あたしたちはロプスという陰気な惑星の、とあるホテルの一室にいる。
この惑星随一の高級ホテルという触れ込みなのに、ここがまた輪を掛けて陰気くさい。
ハンサムなベルボーイや渋いフロント・マネージャーを見かけることもない。
普段なら1分も我慢しないでさっさと宿替えするところだが、今回だけはやむを
得ない。

その代わり、部屋だけは一等部屋である。
特上のスイートで、寝室の他にリビングとダイニングが続き部屋になっている。
リビングには古式ゆかしいグランドピアノがでんと置いてあり、ラウンジも完備して
いる。
なんか広すぎて落ち着かない。
おまけにお付きの召使いが泊まる個室まであったりする。
広々とした浴室には、人が三人くらい寝そべりそうなバスタブもある。
だけど湯治に来たわけではないのだから、何度も風呂に入ったってしようがない。
だいたい、ユリは湯船に浸かるのが好きみたいだが、あたしはシャワー派なのだ。

とはいえ、豪勢な部屋であることには違いない。
通常料金なら、あたしらの月給くらいじゃ素泊まり一泊も出来ないらしいが、今は
タダだ。
これだけ気が利かないホテルなんだから当たり前よね。
だいいち仕事で来てるんだし。
せっかく仕事が終わった後の夜だというのに、あたしとユリは洒落たナイトクラブ
へ遊びに行くことも出来ず、こうして無聊な時を過ごしているのだ。
外に出ることが叶わないため、ホテルのバーからガメてきたお酒を大量に持ち込ん
でいる。
ユリがうんざりしたように言う。

「あーあ、何かおつまみないのぉ?」
「さっき一緒に探したでしょ、チーズやハムすらなかったわよ。それに、あんたが
つまみたいのは男じゃないの?」

皮肉混じりでそう言ってやったら、ユリのアホはけらけら笑って「そうかも知んない」
と抜かしやがった。
懲りないやつである。
ムギはそんなあたしらに呆れたのか、さっさとベッドの上に撤退し寝そべっている。
時々むにゃむにゃ寝言らしいのが聞こえるから、もう眠ってしまったんだろう。

あたしたちが挟んでいるテーブルには、酒瓶がそれこそ林立している。
ユリはビールから始まってワイン、そして仕上げにブランデーを舐めるのがパターンだ。
あたしもビールからスタートするが、あとはバーボンが多い。
スコッチは洗練されすぎているし、ブランデーやコニャックは、あの独特の薫りが
あまり好きでない。
ウォッカやジンも同じ理由でパス。

もちろんふたりとも、いい男と飲んでいる時はカクテルを中心に女性らしさを強調
するのは言うまでもない。
ハンサムがいればともかく、こうしてふたりで顔をつき合わせて飲んでいても、
話題なんか尽きてしまう。
四六時中いっしょにいるのだから当然だ。
そういう時は決まって双方の自慢話になる。
やれ、ハンサムとデートしただの、カジノで大もうけしただの、そういう話だ。
あたしはともかく、ユリがそうそういい男とデートできるわけはないし、鈍い女
だから賭けに勝てるとも思わない。
だから話半分として聞いている。
お互い、自分の話をしたくてしようがないのだけど、相手の話を聞いてやらないと
こっちの話も聞いてくんないので、聞くときはおとなしくしている。
となると、やっぱお互いに興味のある話じゃないと飽きてしまうのだ。
で、共通の話題として上がるのは、大抵はシモネタ、つまりはエロ話なのだ。
「ま、お下品な」と思うかも知れないが、妙齢の女性が同性同士で話をすれば、話題
が下に行くのは仕方ないでしょ。
なんだかんだ言ったって、誰だって興味あんだから。
しかし毎回毎回、ユリのウソっぽい話を聞かされるのはウンザリなので、今日は少し
変化球で攻めてみた。

「はあ? 感じた話?」
「そう」

ユリと男が歯の浮くような台詞を絡めてじゃれ合った話なんか聞いても、ひとつも
面白くない。
だったら、エッチそのものについて聞いてやろうって寸法よ。
思い起こしてみれば、面と向かってユリとセックスそのものについて話したことって
あんまりなかった気がする。
照れ臭さが先に立つからだろう。
でも今回は気分もクサクサしてるし、かなりアルコールも入っているから、けっこう
乗ってくるのではないかと思う。

あたし?
あたしは別に、話したいわけじゃないけど……、それでもユリのそっちにもそれなり
に関心はあるわよ。
だってパートナーだしね。

「そんなあ……」

案の定、ユリは両手の拳を口のあたりに持っていって可愛い子ぶってやがる。
身をよじりながら、「え〜〜?」とか「でもぉ」とかほざいている。
いい歳して可愛い子ぶってんじゃないわよ、ぺっ、ぺっ。
人並みか、それ以上にはエッチしてるくせに。
そりゃあ、あたしも経験が少ないとは言わないけど、ユリには負ける気がしてるもの。
上半身をくねくねさせながら、膝もうりうりしているユリに頭痛を感じてきた。
ええい、目の前にハンサムがいるわけでもないのに、いつまで純情ぶってるんだ、
このアマ!

「いいわよ、じゃああたしからするから」
「ケイから?」

男がダマされやすい、その可憐に見える唇からは消極的な言葉しか出てこない。
まだワインだがブランデーにまで進めば、今はぶりっ子な唇からとんでもない猥談が
出るのは珍しくないのだ。
ここはいっちょ、もっと飲ませて化けの皮を剥がし、あたしの話で盛り上げて、ユリ
が自分から話したくなるようにしてやろうじゃないの。
あたしは仕方なく話し始めた。

「ユリ、憶えてる? ドーファンの事件」
「ドーファン? ああ、バティルスの……」

バティルスというのは、人類が接触した8番目の知的生命体である。
過去6回は遺跡という形で、1回はあたしらが関係した事件で発見されたのが、いろ
いろあってもう永久に会うことは出来ない。
バティルスは8番目なのだ。

こいつはもともと、ロプーチャという白鳥座星域にある惑星の衛星軌道上から発見
されたものだ。
無数に浮遊している隕石の欠片から採取された生物で、最初はアメーバみたいなもん
だった。
「最初は」と言ったのは、後になってこいつは変態したからなのだ。
捕獲したのはロプーチャの研究所だったんだけど、すぐに手に負えないとわかった。
絶対零度の中で仮死状態だったバティルスは、可住環境に持ち込まれると、驚くべき
速度で進化、増殖していったのだ。

事を重大視したロプーチャは、すぐに銀河連合の生物化学部門に持ち込んだ。
この判断は正しかった。
なのに、その時点ですぐにWWWAに提訴があった。
こっちとしては訳がわからん状態である。
主任にも詳細はわからず、まして何でうちらが指名されたのかわからんと頭を抱え
ていた。

相手が人間ではなく生き物、それも敵対するものでなければ、これは自然科学トラ
コン担当である。
にも関わらず、中央コンピュータ(めんどいから、以後CCと略す)はわざわざ
あたしらを指名してきた。
つまりこれは厄介ごとが起こる可能性が極めて高いということだ。
それがバティルスそのものについてなのか、あるいは扱っている人間の方なのか、
それはわからなかった。
なぜなら、あたしたちが駆け付けた時、すでに訴え出た人はいなかったのである。
後に死亡と推定されたが、遺体も出なかった。
あたしらが事情を知ったのは、バティルスに接触してからだ。こいつら、言葉が
出来たのだ。

「まさか人に取っ憑くことが出来たなんてねぇ」

ユリがしみじみと言う。

「取り憑いたんじゃないわ、頭ん中を食ったのよ」

そう言うと、ユリは胸が悪そうな顔をした。
あれを思い出したのだろう。

バティルスは雑食性だった。
何でも食うのだ。
無機質でも有機物でも構わないらしいが、やはり有機物の方がうまいらしい。
岩だの金属だのを食っていた頃は、ろくすっぽ進化できなかったみたい。
それがロプーチャで地上に持ち込まれ、実験と称していろんなものを食わされた。
挙げ句、銀河連合の生物部門研究所があるドーファンで人間の味を覚えたのだ。
その結果、アメーバのような単細胞生物に過ぎなかったバティルスは、凄まじい
ばかりの進化を見せた。

形態的には大差なかった。
不定形生物で、最初の頃より多少弾力性が出て、かつ立体的になったくらいだ。
溶けかかったソフトクリームみたいなもんである。
ただ問題なのは、知能レベルがぐんと上がったことだ。
はっきりしないが、こいつは人の脳髄を食って、その記憶や知能をそのままそっくり
いただくらしい。
なぜそんなことが出来るのか理屈がわからんが、考えようによってはこれ以上の寄生
はないだろう。
それだけに、その謎を知りたがってWWWAは生きたままの捕獲を指示してきたけど、
無理言うなってのよ。

食えば食うだけ知識も増える。
それによって人類の言語もマスターしたらしい。
「らしい」というのは、今では確認のしようがないからだ。
もう連中はこの銀河系内にまったく存在しない。
ユリが信じられないという顔で言う。

「やぁだケイったら、まさかバティルスに嬲られてた時の話ぃ?」

目をまん丸くして口をぽっかり開けている。
うっさい、うっさい。
あたしだってこんな話はしたいとは思わなかったわよ。
でも、ユリのすごい話を聞くには、これくらいの枕が必要なのよ。
そう、あたしなんかの話は枕よ、スケベのユリの経験談に比べればね。
それに、正直言って、男に抱かれている時とはまったく違う、おかしな快感もあった
のは確かだったのだ。
あたしは、若干の後悔と恥ずかしさを堪えながら、ぽつぽつと話し始めた。

─────────────────

研究所は、もうすっかりやつらに占拠されていた。
どの部屋を見ても、バティルスがのさばっている。
アタマに来ていたあたしは、バティルスを見かけるたびにブラスターをぶっ放して
やったが、キリがないしエネルギーの浪費だと思ったから途中でやめた。
片っ端からドアを蹴破り、生き残った人がいないか確認して回る。
そんな中、研究所の奥まった場所にある職員用ロッカールームで、あたしは生き残り
をひとり見つけた。
その人はロッカーを背に座り込んで呆然としているようだった。

「すぐに駆け寄ったんだけど様子が変なのよ」
「じゃあ、その人も……」
「そう。バティルスにやられてたのね」

しっかりして、と肩を揺さぶってようやく気づいた。
男の顔ががっくり項垂れると、後頭部にやつがしっかり食いついているのがわかった。
そいつが頭から口(ったって、どこが口だかわかりゃしないのだが)を離すと、その
人の後頭部にはぽっかりと穴が開いていた。

「うげげ」

ユリが少し身を引いて呻いた。
あんたはいいわよ、そうしてあたしの話を聞くだけなんだから。
あたしはそれをナマで、ライブで見たのよ、こんちくしょう!
吐きそうになったわよ、実際。

「あっ」と思った時は遅かった。
あの気色悪いぶにぶにが、あたしの美しい肌に吸い付いた。
素肌に塗った極薄耐熱ポリマーなんか何の役にも立たない。
なにせあいつら、それまで食ってるんだから。
お気楽女が気軽に言う。

「その時、抵抗できなかったの?」
「出来るわけないでしょ、あんた! バティルスはあっというまにあたしの両手両脚
を覆っちゃったんだから」
「あらまあ」
「あらまあ、じゃないわよ。ブラスターなんか、ベルトごと外されちゃったんだから」

ユリが首を振って、半ば感心したように言った。
笑ってやがる。

「けど、よく食われなかったわねえ。まずそうだったかしらね」
「そうじゃないわ。あたしの美貌を見て、ただ殺したり食べたりするのはもったいない
と思ったのよ」

これはウソじゃないのだ。
こいつらの食性から見て、餌と見ればいきなり食うだろう。
とにかく年がら年中腹を減らしているような生き物らしいから。
なのに、あたしにはそれが適用されなかった。

「……じゃあ、そいつが食った男って、よっぽどスケベだったのかしらね」
「そうなんだろね」

これも後になってわかったことだが、バティルスは脳を食った人間の知識や経験も
得ることが出来るが、思考や嗜好もかなり入り込んでくるらしい。
だからあたしを襲ったバティルスは、よほど女に飢えてるか女好きの変態野郎の脳髄
を喰らったみたい。
あたしを見て、ぷるぷるねばねばした気持ち悪い体がいやらしいピンク色に変色した
もの。
あれは絶対、あたしの素晴らしいプロポーションを見て欲情したに違いないわ。
あたしは、身長が171センチ、体重54キロ。
サイズは上から91−55−91よ。
これで高ぶらないのはインポ以外あり得ない。
男として認めない。
けど、それが不細工なヤローや今回みたいな化け物というのは願い下げよ。

でも、あたしはそう思っても相手はそうは思ってくれない。
いつもならブラスターを乱射するかブラッディ・カードをぶん投げるところだけど、
がっちり拘束されちゃってどうにもなんなかった。
でもあたしはその時、不思議なくらい冷静だった。
もともとユリに比べて知的で理性的なあたしだが、化け物を目の前にしても落ち着い
ていた。
やつが昂奮しているのはわかったし、すぐに殺す気がないこともわかったから。
殺す気なら、あたしが不意を突かれたその時に殺っているだろう。
それがないということは、女としてのあたしを欲しているに違いない。
こんなやつに好き勝手されるのは屈辱だけど、即死させられて脳味噌を啜られるより
はナンボかマシだ。
なんとか時間を稼いで、ユリかムギの救援を待つしかない。

「でもさ、あんなもんに犯されるって、どんなことされるの?」

ユリのバカが、大きな瞳をくりくりさせながら聞いてくる。
顔だけ見れば純情可憐だが、聞いてることはとんでもなくシモネタである。
だけどまあいい。
ユリはこっちのペースにはまってきてる。
あたしはなるべく臨場感を盛り上げるようにして喋った。

「ぶよぶよしてるピンクの塊だと思ってたら、それがにゅうって伸びんのよ」
「わぁお、触手ってやつ?」

何を喜んでるんだ、この女は!
興味あるのか、そういうのに。
この変態が。

「そいつがね、植物か何かの蔓みたいに長くなって、あたしの胸に巻き付くのよ。
服の上からよ」
「へー、そんでそんで?」

ユリのやつは興味津々である。
もっと乗せるためには、なるべく過激なことを言わねば。

「不慣れな感じだったわ。揉んでるっちゅうよりは恐る恐る触ってる、みたいな。
食った野郎は童貞の妄想過多だったのかもね」

最初はホントにそうだったのだ。
けど、あたしが動けないことを覚ると、改めて触手たちが蠢いてきた。
最初は二本で左右のおっぱいを。
それが四本になって、乳房だけでなく乳首までいじくってきた。

その時だ。
やつにも意識があるってわかったのは。

「どういうこと?」
「多分、あれは喋れはしないのよ。だけど人間の脳を食って、その情報から言葉は
わかる……。あたしの頭ん中に直接話し掛けてきたわ」
「へえ……。じゃあテレパスかな?」
「かも知れないね。もっとも、あたしはそれどころじゃなかったけど」

やつの声が頭に届く。

−なかなかいいおっぱいしてるな。
−あんた、話せるの!?
−まあな。言葉だけじゃなく、いろんなことを知ってるぜ。例えば、おまえはWWWA
のトラコンだってことも。
−……なら、こんなバカなこともうやめたら? トラコンに手を出したらどうなるかも
知ってるんでしょ?
−もちろん。おまえらがダーティペアという、とんでもない連中だってこともな。
−……。
−トラブルを収めるのがトラブル・コンサルタントだそうだが、そのトラコンである
おまえらが出張るとトラブルが大きくなるんだってな。
−……。
−おかげでラブリー・エンゼルなんてコードネームじゃ誰も呼んでくれない。その名
の通りのダーティペア……
−お黙り! このばけもん!
−威勢がいいな、ねえちゃん。
−言いたいこと言ってくれちゃって、このままタダじゃ済まないわよ。
−俺もこのまま済ませる気はないさ。もっとおまえの身体を弄ばないとな。
−ふん、ナマ言うんじゃないわよ。そんな愛撫じゃ百年かかったって……
−強がるな。もう乳首が固いじゃないか。

そう言われて気が付いた。
確かに乳首が痛くなってる。
充血してるのだ。
無駄口を交わしている間も、バティルスの触手は蠢いており、あたしの綺麗なバスト
を揉んでいたのだ。

素人かと思った愛撫だったが、その実、巧妙だとわかった。
太い方の触手はアンダーバストを擦り、輪っかを作って根元から上へ揉み上げている。
そして細い方は、乳首に触れるか触れないかくらいの刺激を与え続けていたのだ。
そのたびに、乳首が恥ずかしいほどに起き上がってくるのがわかる。
コスチュームの生地は丈夫だからそんなことはないだろうが、勃起した乳首がブラ
から盛り上がって見えるのではないかと心配したくらいだ。

あたしの方は、こんなスライムみたいなのに嬲られて感じてたまるかと堪えていたの
に、あいつはそんなあたしを見て愉しんでいるようだった。
必死になって胸の愛撫に抵抗していたんだけど、そんな風に意識を胸にばかり持って
いってると、余計にそこに神経が集中してしまうのよね。
逆効果だったのだ。こういう時は別のことでも考えればいいんだけど、あの時はそんな
余裕はなかった。

−んんっ……あ……。

つい鼻を突いて、甘い声が洩れてくる。
我慢しようと思えば思うほど、甘美な刺激が頭をとろかそうとする。

その時、まったく不意打ちで別の刺激が来た。
背中とお尻である。
やつは出そうと思えば何本でも触手が出るらしく、胸を揉んでいる四本とは別のを
使ってきた。
戦闘服のブラの後ろに入り込むように、そしてパンツの隙間からぬらっとぬめる触手が
潜り込んできた。
たまらずあたしは悲鳴を出してしまった。

「きゃあうっ!!」

ぬめぬめした柔硬いものが素肌にへばりついてるんだから気色悪いに決まってる。
だけど、背中を擦ってくるそれはブラの後ろから入り込んで肩胛骨や鎖骨をなぞって
くる。
パンツの太腿部分から入ってきたやつは、お尻を舐め回すようにして動き回ってきた。
あたしが呻いていると、そいつはあたしの身体をぐいと空中に持ち上げた。
太腿と胸でバティルスに支えられたあたしは自由を奪われ、もがくしか出来ない。

「触手はただうねってるだけじゃなくて、どうも粘液が滲んでたみたい」
「粘液が?」
「じゃないと、あんなにぬめぬめするわけないもの」
「き、気持ちよかったの……?」
「んなわけないわ。最初はね……」

徐々に触手に慣らされていくのがわかるのだ。
気持ちがいいも悪いもなかったのに、段々とその動きが気になってくる。
次はどんなことをするのか思いを巡らすようになっていた。

何をしようとしているのか、すぐにわかった。
やつはあたしの服を破ったのだ。背中に回った触手は、ブラの後ろを切り裂いた。
パンツの方も、太腿の横に伸びたやつが、そのまま外に向かって破かれた。
その一瞬だけ硬かった。
バティルスは、ただ柔軟なだけじゃなくて、意志によって硬くも柔らかくも出来る
みたいだ。
そう考えてあたしはゾッとした。
いつでもあたしを刺し殺したり、斬り殺したり出来るってことじゃないか。

「だからおとなしくしてたんだ」
「まあね。ビックリしたわよ、あの強化繊維で作られてるうちらの服が紙くずみたい
に切り裂かれちゃうんだから。あんなもんで生身の身体をやられたら一発昇天よ」

バティルスはあたしのブーツまで切り裂いて捨てた。
なぜかバンダナだけは残した。
やつの趣味なのかも知れない。
前に男から聞いたけど、完全オールヌードよりも、どこかに一部だけ何か着けてる
方が色っぽいのだそうだ。
ヌードにネックレスでもいいし、ガーターだけ着けてるとか、そういうのがいいらしい。
バンダナだけ残したのもそういう意味があったのかも知れない。とにかくあたしは
素っ裸に剥かれた。

−ひぅっ……!

脱がされた途端、あたしはビクンと身体をよじってしまった。
やつの触手があたしの足の指の間に侵入してきたのだ。
まるで舌のようにぬめぬめと動き、指の股を舐め回している。
くすぐったいというより、はっきりとした性感を感じていたわ。
それだけじゃない。
腋の下や首筋、うなじや耳まで念入りにやられた。
舐められたところはやつの粘液だらけ。気色悪くてしようがないのに、それがいい
ようになっていった。
おっぱいやアソコなんかは、こそこそと弱い愛撫で責めているのに、浮いたあばら
とか、お尻の谷間とか、内腿あたりはこねこねと揉み回された。

「巧かったんだ。感じた?」
「感じるっちゅうか、こう、だんだんと身体の奥の方に熱いのがたまっていくような
感じかな……。わかる、そういうの?」
「わかる。あるよね、そういう時。じっくり愛撫されるとこみ上げてくるものが
あるよ」
「そうそう、それよ、それ」
「それでも相手は人外でしょ? なのに……」

ユリの言いたいことはわかる。
あたしもそう思っていたのだ。
だけどね、焦れったいような愛撫をじわじわと時間を掛けてされていったら、不感症
でもない限りおかしな気持ちにもなってくるわよ。
下等生物(実際は知的生命体なのだが)に下品に嬲られて感応させられていく。
とんでもなく屈辱的で恥ずかしいことなのに、身体の芯が確実に痺れていくのだ。
しかもその微弱な痺れが蓄積されていくようで怖かった。

恐怖はない。
しかし、悪寒や恥辱、そして官能をどうしても意識してしまう。
あたしはそんな淫らな思いを断ち切るように、バティルスのやつを睨みつけてやった。
やつは不快な笑い声を上げながら語りかけてきた。

−いい。いいな、その反抗的な面構え!
−……。
−銀河に怖いものなしのダーティペアのお姉さんの片割れ。そいつが肉欲に負けて
快楽に泣き叫ぶのを見るのは堪えられんだろうな。
−勝手に決めるな! だ、誰がおまえなんかに……あひっ!

あたしのしなやかな裸身にまとわりついた触手どもが本格的に蠢きだした。
足の指先から頭皮まで、文字通り身体中に巻き付いた触手はうねうねとくねりつき、
なんとかあたしから快楽の声を導き出そうと努力している。

−んん! ……くぅ……んむ……くっ……んんっ……

やつの粘液にまみれた触手がうねくり、柔らかい胸を揉み絞り、張り出したヒップを
撫で回し、腋や脇腹を舐めてくる。
強い快感(そう、あたしはこの時、明らかに快感を得ていた)を感じるたび、強く
身体が収縮する。
そうでない時は、精神とともに肉体も解きほぐされ、とろかされていく。
白く濁りそうな意識を奮い立たせ、血が出るほど強く唇を噛みしめた。
だけど、その気概も直後に吹き飛ばされた。
薄紅に染まった触手が、淫らにくねりながら、あたしの大事なところに這ってきた
のだ。
バティルスがほざいた。

−それ、お待ちかねのオマンコを責めてやるぞ。
−ふざけるなあ! 誰が待ってなんか、ああっ!!

そいつがあたしのなめらかなお腹を舐めながら下に向かってきた。
可愛らしいおへそを通って、繊毛をかき分け、とうとうそこまで来た。
花弁に触れるか触れないかのところ這い進み、腿の付け根やクリトリス周辺をもぞ
もぞと蠢いている。
いけないと思うのに、焦れったくてしようがなかった。
いやでもあそこが熱くなってくるのがわかる。

ああ、あたし期待してるんだ。
あの醜いもので貫かれるのを待ってるんだ。
その薄汚い欲望を振り切ろうとするんだけど、あいつの愛撫は一向に止まない。
あっ、だめ。
恥ずかしいけど、割れ目から熱いのが零れてる!

−くく、みっともない。いやらしい汁が漏れてるぞ。
−う、うっさいのよ、あんた! も、もうやめてってば!

悔しいけど感じてる。
もう誤魔化しようがなかった。
バティルスから送り込まれる快楽を逃がすため、お尻を盛んに振りたくるのを止め
られない。
それをやめたら、途端に喘いでしまいそう。

−はっ、はむむっ……ん、んく……くあっ……。
−なかなか粘るな、ダーティペア。さすがというべきか。なら、これはどうだ?
−くぅあっ!

とうとう入ってきた。
触手があたしの中に侵入してきたのだ。
そこまで聞いていたユリがゴクリと唾を飲み込んだ。
正直な子だね、昂奮してるのが丸わかりじゃないか。

「は、入ってきちゃったんだ……。でもでも、それって細いんでしょ?」

ユリの頬が染まってきているのは酒のせいばかりじゃないだろう。
恥ずかしいというより、話を聞いて自分もエロい気分になっているのだ。
まったくこの淫乱娘が。
まあ、それだけあたしの話に臨場感があったってことなんだけど。
あたしはちょっと優越感に浸って説明してやる。

「最初は細かったわよ。そうね、直径で1センチ、2センチってとこ」
「じゃあ、別にどうってことは……」
「最後まで聞きな。だけどね、その細いのが何本も集まって捩り合わされていった
のよ」
「え……」
「だから太さで言えば5〜6センチ、いいえ7センチくらいはあったわよ。そんな
ぶっといのを突っ込まれたのよ」
「ひぇ〜〜」
「しかも、ロープやワイヤーみたいに捩られてるんだから」

そうなんだ。
ただ太いだけでなく、何本も集まって捩られてたもんだから、その刺激たるやもの
すごいのよ。
それだけじゃないわ、捩った触手のうちの一本が抜け出てきて、クリトリスに巻き
付くんだから。
そこを根っ子から絞られてごらんなさい、絶叫のひとつも出ちゃうわよ。
そうやってあたしからエッチな蜜を絞り出しておいて、おもむろにぶっといのを膣に
突き刺してくる。

−ああっ、あ、がっ……。

太かったわよ。
そりゃ太かったわ。
捩られた触手はごりごりとあたしの膣の粘膜を擦っていく。
小さくて締まりのいいあたしのアソコが、子供の手首なら入りそうなくらいに拡げ
られた。
むりむり、みちみちという秘裂の悲鳴が聞こえるようだった。

−うっ、うぅあっ……は、はうっ、ひっ、あっ、んあっ、あうっ、ぐぅっ……。

太い触手が奥まで入り込んだと思ったら、今度は遠慮なく早いピストン運動が始まる。
ぐちゅぐちゅ、ぬぷぬぷと、粘った卑猥な水音があたしの大事なところから響く。
その間、解放された細い触手は、当然のように敏感なお豆をいびってくる。
もうすっかり剥けきっていた包皮から顔を出したそこを、絞り込むように揉んでくる。
かと思うと、先端を尖らせて突っついてもきた。
いくら慎み深いあたしでも、頭がもげそうなくらいに振りたくらないと気が狂いそう
な快感だ。
狭い膣を盛んに出入りするぶっとい方も、滲み出ているやつの粘液とあたしの愛液で
ねばりつき、白くまぶされていた。
そいつがぐいと奥まで来ると全身がつんのめるような刺激が起こり、抜かれると胎内
の襞が全部ひっついていきそうな感覚になる。
そんな激しいのを、いやになるほど何度も繰り返されていた。

「……」

ユリのやつのはもう口を挟むでもなく、息を潜めてあたしの話に聞き入っている。

スケベなバティルスは必ず同時責めで来た。
膣だけ責めることはなく、同時に胸も揉んでくる。
根元から絞り出されるほどに強く締めつけられたあたしのバストは、可哀相に、まる
で砲弾みたいな格好に括り出されていた。
91センチもあれば充分よ、そんなに絞ったらもっとサイズが上がっちゃうじゃない。
それも、ただ大きくなるだけならいいけど、そんなに強く揉んだら美しいあたしの
おっぱいの形が崩れちゃうでしょ!

そんなあたしの懇願などどこ吹く風と、バティルスは好き放題に責めてきた。
ぎゅううっと締め上げられた乳房の頂点にある乳首も、腫れ上がるというより鬱血して
きている。
もっと敏感になっていたそこを、触手が巻き付き、擦り、ねぶっていく。
あたしはもう、それだけでいっちゃいそうだった。
それがわかるのか、バティルスは嘲笑いながら言った。

−なんだ、もういきたいのか、ダーティペアめ。
−冗談じゃ、ああっ、ないわっ、く、このっ……ああっ。

こんだけ念入りに時間をかけて責められて、しかもあんなにぶっとくて硬いのを
突っ込まれたら、誰だっていきたくもなるわよ。
でも、こんな醜い変態野郎に、あたしの貴重な絶頂シーンなんか見せたくなかった。
だから気迫を振り絞ったんだけど、もうその時点でどうしようもなくなってた。

こいつの、太いだけじゃない。実に器用に動くのだ。
ただ突っ込むだけじゃなく、膣口を拡げるように楕円に回ってくる。
そうされると、ゴツゴツした捩りの部分で粘膜を抉られ、刺激されて、気が遠くなる
ほどの肉悦が来る。
最奥まで入れられた時もそうだ。捩り合わされてたのが奥で解け、あたしのいちばん
奥にある子宮まで嬲るのだ。
細くほぐれた一本一本が、先を尖らせて子宮口をカリカリをこじ開けようとしてくる。

ビリビリと全身が感電するような愉悦で仰け反り、呻くしかないあたし。
それでも内臓の方は素直に反応して、徐々に子宮が下がってくる。
固く閉じ合わされていた子宮口も少しずつ口を開けてくる。
そこを狙われてさらに抉られるのだ。

たまらなかった。
甘美な苦痛ととろけるような快感の中、あたしはまずい、と思った。
もし、このまま出されたら、あたし妊娠しちゃうかも。
ただのバティルス生体だったら、遺伝子から構造から、何から何まで人間とは違うん
だから、射精されたところで妊娠などしまい。
しかしこいつは、人間を幾人も食っているのだ。
その脳髄から記憶や知識を吸い取る能力を持ったこいつが、人間の受精システムを
そっくり受け継ぎ、その精液も人間のそれだという可能性があるではないか。
無論、そうでない可能性の方が高いが、だからといってあたしの身体で実験される
のはご免だ。

そうは思っても、あたしの感じやすくて女らしい身体はもう暴走しかかってた。
あいつの太いのがグリグリと中を抉るたびに、背中が折れそうなくらい仰け反っちゃ
うの。

「そ、そんなに……?」

ユリの腕がぴくりと動いた。
ワインを飲むことも忘れた細い腕は、もしあたしの前じゃなかったら、自分のおっぱい
揉んでたのかもね。
あたしにはわかる。
それくらいユリは高ぶってた。

「そりゃすごかったわよ。それが奥を突くだけじゃなくって、ぐるぐる回転すんのよ。
ただでさえ太いのに、もこもこしたのが粘膜抉って、削られるみたいだったわ」

これは本音である。
忘我というのはあの状態のことを言うのだろう。
乳房に乳首、腋や背筋、首に足の裏や指、さらにはお尻と複合的に責められて、あたし
は一気に追い上げられてしまった。
口にはしなかったが、とうとういってしまった。
その瞬間、あいつの触手の先端から夥しいほどの粘液が噴き出してきたのだ。

「しゃ、射精……?」
「だったのかな」

でも変だったのよ。
冷たいの、それが。男の熱いのを浴びるとぞくぞくするような気持ちよさがあるけど、
冷たいのも凄かった。
熱く火照りきっていた子宮に冷たいのがひっかけられるのよ。
あたしゃ失神するかと思ったもん。

1時間以上も犯されて、もうクタクタだった。
バティルスのやつは射精したし、これで解放される、チャンスが出来ると思ったのが
甘かった。
あいつ、今度はよりによって……。

「お尻ぃ?」
「……そう」

バティルスはあたしのアソコを犯しただけでは満足せず、今度はお、お尻の穴、肛門
を責めてきたのよ!
恥ずかしいけど、目一杯感じていたあたしの股間は、もうびちょびちょだった。
自分ので濡れてることもあったけど、でも言い訳するわけじゃないけどバティルスの
粘液もたっぷりついていたんだ。
それがお尻の方にも流れていて、谷間がぬちょぬちょしてた。
ちょっとお尻をくねらせるだけでにちょにちょといやらしい音がする。
恥ずかしくて死にたくなったよ、マジであん時は。
いったばっかだったし、そんなこんなで油断してたら、いきなりお尻に来た。

見たわけじゃないからわからないけど、感触では人差し指くらいの太さの触手が突然
肛門に刺さってきた。
しっかり閉じてたつもりだったけど、触手は難なくお尻の中ににゅるっと入ってきち
ゃった。
凄かった。
お尻に入れられるのは初めてじゃなかったけど、痛いだけだった。
でも今回のは、入れられた途端、肛門というより背中から脳天に向けてびりりって
電気が走った感じだった。

バティルスのやつは太くしなかった。
その太さのままあたしのお尻を責め続けた。
ずぶずぶと深くまで入ったり、回転するように抜き取っていく。
一端燃え尽きたはずだった身体が、今度は肛門の奥からメラメラと燃え広がっていった。
あいつはあたしに気づかれないように、徐々に触手を太くしていってるようだった。
一本だったものが二本に捩り合わされ、三本、四本と増えていき、加速度的に太くなる。
ねじれでボコボコしたものが、思い切りお尻の穴を抉ってくるのよ。

「……すごいわね」

あたしの言葉が途切れると、ユリは気が付いたようにアルコールを干した。
今気づいたが、ユリのやつ、いつのまにかコニャックになってる。
気取り屋のユリがブランデー・グラスに変えず、ワイン・グラスのまま飲んでいる。
よほどあたしの話に夢中になってるんだろう。
ユリの目が先を促している。

30分もお尻を掘られた頃には、もう触手の太さは膣を犯った時のと変わらないくらい
になってた。
そんな太いのであの狭いところを突き込まれるんだから、どうにかなっちゃうわ。
もうお尻の穴の皺がなくなるくらいにまで拡げられて、なおもそこをぐりぐりとこそ
がれている。
肛門が爛れているのか、火照っているのかわからなくなっていた。
なんでか知らないけど、お尻の中、つまり直腸の内部に感じるポイントがいくつか
あるみたい。
そこを責められると、きゅんと肛門が締まる。
すると当然、突っ込まれてる触手がいっそう太く感じられてしまうのだ。

「で?」
「で、って……。い、いきそうになっちゃったのよ」

恥ずかしいけどそうなのだ。
声に力が抜け、震えてくる。
どう堪えても喘ぎが零れる。
苦しくて痛くて呻いていたのが、甘い音色が混じり、熱い息となって口から漏れ出て
しまう。
本来、出るためだけの一方通行なアヌスに野太いものを突っ込まれる圧迫感が、
満足感や充実感にすり替わってきていた。
あたしが全身をぶるぶると震わせていると、もういきそうだと思ったのだろう。
あいつは太いのをぐるぐる回転させ、上下左右にうねらせながら、凄まじいばかりの
速度で律動してきた。あたしはたちまち到達する。

−だっ、だめっ、ああっ……あ、ああっ、い、いっくぅっ!!

「今度こそホントに失神したわよ。もちろんやつはあたしのお尻にもうんざりする
ほど射精してきたし」
「……」

ユリが居心地悪そうに、お尻をもぞもぞさせている。
わかりやすいやつめ、きっと自分がお尻を犯られてるような気になってるんだろう。
白い貌がぽぉっと上気している。エロフィルムでも見たような顔である。
くく、これならユリのすごい話が聞けるだろう。
それに、これでユリが満足してくれるなら全部話さないで済む。
実はユリには言わなかったが、もっとすごいことされちゃったのだ。
浣腸ってやつ?
あれよ、あれ。
大昔、美容法とかダイエットであったらしいけど、今そんなことやってるやつは変態
以外いない。
出産や手術の時でも下剤を飲んで済ませるのが普通なんだから。
どうやらバティルスに食われたやつの中に、そういう変態さんがいたらしい。
あいつはあたしのアヌスに突っ込んだ触手から大量の粘液を放射したのだ。
もちろん、それは浣腸作用につながった。純粋な浣腸液なんかじゃなかったとは思う
のだけど、下っ腹が膨らむくらいに注入されたら、そりゃあ出したくなるよね。
あたしは渋るお腹に悶えて言った。

−くっ……ト、トイレ……。
−……。
−はっ、早く、トイレよ!
−別にかまわん。そのまま出せ。

あたしは目を剥いたね。

−ばっ、バカなこと言ってんじゃないわよ! 早く、ああっ……んんっ、も、もう
苦しい……。

あいつは便意で散々身悶えて苦しんでるあたしを見て愉しんでいた。
あたしのような美女が悶え苦しむ表情や姿は、変態にはたまらない場面なんだろう。
それは理解してあげるが、この苦痛は我慢出来ない!
だから必死になって頼んだんだけど、あいつはせせら笑ってるだけ。
まさかこんなやつの前で、その、するわけにはいかないじゃない。
でも、そうは思っても生理の苦痛なんか耐えられるわけないのだ。
あたしはすぐに限界に達した。

−あ、ああ……だめ、ああ、もう出る、出るぅ……。
−いいさ、出せよ。じっくり見てやるぜ。
−いや、見ないで! くううっ……あ、も、もう我慢が、ああっ……。

あたしは断末魔の悲鳴を上げると、とうとう……。

最高の屈辱と汚辱で呆然としていたあたしに、あいつはさらに浣腸を繰り返した。
もう腸の中には出るものなんか何もないのに、何度も何度も。
そのうち、出てくるのは注入されたあいつの粘液だけになっていた。
幾度も注入と排泄を繰り返されたアヌスは、もう爛れ切って感覚もない。
なのにバティルスはそこを狙って、またしてもあのボコボコした触手であたしのお尻
を犯しにかかったのだ。
恥ずかしいけど、ずぶりと奥まで入れられただけで簡単にいってしまった。
あたしがぶるるっと全身を痙攣させて喘いだのを見て、いったのがあいつにもわかった
はずなのに、なおもアヌスから触手を抜かず、そのままピストンを続けた。

もうあたしは半狂乱になりながら、何度もいかされてしまった。
アヌスで何度かいかされると、今度は思い出したようにアソコを犯される。
膣にもアヌスにも、こってりした濃いやつが溢れかえるほどに射精されていた。
もう最後はほとんど肉人形だったと思う。
このまま気が狂うまで犯されて、最後はこいつの腹の中なのかと諦めかけた時にユリが
駆け付けて来た。

いや、正確には駆け付けて来たのではなく落っこちてきたのだ。
あたしは一階でバティルスに犯られていたんだけど、ユリはその真上の二階で他の
バティルスとやりあってたらしい。
ユリはレイガンで応射していたのだそうだ。
だけどバティルスには、レーザーや通常弾頭なんかはほとんど威力はない。
あのぶよついた気持ち悪い体にめり込むだけなのだ。

効果があるのは温度攻撃。
つまり冷却させて行動の自由を奪うか、逆に高温で焼き払うかのどっちかである。
あたしのブラスターやヒートガンなら何とかなるが、レイガンではダメだ。
ブラッディ・カードももちろんダメ。

で、武器が効かないとわかったユリは奇策を用いた。
実験動物や椅子や机、とにかく手当たり次第、何でもかんでもバティルスに投げつけた
のである。
もちろんあいつには痛くも痒くもない。
むしろ餌をもらって感謝したいくらいだろう。

ところがその度が過ぎた。
こいつは、食った分以上に太るのだ。
成長し続けるバティルスの重量が二階の床、つまり一階の天井を圧し破ってしまった
のだ。
もともと部屋にはあれこれ機械や検査機とかの重量物が山ほど設置されてるのに、
そこにいたバティルスがどんどん重くなれば、そりゃあ床だって抜けるだろう。
つまりユリは、デブになったバティルスごと天井から落っこちてきやがったのだ。
建築材と機械設備、それにもうもうとした埃をまとわせてユリとバティルスが落下
してくると、それはモロに階下の仲間の上に乗っかった。
ついでにあたしにも極軽量モルタルの破片が飛んできて、それが側頭部に命中した。
あたしゃユリみたいな石頭じゃないから目から火が出たわよ。
コブまで出来たけど、それで失神から目覚めたわけだから、今回は特に許す。
じゃなかったら、ユリの頭は今頃コブだらけよ。

とにかくあたしはそのショックで正気に戻った。
それまでバティルスによって強制的に何度も気をやらされていたことから立ち直った
のよ。
これがユリだったら、あたしが助けに行っても、まだバティルスと絡んでたわよ。
あたしは上から落っこちて目を白黒させていたユリに活を入れてあいつらに立ち向か
おうとした。
んだけど、バティルスどもは目を回していた。
でかぶつ同士がぶつかって脳震盪でも起こしていたのかも知んない。
もっとも、やつらの頭がどこにあるのかわかんないんだけどね。

とにかく、ぴくぴく痙攣している連中を後目にあたしらは部屋を飛び出た。
ユリのバカが「逃げるの!?」なんてほざくから殴ってやった。
そうじゃない。
この研究所はもうダメだ。
どの部屋見てもバティルスだらけだ。
恐らく研究員たちは残らず食われちまったんだろう。
部屋にあった資料を斜め読みしたら、こいつらは細胞分裂じゃなく生殖で増えるよう
になってきてるらしい。
しかも雌雄同体なのだ。
単為生殖も可能だし、二匹以上いればいくらでも交尾が可能だ。
つまり、一端増えだしたら始末に負えなくなるということなのだ。
もう四の五の言っている暇はない。
一気にこいつらを処分するしかないのだ。

あたしは追いすがるユリを従えて、調理室へ走った。
そこにもバティルスがいたが、ブラスターをぶち込んで焼き払ってやった。
辺りにはコックのものらしい白衣やエプロンの残骸がある。
やっぱりみんな餌食になってしまったのだろう。

突き当たりのドアを蹴破って倉庫に入った。
埃っぽい。
埃というより粉っぽかった。
そこに目指すものがあった。
内容量25キロの強化紙袋である。
それを肩に担いで持ち上げた。

ぐわっ、おっ、重いぃ。

ユリがきょとんとして「何やってんの?」などと気楽なことを抜かした。
このバカ、そんな余裕があるなら手伝わんかい、おのれ!
そう言うと「そんな重いの持てなぁい。それにそんなに持ったら手が汚れるでしょ」
だと。
このお気楽極楽女はあっ!

しかしバカ構ってる暇はない。
あたしは無視してエレベータに滑り込んだ。
幸い中にやつらはいなかった。
しかし動力室も襲われているだろうから、所内の電源が落ちる可能性もある。
あたしは、信じたこともない神に祈ったね。
運良く屋上に到着するまでバティルスに出くわさなかった。
不信心だったあたしの願いを神さんは聞き届けてくれたらしい。
そりゃそうだろう。
なんせあたしはこの時、素っ裸だったのだ。
天上の神さんも、この美麗なヌードを見て思うところがあったに違いない。
今思い出しても恥ずかしいが、バティルスに犯られた時にコスチュームを破られて
そのままだったんだ。
だけどあの時は無我夢中で気が付く間もなかったのよ。
だいたいユリだって一緒にいたんだから、さっさと教えてくれればよかったんだ。
あとでそう言ったら、「ケイってそういう趣味があったのかと思って」だと。
バカぁ、誰がストリーキングなんて時代遅れのことするかい!
あたしの美しーヌードを拝むことが出来るのは選ばれた男だけなのよ!

バカ言ってるうちに、屋上隅っこまで来た。
「何すんの?」とユリが聞く。
この期に及んで、こいつにはまだわからんかったらしい。
説明するのもめんどいので、黙って作業を続行する。
袋の口を乱暴に破くと、開いたところからむあっと粉煙が上がった。
これ小麦粉である。
こいつを通風口にぶちかましたのである。
大きな換気扇が回ったそこは、盛大に小麦粉の煙をあげながら中に外気と粉を送り
込んでいく。
今頃、研究所内は粉だらけだろう。
あとはうちらの脱出だ。

ユリにムギの動向を聞くと、ラブリーエンゼルを取りに行っているらしい。
そう聞いた時、爆音が聞こえた。
あたしらの船、ラブリーエンゼルだ。
垂直型の外宇宙航行用艦。
もちろん大気圏内も飛べる。
スカーレット色をした全長80メートルの愛船である。
ナイスタイミングだ、ムギ。
ムギを派遣しておいたユリもえらい。
このことだけは褒めたげる。
あとは役立たずだったけど。

屋上わずか3メートルほどまで低空飛行してきた船からするすると乗降ロープが伸びる。
こいつはただしがみつくだけで引っ張り上げてくれるオートマである。
あたしらはそれをひっつかむと船内に戻った。
飛ぶようにしてコックピットへ行くとナヴィに座り、すぐにFCSを解除する。
「攻撃すんの?」ユリのすっとぼけた問いに答えず、誘導ミニミサイルを発射した。
ここで撃たずにいつ撃つんだ!

スクリーンを睨みながらジョイスティックを操作し、ミサイルをあの通風口に叩き込
んだ。
ドン、と小さな爆発が起こった。
通風口付近は綺麗に吹き飛んだが、それっきりである。
あのミサイルにはTNT炸薬換算で50キロ分の爆発しか起こらないはずだから当然だ。
しかしその直後、パリンとガラスの砕けるような音がして研究所全体が火を噴いた。

「ひぇぇ!?」

ユリが素っ頓狂な悲鳴を上げて仰け反った。
訳がわからんのだから驚くだろう。

物理を囓った人にならわかるだろう。
炭塵爆発である。
可燃性の細かい粒子状のものをばらまいてやる。
真空状態では意味ないが、人間が呼吸できるところなら充分だ。
そこに火をつけてやると、撒き散らされた粉塵が連鎖的に燃え上がる。
つまり爆発するのである。
要は炭坑爆発事故と原理は同じだ。
あれは採掘した石炭の粒子に、電灯かなんかの電気がショートしたりして火花が飛ぶと
ドカンとなる。

生物研究所だから、外から雑菌を入れないため、そして内部から外へ漏らさないために
密封状態に近くなっている。
だから窓は嵌め殺しだし、扉の開閉もすべてオートである。
唯一、常に外気と通じているのは換気室および空気清浄室を通した通気口だけだ。
そこに粉をぶちこんで火をつければどうなるか。

大爆発を起こした研究所の爆風を受けて、上空2000メートル付近を飛んでいた
うちらの船にまで衝撃が来た。
かなり派手にやったらしい。
いくら何でも、たった25キロの小麦粉と小型ミサイル一発でここまで大爆発する
わけはない。
まさか火薬類はなかったろうが、圧縮空気やガスとかの可燃物、自家発電の燃料など、
火気厳禁のブツはけっこうあったんだろうな。

さらに上空に駆け上り、そこからかつて研究所があった場所を俯瞰すると、建物どころ
か敷地一帯がきれいに吹っ飛び、燃え盛っていた。
あちゃー、随分とまた大げさになったもんだ。
ユリが慰めるように「まあ、これくらいで済んでよかったじゃない」と言った。何を
他人ヅラしてるんだ、こいつは。
おまえだって共犯じゃ!

しかし、あたしもユリと同感だった。
何も都市ひとつ、星ひとつ潰したわけじゃない。
これくらい軽いもんよ。
でしょ?

そう思ってたのだが、あとで主任に呼び出されて青くなったね。
なんと、あの研究所ひとつで可住惑星が半分くらい買えちゃうらしい。
想像はしていたが、最新の設備を多数導入した機関だったのだ。
それだけでも困るのに、もっと問題だったのは所員たちのこと。
彼らはいずれも優秀かつ著名な研究者なのだ。
眉目秀麗かどうかは知らないが、とにかく頭脳明晰な名うての研究者揃いなのだそうだ。
そりゃそうで、銀河連合に加盟してる各星系各惑星から選りすぐられた生物学者たちが
集められていたのだから。
その金銭的補償もだが、人的損失が何しろ大きかったらしい。
博士号を持った研究員だけでも4000人以上死んだ。
ある意味、一般市民が数百万死んだことよりも銀河連合の衝撃は大きかったらしい。
他に研究助手や事務員、警備員、機械技術者やコック、清掃員などの雑役まで含めれば
20000人以上、そこにはいたのだ。
それが綺麗サッパリ消滅した。
その時には既にみんな死んでいた……と、あたしは思いたいけど確認しようもない。

だっ、だけどそんなこと言われても困るよ!
あん時はああするしかなかったんだから。
バティルスは物理攻撃にはほぼ無敵で、対地ミサイル撃ち込んだってどうってことは
ない。
炸薬で爆発はするけど、単に飛び散るだけで意味はない。
細胞分裂するのと大差ない。
弱点は高熱や冷却だけど、まさか熱核攻撃するわけにもいかないし、やつらを全員
引っ捕らえて宇宙空間まで引っ張り上げることも出来ない。
だったら後腐れ無く、すべて焼き払うしかないじゃない!
それにはあの方法がベストだったのよ!

この件はだいぶ問題になったらしいけど、結局、銀河連合のCCが判断を下した。
結果はもちろん、うちらにお咎めなし。
シロだ。
ったりまえの結論である。
あの時点で研究所関係者は死に絶えていた可能性が高く、またあたしの採った手段は
最善とまでは言わないが、やむを得ぬ方策だったと認められた。
研究所ごと焼き払ったお陰でバティルスを根絶やしに出来たのだから、言ってみれば
結果オーライである。
一部でも生き残っていたら、あっというまに増殖して人類の危機になりかねなかった
のだ。
カネはWWWAと銀河連合が折半して補償することになったらしい。
事件は見事(でもないが)解決したが、恨みは買う。
こうしてうちらはまたWWWAと銀河連合の双方から睨まれることになったのである。

「はあ……」

あたしがそのことを思い出してため息をついているのに、ユリときたらそんなことは
さらとも気にしていないようで、まだ顔を赤らめている。
この先天性淫乱女めが、そんなに触手に嬲られる話が気に入ったのかい。
いつのまにか、ユリの手にしているコニャックのボトルが半分くらいになっている。
こいつ、遠慮がないな。
まあいい、どうせあたしの酒じゃない。
それより、もうそろそろいけるだろう。あたしはユリに切り出した。

「満足した? なら、今度はあんたの番よ」




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