学園──というより学園長は「まだ通報には早い」と判断した。
今までなら、こうした場合は即座にSSSを出動させればよかった。
SSSに島中を虱潰しに捜索させることも可能だったが、子飼いの実働部隊を潰された今と
なっては、使える機動力がなかった。
SSSの失態は学園長にとっても痛手だったのは確かで、「すぐに警察へ通報を」という
けい子らの一部教師の主張を無碍に否定することもできなくなったのだ。
だからと言って、部外者を島内に入れることは可能な限り避けたい。
そこで妥協策として、教師と有志生徒たちによる山狩りということになった。
これにはけい子たちも頷かざるを得なかった。
真弓の行方が知れないのは確かだが、まだ失踪や事故に結びつけるのは早計ではある。
これが失踪して三日も経過しているとかいうならともかく、学園内での目撃情報から察して、
真弓の姿が見えなくなってまだ半日ほどなのだ。
ただ、もう日が暮れかけているし、足場の悪い場所にいれば転落事故も考えられる。
捜索するに越したことはない。
「いませんね」
「そうね」
けい子は、ひとりの男子生徒を連れて真弓を捜していた。
結局学園は、運営上差し支えない範囲で教師、職員に招集をかけ、捜索することにした。
狭い島ではあるが、もう夕刻で薄暗く、二次遭難の恐れもあるため、ふたり以上の組で行動
させた。
教師たちだけでは到底数が足りないので、事情を話して生徒の有志を募り、メンバーに充てた。
真弓の友人たちも名乗りを上げたが、如何せん女子生徒では危険が伴うとして却下された。
結局、生徒会執行部を中心とした男子生徒20名ほどが捜索チームに選抜されることとなった。
けい子ももちろん山狩りに加わった。
彼女の相棒となったのは、生徒会長の真田である。
ふたりは島の東側にある密林を探していた。
密林といっても小規模なものだが、鬱蒼としたジャングル状になっていて、昼でもあまり日が
差さない。
夕方以降、ここに入り込んだら、迷ってしまう公算は高かった。
しかも、この島の自殺の名所である断崖絶壁も近くにある。
真弓は儚げな美少女で、あまり気丈な方ではなかったが、それでも自殺志向ではなかった。
少なくともけい子はそう思っている。
従って、彼女が身を投げるためにここへ来る可能性はないと思っているが、誤って事故で落下
してしまうことがないとは言えない。
けい子の足も、彼女への心配で速まる。
その後をついてきているのが生徒の真田裕だ。
彼は生徒会長である。
一応、スパルタ学園にも、生徒による自治組織としての生徒会は存在する。
もちろん、学園によってその権限は著しく弱められてしまっている。
ただ、会長や副会長は生徒による投票で選ばれる。
選出される会長によって、その性格が大きく変わってしまうのが、スパルタ学園生徒会の特徴
と言えた。
つまり、学園サイドの横暴に強く抵抗する一種のレジスタンスになるか、逆に学園や教師たち
にすり寄ってしまうか、である。
真田は完全に後者であった。
一見、後者の方針では生徒の支持は得られないかのように思えるが、これが案外そうでもない
のだ。
ことあるごとに学園に反発していては、ますます執行部はやりにくくなり、生徒の主張や意見
が学園に採り入れられることは激減してしまう。
締め付けもきつくなる。
ところが学園側に懐柔するような生徒会活動を見せると、生徒には反発されるが、学園サイド
は自治活動をある程度認めてくるのである。
例えば、敵対する生徒会ならば、学園祭や体育祭などの生徒会が中心となる催しも、ことごとく
学園が介入して、何も生徒会の思惑通りにしてくれない。
逆に学園に近い生徒会だと、それらの運営にかなりの自由裁量権を与えてくるのだ。
もっとも、学園派の生徒会だと教師たちが調子に乗って強気に出てしまい、仕置きがきつく
なることも多い。
それに対して生徒会が抗議をしないからだ。
そのことを生徒たちも知っているから、どちらにしても痛し痒し、善し悪しなのだ。
だから生徒会長選挙でも、「学園の横暴に対抗すべく」という候補者と「学園との理解を深め
る」候補者で争われると、かなりの激戦になることが多い。
事実、この学園の生徒会長は、学園派と反学園派が毎年のように交互に選ばれている。
選挙は自主性を促すということで、学園長命令により、学園側は一切手出しはしないから、純粋
に生徒たちの選出なのに、である。
これは恐らく、双方に利点があるため、前年度の生徒会の悪いところばかりが目立ってしまうの
で、その逆の候補者に入れる傾向が強いからだろう。
真田裕は「学園、教師との相互理解と、それに伴う生徒による完全な自治活動」を公約に戦い、
勝ったのである。
反面、学園派の会長が当選すると、どの反動のせいなのか、副会長は反学園派が選ばれること
が多い。
副会長は2年生から選出されることになっているが、今の副会長は結花である。
結花は優等生でおとなしく、教師たちにとっても扱いやすい生徒のはずだが、実際は是々非々
で学園に対応している。
言うべきことは言うのである。
しかし学園創設以来の優等生ということもあって、学園長も教師たちも結花にはあまり無茶は
言わないし、彼女の発言は尊重される。
従って、表向きはともかく結花は生徒側なのだ。
当然、会長の真田とは折り合いが悪い。
真田にとっては、結花のせいで生徒会を取り仕切れない面があるからだ。
それほど彼は学園寄りなのだった。
だから今回の高橋真弓捜索にも、進んで協力した。
決して彼女が心配だからではない。
ふらふらといなくなった真弓には忌々しさは感じるものの、こうしたことで学園や学園長に
媚びを売れるなら良し、という判断である。
真田は生徒会執行部の男子を全員狩り出して、こうして山狩りをしている次第だ。
教師ひとりに生徒ひとりがついて組で行動することとなり、真田はけい子に同行すると申し
出たのである。
「そろそろ暗くなるわ。急がないと……」
「そうですね。二次遭難なんて洒落になりません」
真弓を捜して周囲を窺うように進んでいくけい子に対し、真田はただその後ろを黙々とついて
いくだけだ。
行方不明の少女を捜そうなどという気はさらさらないらしく、見ているのは前を行くけい子の
後ろ姿だけだ。
全校男子の憧れの的と言っても過言ではないだろう。
そもそもスパルタ学園には妙齢の女性が少ない。
というよりほとんどいないのだ。
「男子どもがくだらぬ妄想にふけるから」という学園長の判断で、若い女性職員のほとんど
いない。
大抵は40歳以上だ。
中には見栄えの良いのもいないこともないが、10代の男子としては対象外になるのはやむ
を得まい。
そんな中、20代の女性というのはけい子と香織だけなのであった。
教師の男女比は4:1で男性が圧倒している。
数少ない女性教師も25歳のけい子が最年少で、その上はもう35歳になってしまう。
そのけい子がかなりの美貌を誇るものだから、人気が集まるのは当然だった。
女子生徒にも美人はもちんいるのだが、けい子を前にすると、どうしても見劣りがするし、
幼く見えてしまうのである。
美人なだけでなくスタイルは抜群だし、その上教師としての能力もある。
厳しいところもあるが、性格は至って明るく気さくであり、生徒の中に自然と溶け込めるタイ
プだ。
男子だけでなく女子からの人気も極めて高い。
そこに保健医として若月香織が赴任してきた。
彼女もまだ若く美しかったから、当然のように男子の人気を集めている。
赴任当初は、保健室に男子生徒が殺到して仕事にならず、業を煮やした学園長が一時的に封鎖
したほどである。
いずれにしてもけい子と香織が学園男子の人気を二分しているわけだが、やはりけい子に一日
の長がある。
真田はけい子の身体に見とれている。
脚が長いからか、歩く姿勢がいい。
ヒップは盛り上がっているが垂れてはいないから、歩くたびにぷりぷりと尻が揺れるのがたま
らない。
意識しているわけではないだろうが、自然とモンローウォークになっており、男をそそって
やまない。
着ているのは白いラインの入った臙脂色のジャージである。
野暮の極みだが、けい子が身につけると悪くない。
身体の線にぴったりというわけではないが、胸や臀部の盛り上がり、太腿のたくましさなどは
充分に窺えるからだ。
それにしても、と、真田は思う。
けい子にもっと女性らしい服を着せたら、どんなにか映えるだろうと想像する。
いや、それよりも彼女を裸に剥いてその美しいヌードを拝みたいものだ。
そんな妄想をしているだけで、生徒会長の股間は隠しようがないほどに膨らんでくるのだった。
「ここ危ないから気を付けてね、真田くん」
「あ、はい!」
ぼんやりとけい子の尻ばかり見ていた真田は、突然話し掛けられて驚いた。
見るとけい子の指が右下を指している。
断崖だ。
岩場を砕くように白い波が叩きつけられている。
高所恐怖症が下を覗くと、くらくらしてしまいそうな光景だ。
「あそこも一応確かめましょう」
けい子はそう言って、背負ったリュックをせせり上げた。
先にはちょっとした岬がある。
普段は立入禁止区域になっている。
まるで屏風のような壁が切り立った断崖になっているからである。
高所恐怖症じゃなくとも、ここから海を見下ろすのは怖いだろう。
学園生活に絶望した生徒が身を投げることの多い「自殺の名所」だ。
手すりもロープも張っていないから危険だということもあるが、悪い評判の立つことを恐れた
学園が、生徒の立ち入りを禁じているのである。
岬の端には朽ち果てたプレハブ小屋があった。
屋根が一部落ち、窓ガラスは割れ、サッシの引き戸も外れてしまっている。
荒れ放題だ。
最初にこの島が発見された当時、国交省が急遽建設したものだ。
結局、予算不足で国が手を引き、スパルタ学園が島を買い取ったのだが、山を削って校舎を建て
たため、この辺りは手つかずのまま放置していたのである。
レクリエーション用に作ったハイキングコースや登山コースからも外れているため、ここまで
来る人間は滅多にいなかった。
好き好んで真弓がこんなところに来るとは思えなかったが、念のためである。
「あら?」
朽ちたプレハブの中からくぐもった声のようなものが聞こえてくる。
人の気配もする。
危険を感じないでもなかったが、「真弓かも知れない」という思いが先に立ち、けい子は溝から
外れた引き戸を一気に取り外した。
外見同様、内部も朽ちたプレハブだった。
真ん中に軽合金の柱が立っている。
仕切りが出来るようになっているらしいが、今は通し部屋になっていた。
埃まみれの事務デスクがふたつと、パイプ椅子にふたつみっつ乱雑に置かれ、あるいはひっくり
返っていた。
床も、古新聞やゴミ、そして泥で足の踏み場もないほどに汚れている。
窓も割れ、出入り口の引き戸も外れてしまっているため、風雨が入り放題なのだろう。
ガラスが半分以上割れてなくなっている窓際の壁に寄りかかるように人影があった。
「ああっ!?」
中には確かに高橋真弓がいた。
ただ、ひとりではなかった。
真弓は丸裸にされ、口をガムテープで塞がれた上、後ろ手で縛られていた。
そして、その哀れな少女の喉元に大振りなナイフを突きつけていた男がいたのだ。
「んんーーっ! んんんっっ!!」
真弓がけい子の姿を見て、驚いたように目を見開き、盛んに顔を振りたくる。
それを押さえるように、男が真弓の頭を抱え込んだ。
「暴れんな! このボロ家はいつ崩れるかわからねんだからな」
確かに、寄りかかった男の背にあるプレハブの壁はギシギシと軋んだ不気味な音を立てている。
「おおっと、あんたも動くなよ。おかしなことをしたらブッスリいくぜ」
そう言って男は真弓の首にナイフの刃を当てた。
真弓でなくけい子の方が悲鳴を上げた。
「やめて! やめなさい!」
「やめて欲しけりゃおとなしく……」
「先生! どうしたんですか!?」
そこに遅ればせながら真田が飛び込んできた。
内部に見てすぐに状況を察し、絶句してしまう。
「おやおや、お姫様を助けに来たのはヒロインだけでなくヒーローもかい」
男はにやにやしながら言った。
「知ってるかも知れないがな、俺は国分寺でサラ金強盗をやった犯人だよ。八丈島まで逃げた
のに、サツの奴らがしつこくってな、そこからも逃げてきた。一端は戻ろうかと思ったんだが、
東京へ行っても非常線が張ってあるだろうしな。どうせ青ヶ島あたりを警戒してるだろうから、
海上保安庁の巡視艇が出張ってくる前にここまで来たわけだ」
「……」
「上陸したはいいが、何もありゃしねえ。隠れるにはいいが、食糧もねえしな。どうしたもんか
と建物の側に行ったら、この小娘がいたんでな」
取り敢えず攫ってきたということなのだろう。
人質にして立て籠もるか、連れて逃げるつもりだったに違いない。
それでけい子も気づいた。
こいつは、職員会議で学園長が言っていた強盗殺人犯の秋本に違いない。
気丈なけい子の顔色も幾分青ざめた。
自分ひとりならともかく、真弓と真田を守らねばならない。
けい子は右手を後ろに回し、リュックに手をかける。
「動くなと言ってんだろ!」
秋本の大声に、ビクッと動きが止まる。
真弓が悲鳴にならぬ悲鳴を上げている。
男のナイフが少女の白い首に、僅かではあるが刺さっているのだ。
ぷくりと血の玉が膨れあがり、失神寸前の真弓は失禁していた。
けい子が叫んだ。
「わ、わかった、わかったから、その子には何もしないで!」
「それでいいんだ」
秋本は頷くと、けい子の後ろで震えていた真田に声を掛けた。
「おい、兄ちゃん! ぶるってんじゃねえよ、情けねえな。おめえらが抵抗しなきゃケガは
させねえから言うことききな」
「は、はい」
「そこの綺麗な姉ちゃん。あんた、もしかしてこの娘の先生か何かか?」
「そうよ」
「はあ、そうか。そういや、この島にゃ私立の学校があるだけだって話だったな」
秋本は少し考えるような顔をしながら言った。
「おい兄ちゃん。おまえ携帯を持ってるな?」
「は、はい」
「出しな。持ってるもん全部そこに置け」
真田は言われるままに携帯電話と、腰につけたポーチやペットボトルホルダーをそのまま床に
置いた。
それを見て秋本はさらに言う。
「それと、その先公の背負ってるリュックをこっちに寄こせ」
「自分でやるわよ」
「おまえは動くな」
「……」
秋本はけい子を油断なく見て言った。
「あんたの目つき、危なそうだからな。こっちが隙を見せたら飛びかかってきそうだ。見た
とこ体育か何かの先公なんだろ? 体術でもやってりゃこっちが危ねえや」
「……く……」
「せ、先生、すみません……」
真田がけい子のリュックに手を掛けると、思いがけなくけい子が抵抗した。
「あっ、だめよ!」
「え?」
「だめじゃねえ。いいからこっちに寄こしな」
真田が小声でけい子に告げた。
「先生、ここは逆らっちゃまずいですよ。高橋さんが人質に取られてるし……」
「……」
けい子はやむなく身体の力を抜いた。
真田は再び謝りながらけい子の背中からリュックを外し、床に放った。
それを拾った秋本が中身をあらためる。
「横のポッケに携帯と……ペットボトルか。別に騒ぐほどのもんは入ってねえじゃねえか。
ん?」
ところが、けい子にとって「騒ぐほどのもの」が入っていたのだ。
それを秋本が首を傾げて取り上げた。
「何だこりゃあ? ブーツか? それに……長い手袋。あんたこんなもん着けるのかい?
あ? これは……」
「!」
秋本が拡げたものを見て、真田もそして真弓も仰天した。
「こりゃ……マスクか? プロレスラーがしてる覆面みてえだな。それともテレビか何かの
戦隊もののヒーローってか?」
真っ赤なブーツに手袋、マフラー。
そして同じく真っ赤なマスク。
眉間のあたりから白い鳥の羽がついている。
スパルタ学園に在籍する者なら、生徒や職員を問わず、誰でも知っている。
「け、けけけけ、けっこう仮面……!? せ、先生が?」
真田が「信じられない」という顔でけい子を見る。
真弓も、ガムテープで声が出せないものの、真田と同様の表情を浮かべていた。
「ち、違うのよ、真田くん、これは……違うの!」
持参するつもりはなかったのだ。
真弓の失踪が学園の陰謀絡みでないことは確かだろうが、組織ではなく単独で内部の者がやっ
ている可能性も捨てきれなかった。
だからこそ、万が一に備えてコスチュームを用意したのだ。
けっこう仮面グループで捜索に出ているのはけい子だけで、他のメンバーは寮に押し込められ
ている。
学校から離れた場所で事が起こった場合、対処が遅れるかも知れないということで、けい子は
危険を覚悟で持参したのだった。
こうして秋本と出くわした場合でも、けっこう仮面としてやっつければ良いと思っていたのだ。
しかし、まさか秋本が学園の側にまで行っていたとは思わないし、だから学園から離れないはず
の真弓の失踪とは結びつけなかったのである。
もはや、けっこう仮面の状態でマスクを剥ぎ取られたようなものだが、けい子は懸命に取り繕
った。
しかし、その努力も水泡に帰す。
「ほらみろ、やっぱりヤバイもの持ってるじゃねえか」
そう言って秋本が取り出したのはヌンチャクだったのである。
このコスチュームに加え、ヌンチャクまで持っていたとなれば、学園関係者なら誰だって
けっこう仮面と断定するだろう。
「……」
真田は現在の状況も忘れて呆気にとられていた。
まさか教師がけっこう仮面だとは思いもしなかったからだ。
だが、そう考えてみれば夏綿けい子ほどけっこう仮面の正体として疑わしい者はいない気が
する。
素晴らしいプロポーションだけでなく、その身体能力は卓越している。
格闘技もやるらしいし、ならばヌンチャクもお手の物かも知れない。
一方の秋本は、何が何だかわからなかったらしい。
けっこう仮面の存在は、スパルタ学園関係者か、文科省のごく一部の者しか知らない。
「ま、いいや。コスプレか何か知らねえが、そんなこたどうでもいい。それよりも、だ」
秋本はそう言って自分のバッグからロープを出し、けい子に命令した。
「先公よ、そっちのだらしねえ兄ちゃんをこいつで縛りな」
「そんな! 生徒を縛るなんて……」
「先公のくせに物覚えが悪いな。逆らうと……」
「わ、わかったわよ!」
驚きの表情でまだけい子の方を見ている真弓に刃物が突きつけられると、けい子はやむなく
指示に従った。
ロープを拾って真田を座らせると後ろ手で縛り、そのまま柱に縛り付けた。
縛りながら真田に謝る。
「ごめんなさいね、真田くん。痛くない?」
「へ、平気です、先生……」
「ようし、それでいい」
秋本はまだ油断なくナイフを使っていたが、その顔には好色そうな色が浮かぶ。
「へへへ、先生よ。あんた、随分いい身体してんな」
「……」
「脱ぎな」
「え?」
「脱げってんだよ、その野暮なジャージをよ」
そんなことは出来るわけがなかった。
見知らぬ野卑な犯罪者に素肌を晒すなど、けい子の矜持が許さない。
また、真弓や真田という生徒の前で裸になるという恥辱にも耐えられない。
だが、言うことを聞かぬわけにはいかなかった。
この粗暴な男は、けい子が逆らえば躊躇なくその凶器を使ってくるに違いないのだ。
「……」
けい子は黙ってジャージに手を掛けた。
上着のチャックを降ろして脱ぎ捨てると、下には半袖のシャツを着ている。
次にズボンを思い切ってスルッと降ろした。
真っ白なスコートが露わになった。
「ひょお! いいぞ先生、その調子だ!」
秋本が奇声を上げてけい子を煽り立て、その羞恥心を刺激する。
このくらいは半袖シャツにブルマだと思えば何ともないが、これだけで許されるはずもなか
った。
けい子は両手をクロスさせてシャツの下を持つと、そのまま上へと脱ぎ取った。
室内は薄暗くなっていたが、けい子の白い肌は光が差したかのように艶やかだった。
やや丸みを帯びた弾力のありそうな腕には、しっかりと筋肉もついている。
上半身を辛うじて守っているブラジャーは、ストラップレスのスポーツブラであった。
秋本は半ば感嘆するように言った。
「へえ、パッドなしでそこまで大きいのかい。大したもんだな」
下半身も立派そのものだ。
見事な肢体ではあるが、バランス的に完璧というものではなかった。
というのも、上半身に対し下半身の方が発達していたからだろう。
けい子のようなスポーツウーマンであればやむを得ないというか当然のことだ。
それに、ウェストも締まり、バストも人並み以上に豊満なのだから、それ以上望むのは贅沢と
いうものだ。
太腿はたくましく、しっかりと筋肉がつき、それでいて年相応に脂も乗っている。
臀部の張りも素晴らしく、腰が細いこともあって、その豊かさを誇示するかのような大きさと
形状だ。
秋本の声もつい上擦ってくる。
「よし、残りも全部脱ぐんだ」
「……」
けい子は「やはりそうなのか」と少し落胆し、諦めたようにブラのホックに手を掛ける。
脱いでいる間はずっと目を瞑っていた。
生徒たちの顔をまともに見ていられなかったからだ。
その真弓は、とても正視に耐える光景ではなかったらしく、これも目を閉じて顔を背けていた。
一方の真田はまったく逆だ。
食い入るようにけい子のストリップを凝視している。
殺人犯に囚われているという異様な状況すら忘れ、ひたすら牡の本能をかき立てていた。
追い詰められた状況で、もうけい子には選択の余地はない。
覚悟を決めると、秋本にからかわれる前に下着も脱ぎ去った。
「……」
秋本は声も出なかった。
それはそれは見事な女体だったからだ。
ブラの上からでも容易に想像できた美しい乳房はまろやかで大きかった。
それだけでなく、乳首がツンと上を向いており、そこからなだらかな曲線を描いていた。
柔らかそうでいて張りもある。
豊満な乳房にありがちな崩れや、だらしなく左右に開いてしまっていることもなかった。
白いショーツの下には、うっすらとけぶる恥毛が隠れていた。
もじゃもじゃとジャングルになってはおらず、といって手入れもしていないようだが、やや
薄目の毛が短めに控えめに密生していた。
ヒップも豊潤そのものだ。
丸く大きな形状に加え、脚が長いせいもあって、その谷間は深く切れ込んでいる。
女遊びが過ぎて身上を食いつぶし、挙げ句強盗まで起こした秋本だったが、その彼にして、
ここまでの女体は見たことがなかった。
「……いやあ、すげえ身体してんな、先生よ」
「……」
「教師なんかやらせとくのはもったいないくらいだぜ。しっかしよお、その身体じゃあ、男の
生徒どもが黙っちゃいねえだろうよ。なあ、兄ちゃん」
真田は何も言えなかったが、肉体は反応していた。
完全に勃起していたのだ。
学生ズボンが窮屈そうになるほどに男根が大きくなっている。
それに気づいた秋本がゲラゲラ笑って言った。
「なんだおめえ、先生のヌード拝んでチンポおっ立ててんのかよ」
その通りだった。
恥ずかしいとも思わない。
むしろ秋本に感謝したいほどだった。
全校男子生徒憧れの的である夏綿けい子のオールヌードを拝めたのだ。
それも、こんな間近で。
けい子の授業する姿を見て、良からぬ妄想に取り憑かれぬ男子などいなかったろう。
夜のオカズにしなかった男子はいなかったのではないだろうか。
想像するだけだったけい子の裸を、素肌を、今こうして目の前にしているのだ。
勃起しないのは不能者か男色趣味者くらいのものだろう。
欲望に満ちた生徒の視線を感じて、けい子が叫ぶ。
「み、見ないで、真田くんっ!」
「無理言うなよ、先公。これだけの身体、男なら見たくねえ方がおかしいぜ」
「う、うるさいっ! 黙りなさい、この変態!」
悔しそうに罵るけい子を見て、秋本が悪辣な遊びを思いつく。
「威勢がいいな、先公。だが威勢の良さなら、そのガキも負けてねえようだぜ。そいつの股
ぐら見てみな」
「あっ……」
けい子は、言われるままに真田を見やり、恥ずかしさのあまり思わず目を背ける。
生徒の股間は、ズボンの上からでもはっきりそれとわかるほどに勃起している。
チャックを弾き飛ばしそうなほどの勢いだ。
それが自分の裸身を見た結果だと思うと、恥辱と屈辱で顔から火が出そうだ。
「見たかい? わかったら、そのチンポを先公の口を使って慰めてやれや」
「な……!」
その意味を覚って、けい子は目が零れそうなほどに剥き出した。
「おめえ、そのガキの先生なんだろうが。可愛い生徒がチンポ腫らして苦しんでんだからよ、
先生として何とかしてやるべきだろうよ」
「何をバカな!」
「バカはねえだろうよ」
男はにやりと笑うと、横座りで顔を背けていた真弓に手を伸ばした。
秋本の手に気づき、激しく顔を振って少女が抵抗する。
「何をするの!」
「いいからおめえはそいつのチンポをくわえろってんだよ。そうしたらやめてやらあ」
「……」
「いいのか、ほれ」
秋本はにやにやしながら真弓を引き寄せ、脚を開かせる。
真弓が脚をバタつかせるが、どうにもならない。
それでも何とか逃げようと、悲痛なまでに身体を捩り立てる。
「わかったわ! わかったからやめて!」
「ほう。じゃあ、そのガキにフェラしてやるってんだな?」
「……」
もうけい子には迷う暇もなかった。
真弓を野蛮人の毒牙から救うにはこれしかないのだ。
だが、その代償が、教師の自分が生徒の性器を口にする、という恥辱なのである。
しかも自分の正体がけっこう仮面だとわかっている相手に、だ。
二重の屈辱であった。
しかし、真弓が処女を奪われ、恥をかくことと、自分が一時の恥辱にまみれることを比較すれ
ば、教師としてもけっこう仮面としても、後者を選ぶしか道はなかった。
「ごめんなさいね、真田くん……。こうするしかないの」
「わわっ……」
真田は心底驚いた。
けい子が自分の股間に触れ、そのチャックを下ろし始めたからだ。
大きく膨れあがっていたそこは、チャックを下ろすのが大変そうだった。
勃起したペニスにチャックが引っかかり、スムーズにはいかない。
それでも何とか全部下ろすと、けい子が取り出すまでもなくトランクスから飛び出てしまった。
「……!!」
男性器を見るのが初めてなほどウブではない。
実際、医学部事件の際には瀬戸口に荷担していた生徒たちに、いやというほど犯されたのだ。
しかし今度は強姦ではない。
自ら生徒の股間に跪き、その性器をまさぐることになるのだ。
屈辱感とともに背徳感がけい子を襲ってくる。
さすがに気丈なけい子でも動揺が隠せず、動きが辿々しくなっていた。
焦れた秋本が大声で言った。
「さっさとやれ!」
その声に押されて、けい子はおずおずと真田の性器を握った。
異様な臭気が漂ってくる。
見れば、先端から透明な粘液がこぼれ落ちそうになっていた。
亀頭は半分ほど顔を出しただけである。
仮性包茎のようだ。
それに気づいたのか、秋本が言った。
「へっ、なんだ、まだ皮が剥けきってねえのかい。だが、ガキのチンポにしちゃなかなかのも
んだな。おい先公、それをちゃんと剥いてやってからくわえろよ」
けい子の細い人差し指と中指で輪を作ると、亀頭部の下あたりを掴んで、ずるりと包皮を引き
下げた。
するとまだピンク色の艶々した亀頭全体が姿を現し、カウパー液がとろりと零れてけい子の手
を汚した。
カリ首は立派だが、仮性包皮だったためか恥垢が溜まっている。
その匂いにけい子は思わず顔を顰める。
イヤなことから逃げるのではなく、さっさと終わらせるのがけい子の信条だ。
それでも、なかなか生徒のペニスをくわえる決断はつかなかった。
舌を僅かに伸ばし、真田の亀頭を少しずつ舐め始める。
舌先に刺さるような異様な酸味と苦みがけい子の味覚に感じられた。
触れるか触れないか程度の刺激だが、真田の方は十二分に昂奮していた。
あのけい子先生が、事もあろうに自分のペニスに舌を這わせているのだ。
チロチロと舐められるたびに、ぐっ、ぐっと陰茎が硬く大きくなっていく気がした。
思わず腰をけい子の口に突き立てようとするのだが、柱に縛られ、座らされていてはそれも
できない。
それでも、条件反射のように腰がくいくいと持ち上がっていた。
けい子は必死だったし、真田も充分に昂奮していたのだが、秋本は苛ついていた。
生徒のチンポをくわえる美人教師の痴態を見て嗤ってやろうと思っていたのに、まるでペース
が上がらない。
「おら、先公! ちんたらやってんじゃねえよ!」
怒鳴った秋本だが、けい子は無視した。
業を煮やした殺人犯は、側ですすり泣いていた美少女の脚をおもむろに掴み上げた。
「きゃあ!!」
突然に両足首を掴まれ、大きく開脚された真弓は悲鳴を上げた。
もがくものの、相手への恐怖と後ろ手で縛られていたこともあって、その抵抗は弱々しい。
秋本は、そんな少女の抵抗を愉しむかのように、にやつきながら組み伏せた。
けい子が「あっ」と振り向いた時には、男根が真弓を貫いていた。
「痛いっ……!!」
けい子が悲痛が声で叫ぶ。
「やめて! その子には何もしないでって言ったでしょ!」
「やかましい! おめえがぐずぐずしてるからだよ」
秋本はそう言って真弓の腿を抱え込んだ。
「へへ、心配しなくたって、この小娘の処女はさっきいただいちまったよ」
「な、なんですって……?!」
「大変だったぜ、泣くわ喚くわ血は出るわ、でな。もうさっきほどは痛かねえだろうよ」
「こ、このけだもの!」
「動くなってのがわかんねえのか!」
男はすかさずナイフを手にして、真弓の喉笛にその切っ先を突きつけた。
「ひっ」と息を飲む真弓の声を聞いて、けい子の動きが止まる。
さすがに秋本も、この状態でけい子に向かってこられたら厄介だと思っていたのだろう。
けい子がピタリと止まったのを見て、ホッとしたような表情になる。
「それでいいんだ。さっさとそのガキのチンポを抜いてやれ。おめえがガキの精液飲んだら
やめてやるよ」
「……」
ここでけい子の覚悟が決まった。
四の五の言っている時ではない。
自分の恥辱よりも真弓の苦痛を救うべきだ。
けい子は目を瞑って教え子の男根を口にした。
屈辱を飲み込んで、亀頭に舌を絡めていく。
テクニックも何もなく、ただ必死にカリの周囲へと唾液を塗りたくっていった。
それだけでも舐められている真田には大きな刺激になったようである。
美貌の女教師が今、自分のペニスをくわえているのだ。
夢のようだった。
その快感に思わず呻いてしまう。
「ううっ……」
「あ、ごめんなさい。痛かった?」
口を離したけい子が、済まなそうな顔をして生徒会長の顔を窺った。
敏感な箇所に歯でも当たったのかと思ったらしい。
気持ちよくてたまらなかったからだと正直に言えるはずもなく、真田は堪えるように言った。
「い、いえ先生……大丈夫です」
「そう……。本当にごめんなさいね」
けい子はそう言うと再び真田のものをくわえ込んだ。
生徒の顔を見ていられず、目を閉じたまま口唇愛撫を続ける。
舌を伸ばし、ペニスの裏筋やカリの根元など、けい子のつたない性体験から知った男性器の
ポイントを責めていった。
しなやかな指先で男根の根元を支え持ち、下から上へと舐め上げていく。
そんな様子をニヤニヤと眺めながら、秋本が茶々を入れる。
「おらおら、まだかよ。さっさと終わらせねえと、オレの方が先に小娘の中に出しちまうぜ!」
それを耳にしながら、けい子は何とか真田をいかせようと愛撫に専念する。
もう味が変わってきている。
カウパー液に混じって、早くも精液が漏れ出ているのだろう。
保健も教えているけい子は、当然、男子の生理にも詳しい。
ちらりと真田を見上げると、必死の形相で我慢しているではないか。
「くっ……あっ……」
「さ、真田くん! 我慢しないで」
「そ、そんなこと言ったって……」
「早くしないと真弓くんが……! いいから出して! 先生の口の中に出すのよ!」
けい子は、真田が女性の前でなど恥ずかしくて射精できないと思って耐えているのだと思って
いたが、彼の本音は違っていた。
(冗談じゃない! こんなこと……こんな幸運二度とないぞ。誰がそう簡単に出すもんか!)
真田の頭には、もう人質になって犯されている真弓のことや、自分自身が人質の立場であること
はなかった。
自分の股ぐらに顔を埋めてフェラチオしているけい子の痴態と、その快感だけに酔っていた。
このままではいつまでも真弓が犯されたままだと思い、けい子の行為にも熱が入ってくる。
その姿は、真田のペニスを愛撫するのに夢中になっているようにも見えた。
「んっ、んっ、んっ、んんっ……んっ、んじゅっ……んむっ……」
舌先の動きも早くなり、裏筋から亀頭まで舐め上げる。
剥き上げた包皮から顔を出した亀頭部の中心にある尿道口にまで舌を這わせた。
そこを舌先でこじるように愛撫すると、とぷっとカウパーが溢れてくる。
その色はもはや透明から白濁しつつあり、粘りも増していた。
もう少しだと思ったけい子は、サオをさする右手の動きも早め、ぐいぐいとしごいていった。
そしてそのまま口を大きく開けて、根元までくわえ込み、唇と舌を同時に使った長いストロー
クを加えていく。
「うくっ……」
懸命にペニスをくわえ込むけい子がたまらなく色っぽく見え、真田はつい呻き声を洩らす。
朱唇からはみ出る肉棒が卑猥そのもので、けい子の唇が股間の肉の割れ目のようにすら思えて
くる。
男根に与えられる快楽も限界いっぱいなほどに素晴らしい。
真田の限度を察知したのか、けい子も最後の攻勢をかけていく。
喉に当たるほどに深く飲み込み、唇で輪を作り、顔を上下に動かしてしごきあげる。
さらに左右に激しく振って、舌と唇だけでなく頬の粘膜でも生徒の亀頭を刺激した。
これには真田も我慢できず、苦鳴を上げて降参した。
「せっ、せんせえっ……! だっ、だめだよおっ!」
けい子は「いいから、そのまま出して」と言わんばかりに、なおも口唇を使って生徒を責めて
いく。
懸命な美人教師の奉仕を受け、とうとう生徒会長は屈服する。
「で、出るっ……出ちゃうよっ……くああっ!!」
どぽっ。
どびゅびゅっ。
びゅるるっ。
びゅるんっ。
「んっ!?……んく……!」
突然、咥内に流れ込んで……というより爆発するように噴出された熱い粘液に、けい子は顔を
顰め、目を白黒させた。
量が多く、けい子は唇の端から思わず溢れさせてしまう。
秋本の叱責が飛ぶ。
「零すな! 一滴も無駄にするなよ、全部飲み干すんだ」
「んっ……ん、んくっ……くんっ……ごくっ……んくっ……」
秋本は、けい子の白い喉が何度が動き、生徒の精液を飲み下すのを観察していた。
零れた精液が唇の端からつうっと滴り、けい子の腿を汚していく。
「ぷあっ……ごっ……げほっ……かはっ……」
けい子が苦しそうに喉に手をやった。
精液が濃すぎてうまく飲み込めず、喉に引っかかっているらしい。
開けた口からぽたりぽたりと精液混じりの唾液が垂れるのが、何とも妖艶だった。
秋本はようやく満足そうに言った。
「へへ、ようし、ちゃんと飲んだようだな。どうだ、うまかったか教え子のザーメンは?」
「……」
「おい小僧。オレ様に感謝しろよ、こんなことでもなけりゃ、こんな美人の先生がフェラって
くれることなんぞないんだからな」
「……」
返事はしなかったが、秋本の言葉は真田の本心を突いていた。
確かに恐喝でもされなければ、けい子にこんなことをしてもらうことなど不可能だろう。
例え暴力的に強姦しようとしたって、武道者のけい子に真田あたりが敵うはずもなく、逆に
返り討ちにあった挙げ句、強制退学処分は確定的だ。
それだけに、本当に秋本に礼を言いたいくらいだ。
恐らく全校生徒、いや学園内でけい子にこんなことをさせたのは自分だけに違いないのだ。
けい子は憎しみの籠もった声で秋本に言った。
「や、約束よ。真弓くんから離れなさい」
「おお、おっかねえ顔すんない。美人が台無しだ」
「余計なこと言わないで、早くやめなさい!」
「わかったよ」
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