりも、今はあの女を捕まえることの方が先決である。
キー回して起動しアクセルを踏み込むと、
ヴォン!と大きなエンジン音が響いた。

が、ほとんど進まない。
それどころか、派手に水しぶきが上がっている。
後ろからしたたかに水を浴びたが、めげずに保がエンジンを噴かした。
全速を出しているつもりなのに、ボートはゆっくりとした進み方だ。
苛ついた保がさらにアクセルを踏み込む。
すると、エンジンは異臭と異音を立てて、プスンと停止してしまった。

「なんだ!?」

焦げ臭い。
振り返ると、エンジンから煙が出ていた。
いつのまにか晶がそこにいる。

「あーあ……」

晶が、湖面から出ている濡れたボロボロのロープを手に持っていた。
慌てたように憲彦が飛び降り、晶のもとに駆け寄る。

「あっ……」

スクリューにロープが巻き付けてあったのだ。
それを知らずに全速前進しようとしたものだから、スクリューにロープが激しく絡みついて
推進力を相殺し、挙げ句、エンジンとシャフトに致命的なダメージを与えたのだ。
玲子の仕業だということは、聞かないでもわかった。

「くそったれ!」

一声吠えると、修一たちが止めるのも聞かず、保は服を脱ぎ捨てて湖に飛び込んだ。
晶はポケットに入れていたオペラグラスを引っ張り出して湖を見ていた。
巧くはないが懸命に泳ぐ玲子の先に、小さな手漕ぎボートが近づいていた。
釣り人らしい初老の男が、口に手を当てて何か叫んでいるのが見えた。

─────────────────

特車二課の整備員事務所。
事務所と言ってもデスクを持っているのは班長である榊とサブのシバくらいのものだ。
大きなテーブルや、それを取り囲む古ぼけたソファやパイプ椅子のスペースの方が圧倒的に広
く、休憩所と言った方が相応しいだろう。
その休憩スペースで、後藤と主の榊が将棋を指していた。
他には誰もいない。
みんなハンガーで作業中である。
まだ就業時間中なのだ。

「で、どうだったって?」

榊がパチンと音をさせて駒を打った。
この初老のエンジニアは、後藤よりも長身で腰も曲がっていない。
やや薄くなりつつある白髪をオールバックに撫で付けている。
大きなサングラスを常にかけており、素顔を見たこともある者は、特車二課はおろか本庁の中
でもそうはいない。

「はあ、案外素直に自供してるみたいですね」

後藤はタバコの煙を燻らせながら盤面を見ていた。
二課棟で禁煙でない場所は、階段踊り場にある喫煙スペースを除けばここだけである。
堅物であり、嫌煙者でもある課長代理のしのぶでも、ここ整備の城にだけは手が出せなかった
らしい。
というよりも、彼女も榊には敬意を払っているから、あまり細かいことは言わないようだ。
こうして暇な時間に、あからさまにサボることはあるのだが、その分、緊急時には徹夜作業に
なることも多いし、残業も定常的である。
榊を含めた整備員たちの腕は信用が置けるし、職務に支障がない限りは文句を言わなかった。
そして事実に於いて、榊が指揮する整備班で業務に支障が出たことはかつてなかったのである。

「生安の少年事件課ね、あそこの捜査員が捜査一課に協力して事情聴取してるらしいですね」
「中学生だったんだってな」
「らしいですね」

後藤が腕を組んで顔を顰めた。
少年の重大犯罪ということで重く考えているのか、それとも盤面が難しい局面だからなのか、
傍目からはわからない。

「それもみんな有名人ですよ」
「親がかい?」
「いや本人が。最年少のプロテニスプレイヤーに、アメリカの医大を飛び級進学してる子。
それにもうひとりは、おやっさんも知ってるでしょう? 話題だった少年棋士」
「ああ……」
「だからもう、世間は吃驚仰天でしょうね。こんな大それたことをやる理由がわからない」

後藤は、桂馬の頭に歩を打ち込んだ。

「まあなあ。身代金を要求したって話だが、別にカネに困ってたわけじゃねえんだろうしな。
じゃあ、いわゆる愉快犯ってやつかい?」

その手は榊も読んでいたらしく、ほとんどノータイムで駒を打った。
桂馬は放って置いて、後藤の角頭に香車を打つ。

「捜査一課もそう考えてるみたいですがね。それだけかなあ」
「なんだい、気になることでもあるかい」
「ええ。主犯格とされてる少女が……」
「ああ、そっちは捕まらなかったんだってな」

榊は湯飲みを取り上げて茶を啜った。
もうすっかり冷めていて不味かったらしく、眉間に皺を寄せながら、急須に手を伸ばした。

「どうも逃げおおせたみたいですね。まあ、湖を泳いで脱出してきた九条検事を発見したの
が地元の釣り人で、その人が携帯で通報して最初に駆け付けたのが地元の駐在さん。それから
所轄が来て島へ渡って、逃げた少年たちを逮捕。でも、女の子はもういなかったそうで」
「あれかい、そのガキどもの供述じゃわからないのか?」
「松井さんの話じゃわからんそうです。何でも素直に供述するらしいんですが、こと、その
女の子の件になると、三人とも口をつぐんでしまうとか」
「ほう。自分たちが犠牲になって逃がしたってことか」
「さて、どうですかね」

後藤がとぼけたような声を出した。
その顔を見て薄く笑いながら、榊は湯飲みに残った茶を灰皿に捨てると、新たに茶を注いだ。
ついでに後藤の椀にも煎れてやった。

「どうも。で、拉致されてた九条検事の証言から、その女の子が主犯らしいということが
わかったんですな。でも、それについては黙り込んでしまうそうです」
「どういうこったい、今さら。まあ他人に罪をなすりつけねえのは立派かも知れねえが、ちゃん
と自供すりゃあ心証も良くなるし、自分の罪だって少しは軽くなるだろうによ」
「その辺はよくわからんですな。これも松井さんに聞いたんですが、九条検事の話によると、
その少女──松木晶ってんだそうですが、この娘が少年たちを精神的に支配していたように
見えた、と」
「支配だあ? 召使いと女主人てわけかい」

榊が鼻で嗤うと、後藤が幾分声を潜めて言った。

「そうなんですかね。それと、これはあまり口外できないことなんですけど、その少女と少年
たちは関係を持っていたらしい、と……」
「関係? そりゃ男女関係ってことかい?」
「有り体に言えばそうです」
「……まあ今時のガキどもだから、中学生でもそういうことはあるのかも知れねえが、それで
精神的に支配ってのはどういうわけだ。まさか女王さまと奴隷の関係かい?」
「セックスの関係はあったけど、対等なものではなかったってことですかね。SMってこと
でもないようですが」
「わからねえな」

取った駒を弄びながら、榊が首を傾げた。
右手にタバコ、左手に湯飲みを持ち、将棋盤を見ながら後藤が言った。

「やはり九条検事の証言らしいですが、その少女からは何とも言い難いオーラを感じたそう
です。カリスマ性というか……」
「ふうん。そういや、その娘は歌手だか何だかって話だな」
「大人気のね。おかげで芸能界やマスコミはパニック状態ですよ」

後藤は、テーブルの上に乱雑に置かれている大衆週刊誌の山を見ながら言う。

「おまけに与党幹事長の娘だ。しかも今回の件でマスコミが、その娘が実は本妻の子ではなく
愛人の子だったことまで暴露しちゃいましたからね」
「ふふん。幹事長は辞任したらしいな」
「引責辞任とは違いますが、例の「国民や党に多大な迷惑をかけた」って、あれです。幹事長
だけでなく議員辞職して離党届まで出したそうですよ。これを機に政界を引退するとか、しない
とか」
「いずれにしろ、その娘っ子を抑えねえと詳しいことはわからねえってことかい」
老整備士はつぶやくようにそう言うと、ツナギの胸ポケットからタバコを取り出してくわえる。
「しかし、わからねえなあ。何が楽しくてこんなバカなことやらかすんだい。別に、引き籠もり
が社会に不満を持って、とかの甘えた話でもねえだろう。並みの成人以上の稼ぎもあるし、
ちやほやもされてるんだろうし。何だってこう刹那的なんだろうな」
「今回の連中に限ったこっちゃないですがね。社会学者やマスコミに言わせれば、今の世の中、
子供たちが夢を抱けるような状況にないってことになるんでしょうが……」

そう言って榊が茶を啜ると、シゲオが顔を覗かせた。

「おやっさん、お客が来てますよ」
「客? 俺にか?」
「ほら、あの所轄の女の子……」
「おお墨東署の嬢ちゃんかい、今行く。後藤さん、すまねえな」

榊はすっと立ち上がると、後藤を残して部屋を後にした。




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