「はあっ……はううっっ……」

あたしは犯され続けていた。
一時の休憩も与えられないままに。
凌辱するオークどもはもう一周終わって、最初に犯した一頭が二度目に入っていた。
ということは、もうこれが四度目の凌辱で、三回も膣内に射精されたことになる。

生殖オークたちは、一度あたしの身体を愉しんで存分に射精したはずなのに、二周目に
なってもまったくで勢いは収まらなかった。
まるで初めての女を犯すかのように、嬉々としてあたしの肢体を貪っている。
あたしの魅力的な身体をもってすれば、男を虜にするのなんて簡単よ。
だからあたしを見て欲情するのは無理もない。
でも、それがオークなんてイヤ。

最初は、どうすればこの悪夢のような輪姦劇から逃れられるのかを考えた。
三頭のオークに押さえ込まれ強姦されるのを拒むのは無理とわかってからは、もう石みたい
になって我慢して、早く終わらせることばかり考えた。
でも全部無駄だった。
媚薬を使われたこともあるんだろうけど、貫かれるのが苦痛でなくなってきた。
むしろむず痒さが解消されて気持ちよかった。

そのうち、セックスの快感まで得るようになってしまった。
仕方がないよ、いくら猿にされてるとはいえ、胸を揉まれ、クリトリスをしゃぶられ、
アソコにスゴイのを挿入されてる。
焼け焦げそうなくらいの激しい動きも加えられた。
薬の効用のせいもある。
念入りに愛撫されて入れられたら、そりゃあ感じてしまうわ。

だけど、もうそんなまとまった考えなんか、とっくに頭から失せていた。
あるのは、あたしの中心を貫いてくるたくましいペニス。
あたしの身体を揉みくちゃに愛撫する、オークの馬鹿でかい手の動き。
そんなものしか浮かんでこない。

「ああ……いいっ……」

喉の奥から淫らな声が出てくるのを止められない。
オークの責めに合わせて腰が蠢いてしまうのが止められない。
あたしの愛液とオークの放った精液にまみれたペニスが盛んに出入りしている。
膣の内部は、オークのおぞましい体液と、あたしの淫らな体液で溢れかえっているに違い
ない。
あたしの媚肉と擦れ合って、にちょにちょ、ぬちゃぬちゃと、聞くだけでいやらしい淫音
が響いていた。

その膣は、肉棒に差し込まれると窪み、抜かれる時はへばりついていく。
めいっぱい拡張された膣口の襞は、オークのものが出入りするごとにめくり込まれ、外に
引きずり出された。
同時に、適度にとろみを持った蜜がじゅぶじゅぶと溢れかえる。
あたしは、お腹の中を硬いオスの肉で埋められる苦しさと、それに伴う魔悦に酔っていた。

あたしの肉体に慣れたのか、二周目のオークはゆっくりと突き込んできた。
速度は遅いがストロークは長かった。
長いものが時間をかけてあたしの膣内を抉る。
竹みたいな節がいくつもあって、それが襞を擦りあげていく。

そして毛。
このオークは、なぜかペニス全体に剛毛が生えてる。
ということは、その剛毛ごとペニスが押し込まれるのだ。
肉棒のサオ部分を包み込んだごわごわと硬い毛にも媚肉が擦られる。
亀頭をいくつもつないだような節くれ立った部分でゴリゴリされるのもたまらなかったが、
無数の剛毛になぞりあげられる感覚にも狂いそうになる。

「ああうっ、それっ……ああ、それ、いい……いいっ……」

あたしとは思えない恥ずかしい言葉を口にする。
そんなことを言っても、オークに通じるとは思えないのに。

オークが腰を打ち付けるたびに、その大きな手で乳房を揉み込まれるごとに、あたしは
肉悦に溺れていく。
理性の浜辺は、うち寄せる快楽の波に飲み込まれ満潮状態になる。
人間性の砦も、亜人猿の繰り出す肉茎に削り取られていった。

爛れきった肉の快美に、あたしは朦朧となる。
充分にあたしをとろけさせたと思ったのか、それとも膣の締めつけに耐えられなくなった
のか、責めるオークは動きを激しくしていった。

「あっ! ああっ、そんな急にっ……は、激しすぎ、ああっ……いっ、いいっ……」

打って変わった激しい攻撃で、オークは子宮を責め込んでくる。
膝立ちになって、仰向けになったあたしの腰を抱え上げる。
そのまま細くくびれた腰をがっしり掴むと、ガンガン突き上げてきた。
あたしはもう他のオークに身体を押さえ込まれてはいない。
残りの二頭は、もう押さえ込むどころではなく、あたしの柔らかいに肢体を揉みくちゃに
し、舐めしゃぶっていた。
あたしも、拘束が解かれたというのに逃げようという気にもならなかった。
それほどにオークのセックスは激しかった。

「あおおっ……お、奥まで……奥まで、ああっ、届いてるっ……だ、だめっ……どうにか
なるうっ……」

あの長大なものが全部沈み込んでいるのだ。
あたしは今まで届かされたことのないところまで貫かれ、新たな快感に呻き、悶えた。

そんなあたしの反応に気をよくしたのか、オークはさらに激しく責めてくる。
大きく脚を開き、片方を胸に押しつけるように倒し込んで、もっと奥にまで入れようとする。
たくましい胸があたしの豊かな乳房を押し潰す。
適当に岩を削りだしたような荒々しい筋肉の上を剛毛が覆っている。
それがあたしのおっぱいを擦ってきた。
もう充分に硬く張り詰めていた乳首が強い毛に擦られて、泣きそうなくらいの快美感に
襲われる。

「あああ……ああっ……?」

だ、だめだ。
またいきそうになる。
喘ぎ声すら掠れて息絶え絶えだ。
あたしがいきそうになってるのがわかるのか、オークも遠慮なく子宮口を突き上げ続ける。
狂おしいほどの快感に、あたしの口は開きっぱなしで喘いでいる。
あうあうと口をパクパクしていた。

美肉からは際限のないほどに愛液が漏れ出て、きゅうきゅうと痙攣が始まっていた。
それを振り払うように激しく腰を振るオーク。
へばりついてくる襞を引き剥がして抜き、収縮するところをずぶずぶと奥まで貫く。
まるでペニスで突き殺すかのように、あたしを犯した。

「深い、ああ……ふ、深すぎるっ……だめ、いくうっ……」

我慢できずにあたしはいった。
ぎゅううっと媚肉が締め上がり、オークの肉棒を絞った。
硬すぎるほどに硬くなったオークのペニスはそんなものでは許してくれない。
あたしが激しく絶頂に達したというのに、まだ媚肉をかき混ぜるようにしてペニスを使っ
ていた。

もうあたしは自分がどうなってるのかわからない。
自由になっている脚は、オークを蹴飛ばすどころか、その腰に巻き付いていた。
あたしの長い脚をもってしても、胴回りの太いオークの腰を完全に挟み込むことは出来な
かった。
それでもあたしは必死になって、その毛深い胴体に脚を巻いた。
そうすることで、さらに深い挿入感を得られる。

でも、これだとピストンがしにくい。
オークはあたしの脚を払うとその腰を押さえつけ、真上から壊れるほど激しい律動を開始
した。
あたしの腰も、その突き込みに何とか動きを合わせようと蠢いた。
太いものが媚肉を突くと、じゅぶじゅぶに溢れていた蜜が四方に乱れ飛んだ。

「いい、だめえっ……いっ、いくっ、またいくうっ……い、いっちゃうわよぉっ……」

膣というか胎内の痙攣が止まらなくなった。
締めつけもさらにきつくなり、いっそうオークのペニスのたくましさを思い知らされた。
とうとうやつも限界なのか、突き込む腰のリズムがめちゃくちゃになってきた。
射精しようとしているのだ。
それなのに、あたしは拒もうともしなかった。
あたしがいくら気をやろうとも、オークが射精しない限り終わらないのだ。
だからもう出させるしかない。
でも、そんなのは言い訳だった。
あたしの方が、膣の深いところに精液を欲しがっていたのかも知れない。

「いっ、いきそうっ……ああ、ペ、ペニスがあたしの中で震えてる……射精されるぅっ
……いく……いっくうううっっ……」

あたしは頭とお尻でブリッジを作るように背を仰け反らせて、激しくいかされた。
その時だった。
膣のきつい収縮に耐えかねて、オークが汚液を放出した。

どっびゅるるるっ。
びゅるるんっ。
びゅるるっ。
どぶどぶどぶっ。
どくん、どくん、どくんっ。

二度目とは思えないほどの大量の精液だった。

「ああうう……すご……すごすぎる……こ、こんなにいっぱい……ああ……あたしの子宮が
……オークの精液でいっぱいよぉ……ああ、ま、まだ出てる……ううんっ、またいくっ……」

オークはあたしの胎内深く、子宮近辺に射精した。
近辺というより、もろに子宮口だった。
何度も犯され、続けざまに気をやらされ、数度にわたって射精され続けた結果、堅い子宮口
も開かされていた。
そこに鈴口を密着させられ、僅かに開口した子宮の中に直接射精されてしまった。
どくどくと熱くて粘っこい精液が子宮の中に流れ込んでくるのが、手に取るようにわかった。
絶え間なく注ぎ込まれてくる異生物の精汁の感触に、あたしは何度目になるのか数もわから
ない絶頂を、また味わわされた。

ああ、もう絶対妊娠した。
孕まされた。
オークの子を身籠もった。
こんなに何度も、大量に精液を受けてたら受胎したに決まってる。
子宮の容量以上に射精され、逆流して膣から流れ出るくらいに出されたんだ。

あたしが、受胎の絶望感と射精されて膣を精液で満たされた充実感に浸っていると、よう
やく待っていたものが来た。
出し抜けに壁が破壊された。
室内に破壊音と粉砕された壁の破片が舞い散った。
質の悪い建材を使ってあったらしく、もうもうと埃を立てている。
その中から現れたのは。

「ケイっ、無事!?」

ユリだった。
右手にレイガンを握り、左手は埃を避けるように顔を覆っている。
けど、ユリだけでこんな派手なことは出来っこない。
ということは……。

「ムギ……」

ムギもいた。さすがにとろいユリとは違って、こっちは機敏に動いていた。
あたしが朦朧としている間にもう一頭のオークを咬み裂いていた。

オークの方も、まさか敵がこんな形で登場するとは思っていなかったらしい。
だってドアがあるし、施錠されてないんだから、壁を破ってくる必要はないんである。
まさに不意打ちということで一瞬呆気にとられたらしい。
その一瞬があればムギには充分だ。

あっと言う間に一頭を屠り、ユリがあたしに声を掛けた時には二頭目がその牙にかかって
いた。
ムギの力を知っているあたしらにしても、驚くほどの強さである。
飼い主であるあたしが嬲られていたので、怒り狂ったらしい。

残った一頭は、さっきまであたしを犯していたやつだ。
突然闖入してきた敵にようやく我を取り戻したが、まだ半勃起状態のペニスをぶらぶらさせ
ているのは間抜けだった。
それでも闘争本能が甦ったのか、ムギに向かっていったのは愚かな行為だった。
やつは他の二頭があっさりと殺されたのを見て学習すべきだったのだ。
これが戦闘用オークならまだ何とかなったかも知れないが、そこはセックスしか頭にない
性ボケ猿である。
ムギの敵ではない。

一声吠えてムギに殴りかかっていったオークに、ムギは少しも慌てることなく、軽くジャ
ンプしてその前足を振るった。
擦れ違ってしばらく走っていたが、すぐに崩れ落ちた。
首がなかった。
KZ合金すら切り裂くムギの爪である。
軽く振ったようにしか見えなかったが、その凶器は分厚い筋肉に覆われていたオークの首
を千切り取ったのだ。
まるでフリーの敵をとってくれたかのようだった。

この頃になって、ようやく意識がまともになってきたあたしは、近寄ってくるムギの頭に
手を置いた。
ムギは喉をゴロゴロ鳴らして目を細めていた。
その顔は、オークの返り血を少し浴びている。

「ケイ、大丈夫?」

ユリも寄ってきた。
危ないシーンで出てこないのは相変わらずだが、一応こっちを心配しているらしいので
今回は許す。

「……なんとか」
「はい、これ」

そう言ってユリが白衣を掛けてくれた。
あたしのコスチュームはオークにずたずたにされてしまって、もう着られない。
それを見たユリが、どこからか羽織るものを持ってきてくれたらしい。
お鈍のユリにしてはなかなか気が回っている。
ここには博士ひとりしかいないんだから、これはあのじじいの白衣だろうが仕方がない。
取り敢えずクリーニングされてあったし、これしかないので我慢する。

「ユリ、モロー博士は?」

それを聞くと、ユリは破った壁の向こうに一端消えて、今度はドアから入ってきた。
ずるずるとじじいを引きずってきている。

「まるっきり無防備で、なんてことなかったわ」

ユリの話によると、モロー博士はあたしをオークに預けた後は、酒を飲みながら研究資料
をまとめていたらしい。
戦闘用オークを配備する気遣いもなかったようだ。
まあ、ムギのことまでは知らなかったらしいし、ユリとあたしを捕まえてしまえば敵はない
と思ったのだろう。

で、その戦闘用オークに捕まっていたユリは、そのまま放って置かれたのだそうだ。
すぐに殺さなかったのは、多分、あたしを受胎させたあとユリも犯させるつもりだったん
だろう。
あとからモロー博士が自供したところによると、始めは二頭ずつであたしとユリを犯させる
つもりだったんだそうだ。
でもあたしが一頭殺して三頭になったので、取り敢えずはひとりずつということにした
らしい。
最低でも二頭はつけておかないと、万が一の時に危ないと思ったと話していた。
確かに、いかに馬鹿力の持ち主とはいえ、オツムの弱い類人猿が一頭きりなら、あたしも
ユリも何とでもなる。
その辺は慎重だったが、捕まえた後が杜撰だったということだ。

え、ムギ?
ムギはもともと別行動させたんだ。
さっきも言ったけど、モロー博士はムギのこと知らなかったみたいだし。

知られてたらまずかったけどね。
あのじいさんなら、オークに捕まったあたしを人質にしてムギを捕らえ、解剖でもしかね
ないもん。
なんせ稀少生物だからね、クァールは。

で、ムギは単独行動させた。
研究所内は動物だらけだし、もしかしたらムギみたいな、というか猫科の動物もいるんじゃ
ないかと思って。
もしいれば、中に紛れていれば目立たないからね。
でもそんな気遣いは要らなかった。
研究所はまるで無防備だった。

ムギは捕まったユリをまず助け、協力してモロー博士を捕らえてからあたしのところに来た
らしい。
最初にあたしでなくユリを助けたというのは気に入らなかったけど、これはたまたまユリの
方が近い場所にいたからだということだ。

ユリが冷たい笑みを浮かべながら、モロー博士を立ち上がらせて言った。

「それでケイ、このおじいちゃんどうする?」
「……」

あたしは睨み殺さんばかりにじじいを見た。
ユリは思わせぶりに聞いてきたが、結論は決まっている。
逮捕して帰還するのだ。
だけどじいさんの方は、殺させるのではないかとひどく脅えていた。

「わ、わしをどうする気だ。ま、まさか殺すのか!?」
「さぁて、どうしてあげようかしら」

白衣を引っ掛けただけの裸のまま、あたしはなるべくドスを利かせて言った。
右手には、オークが持っていた長い棒を持っている。
フリーを殺し、あたしをオークの輪姦にかけたのだから、殺されるかも知れないと思って
るんだろう。
じじいは余計なことを言った。

「わしを殺すのか!? ス、WWWAのトラコンだろう、君らは。そんな、人殺しをして
いいと思っとるのか!?」
「笑わせないで。そういうあんたはフリーを殺したのよ」
「あ、あれはオークどもがやったことで……」
「お黙り! つまんない言い訳なんか聞く耳持たないわ。……それに、あたしに何したか、
忘れたわけじゃないでしょ?」
「……」

ユリがウィンクして怖いことを言った。
無論、脅しである。

「ケイ、なんかするならしてもいいよ。私、他の部屋を見回ってるから。帰ってきて何かが
起こってても、私は何も見てないし」
「そんな!」

じじいがモロに狼狽えていた。
ユリに縋り付こうとしたがあっさりかわされて空を切った。
あたしもつい調子に乗って言う。

「そうねえ。このままこのじいさんを解放するって手もあるわよね」
「……」
「逃げてくれたら警告してあげる。警告を無視してくれるとうれしいわあ。射殺する理由
が出来るから」
「やめてくれ!」

モロー博士はへなへなと座り込んだ。
頭を下げ、手を合わせて拝んでいる。

「何でもする、何でも喋るから助けてくれ。わしを保護してくれ」
「……」

あたしは、跪いて命乞いするモロー博士を見ていてバカバカしくなってきた。
こんなやつ……。

「……心配しないで。あんたなんか、殺す値打ちもないわ」
「……」
「でもね」

あたしは半身になって右腕を引いた。
ユリはそっぽを向いてくれている。
博士が殺気を感じて身を引く暇も与えず、あたし渾身の右ストレートが見事に顔の真ん中に
決まった。

───────

あたしたちは博士を収監すると、すぐにラブリーエンゼルを発進させた。
もうこの星に用はない。
綺麗な星だが、フリーのことが思い出され、もう二度と見たくはなかった。
コックピットで機を操りながらユリが聞いた。

「ねえ、あの研究所どうする?」
「……後始末するべきかもね」
「うん」

そう言うと、ユリもこっくしうなずいた。
上空で旋回すると、機首をモロー博士の研究所に向ける。
何のためらいもなく対地ミサイルを3基発射した。
遅延信管をセットすることも忘れない。

炎の帯を引いてミサイルは研究所に吸い込まれていった。
ミサイルが消えて3秒後、その地下から激しい爆発が起こった。
噴き上げる爆炎、立ち上る煙。
ミサイルは研究所の小さな入り口を突き抜け、地下に潜ってから大爆発した。

あたしは、もうもうと噴き出す火炎めがけて、さらにナパームを叩き込む。
2000℃にも及ぶナパーム・ジェリーの炎が、博士の忌まわしい研究成果を残らず焼き
尽くすことを祈って。
これで、あの実験動物たちも粗方死に絶えただろう。
可哀相だが仕方がない。
万が一生き残っているのがいたとしても、基本的に彼らは生殖不能だ。
心配には及ばない。

フリーのことを考えていたのか、少し感傷的な表情をしていたユリがぽつりと言った。

「じゃあ帰ろうか」
「待って」

まだひとつやることがある。
あたしは決然とユリに言った。

「……フリーの研究所も爆破するのよ」
「なんですって!?」

ユリがビックリしてあたしを見た。
あたしとユリの間に顔を覗かせていたムギもこっちを見ている。

「フリーが言ってたでしょ。理論的にはもうブラックホール砲は完成してるって」
「でもっ」

ユリが少し慌てて言う。

「フリーが言ってたでしょ、まだ完全じゃないって。作れることは作れるけど、フリー
自身にも制御しきれないし、副作用でナントカが出来ちゃうって言ってたじゃないの」
「だからこそ、よ」
「え?」
「だから、そんな不完全なものをルーシファに渡せるわけないじゃない」

そうなのだ。
開発者でもある専門家のフリーにコントロールできないような兵器が、連中に扱えるわけ
はないんだ。
それでもやつらは作ってそれを使うだろう。
副作用であるミニ・ブラックホールが出来てしまおうが、そんなことは構わない。
要はブラックホール弾を目標近くに撃ち込めればそれでいいのである。
むしろ不特定多数できてしまうミニ・ブラックホールすら、無差別テロとして使えるでは
ないか。
そんな物騒極まりないもの、銀河連合の専門家ならともかく、ルーシファなんぞに渡せる
わけがないのよ。

しかも。
恐らくこっちが要請して連合宇宙軍がやってくるよりも、ルーシファが来る方が早いだろう。
どこに支部があるかわからないし、フリーやモロー博士はどうせ定期連絡はしていたはずだ。
それがなくなれば異常事態として乗り込んでくるに決まってる。
もうあまり時間はないんだ。

そう説明してやると、ユリも納得したようである。
それでもまだ未練があるような顔をしている。

「でも……もったいないよね。ブラックホール製造施設を破壊するのはともかく、一緒に
研究資料まで処分しちゃうのは……」

確かにそうなのだ。
これは宇宙物理や重力理論に於いて、貴重かつ重要な研究には違いない。
フリーという天才を失った今、この技術や理論が他の人によって開発されるまで、まだ
長い時間がかかる。

「でも、それでいいのよ。こういう技術は、それが必要になった時、必ず他の誰かが開発
するものよ。それが人類の英知ってもんでしょ。まだ開発できないということは、まだ
この技術は、人類には早すぎるってことなのよ」
「そっか……。そうだね」

ユリの了解も得た。
あたしは万感の思いを込めて、フリーの研究所にミサイルを撃ち込んだ。

「フリー……」

───────

それからの帰還の道中は楽しいものだった。
事件は完全に解決して、何と被害はほぼゼロ。
死者は一名出たが、これはモロー博士が殺害したのだから、あたしたちのせいではない
(もちろん、フリーを守りきれなかったという道義的責任は認める)。
施設は二ヶ所破壊したものの、これもやむを得ない事情によるもの。
いずれも正当性には自信あるわ。
もう、これ以上ないほどの完璧な結果よ。

あたしたちの頭には、早くも特別休暇と特別ボーナスのことが浮かんでいた。
これでグーリー主任にも自慢できる。
うちらをダーティペアなどという忌まわしいあだ名で呼んでいる連中を見返せるんだ。
うれしいたらありゃしない。

あたしはウキウキしながら本部──つまり主任──への連絡を済ませた。
主任は半信半疑だったが、だめ押しとばかりに捜査レポートを送ってやると、かなり驚い
ていた。
そして内容を確認すると、とろけそうな笑顔で「早く帰還するように」と言った。
無理もない。
これで仲間内にも大きな顔が出来るんだろう。
それまでは肩身の狭い思いをしてたんだろうから。

「みぎゃ」

ムギがなんか言った。
本部との通信が少しおかしいらしい。
微かに、ほんの微かにズレが出ている。
とはいえ、通信自体は普通に出来ているのであたしは気にもしなかった。
それと、これも気にしなかったが、僅かにドップラー・シフトにもズレがあった。
しかし誤差にもならないほどのものである。
宇宙船の航行状況を確認するために、全周囲方向センサーによって光や電波のドップラー
効果を測定している。
それにやや異常があるようだ。もしかして整備不良かも知んない。
まあいい。
帰ったらトータルチェックしてもらえばいい。
あたしは鼻歌を歌いながらムギに指示する。

「ムギ、格納庫に行ってあのじいさんの様子を見て来な」

モロー博士は船室には入れてやらなかった。
そんな気にはとてもなれなかったからだが、そうでなくとも定員2名のこのお船では無理だ。
だから格納庫に押し込んだ。
拘束こそしなかったが檻に入っている。
80センチ四方くらいの狭苦しい立方体の檻である。
非道い扱いだと思うかも知れないが、ユリだって捕まってる間はその檻にぶち込まれて
いたのだ。
意趣返しである。
それに、このお船は囚人護送用ではないので、そう都合良く収監する場所がなかったのだ
(言い訳)。

「餓死されても目覚めが悪いから、ちゃんとエサだけはやるのよ」

渋々と格納庫に向かったムギにあたしはそう言った。
おおっと、ヤバイ。
あたしも慌てて席を立つ。
忘れるとこだった、アフターピル飲んどかなきゃ。

───────

牡羊座星域、惑星リオネス。
WWWA本部はここにある。
宇宙港にラブリーエンゼルを預け、連合警察機構にモロー博士を引き渡すと、意気揚々
と本部に帰還した。

そこであたしらを待ち受けていたのは思ってもみなかった光景だった。
拍手喝采なのだ。
うちらが正面玄関を入ると、その周辺にいた職員たちがパチパチと拍手して迎えてくれる
ではないか。
中には握手を求めてくる人までいた。
歓迎の嵐である。
こんなことはWWWAに入って以来、初めての経験である。
最初は、バカにされてるのかと思ったくらいだ。

そりゃあ確かにあたしらはバッチリ仕事をこなした。
文句の言いようのない出来だ。
褒められるのは当然だけど、ここまでとは思わなかった。
あまりのことに、あたしらは柄にもなく照れてしまった。
ユリが恥ずかしそうに

「慣れないことはするもんじゃないね」

なんて言ったが、半分はあたしも同感である。
いつもはもう、非難の目で見られるか、あるいは無視されるかのどっちかなのだ。
同じ人間がここまで変わるかと言いたいくらいの変化だ。

エレベータホールに、たまたま顔見知りの職員がいたので少し話を聞いてみた。
そしたら案の定、あたしらの仕事の報告が知れ渡り、職員一同、驚愕と歓喜に渦に包まれた
のだそうである。
中には、今日を記念日にしようなどという話まであるらしい。
あたしらが無事に解決したことを祝して安全記念日にするというわけだ。
そりゃ何か、つまりあたしらは普段そんなに非道い被害ばっか出してるって意味かい
(「その通りだ」という意見もあるが無視)。
ふざけた話ではあるが、嬉しくないわけではない。
あたしもユリも、こそばゆい思いで主任の部屋を訪ねた。

「やあ、ご帰還だね、ダーティ……いやラブリーエンゼルの諸君。ご苦労だった」

満面の笑みである。

「もうこのダーティペアという名前も返上だね」

あたしたちがデスクの前に来ると、主任は立ち上がって握手を求めてきた。
こんなことは前代未聞である。

「報告書は読んだ。いや見事な手並みだな。いつもこう願いたいものだ」

皮肉かと思ったが、本気で喜んでいるらしい。
それでもあたしはしおらしく反省を口にした。

「それでもマールブルグ博士が殺されてしまいました」
「報告は読んだ。確かに残念な事柄ではあるが、それは君らのせいではない」

主任もやや沈痛な面もちで言った。

「マールブルグ博士が誘拐されていたのは知っていたが、まさかラングーザにいたとは
思わなかった。助けられなかったのは痛恨事だが、致し方あるまい」
「……研究所も爆破しました」
「それだけは惜しかったな。君らの通信を受けて、すぐに隣の星系にいた連合宇宙軍の
パトロール艦隊がラングーザに向かったのだ。彼らが抑えていたから、多分ルーシファは
間に合わなかったと思うんだが」

そうだったのか。
早まったのかも知れないが、あの時点でこんなことは予測不可能だ。

「だが些細なことだ、気にすることはない」

あたしとユリは、主任の物言いにホッとした。
もしかしたら、その件で嫌みでも言われるかと思っていたんだ。
ユリが調子に乗って聞いた。

「それであのお……」
「ん? なんだね?」

主任はあくまで機嫌が良い。

「特別休暇なんですけどぉ……」
「ああ、明日から一週間と申請が出ていたやつだね。無論いいとも。どうせ有給休暇が
たまっていたんだ、遠慮なく使いたまえ。総務の方には私から言っておいたから問題
ないはずだ」

ううむ、何という手回しの良さ。
スマートに仕事を片づけるとこうも違うのか。
よしよし、次回もそうしてやろうじゃないの。
つい調子に乗ったあたしは、ついでに聞いてしまう。

「あのぉ、ずうずうしいかも知れないんですけど、その、今回の件は特別ボーナスとか、
そういう対象にはならないですよね?」
「ボーナス?」

主任は少し考えたが、すぐにうなずいた。

「いいだろう、申請してみよう」

やりぃ!
言ってみるものである。
あたしとユリはこみ上げる笑いを抑えきれず、歓喜のハイタッチをした。

主任にしてみれば、あたしらが周辺に無被害で事件解決するのであれば、ボーナスなんぞ
安いものだと思っているのかも知れない。
そう思われてしまうとなんか釈然としないものがあるが、まあいい。
ボーナスはボーナスだ。
あたしはニッコリ笑って挨拶し、その場を去ろうとしたのだが、浮かれたユリが余計な
ことを聞いた。

「主任、ところでこれ何ですか?」

ユリの指がデスクの上に積んであった書類を指している。
4〜5冊のクリアファイルである。
ええい、どうせあたしらの仕事じゃないんだから、そんなもんはほっときゃいいのだ。
自分の仕事が満足に出来ないやつに限って、他の仕事を気にするんだから。
主任はそれを取って中をパラパラとめくって答えた。

「ああ、これは君らが任務を終えて帰還している最中に起こった事件だ。テロだよ」
「テロですか?」

ちょっと驚いた。
WWWAに提訴が来るということは大がかりなものかも知れない。

「もしかして、ルーシファですか」
「いや、わからん。それどころか、本当にテロかどうかもわからんのだ」
「……どういうことです?」

主任の説明によると、ここ数日の間、牡羊座宙域の星で大規模な爆発事件が発生している
らしい。
無人の鉱物惑星だとか、ほとんど人の住まない衛星とかで起きているものもあるが、中には
可住惑星での大事件もあるようだ。

「これは惑星ボーメントの事件だな。二ヶ所だ。メンスリーの街で大爆発があり、死傷者
と行方不明者の合計で202万人。もうひとつはクローズという小さな町で起こったもの
だ。規模は同程度と見られるが、人口が少なかったことが幸いして、こっちは死傷者
3000名程度だ」

そりゃまたえらい爆発だ。

「こっちは惑星パルメネンドだ。うん? これも二ヶ所だ。こっちは運良く海のど真ん中
で起こっている。側を航行していた客船が沈没しただけで済んでいる。それでも死者は
2000名。もう一ヶ所はちょうどその裏側あたりにある砂漠の端っこで、こっちは
死傷者ゼロらしいな」
「みんな二ヶ所同時なんですか?」

ユリが聞いた。
だとしたら、おかしなテロである。
主任は後ろのパネルに、これまで被害のあった星々を映し出した。
それを見てユリがつぶやく。

「ふぅん。隣同士とかそういうんじゃなくって、星の表と裏なんですか」
「そうだ、しかもほぼ完全に同時爆発なんだ。妙な話だろう?」
「……」

あたしはなぜか背中にゾクッとした悪寒が走った。
そしてつい小声でつぶやいてしまった。

「まさか、これ……」
「うん? 何か思い当たることでもあるかね?」
「いえその……」

ユリも主任も不思議そうな顔であたしを見ている。
あたしが絶句してしまったので、主任は説明を続けた。

「テロにしては不自然な点も多々あるのでね、自然災害の面からも調査中だ」
「自然災害というと例えば……」
「いろいろあるが……。ああ、そうそうブラックホールじゃないかって説もあるな」
「げ」

や、やっぱり。
そぉっと横を見ると、おつむの回転の鈍いお嬢さんもやっと気づいたようである。
ユリが恐る恐る尋ねる。

「ブラックホールというと……」
「ああ。君らも知っているだろう、大昔テラであったツングースカ大爆発というやつを」

知ってるわよ。
それも、ついこないだ聞いたばっかりよ。

「あれを連想している学者がいるらしいな。爆発規模を考えるとうなずける面もあるが」
「それで、あの、ブラックホール説というのは有力なんですか?」
「いや、それがね。もしミニブラックホールが本当に衝突したのであれば、当然突き抜けて
いるはずだろう? 確かに二ヶ所の爆発地点は直線で表と裏を結べるから、これだけなら
その可能性は高い。しかし一ヶ所にしか被害のない星もあるんだ。これはミニブラック
ホールでは説明がつかんだろう」

いや、つくのだ。
あたしの脳裏にフリーの言葉がリフレインされる。

──僕はミニ・ブラックホールがその天体のコア付近に引っかかってしまう、つまりその
まま止まって星の中に留まってしまう可能性を見い出したんだよ。

もし、そうなら。
これはもう確実ではないのか。
ユリの表情が引きつっている。
あたしと同じ考えらしい。
あたしは最後の確認をしてみた。

「……それで主任。もし、あの、もしですよ、ミニブラックホールだとして、どこから飛ん
できているかなんてわかりますか?」
「うん? 飛来方向か? 待、て、よ、と、ああ、あるな。ブラックホール説を支持して
いる学者たちによると、ほう、みんな同一方向かららしいな。宙域図でいうSE202
方向だ。被害にあっているのは牡羊座だから……ああ? 君らが行っていた射手座……
から来ているな……」

主任の顔つきが少し変わった。
慌てて手前のコンソールを操り、情報を取っている。

「……光波も電波もドップラーがずれてるな……。引力に引かれてるのか? じゃあ、
これは本当にミニブラックホールなのか?」
「……」

あたしたちは主任に気づかれないよう、少しずつ後ずさっていく。

ことここに至ってもはや間違いない。
惑星リオネスがある牡羊座星域で多発している謎の爆発事件はテロなんかではない。
ラングーザから来ているミニブラックホールだ。
フリーの研究所を破壊した時、多分、実験炉か何かでブラックホールを生成中だったのだろう。
それが途中で破壊され、暴走したに違いない。
当然、副作用であるミニブラックホールもいっぱい出来ちまったんだろう。
事の重大さに気づいたグーリー主任が叫ぶ。

「ケイ! ユリ! きさまら一体、何をした!?」

主任の怒鳴り声を背中で聞いて、あたしらは脱兎の如くその場から逃げ出した。




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