意外に思うかも知れないが、スパルタ学園ほど学校行事の盛んな高校は珍しい。
体育祭や文化祭といった定番行事はもちろんだが、文化系、体育系を含め、実に多種多彩に
行われている。
体育系では、体育祭の他、球技大会、陸上記録会、競歩、競泳、自転車レース、マラソン大会
などがある。
文化系では、文化祭、日本語と英語の弁論大会、演劇祭、写生大会、書道大会に合唱コンクール、
果ては句会まであるのだ。
いわゆる総合学習に於いて、校外での社会学習が出来ない環境なので、その分、時間をとって開催
しているのである。

もちろん文科省の指導ということもあるが、卒業生を受け入れる大学側の変化もある。
ただ成績の良い生徒だけよりも、何かしら文化活動や体育部門で評価の高い生徒を受け入れたい
大学が増えているのだ。
加えて学園の方針でもある。
これは、生徒に何かをやらせて結果を出させる、最後までやり遂げさせるという教育効果を狙っ
ているのだ。

だから体育系の催し物にことのほか力を注いでいる。
特に、学園が「四大耐久競技」と呼ぶ、マラソン大会、遠泳大会、競歩記録会、そしてトライ
アスロンはスパルタ学園名物とまで言われている。
マラソンは、女子で15キロ、男子で25キロを完走することが求められている。
遠泳は、島の目の前の海を泳ぐのだが、女子は1.5キロ、男子は2キロを泳ぎ抜く。
これらの競技にも、一応順位づけは為されるのだが、あまり重視されていない。
参加者に求められるのは完走なのだ。

遠泳は、教師の監視員がボートでついているので、それを掴んで休むことは許されている。
しかし、途中棄権は絶対に許されないのである。
マラソンも同様だ。
苦しくなったら歩いても構わない。
基本的に止まって休むことは禁止されているものの、棄権するよりはマシということで、これも
黙認されている。
そしてどちらも、どれだけ時間がかかっても構わないとされている。
例え5時間かかろうが10時間かかろうが、とにかく完走することが絶対条件になっているのだ。

上位入賞の成績優秀者はもちろん評価されるし、体育成績にも加算されるが、仮に最下位でも
減点にはならない。
完走しさえすれば、その単位は必ず貰える仕組みになっているのだ。
これも学園の「最後までやり抜く」という方針に因っている。
学園の考え方には常に疑問と批判を抱いているけい子にしても、これだけは評価しているくらいだ。

ただし生徒には地獄であろう。
体力の有無を関わらず、3年間毎年必ず参加しなければならないのだから。
もし風邪でもひいていたとしても、欠場は許可されない。
ケガや病気など、拠ん所ない事情で大会に参加できない生徒は、後日、日を改めて同じ競技を
しなければならないのである。
ヘタをすればひとりで、だ。

こうなると話は別で、仮病でサボったりする生徒はいなくなる。
そして、大会に合わせて自己管理をするようになってくるのだ。
受験に合わせて体調管理を万全にするという、予行演習にもなっている。
これら過酷な競技をこなさねばならないため、どの生徒も卒業する頃には必要充分の体力を
持つようになる。
ガリ勉イメージの強いスパルタ学園だが、その実、青白い秀才というのは存在しないのである。

そしてこの日は、三大耐久競技のひとつ、トライアスロン大会であった。
トライアスロンとは、ラテン語のTri(数字の「3」)とAthlon(競技)からの造語である。
その名の通り、水泳、自転車、マラソンの三つの競技を連続で行なうのだ。
オリンピック競技にも加わったが、その過酷さから競技参加者は「鉄人」と称されるほどだ。

国際トライアスロン連合(ITU)では、その距離によって5つのタイプに分類している。
いちばん軽度なスプリント・ディスタンスで、水泳750メートル、自転車20キロ、マラソン
5キロ。
もっとも距離のあるロング・ディスタンスで水泳4キロ、自転車180キロ、マラソン42.
195キロもある。
これらの距離は、その大会によって細かく設定し直されているので、かなり自由度はある。
スパルタ学園のトライアスロンは、オリンピック・ディスタンスの数字が採用されている。
すなわち、水泳1.5キロ、自転車40キロ、そしてマラソン10キロである。
ロングに比べればだいぶ軽いように思えるが、それでも五輪正式種目と同じ距離なのである。
オリンピック選手ですら3時間かかるものを高校生がやらされるのだから、たまったものでは
ない。
その代わり、これをクリア出来れば、体力的な不安はほぼなくなるとされている。

行われるのは本島の隣の咎島である。
SSSがいた頃は、その警備員たちも監視員として配置されていたが、SSS事件で彼らが一掃
されてしまったため、すべて教師で賄われている。
狭い島ではあるが、海にも出ていくこともあって監視員の人員が足りず、ほぼ全員の教師が駆り
出されていた。
けい子や香織、そして佐田と片桐ももちろん入っている。

遠泳のボート監視員を除き、島に配置される自転車、マラソン競技の監視所及び給水所は、全部
で22箇所もある。
給水所には食堂の雇員を臨時に着かせているが、それでも各ポイントは2名設置が限界だった。
佐田と片桐は、申し合わせてゴール直前のポイントを担当することになった。

「そろそろですかな」
「そうですわね」

佐田が時計を見ながら言った。
レースが始まって3時間半になる。
まだ男子が数人通過しただけである。
例年この競技は、最終走者は7,8時間かかるのだ。
この辺りで、女子の先頭が見えてくるはずである。

「来た!」

双眼鏡でコースを眺めていた佐田が小さく叫んだ。
長い紗髪をなびかせ、額に巻いた長めのリボンをひらめかせながら、やや大柄な女子が走って
きている。
髪の着色が禁じられている学園で赤い髪と言えば紅恵しかいない。
周囲を観察すると、うまい具合に彼女ひとりである。
女子の中ではトップクラスの体力を保持する恵は、今年のレースで女子優勝候補の筆頭だった
のだ。

佐田は双眼鏡で見ながら片桐に合図した。
それを受けた片桐は、後ろを振り向き、陰に隠れていた男子生徒に指示を下した。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

その時、夏綿けい子と若月香織は海上にいた。
泳ぎの達者なけい子と医療班の香織は、遠泳の監視員になっている。
運良く同じチームで行動することになり、やや大きめのボートに乗っていた。
香織が感心したようにつぶやいた。

「しかし、すごいですね、みんな」
「私も最初来た時は驚いたわ」

と、けい子が受けた。
香織が半ば呆れているのも当然で、日本広しと言えど、トライアスロンを学校行事にしている
高校は他にないだろう。

「とてもじゃないですけど、私なんか無理です」
「あら、ご謙遜。けっこう仮面の香織先生なら、これくらいは……」
「勘弁してください、先生。私、マラソンとか全然ダメなんですから」

けい子ならトライアスロンもこなせるだろうが、香織は無理そうだ。
彼女は一般女性に比べれば当然、体力的に優っているが、けい子と比較したら足元にも及ばない。
彼女の武器は、持久力ではなく瞬発力の方にある。
ダッシュやジャンプはけい子に劣らないが、マラソンや遠泳となったらお手上げだ。

「事故なんか、ないんですか?」

という、香織のもっともな疑問に、けい子は何事でもないように答えた。

「ええ。トライアスロンに限らないけど、マラソンや遠泳でも事故らしい事故って、まだないの。
生徒に無茶をさせているという認識は学園にもあるから、かなり慎重にやってるのよ」

遠泳にしろマラソンにしろ、コースの設定や距離の決定に関しては、専門家にも協力を得て、
相当綿密に調査検討しているらしい。
それで、高校生の体力ではやや難しい程度のコースと距離を決めているのだ。
もちろん、競技している生徒に異変があれば即刻棄権させ、治療を受けさせているのは言うまで
もない。
最初から不参加の生徒と異なり、こうした不慮の体調不良に関しては寛大で、後日、再度競技
させ
ることは変わりないが、途中棄権したその場所からの参加になっている。
香織が少し意外そうに言った。

「へえ……。けっこう学園も生徒のこと考えてるんですね」
「そりゃそうよ。だって、言い方は悪いけど、生徒は金蔓ですもの」

けい子はやや皮肉そうに唇を歪めて言った。

「自殺は仕方ないけど、学校側の落ち度でケガや死者を出したら学園の名前に傷がつくから、
その辺はちゃんとやるのよ。仮に、レース中に倒れて、それが元で亡くなったようなことが
あったとしても、学園側はきちんと対応したって言い訳が出来るしね」
「……」

逆に、だからこそ学園の悪事を暴くのが難しい、という面はある。
とにかく生徒を痛めつける、無理無茶をさせまくるというのであれば、いくらでもボロは出る
から、本省も警察も手を出しやすいのだ。
ところが、こうして一応生徒にも気を使ってますよ、という態度と制度をとられると、おい
それと突っ込みにくくなってしまうのである。

けい子の着メロが鳴った。
受信したメールのタイトルを確認すると、例のスパムである。
けっこう仮面出動の連絡だ。
発信者を見ると恵になっている。
香織が自分の携帯を見た。

「あ、私にも来てます」

けっこう仮面になり出動する時は、他のメンバー全員にその旨のメールを出すことになっている。
そうすることで、けっこう仮面がダブって出ることを避けているのである。
けっこう仮面実戦部隊の指揮は夏綿けい子が執っているが、彼女から命令が下ることはあまり
ない。
ほとんどは各員が事件を目撃、確認した上で各個に出動することになっている。
けい子自身、あまり組織的なものは持ちたくないと思っているし、自主性を重んじることにより、
自覚を促すという意味もあった。

「何かあったんでしょうか?」

不安そうに言った香織に、けい子も頷く。

「……珍しいわね。こういう行事の時って、あんまり出動するようなことってないんだけど」
「今、4時間くらいですね。もう速い人はゴールするあたりです。紅さん、大丈夫でしょうか
……」

レース終盤で何らかのアクシデントがあり、けっこう仮面で出動したということは、恵もかなり
疲れているはずである。
いかに体力自慢の娘とはいえ、一抹の不安はあった。
けい子は、香織の不安に答えられず、無言のまま島の方を見つめていた。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「こいつはとんだ不祥事だなあ」
「せ、先生、勘弁してくれよ!」

ひとりの男子生徒が崖っぷちに追い込まれていた。
生徒も大柄な体格だったが、迫っている教師も巨漢である。
その後ろには、痩せぎすの女教師もいた。

「こんな破廉恥な事件が明るみに出たら、学園はどうなると思う?」
「……」
「タダじゃ済まんぞ。退学くらいじゃ割に合わん。それならいっそ……」
「ひ……」

生徒は追い詰められ、危うく縁を踏み外すところだった。
スニーカーの下から、小石が海へ落ちていく。

「……待ちなさい!!」
「……」

その声に、巨漢の教師・佐田はニヤリとした。
振り返るまでもない。
けっこう仮面が立っていた。

「噂のけっこう仮面か。お初にお目にかかる。俺は……」
「無類の乱暴者の体育教師にして嫌われ者の生徒指導教師、佐田努先生だね」
「……よくご存じで」
「そこにいるのは生徒イジメが趣味の化学教師、片桐久子先生か」
「趣味ってわけじゃないけど」

けっこう仮面はふたりと対峙しながら、崖の生徒の方へ寄っていった。
佐田も片桐も、それを防ごうとはしなかった。
その生徒の顔を見て、けっこう仮面−紅恵はほんの少し後悔した。

(よりによって持田かよ……)

いかに確執があったにせよ、学園の生徒には違いない。
彼女には彼を守護する義務があった。

「この子が何をしたの? 自殺の強要は行き過ぎじゃない?」

手を翳し、自分の背後に持田を庇いながらけっこう仮面は言った。
それをせせら笑うように片桐が切り返した。

「あなた、この子が何したかわかってるの?」
「だからさっきから聞いてるでしょ」
「下着ドロよ」
「……」

さすがに二の句が継げないけっこう仮面に、片桐女史がひらひらと手を振った。
そこには白いショーツ……紛れもない恵の下着があった。

「あ……」

(あたしのじゃないか! 畜生、あの時ガメりやがったのは、このバカ野郎か!)

殴り倒してやろうかと思ったが、今はそうも行かない。
本島に帰り、紅恵に戻ったら、その時は思い切りしばいてやる。
そう思った時だった。

「それっ」
「あっ……!?」

持田の掛け声と共にガクンと膝が折れ、前のめりになった。
後ろにいた持田が、けっこう仮面の膝裏に、自分の膝を打ち込んだのだ。
まさか助けた対象が裏切るとは思わないだろうが、その相手が恵に怨みを持つ持田であるという
ことを軽視しすぎていたのだろう。

あの時、けっこう仮面になったあとショーツがなくなっていたのには気づいていた。
その犯人が持田だと知ったとき、この事態を覚るべきであった。
その不意打ちを食らって、けっこう仮面はよろよろとよろめく。
そこをすかさず、片桐が発砲した。

「痛っ……つっ………あう!」

片桐が手にしたのは黒い拳銃である。
SSSの一件もあり、恵は一瞬、実銃かと思った。
だが、それにしては銃声がしない。パシュッと空気の抜けるような音だった。
エアガンだったのである。
しかしその威力は強烈で、両腿と右腕のBB弾を受けた箇所はみるみる赤くなる。
撃たれた瞬間激痛が走り、そこが痺れて力が入らなかったくらいだ。
パーツを買って改造し、威力を高めているらしい。

思わず片手を地に着いた時、顎に一撃を受けた。

「ぐっ……」

体型からは思いも付かぬ俊敏さで駆け寄った佐田の拳が、つんのめったけっこう仮面の顎を捉えた
のである。
脳震盪を起こしそうな衝撃を受け、一瞬、意識が朦朧とした。
その隙を見逃す佐田ではない。
この男もスパルタ学園の体育教師であり、武道を中心に指導しているのだ。
一流の武道家だし、けっこう仮面ほどではないものの、油断すれば手痛いしっぺ返しを食うこと
になる。
顎をガツンと殴り飛ばされると、けっこう仮面は3メートルほども吹っ飛ばされた。
それでも、転がりながら態勢を整えようとしたのはさすだというべきだ。

しかし、けっこう仮面−紅恵の疲労は相当なものだった。
水泳1.5キロ、自転車40キロ、マラソン10キロのトライアスロンを完走寸前での登場なのだ。
疲れがない方がどうかしている。
そうでもなければ、いかに不意を突かれたとはいえ、持田や佐田あたりに屈する女ではない。

完全にけっこう仮面が立ち直る時間を与えず、佐田は攻撃を続けた。
けっこう仮面が何とか立ち上がると、その肩を片手で押さえ込み、もう片方の腕で彼女の腹に
パンチを叩き込んだ。
ドボッ、ドボッと佐田の拳が腹筋に決まるたび、身体が重くなる感じだった。
三発、四発と喰らううちに、けっこう仮面は耐えきれずにとうとう片膝をついた。

「く……くそっ」

佐田の攻撃が止んだのを逃さず、けっこう仮面が反撃した。
しかし、トライアスロンの疲労に加え、佐田に何度も腹を殴られたことによるスタミナの消耗は
如何ともし難かった。
繰り出すパンチに、いつものキレはなかった。

「ふん」

けっこう仮面の拳は、佐田の筋肉の壁に虚しく吸い取られていった。
闇雲にマッチョ教師の腹や胸を殴りつけたが、筋肉の装甲は岩壁のようだった。
仕返しは迅速だった。
わざと無抵抗にけっこう仮面のパンチを受けていた佐田は、疲れからか、けっこう仮面の腕が
出なくなると、重い一発をまた腹に打ち込んだ。

「ぐっ……げ、げほげほっ……」

けっこう仮面はたまらず両腕、両ひざをつき、四つん這いになってしまった。
腹を何度も殴られて、嘔吐感と止まらない。
逆流する胃液に苦しんでいると、佐田にマスクを持ち上げられた。

「ああ……」

絶望的な表情で体育教師を見ると、彼はニヤリと笑ってとどめの一撃を放ってきた。

「ぐっ……うっ……」

マスクの頭の部分を掴んで持ち上げた佐田は、無防備になったけっこう仮面の顎をぶん殴ったのだ。
文字通り吹っ飛ばされたけっこう仮面は、その身体が地面に着地する前に意識を失っていた。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「う……」

けっこう仮面−紅恵が目覚めたのは、薄暗く湿った匂いの籠もる部屋だった。
照明の落ちた室内に目が慣れ、辺りを見回すと、壁はレンガ張りであちこちにチェーンのついた
手錠や腕輪がハーケンで打ち込まれている。

「あっ」

起き上がろうと思って気が付いた。
彼女は、何やら寝台のような上に仰向けに寝かされていた。ただ寝かされていただけではない。
どうやら大の字型のベッドのようで、腕が水平に開かれている。
そして脚に至っては、45度ほどの角度で開かれていた。
大の字である。
革の拘束具で固定されていたのは両手両脚だけでなく、腰骨の上にもベルトを回されがっちり
縛り付けられている。
ただ、手足を留めているベルトのチェーンは台座ではなく、壁から生えていた。

どうにか逃げようとしばらくもがいたが、無駄なエネルギー消費を避けようと、それも止めた。
上がった呼吸はもう落ち着いたが、それでもまだ身体に疲れは残っている。
若いとはいえ、成人男子でも顎を出すほどの激しいスポーツの直後なのだ。

「……」

捕まったらしい。
佐田たちに拉致されたのだろう。
けっこう仮面として囚われたのだ。
タダでは済むまい。

けっこう仮面出動後、連絡を6時間以上絶てば緊急事態と見なし、けい子が何らかの措置を執る
はずだ。
それを期待するしかない。
そう覚悟を決めると、恵は持ち前の冷静さを取り戻した。
彼女がゴロ(ケンカ)に強かった最大の要因はそれである。
頭に血が昇るのは早いが、醒めてくるのも人一倍早い。
怒り狂う相手を、冷静に叩きのめすことが出来たのである。

「ここはどこ……」
「教えてやろう」

恵がハッとして扉の方を見ると、逆光の中に大男が立っていた。
佐田だろう。

「ここが噂の「仕置き部屋」ってところだ」
「……」

スパルタ学園には、「生徒指導」と称して残虐な仕置き、つまり拷問まがいの行為が行われて
いるという根強い噂があった。
学園の地下に拷問室があるとか、学園長室に隠し部屋があって、そこで夜な夜な生徒が虐待され
ているとか、半ば都市伝説、いや学園伝説化している。
生徒間でも半信半疑であったが、事実として拷問部屋はあった。
但し学園内ではなく、咎島SSS本社に存在していたのである。

ここに連れ込まれた生徒はそのことを決して口にしない。
何よりそれが自分自身の恥でもあるからだが、それ以上に学園側が規制した。
一言でも喋れば最後、卒業させずに最大5年間留年させると脅されているからだ。
主に拷問を担当していたのはSSS関係者だったが、彼らは前回の事件で根こそぎ逮捕されて
おり、今は無人である。

「おまえ、学園関係者らしいが、さすがにここは初めてだろう」
「……」

けっこう仮面では唯一、若月香織だけはここに来たことがあるはずだ。
そこで行われた凄惨な性的拷問劇は、今でも彼女のトラウマになっている。

「あなたの正体は薄々わかってるのよ」

佐田の後ろからやせ細った女が口を挟んだ。
化学教師の片桐だ。

「佐田先生は、強引にあなたの口からそれを聞きたいらしいわ」
「……」
「でも私はそんなことにはこだわらない。あなたが素直に口を割り、マスクを脱いでくれるなら、
こっちの手間も省けるし、あなたも痛い目や恥ずかしい目に遭わずに済む。どう?」
「……ふざけないで」
「……はい?」
「甘く見てもらいたくないわね。はいそうですか、と、おとなしく喋ると思うの?」

それを聞くと、片桐は肩をすくめ、佐田はニヤッと嗤った。
「それじゃ仕方がない」と言って、片桐がけっこう仮面に近づいた。
右手に光ったのは小振りのナイフだった。

「!」

まさかいきなり、直接的に危害が加えられるとは思わなかったので、けっこう仮面も少し焦った。
斬られるか刺されるかと思っていたが、片桐は別の行動を執った。
マスクに手を掛けると、そっとナイフをあてがったのだ。

「……?」

予想外の結果に、片桐は焦った。
切れない。
刃先が滑るのだ。
そんなはずはないと、今度は目の部分を少し引っ張り、目を出している開口部に刃を当てて一気
に引いた。
同じだった。

「なぜ……?」
「貸してみろ」

佐田がナイフを奪い、同じように刃先を目の部分に入れ、思い切り引っ張った。

「痛っ……痛いわね、やめなさいよ!」

けっこう仮面が呻いた。
佐田も片桐も呆気にとられていた。
文字通り、刃が立たないのだ。
短気な佐田が、面倒くさいとばかりにナイフを立ててマスクに突き刺そうとする。
片桐は慌てて止めた。

「待って、佐田先生!」
「思いっ切り刺せば何とかなるさ。任せてください」
「だめよ!」

片桐はナイフを抑える。

「確かにあなたの力で突き刺せば刺さると思うけど、そしたらけっこう仮面の頭まで貫通しちゃ
いますよ」
「……」
「殺しちゃ意味ないでしょう」
「じゃ、どうするんです」
「ちょっと時間をください」
「じゃあそれまで、俺流のやり方でやりますよ」

佐田は、立ち去ろうとする片桐の背に向けて言った。
痩せた女教師は振り返りもせず答えた。

「ええ、いいですよ。ただし、殺しちゃダメですからね」

片桐を無言で見送ると、佐田は改めてけっこう仮面の側に来た。
ニヤニヤしながら、そのすべらかな肌を撫で回す。
毛虫に這いずられているような気色悪さに耐えかね、けっこう仮面は叫んだ。

「触るな、いやらしい!」

妙に熱い手のひらでねちねちと触ってくる教師を心から嫌悪したが、佐田の方は一向に堪えて
いない。
そもそもこの男、男子生徒には乱暴極まる指導を繰り返し、女子に対してはセクハラまがいの
行為を続けていたのだ。
佐田が怖いから、被害者は他の教師に訴えることも出来ず、泣き寝入りするしかなかった。
いやらしい手を逃れようともぞつく女体の動きを、愉しそうに眺めながら佐田は言った。

「そう邪険にするな。おとなしく言うこときいた方が身のためだぜ」
「何を粋がってんのよ。こうして縛られた女を苛めたいだけだろうが」
「……」
「それとも、にっくきけっこう仮面を犯してやろうと、そういうわけ?」

佐田は少し驚いている。
こうもはっきり、相手から言ってくるとは思わなかった。
まじまじとけっこう仮面を見ていたが、その態度に余裕のようなものすら感じられて癪に障る。
どうせ佐田など、けっこう仮面がその気になったら楽に叩きのめせると思っているのだろう。
教師はこめかみに青筋を走らせると、寝台脇についているスイッチをいじった。

「あっ……」

キリキリと音を立てて、けっこう仮面の足首を縛ったベルトが上昇していく。
繋がれたチェーンが壁に吸い込まれているのだ。
「あっ」と思ったけっこう仮面が慌てて脚を下げようとするものの、人力で抵抗できるものでは
なかった。
徐々に持ち上げられていく両脚は、彼女の姿勢が横から見て「く」の字になったところで止まった。
腰が持ち上がるまで脚を頭の方に引き寄せられている。
それでいて股間は45度だから、これ以上恥ずかしい姿勢はないだろう。

「くく、よく見えるぞけっこう仮面」
「き、きさま、この……」
「こうしてけっこう仮面のオマンコをじっくり眺められるのは俺くらいだろうな」
「だ、黙れ、黙れ! み、見るな!!」

きれいな脚が八の字に開かされ、前に折り曲げられている。
女性として秘しておきたい箇所がすべて丸見えになっていた。
そこをけだものの目で観察されることに激しい屈辱を感じていた。

一方、佐田の方は、そこばかりでなくけっこう仮面−紅恵の全裸を余すことなく凝視していた。
最近の高校生は発育が良いとはいえ、ここまで見事な裸体を持っている生徒は稀だろう。
感極まったように佐田が言った。

「さすがにいい身体してるな、けっこう仮面。これなら、素っ裸で見せびらかしたい気持ちも
わかる」
「うるさい、いやらしいことばかり言うな!」
「言われるくらい、どうってことなかろうよ。今度は言われるだけじゃなく、されるんだからな」
「……」

けっこう仮面が悔しそうに口をつぐむと、佐田は猫なで声で聞いた。

「な? いくらけっこう仮面とはいえ、こんな恥ずかしい格好はしたくないだろう? 俺だって
面倒なことはしたくない」

と、佐田は心にもないことを言った。

「なら結論は出てるだろう。素直に答えるんだ、おまえは誰だ?」
「けっこう仮面よ」

白々しく、というより、誇らしくそう言ったけっこう仮面を見て、佐田も満足そうにうなずいた。

「ま、そうだろうな。そういうと思ってた」
「……」
「じゃあ片桐先生が来るまで、俺様のショウタイムというわけだ。覚悟しな」

巨漢の体育教師はそう言うと、Tシャツを脱ぎ捨てた。
けっこう仮面は目を見張った。
それはそれは見事な肉体美だったのである。
完全に逆三角形の上半身は、くっきりと胸筋や腹筋の筋が現れている。
腕にももこもこと筋肉がつき、首も木の切り株のように太かった。
とはいえ、いかにもボディビルドした身体で、言ってみれば作られた肉体美であった。
この点、SSSの阿久沢のような、野性的な荒々しさはない。
彼は、岩を鑿で荒っぽく削ったような、ゴツゴツした身体だったが、佐田のはなめらかな曲線を
描く筋肉だった。

その佐田がゆっくりと覆い被さってくると、恵は反射的に身を捩ったが、どうにも身体は動か
なかった。
佐田と目が合うと、けっこう仮面は憎々しげな視線を送ったが、この状態ではどうにもならない
と思ったのか、唇を噛んで顔を背けた。
そのため、男の顔が近づいたことに気づかなかった。

「あっ」

うなじに熱い息がかかると、続いてぽってりしたものが這ってきた。
唇を押しつけられたのだ。そのナメクジのようなおぞましさに、けっこう仮面は叫んだ。

「やめろ!」

佐田は無視して、若い女性のうなじや首筋を味わった。
今度は舌を伸ばしている。
けっこうの喉が鳴り、身体が竦んだようだ。
無論、感じたのではなく、屈辱で身が震えているのだろう。
それでも男の舌は留まることを知らず、うなじから首筋へ、そして耳元へと進出していく。
耳はマスクの下だったが、そのマスクの上から唇や歯で圧迫される感覚に、けっこう仮面は呻いた。

「くっ、気持ち悪い……やめろと言ってるだろう、ああっ」

けっこう仮面の罵りは最後まで続かなかった。
佐田の手が、豊かに張った乳房に伸びてきたからだ。
若さでむちむちと張り詰めた乳房を、さするように柔らかく揉んでいく。

肉体派教師に似合わぬ優しい愛撫に、けっこう仮面の乳房が反応し始めた。
少しずつしこっていき、充実した弾力を示してくる。
恥ずかしいと思いながらも、乳首が充血しつつあるのもわかっていた。
軽く指に力を込めると、けっこう仮面の乳房は手応えのある弾力で押し戻してくるのだった。

「くっ……やめろ、この……んっ……」

紅恵は佐田の愛撫に寒気を感じた。
男の指が皮膚を這うごとに、ざぁっと鳥肌が立つ。
乳房をいじられようと、いや媚肉を愛撫されようと悪寒しかなかった。
快感などとはほど遠い。

ねちねちとけっこう仮面の裸身をいじくっていた佐田は、彼女が嫌がるばかりでちっとも反応
しないのが面白くなかった。
最初っから乱れに乱れる痴女には興味なかったが、こうしてこっちが熱を入れてもまるで感じ
ない女もつまらない。
最初から最後まで抵抗し、嫌がりまくるのでは、凌辱の楽しみがないというものだ。
激しく抗っていた女が、身も世もなく感じ、身悶えする。
それこそが強姦の悦びであろう。

犯されても決して感じない。
感じた素振りを見せない。
それがけっこう仮面の精神力であり、そうすることで男からその気を殺ぐのだろう。
気の強さでは夏綿けい子以上である紅恵は、もっともそれが得手だった。
過去、何度か拘束されたが、凌辱されたのは一度だけだ。
その一回にしろ、とうとう最後まで溺れず、男に射精だけさせて自分は平常だったのだ。

予想以上に手強いと感じた佐田は、凌辱の前にさらなる恥辱を味わわせてやろうと思った。
最終的には犯してやるが、その前に肉をほぐし、精神的にも堕とさねばならない。
となれば、やることはひとつである。

けっこう仮面は一息ついた。
佐田は愛撫を止め、いったん寝台から離れたのである。
性的な攻撃を諦め、肉体的苦痛で責めるつもりなのだろう。
恵は少しホッとした。
こんな男に犯されても感じない自信はあったが、それでも凌辱されるというのは気分の良い
ものではないからだ。

それに比べれば拷問の方がまだ耐えられる。
身体を傷物にされるのは避けたいが、この仕事をしていれば仕方のないことだ。
まだ学園長にも通報していないようだし、さすがに殺しはすまい。
となれば、鞭打ちだのスパンキングだの、その手のことだろう。
当然痛いだろうが、凌辱によって精神を汚されるのよりはずっとましだ。
恵はそこで思考が止まった。
おぞましい感覚に悲鳴を上げたのだ。

「うあっ……!?」

佐田の太い指がアヌスに来たのだ。
思いも寄らぬところを触れられ、けっこう仮面は絶叫して暴れようとするが、この姿勢では抗い
ようもない。
男が指先で肛門を捉えると、おちょぼ口の皺をなぞりあげてきた。

「ひっ……うひぃっ……ひぁっ……」

普段の恵からは思いも付かぬ悲鳴がまろびでる。
少々湿ったアヌスが佐田の指に密着し、ひくついていた。
佐田の指が蠢くたびに、敏感すぎるけっこう仮面のアヌスがひくつき、つられるように彼女の
身体がビクン、ビクンと跳ねる。

お尻の穴を触られるという恥辱に叫び、身悶えるけっこう仮面は、その反面、淫らな指使いで
愛撫され続けるアヌスは鋭敏に反応していた。
親指と中指で揉みほぐされるそこは、痺れるような刺激をけっこう仮面の腰の奥にまで送り込
んでいく。
たまらず恵は叫んだ。

「やっ、やめろっ、もう……ああっ、そんなとこ、よせ、ああっ……」

けっこう仮面がどんなに踏ん張り、括約筋に力を込めても、佐田に揉み込まれるそこはウソの
ようにほぐれ、緩み始めてきた。
むず痒いような、切ないような、未だかつて彼女が味わったことのない感覚だった。
佐田の左手が器用にけっこう仮面の尻を割り、右手の指がアヌス周辺をしつこく愛撫する。
どんなに力んでいても、腰の力が放散されていってしまう。

「い、いや……く……ああ……」

ほんの少しだが、けっこう仮面の声に甘い色が混じってきた。
感じているという実感こそないが、もぞもぞと肛門をくすぐる男の指を敏感に感じ取り、次第に
襞が露わになっていく。
引き締めているはずのアヌスが勝手に開いていってしまう感触だ。
けがらわしい、恥ずかしいという気持ちが、汚辱にまみれた倒錯的な痺れに塗り込められていく。
けっこう仮面は、だんだんと気力が萎え、全身の力が蒸発していくような実感に囚われていた。

佐田はその脂ぎった顔に、淫猥な笑みを浮かべた。
いくら全裸を晒すけっこう仮面とはいえ、まだ若い女だ。
さすがに尻穴などを責められたことはないのだろう。
佐田はけっこう仮面のアヌスをいびる指は休めずに言った。

「ずいぶんとケツの穴が敏感なようだな、え、けっこう仮面」
「バカっ、そ、そんなことあるか!」
「ウソつけ。触ってやっただけでこんなに肛門を柔らかくしやがって。おまけにオマンコまで
濡らしてやがる。感じて仕方ないんだろうが」
「黙れ! 黙らないときさま、ああっ……」

恥ずかしい指摘をされ、マスクの下の顔を染めて叫ぶけっこう仮面だったが、佐田の指がアヌス
に入り込もうとするのを感じ、腰をよじって悲鳴を出した。

言われなくともわかっていた。
佐田に執拗にアヌスをいじられているうちに、媚肉がいつしかしっとりと潤ってきていたのだ。
どうしてそうなるのか、自分でもわからない。
感じているわけではない。
決してそんなことはないはずなのに、排泄器官を嬲られるという屈辱や羞恥、嫌悪は別として、
苦痛などの不快な感触はなかったのだ。

気持ちいいとまでは言わないが、我慢できないほどのつらさではない。
それが性的な快感ではないのかと思いに気づき、けっこう仮面は戸惑った。
彼女の心の動揺を見透かすように、佐田は次の責めを準備していた。
それを目にしたけっこう仮面は、尻責めで朱に染まった顔色を青ざめさせた。

「そ、それ……」
「ん? 浣腸さ。知らんわけあるまい」

仕置き部屋名物とも言うべき責め苦であった。
学園の教師どもに目を付けられ、この場に送られた者のほとんどがこの責めを受ける運命に
あった。

いかに離島で目につかぬとは言え、また治外法権的特権を本省から与えられているとはいえ、
今の世の中であからさまな体罰は出来ない。
もちろん、大目に見られる範囲あるいは陰で体罰が行われていないわけではない。
これは本土の普通高校でも同じだろう。
しかしスパルタ学園に於いては、そんな生ぬるい罰では済まない。
それでいて証拠−大怪我させたり、身体に傷跡をつけたり−を残さないでいて、効率的かつ効果
のある責めということで、浣腸責めが重宝されているのだ。
ましてこの責めは、肉体的苦痛に加え、限りないほどの恥辱まで与えることが出来る。
生徒を徹底的に追い込むことが可能なのだ。

「きさま……そんなことで生徒たちを……」
「そうさ。暴力的な体罰などもはや時代遅れだ。これならやる方も疲れないしな」

けっこう仮面の憎しみを込めた目を受け流しながら、佐田は卑猥にせせら嗤った。
この責めが責める側に人気があるのは、性的な拷問に等しい面があるからだ。
男子生徒にこんなことをしてもちっとも愉しくないし、むしろ遠慮したいところだが、美少女
相手なら興奮すること間違いなしだ。
佐田のいやらしい嗤いも、それを期待しているからに違いない。

けっこう仮面は固く目を閉じている間、佐田は準備をした。
わざと音を立て、けっこう仮面を脅えさせることも忘れない。
ガラス製の薬瓶からドロドロした溶液をポリバケツに注ぐ。
そこにぬるま湯を足して薬液を作った。
キィッというガラスを擦る音はけっこう仮面の耳にも届いているだろう。
病院にもないような大型の浣腸器が、薄緑色の薬液を吸い上げていった。

「ああっ、いやあ!」

冷たい感触がアヌスを縫い、けっこう仮面は思わず呻いた。
とうとうされてしまうのだ。
脅えたように震える豊満なヒップを眺めながら、佐田はピストンを押し込んだ。

「は、はああっ……う、うむむ……」

けっこう仮面は、腸管に注ぎ込まれるグリセリン溶液の感触に呻き立てた。
初めての浣腸のきつさときたら、信じられないほどだ。
肉付きの良い臀部で浣腸器を挟み込むが、注入を止めることは出来ない。

「ぐぅっ……は……あ……あ、は……」

けっこう仮面は頬を紅潮させ、流れ込む薬液の不快感に堪え忍んだ。
必死に唇を噛みしめるものの、堪えきれないのか、ときおり歯が緩み、熱い吐息を洩らす。

「う、う……だ……め……」
「ほう、何がだめかね、けっこう仮面」
「も、もう入ら……ないわ……」

初めてで500ccは多かったかとも思ったが、これだけ見事な尻なら平気だろう。
それでも、佐田の押すシリンダーの圧力が強くなっている。
確実にけっこう仮面の腸内は、浣腸液で満たされているのだ。
その証拠に、けっこう仮面の吐息は今までよりずっと苦しそうなものに変化しつつあった。

「うああ……く、苦し……は、入んないわ……やめて……」

美女の苦鳴を心地よく聞きながら、佐田はゆっくりとピストンを押し続けた。
一気に入れなかったのは、けっこう仮面が苦悶する様子をじっくり観察したかったからだ。
気丈で屈強な美少女が苦しみに身悶えする様は、想像以上に扇情的で、佐田を性的に高ぶらせて
いく。
直腸が満タンになりつつあるのか、シリンダーを押し返そうとする力が強まってきた。
そこを無理に押し込むと、けっこう仮面はマスクを左右に振りたくって呻く。

「んんっ……ぐ、ふうっ……あ、ああ……」

なめらかなけっこう仮面の下腹が小さくではあるが膨らんできている。
ゴロゴロという、便意を促す籠もった音も聞こえてきた。
息苦しそうな美女の表情は、変態にとって最上のご馳走だ。
ほとんどの薬液を腸に送り込んだ頃になると、けっこう仮面は潤んだような、訴えかけるような
視線で佐田を見つめた。

「あ……あ、お願い……あっ」
「どうした」
「く……ああ、だめ、ああ、やめて……」
「もう少しだ、我慢しろ」
「そんな……あひゃぁっ!?」

残った僅かの量を一息に注入させると、けっこう仮面は尻をぶるるっと震わせて、絶息する
ような奇妙な悲鳴を出した。
その声がまた聞きたくて、佐田は浣腸器を引き抜くと、膨れた腹を撫で上げた。

「ひゃあっ……」
「いい声で鳴くんだな。そら」
「きゃあああっ」

ほんの少しの圧力でも、けっこう仮面の腸は軋むほどの苦痛と苦しさを訴えた。
さっきから直腸がグルグルと便意の悲鳴を上げているのだから無理もない。

「あ、ああ、だめっ……苦しい、あっ……お、お腹、破裂するぅっ……」
「ふふ、それならどうして欲しい?」
「き、決まってるでしょ! トイレに行かせて、早く!」

佐田は「ほう」という顔をした。
普通、生徒に浣腸すれば、すぐに屈服して言いなりになる。
なのにこの女ときたら、まだ気の強さが失われていない。
さすがにけっこう仮面というところか。

「させないこともない。したければ正直に言え」
「なっ、何をよ。は、早く……」

うねくるけっこう仮面の裸身には、じっとりとした汗が浮いてきている。
便意を堪え、身を捩ると、汗がすぅっと肌を伝い落ちた。

「決まってる。おまえは誰かということと、仲間の名前だ」
「……」
「言えなきゃそのまま我慢してろ」
「く、くそっ……あ、あ……」

悪態をつきたいところだが、お腹はそれどころではない。
吐き気を伴った悪寒、悪心、下腹が引き裂かれるような苦痛、そして、もう限界にまで迫って
きていた便意。
しゃべっただけで洩れてしまいそうだ。

「お腹……こ、壊れるわ……あ、うう……」
「したいだろうな。言えばすぐに……」
「うるさい、誰が言うかっ、ああっ……」
「強情だな。まあいい、我慢できなくなったらそういえ」

大きく吊り上げられた両脚の間を佐田が覗くと、けっこう仮面は羞恥で顔を逸らす。
恥ずかしい場所を見られているからだが、そんな屈辱よりも便意の方が強くなってきていた。
早くこの苦痛の塊を吐き出さないと発狂してしまいそうだ。
けっこう仮面は死ぬ思いで括約筋を引き締めていたが、もう腰の力も抜けるほどになっている
のか、菊門から僅かずつ薬液が漏れ出ている。

「言う気になったか?」
「な、なめるな! あ、あ……で、出そう……ああ、トイレに早くっ」

意地悪く動かない佐田に絶望しながらも、けっこう仮面の忍耐にも限界が訪れていた。
肛門がぷるぷると痙攣するのを自覚した。
極限にまで迫った便意が、けっこう仮面の理性を灼いていく。
けっこう仮面が、小さくささやくような声で言った。

「み、見るな……」
「なに?」
「く……見るんじゃない、ああっ……ど、どっか行って、早く!」

もう我慢できない。
今から解かれてもトイレまで間に合わないのは明白だった。
垂れ流すなど死以上の屈辱だし、そんなこと考えもしなかったが、もうどうにもならない。
せめてひとりで済ませたかった。
しかし佐田はニヤニヤしたまま椅子に腰掛けている。
目の前が暗くなってきた。

「あ、だめ……だめえっ」

剥き出しにされたアヌスが内側からむくりと盛り上がったかと思うと、小さく痙攣しながら決壊
した。

「いっ、いやああああっ!! 見るな、見ないでぇぇっ!!」

耐える限界許容量を遥かに突破した便意が、堅く締まっていた肛門を突き破った。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「紅さんから連絡あった?」
「いえ……」

誰もいない体育教官室で、夏綿けい子が結花を呼んでいた。
トライアスロン大会は無事終了し、参加者も指導員も全員帰島している。
いや、帰島していることになっていた。
連絡の取れない恵は戻っていないのだが、けい子はそのことを学園に知らせていない。
ひとりでもいないとなれば、大がかりな山狩りが行われるだろう。
普通ならけい子もそうする。

しかし彼女は、けっこう仮面に変身したあとでいなくなっているのだ。
もし恵が、けっこう仮面姿のまま捜索隊に発見でもされたら大騒ぎである。
無論、彼女の命に関わるのならそんなことは言っていられないが、まだ安否が不明なのだ。
恵にも考えがあるのかも知れぬ。
軽はずみなことは出来なかった。

「他の生徒たちは?」
「うちのクラスはもう全員、寮に帰っています」

寮では全員個室だし、舎監もいちいち帰宅をチェックまでしないから、恵がいないことはまだバレ
ていないだろう。

「先生、どうしましょう……」
「連絡が来るまで待つ……わけにもいかないわね」

といって、島に乗り込む手段も名目もなかった。
だが、放っておくわけにも行くまい。

「取り敢えず、今日一日は待ってみましょう。それで連絡がなかったら……」
「なかったら?」

けい子は少し俯いて考え、すぐに顔を上げた。

「私が行ってみます」
「先生が?」
「あなたは、必要以上に騒がないように他の子たちにも言っておいて。自分の考えだけで勝手に
動かないように。何かあったら、携帯で連絡するわ」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「ああっ、いや!」

浣腸ですっかり気力を失ったけっこう仮面に、佐田は容赦なくのしかかっていった。
大股を開かされ、その中に大男を挟み込まされ、その中心を貫かれた。

「くう……きさま、許さない……やめろぉっ」

恵は悔し涙を流しながら、中年教師の腰の律動を媚肉に感じていた。




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